ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー   作:タトバリンクス

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毎回、小説を書いて思うことはこのキャラこれで口調これで合ってるのかなとそんな風に思いながら書いています。

では、二話目をどうぞ。


二話 篠原沙紀 その二

 1

 

 ウチの名前は東條希。音ノ木坂学園三年生で生徒会副会長をやってるんや。

 

 あれ? 前回はにこっちが語り手をやってたのに何でウチがやってるのかって? それはウチも沙紀ちゃんの先輩やからや。

 

 まあ本当はあの子に自分語りさせるのは、ちょっと心配というか、不安しかないのが理由なんやけどね。

 

 なんというか前回の彼女の飛ばし振りを、にこっちから聞いていると、まだ早いかななんて思って、今回はウチが語り手もとい進行をさせてもらいます。

 

 あっ、そうそう。前回から分かるようにウチも沙紀ちゃんの本性も知っているし、にこっちを溺愛しているのも(ホント事故みたいなもんやったけど)知っている。

 

 と、言っても委員長ちゃんの……あっ、委員長ちゃんって言うのは沙紀ちゃんのあだ名で理由はにこっちが語ってくらたら省略するけど、ウチは沙紀ちゃんのことを委員長ちゃんって呼んでるんや。

 

 話は逸れちゃったけど、委員長の本性を知っているのはウチとにこっちくらいで他の人たちは見事に騙されてるみたいやけど。

 

 となると、本性を知っている人がもういないから(ウチが知らないだけで他にもいるかもしれないけど)次は誰が語り手をやることになるのかはちょっとわからないけど、ひとまずはウチが今回を遣り切れなければいけないので、先のことは考えず、今を精一杯が頑張らせてもらいます。

 

 拙い語り手だと思いますが何卒よろしくお願いします。

 

 というわけで、早速本題や。

 

 現在、音ノ木坂は前回にこっちが語ってくれたように廃校の危機を迎えてるんや。

 

 そこでウチら生徒会は廃校を阻止するために動き出そうと、ウチの親友であり、生徒会長でもある絢瀬絵里(ウチはエリチと呼んでるやけど)を筆頭に、今朝この学校の理事長に許可を取ろうとしたんやけど、許可は下りなかった。

 

 エリチは生徒会長として学校のため何か出来ないのかと考えているやけども、理事長から何で許可が下りなかったのか理由は分からずただ焦っていた。

 

 ウチは何で理事長が許可を出さなかったのか、理由は分かるんやけど、それはエリチ自身が気付かないと意味がないので今はそれに気づけるように準備をしているところや。

 

 といっても、何かしら生徒会副会長として、理事長が許可を出しそうな案をとりあえず出しとかないと、エリチの機嫌が悪くなるから、そんなわけでこの学校で最も有名な生徒──篠原沙紀ちゃんに知恵を借りて、その説明をしにもう一度会いに向かったのは良かったんやけど……。

 

「にこ先輩。何で私の愛を受け取ってくれないのですか。ひどい……、酷すぎます」

 

「だ~から、あんたの愛は重いって言ってるの沙紀!!」

 

 どういう状況や、これ? 

 

 2

 

 とりあえず状況を整理しないと。何事も整理整頓は大事や。

 

 まずウチはさっきも言ったように委員長ちゃんの知恵を借りようと、昼休みにアイドル研究部の部室に向かったん。向かったところまでは良かったんや。そこまでは。

 

 そしてアイドル研究部の部室のある階まで向かうと、まるで別世界みたいにピンク色の甘々な空気を肌で感じてた。

 

 ウチは思わず委員長ちゃんが、何時ものように、にこっちとラブラブしていると思って、部室の扉をノックしてから扉を開けると、さっきのやり取りが丁度行われてたんやけど……全く状況が分からないんよ。でも、面白そうだからもうちょっとだけ見てよ。

 

「私の丹精込めて作ったお弁当を……にこ先輩はどうして食べてくれないですか、せっかく、にこ先輩と朝デート出来ると思って、楽しみのあまりに昨日の夜から準備していたのに」

 

 フムフム、成る程。委員長ちゃんはにこっちと朝から一緒にいられるのが嬉しすぎてお弁当まで作ったのに、肝心のにこっちは食べてくれないと。

 

 これだけ見ればにこっちが悪いんやけど、委員長ちゃんやからな~。何かとても変なことをやらかしていると思うんやけど。

 

「普通に作ったら食べもなくもないわよ。でも……」

 

 でも? 一体、委員長ちゃんは何をやらかしたんや。そんな風に考えてるとやっぱりというべきやのか、にこっちの口からとんでもない事実を知ってしまう。

 

「何でお弁当のおかず全部に沙紀の体液を混ぜ混んでるのよ!!」

 

 へっ、にこっちは今なんていたの? 体液? 汗や涙、血とかの人間が出す体液? 

