ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー 作:タトバリンクス
ついに第四章の開幕です。
それではお楽しみください。
三十八話 私はあのときからずっと
1
私の目の前であの人がライブをしてる。
歌もダンスもお世辞には上手いとは言えない。
歌は所々音程を外しているし、ダンスはどこかぎこちなさを感じる。
正直人に見せられたものじゃない。
でもどうしてだろう。私はあの人のライブを目が離すことが出来なかった。
いや、理由は分かってる。考えるまでもない。
歌やダンスが下手なのはあの人は百も承知してる。
それでもあの人は何があっても笑顔を絶やさない。
だってあの人は
その思いがあの人のライブから伝わって、私も見ていて段々と楽しくなってきた。
それと同時に楽しそうにライブをしてるあの人に心が惹かれた。
だけど楽しい時間は過ぎるのはあっという間で、あの人は挨拶をして、ライブは幕を閉じた。
そのあとあの人からライブの感想を聞かれたけど、私は口にするのは躊躇った。
けどあの人に命令されたから正直に私は感想を口にする。
あの人は私の感想を聞いて、最初はかなり落ち込んでいた。自覚はしてたつもりなんだと思うけど、やっぱり他人から言われるのはとてもキツイみたい。
だから私は最後に『楽しかった』って自分の気持ちを伝えると、あの人は何故か私の顔をじっと見つめていた。
何で私の顔を見つめてたのか疑問に思ったし、見つめられてかなり恥ずかしい気持ちになった。
(あなたの笑顔って、結構可愛いわね)
そうあの人は口にすると、私は納得したと同時に、急にそんなことを言われて頭の中がパニックになる。
そのあとはパニックになった私がやらかして、あの人のお手を煩わせたという酷いオチだった。
2
私の耳元で携帯のアラームが五月蝿く鳴り響き、ゆっくりと夢から引き剥がされ目を覚ます。
私は体を起こすと、携帯のアラームを切って、大きく体を伸ばしてから立ちあがり、着替えを持って朝の日課であるシャワーを浴びに行く。
「今の夢は……」
シャワーを浴びながら、私はさっきまで見ていた夢を思い出す。
あの夢は私とにこ先輩との大切な思い出。
にこ先輩が私のために部活の歓迎会をしてくれた一年前のあの日。
私が本当の意味でにこ先輩の夢を叶えようと思った日。
「本当に懐かしい」
あのときのにこ先輩のライブは今でも鮮明に思い出せる。
今と比べれば歌やダンスは上手くなかったけど、にこ先輩の楽しそうな姿に私はつい見蕩れてしまった。
あんな風に自分の
あの人の夢が叶えられますように、とそう思った。
私は十分に目が覚めたからシャワーを止めて、タオルで体を拭くと、学校の制服に着替える。
そのあと濡れた髪をドライヤーで乾かすと、目の前にある鏡に写るわたしの顔が目に入った。
シャワーを浴びていたから何時もの伊達眼鏡は掛けてなく、髪を乾かしてるから三つ編みでもない。
目の前に写るのは、かつてアイドル星野如月と同じ顔。だけどどこか自信のなさそうな顔をしてる。
そんな顔を見ると、私は心の中で苛立たしさを感じた。
それにそんな顔をしてると、にこ先輩が私の事を気にして、笑って過ごせない。
だから私は十分に髪が乾いたので、ドライヤーを止めて、伊達眼鏡を手に取る。
「私はアイドル研究部のマネージャー篠原沙紀」
伊達眼鏡を掛けて私は笑顔を作ると、鏡に写るわたしに向かってそう言い、自分に言い聞かせる。
「私は白百合の委員長」
髪で三つ編みを作り、また同じように自分にそう言い聞かせる。
何処か残念でお調子者で、にこ先輩が大好きでどうしようもない人。
それでいて、清楚で淑やかな性格で周りから慕われる委員長みたいな人。
それが私だ。
「よしっ、朝ごはんとお弁当を作ろっと」
