ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー 作:タトバリンクス
ホント今回は軽く息抜きの回なのでそんなシリアスなことにはなりませんので、軽い気持ちで読んでいただければ幸いです。
それではお楽しみください。
1
「ねぇ……海未ちゃん……キスしてもいい?」
「な、な、な、何ですか急に!?」
いきなり沙紀が私にキスをしたいと言って、私は戸惑ってしまっています。
何時も唐突にふざけた事を沙紀はしますが、そういうことするのは殆どにこ先輩ばかりで、私たちに矛先が向くのは三回に一回の確率で、更に他にもメンバーはいますからかなり確率は低いです。ある意味事故に遭うようなものです。
「急にじゃないよ」
「えっ?」
「事故だったけど……あのとき……海未ちゃんとキスしたのが忘れられなくて……」
「そ、そ、そ、それってつまり……」
頬を赤く染めながら沙紀は私から目線を逸らして気恥ずかしそう私にそう言いますと、私はとても嫌な予感がしました。
「うん……私、海未ちゃんの好きになっちゃったみたい……」
「!?」
出来れば外れて欲しかった嫌な予感は的中してしまい、更に驚き戸惑ってしまった私に沙紀は少しずつ近づいて、私に迫って来ます。
「好きだから良いでしょ……キスしよ」
「よくありません!! 同姓同士でおかしいですし、しかも貴女はにこ先輩の事が好きじゃありませんか」
そもそも沙紀はにこ先輩の事を溺愛しています。そんな彼女がキスしただけで、私に惚れるはずありません。何かの間違いです。一時の気の迷いです。
「確かににこ先輩は大好きだよ、でもそれと同じくらい海未ちゃんが好きになっちゃったから」
私の肩を掴んで、私の目を真剣な眼差しで、真っ直ぐ見詰める沙紀。その眼差しに見詰められる性で、次第に私は恥ずかしくなり、彼女から目線を逸らしてしまいます。
「照れてる海未ちゃんも可愛い……」
「からかわないでください……」
「真面目で、凛々しくて、大和撫子の言葉が似合う海未ちゃんがこんなに顔を赤くしてたら、誰だってイジワルしたくなっちゃうよ」
そう言って沙紀は私の髪に触れて沙紀は私の髪の匂いを嗅い始めて、それを目の前で見せられてる私は頭の中が沸騰しそうなくらい恥ずかしくなり、身体中がどんどん熱くなります。
「海未ちゃん的にはこっちのほうがいいかな?」
私が恥ずかしがっているのに気付いたのか悪戯な笑みを浮かべてから沙紀はゆっくりと目を閉じて、そして──
「ふふ、海未さんは『白百合の委員長』の私のほうが好みなんですよね?」
彼女の雰囲気が凛々しくも淑やかな雰囲気になり、私がかつて憧れた『白百合の委員長』の雰囲気に変わりました。
「誰もが憧れる委員長と、こんな淫らな関係になる背徳感が堪らないんですよね」
私の髪に触れてない片方の手で私の脚に触れてゆっくりと腰、ウエスト、胸、脇、首と順に上に上がっていき、私は触れられる度に変な感覚に襲われます。
「フフ、可愛い反応ですね、もっと苛めたくなりましたから、更に特別サービスですよ」
吐息混じりに私の耳元でそう囁くとまた彼女は目を閉じて──
「光栄に思いなさい、この星野如月と恋人関係になるのだから」
沙紀が目を開くとその目は何処か冷たく、言葉も冷淡ですが、何処か小悪魔のような雰囲気が漂ってきました。
そうして私の頬を優しく触れて、ゆっくりと指で撫でながら最後には顎のほうに移動して、そこから顔を少し上げられて沙紀がキスをしやすい角度にされます。
そして、少しずつ沙紀の顔が、唇が、私の顔に、唇に近づいてきて、彼女の甘い吐息が私の思考を狂わせて、何も考えられなくなります。
「は、は、は」
段々と私の唇と沙紀の唇が重なろうと距離が縮まってきて私は──
「破廉恥です!!」
大声で叫ぶとそこには沙紀の姿はなく、目の前は私の部屋でした。それはつまり……。
「また……夢ですか……」
どうやら私は沙紀とキスしようとする夢をまた見ていたようです。
2
早朝──私は練習をするために何時もの練習場所である神社に向かっていますが、私はとても寝不足でした。
健康に気を遣って、常に規則正しい生活を心掛けてる私ですが、ここ数日は何時もよりも早く目覚めてしまい、その後もなかなか寝付けず、睡眠時間が短くなってしまっていました。
睡眠時間が短くなっている理由はハッキリとしていて、今朝見た夢が原因です。
