ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー   作:タトバリンクス

4 / 75
お待たせしました。

今回は彼女が語り手です。

どうぞお楽しみください。


四話 接触

 1

 

 初めまして園田海未と申します。

 

 今回は私が語り手を進行することになったのですが、本編でそれほど出番のなかった私が語り手をするには、些か不安があります。

 

 語り手をする際に私の前に二人ほど語り手をして苦労したと語り手を引き受ける際に伺いました。

 

 特に二番目の方は相当苦労されたと言われ、更にその方は近いうちにまた語り手が一回以上あるのが確定していることだそうです。

 

 それはさておき、やはり自身の体験したことをどんな形であれ何かを伝えるのは、なかなか慣れていないと困難だと思います。私も実際に思ったことを文字にするのは……いえ、忘れてください。

 

 それでも引き受けたからには、キッチリとこなさければなりません。ですので僅かな時間ではありますが、私の拙い語りを聞き耳立てるくらいで、聞いていただけると嬉しいです。

 

 あまり真剣に聞かれますと、恥ずかしいですし……。

 

 それでは何処からお話をすれば良いのでしょう。一先ずはスクールアイドルを始めるきっかけを話すことにしましょう。

 

 皆様はご存じの通り音ノ木坂学園は廃校の危機に瀕しています。その際、私の幼なじみである──高坂穂乃果が何を思ったのか突然私たちでスクールアイドルを始めようと言い出したのです。

 

 私は当然反対しました。そもそも穂乃果は飽きやすい性格ですし、何より今人気のあるスクールアイドルはプロ並みに努力をして人気を手に入れた人達。

 

 それに便乗する形で始めようとする穂乃果が続けられるとは思わなかったからです。

 

 あと、恥ずかしいですし……。

 

 そんなわけで私は穂乃果の案に反対したのですがもう一人の幼なじみである──南ことりに説得されて、結局穂乃果の思い付きに参加することになってしまったのですが。

 

 ですけど、穂乃果の思い付きで振り回されることはよくありますけど、不思議と後悔したことがないですよね。穂乃果に付いていくと見たことのない景色が見られることが多いですからそれにもう慣れていますし。

 

 ことりを含めて私たちでアイドル部を設立しようと生徒会に申請書を提出しに行ったのですが皆様のご存じの通り生徒会長に反対されて追い返されました。

 

 確かに生徒会長の言い分には分かりますが(実際に私も反対しましたし)私たちの思いは理解してくれると思っています。誰も自分たちの学校を廃校にしたくないと言う思いを。

 

 流石に穂乃果も生徒会長にあんなことを言われて諦めるかと思いましたが彼女は諦めていなかったのです。

 

 そんな穂乃果を見て私たちもまだ諦めかけていた気持ちが無くなり、また頑張ろうと思いました。

 

 ホント、不思議な人です。穂乃果は。

 

 そうして、再びスクールアイドル活動をして廃校を阻止しようと動き出したのです。

 

 2

 

「はぁ、まさか何一つ決まっていなかったなんて思ってもみませんでしたよ」

 

 決意を新たにした翌日の昼休み──私は穂乃果たちと学校の中庭で昼食を取りながら先程まで知ってしまった事実に溜め息を溢し呆れていました。

 

「えぇ~、海未ちゃんだって忘れていたじゃん。穂乃果は悪くないよ」

 

「確かに忘れていた私も人の事は言えませんけど、いえ穂乃果のことだから忘れていることを失念した私の失態です」

 

 穂乃果は何と言うべきでしょうか。そうですね、猪突猛進と言う言葉が相応しいのかもしれません。細かい事は気にせずとりあえず目の前のことしか見えてないそんな感じです。

 

 その結果、細かい事が積み重なって大事になってしまうのが何時もの落ちなのですが、私もそんなことにはならないように気を付けているのですが今回は見事にやってしまいました。

 

「ヒドイよ、海未ちゃん。良いじゃんか、早いうちに分かったから」

 

「ですが、流石にグループ名も曲も振り付けも何一つ決まっていなかったなんて……。せっかく、講堂の使用許可を取ったのに」

 

 そうなんです。順を追って説明しますと今朝──生徒会に講堂の使用許可を取りに行き、何とか使用許可を取れたのですがそのあとスクールアイドルのグループ名が決まっていない事に気付いたんです。

 

「えぇ~、でも、掲示板でグループ名は募集したんだから大丈夫だよ」

 

「何処からそんな自信が来るのですか。あなたは……」

 

 穂乃果はそんなことを言いますが、先程穂乃果の言ったように穂乃果がいつの間にか貼ったライブのポスターにグループ名募集と書き加えてあとは放置です。完全に他力本願です。どうするつもり何でしょうか変なグループ名入っていたら。

 

 そうしてグループ名は他人に任せて、今度は学校内での練習場所を探し屋上を使うことをしたのですが、今度は曲が用意してなかったことに気付いたのです。

 

「はぁ、とりあえず今日うちにはその辺りを決めとかないといけませんね」

 

「そうだね。衣装の方は私がデザインするから良いけど、他は私たちだけだと経験無いから難しいよね」

 

「すいません。ことり、衣装の方は貴方に殆どお任せしてしまって。ですが先程の衣装は考え直してくれませんか。脚が見えてますし……」

 

 ことりは衣装のデザインが出来ますから衣装の方は問題ないのでけど、ただ先程見せてもらったデザインはスカートが短すぎて脚が見てしまって恥ずかしいですから。

 

