ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー 作:タトバリンクス
今年最後の投稿です。
それではお楽しみ下さい。
1
秋葉の路上ライブから数日が経って、何時ものようにラブライブ出場に向けて練習をしようと、私は屋上に出ると、外はとても暑かったわ。
「暑い……」
「そうだね」
「これは私もキツイ……」
私がダルそうに呟くと、一緒に屋上に出てきた穂乃果と沙紀も私と同じように暑さにやられてダルそうにする。
「ってゆうかバカじゃないの!! この暑さの中で練習とか」
何もしないで少し外に出ただけで、汗もかなり出てきたし、こんな暑さじゃあ、少し踊っただけで熱中症になって倒れるわよ。
それよりもこんなに暑いと、ラブライブ出場まで時間はないけど何もやる気が出ないわ。
「そんなこと言ってないで、早くレッスンするわよ」
「は、はい……」
絵里が少し厳しい感じで言うと、花陽は少し怖いのか凛の背中に隠れながら返事をしてた。
「花陽これからは先輩も後輩もないんだから……ねっ」
「はい……」
そんな花陽の様子を見て、絵里は自分が怖がらせてしまったのに気付いて、優しそうにそう言うと、花陽は凛の背中から出てくる。
絵里は先輩後輩はないと言うけど、花陽からしたらやっぱり上級生、それに生徒会長だからつい緊張とか怖がったりすると思うわ。
二人のやり取りを見て、そろそろ練習を始めようとするのだけど、やっぱり、暑いなか練習するのは嫌なのか、誰も屋上に行こうとはしない。
「そうだ、合宿行こうよ」
そんな様子が続いたなか、横で穂乃果が急にバカな提案をした。
「はあ? 何、急に言い出すのよ」
「あぁ~こんな良いこと、早く思い付かなかったんだろう」
私の言葉は耳に入らず、自分はとってもナイスアイデアを出したかと思ってテンションが上がってる穂乃果。
「合宿かぁ~面白そうにゃ~」
「そうやね、こう連日炎天下で練習だと体もキツイし」
「場所を変えるのは、練習も気持ち的にも新鮮味があるからね」
穂乃果の突然の提案に割りと乗り気な反応が多かった。
「でも何処に?」
「海だよ、夏だもん」
「海──つまりみんなの水着姿が見れる!! 良いね!!」
海未の疑問に穂乃果が海と答えると、別の意味でテンションを上げてるのが居るけど、みんな敢えてスルーしている。
「費用はどうするんです」
「それは……」
費用について聞かれると、穂乃果は表情が固まる。その様子だと、費用については何も考えてないみたいわね。
海未の言う通り、みんなで合宿するんだから何処か泊まらなきゃいけないけど、当然お金も掛かってくるし、そこまでの交通費もあるわ。
いやそこは部費で何とか言いたいところなのだけど……ほら、それは……ちょっと私が……アイドル必要資料として……。
そんなわけで
そんなことを心の中で少し申し訳なく思ってると、突然穂乃果はことりの手を引っ張っていった。多分、穂乃果が考えてることは大体分かるんだけど。
「ことりちゃんバイト代何時入るの?」
「えぇ~!!」
「ことりを当てにするつもりだったんですか」
「違うよ、ちょっと借りるだけだよ」
いや、いくらなんでも幼馴染だからと言って、十人分の費用を借りようとかするのはどうかと思うわよ。
「なら沙紀ちゃんは? 沙紀トップアイドルだったんだからいっぱいお金持ってるんじゃない?」
「えぇ~!! 今度は私!?」
ことりがダメだったから今度はお金を持ってそうな沙紀に標的を変えて頼もうとする穂乃果。流石の沙紀も急にお金を貸してと言われてビックリしてる。
「確かにお金は印税でかなり稼いで殆んど貯金してるから持ってるけど……」
「おぉ~!! 流石はトップアイドル」
そうよね、変態だからよく忘れるけど、こいつ元売れっ子トップアイドルなのよね……。ん? 何か今、こいつさらっとヤバイこと言わなかった。
「ちょっと待って……あんた……今印税って言ってなかった?」
「言いましたけど?」
「そう……なら良かったわ……」
そっかそっか印税で稼いでたのかなら納得よね……。
「えぇ~!! 印税って!!」
あまりにも予想外のことに私はワンテンポ置いてから驚いた。
「すごい沙紀ちゃん、でもどうして? アイドルなのに」
