ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー   作:タトバリンクス

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ついに三章突入。

それではお楽しみください。


三章 ひと夏の出来事
二十一話 伝説のメイド


 1

 

 最近よく昔の事を思い出す。

 

 アイドル時代に──星野如月として、体験した出来事の事を……。

 

 私にとって、当時の出来事は──大切な宝物。今の私を形作る大きな転換点であり、同様に篠原沙紀にとっての汚点──最悪の失敗譚。

 

 なぜ今更ながら思い出すのか、理由は一目瞭然──μ'sのみんなと関わったからだ。彼女たちの姿はかつての私を彷彿させる。

 

 彼女たちの心の内に秘めているものは、かつて私が感じたこと、経験したことに、よく似ている。だからこそ、私は自分の失敗譚を元に──みんなが失敗しないように、行動していたつもり。

 

 その甲斐あって、お姉ちゃんの九人の女神を集める計画は概ね成功。

 

 あとはオープンキャンパスの結果がどうなるか次第で、μ'sの目的である廃校の阻止に一歩前進できれば、今回の計画は大成功といえる。

 

 ここを乗り越えればあとはラブライブ出場に向けて準備を始めればいい。

 

 やっとチャンスが来た。

 

 あの日──あの時に、誓ったにこ先輩との約束を果たすチャンスが。

 

 にこ先輩と二人っきりだった頃はまだ手の届かない夢だったけど、手を伸ばせば届く距離までに来ている。

 

 こんなチャンスを絶対に逃すわけにはいかない。例え何があろうとも、私はにこ先輩を──μ'sを、ラブライブ本選まで導かなければならない。

 

 そうしないと私がここにいる意味がない。

 

 こんな私を誘ってくれて、楽しい時間をくれて、みんなとの居場所をくれたにこ先輩に恩を何も返せなんて、私に生きる意味なんてない。

 

 あの日から失い続けて空っぽになった私には、ここしか大切なものがないのだから。

 

 そして、にこ先輩の夢が叶うのなら、最後に私は今の幸せを失う覚悟は出来てる。

 

 私はあの人が笑ってくれるならそれで満足だから。

 

 2

 

「はぁ……何でこんな面倒な事になったんだろう」

 

 放課後──一人廊下で、ちょっとした事について考えてながら、つい溜め息を溢す。

 

『白百合の委員長』として有名になっている私が溜め息をつくと、周りがざわつく心配があるけど、現在、周りには人が居ないので、その心配はしなくてもいい。

 

 周りに誰にも居なければそんな心配もないから安心して──いや安心して溜め息をつくとか、意味が分からないけど。

 

 事の発端はクラスのホームルームまで遡る。近々学園祭が行われるにあたって、クラスの中から実行委員を決めいけなかったのだけど、その実行委員をやはりと言うべきか、案の定、押し付けられてしまった。

 

 百歩譲って(あまり気は進まないけど)実行委員を引き受けるけど、何故か実行委員長という役職が(オマケで)就いてしまった。

 

 本当は断りたかったけど、私のキャラ的に断るわけには行かず、引き受けた私も悪いけど……ただ本当に面倒くさい。

 

 クラス委員に、生徒会に、部活に、学園祭実行委員。

 

 本当にバカだと思う。こんなの過労死する未来しか見えないんだけど。

 

 と言うかみんな私が色々とやってるの知ってるよね。何でこんなに私に仕事押し付けるのかな。

 

 そんなこと考えてなくっても理由なんて分かってる。どうせみんな私が完璧にこなすと思ってるから。

 

 そう周囲に思わせ続けた結果がこれだ。

 

「はぁ……」

 

 自分が蒔いた種とはいえ、流石にこれは自分に呆れて溜め息がまた溢れる。

 

 まあ、なってしまったものは仕方ない。やるしかないのだから。

 

 今のうちに計画はちゃんと練っておかないと、確実に何もかも失敗する。それだけは阻止しないと。

 

「よし!! 頑張るか」

 

 そうして自分の中で切り替えて気合いを入れると──

 

「沙紀ちゃ~~ん!!」

 

 私の後ろからとても大きくて元気のいい声がしたから振り返ると、穂乃果ちゃんがとても機嫌良さそうに、こっちへ歩いて来た。彼女の後ろには、海未ちゃんとことりちゃんが一緒に歩いている。

 

「穂乃果ちゃん、機嫌が良さそうだね、何か良いことあった」

 

「沙紀ちゃんだって分かってるくせに」

 

 穂乃果ちゃんの機嫌が良い理由は、穂乃果ちゃんが言ったように大体は予想できる。

 

 というか、絶対に今日発表されたあの件の事だと思う。あとはあれかな。

 