「大丈夫だよ、海未ちゃん。脚綺麗だから気にしなくっていいよ」

 

 ことりは笑顔でそう言ってくれますが、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいですし。

 

「ですが、やっぱりスカートが短いのは駄目です」

 

 きっぱりと私はそう断っておきました。ことりに何と言われようと誰かに脚を見られるのは無理ですし。それにアイドルのスカートが短いといけないと言うルールはありませんから。

 

「どうする? ことりちゃん。海未ちゃんあんなこと言ってるけど」

 

「どうしようね。とりあえず、さっきのデザインの衣装を海未ちゃんに黙って作っておいて当日それしか着られないようにしておく?」

 

「ことりちゃん……何気にヒドイね。でもそうだね、そうした方が海未ちゃんも観念して着てくれるだろうし」

 

「何二人でこそこそと話しているのですか」

 

『ははは、何でもないよ』

 

 明らかに怪しい。何か私に隠れて企んでいるじゃないでしょうか。

 

「さて、これからど~しようかな~」

 

「そうだね。他にもいっぱい決めないといけないからね」

 

「二人とも話を逸らしましたね」

 

 確かに他にも考えなければいけないことが多いですからこれ以上追及するのは止めておきますか。ことりは難しいですけどそのうち穂乃果は勝手に口を滑らせてしまうでしょう。

 

 そうして一先ずは先程の件は置いておいて私たちはこれからどうするべきか考えると──

 

「ちょっと、良いですか」

 

 穂乃果やことりの声ではなく第三者から声が聞こえた。なんか凄い既視感を感じます。先日、昼休みに丁度生徒会長と副会長に声を掛けられましたし。

 

 しかし、今回は先程のお二人でもなく別の声でしかも最近何処かで聞いたことがある声でした。

 

 そうして、声がした方を私たちが見るとそこには昨日、生徒会室でお会いした三つ編みに眼鏡と言う以下にも委員長風な方がお弁当箱を持ってそこには居ました。

 

「一緒にお昼食べても良いですか」

 

 3

 

「ごめんなさい。三人で楽しくお昼食べていたのにお邪魔してしまって」

 

「気にしなくも大丈夫だよ。それにあなたには昨日スクールアイドルのこと色々と教えてもらったし」

 

 突然、お昼をご一緒したいと言った生徒会の方は少し申し訳なさそうにしていたが穂乃果はそんなこと全然気にせず笑顔で答える。

 

「そう言えば、昨日そんなことを言っていましたね。何処で知り合ったのですか」

 

「昨日UTXに行ってA-RISEを見た時にスクールアイドルについてよく分からなかったから、偶々近くにいた音ノ木坂の生徒に声を掛けたら……、えっと……。名前何だっけ?」

 

「穂乃果、流石に人の名前を忘れるのは失礼ですよ」

 

「忘れてないもん。ただ……そうだ!! 名前聞いてなかったんだよ」

 

 そうだって、言い訳にしか聞こえないのですが聞いていなかったのなら仕方がありませんね。

 

「そう言えば、私は皆さんの名前は知っていますけど私は名乗っていませんでしたね」

 

 どうやら彼女曰く本当のようだったようです。これで本当に穂乃果が忘れていたのでしたら説教ですがその必要は無くなりました。

 

 そうして彼女は軽く咳払いをして名乗る準備します。

 

「それでは、私の名前は篠原沙紀と言います。よろしくお願いしますね」

 

 えっ、今彼女何て名乗りましたか。凄く聞いたことのある名前だった気がするのですけど。

 

 しかもこの学校ではとても有名な名前だったような気がします。

 

 私は穂乃果とことりにさっきのは聞き間違いでは無いかと目で確認するとことりも驚いた顔で私のことを見て同じことを思ったようです。そして、穂乃果は──

 

「篠原沙紀ちゃんね。じゃあ沙紀ちゃんだね。よろしくね」

 

「よろしくお願いしますね。高坂さん」

 

 何時ものように普通に彼女と接していた。

 

「穂乃果!! 何であなたは彼女の名前を聞いて普通にしているのですか!!」

 

「えっ、え? どうしたの? 海未ちゃんそんなに驚いて沙紀ちゃんってスゴイ人なの」

 

「スゴイも何も穂乃果ちゃん知らないの? 篠原さんのこと。この学校じゃとっても有名な生徒だよ」

 

 私とことりは穂乃果のとても有り得ない行動に驚いてしまってつい先程までの緊張感が解けて穂乃果を問い詰めるのですが、穂乃果は全くと言っていいほど状況を理解していなかったので篠原沙紀さんについて軽く説明することにしました。

 

「フムフム、なるほど!! 沙紀ちゃんってスゴイ人なんだね」

 

「凄いどころではありません。篠原さんを見てください」

 

 そうして私たちは篠原さんの方を見ると篠原さんは私たちに微笑んだ。

 

「無駄のない呼吸、凛々しいくも淑やかな佇まい。そして美しく綺麗に整った姿勢。武道を嗜む私なら分かります。どれを取っても私たちとは別次元の方ですよ!!」

 

「海未ちゃんが今までないくらい興奮して熱く語ってる……」

 

「それくらい篠原さんがスゴイ人なんだよ。特に海未ちゃんは篠原さんを尊敬していた見たいだからね」

 

「尊敬していたのなら顔くらい知ってるじゃないの。何で気付かなかったの?」

 

