ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー 作:タトバリンクス
それではお楽しみください。
1
「冷房は人類の叡智!!」
冷房の前で両手いっぱいに広げて、そう高らかに声を上げる沙紀。その姿は砂漠でオワシスを見つけた旅人のように見えるわ。
「委員長ちゃん、そう冷房の前に立たれると、ウチたちにも当たらないから、それに満足したやろ」
「は~い」
希に注意されて、沙紀は冷房の前から素直に離れて私の目の前に座る。こうして見ると本当に姉妹のように見えるわね。それにしても……。
「どうして希の家に沙紀が居るのかしら」
そう、今日私は希に突然呼び出されて、希の家に来たのだけど、どういうわけか沙紀が希の家に居たわ。普通なら単に希が呼んだって思ったわ。ただ沙紀の格好がとてもラフな格好……ほぼ下着みたいな格好さえしてなければ。
「ヒドイ、そんなどうしてってまるで私が邪魔者みたいな言い方……もしかして!!」
「違う、あなたが考えてることでは絶対ないわ」
「即答!!」
何なのかしら、こういうときに沙紀が考えてることが分かってしまうのは、自分が沙紀に毒されてしまったのかしら。
喜べばいいのか、悲しめばいいのか、とても複雑な気分ね。
「むっ、何かとても心外な事を思われた気がする」
「き、気のせいよ」
「そう? 顔がそう見えたけど、絵里ちゃんがそう言うなら」
特に沙紀が追求しなかったことに私はホッと胸を撫で下ろす。沙紀って結構見てるから、顔に出ると簡単にバレるのよね。
「それで本当はどうしてそんな格好でここに居るのかしら?」
「そうだね、これには深い深い理由があるんだよ、それは……」
「それは……」
沙紀のテンションに釣られて、私も同じ言葉を口ずさむ。あの沙紀がそういうのならきっと本当に深い理由があるのよね。
「家のエアコンが壊れたからお姉ちゃんの家に避難してきたんだよ」
「……」
思ったよりもくだらない理由で私は言葉も出なかったわ。
「あっ、くだらないって思ってるね、それはエアコンが壊れた絶望感を知らないからそう思えるんだよ」
どうやら私の顔に出てたみたいで沙紀は私の考えてることを読み取って、そう説明するけどいまいち伝わらないわ。
「暑い部屋の中、何度何度ボタンを押してもエアコンが動かず、フィルターが詰まってるかなって、確認すると、転けてフィルター破損、ついでに頭打って気絶」
「気絶してから次の日までの記憶暑さで曖昧だし、業者からはこれ型が古いからパーツないよって言われて、一日無駄にするこの絶望感を!!」
「分かった分かったから、顔近いから」
「あっ、ごめんなさい、あと絵里ちゃんいい匂いする」
余計な一言を言ってから、沙紀は私の顔から離れる。取り敢えず大変だったってことは十分伝わったけど、どうして希の家居るって疑問は解消されてないわ。
「まあ、そんな経緯があって、私はかれこれ一週間近くお姉ちゃんの家に逃げ込んだわけ何です」
「思ったよりも長い間避難してるわね、良いの希」
「別に委員長ちゃん家の事手伝ってくれるから、問題ないんよ、それに何度も家に泊まってるから」
「まあ、希が良いのなら良いんだけど、ただ新しいエアコン買った方が早かったんじゃあ……」
沙紀のことだから頼んではあると思うんだけど、何て考えてたら、沙紀はとても驚いた顔をしてた。
「えっ? もしかして頼んでないの」
「そ、そ、そんなことはな、な、な、ないですよ、決してエアコンが壊れた事を理由に、お姉ちゃんとキャッハウフフ出来ると思って、浮かれて忘れてた訳じゃないから」
「沙紀……色々と自分から言ってるわよ」
「お姉ちゃん!! 絵里ちゃんがいじめる~」
私が指摘すると、沙紀は少し顔を真っ赤にしてから希の方へ抱きついて行って、抱きつかれた希は気にせず沙紀の頭を撫でる。
「よしよし、エリチも委員長ちゃんいじめちゃ駄目やん」
「私のせいなの!?」
何この理不尽な状況。納得行かないわ。そもそも沙紀ってこんなに子供っぽかったかしら。明らかに何時もより希に甘えてるわよね。
そんな事を考えてると、沙紀は希の耳元でヒソヒソと話始めると、希はとても微妙な顔をしてから、頷いて私の方を向いた。
「委員長ちゃんが……エリチのお胸様を触らせてくれたら許してくれなくもないって」
「イヤイヤ、色々とおかしいわよ」
全く悪いことした覚えないのに、何でそんなことしなきゃいけないのよ。もしかして……。
「沙紀が私の胸をただ触りたい口実なんじゃあ」