沙紀が私に迫ってキスをしようとするかなり現実にありそうな夢。その夢をここ数日ずっと見てるために、私は恥ずかしさの余り眠る事が出来ず、寝不足になっているのです。
しかし、寝不足だと言う事を他の誰かにバレるわけにはいきません。
常日頃穂乃果たちに規則正しい生活をするようにと注意している手前、自分が規則正しい生活を出来ず、寝不足になっているなんて、しかもこんな馬鹿みたいな理由で、寝不足になったと知られれば、どんな風にからかわれる事やら。
特に沙紀、彼女に知られれば調子に乗って、夢みたいな事を本当にしてきそうなので、こんな事は夢の中で十分です(いえ、夢の中でも勘弁ですが)。
そんなわけで寝不足だと、気付かれないように特に夢の内容が知られないように気を引きしめねば。
「あっ、海未ちゃんおはよう」
「おはようございます、ことり」
私がそう心掛けて練習場所に向かっていると、同じく練習場所に向かっていたことりと合流しました。
「ことり、穂乃果はどうしましたか?」
姿の見えない穂乃果について、ことりに聞きますがこの時間でことりと一緒に居ないとなると、何故居ないのか大体予想できてしまいます。
「多分……まだ寝てるんじゃないかな?」
「そうですか、全く……仕方がありませんね」
予想通りやはり穂乃果は寝坊しているようです。何時も練習場所に向かう途中で合流することが多いので、ここで合流できないとなると、寝坊しか有り得ないでしょう。
ですが稀に早起きし過ぎて、私たちより早く練習場所にいる場合もありますが、本当に稀なので余り期待していません。
「あれ? 海未ちゃんどうしたの?」
「何ですか急に」
「いや、何か何時もより怒ってないかななんて」
「うぅ、それは……」
今日は私も寝不足の手前余り穂乃果に人の事を言えないために怒れない何て言えるはずもなく、言葉に詰まってしまっていると──
「あぁ~!! 海未ちゃんとことりちゃんだ~」
大きな声で私たちの名前を呼んで、こっちに向かって走ってくる穂乃果と合流しました。
「セーフ!!」
私とことりの間で立ち止まって、ホッと一安心する穂乃果。
「セーフって、穂乃果ちゃんやっぱり寝坊したの?」
「しまった!! いや……寝坊してないもん、昨日寝るの遅くって、起きたら時間ギリギリだけだったもん」
「それを寝坊と言います、それとしまったと言ってますよ」
更にここまで走ってきたってことは、つまり寝坊したから急いで向かってきたと言っているようなものですから、いくら言い訳しても無駄です。
「だから違うって」
無駄だと知らずに往生際も悪くまだ言い訳をしようとする穂乃果。
「まあでも今日は間に合いましたからそこまで言いませんが、以後気を付けるように」
「あれ?」
「どうしました?」
「ううん、何でもない何でもないよ」
軽く穂乃果に注意して、そろそろ練習場所に向かおうとすると、穂乃果が何か疑問に思ったのかことりのところに行って何かこそこそと喋り始めました。
「どうしたの? 海未ちゃん何かあったの?」
「やっぱり、穂乃果ちゃんもそう思うよね」
「そうだよ、何時もだったらもうちょっと怒られるのに、今日はそんなに怒られなかったよ」
「ははは……穂乃果ちゃんらしい基準」
「二人ともそろそろ行きますよ」
二人で何を話しているのか知りませんけど、そろそろ行かなければ練習に遅れてしまいます。この時間だとメンバーの何人かはもうとっくに準備している時間ですから。
「待ってよ、海未ちゃん」
「うん、今行くよ」
そう言って穂乃果とことりは私の後を追って、一緒に練習場所に移動し始めます。
3
「そういえば穂乃果ちゃん」
「なに? ことりちゃん?」
「寝るの遅かったって言っていたけど何してたの?」
三人で練習場所に向かっている途中、ことりが穂乃果が寝るのが遅くなった理由を聞き始めました。
「大方漫画でも呼んでて夜更かしでもしてたのでしょう」
穂乃果の部屋には漫画が結構置いてありますし、何となく読み始めて止まらなくなったと言うのが、一番有り得そうな理由です。
「違うよ!! 昨日は沙紀ちゃんのライブをネットで見てただけだよ」
「!?」
穂乃果の口からいきなり沙紀と言って驚く私。沙紀の名前が出たせいか今日の夢を思い出して、どんどん恥ずかしくなっていきます。
「沙紀ちゃんのって、如月ちゃんのライブを? どうして?」