気持ちを切り替えて、私は朝の準備に取り掛かる。
準備に取り掛かると言っても、お弁当の具は昨日の内に用意してるからお弁当箱に詰めるだけ。
朝ごはんも軽めに済ませるから時間は掛からない。だからパッと準備を終えて、朝ごはんを食べ始める。
朝ごはんを食べながら私は最近の日課として、白い携帯でスクールアイドルのサイトを開いて、μ'sの順位を確認すると、そこには──
「順位が上がってる……」
12位と表示されていた。
3
12位……。
私は部室で今朝見たμ'sの順位を思い出していた。
現在千グループ近くあるスクールアイドルで、12位と言う記録を出すことはすごいこと。
いや、μ'sのみんなの努力が実を結んだ結果だから当然の結果とも言える。
このままこの順位を維持できれば……。
「沙紀ちゃん!!」
「うわっ!! ビックリした!!」
急に穂乃果ちゃんに呼ばれて私は驚くと、それを見て穂乃果ちゃんも同じように驚いた。
「ビックリしたのはこっちだよ、何度も呼んでも返事が全然ないもん」
「ごめんね、ちょっと考え事をしてたから」
どうやら穂乃果ちゃんは私の事を何度も呼んでいたみたい。それに気付かなかったので、私は穂乃果ちゃんに謝る。
「もしかして……ランキングのこと考えた?」
「うん、ついにここまで来たんだって考えると、色々とね……」
この順位まで来るまでに、ホントに多くのことがあったから、それを思い出すと、感慨深い。
「だよね、だよね、すごいよね、それに……」
穂乃果ちゃんは私と違ってμ'sの順位が上がったことにすごく嬉しそうにして、パソコンのある画面を見る。
「はぁ~出場したらここでライブ出来るんだ~」
「すごいにゃ~」
穂乃果ちゃんは画面に映ってる会場を見て思い耽ってると、同じように凛ちゃんも思い耽っていた。
そう、ランキングが12位になったことはラブライブ出場圏内に入ったことを意味する。
「何うっとりしてるのよ、ラブライブ出場ぐらいで……」
嬉しそうにしてる二人ににこ先輩は厳しいこと言うけど、部室の窓の方を向いて──
「やったわね、にこ」
そう目に涙を浮かべながら、嬉しそうに呟く。
ずっとアイドルに憧れたにこ先輩にとって、ラブライブと言う大きなステージで歌えることは、私たちが思ってる以上に思うところがあるんだろう。
「やりましたね、にこ先輩……けど……」
「そうよ、まだ喜ぶのは早いわ、決定したわけじゃないんだから気合い入れていくわよ」
順位が上がった喜びをもっと分かち合いたいけど、にこ先輩の言う通りまだ早い。
「その通りよ」
にこ先輩の意見に同意しながら絵里ちゃんとお姉ちゃんが部室にやって来た。
「そうだね、まずはこれを見てもらったほうが早いかな」
絵里ちゃんたちが来たことで全員揃ったので、まだ安心できない証拠として、私はパソコンである画面を開きみんなに見せる。
そこには現在ランキング1位であるA-RISEのライブ情報が書かれてるけど、一番気にするべきはそのライブの部分。
「七日間連続ライブ!」
「そんなに~」
A-RISEのライブスケジュールに驚く穂乃果ちゃんと凛ちゃん。
私だって初めてこれを見たときには驚いたよ。プロのアイドルでもなかなか出来ないことをスクールアイドルがやろうとしてるのだから。
でもA-RISEの実力と周囲の環境なら問題なく、七日間連続ライブをやりきれる。
「ラブライブ出場チームは2週間後の時点で20位入ったグループ」
「どのスクールアイドルも最後の追い込みに必死なん」
ラブライブ出場確定と言われてるA-RISEでさえ、確実に出場圏内に入ろうと追い込みを掛けている。
「20位以下に落ちた所だって、まだ諦めてないだろうし、今から追い上げて何とか出場を勝ち取ろうとしてるスクールアイドルもたくさんいる」
