ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー 作:タトバリンクス
それではお楽しみください。
1
「ふあぁぁぁ!!」
「花陽どうしたの」
休日──私は花陽の家に遊びに来て、花陽から借りたアイドルのCDを聞いていると、花陽は何か携帯の画面を眺めながらニヤニヤとしていたわ。
「この前かよちん、沙紀先輩と一緒に写真を撮って貰って、それをずっと眺めてるんだ~」
私の疑問に、一緒に遊びに来てた凛が雑誌を読みながら答えてくれて、私は納得する。
「なるほどね、でもよく撮ってくれたわね」
「何かかよちんが頼んだら、すぐ撮ってくれたみたいだよ」
「沙紀先輩があんなことを言ったのに、よく頼めたわね」
あのとき──沙紀先輩が自分は星野如月だと正体を明かしたときに、最後には今まで通り篠原沙紀として接して欲しいと言ったのに。
そんな沙紀先輩に一緒に写真を撮ってと、頼むなんてこの子は結構度胸があるわね。やっぱり、アイドル関係だと積極的ね。
「そうでも……ないよ……」
「花陽、聞こえたの?」
花陽の事をある意味感心してたら、彼女は自分の世界から戻ってきて、私は今までの会話を聞いていたのか聞いてみる。
「うん……」
「それで何がそうでもないの?」
確認すると花陽は頷いて、私は彼女が何を否定していたのか聞いてみた。
「わたしも沙紀先輩のこと……みんなみたいに今まで通り接しようしたんだけど……気になって……」
「無理もないにゃ~、かよちん、如月ちゃんの大ファンだからね」
凛の言う通りかもしれないわね。先輩が自分の好きなアイドルだと知って、今まで通りに接しろ、って言うのは難しいわね。
それに他のメンバーが沙紀先輩と普通に接しすぎなのよ。特に穂乃果先輩はこの前普通にサイン貰おうしてたわ。
「うん……、気になって見てたら沙紀先輩が気を利かせて……」
「写真を撮ってくれたと言うわけね」
まああの人なら有り得なくはないわね。何だかんだで私たちの事ちゃんと見ているわけだし。
「貴女も大変ね、でも……こう言ったら悪いけど……あの……沙紀先輩よ」
「うぅ……」
私が現実を突き付けると、花陽が少し動揺するのは無理もないわ。だって沙紀先輩、私たちの前で色々とやらかしてるのよ。
「でもこれは沙紀先輩が星野如月だって、証明できたからこそよね」
「結構調べたけど……すぐに言ったよね」
花陽の言う通り結構調べたのだけど、誕生日を言ってくらいで、すぐに言ったからある意味質問してたこっちがビックリしたわよ。
本当ならもう少し調べたことを突き付けて、沙紀先輩と星野如月の共通点を洗い出すつもりだったから、肩透かしでちょっと腑に落ちないわ。
何と言うか、余計な事を言われる前にその前に明かした──そんな感じもしなくはないけど。多分、気のせいよね。
「かよちんと真姫ちゃんそんなことしてたの!? ズルイ凛だけ仲間外れにして」
私と花陽で沙紀先輩のことを調べてたって話していると、凛は自分だけ仲間外れにされて怒り始める。
「ゴメンね……そんなつもりじゃあ……」
「だって、凛って簡単に口を滑らせそうじゃない」
私の勝手なイメージだけど、凛ってそんなイメージがあるわ。あと何となく穂乃果先輩も同じイメージがあるわ。
「真姫ちゃん、ヒドイにゃ~」
そう言って凛は花陽の方に行って、花陽に頭を撫でてもらいながら慰められてた。
そんな事は置いておいて、凛を入れると沙紀先輩を調べるのがバレて、面倒くさいことになりそうだから、念のために話さなかったの。
でも何となくだけど、沙紀先輩には私たちが先輩の事調べてたのがバレてたと思うのよね。
別に調べてもバレるとは思っていなかったのか、それとも何時かは話すつもりだったのか分からないけど、そう思うと、私たちは見逃されてたのよね。
実際は証拠を突き付けて、正体を暴いたけど、話さなかった理由が希先輩の計画を狂わせないためと、自分から言うつもりはなかった、ってだけだし。
「でもホント、信じられないよね、あの沙紀先輩が如月ちゃん何て全然性格違うにゃ~」
花陽に慰められて元気になったのか、凛はあのときの沙紀先輩の変化について口にした。
「そうね、今の沙紀先輩とは真逆の性格だったわね」
ずっと沙紀先輩は星野如月だと思って調べてたのに、いざ、自分が星野如月と正体を明かしたときに、沙紀先輩のキャラが今まで彼女のイメージとは違っていたから、私も驚いたわ。
「けど、あれを演技って言えば納得するのよね」
沙紀先輩は何時も委員長のキャラを演技してたせいか、演技だって言えば納得するのよね。
実際に本人も演技だったって言ってたし。