「写真集とか結構出してたから……それで……」
「あぁ……そういえば出てたわね」
「それ私買いました!!」
私が写真集を出ていたことを思い出すと、話を聞いてた花陽もやっぱり買ってたみたい。
私も買ったわ、星野如月の写真集。それも鑑賞用、保存用、布教用で三冊も。
「なら大丈夫だよね」
取り合えずお金を持ってることが分かった穂乃果は沙紀にお金を借りようとすると、沙紀はちょっと困った顔をする。
「え~と……その……言いにくいけどちょっと無理、ごめんね、これ私の生活費だから」
そういって申し訳なさそうに穂乃果に謝る沙紀。
それはそうよね。こいつバイトしてる様子のないし、他にお金を稼ぐ手段があるとは思えないし。それに沙紀の家庭環境を考えれば……。
「そっか、なら無理に頼めないね」
沙紀の雰囲気から流石にそこは空気を読んだのかお金を借りるのを諦める穂乃果。
生活費ねぇ。そういえば何だかんだ沙紀と一緒に居るけど、こいつがどんな暮らしをしてるのか知らないのよね。
「そうだ、真姫ちゃん家なら別荘とかあるんじゃない?」
ことり、沙紀とお金を借りれないと分かると穂乃果は、次はお金持ちである真姫に相談しようとする。
いくら真姫の家がお金持ちだからって、流石に別荘とか持ってるわけないわよね。
「あるけど……」
あるの!? お金持ちだって聞いてたけど、別荘を持ってるレベルのお金持ちだったなんて、沙紀と同様羨ましいわ。
「ホント!! 真姫ちゃんお願い~」
「ちょっと待って、なんでそうなるの!?」
別荘があると分かると、すぐに穂乃果は真姫の肩を掴んで別荘を使わせて貰うおうとおねだりをすると、真姫は急に触られて驚く。
「そうよ、いきなり押し掛ける訳にはいかないわ」
「そう……だよね」
絵里に正論を言われて、穂乃果は少し悲しそうな顔をして真姫から離れる。
穂乃果が真姫から離れると、完全に合宿するモチベーションだったから、何となく他のメンバーも口にはしないけど、目で別荘を借りられないのか訴えるような雰囲気を出してる。
「仕方ないわね、聞いてみるわ」
そんな雰囲気を察して、折れたのか少し溜め息をしてから別荘を借りれるか頼んでくれるみたい。
「ホント!!」
「やったにゃ~」
合宿が出来るかもしれないと喜ぶ私たち。私も海で遊びたかったから、思わずテンションが上がってくる。
取り合えず今度新しい水着を買いに行かなくっちゃね。この私の美貌をみんなに見せつけるわよ。
「合宿……水着……お風呂……寝顔……フフフ……」
何か近くでとっても不気味なほど別の意味でにやけるやつが居るけど……うん、どうせ何時もみたいに自爆するからほっとくわ。
「そうだ、これを機にやってしまった方が良いわね」
そんな風にみんながテンションを上げてるなか、絵里が何か企んでるのに私は何も気にしてなかった。
2
そうして真姫の家の別荘が借りれることが決まり、各自合宿に向けて準備をしていると、あっという間に合宿当日になったわ。
「えぇ~!! 先輩……禁止!?」
集合場所の駅でみんなが揃うと、穂乃果は絵里の突然の提案に驚く。
「前から気になってたの、先輩後輩はもちろん大事だけど、踊ってるときにそういうこと気にしちゃ駄目だから」
「そうですね、私も三年生に合わしてしまうところがありますし」
絵里の言いたいことは分かるわ。練習中も本番も海未が言ってたようにそんな雰囲気は感じるのだけど……。
「そんな気遣い全く感じないんだけど……」
何と言うか私には上級生として周りから敬われたことが、穂乃果たちが入ってからの最初の頃にしか感じてないのだけど。
いや、一人私のことすごく敬ってるのが居るけど、あれは最早別の次元だし。
「それはにこ先輩は上級生って感じじゃないからにゃ~」
「上級生じゃなきゃ何なのよ」
下級生の凛にそんなことを言われるなんて、一体こいつ私のことホントどう思ってるのよ。
「後輩」
「ってゆうか子供」
「マスコットかと思ってたけど」
「どうゆう扱いよ」
後輩と子供は分かる。確かに私は背は低いけど、流石にそこまで言われる筋合いはないと思うけど、それよりもマスコットって何よ。全く意味が分からないわ。
取り合えず分かったのは私のこと全くこれぽっちも上級生として(さらに同級生まで)敬ってないってことよ。