「チッ、バレたか」
「今明らかに舌打ちしたわよね」
「しましたけど、何か?」
悪びれもせず、堂々と舌打ちをしたことを認める沙紀。『白百合の委員長』として優しかった彼女は一体何処に行ったの。
「もういいです、こうなったら実力行使で……触らせて頂きます」
回りくどいやり方は止めたのか、沙紀は無理矢理私の胸を触ろうと、飛び付くが見事に自分が座ってた椅子に足を引っ掛かって、机にダイブした。
「うぅ……イタイ……」
「……と言う訳や」
机に顔を伏せたまま痛そうな声を上げる沙紀を見ながら、希は全く意味の分からないことを口にしたわ。
「何が、と言う訳よ、全然訳分からないわ」
「だからエリチを今日呼んだのは委員長ちゃんの相手をして貰おうと思ったんよ、ウチ一人じゃ手に負えんし」
「まあ確かに今日の沙紀はテンションが……と言うよりも情緒不安定な所があるけど……」
「あっ……私の目の前に四つのお山が……もう少しで……手が届く……」
チラッと沙紀の方を見ると、私の胸に手を伸ばそうとしてたので、沙紀の手が届かないくらい後ろに下がると、沙紀は落ち込んだ顔をして、諦めたのか今度は希の方へ手を伸ばす。
当然、希も同じくらい距離を取って自分の胸に触られないようにすると、若干涙目になってから机の上に顔を伏せていじけたわ。
「でも別に私じゃなくてもいいんじゃない、沙紀の相手はにこの方が向いてるわよ」
にこならどんな状態の沙紀でもツッコミとか、コントとか色々と出来るから、少なくとも私よりかは沙紀の扱いは上手いわ。
「確かにそうなんやけど、でもにこっち、ウチの家の場所知らないやん、知ってるのエリチと委員長ちゃんくらいやし」
「なら電話で連絡すればいいんじゃない」
「ウチが呼び出してもにこっち警戒して素直に来ないんよ、この前ちょっと悪戯したから……」
「それ自業自得じゃない」
「そんな理由もあり、エリチを呼び出したと言う訳や」
色々と話が飛躍して全く理解できないけど、このまま素直に家に帰してくれるとは思えないわ。
これは完全に希と沙紀に巻き込まれた。それだけは確実に言えるわね。
「それでどうするつもりなの」
もう巻き込まれて逃げられないと分り、沙紀と(場合によっては)希に何かされるかもしれないと、覚悟を決めて今から何をするのか希に聞いた。
「どうするって、委員長ちゃんのセクハラを交わしながら、お茶したり、お喋りして過ごすだけやけど、これならウチとエリチが被害が分散して楽になるやん」
「被害が分散って……」
そんなに言うなら沙紀を追い出せば……それは出来ないわね。あの子がこう甘えて迷惑を掛けれる人なんて殆んどいないのよね。
エアコンが壊れた事を理由に何て言ってたけど、それを建て前にここに居るんだと思うわ。でも本人が希とイチャイチャするって言ってたけど。
そんなわけだから希は沙紀を無下に出来ないのよね。何だかんだで沙紀には本当の妹のように甘いから。
「まあいいわ、取り敢えずお昼でも食べましょう」
色々と思うところはあるけど、何だかんだで私も甘いわね。
「そうやね、それならウチが作るんよ」
「私も手伝う~、絵里ちゃんはそこに座って待っててね」
私の提案に希といじけてた沙紀が立ち上がって、キッチンへと向かいお昼ご飯を作り始める準備を始めたわ。
2
お昼を食べ終えた私たちは単にお喋りすると、沙紀にセクハラされる可能性が高いので、沙紀の気を逸らそうとトランプを始めたわ。
今はババ抜きをやって、私が二枚で沙紀が一枚で希は持ち前の幸運でさっさと上がっていったわ。相変わらずこの手のゲームだと希は強いわね。
「ムムム……こっち!!」
真剣な表情で私が持ってるカードを見つめて、悩んだ末選んだカードはジョーカーではなく、スペードのエースつまり……。
「やった~、最下位阻止!!」
「負けたわ……ねぇ、本当にやるの?」
大喜びする沙紀を反面に、これから行われることに不安を感じながら、二人に確認する私。
「当然やん」
「敗者は勝者に蹂躙されるものだよ、絵里ちゃん」
とても良い笑顔で、私に近づいてくる二人。この二人に聞いた私が馬鹿だったわ。
「分かったわよ、やれば良いんでしょ」
諦めて私は穿いていた靴下を脱ぎ始めると、沙紀はとても不満そうな顔をしてた。
「何よ……ルール通り衣服は脱いだわよ」
トランプを始める際に沙紀が罰ゲームとして、最下位の人は衣服を脱ぐ罰ゲームを提案してきたわ。もちろん、止めようとしたのだけど、希が悪のりして、ルールとして成立してしまったわ。