「うん、わたしも如月ちゃんはプライベートでもライブと感じだと思ってたから……沙紀先輩が演技してた……あれ?」
花陽が沙紀先輩のキャラについて納得しようとすると、何か疑問に思ったのか、急に何かを思い出そうとする。
「そうだったら……あのブログに……書いてあった事って……?」
「どうしたの? 花陽」
「よく覚えてないけど……昔ブログで見た如月ちゃんのプライベートの写真や、書き込みで気になることがあって……」
ぶつぶつと小声で何か言っている花陽に、私は声を掛けると、花陽は記憶が曖昧だから自信がない感じで気になったことを話した。
「あの人、ブログやってたの!?」
「ええと、如月ちゃんじゃなくって……ユーリちゃんがよく如月ちゃんとプライベート写真をよく載せてたから……」
「ユーリって……星野如月とユニットを組んでた?」
「うん……そのユーリちゃん」
そのユーリなのね。でも私その子の事あんまり知らないのよね。
沙紀先輩の正体を暴くために星野如月を調べてたけど、調べる間にテストとか、オープンキャンパスの事があって、そっちは全然調べてないのよね。
知ってることと言えば、今もアイドルとして活動してるのと、さっきも言ったように星野如月とユニットを組んでいたことくらいしか知らないのよね。
「で、その子のブログに何があったの?」
「多分……見たら分かると思うけど……ちょっと待ってて」
そうして花陽は、そのブログを私たちに見せるために移動してパソコンを起動させる。
「ねぇ、花陽聞いてもいい」
「何? 真姫ちゃん」
「私、そのユーリって子の事全然知らないから簡単に教えてくれない」
パソコンが起動する僅かな時間だけど、詳しく聞くと花陽の熱が入って当初の目的を忘れそうだから、ちょっとした事でも良いから聞いておきたいわ。
「そういえば……真姫ちゃん、如月ちゃんばかり調べたね、良いよ」
花陽に沙紀先輩の正体を暴くのを手伝って貰ってたからすんなり事情を理解してくれたわ。
「簡単に言えば、ユーリちゃんは星野如月が唯一認めたアイドルだよ」
2
「星野如月が唯一認めたアイドル?」
花陽が簡単にユーリの事を言ってくれたけど、星野如月が認めた、つまり沙紀先輩が認めたアイドルってなるのだけど、一体何を認めたの。
沙紀先輩は自分の事を普通と言うけど、全体的にスペックが高い彼女が認めたと言うことは、凄い歌が上手いとか、ダンスが上手いとかあるはずよね。
「うん、正しくは星野如月と一緒に歌うことを認められたアイドルって、ファンから言われてる」
「それってどういう……」
何故ユーリはそう呼ばれてるのか理由を聞こうとすると、パソコンが起動して、ブログが見られるようになる。一先ずは今の疑問は後回しにして、先に例のブログを見ることにする。
「ええと、確か……あった」
花陽はパソコンを操作してブログを見つけると、私はパソコンの画面を覗き込んでブログを見ると、一人の女の子の写真が映った。
「この子が……」
「うん、ユーリちゃん」
緩い茶色のカールで、何処かおっとりとした人形みたいな顔立ちをした女の子。
この子がユーリ。あの星野如月とユニットを組んでいたアイドル。
「あっ、ユーリちゃんだ」
今まで雑誌を読んでいた凛が私たちの話に興味を持ったみたいで、私と花陽の間に入って、パソコンの画面を覗き込むと、そんな反応をする。
「凛は知ってるの?」
「もちろん、かよちんと一緒にライブ何回か見に行ったよね」
「うん、そうだね」
なるほどね。アイドル好きの花陽なら凛を誘ってもおかしくはないわね。
「凛ちゃん、ユーリちゃんの方が好きだったよね」
「うん、だってユーリちゃんのが可愛いもん」
「それ本人の前で言わない方がいいわね」
「言うわけないにぁ~、何されるか分からないもん」
自分が言ったことを沙紀先輩に言えば、確実に何かされるのは、目に見えてるから言わないと言う凛。でも大丈夫かしら、
凛ってたまに酷いことさらっと言うことがあるから沙紀先輩の前で、いつか言いそう。
「それで? 何でユーリちゃんの写真見てるの?」
どうやら凛はさっきまでの話を聞いてなかったみたいで、私たちに聞いてくる。
「ちょっと沙紀先輩の事で気になることがあったのよ」
「フーン、そうなんだ、でも何でユーリちゃん?」
最初から説明するのが面倒くさいから適当に説明すると、まあ当然の疑問を返してくる。
沙紀先輩の事──星野如月の事を、調べると言ったのに、その相方のユーリのブログを見てるのは、疑問に思うわね。
「それで花陽、気になってたやつはあったの?」
「うん、多分……これだと思う」