「多分、海未ちゃんは恥ずかしかったじゃない? だって海未ちゃん恥ずかしがり屋さんだから話だけ聞いてなかなか声とか掛けれなかったとか」

 

「なるほど!! 海未ちゃんなら有り得る」

 

 何か穂乃果とことりがこそこそと話していますが今はそんな事は関係ありません。私はとても大きな失態を犯してしまったのですから。

 

「あぁ、何で気付かなかったのでしょう。この学校で眼鏡に三つ編みと委員長風な方を篠原さんと一目見て気付かなかったのでしょうか。自分の未熟さを思い知らされます」

 

 出来ればもう少し心身共に成熟した際に状態でお会いしたかったのですが、こんな未熟な姿を篠原さんに見られてしまったら恥ずかしさの余り死んでしまいます。

 

「そんなに気にしなくて良いですよ、園田さん。私もそこまでスゴイ人間ではありませんし普通に皆さんとお話したいですから」

 

 落ち込む私に何と優しい言葉を掛けて下さる篠原さん。本当に優しくて清らかな方です。私も彼女のようになれように日々精進しなければいけません。

 

「何と心優しい方なんでしょう。流石は立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花の如くそれに心は海のように広い方です」

 

「ごめんなさい。私、最初に園田さんが言った、立てば芍薬辺りは初めて聞きました」

 

 これは凄く恥ずかしいです。まさか、篠原さんはそんな風に呼ばれたことが無かったなんて……。

 

「海未ちゃん顔真っ赤だよ。もしかして、自分で沙紀ちゃんのことをそう思っていたの」

 

「ち、ち、違います。これは誰かが篠原さんの事をそう言っていたのですよ。決して私が考えたわけではありません!!」

 

 穂乃果は私をそんなことを言いますが何とか弁解しようとしますが先程の失態でかなり動揺して言葉に説得力がありません。

 

「あぁ、またこのパターンですか」

 

「どうしたの? 沙紀ちゃん何か分かったの」

 

 篠原さんは私の反応を見て何か気付いたのか何やら納得した様子をした。それを見た穂乃果は篠原さんに図々しくも普通に聞いています。

 

「よくあるんですよね、私の知らない間に変な噂や肩書きとか付いていたりすることが。ですから園田さんはそれらを聞いてしまって私のことをそう思っていたと言う訳です」

 

 そんなことが……、いえ、確かに篠原さんの噂の中には明らかに根も葉もない噂が幾つも有ります。そう考えれば彼女が知らない肩書きが出回ってもおかしくはないはずです。

 

「何と……私は噂に踊らされていただけだった何て……。尚更、自らの修行不足を感じてしまいます」

 

 自ら墓穴を掘っていく。そんな風に未熟さを更に思い知らされるなんて先程から恥ずかしがってばかりです。

 

「でも、そうだよね。さっき海未ちゃんから少し沙紀ちゃんの噂の中で沙紀ちゃんが宇宙人じゃないかって噂は流石に嘘だよね」

 

 また私が恥ずかしがっていると穂乃果が納得したように話し明らかに嘘である噂を口にした。流石に私でもそれは根も葉もない噂でしか無いと分かりますよ。

 

「それですか。それ、本当ですよ」

 

『えっ!?』

 

 しかし、篠原さんの回答は私たちの予想とは全く違うもので思わず三人とも驚いてしまう。またまた、今なんと篠原さんが宇宙人ですって。

 

「実は私……、家系は火星人でしてとある事情で地球に移住してきたんですよ」

 

「数十年前、地球から送られた台所によく出る黒い虫が謎の進化してしまってその新種の生物と私たち先住民である火星人は火星の覇権を巡って日々争っていました」

 

「その結果、私たちの一族は負けて地球に逃げてきてひっそりと暮らしているのですよ。何時か再び火星を取り戻すために」

 

 自身の事情を話す篠原さん。その顔は何処か儚げで悲しそうなとても嘘を付いているようには見えません。

 

「火星ではそんなことが起きてるなんて」

 

「そうだったんだ。大変なんだね、篠原さん」

 

「沙紀ちゃんファイトだよ!!」

 

「やっぱり、地球の方は悪い方ばかりでは無いんですね。その言葉でまた火星を取り戻そうと頑張れます。まあ嘘なんですけど」

 

『へっ?』

 

 今、篠原さん何と言ったのですか。

 

「ですから今の話は嘘です。ごめんなさい」

 

 そう笑顔で先程の話が嘘だと言いました。

 

「何で、そんな嘘ついたの? 沙紀ちゃん!?」

 

「そうだよ。ことりはホントだって信じちゃったよ」

 

「篠原さんが嘘を付くなんて信じられません」

 

 私たちは各々篠原さんの嘘に反応して驚いてしまいますが篠原さんは私の反応を見て少し嬉しそうにしていました。

 

「簡単に言えば、私は噂に聞くほどスゴイ人間ではありません。ちょっとした可愛い嘘も付きますし失敗だってします」

 

「だから、少しだけでも親近感が湧くようにちょっとした嘘を付きました。ですからそんな私ですけど仲良くして頂けると嬉しいです」

 

 そうして篠原さんは申し訳なさそうに自分が嘘を付いた理由を言って最後だけ少し照れくさそうに篠原さんはそう口にしました。

 

「そっか、なら全然大丈夫だよ。だって私たちもう友達でしょ。ねっ、海未ちゃん、ことりちゃん」

 

 そんな篠原さんに穂乃果は迷いもなくすぐに友達宣言をして私たちに同意を求めます。

 