「そうだね、それじゃあ話の続きは部室でしようか」

 

「うん」

 

 そんなわけで私は穂乃果ちゃんと一緒に部室に向かって、そして──

 

「オープンキャンパスのアンケートの結果、廃校の決定はもう少し様子を見てからとなったそうです」

 

 部室に入ってそう説明してくれたのは穂乃果ちゃん──ではなく、先に花陽ちゃんがとても嬉しい発表をしてくれた。

 

「それって」

 

「見に来てくれた子たちが、興味を持ってくれたって事だよね」

 

「うん」

 

 廃校の決定が延期になった事を聞いて、海未ちゃんとことりちゃんが嬉しそうな反応をすると、穂乃果ちゃんも二人と同じく嬉しそうに頷く。

 

「でもそれだけじゃなくって……」

 

「そうそう穂乃果ちゃんの言う通り何故なら……」

 

『じゃ、じゃ~ん!! 部室が広くなりました~~!!』

 

『おぉ!!』

 

 私と穂乃果ちゃんは、一緒に新たに増えた部室を仲良く発表すると、海未ちゃんとことりちゃんはまた嬉しそうに驚く。

 

「くるくるくる、よかったよかった~」

 

 穂乃果ちゃんは周りにも嬉しさのあまりテンションが高く、回りながら広くなった部室に入って、中にあった椅子に座る。

 

 こんな風に部室が広くなったのは、簡単に言えば、部員が増えたってのが大きいかな。

 

 μ'sのメンバーと私を含めて10人であの部室だけじゃ狭すぎるから、生徒会に申請しに行ったら、簡単に通って、ここが使えるようになったわけだけど……。

 

 まあ水を差すと、元々ここは私がよく勝手に使ってたから、個人的には広くなった感じがしないけど、今日から堂々と使えるのは嬉しいかな。

 

「安心してる場合じゃないわよ」

 

「絵里先輩」

 

 そう浮かれてる私たちに、注意しながら部室に入ってくる絵里先輩。

 

「生徒が入ってこないかぎり、廃校の可能性はまだあるんだから頑張らないと……」

 

 全く絵里先輩の言う通り。現状は興味を持ってくれた子が多いだけで、実際に入学してくれるか分からない状態。そのため、安心するのはまだ早い。

 

「嬉しいです、まともなこと言ってくれる人が、やっと入ってくれました」

 

 絵里先輩が本当に正論を言ったことが嬉しかったのか、涙を流しながら、とても気になる発言をする海未ちゃん。

 

「それじゃあ凛たち、まともじゃないみたいだけど」

 

「本当だよ!! 私がまともじゃないなんてあり得ないよ」

 

 海未ちゃんの問題発言に私は反論すると、誰も同意してくれる人がいなかった。それどころか半分くらい視線が冷たい。

 

 残り半分は、どう反応したらいいのか分からなく苦笑いしてる。

 

「何故!? 私、性癖以外は普通のはずなのに!!」

 

「性癖は変だって認めるのね……」

 

「それはもちろん──けど好きである事は否定できないから、曝け出してるのに」

 

「その曝け出しかたがまともじゃないんです」

 

 海未ちゃんの発言にこのやりとりを聞いていたみんなは、大体その通りみたいな反応をして私は──

 

「うぅ……お姉ちゃ~~ん!!」

 

「何や!? 急に」

 

 みんなの反応に耐えきれず私は、絵里先輩と一緒に来てたお姉ちゃんの方へ抱きつくと、お姉ちゃんは急に抱きつかれて驚いた反応をする。

 

「みんなが私の事まともじゃないって……」

 

「あっ……うん、よしよし」

 

「えへへ」

 

 お姉ちゃんが私を慰めるために頭を撫でると、嬉しくて笑顔になって、もう何もかもがどうでもよくなる。

 

「相変わらず沙紀ちゃんは希先輩に甘えてるね」

 

「とゆうか手懐けてる?」

 

 私とお姉ちゃんの姿を見て、穂乃果ちゃんと凛ちゃんは思ってる事を口にする。

 

「やっぱり希先輩がそういう趣味があるんじゃあ……」

 

「そ、そういうのじゃないんや、そ、それよりも練習始めよっか」

 

「あっ、話逸らしたわ……」

 

 海未ちゃんがそう指摘されると、お姉ちゃんは慌てて練習を始めようと提案すると、絵里先輩はジト目でお姉ちゃんの方を見る。

 

「あぁ、お姉ちゃんの良い匂いがする」

 

 そんなことは気にせず、私は抱きつきながらお姉ちゃんの匂いを堪能していた。

 