そう言って見せてくれたのは、プライベートで一緒にいるユーリと星野如月──沙紀先輩の写真だった。
「なんと言うか無愛想ね」
それが二人の写真を見た感想だったわ。
ユーリの方はのんびりとした笑顔で写真に写ってるけど、沙紀先輩はあのとき私たちに正体を明かしたときみたいに、何処か冷めた感じだった。
「沙紀先輩と同じ人とは思えないにゃ~」
凛の言いたいことは分かるわ。私たちの知ってる沙紀先輩ならノリノリで写真を撮りそうなのに、写真に写ってる沙紀先輩は本当に面倒くさそうな感じ。
念のため他の写真も見てみると、大体同じで笑ってたり、楽しそうにしてる写真は一枚もなかった。
「花陽、撮って貰った写真見せて貰っていい?」
もしかしてブログにわざとそう撮ってるかもしれないと思ったから、花陽と一緒に撮った写真を確認すれば分かると思い見せて貰おうとする
「うん……いいよ、……はい」
花陽の許可を貰って写真を見ると、何枚か撮って貰っていて、表情は冷たい感じだったり、何時も通りだったりと色々とあったわ。
「一応聞いていい……何か指定したりした?」
「せっかくだから……つい……」
写真を見終えて、私は質問にすると、花陽は少し恥ずかしそうに答える。
やっぱり、そうだったのね。何か色々とありすぎて、花陽が何か頼んだかもしれないと思ったら、案の定だったわね。
「良かったね、かよちん」
「うん!!」
凛にそう言われて嬉しそうな顔をしている花陽。彼女からすればとても幸せ事なのかもしれないわね。けど、花陽には悪いけど、これじゃあ分からないわね。
そんな風に思いながらまたブログの方を見て、今度は書かれてる記事の方を読んでみる。
書かれている記事を読んでると、相変わらず如月は表情が顔に出ないとか、如月も顔には出てないけど、楽しかったって言ってましたとか、大体そんな感じの記事が多く書かれていた。
あと如月と友達とで遊びに行きましたとか書いてあって私は疑問に思う。
「ねぇ、ここに友達と遊びに行ってるって書いてあるけど、友達って?」
「よくユーリちゃんのブログで出てくるんだけど……如月ちゃんとユーリちゃんの共通の友達みたい」
花陽から更に詳しく聞くと、アイドル関係の友達ではなく、普通に星野如月の学校の友達らしい。
一緒に写真を撮ってる姿がないからどんな人なのか分からないけど、多分このブログの写真を撮っているのが、その人かもしれない。
写真を見てると、二人が写ってるのに遊びに行った建物とかも写っていて、誰か撮らないと無理な写真を撮ってるのから多分そうなんだと思うわ。
それにしてもプロのアイドル二人と遊べるなんて、その人何か神経が堂々としてるわね。
一体、何者かしら。もしかしてアイドル志望の子なのかもしれないわね。
「何か読んでると、プライベートでも星野如月はあんな感じだと思うわね」
「そうだよね……わたしもそれを読んでたから、如月ちゃんはプライベートでもあんな性格だったって思ってたけど……」
「実際は残念な感じだよね」
本当に凛の言う通りよね。無駄に凄い所はあるんだけど、何処か残念な感じが今の沙紀先輩なのよね。
「多分……眼鏡外さないと気付かなかったと思う……」
そういえば沙紀先輩が花陽の前で眼鏡を外した姿を見られたから、沙紀先輩と星野如月は似てないって、話になったのよね。
もし、花陽の前で外さなかったら三つ編みもあって、きっとバレなかったでしょうね。
でも眼鏡を外した理由も結構バカみたいな理由だったし、両方なかった状態なんてもっとバカみたいな理由だし、案外遅かれ早かれバレてたと思うわ。
何と言うか、時々沙紀先輩って迂闊な事をやらかしてるから、そういった意味でも残念かもしれない。
でもこのブログを読んでると、星野如月にそんな迂闊な所って、一切ない感じがするのよね。
何かゲームとかやってると、そのスコアも一緒に載せてあって、星野如月のスコアは常にハイスコアでどれも一番なのよね。
「何と言うか、絶対的な勝者みたいね」
私は思ったことを思わず口にすると、花陽は──
「そう!! それ!!」
そんな風に大きな声で反応した。
「どうしたのよ、急に大きな声を出して」
「ごめんなさい……」
「良いわよ、それで何がそれなの」
急に大声出した花陽は謝るけど、私は気にしてないから、それに何時もの事だし、それよりも花陽が何に反応したのか気になったわ。
「さっきユーリちゃんの説明したときに如月ちゃんに認められたアイドルって言ったよね」
「そうね、でもそれってファンが言ってるだけって花陽行ってなかった?」
本人ではなく、ファンが勝手にそう言ってる。何でそう言われているのか気になってたから、あとで聞こうと思ってたけど、今ここでその話に戻るのね。
