ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー 作:タトバリンクス
それでは三章最後の話をお楽しみください。
1
鼻歌を口ずさみながら、ことりはある準備をしちゃってます。何と言っても今日は待ちに待った日。今までコツコツと作った成果をお披露目しちゃう日。
準備や確認を一通り終わってあとは主役が来るのを待つだけって所で、ちょうどインターホンがなる音が聞こえてきて、タイミングバッチリに主役が到着したみたい。
ことりは部屋を出て、誰か来たのか一応モニターで確認すると、そこに映っていたのは予想通り今日の主役──沙紀ちゃん。
確認が終わったらことりはそのまま玄関に向かって扉を開けると、沙紀ちゃんが髪が乱れてないか確認しながら大人しく待っている。
「沙紀ちゃん、おはよう、さあ上がって上がって」
「うん、おはようことりちゃん、それじゃあお邪魔します」
軽く挨拶してから沙紀ちゃんを家に入れて、ことりの部屋まで普通に案内するけど、ことりの心の中ではこれから始まるお楽しみにワクワクしちゃっている。
「おぉ~これがことりちゃんの部屋なんだね、可愛いぬいぐるみがいっぱいで、可愛いことりちゃんらしい部屋って感じだね」
部屋に入ると沙紀ちゃんは部屋の中を一通り見てから、そんな感想を言ってくれた。
「ありがとう、そういえば沙紀ちゃんは家に来るのは初めてだったよね」
「そうなんだよね、何時もことりちゃんたちと集まるときは大体穂乃果ちゃんの家だからね」
穂乃果ちゃんの家は和菓子屋さんだから、遊びに行けば、和菓子とか出てくることもあるし、みんな(二年生)穂むらの和菓子大好きだから集まるときは穂乃果ちゃんの家。
「でも沙紀ちゃんって海未ちゃんの家にも行ったことあるんだよね」
「うん、練習メニューの組み方とか色んなトレーニング法とか教えに行ったときにね」
「そのときに沙紀ちゃんと海未ちゃんの事だから教えるだけじゃ終わらなくって、何かあったんだよね」
「ははは……何の事やら私には分からないよ」
沙紀ちゃんは惚けちゃってるけど、その反応からして何時ものように何かあったみたい。沙紀ちゃんと海未ちゃんが絡むと、面白いことが毎回起こるから。
「そんなことは置いておいて、さてと……そろそろ始めようかな」
「あっ、部屋の中を勝手に漁ろうとしないでね」
「えっ!? 何で私がことりちゃんの部屋の中を物色しようとするのが分かったの!?」
軽く準備体操をして何かしようとしてる沙紀ちゃんに前もって注意をすると、自分がやろうとしてたことが読まれたことに驚いた反応をする。
「何でって……希ちゃんや海未ちゃんから聞いたからだよ」
「あぁ~二人に聞いちゃってたか~それは知ってるよね」
二人の名前を聞いて沙紀ちゃんは納得してる。二人とも沙紀ちゃんを家に呼んだことがあって、部屋の中を勝手に漁られる被害を受けかけたらしい。
「だから部屋の中を漁らないでね」
「ちょっと待って、この件に関しては一つ物申したい」
もう一度注意をしてからお茶を持っていこうとすると、沙紀ちゃんは大声で何か言いたそう。
「私が部屋の中を物色するのは、エロ本を探して友達の性癖を理解し、お互いの関係を深める為なんだよ」
「ちょっと意味が分かんないかな」
「お互いの関係を深める為なんだよ!!」
「どうして二回も言ったの?」
「大事な事だからね」
お互いの関係を深めるのは良いことなのは分かるけど……沙紀ちゃんの場合あっち意味が入ってるから、素直に賛成できないかな。
「そもそもそういう本で仲が深まるかな、逆に溝の方が深まりそうだと思うけど」
「おやおや、そう考えるってことはことりちゃんには特殊な性癖が……もしくはちょっと疚しい幼なじみ系の……」
「沙紀ちゃん、ちょっと静かにしようね」
「すいませんでした!!」
沙紀ちゃんが変なことを言うそうだったから、ちょっと注意をすると、何故か沙紀ちゃんは怯えたようにして土下座をする。