「あっ、ごめんなさい、私……ちょっと……今日はこれで」

 

 お姉ちゃんに謎の疑惑が掛けられてるなか、ことりちゃんは申し訳なさそうしながら駆け足で、部室を出ていった。

 

「どうしたんだろう? ことりちゃん最近早く帰るよね」

 

「本当どうしたんだろうね」

 

「取り敢えず沙紀はそろそろ希先輩に離れてください」

 

 急いで出ていくことりちゃんの後ろ姿を部室の入り口から眺めてると、海未ちゃんにそうつっこまれて、仕方がなく、お姉ちゃんから離れた。

 

 そんなわけでことりちゃんが部活を早退した理由は分からないけど、にこ先輩と真姫ちゃんが来たから、お姉ちゃんの言う通り、練習を始める準備をし始めた。

 3

 

「うぁ~!! 40位!! なにこれ、すごい!!」

 

「夢みたいです」

 

 練習の休憩時間パソコンでランキングを確認すると、順位が今までにないくらい跳ね上がって驚く穂乃果ちゃんと海未ちゃん。

 

「20位にだいぶ近づきました」

 

「すごいわね」

 

「絵里先輩が加わったことで、女性ファン増えたようです」

 

 二人は近くで様子を見ていた絵里先輩に報告すると、海未ちゃんはランキングが上がったのは、絵里先輩が加わったからなんて言う。

 

「確かに背も高いし、脚も長いし、美人だし、何より大人っぽい、流石三年生」

 

「止めてよね」

 

 穂乃果ちゃんは羨ましそうに絵里先輩を隅から隅まで見ると、絵里先輩はじろじろ見られて恥ずかしいのか、少し照れてる。

 

「照れなくても良いじゃないですか、ホントいつ見ても綺麗なスタイルですよ……」

 

 絵里先輩のスタイルは女性なら誰でも憧れるスタイルだと思う。

 

 実際に私も照れてる絵里先輩を隅から隅まで見ると、モデルみたいなスタイルの良さに、私の中で猛烈にある欲求が沸き上がってきた。

 

「やっぱり私と付き合ってください!!」

 

「何で……そうなるのかしら」

 

 私が告白をすると、絵里先輩は戸惑った反応をする。しかし、私にとってそんなことは些細なことでしかない。

 

「絵里先輩のスタイルはホント私の好みなんですよ、そんな人が居て告白しない方がおかしいです」

 

「いや……でも沙紀……貴方の方がスタイル良いじゃない」

 

「そういえば沙紀ちゃんも絵里先輩に負けないくらいスタイル良いよね、流石はトップアイドル」

 

「いやいや、でもそうだけどね!!」

 

「ここで自信満々に答える辺りすごいね」

 

「あれ? では沙紀の好みのスタイルって……」

 

 私の好みのスタイルを聞いて海未ちゃんは何かに気付いたようなこと言った。

 

「そういえば、この前、私……沙紀が自分……」

 

「おっと!! 絵里先輩それ以上は駄目ですよ、直ちに忘れてください」

 

 危ない危ない。そういえば、この前、絵里先輩に鏡の前でうっとりしてる姿を見られたんだっけ。

 

 あのときは苦し紛れの言い訳をして逃れて、そのあとの展開のほうが印象的過ぎて、てっきり忘れたと思っていたけど、まさか覚えていたとは……。

 

「忘れるつもりがないのなら私が……もっと鮮烈な記憶を植え付けてあげますよ……」

 

「そ、それは……遠慮しておくわ……」

 

 これ以上この件に触れられるのは困るので絵里先輩の耳元でそう囁くと、流石にそれは勘弁して欲しいのか、引き下がって、これ以上何も言うつもりはなくなる。

 

 私としてはあの奇行がバレるのはまずいけど、絵里先輩とそういう関係になれるのなら全然問題ない。むしろ、そっちのほうがいい。

 

「それにしても沙紀は絵里先輩の前でも、演技しなくなりましたね」

 

「あぁ!! そういえば、ちょっと前まで演技してたよね」

 

「え~、だって、一回絵里先輩に告白してるし、もう演技も必要ないじゃん」

 

 打ち上げの際にバレたから、もう委員長キャラやっても意味ないし、それにみんなと居るときはこのキャラの方が楽しいからね

 

 打ち上げと言えば、結局……絵里先輩に……情けない姿を見せたけど、絵里先輩普通に接してくれてる。

 

 てっきり何か色々と聞いてくると思ったけど、多分お姉ちゃんがフォローしてくれたんだよね。

 

 ホント、お姉ちゃんには感謝しかないよ。まだ全部話たわけじゃないのに……。

 