「うん……何と言うか、二人の新人アイドルユニットとしてデビューした年を見ると……そうとしか思えないって言われてるの」
「何がそうとしか思えないの?」
「その年の二人の事務所でデビューしたのは、この二人だけなんだよね」
「それだけで何でそんな風に言えるの?」
普通一つの事務所でどれだけのアイドルがデビューするのか分からないけど、何で二人しかデビューしてなくてそんな風に言われるのか、理由が分からなかったわ。
「確かにそうだね、でも……」
「でも?」
「二人の所属してる事務所は、毎年多くの新人アイドルをデビューさせて……殆どがトップアイドルとして……活躍する子を出す大手事務所……何だよ」
毎年、多くの新人が入ってくるけど、デビューは少なくて、デビューしたのはユーリと星野如月……。
「もしかして……その年に事務所に入ってきた子が星野如月──沙紀先輩の才能で挫折したの?」
花陽は私の憶測に対して頷いたのは見ると、私は何故ユーリが星野如月に認められたアイドルって言われているのか予想が付いた。
彼女は唯一、星野如月の同期で挫折をしなかったアイドルだと。
3
ユーリが星野如月の同期で、唯一挫折をしなかったアイドル。
何故彼女が星野如月に認められたアイドルって言われているのか考えると、私はその結論にすぐに至ったわ。
ユーリについてあまり知っていることがなかった為、確証はなかったけど、花陽が頷いたことで、それは確信になったわ。
「どうしてそんな風に思ったのか、凛には分からないにぁ~」
私と花陽の話を聞いていた凛は、話に付いて行けず、頭を傾けながら困惑してる。
「そう? 割りと簡単よ」
「真姫ちゃんは頭いいなら簡単だと思うけど、凛には全然」
凛は自分が頭よくない思ってるから分からないと言ってるみたいだけど、多分、凛は気付いていないだけ。
「そうね……とりあえず花陽、二人のユニット時代のライブってある?」
凛にも分かりやすく説明するため、あと自分の目でもちゃんと確認するために、花陽にライブがあるのか聞く。
「あるよ、多分……真姫ちゃんが見たいのはデビューしたばかりの時のライブだよね」
私が何を知りたいのか理解してた花陽は私の見たかったライブをピタリと当てて、私は頷くと、花陽はそのライブ映像を探しに行った。
話の流れっていうのもあるけど、流石は花陽ね。こうも私の見たかったものを当てるなんて。
「ずるいにぁ~、かよちんと真姫ちゃんだけそんなに仲良くなるなんて」
「別に……そんなんじゃないわよ」
「そう言ってるけど真姫ちゃん顔が赤くなってるから説得力ないよ」
そんな光景を見ていた凛はまたいじけるけど、私の顔が赤くなってるのが分かるとからかいそうだと思ったから、凛の頭を叩いてやられるまえに止めさせる。
「イッタイ!! 何するにゃ~まだ何もしてないのに」
「まだって、何かするつもりだったじゃない」
やっぱり、先に止めさせて正解だったわね。
「もしこれが沙紀先輩だったらお腹だから感謝しなさい」
「なんか沙紀先輩に助けられたみたいで複雑な気分」
沙紀先輩のことをとても納得いかない感じで言われる辺り、先輩の日頃の行いが本当にものを言うわね。
こんなこと沙紀先輩が聞いたら……いや、あの人の事だから変な解釈をして無駄に前向きな発言をしてくるから居なくて良かったわ。下手したら体をベタベタと触ってくるし。
「真姫ちゃん持ってきたよ」
「ありがとう」
そんな風にしてたら花陽がディスクを持って戻ってきて、私はお礼を言うと、花陽はパソコンにディスクを入れて、二人のライブを見るための準備をする。
そうしてパソコンがディスクを読み込むと、画面が切り替わってメニュー画面になり、そのメニューの中から花陽はミニライブと書かれた場所を選択すると、画面は暗くなり次第に映像が映し出される。
映し出された映像には小さいライブ会場に少ない観客。
これを見ると、この前みんなで見た星野如月のライブとは全然思えなかったわ。
「これってデビューしてどのくらいの時なの」
「ファーストシングル発売イベントで歌ってたときのだから……本当にデビューしたばかりの頃」
あまりにも規模が小さかったから、思わず花陽にどのくらいの時か聞くと、本当にデビューばかりで私が一番見たかった映像だったわ。
それにしてもこんな小さな規模のライブから僅か一年で武道館まで登り詰めた星野如月──沙紀先輩のアイドルとしての素質は計り知れないわね。
そんな人にマネージャーをやって貰うなんて、本当に贅沢と言うべきか、何と言うか何もかもが上手くいきそうに思ってしまうわね。