今考えれば、運の要素がかなり絡むゲームが多いトランプで自分が負けるはずないと思って、希は悪のりしたのだと思う。
私はルールに従って靴下を脱いだのに沙紀は本当に不満そうな顔してる。
「分かってない、分かってないよ絵里ちゃん、靴下は敢えて最後に脱ぐものだよ」
「真っ先に上着を脱いだ委員長ちゃんは言うことが違うやん」
そう、既に沙紀は二回負けて、二枚衣服を脱いでいるのだけど、脱いだのがTシャツとズボンと上着ばかり脱いで、元々下着みたいな格好がただの下着姿になってしまってるわ。
ちなみに希は最下位になってないから一枚も脱いでいないわ。
「ねぇ、もうやめましょうよ」
「いや、まだだよ、絵里ちゃんか、お姉ちゃんを下着姿にするまでは」
「その前に沙紀が裸になるんじゃあ……」
既に沙紀が二回も負けてるけど、そもそも負けてるのは彼女自身トランプとかに向いてないからなのよ。
このババ抜きの前に七並べをやったのだけど、沙紀の手札は全て端のカード。それも二回も。
さっきのババ抜き抜きだって、手札十四枚と全てのカードが一種類ずつあるっておかしなことになってたわ。
前々から思ってたけど、この子根本的に運がないわ。何度か沙紀と一線越えそうな危険な目にあったけど、最後の最後で沙紀に酷い目に会ってるわ。
それに今はμ's最高の幸運の持ち主希が居る。不幸体質の人と、幸運体質の人と一緒にゲームをやって、変な相乗効果発生しかねないわ。
「私は見られても平気です!! むしろ二人に見られたい」
しかし沙紀は目先の欲に捕らわれて、それに気づかないで、さらに変態的な事を言い出してるわ。これ本当に沙紀大丈夫かしら色々な意味で。
「わたしの身体を見て、お姉ちゃんと絵里ちゃんがムラムラと興奮して、襲われる展開とか何時でもwelcomeだから」
すごく頭が痛いわ。沙紀の妄想が、ホント煩悩まみれで。一体何をどうすればそんな風に考えられるのよ。
「そんなわけでもう一回ババ抜きで勝負」
そう言ってトランプをシャッフルし始める沙紀。どうやら拒否権はないみたいね。こうなったら次は勝って諦めさせるしかないわね。
そうして沙紀が私たちにカードを配って貰って、それぞれ手札を確認して、ペアになるカードを捨てていくと、思ったりよりもペアになるカードが多くて……。
私の手札が一枚なって、希に至ってはもうゲームを上がってると言うとても意味不明なことになっていたわ。そして自ずと沙紀の二枚の手札内にジョーカーがあるのが分かるわね。
「じゃあ私から引くわね」
「あっ……」
そう言ってから沙紀の手札を引くと、引いたのはジョーカーではなく、ハートの十でつまりこのババ抜きは一瞬にして終わってしまったわ。
「何このオチ……意味わかんない!!」
あまりにも呆気なく終わってしまったことに沙紀は動揺して、真姫の真似をするけど、顔はとても真顔だったわ。
これが不幸体質と幸運体質が一緒にゲームした結果。最も盛り上がらない虚しいゲームと言う最悪の不幸が発生すると言う酷いオチだったわ。
3
さっきのババ抜きのせいで沙紀は不貞腐れて、下着姿のままソファーの上で横になって、眠ってしまったわ。
「そんな格好で寝ると、風邪引くわよ」
「う~ん……」
「しょうがないわね、希、毛布持ってきてくれる」
「はいはい、今から持ってくんよ」
起こしても一向に起きる気配もないから、希に頼んで毛布を持ってきて貰い、それを受け取って沙紀に掛けてあげる。
「ホント、手間の掛かる子供みたいね」
普段の騒がしさを知ってるからそうと思えるけど、寝てる姿は本当に子供のような無邪気な寝顔を見てると、余計にそんな風に思えるわ。
「フフフ、そうしてるとエリチ、お姉さんみたいやん」
「みたいって……私本当に妹が居るの希知ってるでしょ」
「そうなんやけど、まあただの例えや、気にしなくていいんよ」
特に深い意味が無さそうだから、私は希の言葉を気にせず、椅子に座ると、希が飲み物を用意してくれてたので、それを飲んで、ホッと一息つく。
「それにしても沙紀って、ここでは何時もこんな感じなの?」
「大体こんな感じや、でも今日と言うよりも昨日の夜からちょっと激しいかな」
「昨日の夜からって何かあったの?」
「さあ? 昨日、夕方ぐらいからにこっちと花陽ちゃんとライブに行ってきたことは知ってるんやけど、何があったのかは教えてくれないんよ」
にこと花陽と出掛けてからとなると普通に考えて、二人と何かあったって考えるのが妥当だけど、その場合は沙紀は落ち込んでると思うのよね。