「そうだよ!! みんなにこ先輩を軽く見すぎだよ!!」
みんなが私の事を散々に言ってるのを聞いて、やっぱり我慢出来なかったのか、沙紀が大きな声を上げる。
何時もは鬱陶しいレベルで私の事を敬ってくる沙紀だけど、周りに誰も敬ってくるくれる人が居ないからこういうときにはホント頼もしいわ。
「そうよ、あんたなら分かってくれると思ってたわ、言ってやりなさいにこの素晴らしさを」
「にこ先輩は後輩でも子供でもマスコットでもなく、まさに神」
「そうよ、そうよ──ん?」
この雰囲気ヤバイ感じがするのは、私の気のせいかしら。
「安易に例えるのなら女神ヴィーナス、いや、最早神に言葉は不用、美しさと可愛さを超越した概念そのもの」
まるで教会で神に崇める信者のように手を重ねながら、どう言ったらいいのか分からないけど、何もかもおかしいレベル。
「うん、とりあえず沙紀ちゃんの愛がもうとっくに歪んでることが分かったよ」
「怖いにゃ~」
「一先ず警察に通報しておく、何かする前に」
「まあ、にこっちが責任とって委員長ちゃんの面倒見るしかないなぁ」
「ホント、にこ……沙紀に何したのよ」
沙紀のその姿にその言葉にみんな完全に引いてる。それどころか、私が何か悪いみたいなってるだけど。
「違う──私はこいつに何もしてないから勝手に言ってるだけだから」
「酷い、私の初めて全部奪っておいて勝手にだなんて……」
「また誤解される言い方を……」
あれ? おかしいわ。私が上級生として素晴らしさを言ってもらおうしてたはずなのに、逆に私の立場がどんどん危うくなってるんだけど。
「誤解も何もありません、髪の毛の一本一本から足の爪先まであなたの物です❤」
よしっ、黙らせるために一回殴っておこう。
そうして私は何時ものように沙紀に一発入れて、一応事態を(無理矢理)終わらせた。
「……じゃあ、さっそく今から始めるわよ、穂乃果」
若干戸惑いながら話を最初に戻す絵里。何と言うかごめんなさい。私は気絶して倒れてる沙紀を踏みつけながら、心の中で思っておく。
「えっ? 何だったっけ?」
沙紀の暴走で話がかなりずれて話そのものを忘れてる穂乃果。
「先輩禁止って話よ」
「はい、良いと思います、え、絵里ちゃん」
「うん」
恐る恐る絵里をちゃん付けで呼ぶ穂乃果に、絵里は笑顔で返事をした。
「ん~何か緊張」
まあ、今まで先輩って呼んでいたから後輩たちの緊張感は半端ないと思うけど、ここは上級生であるにこが心を広く受け入れてあげるわ。
「じゃあ凛も」
「ことり……ちゃん?」
「はい、よろしくね凛ちゃん、真姫ちゃんも」
「えっ!?」
凛に返事をしたと思ったら、急にことりから振られて恥ずかしそうに戸惑う真姫。
「べ、別にわざわざ呼んだりするもんじゃないでしょ」
恥ずかしいのか意地っぱりなところもあって、話を逸らしてことりをちゃん付けで呼ばなかった。
「では改めて、これより合宿に出発します、部長の矢澤さんから一言」
「えっ!? にこ?」
突然、自分に振られて戸惑う私。一体何を言えばいいのと思いながらみんなの中心まで歩き、メンバー全員から注目される。
「え……しゅ、出発~」
「それだけ?」
「考えてなかったのよ!!」
いきなり振られるとは思っても見なかったのよ、仕方がないじゃない。
「全くそれではダメですよ!!」
「うわっ!! ビックリした、ってか復活はやっ!!」
気絶してたと思ってた沙紀が急に起き上がって、さっきの私の一言にダメ出しをする。
「トップアイドル足るもの常にどんなアドリブ、どんな振りに、鮮やかにこなせなければなりません」
「何と言うか本物のトップアイドルが言うから説得力がある……」
あぁ、そうだ、こいつ星野如月だったからマジで説得力がある。ってか星野如月ってアドリブ強かったっけ? 確か基本冷淡な感じだったからイメージ全くないんだけど。
「なので!! この合宿中に私がにこ先輩に何かアドリブ、何か振りを何処かで仕掛けることにしました」
「ちょっと待って、聞いてないわよ」
「はい、今思い付きましたから」
一体、私は何をされるのよ。沙紀はやると言ったら確実にやる子だから、今日と明日を乗り越えなければならなくなってしまった。