 

 少しこの事態に頭がついていってない。なんやろ、とりあえずはにこっちはまだお弁当を食べてないみたいやからセーフだと思いたい。

 

「沙紀が言わなければ全部食べちゃうところだったわよ。というか、一口食べちゃったじゃないのよ」

 

 アウトみたいや。なんいうか……にこっち御愁傷様や。色々な意味で。

 

「酷いじゃないですか。せっかく私の料理の腕前を披露して、特に私の味を覚えてもらおうと美味しく作ったのに……」

 

「頑張る箇所がおかしいのよ!! ちゃんとまともにお弁当を作ってくれば、評価はしたわよ」

 

 確かに頑張る箇所はおかしい。委員長ちゃんならわざわざ余計なことをせずに、普通に作っても美味しく出来そうやのに。

 

「でも、この際、はっきり言うわ、沙紀。さっきも言ったようにあんたの愛は重い。とてつもなく重すぎてこっちが受け止められないから迷惑なのよ」

 

「そんな……私はにこ先輩のために頑張って来たのにそんな私をにこ先輩は嫌だと……」

 

 その言葉にショックを受ける委員長ちゃん。まるで糸が切れた人形みたいガクッと足元から崩れてその場で固まる。

 

「そうよ。正直に言ってあんたの事、にこは嫌いだから」

 

 更に追い打ちを掛けるにこっち。それ以上は止めてあげてにこっち、委員長ちゃんを追い詰めないであげて、本当に可哀想だから。

 

 まあでも何時もならここで委員長ちゃんがまた変なことをやらかすんやけど。しかし、今日は何か違っていた。

 

「フフフ、そうですか。にこ先輩は私の事が嫌いですか、そうですか……」

 

 何かが吹っ切れたみたいに不気味に笑う委員長ちゃん。顔は俯いて見えないから彼女がどんな顔をしているのかが分からない。

 

「なら、私に生きる意味はないですね。にこ先輩に必要とされない私はただの産業廃棄物ですから」

 

 産業廃棄物ってそれは言い過ぎじゃない。

 

「でも、私一人で死ぬのは嫌ですからにこ先輩……私が愛したあなたを殺してからバラバラにして、それから隅々まで私がにこ先輩の体を食べましょう」

 

 そう言って委員長は顔を上げて立ちあがる。その際に見えた顔はとても怖く目には光を感じられずそれでいて笑顔だった。

 

 光を失った目でにこっちを見つめたあと、自分の鞄から包丁を取り出してにこっちに向ける。なんで、委員長ちゃんの鞄に包丁が入っているんや。

 

「そしてにこ先輩を食べきって私たちが一つになったあとで、私が死んで永遠に一緒にいられるようにしましょう。あぁ、なんて嬉しいことでしょう。死んでもなお、にこ先輩と共に居られるのですから」

 

 とても嬉しそうに恐ろしいことを口にする委員長ちゃん。包丁を持っているせいか、その姿からは狂気しか感じられない。

 

「やれるもんならやってみなさい。にこはそう簡単にやられるつもりはないわ」

 

 準備運動をしながら委員長ちゃんを挑発するにこっち。というか、にこっち拳で包丁を持っている委員長ちゃんと殺り合うつもりや。

 

「ちょっと待って。にこっちに委員長ちゃん。一部始終見せてもらったけど、何も殺し合う必要ないやろ」

 

「あら、希先輩要らしていたんですか。ごめんなさい。取り込み中でしたので気づきませんでした。にこ先輩の下ごしらえを終わらせたらお茶を用意しますので、そこで少々お待ちください」

 

「希!! 今のバカにそんなことを言っても無駄よ。それにこれは私たちの問題よ部外者は黙ってて」

 

 これ以上は危険だと思い二人を止めようと仲裁に入るけど、委員長ちゃんはヤル気満々で止める気は全くないし、にこっちに至ってはウチを部外者扱いにする始末。

 

「そういうのはええから!! 委員長ちゃん学校でそういうことは止めてほしいから」

 

 一番危ない委員長ちゃんの元へ駆け寄って体を抑えて包丁を奪おうとするけど、委員長ちゃんが暴れるから奪えない。だからせめて手元が狂ってウチや委員長に刺さってしまわないように、委員長ちゃんの腕を押さえるのが、精一杯やった。

 

「放してください希先輩。このままじゃ、にこ先輩と一つになれないじゃないですか」

 

「ならなくていいから、ひとまず包丁を置いて落ち着こう委員長ちゃん」

 

 ウチを振りほどこうと暴れる委員長ちゃん。その力は強く抑えるのがきつくて何時振りほどけてもおかしくない。その前になんとか説得しないと。

 

「よし、希そのままバカを抑えておいて一発で仕留めるから」

 

「にこっちも委員長ちゃんを仕留めようとしないで!!」

 

 チャンスだと思ったのか、にこっちは委員長ちゃんに向かって走り出す。ウチは一瞬にこっちに気が向いて油断してしまったのか、その一瞬の隙を突いて、ウチを振りほどき瞬く間に足払いをして、邪魔されないように床に倒す委員長ちゃん。

 

「止めてぇぇ!」

 

 ウチの叫びの声を空しくも届かず、にこっちの心臓に向けて包丁を構え突っ込む委員長ちゃんだったが、にこっちが包丁を紙一重でかわし、委員長ちゃんの鳩尾に見事に拳を当てる。

 

 鳩尾に当たった委員長ちゃんは意識を失いながらもにこっちに止めを指そうと、包丁を握ろうと手に力を込めるが一瞬の内ににこっちが包丁を奪い、そして奪った包丁で委員長ちゃんの心臓を貫いた。

 

「ありがとう沙紀。そして……さようなら」

 

「ゴッフ、愛しています……にこ先輩…………」

 

 力を抜けたようににこっちのもたれるように前に倒れる委員長ちゃん。

 

 それは歪んだ愛を持ってしまったものとその愛を受け止められない者の悲しい結末だった。

 

 3

 

 だった……。じゃないんよ。どうするのこの状況。嘘や、何でウチの語り手の時に限って、しかも三話の前半にして主人公死亡ってどう収集つけるつもりなの。

 

「どうもこうもないわ希。あいつとにこが出会ったときから何時からかこうなる運命だったの。それが偶然―今日だっただけ」

 

 ウチの心を読んだのかそう口にするにこっち。その口調から悲しみはあるけど動揺がなかった。

 