「だから安心してると、2週間後には一気に順位が下がってる何てことも有り得るよ」
「つまりこれからが本番ってわけね」
「ストレートに言えばそういうこと、喜んでる暇はないわ」
真姫ちゃんや絵里ちゃんの言う通り。順位が上がって喜びたい気持ちは分かるけど、何処も彼処もラブライブ出場圏内必死になってる以上、気は抜けない。
「よ~し!! もっと頑張らないと」
「とわいえ、特別な事を今からやっても仕方ないわ」
私たちの話を聞いて、穂乃果ちゃんはやる気が湧いてきたみたいだけど、絵里ちゃんが静止する。
「下手に変なことをして、怪我や体調が悪くなったら元も子もないからね」
「沙紀の言う通りね、まずは目の前にある学園祭で精一杯良いステージを見せること、それが目標よ」
「ちゃんと学園祭の日にベストコンディションになるように、キッチリと休むのも大切だよ、特に穂乃果ちゃんと凛ちゃん」
「なっ!!」
「何で凛たちだけ呼ばれるの!?」
急に名指しで呼ばれたことに驚く穂乃果ちゃんと凛ちゃん。私からしたらこの二人が危ないんだよね。
「穂乃果ちゃんもやる気が出過ぎて、凛ちゃんは練習だけじゃ体力有り余って、色々とやりかねないからね」
「そんなに私たち信用ないの」
「ショックだにゃ~」
「いや、信用はしてるよ、けど念の為」
ある程度みんなと一緒にいるからそれなりに性格が分かってるうえで話してる。
穂乃果ちゃんはやる気が出ると、とことん一直線に進むタイプだから、釘を刺しとかないと、私の知らないところで練習をする可能性がある。
穂乃果ちゃんの性格自体悪いことじゃないけど、やっぱりオーバーワークで体を壊されるのは、みんなやファンに心配が掛かるし、何より本人が後悔しかねない。
凛ちゃんのほうもそう。μ's一体力があるから練習だけじゃ物足りなくなって、勝手に何処へ走り出しかねない。
凛ちゃんの場合は、中学時代に運動部に所属してたからある程度は自制出来るとは思うけど。
「二人とも沙紀の忠告はちゃんと聞いておいてください、一応プロのアイドルからの忠告なんですから」
「そうそう……海未ちゃんの言う通り一応プロのアイドル……一応って酷くない!?」
「日頃の行いですから」
クッ、海未ちゃんの辛辣な言葉に反論しようとするけど、正論過ぎてぐうの音も出ない。
「分かった、沙紀ちゃんがそう言うなら気を付けるよ」
「凛も」
そんな私を無視して二人とも理解はしてくれたみたい。良かった、私も学園祭実行委員があるからずっと練習が見れる訳じゃないから、心配事が一つ減って安心。
「よしっ!! そうとなったらこの部長に仕事をちょうだい」
話が纏まるとにこ先輩もやる気が出て、絵里ちゃんに自分にできることがないか聞いてくる。
「じゃあ、にこ打ってつけの仕事があるわよ」
「そうだね、そういえばそろそろ時間だね」
「ん? なに?」
絵里ちゃんがにこ先輩にどんな仕事を頼もうか私は大体予想は付いたけど、にこ先輩は何の話か全く分かってないみたい。
「それじゃあ、にこ先輩お仕事しに行きましょうか」
「ちょっとどこ連れてく気よ」
話を飲み込めてないにこ先輩の手を(合法的に)握って、私はある場所までにこ先輩を案内する。
そうしてある場所に着いてにこ先輩の最初の一言目が──
「何で講堂がくじ引きなわけ……」
それであり、今から講堂の使用権を賭けた運命のくじ引きが始まるのだった。
4
見事ににこ先輩が講堂の使用権を当てて、何も心配要らずに練習を始めようと思ったけど……。
「どうしよう~!!」
穂乃果ちゃんが屋上で大きな声で嘆いている。この事から分かるように、はい、見事に講堂の使用権は外れました。仕方ないよね、運だもん。
「だってしょうがないじゃない、くじ引きで決まるなんて知らなかったんだから」
「あぁ~!! 開き直ったにゃ~」
「うるさい!!」