そうして、沙紀は私にこの合宿中に何か仕掛けると宣言をして、波乱の合宿が、いま幕を開けようとしていた。
3
私だけ何が起こるか分からない完全ドッキリ合宿と化して、電車に乗り込んで、合宿先の真姫の別荘にみんなワイワイと騒ぎながら、楽しそうにお喋りをしてる。
そんな光景を見ながら私はこれから起こるであろう何かに怯えながら──
「はい、にこ先輩、あ~ん」
沙紀が作ってきたお弁当を何時ものように食べさせられようとしていた。
「だから自分で食べられるわよ!!」
「え~、だって私にこ先輩の専属奴隷ですし、にこ先輩のお世話は私の仕事と言いますか、使命と言いますか」
「しなくっていいから、あとまたさらっと変なこと言わなかった!?」
何か専属奴隷とか全く聞いたことない単語が出てきた気がするけど、完全に気のせいじゃないわね。
「言いましたけど何か?」
「曇りのない瞳で……ストレートに……もうちょっとは言葉を選びなさいよ」
私は呆れながら沙紀からお弁当を取って、彼女が作ってくれたお弁当を食べ始める。せっかく私の為に作ってくれたのだから、食べないのは勿体無いわ。
しかし、相変わらず沙紀が作ってくれたお弁当はおいしい。私の好みに合わせて味付けしてるし、ちゃんと栄養がバランス良く摂れるようにおかずも選んであるわ。
ホント、こいつ普通にしてれば美人だし、何でも出来るから無敵なのに……。
「そういえば、みんな先輩後輩止めるって言ってるんだから、あんたも止めなさいよ」
「えっ? マネージャーの私も対象なんですか」
「そりゃ、そうでしょあんたも部員なんだから」
あまりにも何時ものようなノリでやってたから忘れたけど、みんなでそう決めたんだから、一人だけやらないのは、ダメだと思うわ。
「まあ、確かにそうですけど……」
沙紀は納得はしてるけどとても抵抗がある感じを出していた。変ね、何時もなら普通に勢いでやりそうな感じなのに。
「それでは……にこ……ちゃ……」
そんなことを思いながら沙紀は私のことちゃん付けで呼ぼうとすると、突然、パッチンと何か叩く音がした。
「あんた──何してるの!?」
私は沙紀に向かってそう心配した。何故ならこの子は私の事を呼ぼうとしてたら、突然自分で自分に向かって思い切りビンタをしたのだから。
「何でもありません、気にしないでください」
私が心配すると、何も無かったかのように何時もの感じで答える沙紀。けど、その沙紀の頬は少し赤くなったし、何となくだけど、僅かに震えてる気がした。
「やっぱりにこ先輩のことはちゃん付けでは呼べません、私にとってにこ先輩は神ですから」
その言い方だと、希と絵里は普通に呼べるみたいな言い方だけど……元々希はお姉ちゃんって呼んでたわね。
「それとも先輩が駄目ならにこ神様って呼びますよ、私はこっちの方が良いです」
「流石にそれは勘弁してほしいわ」
人前で自分の事を神様とか呼ばれるなんて、羞恥プレイにも程があるじゃない。
「なら良いわ、無理に呼ばなくって絵里には私が言っておくから」
この子が何故私にだけちゃん付けで呼べないのか、理由は全く分かんないけど、辛そうな感じで呼ばせるのは違うと思うから。
「ありがとうございます、愛してますにこ神様」
「だからそれは止めなさいよ!!」
ホント、こいつはわけ分かんないわね。けど、やっぱりそれが良いわ。意味分かんなくっても沙紀が笑ってくれないと、ここに入れた意味がないから。
「それにしても楽しみです、みんなで合宿」
「そう?」
「学校の部活でみんなで何処か行くなんて、私すっごく楽しみにしてたんですから」
そういう沙紀の顔は、本当に楽しみにしてるのが見て分かるくらい、いい笑顔をしていて、思わず私は沙紀に見とれていた。
「もしかして、私の笑顔に見とれちゃってました?」
私が沙紀の顔をじっと見ていたことに沙紀は気付いて、そんな風にからかってくる。
「べっ、別にそんなんじゃないわよ……」
私は照れ隠しで窓の方を向いて、沙紀のお弁当を食べながら視線を逸らす。
「照れちゃってます? 照れちゃってます? 照れてるにこ先輩も可愛い」
からかうネタを見つけたから弄り倒そうとする沙紀。鬱陶しい感じはするけど、沙紀のこのノリは嫌いじゃないだけど、やっぱり鬱陶しい。