演技してない沙紀は仲が良い相手と何かあると落ち込みやすい子で、それを隠せないから、何時もより激しくなることは有り得ないわ。
逆に良いことがあったとしても、激しくなるじゃなくて、にやけたり、照れたりする事の方が多いから多分違うと思うわ。
それらじゃないとなると──
「多分何かのきっかけで昔の事でも思い出したと思うんや」
「そうよね、沙紀が気丈に振る舞うのって、そのくらいしか思い付かないわよね」
アイドル時代──星野如月として活動してた時のこと。
詳しくは沙紀が教えてくれないから、何があったのか知らないけど、沙紀にとっては辛いことが多かったって聞いてるわ。
「委員長ちゃんって……自分のこと誰にも頼らない癖に、他人に頼られると引き受けちゃうと言うか、断れないんところあるんや」
「そうね、現に今も色々と引き受けちゃって、多くの仕事同時にやってるわけよね」
クラス委員、μ'sのマネージャー、生徒会に、それに学園祭実行委員何れも誰かから引き受けてやってるわよね。
本人も大変だとは思っていても引き受けたからには、キッチリとこなそうと、真面目にやってるわけだけど。
「けど、沙紀の気持ちって何となく分かるのよね」
私も生徒会に入ったのは自分の意志だけど、生徒会長をやったのは回りから推薦でそれで引き受けた所があるけど、それでも推薦されたからにはそれに答える必要があると思って、真面目に生徒会長をやってたわ。
でも結局真面目になりすぎて、回りが見えなくなって、空回りしちゃったけど。
沙紀もアイドル時代の時に同じような経験をしてるって言ってたわ。
だから私の事、止めようと裏で動いてくれて、最後には止まることが出来たわ。
「エリチと委員長ちゃんって、ちょっと似てるところあるんよね、だから思うんよ、今の状況って、一歩間違えば委員長ちゃんがエリチと同じ状況になるんやないかって」
「それって……」
そんなことあるわけないでしょ。だって昔似たような事をしたって沙紀が自分の口で言って、同じようになりかけた私を止めようとした沙紀なのよ。
わざわざ同じ過ちを繰り返すような真似をするとは思えないけど……何故か私は断言出来なかったわ。
それは私が沙紀と何となく似てるからだと思う。
仮に私が沙紀と同じ状況になったら、多分何れも真面目にキッチリとこなそうとすると思うわ。どの仕事も責任を感じてやって、上手くいかず最終的に空回りしてしまいそう。
「にこっちは委員長ちゃんに余計な手を出すなって言うんやけど、委員長ちゃんやって人間やし、何処か見落とすかもしれないやん」
そうよね。いくら沙紀でも人間だからミスはあると思う。それは仕方ないとことだと思うわ。何事も完璧に出来る人なんてきっと居ないわ。ただ問題は……
「希が心配してるのは、その見落としたのが沙紀にとって、致命的なものだった場合よね」
「そうや、特にμ's関係やにこっちに関わることが一番心配なんやよ」
今の沙紀が一番やりたいのとは好きな人の笑顔を見ること。それはμ'sのメンバーのことだと言うことは知ってる。
特ににこに関しては言うまでもないくらい慕って、毎日のように告白まがいな事をしてるわけだから、沙紀にとってそんな大好きな人が、悲しむような姿は一番見たくないはず。
もし、そんなことになったら責任感の強い彼女の事だから、きっと自分の事を責めるに違いないわ。
「そうね……私たちがしっかりみんなのこと見てないといけないわね」
「そうやね、こういうことはみんなが気にしておくのが、一番やからね」
先輩後輩はなくしたけど、三年生としてみんなのことはちゃんと見てないといけないわよね。それにまだ廃校の件やラブライブに出場して、沙紀と沙紀の親友を会わせて仲直りさせなきゃいけないわ。
「う~ん……可愛い……女の子がいっぱいだぁ~」
そんな風に意気込んでいると、ソファーの方からちょっと気の抜けた声が出てきて、思わず私と希は笑ってしまったわ。
「全く沙紀はこういうことはぶれないわね」
「でもそういうところは委員長ちゃんの良いところやろ」
「そうね」
もし何かあってもみんなで乗り越えれば、きっとそれは問題ないわ。だってみんな大切な仲間なんだから。
はい、今回はエリチこと、絵里が語りでした。
何やらとても不穏な事を言って、フラグを立ててますけど、一体どうなることやら。
そういうわけで何か感想などありましたら気軽にどうぞ。
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