「しかし、昨今ネットの普及によりエロ本やAVでさえもネットで見れる時代になったんだよね」
「まだその話続けるの?」
「まあまあ気にしないで、そんなこともあって、今時部屋の中を物色しても、エロ類いの物は見つからないんだよね」
「だよねって……さっきからそんな話してるけど、沙紀ちゃん一応聞くけど、自分が元の立場覚えてるよね」
「? 元アイドルだけど、それがどうしたの?」
当たり前のように沙紀ちゃんは口にしてくれて、分かってるんだったら良いんだけど、流石に元アイドルが口にしていいのか分からない単語が出てくるのは、どうかと思う。
これは絶対ににこちゃんや花陽ちゃんには……にこちゃんは大丈夫かな。沙紀ちゃんとは付き合い長いから。だから花陽ちゃんには聞かせられない話だよね。
「そういうこともあるから、この前も部屋を物色して出てきたのは、精々魔導書とか、黒魔術とかそういった類いのものばっかり」
「やっぱり海未ちゃんと何かあったんだね……」
「そ、そんなことはないよ、ただ自作ポエム集を見つけただけだよ、それ以外は何もなかったよ」
「十分過ぎるよね」
と言うよりもまだ海未ちゃん、あのポエム集を持ってたんだね。
ことりは海未ちゃんのポエム好きだったけど、海未ちゃん的には自分で恥ずかしくなってきて、てっきり捨ててたと思ってたけど。
「そんなわけでここは逆転の発想ってことで、友達の家にエロ本を隠しておくと言うドッキリを思いつたんだよ」
「すごい迷惑なドッキリと言うよりもテロだよね」
知らない間に自分の部屋にそんな本を隠されて、もしそれが見つかったら色々と気不味いことになりそうだよ。それこそ関係に溝ができそうだよ。
「そんなわけで実はここに一冊のエロ本があります」
そう言って沙紀ちゃんは自分の鞄から一冊の本を取り出してことりの前に置いてきた。
「いや、ありますって言われて置かれてもことりにどうして欲しいの? それよりも何で持ってるの?」
しかも本のタイトルを見ると、そっち系の幼馴染のやつなんだけど。
「いや何となくことりちゃんが好きそうだと思ったから、一緒に読もうかなって昨日買ってきたんだよ」
「何でわざわざ買ってきたの、それに一緒に読もうって何? あとやっぱり沙紀ちゃんはことりにそんなイメージを持ってるの?」
「すごい全部ツッコミ入れてきた」
「それは入れたくなるよ」
何か変なところで感心してる沙紀ちゃん見て、ことりは少し疲れてくる。おかしいなぁ~、まだ沙紀ちゃんとはちょっとしか話してないのに。
「まあまあ落ち着いて、最初はそんなことを思って買ってきたんだけど、今はこのエロ本を誰の家に仕掛けようかって話をしようと思ったんだよ」
そこに繋がるんだね。ホント、完全に沙紀ちゃん真面目なとき以外、その場のノリで行動するんだから、その辺沙紀ちゃんの良いところでもあって、悪いところでもあるよ。
「この本のジャンルを考えると、穂乃果ちゃん、海未ちゃん、ことりちゃん、花陽ちゃん、凛ちゃん辺りに仕掛けると面白いと思うんだけど……どう?」
「そうだね、とりあえずことりの部屋には止めてね」
そもそも誰の部屋にも隠してほしくないんだけど……。
「大丈夫、ことりちゃんにはやらないよ、共犯者になってもらうから」
「もっと質が悪いよね」
「だってそんなことをやったら真っ先に私が疑われるじゃん!!」
まあ確かにこういうことをするのは、沙紀ちゃんくらいしかいないのは、日頃の行いを見れば明らかだから疑われるのは仕方ないけど。
「ならやらない方がいいと思うんだけど」
「嫌だ!! 私の心がやれと叫んでるんだよ、やるしかないじゃん」
何でそこまで本気なの。何が沙紀ちゃんを突き動かしてるの。真姫ちゃんじゃないけど、本当に意味が分かんないよ。
「じゃあ花陽ちゃんにやるの?」
「いや……花陽ちゃんは天使だから……そんな疚しいことはできないよ……むしろ良心を抉られる」