「不思議なものね。大切な後輩を殺したって言うのに全く動揺しないなんて。それどころか頭のなかがどんどん冴えてく感じ。次に何をすべきかもう思い付いちゃってるわ」

 

 横たわっている委員長ちゃんに近づき、顔を少しだけ悲しそうに撫でて委員長ちゃんを持ち上げようとするが、体格差がありすぎて持ち運べず、持ち運ぶのは断念して委員長ちゃんの両足を持つにこっち。

 

「何をする気なん?」

 

「あのバカのことだからにこを処理して自分が生き残った時の準備を隣の部屋でしているはずだからそれを使わせてもらうわ」

 

「にこっち!! まさか!?」

 

「それにこいつ一人で生かせるのは可哀想だからね」

 

 にこっちの行動で理解できなかったウチやったけどその言葉で全てを理解してしまった。にこっちは委員長ちゃんと一緒に死ぬつもりや。

 

 あんなに委員長ちゃんの愛を拒否していたにこっちだったが本心では受け入れていたんや。それやけど、委員長ちゃんを殺してしまい罪悪感と後悔積り心中するつもりや

 

「あとの処理は任せたわ希。ごめんなさいね。偶然用があって来たあなたを巻き込んじゃって」

 

 そういってにこっちは委員長ちゃんを引きずりながら隣の部屋のドアを開けようとする。その姿は悲しみに包まれた女の顔やった。

 

「待って!! にこっち!! くっ」

 

 心中させないと立ち上がろうとするが、先ほど委員長ちゃんから受けたダメージが回復しておらず、立ち上がれずにその場を見届けることしかできない。

 

 そうしてその場に取り残されてしまったウチ。友達同士の悲しい争いを面白半分で見てなければ止められるはずだった争いを止められなかった無力なウチに嫌気を感じる。

 

 その場で何分時間が経ったのか分からないけど、足も回復して何とか立ち上がれた。

 

 ふらふらな足取りでにこっちと委員長ちゃんがいるはずの……いや、正確にはにこっちと委員長ちゃんだったものある部屋の扉の前に立つ。

 

 こうなってしまったらウチは最後まで見届けなければならない。それが彼女たちに何も出来なかった罪滅ぼしかもしれない。

 

 扉の前で深呼吸する。そうして気持ちを切り替えて扉に手を掛ける。例えどんな結末を向かえてもウチは受け入れる。

 

 そして、扉を開けるとそこには──

 

『ドッキリ大成功』と書かれたプラカードを持った死んだはずの二人がにこやかに笑ってそこにいた。

 

「なんや、それぇぇ!!」

 

 アイドル研究部の部室からウチの声が学校中に響いた。

 

 

 4

 

「本当に申し訳ありませんでした!!」

 

「でした!!」

 

 深々と土下座をするアイドル研究部の二人。

 

「でっ、何時から……。何時から計画を立てていたのかな?」

 

「昨日の夜から何となく今日希先輩が来ると予想できたので、ドッキリを仕掛けてみようと私が提案しました」

 

 土下座しながら自らを主犯だと名乗り出るこの学校で一番の有名人である慎ましくおしとやかで誰にでも優しいと定評のある委員長──篠原沙紀、しかし今は噂の影が微塵も感じないん。

 

 委員長ちゃんの説明によると、昨夜、お弁当の準備をしているときこの設定を思い付き、最初はにこっちに仕掛けるつもりだったみたい。

 

 だけど、昨日すでに一度仕掛けてるため、連続で仕掛けると感づかれて面白くないから、にこっちに仕掛けるのは止めた。

 

 それで終わればいいんやけど、委員長ちゃんの恐ろしいことに、さっきも委員長ちゃんが言ったように、昨夜の段階で、既にウチが昼にまたアイドル研究部に訪ねてくるのが予想できたみたいや。

 

 その予想を朝に、にこっちに伝えて協力を求めたようや。

 

 そうして、委員長ちゃんの予想通りにウチが来るタイミングを見計らってドッキリを仕掛けたと言うのが事の顛末。

 

「う、う~ん。何かなぁ」

 

 まさか、ウチの行動が先読みされていたなんて。

 

 廃校の知らせから生徒会が動くのを理事長に止められるというところまでを予想して、そこからありとあらゆる可能性を考慮した上で、ウチが今日アイドル研究部に訪ねてくると予想した。いや、結論を出していたんやろうな。

 

 これが『音ノ木坂の生きる伝説』篠原沙紀の凄さの一端を垣間見た気がする。

 

 だけど、現在土下座をしている彼女にその凄さは全く感じられないんけど。

 

「本当に申し訳ありませんでした!!」

 

 また、深々と土下座をする委員長ちゃん。その土下座の姿はとても綺麗で何かこれを見てしまったら今までのこと許してもいいかなと思うくらい美しい土下座。しかし、他の生徒には絶対に見せられない姿やね。

 

「にこっちは何でそこのお馬鹿さんの提案に乗ったんや。正直に話して。怒らないから」

 

 一先ずは委員長ちゃんの動機は聞き出せたから、次はまんまと委員長ちゃんに乗せられてしまった。共犯者から動機を聞き出すことにしたん。

 

「毎回ごとく希にイタズラを受けていたので沙紀の話を聞いて仕返しのチャンスだと思って、つい話に乗ってしまいました」

 

「まあ、確かにウチもにこっちにちょっかいは掛けるけども、流石にそこまでことをされる筋合いはないと思うやけどな……」

 

 まあ動機は分からなくないけども、流血沙汰の修羅場ドッキリを受けるのはおかしい。本当におかしい。

 