廃校とか、ラブライブ出場とか、それが当然のように上手く行ってしまいそうなそんな感じに。
そんなことを思っていると、映像から二人が出てきて、曲を歌い始めた。
「この頃の沙紀先輩はちょっと若いにゃ~」
「うん……若いじゃなくって幼いかな」
二人はライブに出てきた星野如月を見て、そんな感想を言う。
確かに今の沙紀先輩と比べると幼い。それが普通なんだけど、今の沙紀先輩を見馴れてるから余計にそう感じさせるのよね。
それでも中学生にしては発育の良い体をしてる。それに対してユーリは──
「ユーリちゃんは小さくて可愛い」
「何かウサギとかハムスターみたい」
全体的に小さくって凛が例えた小動物みたいなイメージを感じやすく、中学生と言うより小学生に見えるわね。
身長も沙紀先輩と比べると頭一個分くらい違うし。
それどころか全体的に比べると、やっぱり、沙紀先輩とユーリは……。
何て二人を見比べながらライブを見てると、曲が終わり、それから少し二人のトークをしてから映像が終わった。
「どうかな? 見たいものは見れた?」
「そうね、見れたわ、ありがとう花陽」
花陽のお陰で実際に自分の目で確認できたわけだし、これで凛にも説明しやすくなるわ。でも凛も見たから私が何であんなことを言ったのか、少しは理解出来てる筈よね
「それで結局何で二人のライブを見たの」
前言撤回ね。全く理解してなかったわこの子。
「あのライブ見てまだ気付かないの凛」
「普通にライブを見てから分かんないにゃ~」
はぁ、呆れたわ。仮にもスクールアイドルをやっているのだから、特に凛なら気付いてもおかしくないのに。
「なら、まず凛に聞くけど、ユーリの歌とダンスをどう思った?」
「う~ん、何と言うか緊張してた感じがするにゃ~、歌に方はよく分かんないけど、ダンスは何かぎこちないって感じだったよ」
凛の感想のようにユーリのダンスはファーストライブだから緊張してるのか、ぎこちない感じしてるし、歌の方も聞いてると、明らかに音程を外してる所があったわ。
「そうね、なら星野如月──沙紀先輩の歌とダンスは?」
「それなら簡単、何時も通りすごいなあって、思ったよ」
何時もは沙紀先輩に対して、尊敬の欠片も微塵も感じさせない凛だけど、そんな風に歌とダンスはちゃんと尊敬はしている。けど──
「確かに星野如月の歌とダンスはすごかったわね、でもこれ、彼女にとってファーストライブよ」
「それって?」
「ここまで言っても分からないの、沙紀先輩は初めてのライブで全く緊張してる様子はないし、何時ものように歌って踊ってる」
映像の彼女からはそんな緊張をしてる様子なんて一才感じない。それどころか。
「この段階で既にトップアイドル並みの実力を持ってるのよ」
正直見るまでは信じられなかったけど、まさかここまでとは思わなかったわ。これならあの事の説明も付いてしまうわ。
「つまり、沙紀先輩はその才能で同期を圧倒して、挫折まで追いやったのよ」
4
星野如月──篠原沙紀は、他の新人を圧倒するくらいの歌とダンスの実力があった。
その事実はさっきのライブを見れば明らかで、当時から彼女は才能に恵まれていた。更に見た目も恵まれている。
そんな彼女を見た同期の人たちはどう思うかしら。
何もかもに恵まれ過ぎた才能の塊によって、現実を見せつけられ、それで心が折れるなってのは無理な話。誰だって心が折れてしまうわ。
そうして沙紀先輩の同期の人たちは、次々とデビューする前にアイドルを止めていった。
つまり、沙紀先輩はほぼ無自覚(だと思う)にたくさんの人を挫折させていった。
「何となくだけど、沙紀先輩の同期の人には同情するわね」
「うん……二人の事務所はスクールアイドルでトップだった人たちも多く所属してて、そのときもトップアイドルになれる実力のスクールアイドルもいたから……」
「でも、その人たちはユーリ以外、全員止めたってわけね、星野如月との圧倒的な才能の差に……」
そんな風に口にすると、幾つか気になることがある。そのときの沙紀先輩はどんな気持ちだったのだろうって。
次々と同じ志を持った人たちが止めて、中には嫉妬だってされてたと思うから。
嫉妬だけで済めば良いのだけど、もしかしらもっと酷いことだってあったかもしれない。
才能はときに人に恨みを買うことだってあるのだから。
でもいくらそんなことを考えても沙紀先輩じゃないから、当時のどんな気持ちなのか分からない。けど、同じようにもう一つ気になることがあるわ。
「何でユーリは止めなかったのかしら」
才能に恵まれていた人がいて、止めていく人が多い酷い環境のなか、彼女はどうして続けられたのかしら。