そんな私に気付かず、ことりは穂乃果に沙紀のもとい星野如月のライブを見てた理由を聞いていて、正直私はホッとしてました。流石にこんな状態の私を見られたら不味いです。からかわれてしまいます。
「ほら、沙紀ちゃんってプロのアイドルでしょ、だったら沙紀ちゃんのライブを見たら勉強になるかなって思って」
「確かにそうだね、沙紀ちゃんと言うよりも、如月ちゃん? の歌とダンスはスゴいよね」
こっそりとバレないように自分の心を落ち着けながら二人の話を聞いていると、ことりが沙紀の歌とダンスが凄いと言うのが聞こえ、私も心の中で同意します。
映像ですが彼女のライブを見たりしましたし、実際に一回彼女が歌うところ踊ってるところを間近で見たこともありますが、彼女の技術が高いのは分かります。
素人目ではなく、スクールアイドルをやっているからこそ、彼女がどれほど実力があるのか、僅かな期間でプロのアイドルとして名を馳せたのか分かってしまいます。
彼女の一つ一つの動作にムラがなく、常に完璧であり、ライブ中の時ですら、一回も音程が外れない。ダンスも常にキレのあるダンスを踊っている。
私たちもライブで歌ったり踊ったりしていますが、本番の緊張感で音程を外すときも、少しダンスがずれてしまう事もあります。
ですが彼女にはそれが全くなく、常に完璧に歌やダンスを踊っているのです。
悔しいですけど、それほど彼女と私たちとでは天と地ほどの差、月とすっぽんです。だからこそ学べることは多いのは分かります。
上手い人から教わる。それはどんな物事においても大事なことです。そう考えると私たちはとてもよい環境で練習できてるなんて思います。
何せ、一世を風靡したアイドル星野如月が直々教えてもらえるなんて普通じゃ有り得ないことですね。
「それもスゴいけど、本物のプロのアイドルだよ、芸能人だよ、花陽ちゃんと同じようにサイン貰っておけばよかった」
「そこ!?」
私たちが恵まれた環境だと知ってか知らずか、穂乃果の焦点は全く違うところを向いていました。
「そうだよ、同じが学校に芸能人が居るなんてスゴいじゃん、あぁ~今度サイン頼んだら貰えるかな?」
「どうだろう……、ねえ、海未ちゃん」
「えっ!? 多分……貰えるとは思いますよ、実際に貰ってた人が居ましたから」
突然、私に話を振られて驚いてしまいましたが、何とか心はある程度落ち着いていたので、まともな対応が出来ました。
「花陽ちゃん、スゴかったね、沙紀ちゃんが如月ちゃんだと分かったらすぐに貰いに行ったもんね」
まさかあの尋問のように問い詰めてられて、証拠を叩きつけられ自供する形で正体を明かしたなか、堂々とサインを貰いに行ってましたから。
ある意味彼女のアイドルに対する行動力には驚かされました。その後、普通にサインする彼女も彼女ですが。
「よ~し、穂乃果も後で貰おう」
そんな感じで穂乃果は沙紀からサインを貰う気満々で居ると、もうすぐ神社の階段が見えてきてそこから──
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
神社の階段から話題の人物、そして私の寝不足の原因沙紀が勢いよく転がり落ちてきました。
そんな沙紀を見て、私はこんな人に寝不足にさせられているのですねと、心の中で思いました。
「ああ、死ぬかと思った」
そんなことを知らずに階段から勢いよく転がり落ちて、少ししてから何事も無かったように立ち上りピンピンとした様子する沙紀。
本当に何事も無かったようにしているために全く説得力がありませんけど。
「ははは……一応聞くけど大丈夫?」
「あっ、みんなおはよう、身体の方は大丈夫だよ、ほら」
ことりが心配の必要はないですけど、沙紀に声を描けると、沙紀は私たちに気付いて挨拶をしてから色々と身体を動かして大事はないと報せます。
「おお、相変わらず身体は丈夫だね、流石はプロのアイドル」
「いや、アイドル関係ないと思いますが」
そんな沙紀を見てそんな感想を漏らす穂乃果に対してそんな返しをします。
「ハハハ、海未ちゃんの言う通りアイドルは関係ないよ、元からこの身体は丈夫だからね」
「!?」
沙紀も私の言うことを笑いながら肯定していますが、沙紀に名前を呼ばれて、ドキッとしている私はそれどころじゃありません。
一先ずバレないように、ことりの後ろにこっそりと隠れて落ち着くのを待ちましょうと考えて、私は沙紀に顔が見られないようにことりの後ろに隠れます。