純真無垢な感じがする花陽ちゃんには出来ないよね。流石にそこまで良心が沙紀ちゃんにはあったんだね。いやそもそも良心があったら、そんなことをしないんだけど。
「それ殆んど一択しかないよね」
花陽ちゃんがダメだったら、幼馴染の凛ちゃんにも仕掛けられないよね。凛ちゃんの家に一番行くのは花陽ちゃんだから、結果的に花陽ちゃんにドッキリを仕掛けることにもなるから。
「確かに穂乃果ちゃんか海未ちゃんの家にしか仕掛けられない。そもそも花陽ちゃんと凛ちゃんの家に行ったことないし」
「いや、そもそもやらないと言う選択肢は……ないよね」
「イエス!!」
そんな元気に返事されてもすごく反応に困るんだけど。
「となると穂乃果ちゃんか海未ちゃんに仕掛ける訳だけだけど……どっちに仕掛けるのが面白いかな?」
「どっちって言われても……穂乃果ちゃんはそういうのあまり知らない思うけど、海未ちゃんはムッツリさんだからそういうの見つけると、色々と想像すると思う」
自分で口にして思ったけど、何で沙紀ちゃんの質問に答えてるのかな。本当に共犯者になっちゃってるよね。
「なるほど、穂乃果ちゃんにそういう知識を付けるいい機会だし、海未ちゃんのそういう姿を見てみたい気持ちがある、う~ん何て悩ましい」
「ただどっちでやっても、沙紀ちゃんが海未ちゃんに制裁を受けるのは決まってるよね」
「そこは仕方ない諦める」
そこは清々しいほど潔すぎるよね。そこまでしてやりたいことなのか置いておいて。
「しかし、何て悩ましい二択何だろう……ここは一晩考えてみるとしますか」
「そうだね、ことりもこれ以上この話を続けたくないかな」
「ことりちゃんから辛辣なことを言われた……でも気にしないむしろご褒美です」
この辺に関してはもうツッコミを入れない方がいいかな。沙紀ちゃん変に喜んじゃいそうだから。
「さてと、それでは一緒にこのエロ本の中身を見るとしますかな」
「読まないよ」
「えっ!! 読まないの!?」
どうしてことりがそう言っただけで、そんなに沙紀ちゃんは驚くの? ことりとしてはそっちの方が驚きだよ。
「ことりは読まないから、沙紀ちゃん一人で読んでていいよ」
「嫌だ!! ことりちゃんと一緒にエロ本読むって決めたんだもん!! 一緒にエロ本読んでよ!!」
「大声で何度もエロ本って言わないで!!」
今日は家にお母さんがいるから、こんな変な会話を聞かれたら色々と不味いよ。そもそもこんな会話事態聞かれたくないよ。
それにしてもさっきから駄々を捏ねる子供みたいだよ。ただ内容が全く子供っぽくないけど。
「それじゃあ……私と……エロ本読んでくれる?」
少し甘えるような声で言う沙紀ちゃん。ここで一緒に読まないって言うと、また大声で叫び始めちゃうだよね。
ホント、あの手この手でどうしてもことりと一緒に読ませようとしてくるね。何でそこまでして読ませようとしてくるのか、分かんないけど。
「?」
何となく沙紀ちゃんが大事そうに持っている本に目が行くと、ことりはあることに気付いた。
あ~、そっか、そういうことだったんだね。だから沙紀ちゃんが、しつこくことりに読ませようとしてたんだね。
「どうしたの、ことりちゃん急にニコニコして、もしかして一緒に読んでくれる気になった?」
ことりが気づかないうちに笑っちゃっていたみたいで、それを見て沙紀ちゃんが勘違いしちゃったけど、でも仕方ないよね。理由が分かっちゃうと、つい笑顔になっちゃうから。
「ううん、そうじゃなくて一つ聞きたいことがあるんだけどいい?」
「何?」
「沙紀ちゃん、それを一人で読むの恥ずかしいから、ことりが一緒に読んで欲しいんだよね」
「……ちょっと何の事か分からないかな」
そう質問をすると、少し間が合ってから、沙紀ちゃんは惚けちゃっているけど、ことりは沙紀ちゃんの目が泳いでるのを見逃してないよ。
「私がエロ本を読むのが恥ずかしい……ははは、ことりちゃんは面白い冗談を言うね、可愛い女の子が大好きなこの私が、たかがエロ本ごときで恥ずかしくなるわけないよ」