「そうなんだ~、でもやっぱり二人が並ぶと絵になるね」

 

 私がそんなことを考えてるとは知らずに、穂乃果ちゃんは私と絵里先輩が並んでる姿を見て、羨ましそうに見てると、私たちの後ろの方に視線を移動する。

 

 振り向くと、穂乃果ちゃんの視線の先にはにこ先輩が居て、何かこう本当に羨ましそうな顔をしていた。

 

「ん? 何……」

 

「ええ……なんでも……」

 

 穂乃果ちゃんに体格差で見比べられてることに気付いたのか、にこ先輩は不機嫌そうに言うと、穂乃果ちゃんはちょっと戸惑って目線を逸らす。

 

「大丈夫です、にこ先輩はそのままでも十分可愛いですよ」

 

「当然よ、なんたって私はスーパーアイドルなんだから」

 

「流石はにこ先輩、何処からともなく現れる自信にそこに惚れます、結婚してください」

 

「止めなさいよ!!」

 

「ありがとうございます!!」

 

 にこ先輩の可愛さに思わず、抱き付こうとすると、にこ先輩にご褒美を貰えて感謝の言葉を口にする。

 

「まあ彼処でイチャイチャしてる二人は置いておいて」

 

「イチャイチャしてないわよ!!」

 

「でもエリチにもおちょこちょいなところもあるんやよ」

 

「無視!?」

 

 私とにこ先輩の戯れに気を遣って(だと思う)お姉ちゃんは、そのまま絵里先輩のおちょこちょいなところ──もとい可愛い部分を、口にする。

 

「この前もおもちゃのチョコレートを本物と思って、食べそうになったり」

 

「あのときの絵里先輩の反応は可愛かったです」

 

「希!! 沙紀!!」

 

 自分の恥ずかしい事を言われて、少し顔を赤くする絵里先輩。そんな絵里先輩の事をにこ先輩に踏まれながら可愛いと思っていた。

 

「でも本当に綺麗、よし! ダイエットだあ」

 

「聞き飽きたにゃ~」

 

 そんなことは気にせず、絵里先輩と私のスタイルを見ながら、自分もそうなれるようにダイエットを宣言する穂乃果ちゃんに凛ちゃんはそんなツッコミを入れる。

 

 それ以前に、まだ一ヶ月くらいの付き合いなのに聞き飽きたって言われる辺り、何回そんなことを口にしたんだろう。

 

「でもここからが大変よ」

 

 話は逸れてるけど、ランキングが上がって浮かれている私たちに真姫ちゃんはそう釘を刺す。

 

「上に行けば行くほど、ファンもたくさんいる」

 

「そうだよね、20位か……」

 

 真姫ちゃんの言う通り、ランキング上位にいるスクールアイドルたちは多くファンがいる。ここから今まで通りにやってもファン獲得は難しい。

 

「今から短期間で順位を上げるなら、何か思い切った手が必要ね」

 

「沙紀ちゃん何かない?」

 

 マネージャーであり、元トップアイドルでもある私に何か良い方法がないか聞いてくる穂乃果ちゃん。

 

「やっぱり多くの人に印象に残るライブをした方がいいかな」

 

 何か思い切った手と言われても、やはり、ファンを獲得するには、印象に残して覚えてもらうことが大事なので、最終的にそう言わざる終えない。

 

「印象に残るって例えばどんな感じに?」

 

「そうだね……例えば、何時もとは違った雰囲気の曲をやるとか、注目を集められる場所でライブをするとか、かな」

 

「やっぱりそんな感じよね」

 

「場所に関して色々と候補は出しておくけど、ある程度候補を絞ったらみんなに決めてもらうつもり」

 

 個人的には路上ライブとか、何かイベントで、ライブを出来たら良いかなって思ってる。

 

 時間はないけど、この辺で何か良いところを実際に歩きながら、μ'sの雰囲気にあった場所を探すようにはする。

 

 イベントに関しては、この辺のイベント関係者に交渉したりするけど、見つからなかったら、最悪私の昔の伝でイベントに参加出来るようにはする。

 

 まあ、出来ればその手段は使いたくないけど。

 

「あっ、そうそう何かここが良いってところがあったら、何時でも相談して、やっぱり実際に歌う人の意見も必要だから」

 

「なら、各自で何かライブが出来そうな場所やイベントを探してく感じで良いかしら」

 

「そうですね、そんな方針で行きましょう」

 

 私の提案に絵里先輩はそうまとめてくれて、みんなで探す方針にしてくれて、私は絵里先輩の方針で行くことを決めた。

 

「おお、何かこの二人すごい頼りになる感じがするよ」

 

「やはり絵里先輩には入って貰って良かったです」

 