「沙紀の演技に熱が入って私も負けてられないと対抗意識が芽生えてしまい、ついあそこまで話を拗らせてしまいました」

 

「確かに委員長ちゃんの演技は凄かったけどにこっちも凄かったなぁ」

 

 あの出来事を思い出しながら素直な感想を口にする。

 

「マジ!! もしかしてにこ女優の素質ある!?」

 

「素質ありますよ。私との特訓の成果が出ています。これならすぐに大スターです」

 

「嬉しいけど、当然よね!! 何たってスーパーアイドル矢澤にこ何だから」

 

「さすがにこ先輩!! 何処からか来る無駄な自信に尊敬します」

 

「そこふざけてるだったらもう一回わしわし行っとく?」

 

 ウチが誉めると嬉しそうにするにこっちに更に褒め称えようとする委員長ちゃん。このまま二人だけの世界になりそうだったのでウチの得意技であるわしわしのポーズを取る。

 

『ホント、マジで勘弁してください』

 

 すごく体を振るわせながら全力で土下座をして謝るアイドル研究部の二人。そこまでウチのわしわしはイヤやの。

 

「分かったならよろしい。それじゃあ、この話はおしまいや」

 

『ありがとうございます』

 

 そうして、この騒動は終わりを告げた。

 

 あれ、もしかしてウチ何も目的果たせてない?

 

 5

 

「会長、書類の整理終わりました」

 

「会長、この書類にサインをお願いします」

 

「会長、チェック終わった書類にそっちにまとめておきますね」

 

 放課後──生徒会室できびきびと働く委員長ちゃん。

 

 何故生徒会でもない彼女が生徒会室で生徒会の通常業務をやっているのかと言うと、昼休みにあの修羅場ドッキリのあと、ウチはとりあえず生徒会室に放課後来てほしいと伝えて、自分の教室に戻ったん。

 

 その後、午後の授業も終わり、エリチと共に生徒会室へ向かうと、そこには大量の書類が置いてあったんや。

 

 何故こんなことになったのか、理由は簡単。今年の新入生が入ってきたので、近々行われる新入生歓迎会の準備をしなければならなくって、そこで発表する催しに関する許可書。あと全く関係ない生徒からの要望が大量に送られていたんや。

 

 ウチもエリチも仕事は溜めず、コツコツとやっていたんやけど、どうやらタイミングが悪く、みんなが今日纏めて提出したみたいや。

 

 流石に生徒会が通常業務を疎かにするわけにはいかないから、仕事に取り掛かろうとするけど、やってもやっても書類が減らずまるで地獄のようやった。

 

 そんなときに委員長ちゃんが約束通りにやって来て、その業務の量を見ると手伝うって言い出したんや。

 

 だけどエリチがただでさえ生徒会でもないのに、廃校の阻止の手伝ってくれて、更にこんなことまで手伝ってくれるのは悪いと思って一回は断った。だけど、そこは委員長ちゃんは何とか押しきって、結局生徒会の手伝いをすることになったんや。

 

 そして委員長ちゃんが手伝った結果、大量にあった書類の山は三十分程度で全部無くなってしまったんや。

 

「会長、副会長をお疲れ様です。お茶をどうぞ」

 

 仕事を終えたウチとエリチに、委員長ちゃんはそう言って、彼女が何時の間にか用意したお茶をウチたちの前に置く。

 

「ありがとう。篠原さん」

 

「ありがとうね。委員長ちゃん」

 

 ウチたちは委員長ちゃんにお礼を言うと、委員長ちゃんは笑顔で頷いて、ウチの隣の席に座る。

 

「それじゃあ、ひとまず仕事も片付いたから少し休憩にしましょうか。廃校についての話し合いはそのあとで。それで良いかしら希、篠原さん」

 

「ウチはかわないよ」

 

「私も問題ありません」

 

 流石にウチも委員長ちゃんもこのあと続いて廃校について話し合いをするのは疲れるから、エリチの提案に乗って、ウチは委員長ちゃんから渡されたお茶を飲みながら少し休憩することにする。

 

「ごめんなさいね。結局手伝わせてしまって」

 

「いえ、大丈夫ですよ。むしろ、あの量の仕事を見て手伝わないほうがおかしいですから」

 

 委員長ちゃんを手伝わせてしまったことに負い目を感じて謝るけど、委員長ちゃんは当然のように特に気にしてない感じで言う。

 

「確かに……そうね。私も流石にあれだけの仕事を見たら見ない振りはできないわ」

 

 エリチも立場が逆だったらと考えてみて、自分もあの仕事量を見ていると誰でも見ない振りはできないと結論付ける。

 

 ホントにあれは地獄やった。委員長ちゃんが居なかったら今日じゃあ終わっていなかったやろうなあ。流石は『音ノ木坂の生きる伝説』や。あっ、でもこれ本人に言うと凄く嫌がるんやけど。

 

「しかし、どうしてあんなことになってしまったのかしら」

 

「ホントにそうやね。この生徒会に何かお化けとか、スピリチュアルなものでも取り憑いてるんやろうか」

 

「希!! 変なこと言わないでよ。貴女が言うと本当にここに何か居そうな気がするから」

 

 さっきウチの言った言葉にエリチが反応して少し怯えたように声で喋る。ウチはこれをチャンスやと思って、ちょっと疲れたから癒しにエリチをからかおうとする。

 

「エリチはお化けとか恐いもの苦手やもんね。そういうところ可愛いやん」

 

 ウチがからかうと恥ずかしそうに顔を赤くして、目線を委員長ちゃんに向けて、助けを求めるが残念やエリチ。委員長ちゃんはウチと同類やで。

 