「ゆっくりお弁当を食べさせなさいよ!!」
電車の中の雰囲気はそんな感じで、私たちは合宿先に向かうのだった。
3
電車で長い時間移動してそれから駅を降りて、真姫に案内されながら歩いていると、目的地である真姫の別荘に着いた。
『おぉ~!!』
真姫の立派な別荘を見て、私たちは驚きの声を出した。
「すごいよ真姫ちゃん」
「流石はお金持ちにゃ~」
「そう? 普通でしょ」
「まあ、取り合えずお約束として……真姫ちゃん結婚しよ」
みんなが驚いてるなか、沙紀は真姫の両手を握りながらまっすぐ真姫の瞳を見て、アホなことを口にした。
「何でそうなるの!!」
「えっ? だってお金持ちキャラがidentityを見せたらこれやって返すのが普通でしょ」
まあ、何となく沙紀が言いたいお約束は分かるけど、それダメな異性がやるもんじゃないの。あっ、でも沙紀は百合だから言っても問題ないのかしら。
「何処の世界の普通よ!!」
どうやらそのお約束を真姫は理解して無かったみたいで、無粋なツッコミを入れる。だけど、真っ直ぐ沙紀に見つめられたせいなのか少し顔が紅い。
「あれ? もしかして本気にさせちゃった? 良いよ、私は真姫ちゃんみたいな可愛い娘は何時でもwelcomeだよ」
真姫の顔が紅いのに気づいた沙紀は、握っていた彼女の両手を離して、抱き付こうとする。
「そんなんじゃないわよ!!」
「アフッ!!」
抱き付こうとする沙紀に、真姫は反射的に頭にチョップを入れると、何時ものように沙紀は叩かれた頭を抑える。
真姫の別荘に入る前にそんなやり取りがあったけど、私たちは中に入って、荷物を一先ず真姫に案内された個室に置き、別荘の中を見て回る。
外から見ても立派だったけど、やっぱり中も羨ましいくらいにとても立派だったわ。
「このキッチンにある調理器具良いものばかりだね」
「うん、見たことない道具もたくさんあるよね」
「そ、そ、そうね……ホント羨ましいわよ」
私と沙紀とことりは料理する機会も多いから、何となくキッチンの方に足を運んでみると、そこにあったのは高そうな調理器具ばかり。
他の物じゃああまり実感は湧かなかったけど、身近でよく使う道具が良いものばかりだと、真姫が本当にお金持ちだと実感してしまうわ。
羨ましいわ。けど私だって何時かはそこにいる沙紀みたいにCDバンバン出して、大きなライブをいっぱいやって、写真集とか出して豪勢な生活をしてやるわ。
「そう? 多分良いものだとは思うけど、よく分かんないわ、料理人が選んだ物だから」
「り、料理人!?」
そんな風に決意してると、真姫が話を聞いていたのか、そんなことを口にするけど、何かとても聞き捨てならない単語が聞こえたわ。
「そんな驚くこと?」
「驚くよ~、そんな人が家に居るなんてすごいよね」
「そうだよ、普通そんな人居ないって」
私が料理人が居ることに驚いた事がイマイチ理解できてない真姫に、ことりは普通に驚いて、沙紀もことりと同じ反応をしてる。
「へぇ~真姫ちゃん家もそうだったんだぁ、にこ家も専属の料理人居るのよね」
二人が驚いてるなか、最初に驚いて手遅れかもしれないけど、後輩に負けた気がするから見栄を張って、ついそんな嘘を付いてしまう。
「だからにこ全然料理したことなくって~」
よくよく考えてみたら、こんな嘘を言ったってまたに家に遊びに来る沙紀が居るから騙せないんじゃない。
「えぇ~!! にこ先輩もそうだったなんて」
「にこに~でしょ」
「えっ?」
「にこ先輩じゃなくって、にこに~」
ことりは純真だったから騙せたけど、私に先輩を付けて、先輩禁止を忘れてたからそこを注意する。
「あっ! そうだね、にこちゃん」
ことりは言われて気付いたのか、すぐに直すけど、やっぱりそう簡単には良い慣れた呼び方は直らないわね。何だかんだで三ヶ月くらいは呼んでたし。
「でもホントににこちゃんも料理人が居るなんてすごいよね」
うっ、何か話が戻ったわ。どうしよう、このまま続けるとボロが出るわ……。そんな風に困ってると沙紀が突然、笑いだして──
「フフフ、何を隠そう私が専属料理人なのです」
幾ら何でも無理がある嘘を言った。イヤ、流石にそれは無理あるでしょ。確かにあんたはたまにお昼にお弁当を作ってくれるけど。
「そうだったの!?」