「沙紀先輩はこういうときはホント頼もしいにゃ~」

 

 私たちの会話を聞いていたみんながそんな反応をした。一部また不名誉な事を言われたような気がするけど、気にしない。

 

「それではにこ先輩、こんな方針で良いですか?」

 

 大体話は纏まったので、部長であるにこ先輩に確認する。

 

「そうね、でもその前にしなきゃいけないことがあるんじゃない」

 

『えっ?』

 

 方針に賛成だけど、全員がにこ先輩が何をするべきことか何か理解できないまま、にこ先輩に指示される事をやると──

 

「あの……暑いんですけど……」

 

 もうすぐ夏だっていうのに、コートとサングラスで、秋葉の街に連れていかれたのだった。

 

 4

 

 多くの人が行き交い、中にはメイド服や何かのアニメのコスチューム着た人が歩いていて、大概の服装ならこの街の雰囲気に浮くこともなく馴染むのが、秋葉の街。

 

 そんな街なのに一際異彩を放つ服装をした集団が道の真ん中、そして私の目の前に……と言うよりも私たちだ。

 

「あの……すごく暑いんですが……」

 

「我慢しなさい、これがアイドルに生きる者の道よ」

 

 穂乃果ちゃんが言いにくそうに文句を言うと、にこ先輩はこれが当然のように言う。

 

「有名人なら有名人らしく、街で紛れる格好ってのがあるの」

 

 にこ先輩の言うことは私も共感できる。実際に星野如月としての知名度が上がって、普通の格好をしても結構な確率でバレることがあったから。

 

 それでバレたらバレたで、ちょっとした大騒ぎになったのは、懐かしい思い出。

 

 そういうこともあったので、にこ先輩が言ったことは共感できるし、私も有名人なら必要なスキルではあるけど……。

 

「でもこれは……」

 

「逆に目立ってるかと……」

 

 絵里先輩と海未ちゃんの言いたい事も分かる。さっきから通りかかる人たちが怪しそうな感じで、こっちをチラチラと見ているのだから。

 

 夏も近いのにコート。それにサングラスとマスクを付けて、明らかに不審者みたいな格好。いや、みたいなではなく、完全に不審者。

 

 一人でもかなり目立つのに、そんな格好をしているのが、八人も居るのだから目立たない方がおかしい。

 

 ちなみに私はみんな同じ格好はせず、普通の制服です。

 

「バカバカしい」

 

 付き合いきれなくなったのか真姫ちゃんはサングラスとマスクを外し、コートを脱ぎ始める。他のみんなも釣られて同じように脱ぎ始める。

 

「例えプライベートであっても、常に人に見られてる事を意識する、トップアイドル目指すなら当たり前よ」

 

「全くその通りです、流石はにこ先輩です」

 

 にこ先輩の言うことは正しい。それが例え何か若干ずれてるような気がしても、にこ先輩のポリシーを否定するつもりは全くない。

 

「はぁ~」

 

「すごいにゃ~」

 

 私たちが格好について話してると、遠くからそんな声が聞こえたから、そちらの方へ行くと、花陽ちゃんと凛ちゃんが何かのお店を見つけて驚いた。

 

「なに、ここ?」

 

「近くに住んでるのに知らないの、スクールアイドルの専門ショップよ」

 

 穂乃果ちゃんが何のお店か聞くと、にこ先輩が呆れながら答えた。

 

「あぁ、ここが前ににこ先輩が言ってた新しく出来たお店ですか」

 

 二人の話を聞いて、私は少し前ににこ先輩がそんなことを話していた事を思い出した。

 

 あまり一人で秋葉には行かないから話を聞くだけ聞いて、練習もここ最近は忙しくにこ先輩と一緒に行く機会がなかったから、すっかり忘れていた。

 

「こんなお店が」

 

「ラブライブが開催されるくらいやしね」

 

「それにここ最近のスクールアイドルはレベルが高いのもありますから」

 

 現在ランキング上位にいるスクールアイドルたちのライブを見ると、下手なプロよりも上手いスクールアイドルも多い。

 

 そのため、こういったお店を出してグッズを売っても、プロのアイドルのようにグッズは普通に売れたりもする。

 

「とはいえ秋葉に数軒あるくらいだけど」

 

「それでもこうして専門ショップが作られるくらい人気なのは、凄いと思いますけどね」

 

 この秋葉でたった数件だけだけど、アマチュアであるスクールアイドルのグッズが売れるのは、相当な事だと思う。

 

 私は店内のグッズを見てまわり、可愛いスクールアイドルが居ないか探してみる。すると、凛ちゃんが何か見つけたのか、こちらに近づいてきた。

 