「会長。可愛いですよ」

 

「も~う~篠原さんまで、何言っているのよ」

 

 委員長ちゃんに可愛いと言われて、余計に照れるエリチ。やっぱり、エリチに本性がバレてないから何時もよりかは抑え気味。これがにこっちだったら ──

 

(にこ先輩が可愛いのは世界の節理何ですから当たり前ですよ。あぁ~にこ先輩は本当に可愛いなぁ。あっ、ヤバッお持ち帰りしたい。と言うわけでちょっと家に連れて帰ります)

 

 なんてことを言うやろうや。案外本当ににこっちを連れて帰りそうやな。

 

 そんなことは置いといて(置いといちゃいけないんやけど)、エリチは生徒会長として凜としているところもいいけど、こうやって女の子らしいところの方がもっと良い。

 

 そう言う可愛い一面を知っている人が残念やけど、そんなに多くないから何とかみんなに知って貰おうとしてるけど、生徒会長として凜としてお堅いイメージが凄く付いているから難しいんや。

 

 まあ、もう一人凄く猫被ってるそっち系の委員長がウチの近くにいるんやけど。

 

 チラッと委員長ちゃんの方を見ると委員長ちゃんと目が合う。すると委員長ちゃんは顔を染めてあからさまに照れてる素振りをする。

 

 本当になんやろなこの子は。もう存在そのものが交通事故みたいなものや。

 

 ウチとしては音ノ木坂の全生徒が驚くところを見たいやけど、下手したら何人かが病院送りになるか、委員長ちゃんが警察に(実質犯罪者予備軍みたいなものやし)逮捕されるかもしれないので、非常に残念やけど、委員長ちゃんの本性をばらすのはグッと我慢する。

 

 そんな風に休憩していると、唐突にドアをノックする音がした。その音を聞くとエリチはさっきまでの可愛らしさはなくなり、生徒会長として顔になって休憩は終わりとなる。

 

「どうぞ」

 

「失礼します。二年の高坂穂乃果です」

 

 エリチが入室を許可すると入ってきたのは見覚えのある顔。昨日、ウチたちが会った三人の生徒が入ってきたのやった。

 

 6

 

 昨日──ウチたちは廃校の知らせを聞いて、誰かその事に詳しい人に聞こうと思って、この学校に通っている理事長の娘である南ことりさんに話を聞いてきたんや。

 

 その際に他の二人も丁度一緒に居て話を聞いていたんやけど、南さんも廃校のことは聞かされてなかったんや。

 

 当然と言えば当然やけど。ウチの中では理事長は公私を分けて仕事が出来るカッコいい大人の女性ってイメージがあるから、いくら自分の娘やからってそんな重大なことを音ノ木坂の生徒である以上言うはず無いんや。

 

 そんな感じでウチらは偶々彼女たちと接点を持っていたんや。

 

「これは」

 

 エリチの前には高坂さんから提出された書類が置いてあった。心なしかエリチの顔が不機嫌に見える。

 

「アイドル部、設立の申請書です」

 

「それは見れば分かります」

 

「では認めて頂けますね」

 

「いいえ、部活は同好会でも最低五人は必要なの」

 

 そう音ノ木坂は部活を設立する際には部員が五人以上はいる。申請書には目の前にいる三人の名前のみなので申請は許可できないんや。

 

「ですが校内には部員が五人以下のところもたくさんあるって聞いています」

 

 高坂さんと一緒に来ていた長い黒髪の園田海未さん(名前は申請書に書いていたのを消去法や)が言った通り五人以下の部活もあるのだけど。

 

「設立したときはみんな五人以上いたはずですよ。うちの学校は一度申請が通れば、あとは何人になってもいいですからね」

 

 今まで横で黙っていた委員長ちゃんが部員数についての補足をするが、高坂さんはそんな説明をした委員長ちゃんの顔をまじまじと見てた。

 

「あぁ~!! 今朝、UTXでA-RISEを変な人と一緒に見てて、私にスクールアイドルについて色々と教えてくれた人だよね。どうしてここに居るの?」

 

「穂乃果、ここは生徒会室ですよ。大きな声出さないで下さい」

 

 委員長ちゃんの顔を見て大声を上げる高坂さんだったが、園田さんを怒られてしまいついやってしまったみたいな顔して黙った。

 

「ははは……、今朝ぶりですね。高坂さん。私は生徒会のお手伝いでここに居るんですよ」

 

 流石に委員長ちゃんもこれには苦笑しながら説明するとへぇ~そうなんだ。凄いねみたいな感じのことを言って納得をしたん。

 

 そういえば昼休みににこっちと一緒にUTXに行ってきたって言ってたなあ。というか、さっき話のなかに出てきた委員長ちゃんと一緒に居た変な人ってにこっちじゃないのかな。

 

 多分UTXに行ったときにコートにサングラス、マスクともろ不審者の格好で行ったんやろう。それを高坂さんに見られたと言うわけやな。

 

 にこっちはアイドルについて変なところで変な拘りが有るから、きっと完全な不審者の格好は拘りの一つだと思う。委員長ちゃんも何か言ってあげれば良いのに。

 

 いや駄目や。委員長ちゃんはにこっち至上主義者やから、きっと何も言わずににこっちの主義に合わせるやろうな。

 

「で、いいかしら」

 

「ごめんなさい」

 

 突然話の腰を折られたエリチは更に不機嫌そうな感じで高坂さんに言う。

 

「そう言うわけだから貴方たちの申請は受理できないわ。それが分かったら早く戻りなさい」

 

 そうして三人を追い返そうとするエリチ。

 

「あと二人やったら……」

 