「そうだね、沙紀ちゃんは変態さんだもんね、じゃあ変態さんらしく、今ここでことりのことは気にせず、一人で思いっきり読んで良いからね」
「えっ……えっ!!」
どうぞご自由にって感じで、笑顔で本を読むように勧めると、沙紀ちゃんはとっても戸惑っちゃって可愛い。だからもうちょっといじめてみたくなっちゃた。
「もしかして本当に恥ずかしいの? へぇ~、そうなんだぁ~」
「な、な、な、にがそ、そ、そ、うなん……なん……だって……?」
ちょっとイジワルな感じで沙紀ちゃんに言うと、目線がことりを見ないで色んな所を見ちゃって、声も裏返ってまとも喋れてないよ。
「沙紀ちゃんって、意外と初心なんだね」
「そ、そ、そ、そんなじゃないもん!! スタイルだってエロし、篠原沙紀って名前にはエロエロって意味があるくらい私エロいもん」
「沙紀ちゃん……動揺してすごいメチャクチャなこと言ってるね」
初心って言われたのがそんなにショックだったみたいで、顔を真っ赤に少し子供っぽい喋り方になっちゃってる。
「ことりちゃんがそんな風に言うなら、私一人で読むからね!! だって初心じゃないもん、エロエロだもん」
自棄になっちゃってる沙紀ちゃんは大事そうに抱えた本を勢いおく開いて読み始めちゃうと──
「はぅ!!」
すぐに顔を真っ赤にしちゃったけど、読むのを止めないで、どんどん本のページをめくっていくと、それに合わせて沙紀ちゃんの顔もどんどん下を向いちゃっていた。
「はぁ……はぁ……」
読み終えた沙紀ちゃんは顔を下に向いてて、今はどんな顔してるのか分からないけど、そっと本を自分の横に置いて、粗い息を落ち着かせる。
「どう!! 私ってエロイでしょ」
「うん!! 顔を真っ赤にしながら鼻血出して、全く説得力ないね」
やりきったって感じの顔をしてる沙紀ちゃんに、ことりは笑顔で答えながら、沙紀ちゃんの目の前にティッシュを用意する。
沙紀ちゃんはティッシュで鼻血を吹いて、何時ものように鼻にティッシュを詰める。
「やっぱり沙紀ちゃんは初心だねっ!!」
「グハッ!!」
とりあえずことりは思ったことを伝えると、沙紀ちゃんはダメージを受けたみたいに後ろに倒れた。
「違うもん……違うもん……私初心じゃないもん……エロエロだもん……」
それから沙紀ちゃんはぶつぶつと小言を言い続けるのでした。
ちなみに穂乃果ちゃんか海未ちゃんに例のドッキリを仕掛けるのは別の話です。
2
沙紀ちゃんがいじけてる間に、ことりはキッチンに向かい、お茶とお菓子を用意する。
本当は沙紀ちゃんが来たら、すぐに用意するはずだったのに、変な話をしちゃったから、用意するのが遅れちゃったよ。
あと沙紀ちゃんをことりの部屋に一人にしちゃうのは、心配だったけど、今の状態なら安心して、お茶とお菓子を用意できちゃう。
部屋の中に沙紀ちゃんを一人にすると、何をするのか分からないからね。
「私……初心じゃないもん……」
お茶とお菓子を持って部屋に戻ると、膝を抱えながら沙紀ちゃんはまだいじけてる。
「沙紀ちゃん元気出して、ほらっ、美味しいお菓子があるよ」
ことりは持ってきたお茶とお菓子を机の上に置いて、沙紀ちゃんを元気付けようとする。
殆んど自分のせいでいじけちゃってるけど、このままだと、今日の目的が達成出来ないから、何としてでも元気になってもらわないと。
「そんなんで元気になるほど私単純じゃ…………お菓子すっごく美味しい!!」
沙紀ちゃんはいじけながらもお菓子を食べると、さっきまでのが嘘のように上機嫌になってくれた。
「ありがとう、それことりの手作りなんだぁ~」
「ホント!! ことりちゃんの手作りって聞くと、嬉しさがマシマシの特盛だよ!!」
沙紀ちゃんが何を言ってるのか分かんないけど、取り合えず喜んでくれたみたいだから良かった。
「あれ? 私……さっきまで何してたっけ?」