「ねぇ、見てみてこの缶バッチの子可愛いよ、まるでかよちんそっくりだにゃ~」

 

 凛ちゃんがそう言って見せてくれた缶バッチに写っている女の子は、ブラウン色のセミショートの女の子で、本当に花陽ちゃんに……。

 

「あれ、その子って……」

 

「てゆうかそれ……」

 

『花陽ちゃんだよ』

 

「えぇ~!!」

 

 驚いた凛ちゃんにそのグッズを何処で見つけたのか聞き、私たちは凛ちゃんが見つけた場所に移動すると、そこにはとても見覚えのある女の子たちのグッズが置かれていた。

 

「ウソ!! 海未ちゃんこれ、わ、わ、わ、わ、私たちだよ!!」

 

「お、お、お、お、落ち着きなさい!!」

 

「み、み、み、μ'sって書いてあるよ!! 石鹸売ってるのかな」

 

「何でアイドルショップで石鹸売らなきゃいけないんですか!!」

 

 自分たちのグッズが販売されて動揺してるのか、何かこうちょっとずれた事を言い出してる穂乃果ちゃんと海未ちゃんだけど、私は頭の中である計算を始めてた。

 

「退きなさい!!」

 

 みんなが自分たちのグッズ近くに集まったせいで、後ろの方に居たにこ先輩は体格差的に見ることが出来ず、無理矢理みんなの間に入って、グッズを漁り始める。

 

「あれ? 私のグッズがない、どうゆうこと!!」

 

「私も探すお手伝いをします」

 

 にこ先輩は自分のグッズを探してたけど、全く見つからないので、私もにこ先輩のグッズを探し始める。

 

 そうして二人でグッズを探すと、とても見覚えのあるツインテールの女の子バッチが見つかって──

 

「あぁ!! 私のグッズがあった!!」

 

「良かったですね……にこ先輩……」

 

 自分のグッズが見つかり嬉しさのあまり少し目に涙を浮かべながら、自分のグッズの写真を撮るにこ先輩に私も自分のように嬉しくちょっと泣きそうになる。

 

 アイドルに憧れていたにこ先輩にとって、自分のグッズが販売されたと言うことはアイドルとして更なる一歩を踏み出せたということ。

 

 私にとって、にこ先輩との約束の結果を出し始めている証拠。だからこそこんなに嬉しいことはない。それに──

 

「それじゃあ、私ちょっと行くところがあるので」

 

 にこ先輩と喜びを分かち合い、気持ちが落ち着いたら、私は少し野暮用ができたので、移動しようとすると、にこ先輩に腕を掴まれる。

 

「ちょっと待ちなさいよ、あんたその腕に持ってるのは何よ」

 

 そう言ってにこ先輩は持っているものを指を指す。

 

「えっ? 何ってにこ先輩のグッズですけど」

 

 私の腕には缶バッチを始めTシャツ、団扇など種類は少ないけど、にこ先輩のグッズがぎっしりと乗せられている。

 

「何でそんなに大量に同じにこのグッズを持ってるのよ」

 

「何でって、鑑賞用、保存用、実用で三つは当たり前じゃないですか」

 

「それは分かるわ、けど……」

 

「もしかしてお金の心配してますか、大丈夫です、これくらいなら全然問題ないですから」

 

 μ'sのグッズを見つけたときからずっとグッズの金額を計算してたけど、元々数年は働かなくっても暮らせるだけのお金はあるから、このくらいの出費は問題ない。

 

「あぁ、他のみんなのグッズは買わないのかと思ってるんですね、抜かりありません、他のみんなのグッズも買いますよ」

 

 にこ先輩のグッズで埋もれてるけど、他のメンバーのグッズも一個ずつは既にキープしてる。

 

「なるほど、なるほどやっと理解したわ」

 

「何を理解したんですか? 私のにこ先輩への愛ですか──それは相思相愛、永久不変ですよ」

 

「違うわよ!! 私のグッズがやけに少なかったのはあんたのせいね!!」

 

「ゴフッ!!」

 

 にこ先輩から愛を受けたが、手元には大量のグッズを持ってるので、ここは踏ん張り何とか倒れず、グッズは落とさずに済んだ。

 

 こっちもやっと理解した。にこ先輩が何を理解したのか。

 

 にこ先輩が自分のグッズが少ないのは、もしかして、人気何じゃないのか、心配していたけど、少なかった理由は、私が既に買うために持っていたから。

 

 確かににこ先輩と一緒に探すとき、さらっと見つけてたけど、私がこっそりと買うために持ってた。

 

「確かににこ先輩に要らぬ心配をお掛けしました、だけど……そんなわけで買ってきます」

 