 アイドル研究部に相談すれば良いと言おうとしたが、ウチの座っている椅子に横から蹴られた感じがした。なんやろなと思って委員長ちゃんの方を見ると──

 

『喋ったら先輩を身も心も私無しじゃあ生きられない体にします』と書かれた紙がウチにしか見えないように置いてあった。

 

 その紙に書かれたことを瞬時に理解した。委員長ちゃんなら本気でやりかねないと思ったウチは全身の血の気が引いていく感じがした。

 

 ウチの表情から委員長ちゃんは察し、すぐさま紙を誰にも見られないようにぐしゃぐしゃしてポケットの中に入れて処理した。

 

「あの……大丈夫ですか。顔色悪そうですけど……それになんか汗も結構出ていますよ」

 

「大丈夫ですよ。副会長たちはさっきまで仕事が忙しくって疲れただけですから、少し休んだら回復しますので気にしないでください」

 

 南さんがウチを心配そうな顔で見てくれるが、委員長ちゃんがしれっとウチは疲れていると笑顔で嘘を付いていた。

 

「あと二人集められたら部活として成立しますので、頑張ってください」

 

「うん、ありがとう。あと二人頑張って集めてくるから」

 

「待ちなさい。どうして、この時期にスクールアイドルを始めるの。貴方たち二年生でしょ」

 

 委員長ちゃんが応援すると、高坂さんたちは残り部員を集めるために生徒会を出ていこうとすると、エリチに止められる。

 

「廃校を何とか阻止したくって、スクールアイドルって今すごい人気があるんですよ」

 

 確かに高坂さんの言う通り、今スクールアイドルは今凄く人気がある。にこっちがアイドルについてよく熱弁していたから少しではあるのやけど知っている。

 

「だったら例え五人集めて来ても認めるわけにはいかないわね」

 

「えっ!! どうして!?」

 

 エリチの言葉に声に出して驚く高坂さん。他の二人も声には出てないが驚いていた。

 

「部活は生徒を集めるためにやるものじゃない」

 

「思い付きで行動したところで状況は変えられないわ、変なこと考えてないで残り二年自分のために何がするべきかよく考えるべきよ」

 

 そうエリチは冷たく言い放ち、それを聞いた高坂さんたちは表情が暗くなってそのまま生徒会を出ていった。

 

 7

 

「さっきの、誰かさんに聞かせたい台詞やったな」

 

「いちいち一言多いのよ。希は」

 

 高坂さんたちが出ていったあと、エリチをからかうと小声で少し恥ずかしそうにしてウチからそっぽを向く。

 

 実際にエリチが言った台詞は、今朝理事長に似たようなことを言われているため自分のことを棚に上げて言ったようなものやから言い返せないんや。

 

「でも、私は高坂さんのアイデア良いと思いましたよ」

 

「篠原さん貴方まで……。いや、貴方はアイドル研究部だったわね。なら、どうして彼女たちに自分の部活のことを話さなかったの」

 

 委員長ちゃんの発言に意外そうな顔をするエリチやけど、委員長ちゃんの所属している部活を考えると有り得なくはない。なら、エリチの言う通り何故、自分の部活の話さなかったのか疑問が残る。

 

「そうや、わざわざウチのことを脅してアイドル研究部のことを話さなかったんや。話せば少なくともにこっちさえ説得出来れば彼女たちは部活として活動できたのに」

 

「脅し? 何言っているの希。篠原さんはちょっと可愛らしいイタズラはするけど、そんなことするはず無いじゃない、やっぱり貴方、篠原さんが言ったように疲れているじゃないのかしら」

 

 あぁ~、駄目や。エリチ完全に騙されてる。その証拠にエリチの目が病人を見るような目で見ている。親友にそんな目をされると凄く心が傷つくやけど。

 

「会長の言う通りですよ副会長。私が副会長のこと脅すはずありませんよ。その必要性もないですから言い掛かりは止してください」

 

 またしれっと嘘を付いてエリチに便乗する腹黒エセ委員長。その清々しさは流石としか言い様がない。

 

「まあ、副会長はそこでゆっくりしていてください。では、会長の疑問にお答えしたいのですが、その前に会長も同じことが言えますよね」

 

 さりげなくウチのことをスルーしてエリチの疑問に答えようとするがその前にあの会話で起こったもう一つの疑問について追求する。

 

「貴方だってアイドル研究部の存在は知っていたはずなのにどうして貴方はそのことを彼女たちに教えなかったのか。まずはそこを教えていただきたいです」

 

 そう。エリチはこの学校の生徒会長なんやからアイドル研究部のことは当然知っていた。だが、委員長ちゃん同様に言わなかった。

 

 その理由を聞かなければ委員長ちゃんは話すつもりはない。そんな感じで言った。

 

「それは……、彼女たちがどんな理由でアイドル部を設立するのかを聞いて、問題が無かったら私だってアイドル研究部ことを話したわ。でも、彼女たちの理由は不適切だったから話す必要がないと考えて言わずにいたのよ」

 

「なるほど、会長の考えはよく分かりました。多少疑問は残りますが、それを今は追求する必要がありませんし、何より時間もあまりありませんから」

 

 時間がない? 何で委員長ちゃんがそんなことを言ったのかよくは分からないけど時計を見たら分かった。いつの間にか時刻は最終下校も近い時間やった。

 

 それなら確かに時間が無いのでエリチの回答に多少疑問が残るのやけど、ここは聞かずに委員長ちゃんの理由を聞いておこうや。しかし、もうこんなに時間も経っていたんやな。気づかなかった。

 