 彼女は何時もそうです。どんな人でも仲良くなるそんな才能と言うべきか魅力と言うべきか分かりませんが人を惹き付ける何かが。私もそんな穂乃果の魅力に惹き付けられて幼なじみになったんですけど。

 

「そうだね。穂乃果ちゃんの言う通りだよ、沙紀ちゃんよろしくねっ」

 

「そうですね。私も噂ばかりに踊らされてちゃんと篠原さんのことが見えていなかったのかもしれません。ですから未熟な私ですけどよろしくお願いします」

 

 だから、彼女の提案を否定するつもりはありません。だって、穂乃果と友達になって悪い人は居ませんから。

 

「海未ちゃん、カッターイ!!」

 

「良いじゃないですか。これが何時もの私なんですから」

 

 仕方がないではありませんか。私は穂乃果のようにそんな誰かとすぐ打ち解けるような性格ではありません。

 

「まあまあ、二人とも落ち着いて」

 

 穂乃果が何かを言って私が怒ったりして、ことりが仲裁に入る何時もの風景。

 

「皆さん、よろしくお願いしますね」

 

 そんな私たちのやり取りを見て微笑みながら篠原さんは私たちにそう言いました。

 

『よろしくね(お願いします)』

 

 そして、今日から篠原さんと私たちは友達になりました。この出会いがのち、出来事に大きく関わることなんて知るよしもなく。

 

「ちなみに、さっきの火星の話は?」

 

「あぁ、それですか。私、漫画を読むのを好きですから最近嵌まっている漫画から少し設定を拝借しました」

 

 また、篠原さんの新たな一面を知ってしまいました。

 

 4

 

「さて、自己紹介も済んだところで先程の話の続きといきましょう」

 

「先程の話? 何の話だっけ」

 

 私たちと篠原さんが友人となり話が一区切り付いたので当初の話の話題に戻そうとする篠原さんに穂乃果は惚けた顔でそんなことを言いました。

 

「どうして穂乃果と篠原さんが知り合ったのかって話ですよ。もう忘れたのですか」

 

「あっ!! そうだった。すっかり忘れていたよ」

 

「はぁ、貴方って人は何で何時もそうなんですか。だいたい貴方は……」

 

「海未ちゃんストップストッ~プ!!」

 

 私が穂乃果に説教しようとすると穂乃果は大声で止めました。

 

「ちょっと何ですか穂乃果。私は貴女の為を思って」

 

「今はそんなのあとにしようね。ねっ!! 穂乃果と沙紀ちゃんが知り合ったのを聞いてからでもいいでしょ」

 

「分かりました。一先ずはその話を聞いてからにしましょう。私も気になっていましたから。ですがそのあとでちゃんと私の話も聞いてもらいますからね」

 

「うぅ、分かったよ。後でちゃんと聞くから。それじゃあ話すね」

 

 そんな風に穂乃果に釘を指しておいて私たちは穂乃果と篠原さんが知り合った話を聞きました。ちなみに内容はこんな感じでした。

 

 昨日の朝に穂乃果はA-RISEを見にUTX学園に行きました。

 

 その時はまだ全然スクールアイドルの知識が無かったため近くの人に聞こうとしたのですが、その際に聞いた相手がサングラスにコートと明らかに不審者の格好をした人に聞いたそうです。

 

 流石に近くに聞けそうな人が居なかったからといいそんな不審者みたいな人に声を掛けるのはどうかと思いますが、そんなの穂乃果は気にせずその方から少し教えてもらったそうです。

 

 そのあと、その不審者さんと一緒にA-RISEを見ていると篠原さんが不審者さんのところにやって来たそうです。

 

 どうやら篠原さんはその方と待ち合わせをしていたらしく、その際に篠原さんと知り合ってスクールアイドルに興味を持った穂乃果に最近のスクールアイドルについて教えてもらって、更に雑誌も幾つか貰ってきたと言う訳です。

 

「なるほど、昨日何処からともなくスクールアイドル雑誌を持ってきたのは篠原さんから貰ってきたと言う訳ですね」

 

 昨日、穂乃果がスクールアイドルをやろうと言い出した時に何冊かスクールアイドルの雑誌を持って来ていましたが朝早くからよくそんな雑誌を集める時間とお金がありましたね。

 

 何て思っていましたけどなるほど篠原さんに貰ったものだと言えば納得します。しかし、それよりも……。

 

「何で沙紀ちゃん、そんな不審者さんと待ち合わせしてたの?」

 

 あの篠原さんがそんな怪しい人と付き合っているイメージがありませんから、つい気になっていましたので聞こうとすると先にことりが聞いてくれました。

 

「ははは……、実はあの人、この学校の先輩なんですよね。あの人アイドル全般が大好きですからあれは一種の拘りですから気にしないでください」

 

「へぇ~、あの人先輩だったんだ。ならさ、その人に一緒にスクールアイドルやらないか聞いてみようよ」

 

「そうですね。確かにアイドルに拘りを持った方なら相当アイドルについて熟知していると考えて間違いなさそうですし」

 

「案外、ことりたちの悩みを解決してくれるじゃないかなぁ」

 

 穂乃果の提案に私とことりは特に異議はなくむしろ賛成と言う形で話を進めています。理由は簡単で実際のところ私たちは全くと言っていいほどアイドルの知識はありません。

 