「それで今日はどうして階段から転がってきたの?」
「にこ先輩に告白しようとしたら突き落とされちゃった」
「うん、何時も通りだね」
穂乃果は沙紀がどうしてこんなことになったのかと聞くと、理由は何時ものことだったので、簡単に納得する私たち。
何だかんだでこれが日常になってしまってます。馴れって怖いですね。
ただ何時もとは違っていたのは沙紀からにこ先輩と口にしたときに、何故か胸が少し苦しくなりました。
「そうだ! 沙紀ちゃんサイン頂戴!!」
「良いけど、ペンと書くものある?」
まるで思いましたかのように穂乃果は沙紀にサインをお願いすると、沙紀はサインを書くのを引き受けてくれましたけど、穂乃果に書くものがあるのか聞いてくる。
「あっ、ペンはあるけど、何かあったかな?」
サインを書いて貰うにしても書いて貰うものを用意してなかった穂乃果は何か無いか自分の鞄の中を探しますけど、なかなか見つからないみたいです。
「そういえば上に花陽ちゃんがいたから、あの子なら色紙何枚か持ってそうだから貰ってみる?」
なかなか手頃な物が見つからない穂乃果に沙紀はそう提案する。確かに花陽なら何枚か持ち歩いてそうですけど、そう都合よく持ってるものでしょうか。
「そうだね、花陽ちゃんに聞いてみるね、それにやっぱりサイン書いて貰うなら色紙だよね」
沙紀の提案に乗って花陽から色紙を貰うことにする穂乃果。
「それじゃあそろそろ上に行って、練習の準備しようかその前に……」
そう言ってそろそろ上に戻ろうとせずに沙紀は階段とは逆の方へ歩いてそして──
「何か海未ちゃん顔赤いけど、熱ない?」
私のおでこに自分のおでこをくっつけて熱が無いか調べる沙紀。
目とはなの先に私の事を心配している沙紀の瞳、沙紀の柔らかそうな唇が見えて今朝見た夢を思い出して、私はどんどん恥ずかしくなり、体が熱くなります。
「やっぱり熱いよ、もしかして熱でもあるじゃない?」
そんなことを知らずに沙紀は私が熱でもあるじゃないのかと勘違いして、心配してくれますけどその言葉が私の耳に入らずに夢の中の出来事せいでまともな思考が出来ず、私つい反射的に沙紀を思い切りお腹を殴ってしまいました。
「何で? 別に下心あったわけじゃないのに……」
「はっ!? ひ、ひ、日頃の行いです!!」
「なら仕方ないね……ガクッ」
沙紀を殴ってから我に返って自分が何をしたのか気づきましたけど、自分の非を認めずについそんなことを言ってしまい、沙紀は沙紀で納得した様子で、そのあとに意識を失いました。
沙紀に近付かれただけでこうなるなんて。本当に私はどうしてしまったのでしょうか。
私はそんな疑問が頭のなかで渦巻いてしまいました。
4
最初はただの憧れでした。
この音ノ木坂には淑やかで、慎ましく、思慮深く、誰にでも分け隔てなく接するそんな生徒が居ると言う噂を耳にしました。
それが『音ノ木坂の生きる伝説』後に『白百合の委員長』と呼ばれる沙紀でした。
私は日舞の家系で、その影響からか、常日頃から大和撫子なるべく心掛けて生活をしていました。
そんな時に沙紀の噂を聞きまして、もしかしたら彼女を知れば、良き大和撫子になるとヒントが得るだろうと思い、彼女のことを知ろうと、色々な噂を聞いたりしました。
勿論、同じ学年だということもすぐに知りましたので沙紀のクラスに足を運びましたが、沙紀はほとんど教室には居ませんでした。
ちなみに本人から当時のことを聞くと、噂が出回った頃は、特ににこ先輩の所に行っていたみたいだそうです。
そのために私は彼女の顔を知らずに噂だけを知っている状態になってしまい、その結果、沙紀が私たちに接触してきた際に、彼女を沙紀だとは知らずに、その上、噂に振り回されていたために墓穴を掘ってしまったわけなんですけど。
そのあとは、沙紀が私たちのマネージャーになってくれまして、今後のこと決めるために穂乃果の家に沙紀を案内しました。
その道中で緊張していた私にスキンシップとして、私の胸を触ってきたのですが、今思えば、確実に下心があったと確信できます。
あの沙紀ですよ。何時も何時も私たちの前でふしだらな事を言っては隙をあらば、色々な所に触れようとするのですよ。
しかし、私も『白百合の委員長』の沙紀しか知りませんでしたし、そんな沙紀の性癖を知りませんでしたから、緊張してまともに会話できなかったのは事実なので、彼女を責めること出来ません。