「何がそんなわけよ、待ちなさい」

 

 私に愛を放った際ににこ先輩に掴まれた手は離され、自由となった私はグッズを買うためにレジにダッシュし、にこ先輩はそんな私のあとを追いかける。

 

 その後、何とか買うことには成功したが、買ったにこ先輩のグッズはにこ先輩に1セット渡すことで許してもらうことになった。

 

 そうして無事に買い物を終え、みんなの元に戻ると、お店の入口に集まって、何か見ていたから覗くと、そこには何か見覚えのある後ろ姿のメイドさんが居た。

 

「ことりちゃん?」

 

 穂乃果ちゃんがメイドさんにそう声を掛けると、ビクッと反応して、その場で固まる。

 

 やっぱり、穂乃果ちゃんの言う通りこの見覚えのあるメイドさんはことりちゃんだよね。

 

 何でメイド服? 

 

「ことり……何してるんですか」

 

「コトリ? ホワット、ドナタデースカ?」

 

「うあ! 外国人!?」

 

 ことりちゃんは目にガチャガチャの空のカプセルを当てて、変な片言で人違いと言って、凛ちゃんは何故か騙される。

 

「ことりちゃんだよね」

 

「クンクン、この匂い、ことりちゃんだよね」

 

 穂乃果ちゃんはそんなことでは騙されず、私のことりちゃんに近づいて匂いを確認すると、やっぱり、ことりちゃんのいい匂いがする。

 

「変態にゃ~」

 

「大丈夫よ、元からこの人は変態よ」

 

 私が匂いでことりちゃんだと、確認すると凛ちゃんと真姫ちゃんにそんな事を言われ、他のメンバーも私の事を見て、かなり引いているか、苦笑いしてる。

 

「ソ、ソレデハゴキゲンヨウ、ヨキニハカラエ、ミナノシュウ……サラバ!!」

 

『あぁ!!』

 

 私の行動にみんな気を取られて、ことりちゃんはその場から逃げだそうと走り去っていった。

 

「ことりちゃん待って」

 

 そんな逃げ出したことりちゃんを穂乃果ちゃんと海未ちゃんは追い掛け、何が何だか分からないまま残された私たち。

 

「取り敢えず、どうします?」

 

「あんたのせいで逃がしたのでしょ、追い掛けなさいよ」

 

 そんなわけで私も穂乃果ちゃんと海未ちゃんに続いて、ことりちゃんを追い掛け始めた。

 

 追い掛け始めたいいけど、既にことりちゃんを見失って、何処に行ったのか分からない状況なので、人目に付かなそうな場所を思いだし、まずはそこを手当たり次第探す。

 

「見つけた、待って~!!」

 

 そうして何とか見つけ、迂闊にもつい声に出してそんなことを言ってしまったから、ことりちゃんに気付かれてしまい、ことりちゃんは逃げ出す。

 

「何で追ってくるの!?」

 

「それはことりちゃんが逃げるから」

 

「沙紀ちゃん対策に確か……、これ!!」

 

 ことりちゃんから何か紙のような物が落ち、何か一瞬だけ見えると、私はその紙を全力で拾いに行った。

 

 何とかことりちゃんが落とした紙を拾うと、私はあることに気付く。

 

「しまった……完全に逃がした……」

 

 周りを見ると、既にそこにはことりちゃんの姿がなく、まんまとことりちゃんに嵌められた。

 

「確かにこれなら私の気を逸れせるね」

 

 そうして私は拾った紙を見ると、ある事実に気付いた。

 

「これ……にこ先輩の後ろ姿写真じゃん……」

 

 私は完全にことりちゃんに騙されたことに、にこ先輩の写真が後ろ姿だったことに、その場で手を付いてガッカリする。

 

 ちなみにことりちゃんは、お姉ちゃんのお陰でなんだかんだ捕まりました。流石はお姉ちゃん。

 

 5

 

『えぇ!!』

 

 ことりちゃんがお姉ちゃんに捕まったと連絡を受けた私は、連絡を頼りにとあるメイド喫茶まで向かい、みんなと合流して衝撃的な事実を知った。

 

「こ、ことり先輩がこの秋葉で伝説のメイド──ミナリンスキーさんだったんですか!!」

 

「そうです……」

 

 その中でも花陽ちゃんは特に驚きの声を挙げて、ことりちゃんにもう一回確認すると、ことりちゃんは観念したのか小さな声でそう告げた。

 

 それよりも花陽ちゃん、メイドさんも対象に辺り、私が思ってた以上に守備範囲が広い。これだとローカルアイドルも対象に入りそう。

 