 そのせいで現在も行き詰まっていますのでそう言った詳しい方がメンバーに加わって頂ければ状況も打破できますし、部員も増えて部活の申請に一歩近づき活動もしやすくなります。

 

「あの……盛り上がっているところ申し訳ないですけど、多分先輩を勧誘するのは、今はちょっと無理です」

 

 そうして私たちが先輩を勧誘する話で盛り上がっているなか篠原さんがとても言いにくそうにそう言いました。

 

「どうして?」

 

「あの人はさっきも言った通りアイドルに拘りを持っている人何なので言いにくいですけど、高坂さんたちが今会いに行くと『あんたたちはアイドルをバカにしている。思い付きで出来るほど甘くなんてないのよ』何て言われて確実に追い返されます」

 

 うぅ、確かに篠原さんの言う通りです。アイドルに拘りを持っているのですからそんな中途半端な気持ちで始めた私たちが会いに行くと追い返されるのは当たり前です。

 

「そっか~、せっかくその先輩と沙紀ちゃんを入れて部員が五人になって部活として活動できると思ったのに」

 

 何と穂乃果がそこまで考えてそんな提案をしていたのですか。てっきり私は何も考えず思い付きで言ったと思っていました。

 

「あっ!! 海未ちゃん明らかに穂乃果が何も考えず思い付きで言ったと思っている顔している。ヒドイよ!! ねぇ、ことりちゃん」

 

「う……うん。そうだね。ことりも穂乃果ちゃんがそこまで考えているとは思っていなかったよ」

 

「ことりちゃんまで!! 沙紀ちゃん何とか言って!! 私だって考えるときだってあるんだって」

 

「わ……私ですか!? 知り合ったばかりですし。そこまで知ってる訳ではないですけど。いや、それよりも私がさりげなく部員の数としてカウントされます」

 

 流石に篠原さんにその返答を求めるのは酷だと思いますし、篠原さんにしてみればそちらの方が気になりますよね。

 

「えっ? だって沙紀ちゃんもアイドルのこと詳しいし、その先輩と一緒にアイドルがやるんだったらやってくれると思っただけどな~」

 

「それに沙紀ちゃん。スタイル良いし、綺麗だし可愛いし絶対人気者になれるよ」

 

 そう言って穂乃果は篠原さんの身体をじろじろと見る。制服の上からも分かるように篠原さんは同じ女性としては羨ましいくらいスタイルも良いですし、スカートの下から見える脚も細く引き締まって長いです。

 

 出来ることならどうしたらこうなるのかご教授してもらいたいぐらいです。

 

「誘ってくれるのは嬉しいですが私一身上の都合がありますのでアイドルとして活動するのは申し訳ないですけどお断りさせてもらいます」

 

「えぇ~良いじゃん、やろうよ。アイドル楽しいよ」

 

「穂乃果!! 篠原さんにも都合がありますのに無理に勧誘するのはやめなさい」

 

 流石に事情があるのに無理に勧誘する穂乃果に私は彼女を注意する。

 

「ごめんね。沙紀ちゃん」

 

「気にしないでください。アイドルを出来ないのは私のちょっとした都合があるためですからそれに……」

 

「それに?」

 

「こんな私でも良ければマネージャーとして部員に入れてくれると嬉しいです」

 

「えっ!? だってさっきお断りしますって言ってなかった」

 

 篠原さんの提案に驚いてしまう穂乃果。確かに断られたような気がしますが私の聞き間違いだったのでしょうか。

 

「アイドルとして活動するのは、ですからそれ以外でしたら幾らでもお手伝いいましますから」

 

 そう言えばそんな風に言っていた気がします。成る程、アイドルとしてステージには立つことは出来ませんがそれ以外だったらお手伝いが出来ると言うことですね。

 

「ホント!! やった~!! これで部員が四人だ!! よろしくねっ、沙紀ちゃん」

 

「はい、よろしくお願いします、皆さん」

 

「じゃあ、放課後家で作戦会議だね」

 

「すいませんが穂乃果。私、今日は弓道部の練習に行かないと行けませんので遅れますが良いですか」

 

 私は弓道部と兼任してアイドル部(まだ部活として認められた訳ではないのですが)やってますので弓道部の練習があるときには出なければなりません。

 

 ですからこうして集まるときにはどうしても抜けなければならないのです。

 

「ごめんなさい。私も放課後は生徒会のお手伝いがありますので遅れますけどいいですか。それに私、高坂さんの家の場所知りませんし」

 

 どうやら篠原さんも私と同じように生徒会との手伝いを兼任して今日また手伝いがあるのも同じようです。

 

 更に彼女は知り合ったばかりですので、当然穂乃果の家の場所も分かりません。

 

「なら、海未ちゃんが部活終わってから沙紀ちゃんと一緒に穂乃果ちゃんの家に連れていたったらいいんじゃない」

 

「そうだね。海未ちゃん、よろしく」

 

「まあ、いいですけど。篠原さんそれで問題ありませんか」

 

「大丈夫です。よろしくお願いします園田さん」

 

 そんな感じで放課後の予定は決まり、残りの時間は他愛ない話をして昼休みも終わり私たちは教室に戻りました。

 

 5

 

 放課後──私は弓道部の練習を終えて篠原さんとの待ち合わせ場所である校門に向かっていました。

 

 理由は昼休みに話した通り穂乃果の家に篠原さんを案内するためです。

 

 そうして待ち合わせ場所に着くと篠原さんが既に校門の前で待っていました。

 