あれがなければ、穂乃果やことりのように沙紀と親しくなるのに時間が掛かったと思いますし、結果的には悪くはなかったです。
何はともあれ、その日からファーストライブ、にこ先輩の紹介、テスト対策、絵里先輩の件などと、色々と私たちを陰ながらサポートしてくれました。
たった二ヶ月の出来事でしたが沙紀と一緒に行動して、彼女の印象はどんどんと変わっていきました。
突然、にこ先輩から沙紀は百合だと言われて戸惑い、その後──様々な彼女の奇行を見て、私の当初の印象とは大分掛け離れ色々とショックを受けました。
特にアルパカに対してケンカを始めたときはあまりの衝撃で倒れそうになりましたよ。
そのときににこ先輩にあんたが信じる沙紀を信じなさいと、声を掛けられて気づいたのです。
沙紀は仕事には真面目に取り組んでくれて、私たちの身体を気遣いながらも実力を付ける練習を作っている姿を思い出してみると、気付きました。
たとえどんなに印象が変わろうと、沙紀は私が憧れていた篠原沙紀なのだと。
そんな彼女をつい目で追ってしまっていたことに。
まあですが、今彼女に悩まされているのは別の話なんですけど。
5
結局早朝の練習は身に入りませんでした。
沙紀が倒れたあと、何時ものようにすぐに目覚め(相変わらずその頑丈さには言葉も出ないですが)メンバーが揃ったところで練習を始めた訳なのですが、今朝見た夢のせいで集中できませんでした。
練習だけではありません。今日の午前中の授業も寝不足もあってあまり集中できず、まともにノートを取るのが精一杯でした。
睡魔と乱れた心と戦いながら、何とか昼休みになり私は何処か一人に場所を探していました。
何時もならお昼は穂乃果とことり、たまに沙紀と一緒に食べるのですが、今日は寝不足だとバレないため、更に沙紀と一緒に居て、夢の事を思い出さないように、一人でお昼を食べようとしました。
二人に断る際に何が合ったのか心配されましたが、断る理由が理由なので、二人には悪いですが言葉を濁して何とか振り切りました。
沙紀は委員長や他の仕事が合ったり、にこ先輩の所へ行ってる事が多く、今日はお昼に私たちのクラスに来なかったので会わずに済みました。
実のところ彼女と一緒にお昼を食べること事態、大体週に一回くらいで少ないのですが、今日はその一回じゃなくてホッとしました。
「しかし、何処へ行けば良いのでしょうか」
場所を探しているとはいえ、他のμ'sのメンバーに会っては意味がないので何処へ行こうか迷いました。
部室や屋上は誰がいる可能性が高いですし、中庭も人が多いですし、かといって図書室や音楽室は真姫が、生徒会室は絵里先輩や希先輩(更に沙紀)が居る可能性があります。
そう考えると学校で一人になれる場所なんてそうそう無いですね。
しかし何とか一人で落ち着けるところ、出来ればこの睡魔を何とか出来る場所を見つけ出さねばと、学校中を探し回りますが、こんなことでは不味いです。
まだ午後の授業もありますし、放課後の練習もあります。
それにオープンキャンパスまで二週間を切ってますし、廃校の決定まで猶予もありません。
そんななかでまともに練習が出来ずにみんなの足を引っ張る訳にはいきません。なので、早く(出来ればこの睡魔だけでも)何とかしたいですが、そんな都合よく寝られる場所があるとは……。
そう考えてる歩き回っていると、ふと、私はそんな都合のよい場所に一つ思い出しました。彼処なら殆んど生徒が来ないですし、寝不足も解消できるはずです。
ならば、善は急げです。お昼を食べる時間も含めると、そんなに寝る時間もありませんから。
私は目的地の目処が立ちましたので、早々に移動して、一人になれる場所に向かいました。一人になりやすくて、寝ることが出来るそんな都合のよい場所──保健室へ。
「失礼します」
そうして保健室に着いた私は中に入っていくと、中には先生がおらず、机の上に一枚のメモが置いてありましたので読んでみますと、メモにはこう書いてありました。
『お昼を食べに外出中なので、用件はベットで寝てる子に』
まさか先生が居ないとは、しかも寝てる子を起こして用件を聞けと書いてありますが、流石にどうなんでしょうか。
外出中の先生に仕事を任せられてる辺り、かなり信頼されてるみたいですが、寝ているのですよね。何と言いますか、かなり仕事が雑な気もします。
一先ずは保健室の方を見ますとベッドが二つあり、一つはカーテンで閉まっていました。それによく聞いてみれば寝息も聞こえますから誰かが寝ているのは分かります。