「その辺はよくは分からないけど……ただユーリちゃんは、頑張り屋さんで、健気な感じがライブで感じるんだよね」
「うんうん、ユーリちゃんはそういうところが可愛いと思って、応援しちゃうにゃ~」
「さっきのライブを見ても、とてもそうには見えないけど……」
二人のライブを見てもユーリの歌とダンスの実力は普通くらいで、とても星野如月が認めたアイドルになんて呼ばれるのは、実力が圧倒的に足りない感じがする。
「最初の頃はそうだけど──でも、ユーリちゃんは少しずつ歌もダンスの実力を付けていって、今ではトップアイドルとして活躍してるんだよ、それに──」
アイドルの話をしていて熱が入ったのかこのあと更に詳しく花陽が語りだし始める。
こうなると止められないのよね。黙って聞くしかないわ。
熱が入りすぎて関係ない事も言ってたので、必要な事を纏めると──
星野如月の比べられる事が多かったから評価もかなり低かったけど、どんな状況でもアイドルを続けたからこそ、手に入れた人気らしい。
直向きに努力するアイドル。足りないものは練習を重ねて補っていく、そんな彼女の姿にファンは心を打たれたみたい。
そうして努力は実を結び、彼女は星野如月と並んでもおかしくはないアイドルになった。
「それなら確かに星野如月に認められた唯一のアイドルって言われてもおかしくないわね」
ユーリが何故そう呼ばれてるのか私は納得する。
ある意味才能で登り詰めた星野如月とは真逆ね。
性格もかなり違うみたいだけど、それでも二人仲良くやれたのは、相性が良かったのね。
プライベートでもお互いの家に泊まり行ってる写真とか載せてあったから。
仲が良い振りをしてるだけなら絶対自分の家には泊まらないし、入れないわよね。
嫌いな相手をわざわざ自分の家に入れるのは、自分の弱みとか見せるから、仲が悪い人なら絶対に入れないわ。
でも二人は普通に泊まったりもしてるし、互いの親から可愛がられたみたいな書き方もしてたから、相当仲が良いのは分かるわ。
「なるほど、ユーリについては大体分かったわ」
「そう……良かった……」
私はユーリの事を理解したと口にすると、花陽はちょっと嬉しそうに言う。やっぱり好きなアイドルについて知って貰えるのは、アイドル好きにとって嬉しい事なのかもしれない。
今日で沙紀先輩の相棒だった彼女の事を知れた。更にデビュー当時の星野如月についても知れた。だけど……。
「今でも会ったりしてるのかしら?」
不意に些細な疑問が頭の中で過り、思わずボソッと口にしてしまった。
「会ってるんじゃないかにゃ~、これを見ると結構仲が良いみたいだから」
私の独り言に凛はブログを見た感じ会ってそうだと肯定するけど、でもそれは昔の話よね。
だって今の沙紀先輩……アイドル活動を休止してるから。
それにここ最近は私たちのマネージャーとして休日も使って練習を見てくれているし、他にも委員長とかの仕事をして忙しそうだし。
向こうだって、今はトップアイドルとして活躍しているのだから、きっと忙しいと思うから、そんな気軽に会えないと思うの。
でも会えなくても今は電話とかメールとかで話せるから、会えないって感じじゃないのだけど、あの日──みんなでカラオケに行ったときに沙紀先輩の顔を思い出すと、悪い予感がする。
あの時の沙紀先輩の顔何処か悲しそうだったから。
けどその顔だって一瞬しか見えていなかったから、もしかしたら私の見間違いかもしれない。でももし……見間違いじゃなく、本当に悲しい顔をしていたら一体なんでそんな顔をしたのかって考えてしまう。
何時も楽しそうに笑ってる彼女がそんな顔をするから、余計に何か良くない事があったかもしれないと、思ってしまう。
「多分……会えてないと思う……」
そんな不安を抱いていた私に花陽はとても不吉なことを言った。
「どうしてそう思うの……」
「根拠はないけど、ただこのブログの最後の更新の日を見て……」
私は何故そう言ったのか聞くと、花陽にそう言われてブログの最新のページに移動して、この更新の日を見るとそこに書かれた日付は──
「二年前の……8月31日……」
二年前、二年前って言うと確か……。
「如月ちゃんがアイドル活動を休止した年」
そう、伝説とまで登りつめた星野如月の急な活動休止を宣言した年。
余りにも急な出来事だったため、彼女のファンは大騒ぎだったって聞いたわ。しかも彼女に憧れてアイドルを始めた子たちも多く止める事態になったとか。
「そしてね、そのブログの更新の日が大体休止を宣言した一ヶ月前なの、それ以降全く更新されなくなっちゃったの」