 その待つ姿はとても凛々しくも可憐であり、更に夕日の日差しが彼女の美しさを際立たせているためにまるで一枚の絵画のようでとても声を掛けるのは憚られます。

 

「あっ、園田さん。どうしたんですか? そんなところでボーッとして」

 

 篠原さんに見とれていた私に気付いた彼女は此方まで歩いてきて、とても不思議そうな顔をして私にそう言いました。

 

「い……いえ、何でもありません。それよりも待たせてすいません」

 

 流石に篠原さんに見とれていた何て言える筈もなく、私はただ遅れてきたことを謝罪します。

 

「良いですよ。私も今来たところですし」

 

 遅れてきたことに特に気にしていないように言う篠原さん。実際のところ本当かどうかは分かりませんが彼女の表情を見ると、平静な表情をしているためそこまで待っていないと分かります。

 

「そうですか。それでは行きましょうか」

 

「はい、よろしくお願いしますね」

 

 そうして私たちは合流出来ましたので、一緒に穂乃果の家に向かうため歩き始めます。

 

「…………」

 

「…………」

 

 歩き始めて少しすると特に会話はなく無言でただひたすら歩くだけというとても気不味い雰囲気になってしまいました。

 

 うぅ、どうすれば良いのでしょう。

 

 正直に申し上げますと私は大変緊張しています。篠原さんはお昼に話したように音ノ木坂でとても有名な生徒です。

 

 彼女はあのときは気にしなくいいと言いましたが、やはりそんな凄い方と一緒に歩くだけでも緊張します。そもそも私たちとは全く違う世界の人とイメージが強かったので尚更です。

 

 何かお話しようにもお昼の件がありますから迂闊なことを聞くと、また恥ずかしい目に合うのは目に見えていますから喋りづらくなりますし、篠原さんがどう言ったお話をするのかお昼の時には全く分かりませんでした。

 

 そもそも穂乃果とことりが本当に他愛ない話ばかりしていたので、それを私と篠原さんが聞いて、何か適当に返すのを繰り返していましたから、なおのこと篠原さんについて知ることは出来ませんでした。

 

 あっ、そう言えば漫画は読むとか言ってましたよね。あぁ、駄目でした。私そっち方面の話は全然分かりません。どちらかと言えば小説の方がよく読みますけど篠原さんはどうなんでしょう。

 

 篠原さんなら読んでいそうな気がしますけど、かといって聞くのも勇気がいります。もし、全然読んでいなかったら何て考えてしまって余計に話しづらくなってしまったらどうしましょう。

 

 そうこう考えているうちに気付いたら穂乃果の家まで半分くらい距離になってしまいました。更に丁度信号が赤となり一旦信号が変わるまで待たないといけなくなりました。

 

 どうしましょう。さっきまでは歩いて何とか会話がなくても篠原さんは道を覚えたりしていたかもしれませんから良かったかもしれませんが(私の思い込みですが)今は立ち止まってしまったら、何かお話しをしなければ本当に失礼な方だと思われてしまいます。

 

 何かお話しを……。あぁ!! 何も思い付きません。どうすれば……。

 

「おや、あれは何ですか?」

 

 私が頭の中で凄く思い悩んでいると篠原さんは何かを見つけたようです。

 

 そうして私も篠原さんの見ていた方を見てみるとそこには何もありませんでした。

 

「スキアリ」

 

「一体、な……きゃぁぁぁ!!」

 

 向いた先に何も無かったので何が見えたのか篠原さんに聞こうと振り返ろうとするといつの間にか篠原さんは私の背後に周りな、な、な、何と胸を触ってきたのです。

 

「フム、やっぱり制服の上からも分かるようにそこまで大きくはないですけど形はかなり綺麗に整っていますね」

 

「それに丁度手に収まって触り心地も良いのでなかなかすぐに離すのは勿体ないですね」

 

 私の胸を触りながら篠原さんは何か言っていますが突然のことに戸惑い思考が停止していまい、つい──―

 

「ぐはっ!!」

 

 思い切り篠原さんに肘内をしてしまい篠原さんはその場に倒れてしまいました。

 

「だ、だ、だ、大丈夫ですか!? 篠原さん」

 

 無意識に篠原さんに肘内をしてしまったことに気付いた私は篠原さん方を見て無事かどうかを確認しました。

 

「ははは、だ、だ、大丈夫ですよ。それよりも良いものをお持ちで……どちらの意味でも……ガクッ」

 

 そんな意味の分からないことを言いながら篠原さんは意識を失いました。

 

「篠原さ~~ん!!」

 

「はい、何でしょう」

 

「ふぇ?」

 

 私は篠原さんの元に駆け寄って見ると篠原さんは何事も無かったようにけろりとして返事をしました。あまりにも驚異的な回復力に私はつい変な声を出してしまいました。

 

「あぁ、制服汚れちゃいました」

 

 篠原さんは立ち上り制服の汚れを手で払いながら身だしなみを確認します。ある程度問題ないと判断したら気絶した際に落とした鞄を拾いました。

 

「大丈夫ですか……。それよりも何のつもりですか!! いきなり私のむ、む、胸を触ったりして!!」

 

 心配して声を掛けますがそもそもことの発端は篠原さんが私の胸を触ったことが原因なので彼女にその理由を問いただそうと彼女に詰め寄ります。

 

「ん? あぁ、その件ですか。何と言いますか……チラチラと気になって触りたいと言う衝動に駆られまして、つい……」

 