「あっ!! そうだ、沙紀ちゃんの委員長パワーで何とか……」
良いこと思い付いた感じに穂乃果ちゃんが私の方を見ると、他のみんなも期待の眼差しで私の事を見る。
「う~ん、無理かな」
流石に決まったものを私の一存で覆すほど、権力がある訳じゃない。
「そうだよね……」
私が出来ないと言うと、みんなの目がまた暗くなり始める。
「うぅ……何で外れちゃったの……」
「どうしよう!!」
「まあ予想されたオチね」
「にこっち……ウチ信じてたんよ」
「うるさい、うるさいうるさい!! 悪かったわよ」
くじを外したにこ先輩がみんなから攻められて、自棄になりながら、みんなに謝る。
「気持ちを切り替えましょう、講堂が使えない以上他のところでやるしかないわ」
絵里ちゃんの言う通り、にこ先輩を攻めても何も始まらない。
私は何処かμ'sのライブがやれる場所を考えるけど、体育館やグランドは運動部が使ってる。
そもそもライブがやれる場所は、もうすでに他のところが申請を出してる。
ホントに困った。まさかライブする場所が見つからない事態になるなんて予想外だよ。
私が考えてる間、穂乃果ちゃんが部室や廊下でやろうと言うけど、にこ先輩に却下されてた。
「にこちゃんがくじ外したから必死で考えてるのに~」
「あとは……」
「じゃあここ!!」
穂乃果ちゃんは両手を大きく広げて、屋上をやろうと口にする。
「ここに簡易ステージを作ればいいんじゃない、お客さんもたくさん入れるし」
屋上でやると言われて、私たちは周り見渡す。確かにここならライブをやるには十分なスペースがある。
身近過ぎて逆に気づかなかった。まさに灯台もと暗しってやつだよ。
「屋外ステージ?」
「確かに人はたくさん入るけど……」
「何よりここは私たちにとってすごく大事な場所」
「ライブをやるのに相応しいと思うんだ」
μ'sを結成してからずっと練習に使っている──みんなに思い入れのある場所であることは違いないけど……。
「野外ライブ格好いいにゃ~」
「でもそれなら屋上にどうやってお客さんを呼ぶの?」
「確かにここだとたまたま通りと言うこともないですし」
ライブをするうえで場所がとても悪い。わざわざ屋上に上がろうとは誰も思わないだろうし。
「下手すると一人も来なかったりして」
「えぇ!! それはちょっと……」
真姫ちゃんの言う通り、お客が一人も来ないことが現実に有り得かねない。それじゃ、あの時のファーストライブの二の舞。
「じゃあおっきな声で歌おうよ」
そんな問題だらけな状態に、穂乃果ちゃんはとても簡単な提案をした。
「はぁ、そんな簡単なことで解決できるわけないでしょ」
「校舎の中や外を歩いてるお客さんにも聞こえるような声で歌おう」
「そうしたらみんな興味を持って、見に来てくれるよ」
「フフ……」
穂乃果ちゃんの提案に、私はクスッと笑いが溢れてしまう。
「えっ? 沙紀ちゃん……私、変なこと言った?」
「いや、そうじゃなくて──穂乃果ちゃんらしいなって」
根拠はないけど、何処か自信があるから何となく行けそうに思てしまうところが、ホントに穂乃果ちゃんらしい。
「そうね、穂乃果らしいわ」
絵里ちゃんも私と同じように思ったのか、そう口にした。
「えっ? ダメ?」
「何時もそうやってここまで来たんだもんね、μ'sってグループは」
「絵里ちゃん……」
今までずっとそうだ。穂乃果ちゃんの言葉を信じてμ'sはここまでやって来た。
「当日のときには実行委員総出でライブを宣伝するから安心して」
あのときみたいに、穂乃果ちゃんたちには辛い思いはさせたくないからね。私は穂乃果ちゃんが言ったことを現実に出来るように、私のやれることを精一杯やるだけ。
「沙紀ちゃん……」
「決まりよ、ライブはこの屋上にステージを作って行いましょう」
「確かにそれがμ'sらしいライブかもね」