えぇ!! 騙されちゃってるよこの子。何をどうしたら騙せるのよ。
「私のレシピには何か知らないけど授かった料理の数々が記されてる」
「何だかよく分かんないけどすごい」
ホント、何だかよく分かんないわよ。何? 知らないけど授かった料理の数々って逆に怖いわ。どんな料理よ。
「でもそれって、沙紀ちゃんとにこちゃんの場合だと恋人同士の関係だよね」
「はっ?」
何を思ったのかことりはとんでもない爆弾発言をして、私はキャラとか見栄とか関係なく、素で反応してしまった。
「何で私とこれだと恋人同士の関係なるのよ!!」
「えぇ~、だって沙紀ちゃんとにこちゃんってことりたちから見たらそう見えるよ」
「流石は私のソウルフレンド分かってる」
そう言って沙紀とことりは熱い握手を交わす。あんたたちいつの間にそんなに仲良くなったのよ。それよりも明らかにネタ仕込んでたでしょ。
「まあ、私はにこ先輩の専属奴隷でもあり、専属料理人兼良妻ですし、そう見えるのは仕方ないですよね」
「いやいや、見えないから。あと兼任したらおかしい物が混じってるわよ」
だから何よ専属奴隷って、奴隷は職業じゃないから。全く違うから。
「はぁ~、バカらしい、こんな所まで来て夫婦漫才見せられるとか、私向こう行ってるわ」
一部始終見てた真姫は呆れた顔をして、その場を離れようとする。
「だから違うわよ、あとあんたも爆弾発言をするんじゃないわよ!!」
私はそう叫ぶけど、既に真姫の姿はなく、さっさと何処かに行ってしまった。
「そんなわけで今夜は熱い夜ですね」
「──何がそんなわけよ、意味が分かんないわよ」
「本当に二人は仲良いね、幸せに~」
真姫は居なくなって、私の周りには誰一人味方が(元から一人も居なかったけど)居なくなり、なかなか酷い状況になってる。
「みんな、そろそろ準備をして玄関に集まって」
遠くから絵里の救いの声が聞こえてくる。多分、今から海で遊ぶのね。今が逃げるチャンス。
「ほら、絵里が呼んでるわよ、今から準備するわよ」
私は海で遊ぶ気満々だったから既に下には水着を着てるし、このまま絵里の所まで直行すれば、逃げられる。
「そうだね、私も着替えてくるね」
ことりは水着を着てなかったみたいで、その場から離れて着替えに行く。ことりならそうだろうと思ってたわ。これが穂乃果や凛だったら、私と同じように着てきたと思う。
「分かった、またあとで──では、にこ先輩行きましょう」
そう言って沙紀は私と手を繋いで(しかも恋人繋ぎで)私と一緒に着替えに行こうとする。
「にこは水着着てあるから、あんた一人で行ってきなさいよ」
「まあまあそんなこと気にせず、私の水着を最初ににこ先輩に見てもらおうかと思って」
そう来た!! 完璧に沙紀のやってることが好きな子にやるような事じゃない。うん、こいつだけ見れば恋人同士に見えるわ。
「それではレッツゴーです」
何処か納得した私の事を気にせず、沙紀はそのまま私を引っ張って、彼女の着替えをまさかの終始見せられる羽目になった。
4
沙紀の着替えを見せられて、玄関の前に集まると、私は近くにあった柱の所で落ち込んでいた。
「どうしたの? にこちゃん?」
「何でもないわよ……今は一人にして……」
落ち込んでいた私に気付いた穂乃果は心配してくれるけど、私は自分よりある穂乃果の胸を見て、更に落ち込む。
「一体何があったのかな、知ってる沙紀ちゃん?」
「いや、特に?」
何か落ち込んでる理由を知ってそうな沙紀に穂乃果は聞くけど、沙紀はよく分かってない表情をしてた。
「それじゃあみんな注目」
そのまま一人で落ち込んでると、いつの間にか全員集まっていて、沙紀が自分の方を見るように声を掛ける。
「とりあえず今からだけど……練習のつもりだったんだけど……」
「──えっ? 普通に練習するつもりだったの?」
沙紀の練習って言葉に反応する穂乃果。私も練習じゃなくて遊ぶ気満々だったからちょっと驚いてる。
練習って言われて周りをよく見たら、私と穂乃果と凛以外普通に練習着だった。沙紀も水着は着てるけど、上にTシャツ着てる。
「えぇ~せっかく海に来たんだから凛は遊びたいにゃ~」
「うん、それは分かってるよ、私だって遊びたいし、みんなも遊びたいと思うから軽く練習してそれから遊ぼうと思ったけど……」