 そういえば、にこ先輩もミナリンスキーのこと知っててサインを買ってたけど……。

 

「あぁ~~、まさかこんな近くに本人が居るなんて……あれ、高かったのよ……」

 

 一人、落ち込むにこ先輩の姿を見て、私は取り敢えず、そっとしておく。

 

「ヒドイよことりちゃん、そうゆうことなら教えてよ」

 

 ことりちゃんがメイド喫茶でバイトしてることを、幼馴染みである穂乃果ちゃんも知らなくって怒るのかと思うと──

 

「言ってくれれば遊びに来て、ジュースとかごちそうになったのに」

 

「そこ!!」

 

 何かこう怒る所が違って、珍しく花陽ちゃんがそうツッコム──確かにそこは全く見当違い。

 

「じゃあこの写真は?」

 

「店内のイベントで歌わされて、撮影禁止だったのに」

 

「あぁ、たまに居るよね、そういうルールの守らない人」

 

 わたしもそういう経験あったから、ことりちゃんが困るのは分からなくもない。

 

 それになるほど、今の言葉で状況は大体把握できた。

 

 ルールを守らない客が盗撮した写真を転売して、それが売ってる事を知ったことりちゃんは、写真を無くして貰おうとしたら、私たちとバッタリと出会した訳か。

 

「なんだ、じゃあアイドルってわけじゃないんだね」

 

「うん、それはもちろん」

 

 それを聞いて安心する穂乃果ちゃん。彼女が安心したのは、スクールアイドルはプロのアイドルはやることは、ルール上、出来なくなってる。

 

 これはアマチュアとプロの線引きをするため。更に元プロで、それなり知名度があった人も、スクールアイドル活動は出来ない。

 

 私はその条件に引っ掛かるため、スクールアイドル活動はもちろん出来ない。

 

 だから私はこうしてマネージャーをやってる訳なんだけど。

 

「いや~私はてっきりことりちゃんはコスプレとか、そんな素敵な趣味があると勘違いしちゃった」

 

 状況が余りにも唐突だったので、よく見れなかったけど──ことりちゃん、メイド服似合ってるなあ。

 

 こんな可愛い子に御奉仕されると考えると──ヤバイ興奮する。

 

「沙紀ちゃん……鼻血……出てるよ」

 

「あっ、ホントだ、ついことりちゃんのメイド服姿が可愛くって興奮しちゃった、テヘッ」

 

「鼻血出しながらじゃ全く可愛くありませんよ……これで鼻血を止めてください」

 

 海未ちゃんは私にテッシュ渡してくれて、私は鼻血を止めるため鼻にテッシュを詰める。

 

「それにしても伝説の中学生トップアイドルに続いて、伝説の秋葉のカリスマメイドが同じ部活に居るなんて……スゴいです!!」

 

 私とことりちゃんを見て、そんな風に凄い興奮する花陽ちゃん。

 

「これならもう一人伝説が出てきても驚かないわね……」

 

「いや……流石に居ないと思う、伝説がいっぱいとか有難味なさすぎやん」

 

 そんな会話をする絵里先輩とお姉ちゃん。

 

「そんなことは置いといて、何故です?」

 

「丁度四人でμ'sを始めた頃……」

 

 海未ちゃんがどうしてことりちゃんがバイトを始めたか聞くと、ことりちゃんはバイトを始めるきっかけを話始めた。

 

「自分を変えたいなって思って……私、穂乃果ちゃんや海未ちゃんと違って、何もないから」

 

「何もない?」

 

「穂乃果ちゃんみたいにみんなを引っ張って行けないし、海未ちゃんみたいにしっかりもしてないから」

 

 ことりちゃんは自分が近くで感じてる劣等感を口に出して、自分には何もない事を更に強調させる。

 

「そんなことないよ、歌もダンスもことりちゃん上手だよ」

 

「衣装だってことりが作ってるじゃないですか」

 

「色々と細かい事も気遣ってくれてと思うけど」

 

「少なくとも二年の中では一番まともね」

 

 私たちはことりちゃんの良いところを言うけど、ことりちゃんの顔は暗いままだった。

 

 さらっと、真姫ちゃんが酷いことを言ったような気がするけど、そんな雰囲気ではないので、野暮な事を口にしない。

 

「ううん、私はただ……二人に付いていってるだけだよ」

 

 そういうことりちゃんの顔は更に暗くなるだけだった。

 




そんなわけで三章最初の語り手は沙紀でした。

彼女の語りも随分久し振りな感じはしますけど、取り合えずば何時もと変わらない残念加減。でもそんな彼女を書くのは楽しいですけどね。

取り合えずば今回はここまでです。

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