むしろ元気になりすぎて、さっきのこと完全に忘れてるのかな。それともさっきのやりとりをなかったことにしてるのかな。
「何言ってるの? さっき家に来たばかりだから何もしてないよ」
「おお、そうだったそうだった、今ことりちゃんの家に来たんだよね、もう私のうっかりさん」
沙紀ちゃんは可愛らしくはにかみながら、何事もなかったみたいに、お茶を飲み始める。
うん、これは完全になかったことにしようとしてるね。
ことりはそう確信するけど、さっきの話を掘り返すと、かなりめんどくさそうだから、何も言わずにお茶を飲む。
「そういえば、今日どうして私、ことりちゃんの家にお呼ばれされたの?」
思い出したかのように、沙紀ちゃんはことりにそんなことを聞いてくる。
沙紀ちゃんには、まだ家に呼んだ理由を話してなかったんだよね。
多分、理由を話したら沙紀ちゃんは、ノリノリで引き受けてくれると思うけど、念のため。
「実は沙紀ちゃんに頼みたい事があって……いいかな?」
「何か分かんないけど、私に出来ることだったら、協力するよ、なんたって私たちソウルフレンド何だよ」
「ホント!? ありがとう沙紀ちゃん」
ことりはまだ何も言ってないのに、沙紀ちゃんは引き受けてくれると、言ってくれたから、とっても嬉しい。
「それで私は何をすればいいの?」
「実は沙紀ちゃんに……」
ことりは立ち上がって、部屋のクローゼットを開けて、あるものを取り出す。
「これを着て貰いたいの!!」
そうして沙紀ちゃんにあるものを見せて、ことりはお願いをする。
「えっ……これを?」
少し沙紀ちゃんは戸惑ってるけど、仕方ないよね。
なんたって、急にメイド服を着てって頼んでるから。
「ほらっ、この前に秋葉で路上ライブをしたとき、みんな衣装でメイド服を着てライブをしたよね」
「うん、覚えてるよ、確か穂乃果ちゃんの提案だったよね」
秋葉らしい格好でライブをしようと、穂乃果ちゃんが言って、ことりのアルバイト先のメイド喫茶からメイド服を借りたんだよね。
「けど、沙紀ちゃんはメイド服、結局着てないよね」
「それは私がマネージャーだから、ライブに出る訳じゃないし、着る必要もないよね」
沙紀ちゃんの言う通り、マネージャーである沙紀ちゃんにライブの衣装を着る理由はないけど。
「でも、その前に穂乃果ちゃんたちと、一緒にアルバイトしたら、着れたのに、着なかったよね」
これも穂乃果ちゃんのアイデアで、海未ちゃんが巻き込まれて、ライブ前に一緒にメイド喫茶でアルバイトしたんだよね。
そのときも沙紀ちゃんは、一緒にアルバイトするの断って、やらなかったから、メイド服は着れなかったんだよね。
「あれは私がにこ先輩の専属メイド奴隷だから、ご主人様以外に、その辺の有象無象に、ご奉仕するわけにはいかなったからね」
「何か変な単語が出たけど、それは気にしないでおくね」
この前聞いたときとは、ちょっと違うけど、こんな感じに断って、一緒にアルバイトをしてない。
「だから、ことりは思ったんです、沙紀ちゃんがメイド服を着たら、どんな風になるかって」
「みんなのメイド服はとっても可愛かったから、沙紀ちゃんが着たら、どんな風になるのか、気になっちゃったんだよ」
元アイドルの沙紀ちゃんが着たら、きっと可愛くなるんだろうって、想像をしてたら、興味を持っちゃった。
そして、居ても立ってもいられなくなって、沙紀ちゃんを家に呼んだ訳なんです。
「だからお願い、メイド服着てくれる?」
「うん、いいよ」
完全にことりのワガママに、沙紀ちゃんは迷うことなく、OKを出してくれた。
「ホント、ありがとう」
「そうと決まれば……」
そう言って沙紀ちゃんは、ことりの目の前で、迷うことなく服を脱いでいって、メイド服に着替える準備をする。
「ことりちゃん、メイド服って、どうやって着るの?」
沙紀ちゃんは着替えようとするけど、メイド服の着方が分からないからことりに聞いてきた。
「それはね……」
沙紀ちゃんの所にメイド服を持ってきて、ことりは着方を教えながら、着替えを手伝い始めた。