沙紀ならその辺もきっちり汲んでやってくれるだろうと思ってたから、練習って言われてもそんな多くやらないと思う。でもさっきからどうも歯切れが悪い話し方をしてるような。
「まあ、とりあえず──海未ちゃん交替」
「はい」
よく分からないまま沙紀は、突然、海未と進行を交替して、海未から大きな貼り紙みたいものを受け取る。
「ホントにこれやるの?」
「勿論です」
受け取った貼り紙を自分だけ見えるように沙紀は広げて、海未に何かを確認する。
「沙紀に代わって今回は私が練習メニューを考えました」
「ゲッ、海未ちゃんが……」
「何か言いましたか穂乃果」
「ううん、何でもないよ」
海未が練習メニューを考えたと言うと、穂乃果が露骨に嫌そうな顔をしてた。
「何で今回は何時もみたいに沙紀ちゃんじゃないの」
ことりが珍しく沙紀が練習メニューを担当してないことに疑問に思って、そんな質問する。みんなもうんうんと頷いて、その理由を知りたいみたい。
「それは……ここ最近ちょっと忙しくって……」
「沙紀はクラス委員に部活、生徒会、学園祭実行委員と最近は特に多忙なので、私が代わりを買って出ました」
「そういえば委員長ちゃん、最近部活出れない日が多かったね」
「そうね、休み時間も別の仕事してる姿をよく見るわ」
こいつ元々多忙なのに、学園祭実行委員まで押し付けられたんだっけ。それなら確かに忙しくて練習メニューを考える暇とかないと思う。
けど、沙紀本人は一番にここを優先すると思うのに考えないのは、変ね。絶対真っ先に練習メニューを考えそうなんだけど。
「私からしたら真っ先に考えようとしてたんだけど、海未ちゃんがね」
「丁度沙紀から色々と練習メニューについて、指導して貰ってましたから、実際に考えてみたいと思ってたので」
どうやら何故か海未と練習メニューについて色々と教えみたいで、そのときに今回の合宿の練習メニューを作りたいと言い出したみたい。
なるほど大体事情は分かったわ。それにしても大変よね。沙紀も色んな仕事を押し付けられて。大丈夫なのかしら。
「そんな経緯もありまして、これが合宿での練習メニューになります」
沙紀が練習メニューが掛かれると思われる貼り紙を壁に貼ると、海未が今回の合宿の練習メニューをノリノリで発表する。
「おぉ~」
「すごい、こんなにビッシリ」
紙いっぱいにデカデカと大きく書かれた練習メニューにみんなが驚きの声を出した。と言うより何か色々とヤバイ書かれてない!?
「って海は!?」
「えっ? 私ですが」
今のは何。ボケなのそれとも素なの。どっちなの。
「そうじゃなくって、海だよ、海水浴だよ」
「あぁ、それならほら」
穂乃果にそう指摘されて気付いた海未は笑顔である部分を指差す。そこには──
「遠泳10キロ……」
「そのあとランニング10キロ」
何この地獄の特訓メニュー。絶対に死んじゃうわよ。
「最近基礎体力を付ける練習が減ってます、せっかくなので、ここでみっちりとやっといた方が良いかと」
「それは重要だけど……みんな持つかしら」
絵里は海未が言いたいことは分かってるけど、流石にこのメニューはキツイだろうと思って、遠回しに止めた方が良いと言ってるので、私たちは全力で頷く。
「大丈夫です、熱いハートがあれば」
ダメだ。全く聞こえてないわ。海未は変な方向へ飛んでいってる。その証拠に何時もより目がキラキラしてる感じがするし。
「やる気スイッチが痛い方向へ入ってるわよ、何とかしなさい、とゆうか何とか出来なかったの」
私たちは集まってこの練習を回避するためにこそこそと話し合う。
絶対このレベルなら沙紀が止めるレベルでしょ。何でこんなのが野放しになってるのよ。
「私も今日初めて確認して、多分みんな嫌がると言ったんですよ、けど……」
「けど何よ」
「海未ちゃん……練習を娯楽とか何かと勘違いしてるレベルで私の手には負えなかったんです」
「沙紀ちゃんが手に負えないって、ダメなレベルにゃ~」
「海未ちゃん昔から真面目な所があったから……」
真面目で済むレベルじゃないでしょ。こんなのに巻き込まれたら私たち確実に生きてここに戻れないわよ。
「仕方ない、教え子の不始末は私が付けます」