全く更新されなくなった? このブログが? 明らかにおかしいわ。だってこのブログほとんど毎日のように更新されてたのよ。それが更新されなくなったって明らかにおかしい。
しかもこのブログを見ると、大きなライブがあって、忙しくて全然学校の宿題が出来てないからピンチだから如月に手伝ってもらってますみたいな、ちょっと微笑ましいことを書いてある。
載せてある写真だって楽しそうに宿題をやっている様子が分かるし、とても何かがあったとは思えないから……つまり……。
「この日から星野如月が活動休止になるまでに何かあったの?」
明らかにそうとしか考えられない。僅か一ヶ月の間で勢いの波に乗っていた星野如月がアイドルを休止しなけれなばならない事態があった……いや、でも本人は確か言ってたわ。
アイドル活動を休止したのはスランプだからって。
「分からない、本当に沙紀先輩に何があったの?」
「うん……それが本当に分からないんだよね、そうなったきっかけもいくら探しても見つからなかったから……それに……」
「それに?」
「このブログに大きなライブがあったって書いてあるよね、それって如月ちゃんの二回目の武道館ライブだったから……それにユーリちゃんもゲストしてステージに立ってたから……」
武道館ライブ。
それは星野如月が伝説とまでに呼ばれるきっかけとなったあのみんなで一緒に見たライブの二回目。
しかもユーリも参加して、ライブも大盛況に終わったらしいわ。
完全にブームに乗って、更に知名度が上がってきたなかで、その約一ヶ月後に活動休止宣言。
「こんなの明らかに何かあったとしか思えないじゃない」
「そうだよね、それに如月ちゃんがアイドル活動を休止してからユーリちゃん、如月ちゃんの名前全く出さなくなったんだよね、だから……」
「沙紀先輩はユーリと会っていないじゃないのかと思ったのね」
こんな状況のなかで、自分の相方の名前を全く出さなくなったのは、二人に何かあったと考えられるし、全く会ってない可能性も考えられる。
一体、この一ヶ月の間に何があったの? それすらも全く分からないのよね。
彼女たちのファンがいくら情報を集めても納得のいく理由が見つからなかった。
まるで情報が集まらないようにコントロールされてるみたい。それを私たちが調べようだなんて絶対に無理よ。
もしかして沙紀先輩はこうなることが分かっていたの? 絶対に調べても真実にはたどり着けないから私たちを放置していたの。
調べられるとしても精々今日知ったことまでで、それ以上知ることが出来ないのが分かっていたから。
そうなると、自分の正体をすんなり明かしたのは別にバレたところで彼女には支障がないから。そもそもバレた原因が原因だし。
結局、私たちは沙紀先輩に手の平の上で踊らされたのね。
「完全にどうしようもないわね」
「そうだよね……」
どう考えても手詰まり。何をどう調べていいのか分からない以上、私たちが沙紀先輩に調べられることは何もないわ。
今日だって最近はよく花陽と調べていたから何となく来ただけ。
そもそも最初の目的は果たしてるのだから調べる必要もないのだけど……。
何でこんなに沙紀先輩の事、熱心に調べてるのかしら。
事の発端は花陽が沙紀先輩が星野如月だと思ったことだけど、何で私がこんな熱心にやる必要があったのかしら。
いや理由は分かってるわ。あの時の仕返しよ。
私の事好き勝手調べたくせに何かあるわけでもなく、ただ調べるだけ調べて、何もしてこなかったから。
何かして欲しかった訳でもない。人のプライベートを勝手に調べてきたからこっちだって、やり返さないと気が済まなかったから。
そして、あのときの沙紀先輩の顔を見て、どうして歌う前にそんな悲しそうな顔をするの。
何であのライブではあんなに自分の気持ちを込めて歌ってたのに、あの人の歌はこんなにも自分の気持ちが入ってないの。
けどきっともう調べても分からないわ。全部無駄だったわ。ならもういっそのこと……。
「う、う~ん、凛には難しいこと全然分かんないけど、沙紀先輩のこと知りたいなら本人に聞けば良いんじゃないの?」
私が星野如月について調べるのは止めようと言いそうなると、今まで黙っていた凛が、そんな身も蓋もないことを言い出した。
「言って答えてくれると思う、あの人、自分のこと話さないのに」
それが出来れば苦労はないわ。だけど、それは絶対に無理。沙紀先輩は自分のこと私たちには全く話さないのよ。
もしかしたら私たち以外には話してるかもしれないけど、誰に何を話しているのか全く分からないわ。
「それか、昔の沙紀先輩の知ってる人を探せば分かるんじゃあ……」
昔の……沙紀先輩を……知っている人……?