「よ~し!! 凛も大声で歌うにゃ~」
みんな穂乃果ちゃんの提案を聞いて、暗い表情でなく、やる気に満ち溢れてた。
「じゃあ各自歌いたい曲の候補を出してくること、それじゃあ練習始めるわよ」
絵里ちゃんがそう宣言をして、穂乃果ちゃんたちは練習を始めた。
さて、私もみんなに負けないように実行委員を頑張るとするか。
5
みんなが練習に励んでんで、私が実行委員として勤しんでると、あっという間に放課後になった。
私は今日分の実行委員の仕事を片付けて、学校を出ようとすると、校門ににこ先輩が居た。
「あれ? にこ先輩どうしたんですか?」
「別にあんたには関係ないわよ」
私はにこ先輩に声を掛けるけど、にこ先輩は素っ気ない感じで答えた。
「もしかして私のこと待っててくれたんですか、そうならそうと言ってくださいよ、ホント、にこ先輩はツンデレさん何だから」
「だからそうじゃないわよ」
「照れなくてもいいのに~、でもそんなにこ先輩を私は愛してますよ」
私はにこ先輩の可愛らしさにムラムラしながら、にこ先輩に抱き付く。
「急に抱き付くんじゃないわよ──あと、さらっと胸を触ってるんじゃないわよ!!」
「さらっとじゃなくて、ガッツリとです」
「余計に質が悪いわ!!」
「ゴフッ!!」
何時ものように調子に乗ってると、にこ先輩から愛を頂いて、私はにこ先輩から突き放される。
「もうそんなことしなくても、私は何時でもWelcomeですよ、にこ先輩をお持ち帰りして、にこ先輩の家に嫁ぐ準備は出来てますよ」
「何か色々とおかしいわよね、それ!!」
「おかしくないですよ、普通ですよ?」
「いや……はぁ~もういいわ、あんたもう帰るんでしょ」
何故か大きな溜め息をして、にこ先輩は私にそんなことを聞いてきた。
「はい、仕事ももう終わりましたから」
「そう、それじゃあ行くわよ」
にこ先輩はそのまま私の方を見ず歩き始めた。
「やっぱり私のこと待っててくれたんですか、照れ屋さん何だから」
「そんなじゃないわよ!!」
そんなやり取りがあって、私とにこ先輩は何時ものように一緒に帰り始めた。
「それにしてもすごいですよね、12位なんて……」
「当然、何たってこのスーパーアイドルにこがいるグループよ、むしろ遅いくらいよ」
「さすがにこ先輩、そんなこと堂々と言えるなんてすごいです」
にこ先輩が自信満々に自分のお陰だと言うと、私はその精神の図太さに尊敬の念を抱く。
「あんた……バカにしてるでしょ」
「してないですよ、愛してはいますけど」
「だから……いやこのままじゃあさっきと同じパターンよね」
にこ先輩は何か言おうとしたけど、めんどくさそうな顔をしてやめる。
「やっぱさっきのは訂正──穂乃果たちやあんたがいたからここまで来れたわ、私一人じゃあ絶対にここまで来れなかった」
「……」
私はにこ先輩の言ったことを訂正することが出来ず、そのまま何も口にしなかった。
「そこで変に言わない辺り、あんたは正直よね」
「まあ……ずっと、にこ先輩の事、見てきましたから」
私が入部してからずっとにこ先輩の練習を見てきて、どれだけの実力があるのか私は知っているから。
「けど、あの頃と比べて大分実力も付いてきましたよ、むしろまだまだ伸びてって、マネージャー冥利に付きますよ」
にこ先輩がμ'sに入ってから今までよりも速いスピードで成長をしてる。やっぱり一緒にライブをする仲間がいるのが、にこ先輩を更に成長をさせるきっかけになっているかもしれない。
「あんたにそんなこと言われると……やっぱり嬉しいわね」
「いえ……そんなことは……ないですよ……私なんてまだまだ……ですから……」
にこ先輩が急にデレるから、私はつい恥ずかしくなって照れてしまう。
「ちょっと何照れてるのよ!! こっちが恥ずかしいじゃない!!」