「では、会長たちの疑問なのですが言ってしまえば簡単です。うちの部長はアイドルに関して拘りがありますから、私が今紹介しても追い返されるだけでしょう。なので一旦様子を見て彼女たちが部長に会っても大丈夫なら後日紹介しようと思ったんですよ」

 

「そうやね。にこっちなら中途半端な気持ちでスクールアイドルを始めようとする人たちを簡単には認めないやね」

 

 昔のにこっちことを考えれば、尚更高坂さんたちの入部を認めないやろう。にこっちがどんな想いでアイドル研究部を立ち上げたのか、そのあとどうなったのかを考えれば。

 

「私の理由は以上です。それから会長。もう一つ質問に答えてくれませんか。実は今日最初にこの質問をしたかったので」

 

 なんだかんだで今日はゴタゴタしていたからそうやって本当に質問したいことが言えなかったみたいや。だから、丁度、質問をしたので聞いてみたかったみたいや。

 

「えぇいいわ。篠原さんには仕事を手伝ってもらったから質問ならいくらでも答えて上げる」

 

「ありがとうございます。では……」

 

 快くエリチは委員長ちゃんの質問を聞くと言って委員長ちゃんの方を見る。

 

「貴方は何故、廃校を阻止したいのですか」

 

 委員長ちゃんの質問聞いた瞬間にウチはその質問の意図が分かってしまった。そしてエリチがどう答えるのかも……。

 

「それは生徒会長として学校を廃校にするわけにはいかないからよ」

 

 エリチはそれが当然のようにそう言った。

 

 8

 

 エリチが委員長ちゃんの質問に答えたあと生徒会室の片付けをすると言って、委員長ちゃんとウチを先に帰らせようとした。

 

 委員長ちゃんは元々生徒会ではないから片付けまで手伝わせるのは忍びないから最初に帰らせて、ウチも委員長ちゃんのせいで、体調が悪いことになっているから、エリチを少しだけ手伝ってから帰ることになってしまったんや。

 

 そうしてウチは一人で帰るために下駄箱に向かっていると、学校の玄関の前で先に帰ったはずの委員長ちゃんが一人立っていた。

 

 ウチはどうして委員長ちゃんがあんなところに立っているのか気になって、上履きを靴に履き替えて委員長ちゃんの近くにまで行くと──―

 

「可能性……後悔……」

 

 何てよく分からないことを呟いていた。

 

「そんなところで何考えてるんや」

 

「きゃぁぁ、希先輩何するですか。いきなりわしわしするなんて、びっくりするじゃありませんか」

 

 ウチから距離を取って胸を隠しながら怒る委員長ちゃん。周りにウチ以外居ないためさっきまでの大人しい委員長ではなく、何時もの残念な委員長ちゃんに戻っていた。

 

「ええやん。今日、散々ウチに色々とからかったんやから、それに……」

 

「それに、何ですか」

 

「フフフ、きゃぁぁ、やって。委員長ちゃん可愛い」

 

 ウチはついニヤニヤしながらさっきの委員長ちゃんの反応を思い出していた。

 

「うぅ、仕方がないじゃないですか。考え事していたんですから……」

 

 恥ずかしさのあまり俯いて小さく恥ずかしそうな声で呟いた委員長ちゃん。

 

 何やこの可愛い生き物は。何かその姿を見ただけでもっと弄りたくなる。何てそんな邪な気持ちが混み上がりくる可愛さは一体何や。

 

 委員長ちゃんもエリチみたいに背が高く、足が長くてスタイルも良いけど、こういうギャップがたまに見られるから本当に可愛い。

 

 なんや、ウチ。さっきから可愛いばっか言ってる気がするやけど、だけど可愛いとしか言い表せないのが委員長ちゃんの一面や。

 

 だけど、これ以上やると明日の報復が本当に怖い。下手にやり過ぎると、生徒会室で見せられた紙みたいなことを平気でやって来るところが、委員長ちゃんの恐ろしいところでもあるからここはぐっと我慢する。

 

 まあ、ここで我慢しても結局弄られたら弄り返すのが、委員長ちゃんやから我慢の意味は無いんやけど、その時はまたウチも弄り返せば良いやから気にしない。

 

「ウチに気づかないくらいに凄く考え事をしているなんて珍しいやん。何かあったの?」

 

「はい、さっきまで高坂さんたちが居たんですよ。会長に厳しいことを言われて落ち込んでみたいだったので」

 

「あぁ~、エリチは真面目やけど不器用やからな、つい高坂さんたちに厳しいことを言ってからな。それで委員長ちゃんは声を掛けようとしたん」

 

 委員長ちゃんはウチやにこっちの前やと残念な人ってイメージがついているやけど、本当は困っている人や悩んでる人を見るとほっとけない性格やし。

 

「そうです。それで高坂さんたちに声を掛けようとしたんですけど……」

 

 何かすごく言いにくそうな顔をしている。もしかしてやけど委員長ちゃん……。

 

「また委員長ちゃんは可愛い女の子を見るとついちょっかい掛けちゃったん。確かに高坂さんたちは可愛いけど時と場所を考えようや」

 

「何ですか!! 流石に私でも可愛い女の子が居ても落ち込んでいるときにちょっかい掛けませんよ。そこまで無神経じゃありませんよ」

 

「えぇ~、ほんとに何もしてないの」

 

「何で信じてくれないんですか!!」

 

 いや、実際にウチやにこっちが多くの被害を受けているんやから委員長ちゃんに言い訳の余地がないや。

 

「自分の行いを思い出してみや」

 

「くそっ!! 言い訳の余地がない……」

 

「委員長ちゃん。キャラが壊れている壊れている」

 