誰が寝ているのかは知りませんが、その人を起こしてまでの用件かと言われると、そこまで用では無いですし、勝手にベッドを使うのも手なんですけど、勝手に使うのもあれですが、寝ている人を起こすのは良心が痛みます。
ですが、ベッドを借りますくらいならすぐに済みますので、手早く伝えるだけ伝えて早く横になりましょう。
そうして私はベッドで寝てる人にベッドを借りますと伝えるためにカーテンを開けると、そこには意外な人物が居ました。
「何で……貴女が……」
私が一番会いたくない人物、私の寝不足の原因である沙紀がすやすやと気持ち良さそうに寝ていました。
6
私の寝不足を解消するため、あわよくば乱れた心を落ち着かせるために保健室で休もうとしていましたのに、その原因である彼女がここに居たことに私は戸惑っていました。
彼女を見て、私はまた例の如く、今朝見た夢を思い出して、更に恥ずかしさも甦り、心までもが更に取り乱しそうになりました。
一先ずは彼女を起こさないように静かにしなければ。
そう思った私ですが恥ずかしさのあまり、胸の鼓動が大きくなっていることに気付き、その音の大きさから、もしかしたら部屋全体に響き渡ってるのではないのかと、錯覚してしまいます。
こんな心が乱れてる状態で動けば、何か予期せぬ事態で沙紀を起こしてしまいそうです。
そう思いながらも不意に沙紀の寝顔を見ると、とても気持ち良さそうな顔をしているためか、何処か幼い感じがします。
私は沙紀のせいでこんなに悩んでますのに、彼女は気持ち良さそうに寝ていると、少々怒りが沸き上がりますが、それは私の勝手な八つ当たりですので、ぐっと我慢します。
我慢しながら、彼女の幼い寝顔を見てると、何だか可愛いと言いますか、癒されると言いますか、不思議とどんどん気持ちが落ち着く感じがします。
何でしょうか、普段はふざけてるせいか忘れてしまいますが、沙紀の顔立ちは綺麗に整ってますから、可愛いんですよね。
そもそもアイドルですし。綺麗だったり、可愛かったりするのは当然なんですが、何時もの彼女のキャラがそれを忘れさせてしまいます。
これがギャップと言うものなのでしょうか。よく分かりませんけど。
「……さ……き……」
そんな風に沙紀の顔を眺めると、彼女の急に魘されてるような声を出し始めて、自分の名前を口にしました。
「……まい……にち……さん……しょく……ところ……てん……」
ところてんは食べ物の事だと思いますが、さんしょく? 三色? 三食? それとも山色でしょうか。
「……生活は……かんべん……して……」
そう寝言で言うと、もしかして、沙紀が言ったのは『沙紀』ではなく『先』でこれを今までの寝言を合わせる文法にすると──
これから先、毎日三食ところてん生活は勘弁してと言ったのでしょうか。
確かに毎日、同じ食事をするのはたとえ好きなものでも嫌ですが、何をどうしたらそんな夢を見るのでしょうか。いえ、私も人のこと言えませんが。
沙紀の寝顔を見て癒された心に、私の同じように夢で魘されてる沙紀を見てると、何だか少しですがスッキリとした気分になりました。
そもそも何故沙紀はここで寝ているのでしょう。何時もならお昼は誰かと食べているのか、何かの仕事をしているはずですが。
大分心が落ち着いて余裕が出来始めると、今度はそんな疑問が湧いてきました。
それ以前に私は彼女についてあまり知ってることが少ないような気がします。
この前の星野如月の件だって、沙紀は黙っていましたし、家だって何処にあるのか知りません。
どうして彼女が委員長キャラでやっているのか、これは単に沙紀のアイデンティティである、三つ編み眼鏡があるかも知れませんが。
でも沙紀の眼鏡って、伊達眼鏡でしたよね。変装の為だったのでしょうか。それも知りませんし、何も学校だけではありません。
休日はどんな風に過ごすのか、家では何をしているのかほんの些細な事から、何でアイドルを始めたのかと言う経緯など知らないことが多すぎます。
沙紀と知り合ってまだ二ヶ月ってのもあるのでしょうが幾らなんでも知らなすぎでは。
そんな風に考えてると、沙紀の寝顔がとても嬉しそうな表情をして──
「可愛い……女の子が……いっぱい……だあ」
一体……どんな夢を見てるんですか本当に。今までの疑問で悩んでいたのが馬鹿みたいに思えてしまいます。