「例えばユーリちゃんは……やっぱり無理にゃ~、トップアイドルだもん、そう簡単に会えないにゃ~」
「流石に私たちじゃあ会えないよね、ユーリちゃん忙しいし」
確かにユーリなら確実に知ってそうだけど、私たちじゃあ会うことも叶わないわ。けど……。
「居るわ、確実に昔の沙紀先輩を知っている人が……」
そう……居る。今回調べてる際に少しだけ出てきた人物がいる。その人物なら確実に知っているはず、その人物は──
「二人の共通の友達」
あのブログで事あるごとに、存在は確認されてる彼女なら確実に知ってるはず。ただ問題がある。
「でもその人って顔も名前も……」
「分からない、そこが問題なのよね」
触れられはするけど、その子のプライバシーを守るためか顔も名前も載ってない。
そのためユーリ以上に会うことが困難だと思うけど、何か手掛かりがあれば、見つけられる可能性がある。
「待って……その人確か……あった」
何かを思い出したのか花陽はブログから何かを探そうとすると、何かを見つけ私は花陽が見つけた記事を見ると、その友達の家に遊びに来てる二人の写真が載っていた。
「この写真がどうしたの?」
見た感じこれというほど、二人の友達が何処に居るのか分かる手掛かりはない。ならどうして花陽はこの写真を見せたの。
「ええと……切れてるしちょっとボヤけて見えづらいけど、二人の左後ろの壁に掛かってる制服見覚えない?」
「制服? あぁ確かにあるわね──それが……!?」
「凛も見たい……!?」
花陽に言われて私と凛は写真を見ると、同じように反応した。
「そうね、確かに見覚えがあるわ」
「凛もよく見るにゃ~」
そうね、なるほど。まだ私たちは手詰まりじゃないのね。
手掛かりは見つけたわ。制服さえ分かればかなり調べる人間はかなり絞られる。
そして調べた中から二人の友達を見つけ出せれば、私たちは真実に辿り着けるわ。
「花陽……また手伝ってくれるかしら?」
正直、花陽は沙紀先輩が星野如月だと知るために手伝ってくれたから、これ以上手伝ってくれないと言っても文句はないわ。
「うん……良いよ真姫ちゃん」
そう思った私に花陽は快く引き受けてぐれた。きっと花陽にも思うところがあるのかもしれないわね。
「今度は凛もだからね、一年生で一人だけ仲間ハズレは嫌だにゃ~!!」
この前は仲間外れにされたから今回は一緒に調べるってアピールする凛。
「はいはい、分かったわよ勝手にすれば」
「相変わらず真姫ちゃんは素直じゃないにゃ~」
凛はまた何か言ってるけど、何か相手をするのはめんどうだからスルーするわ。
一先ずは今後の目的は決まった。
けど、私がここまでする理由は結局変わらない。
私に変なちょっかい掛けたこと後悔させてあげる。
今度こそ私は沙紀先輩があの顔をするのか知ってみせるわ。
そんなわけで真姫ちゃんが語りで今回は沙紀が名前だけしか出てないそんな回でした。
しかも色々と大事そうなこととチラチラと触れられてた沙紀の相棒であるユーリに触れる回。
でも真姫ちゃんたちが探そうとしてる彼女は読んでいる方なら分かる通り……。
少しずつ沙紀の過去に触れ始め物語は進行していきます。
そうして次回からいよいよ三章に入っていきます。
長かった……。
予定では夏には二章終わる予定だったのに……。
そんなわけで三章には沙紀興奮のイベント満載とそして……μ's最大の難関が待ち受けてます。
そんななか沙紀はどんな行動をするのか。
どんな展開になるのかお楽しみに。
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