そう言って沙紀は何か決意して、三つ編みをほどいてから海未の方まで歩いて目の前まで行くと、海未の顔の横でドンっと右手を壁に付ける──所謂壁ドンを、沙紀は海未にした。
あいつ、バカでしょ。海未に対して前科が有りまくりなのに壁ドンなんて。
「ねぇ、私……海未の水着が見たいわ」
「えっ……そんなこと急に言われても……」
突然、何時もより声が低くクールな感じで喋る沙紀に、戸惑う海未。ここからじゃあよく見えないけど、何となく満更でもないような顔をしてる気がする。
「急にじゃないわ、私、前からずっと見たいなって思ってたのよ」
そう言って沙紀は海未の髪とか肌に触れ始める。これは……あとで調子に乗って何時ものを貰うパターンね。
「今のうちに海に行くわよ」
「うん、そうだね」
「沙紀ちゃんの犠牲は無駄にしないにゃ~」
そうして私たちは海未が沙紀に気を取られるうちに、花陽とことりを連れて、海の方へと逃げ出した。
そうして私たちは待ちに待った海に辿り着くと、そこには私たちの目の前には青い空、白い砂浜、そして綺麗な海が広がっていた。だけど、私たちは誰も遊ぶ気にはなられなかった。
「ついに……にこたちは自由を得たのね」
「うん……だけど……」
「それを手に入れるために……沙紀ちゃんを……」
「えっ? えっ!?」
ここまで来るのに、私たちは沙紀を囮にしてしまったことに、深い悲しみしか覚えてない。そんな光景を見てた花陽がすごく戸惑ってる。
「そうだ、ここに沙紀ちゃんのお墓を立てるにゃ~、大好きな女の子の水着が何時でも見られるように」
凛はそんな提案をすると、私はとてもいいアイデアだと思った。ずっと女の子水着が見たいって言ってたから、その願いがずっと叶うように。
「それじゃあ墓標を立てないとね、何かない?」
「あっ、それなら……はい、落ちてたアイスの棒」
「良いわね、それ」
「それで良いの!?」
私は穂乃果から落ちてたアイスの棒を受け取ると、花陽がそんなツッコミを入れるけど、気にせず今度は何か書くものがないか探す。
「はい、これ使って」
「ありがとう、ことり」
ことりからペンを受け取り、私はアイスの棒に『さきのはか』と書いて、砂浜に軽く山を作って、その上に突き刺す。
「それってペットのお墓だよね!?」
「きっと何時までも私たちの事を見守ってくれるわよね」
「うん、そうだね」
私たちはお墓の前に立ち手を合わせてから、そうして広い海を見ながらあの騒がしかったマネージャーは──
「ちょっと待って~~!! 何で死んだみたいになってるの!?」
『沙紀(ちゃん)!?』
突然、沙紀が私たちに対して大きな声でそんなツッコミを入れると、私たちは大きな声で反応する。
「良かった~生きてたんだね」
「お陰さまで、調子に乗ったら数十メートル吹き飛ばされてから階段を落下したけど……」
何だやっぱり何時ものように海未に制裁を受けたのね。でもそれでもピンピンしてる所を見ると、流石はこいつね。
「それでも色々とおかしいよ、何このお墓!?」
「それは花陽ちゃんがツッコミ入れたから」
「なら良し、ありがとう花陽ちゃん」
「えっ? あっ、はい……」
色々と沙紀は指摘したいところがあったみたいだけど、花陽がツッコミでくれたから、特に何も言わず花陽にお礼を言う。
「でも、沙紀ちゃんも来たことだし、みんなで遊ぼう!」
「じゃあ、向こうに居るみんなを呼びに行かないとね」
多分、私たちが逃げたことで海未を説得しやすくなってるはずだから、絵里辺りが説得してると思うし。
「思いっきり海を満喫しよう!!」
『おぉ~!!』
そんなわけで変なやり取りがあったけど、絵里たちと合流してみんなで海で遊ぶことに決まったわ。
「私……海未ちゃんとどんな顔をしていれば良いんだろう……」
「まあ、それは……頑張りなさい」
海未に対して、前科がまた一つ増えた沙紀に、そんな言葉を掛けるしかなかったわ。
そんなわけでボケたり、何だったりと騒がしい話でした。
でもこのあとにも水着、お風呂とか控えてる辺り沙紀のテンションも振りきっちゃいますのが目に見えてますね。
そんなわけで何か感想がありましたら気軽にどうぞ。
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それではみなさま良いお年を。