さっきまで三食ところてん生活で魘された筈ですのに今度は可愛い女の子に囲まれてる夢ですか。
「マジ……ですか……お胸様を……触って……いいんですか……では……」
急に沙紀の寝息が荒くなって、夢を見ながら興奮してますよ。どんだけ女性の胸を触りたいんですか。
夢で胸を触ろうとする夢を見るなんて、相当欲求不満なのでは無いのでしょうか。
これは不味いです。もし本当なら私たち相当危ないのでは……。その内私たちを襲ってきそうで恐いです。
ですが沙紀は欲望に動くと、何故か運が無いので尽く失敗してますから問題ないでしょうが、沙紀の質の悪いのはそこまで行くのにからかって来るところでしょう。
「あれ? この……お胸様……固い……」
何でしょうか、一瞬誰の胸を触っているのが分かったような気がしましたが、私の気のせいですよね。
「もしかして……これ……お胸様じゃなく……」
沙紀の声が少しずつ怯えてるように聞こえますが一体何が会ったのでしょうか。
「男の……筋肉……」
声を震わせながらそう呟くと──
「あぁぁぁ、周り女の子が一瞬で男の筋肉だらけにぃぃぃぃ!!」
夢の中で触れたのが女性の胸ではなく、男性の胸だと気づいたところ急に大きな声で叫びだしました。
「止めて、止めて、筋肉が……筋肉イエイエ言いながら近づかないで!!」
一体どんな状況ですか!! 沙紀がこんだけ取り乱すなんて、逆に気になってしまいます。やっぱり見たくないですけど、私も嫌ですよ、いきなり男の人に囲まれる夢なんて。
「こんなに……男の筋肉に……囲まれたら……私……」
すごく小さなくて泣きそうな声で……と言うよりも完全に泣いてますよ。
「死んでしまいます!!」
沙紀がそう言って飛び起きますと、いきなり私の抱きついてきてきました。
「!?」
不意に沙紀に抱きつかれたので、沙紀の体温や身体の震えが伝わって、私は驚き、戸惑い、また顔が熱くなって、上手く思考することが出来ませんでした。
「はっ!! あれ……? 夢……? 良かった……夢で……って何で海未ちゃんが居るの?」
そうして沙紀は少し落ち着くと、悪夢から解放されてたことと、私が居ることに気づきました。
「も、も、も、も、も、も、もしかして海未ちゃん……私の寝顔を見て……寝言も聞いた?」
すると、沙紀は明らかに動揺した声で私にその二つを見たり、聞いたりしたのかと、聞いてきましたので、私は働かない頷くと沙紀は顔を真っ赤にして──
「あぁぁぁぁぁ!!」
叫びだして私の身体に顔を埋めて、顔を隠してしまいました。
「何で!! 私の身体で顔を隠しているんですか!!」
「いいじゃん、このほうが海未ちゃんに顔見られないから」
完全に沙紀は寝顔を見られて、恥ずかしがって動揺しているのか、口調も何時もとは違って子供っぽくなってますけど、沙紀はそれに気付いてません。
「よくありません!! だって……」
私も私で沙紀に抱きつれて落ち着いてはいられません。何故なら顔を埋められると私の胸の鼓動が沙紀に伝わるじゃないですか。
私は沙紀にそれがバレるのではないのか心配になり、こちらも気が気で状態になり、そうして私と沙紀は互いに互いを恥ずかしがってる変な状況が続いてしまいました。
7
「何で……海未ちゃん……ここに……?」
少し時間が経ってお互いに落ち着くと、沙紀は私から離れて、互いに別々のベッドに座り、恥ずかしそうに目を合わせようとはせず、沙紀は私にここへ来た理由を聞いてきました。
「少し……体調が悪かったので……休もうかと……」
「ああ、やっぱり海未ちゃん……体調悪かったんだね」
流石に本当の事を言えませんから(言ったら、さっきと逆戻りです)差し障りない事を言うと、沙紀は何処か納得したような反応でした。
そういえば、今朝の練習の時も私の顔が赤くって体調悪いと勘違いしてましたね。
「沙紀は……どうしてここに?」
「私は……寝に来た」
まさか、直球で寝るために保健室に来るとは。予想の斜め下過ぎて逆に呆れます。でも駄目です、私も沙紀を呆れることが出来ませんでした。
「何? その顔? 何だかんだで私は真面目で通ってますから、少し頼めば余裕でベッドなんて借りられますよ」
「それ……堂々と言っていいのですか」
恥ずかしさも大分収まってきましたのかそう高らかに言う沙紀にそうツッコミを入れて、私も大分落ち着いてきたのを実感します。
「だってこの前……、私……海未ちゃんと……いや……何でもないから……ただ眠れないだけだから」