 特に悪びれるつもりもない感じでまるでそこに山があったから登るみたいな感じで触ったと言いたげな風に篠原さんはそんなことを言いました。

 

「衝動に駆られたからって……そんな理由で触ったのですか!!」

 

「ダメですか?」

 

「駄目です!! 信じられません。まさか、篠原さんがそんなことをするなんて……」

 

 私の中の篠原さんのイメージがどんどん崩れていきます。私が落ち込んでいると篠原さんは私を見てクスクスと笑っていました。

 

「何が可笑しいんですか!!」

 

「いや、さっきまで緊張している顔をしていましたからそうやって怒ったりして感情を曝け出していますので」

 

「あっ!!」

 

 篠原さんに言われて今──自分が緊張せず普通に篠原さんと喋っていることに気付きました。

 

「成る程、お姉ちゃんの言った通りだ。同性ならワシワシした方が仲良くなれるって」

 

「まさか、篠原さん私が緊張しているのに気付いてわざとそんなことをしたのですか?」

 

 もしそうだとしたら篠原さんはとんだ食わせものです。自分が殴られるのをわかった上で私の胸を触ったりしたのですから。

 

「さて、どうでしょうか?」

 

 そう言ってはぐらかそうとする篠原さん。その彼女の顔は悪戯が成功した子供みたいな無邪気な笑顔でした。

 

「フフ、貴方は変わった人ですね」

 

 そんな笑顔を見てしまった私は先程までの緊張していた自分が馬鹿らしくなるくらい気付いたら自然と笑顔になっていました。

 

「よく言われますよ。それにしてもそろそろ私の事を名前で呼んでくれませんか」

 

「えっ? どうしてですか」

 

「園田さんだけ私の事を名前で呼んでくれていませんし。あと、友達ですから」

 

 そういえばそうでした。穂乃果とことりはすぐに篠原さんと仲良くなると篠原さんの事を名前で呼んでいますけど私は違います。でもそれは──

 

「篠原さんだって同じではありませんか」

 

 そう篠原さんは私どころか穂乃果やことりまで名字で呼んでいます。

 

「あっ、そうでしたね。なら私も名前で皆さんの事を呼びますし、もう少しフレンドリーに話しますから園田さんも私の事を名前で呼んでください」

 

「それに若干、しゃべり方被ってどっちが喋っているのか分からなくなりますし」

 

 確かにそれは何となく分からなくも無いですし、それに篠原さんの言うことは最もですから、友達ですからもう少し距離感は近い方が良いですよね。

 

「え、え~と、分かりました。それじゃあ、さ、さ、沙紀?」

 

 私は篠原さんの提案に乗り恐る恐る篠原さんの事を名前で呼んでみると篠原さんはとても笑顔で──

 

「はい、よろしく海未ちゃん」

 

 そう答えてくれました。

 

 そんなところで私と沙紀の距離は縮まって少しずつ仲良くなりました。

 

 6

 

 私と沙紀の距離感が縮まったところで信号も青になりましたので、私たちは再び穂乃果の家に向かい始めました。

 

「そういえば、さっきお姉ちゃんがどうとか言ってましたけど、沙紀にはお姉さんがいるのですか」

 

「えっ? 私、一人っ子だよ」

 

 ふと、沙紀が言っていたことが気になったので聞いてみると沙紀はとても不思議そうな顔でそう返してきました。

 

「でもお姉ちゃんが言っていたって、言ってましたけど」

 

 私の胸を触った際にそんなことを言っていた気がしますけど私の気のせいだったのでしょうか。

 

「あぁ、それね。先輩に私の事を妹みたいに可愛がってくれる人がいるから私もその先輩の事お姉ちゃんって呼んでるんだよ。昨日から」

 

「そうなんですか…………。昨日から!!」

 

 親しい先輩がいるのですね。何て考えてそれなら納得だと思いましたが、思ったよりもわりと最近の事だったみたいだったのでつい驚いてしまいました。

 

「うん。昨日、お姉ちゃんの家に泊まったときに」

 

「昨日からと言うことは今日──その先輩の家から登校したってことですか」

 

 そうだよ、後でまた荷物取りに行かないと何て言って肯定する篠原さん。

 

「それにしても昨日お姉ちゃんから教えてもらった直に教えられたワシワシは凄かったなぁ」

 

 沙紀の発言に何がどう凄かったのかとても聞きにくいことに私はどう反応すれば良いのか分からなく思わず苦笑いするしかありませんでした。

 

「これ女の子同士だから出来ることだからね」

 

「まあ、そうですよね」

 

 沙紀にやられたことを殿方にやられた暁には恥ずかしすぎて死んでしまいそうです。そう考えると今回は沙紀だったから良かったと考えるべきなのでしょうか。

 

「やっぱり、女の子同士っていいよね」

 

 何が良いのかよくは分かりませんが友情的な意味だと私は一先ずは受け取っておきます。

 

「沙紀は本当に噂通りの人ですがこうして話してみると思っていた以上に話しやすいですね」

 

 話が一区切りつきましたので少しですが沙紀と話してみて思ったことを口にすると沙紀は落ち込んだ顔をしました。

 

「あぁ、それ結構言われる。私の噂色々と尾ひれがついて大変なことになってるし。知っているでしょ私の通り名」

 

「確か……『音ノ木坂の生きる伝説』ですよね」

 

「そう!! それ!! 海未ちゃん的にあれどう思う」

 