3
「沙紀ちゃん、とっても似合ってるよ!!」
着替え終わって、沙紀ちゃんのメイド服姿を見ると、ことりはそんな感想を口にしちゃう。
「そう?」
「そうだよ、ほらっ、鏡で見てみて」
沙紀ちゃんに自分の姿が見れるように、目の前に大きな鏡を持ってくる。
鏡の前で、くるりと回ったり、色んなポーズを取りながら、沙紀ちゃんは自分の姿を確認する。
「確かに似合ってるね、流石はわたし」
「それ言うと思ったよ」
沙紀ちゃんは元々清楚な感じが(大人しくしていれば)あるから、清楚さを感じるメイド服との相性がバッチリ合ってる。
それを沙紀ちゃんは自信を持って言う辺り、流石は元アイドルなのかな。
「そういえば、これことりちゃんのアルバイト先から借りてきたの?」
「違うよ、実はそのメイド服はことりが作ったやつなんだ~」
「やけにわたしのスタイルとぴったり合うと思ったら、そうだったんだ」
沙紀ちゃんはことりが作ったと聞いて、感心した声で言うと、もう一度メイド服を至るところまで確認する。
「あれ? でも何でことりちゃん……わたしのスタイル知ってるの? 教えた記憶ないんだけど……」
沙紀ちゃんはメイド服が自分のスタイルにぴったりなのに疑問に思ったのみたいで、ことりに質問をしてきた。
「それは内緒」
「なにそれ、すごく恐いんだけど……はっ!! まさか穂乃果ちゃんに続いて、わたしの体を狙ってるの!!」
沙紀ちゃんはことりが内緒って言うと、頭の中であれこれ勝手に考えて、また予想外なことを言っちゃう。
「えっ!? どうしてここで穂乃果ちゃんが出てくるの!?」
「えぇ~、だってことりちゃんと穂乃果ちゃんは幼馴染み何でしょ、だったら分かるよね」
「全く分からないよ~」
沙紀ちゃんはすごくニヤニヤしながら言うけど、ことりには何一つ分からないよ。
穂乃果ちゃんはことりの一番最初の友達だけど、別に体は狙ってる訳じゃない。
でも確かに可愛い服を着せたいな~って思うことはあるけど、それは沙紀ちゃんが言うようなことじゃないから。
「ふ~ん、あくまでもしらを切るつもりなんだ~、じゃあそういうことにしておくよ」
なんだろう、ことりは何一つ納得してないのに、向こうが勝手に納得してきたんだけど。
「それで話を戻すけど、このメイド服、ことりちゃんが作ったんだよね」
「本当に話を戻したね」
あのまま話を続けたら、また話が変な方へ行くからことりは心の中で安心する。
「すごいな、こんな風に可愛い服を作れるなんて尊敬するよ」
改めて沙紀ちゃんはことりが作ったメイド服を見ながら、感心した声で言う。
「そんなことはないよ、沙紀ちゃんのほうがもっとすごいよ」
沙紀ちゃんは勉強や運動も出来て、委員長をやったり、プロのアイドルやってたり、色んなことが出来るんだから。
それと比べるとことりは全然すごくないよ。
「そんなことないよ、私はこんな風に衣装なんて作れないよ」
「沙紀ちゃんだって、一緒にみんなの衣装作るでしょ」
μ'sの衣装を沙紀ちゃんはことりと一緒に作ることが結構ある。
そのときの沙紀ちゃんは手際よくて、衣装もデザイン通り綺麗に作ってくれる。
「確かにことりちゃんのお手伝いはして衣装を作るけど、私が言いたいのはデザインの方だよ」
「自分の頭の中にあるイメージを形に出来るなんて私には到底できないよ」
何時もふざけなような感じじゃなくて、まっすぐ真剣な瞳をして、真面目な声で沙紀ちゃんは言う。
「もし私にμ'sの衣装を作って言われても、きっとイメージが湧かなくて白紙のまま」
「それに比べて、ことりちゃんはあんなに可愛い衣装を何着も作れるんだから、ことりちゃんは私よりもすごいよ」
「私ね、ことりちゃんが作るμ'sの衣装結構好きだよ」
真剣な表情からころりと変わって沙紀ちゃんは笑顔でそう言った。
沙紀ちゃんの笑顔を見ると、さっきの言葉のせいもあって、ことりはとても照れくさくなっちゃう。