沙紀もどうやら最近寝付きが良くないようで、眠れないみたいですけど、ただ何かとても引っ掛かる事が。
沙紀が寝れないのは私と関係がある? それは一体……。
何かとても不幸のようなそうでも無いような事が合ったような……。例えば、絵里先輩が入部してきた日とか。
「海未ちゃん!! 体調悪いんでしょ!! ベッドで横になって!!」
「そんな急に……」
私が何か思い出せそうになると、沙紀は立ち上がって私の身体に触れて、ベッドに横にしようとするのは、ますます怪しい。
そういえばあの時……沙紀の正体が星野如月だと分かって、そのあと沙紀はこれまで通りに接して欲しいと言ったあとの記憶がありません。確か記憶が途切れる前に沙紀の顔が近くにあって……。
「あっ、あの時……沙紀……貴女……私に……」
かつて同じような事があって、私はすんなりと沙紀が私に何をしたのか思い出しました。
「何の事かな、私、分かんないかな」
完全にあらぬ方向へ目線を向ける沙紀。この反応はもう確実ですね。相変わらずこういうときなると、嘘が下手ですね。
「しらばっくれないでください、思い出したしたよ、あの時私にその……」
続きの言葉口にしようとしましたが、かなり恥ずかしいので、少し躊躇ってしまいます。
「倒れて……キス……しましたよね」
「ごめんなさい!!」
私が恥ずかしそうに言うと、沙紀は直ぐ様土下座をして私に謝ってきました。
「やっぱりですか、そのせいですね、私が最近あんな夢をみるのは!!」
記憶に無くても感覚が覚えてたせいで、私は沙紀とキスをする夢を毎夜毎夜と見せ続けられたのですね。これで何故あの夢を見たのか解消されました。
「夢って何の事?」
沙紀にそんな質問されて私はここでも墓穴を掘ったことに気付きました。
「はっ!! 何でもありません」
「もしかして……海未ちゃん……」
基本的に勘の良い沙紀の前では気づいたときにはもう遅かったです。
「私とキスする夢でも見てたの?」
そう言われて恥ずかしさが振り返してもう何度目かの分かりませんが、顔が真っ赤になりました。
「ふ~ん、やっぱりあの海未ちゃんが……私とキスする夢を見たんだあ」
私の反応を見て、まるで面白い玩具を見つけたようないやらしい目をして、これは弄られると本能で分かりました。
「海未ちゃんって意外とムッツリさんだね」
「沙紀に言われたくないですよ」
「私はムッツリじゃないよ!! むしろオープンだよ」
「どうでしょうか、普段は優等生な委員長を装って、女の子に近づいてくるじゃないですか」
「くっ、言い訳出来ない」
「いや、そこは言い訳をしてくださいよ」
例えば、自分の正体がバレないようにとか、自分のアイデンティティの為ですとか。本当にそれっぽい事を言えば良いのに、もしかして本当にそれが理由何ですか。
「フフフ、何て馬鹿みたいな会話ですね」
「ホント、さっきまでの事が嘘みたい」
そんな風に今までの会話を思い出してみると、本当に下らない会話なのでついお互いに笑い始めてしまいます。
沙紀と会話すると、本当に何て下らないことで悩んでいたのでしょうと思ってしまいます。
まあ実際の所、下らない悩みでしたので。
そうやってお互いに笑うと、まるで憑き物が落ちたかのようにスッキリとした表情になりました。
笑い終わったあと、昼休みの終わりを告げるチャイムがなるのが気付いて、結構時間が経っていたことに気付きましたから、私は教室に戻ろうとすると──
「良いの? 休まなくって?」
「はい、大分気分も良くなりましたから」
沙紀にそんなことを聞かれたので私は十分体調が良くなった伝えて保健室を出ました。
「そう、それは良かった」
沙紀はそんな私を見て、笑顔でそう言うと私は立ち止まってからこの一言を付け加えました。
「ですが、ちゃんと私にキスをした責任は取って貰いますから」
「嘘!!」
「本当です」
そんな訳で後日、沙紀には責任を取ってもらうために、彼女からトレーニングメニューの組み方を教えてもらうのは別の話です。
今回は久々に海未の語りでした。
特に意味があるわけでもなく、本当に何でもない普通の日常譚。
たまにはこんな話でも言いかなと思い書いてみた訳ですが、次回は打って変わって前にも予告したよう沙紀の秘密を追う彼女たちの話です。
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