「うう……だって……にこ先輩に……褒められたから……」
にこ先輩に自分の恥ずかしがってる顔を見られたくないから鞄で顔を隠しながら、小さな声で喋る。
「はぁ~、あんたは自分からグイグイ行くくせに、いざ来られるととたんにダメになるわよね」
「うぅ……ごめんなさい……」
自分のメンタル面について、すごく痛い所を突かれたから、思わず昔からの悪い癖が出てしまった。
「だから何で謝るのよ、何時ものように変な返しをしなさいよ」
「ごめ……そうじゃなくて、やっぱり、私の話すのが楽しいんですよね」
またつい言いそうになりそうだったけど、何とか何時ものような返しをする。
「そんなんじゃないわよ……その辺は昔から変わってないのね」
何時ものようにツンデレさんをにこ先輩は装おうと、最後の方に何か言った。
「まあ良いわ、μ'sとあんたのお陰で、私は大きなステージで歌えるチャンスが手に届く所まで来れたってことよ」
「そうですよね、にこ先輩の夢にまた一歩近づきましたね、私もとても嬉しいです」
あの日、にこ先輩に誓った約束を果たすチャンスが、もう手の届くところまで来ているけど……。
「ここで失敗したら全てが台無しですから、私もμ'sが確実にラブライブ出場が出来るようにサポートをします」
そう、ここで失敗したら全てが台無しになってしまう。廃校の阻止も、にこ先輩の夢を叶えるのも全てが。
それだけは阻止しないと行けない。そうしないと、にこ先輩の役に立てないし、私がここに居る意味が……。
「大丈夫よ、心配そうな二人にはあんたが釘を刺しといたし、にこだって部長として部員の体調管理くらいやって見せるわ」
「そうですよね、それに今は海未ちゃんや真姫ちゃん、絵里ちゃんがいますからね」
練習とかの指示も任せられる人やよく見てる人が大分増えてきた。心配になることなんてない。
「そうよ、だからあんたは出来ることを精一杯やりなさい、そうしたら最高のライブをあんたに見せてあげるわ」
真っ直ぐ私の目を見て、とても真剣そうな顔でにこ先輩はそう言った。
「にこ先輩かっこいいです、さらに惚れちゃいます」
「バカ、そこは可愛いでしょ!!」
「ならかっこ可愛いです!!」
何て少し真面目な話をしていたら、いつの間にかにこ先輩と別れる時間になっていた。
「それじゃあ、また明日ね」
「そうですね、また明日……いえ、まだ言いたいことがありました」
にこ先輩と別れようとしたけど、私は今ここで伝えておかないと行けないことがあった。
「ライブ楽しみにしてます、何たって私はあのときからずっとにこ先輩のマネージャーであり、愛してると同時に……あなたのファンですから」
あの日、にこ先輩のライブを見てからずっとそう。私にとってにこ先輩はそういう存在なんだ。
それを伝えると、にこ先輩は少し嬉しそうな顔をしてから──
「ファンにそう言われると仕方ないわね、最上級のライブを見せてあげるから覚悟しなさい」
そう堂々と宣言をした。
「はい、楽しみにしてます」
私は笑顔で返事をしてにこ先輩と別れた。
そうだ、きっとμ'sは学園祭で最高のライブをして、ラブライブに出場決定、廃校阻止、さらにラブライブ優勝をしてくれる。そう信じていた。
しかし、私は忘れていた。
こういう上手く乗り始めたときに限って、不幸を引き寄せてしまうのが、私だってことを。
二年前に同じ経験をしたのに、それがないと過信しすぎていたことを。
あの子がこの時点で既に動き始めてることを。
そして結局私はダメなままだってことを。
如何だったでしょうか。
フラグっぽいのがいっぱい立っていたような気がしますけど、気のせいですよね。
ここから学園祭編に入るわけですが……まあどうなるでしょう。
ではここまでことで何か感想などありましたら気軽にどうぞ。
誤字、脱字がありましたらご報告して頂けると有り難いです。