「なんか沙紀ちゃんにそう言われると照れちゃうよ」
「何? 私に惚れた?」
「それはないよ」
「即答ですか……」
ことりの返事に落ち込む沙紀ちゃん。そんなことを言わなければ、ちょっとは良かったのに、こういうところで変なことを言うから台無しだよ。
けど……今の雰囲気ならあの事を聞いても大丈夫だよね。
「ねぇ……沙紀ちゃん、一つだけ聞いていい?」
「何?」
ことりが沙紀ちゃんに質問しようとすると、落ち込むのを止めて、まっすぐこっちの方を見てくれた。
「もし……もしもだよ、今の幸せの代わりに夢を叶えるチャンスがあるとしたら沙紀ちゃんはどうする?」
一瞬、言うのを躊躇っちゃったけど、ここまで来たら言うしかないから、ことりは決心して沙紀ちゃんに質問する。
「えっ……どうしてそんな質問するの?」
質問すると、沙紀ちゃんは何でことりがそんな質問しちゃったのか理由を来てくる。
「そうだよね、急に変なことを言うから流石の沙紀ちゃんも戸惑っちゃうよね」
でも質問を聞いたときに沙紀ちゃんは、何故か一瞬だけとても悲しそうな顔をしてた気がする。どうしてだろう。
「ただの興味があって……ほら!! 沙紀ちゃんって、トップアイドルだったでしょ、だからそういうときってどうするのかなって」
本当は違う理由があるんだけど、流石にそれを今言うのは沙紀ちゃんにも迷惑がかかるから、とっさにそれっぽい嘘を付いちゃった。
「そう……何か違うような気がするけど……ことりちゃんがそういうならそういうことにするよ」
沙紀ちゃんはことりの嘘に気付いてるみたいだけど、あれこれ聞くつもりがないから、深く探ろうとしなかった。
ことりは心の中で安心するけど、それと同時に胸が苦しくなる。本当はあの事をちゃんと相談するべきなのに、自分の中で迷ってるから相談できない。
だから沙紀ちゃんの意見を参考にして、自分の中で迷いをまとめようと思ってそんな質問をしちゃった。
「じゃあ、ことりちゃんの質問を答えるよ……」
きっと沙紀ちゃんの事だから両方とるとか良いそうだよね。だって沙紀ちゃんはすごい人だもん。
「私は迷わずに今の幸せよりも夢を叶えるチャンスを取るよ」
だけど沙紀ちゃんはことりの予想とは違った答えを迷うことなく言いきった。
「どうして?」
「私は普通だから……夢を掴むチャンスがあるなら何としてでも掴まないと、簡単に失っちゃうから」
「それに掴んだとしても私ごときじゃあ、大切なものを全てを捨てないと釣り合いが取れないからね」
「でもそこまでやっても私には掴むことなんて出来ないんだよね」
小さな声で沙紀ちゃんは言うけど、ことりは何を言ってるのか分からなかった。
「けど、これは私の考えだから、ことりちゃんが何の参考にしてるのか分かんないけど、オススメしないよ」
やっぱり沙紀ちゃんはことりの質問の意図に気付いて、笑って言うけど、その笑顔はとても辛そうに見えた。
どうしてそんな顔をするのか気になったけど、ことりも隠し事をしてるから、聞く権利なんてなかった。
「まあ、そもそも私には一度も自分の夢なんて持ったないから関係ない話なんだけどね」
また沙紀ちゃんが小さな声で何か言うけど、ことりは色んな疑問が頭の中にあったから、聞き取ることが出来なかった。
4
ことりが変な質問をしちゃったせいで部屋の中がすごい重い雰囲気になっちゃってた。
今沙紀ちゃんはメイド服から元々の沙紀ちゃんの服に着替えてる。
本当に失敗しちゃったなぁ。まさか沙紀ちゃんがあんなことを言うなんて予想外だよ。
何時も予想外なことをする沙紀ちゃんだけど、ここでもそんな予想外なことを言うなんて思ってみなかったよ。
やっぱりあの事をちゃんと伝えるべきだったのかな。けど……伝えるとみんなに迷惑が掛かるし、廃校とかラブライブがあるから余計に相談しづらいよ。
「ねぇ、ことりちゃん……これどうする?」
「へっ!?」
考え事をしてたから、急に声を掛けられて、ことりはビックリする。