 どう思うと言われましてもそもそも何でそんな通り名がついてしまったのか。理由がイマイチ分かりませんのでどう答えたら良いのか答えるのを渋ります。

 

「海未ちゃんみたいにこの答えづらさ。私も何であんな通り名になったのかわからないんだよ」

 

「ある意味あの通り名も噂同様に勝手出回ったせいで余計に話し掛けづらいイメージを付けられたんだよ」

 

 そうですね。それは分かります。私も噂と通り名を良く聞いていましたので今日まで私が沙紀と話すのはおこがましい何て思っていましたし。

 

「そこで海未ちゃんにお願いがあるんだけど……いいかな」

 

「はい、ある程度のことならお手伝いしますが」

 

 この流れから考えて沙紀のお願いは自分のイメージの払拭するお手伝いすると思っていましたが沙紀の提案はそれの斜め上でした。

 

「私の新しい通り名を考えて欲しいだよ」

 

「へっ? 今なんと」

 

「だから私の新しい通り名を考えて欲しいだよ。海未ちゃんに」

 

「な、な、な、な、何ですか!! どうして私が」

 

 沙紀のとんでもない提案にまた、動揺してしまいました。ある意味、私の親友である穂乃果と同じくらい思考の持ち主何かじゃないのか何て思ってみたりもします。

 

「どうしてって、お昼海未ちゃんが私のイメージについて言っていたときに私の中でピーンと来たんだよね。海未ちゃんに新しい通り名を考えてもらおうと」

 

「お昼って……まさかあれの事ですか」

 

「そう立てば芍薬云々のやつ」

 

 やっぱりですか!! あれはもうできれば忘れて欲しいのですが。まさか、あんな風に沙紀の事を思っていたのが私だけって分かってとても恥ずかしかったんですから。

 

「海未ちゃん顔赤いけど大丈夫?」

 

「誰の所為だと思っているのですか」

 

「えっ? 日本経済の所為?」

 

「貴女の所為ですよ!!」

 

 何で日本経済の所為に何ですか!! 関係ないじゃないですか。

 

「まあまあ、良いじゃない。私も海未ちゃんの事は大和撫子って言葉が似合うなって思っていたし」

 

「それに海未ちゃんになら通り名の事任せても良いかな何て」

 

 うっ、そんなことを面と向かって言われると照れてしまいます。

 

「そもそも通り名って身内で考えるもの何ですか」

 

「まあ、そこは気にしなくてもいいかな」

 

 そんな素朴な疑問がありますけど沙紀がそういうのだったらもうどうでもいいと思ってしまいました。

 

「それで……どんな感じが良いのですか」

 

「そうだね。可愛い感じで」

 

 可愛い感じ……と言われましても大雑把過ぎて考えるのは難しいです。あとなにか条件があると思い付きやすいのですが。

 

「やっぱり難しい?」

 

「はい、可愛い感じだけだとなんとも」

 

「じゃあ、お昼立てば芍薬云々みたいな感じで」

 

 あれみたいにと言われますと花の名前を入れれば良いのでしょうか? しかし、そうは言っても花も色々と種類がありますし。

 

 そうして考えているとある光景が私の中で思い出されました。私が今日、校門の前で見た沙紀の姿を。

 

「白百合の委員長って言うのはどうでしょうか」

 

 あの姿を見て私はそんな風に彼女のイメージがスラッと出てきました。

 

「白百合の花言葉は確か……純潔、威厳、純粋だったかな」

 

「そうです。やはり沙紀は知っていましたか、流石です」

 

 あの時見た沙紀の姿はまさしくそれに相応しいと思っていましたのであと委員長の部分は彼女の特徴的な見た目を考慮してそんな風に付けてみたのですが。

 

「どうでしょうか?」

 

「凄く良いと思うよ。それに」

 

「私──百合好きだよ」

 

 どうやら気に入ってくれたみたいですし、それに好きな花の名前を入れたのが良かったみたいだと思います。

 

「ありがとう。海未ちゃん、あとはこれを広めるだけだね」

 

「しかし、どうやってそれを広めるのですか。あと、やっぱり恥ずかしいです」

 

 私が考えた通り名が音ノ木坂中に広まって行くのですからそう考えると恥ずかしくなりますし、さらにどうやって広がり過ぎた今の通り名を払拭するのか気になります。

 

「広める方法? それは秘密。それにもう着くんじゃない?」

 

「そうですね。もう着きますね、意外と早く着きましたね」

 

 沙紀にそう言われて周りを見渡すと確かに穂乃果の家のすぐそばまで来ていました。そして、広め方について言う際の顔はとても悪い顔をしていました。

 

「さてと、穂乃果たちはちゃんと話しているのでしょうか」

 

「さあ、どうだろうね」

 

 そんな事を言って私たちは穂乃果の家に入っていきました。

 

 そして後日、彼女の通り名は『音ノ木坂の生きる伝説』ではなく『白百合の委員長』になっていました。

 

 一体、何をしたんでしょうか。そこについては永遠の謎でした。

 




如何だったでしょうか。

「私――百合好きだよ」

「やっぱり、女の子同士っていいよね」

さて、沙紀はどんな意味でそんなことを言ったんでしょうか

それは皆さんが考えてるのが答えです。

というわけで今回は海未が語り手でした。今回も彼女はこんな風で良いのかなと四苦八苦しながら書かせていただけました。

そんな訳で今回もお楽しみいただきありがとうございました。次回もお楽しみに

誤字、脱字等がありましたご報告ください

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。