「ビックリした……どうしたの、ことりちゃん」
ことりがビックリしたから、沙紀ちゃんも釣られてビックリしてから、心配してくれた。
「ううん、何でもないよ、それより何?」
「そう……ならいいけど、このメイド服洗って返す?」
どうやら沙紀ちゃんメイド服をどうするのか聞いてきたみたい。
「ううん、返さなくていいよ、それ元々沙紀ちゃん用に作ったから、貰って欲しいな」
「そういうことなら有り難く貰うね」
「そうだ、これも貰っていって」
そう言ってからことりは棚の中からあるものが入った袋を取り出して、沙紀ちゃんに渡す。
「これは?」
「中見てみて」
沙紀ちゃんは言われた通り袋の中のものを取り出す。
「これどうしたの!?」
中に入っていたものを見ると、驚いてことりの方を見る。
沙紀ちゃんが驚くのは仕方がないよ。だってその中に入ってたのは──
沙紀ちゃん用の今までのμ'sの衣装なんだから。
「ほらっ、最初の頃は沙紀ちゃんがアイドルだって知らなかったから、もしかしたら一緒にライブするかもって思って……」
何かのきっかけで沙紀ちゃんがメンバーに入れるかもしれないと、思ってたからみんなにこっそり内緒で作っちゃっていた。
「何やってるの、そんなことしてもメンバーじゃない私が着るわけないのに……」
「うん、分かってるよ、これはことりの自己満足なんだ」
何て言えば分からないけど、メンバーじゃないって理由だけで沙紀ちゃんの衣装を作らないのは、同じにμ'sの仲間なのに、沙紀ちゃんを仲間外れにしてるそんな感じがしたから。
「沙紀ちゃんには迷惑かもしれないけど、受け取って欲しいんだ」
今ここで渡しておかないと、二度と沙紀ちゃんに渡せるタイミングがなくなるかもしれないから絶対に渡したい。
「うん、分かったよ……せっかくことりちゃんが作ってれたんだから、これも有り難く貰うね……」
沙紀ちゃんは衣装を袋の中に戻して、それを大事そうに抱える。
「ありがとう……」
少し顔を赤くしながら、恥ずかしそうにそう言う。
「私そろそろ帰るね」
それから少ししてから沙紀ちゃんは照れくさくなったみたいで、衣装の入った袋や自分の荷物を持って、帰る準備をする。
「そう、分かったよ」
確かにこれ以上沙紀ちゃんと何か話せる気がしないから、ことりも賛成をする。
そうして沙紀ちゃんが帰る準備が出来ると、沙紀ちゃんをお見送りするために一緒に部屋を出る。
「あら、珍しいお客さんが来てたのね」
玄関に向かおうと廊下を歩いてると、お母さんが目の前に歩いてきて、ことりたちに声を掛けてきた。
「理事長、お邪魔しました」
沙紀ちゃんはお母さんが相手だから委員長キャラで挨拶してた。
「学校じゃないから、そんな風に呼ばなくて良いわよ」
「それではことりのお母さま、お邪魔しました」
「あら、もう帰るのね、残念ね……また何時でも遊びに来てね、私篠原さんとは個人的にお話してみたいの」
「そうですか……ではまたいつかお邪魔します」
沙紀ちゃんとお母さんが挨拶し終わると、ことりたちはもう一度玄関に向かい始める。
「本当にあの人にそっくりになってきたわね」
お母さんが何か言ったように聞こえたけど、ことりたちは何を言ってるのか全く聞こえなかった。
そんなわけで初ことりちゃん視点でした。
これで三章は終了です。
次回からいよいよ四章、本筋に戻り文化祭編に入ります。
果たして沙紀たちは文化祭を成功することが出来るのか、それとも……。
そんなわけで次章もお楽しみに。
何か感想などありましたら気軽にどうぞ。
誤字、脱字がありましたらご報告していただけると有り難いです。
それでは次章予告
「順位が上がってる……」
「これであなたの夢が叶えられます」
「私はまだやれるよ!!」
「ごめんなさい……」
「私には無理だったんだ……」
「やっぱり私は沙紀に無理させてたのかもしれない」
「どうすれば良かったの?教えてよ……」
「これは刺激的な再会ですね」