 委員長ちゃんも自分の罪を認めるのは良いやけども、流石に女の子がくそって言うのはどうなのかと思う。

 

 そこまで心当たりが有りすぎて、動揺しているんやろうか、一先ず委員長ちゃんが落ち着くまで待つことにする。

 

「大丈夫? 委員長ちゃん。落ち着いた?」

 

「はい、すいません。見苦しところを見せてしまって」

 

 少し時間が経って大分落ち着いてきた委員長ちゃんはウチに頭を下げて謝る。

 

「良いんや。元を正せばウチも委員長ちゃんのことを信じられなかったのがいけないんや。それで委員長ちゃんはさっきまで何があったん」

 

 そもそも委員長ちゃんが珍しく考え事をしてたのがことの発端やから、大分話がずれたけど、ここは聞き出さなければならないんや。

 

 もしかしたら重要な事かもしれないんやし。

 

「はい、高坂さんたちに声を掛けようとしたんですけど、突然高坂さんが歌い出して走り出したんですよ」

 

 へっ? 何言っているのこの子。高坂さんが突然歌い出して走り出したやって。ちょっとウチには理解できんな。もしかして、また委員長ちゃんウチのことをからかっての。

 

「その顔、ほらやっぱり信じて貰えない。だから話すの嫌だったですよ」

 

 しまった。どうやらウチの顔に出てたみたいや。そのせいで委員長ちゃんが、今までに無いくらい泣きそうな顔してるやん。

 

「いや、違うんや。違わないやけど、流石に突然歌い出して走り出したって言われても、どう反応して良いのか分からないんや。だから、委員長ちゃんのことを信じてないんやなくて、ちょっと理解できなかったやけや」

 

「フン。良いですよ。どうせ、私は嘘つきで女の子が大好きな変態ですよ」

 

 そう言って拗ねる委員長ちゃん。その顔も可愛いと思ったけど、今はそんなことを考えてる場合や無い。

 

「ゴメンな。委員長ちゃん。傷ついたなら何かお詫びをさせてくれないん」

 

「じゃあ、私を慰めるために今日希先輩の家に泊めて下さい、私知っていますよ、希先輩一人暮らしだって」

 

「何で、ウチが一人暮らしやって知ってるの、あんまりその事人に話したことないのに」

 

 委員長ちゃんの提案に驚いたけど、それよりもウチが一人暮らしだって言うことを知っている方がかなり驚いた。

 

 その事はエリチくらいしか話していないから、一体どこでそんな情報を手に入れたんや。

 

「フフフ、私の女の子の情報網を甘く見ないで下さい、この学校の可愛い女の子の情報は既に全員把握済みです」

 

「把握済みって、何やそれ、そんなの把握してどうするつもりや」

 

「どうするもこうするも決まっているじゃないですか、可愛い女の子と仲良くなるためです」

 

「そんなことしなくても委員長ちゃんなら普通に仲良くなれそうな気がするけど」

 

 真面目な委員長ちゃんなら普通に初対面でも結構話せそうなイメージがあるやけどウチの勘違いやったかな。

 

「多分、仲良くなれますよ。なれますけども委員長キャラ以外で行くと、グヘヘ、君可愛いね。私と友達になってよ。なんて言っちゃいそうで、そのあと結構な確率でSNSとかに拡散されそうで怖いじゃないですか」

 

「完全に不審者やん。何でそんな風に話すの前提なの。あと、SNSに拡散は結構現実にありそうやん」

 

「当たり前じゃないですか。私が可愛い女の子の前にしたら魔が差すのは明白です。実際に会長と話したときはめちゃくちゃ我慢していたんですから」

 

「そして、今現在進行形で希先輩をめちゃくちゃしたいと言う欲求が三十秒に一回襲ってきて危ないんですよ」

 

「そんな現実知りたくなかった」

 

 三十秒に一回って結構な確率やん。真面目に委員長ちゃんの頭の中が本当に分かんないやけど。

 

「そんなことは置いておいて、私を泊めてくれるんですか。くれないですか。どっちなんですか!!」

 

「いや、置いといちゃ駄目やよね」

 

 ツッコムけどそんなことお構い無しでウチに詰め寄ってくる委員長ちゃん。

 

 ウチとしては出来れば可愛い後輩のお願いを聞いてあげたいけど、相手は最早委員長の見る影もない百合で残念な後輩。

 

 しかも家に泊めて何をされるか分かったのものじゃないからとても躊躇われるん。

 

「どうなんですか。どうなんですか」

 

 ウチに詰め寄ってきて、目をウチに合わせてくる。そのせいで顔が近いし、目が若干血走っていて怖いやけど。

 

「分かった、分かったから。ウチの家に泊まって良いからそんな迫らないで」

 

 委員長ちゃんの気迫に押されついウチの方が折れてしまったん。あまりの恐怖に折れてしまった自分の心を凄く恨みながら。それにこれからやって来るであろう悲劇に怯えながら。

 

「ヤッター♪ ありがとうございます。希先輩大好きです」

 

 喜びのあまり詰め寄った体勢からウチに抱きついてくる委員長ちゃん。その行動に反応できなかったウチは倒れそうになるけど、何とか持ちこたえて委員長ちゃんにされるがまま抱き付かれる。

 

 ウチの顔から見える委員長ちゃんの顔は、先ほどまで恐怖が一気に遥か彼方に飛んでいってしまうくらい凄い良い笑顔だった。

 

「くんくん、希先輩良い匂いがします」

 

 前言撤回、やっぱり委員長ちゃんを家に泊めるの凄く怖い。ほんとに雰囲気を台無しするのが上手いな委員長ちゃん。

 

「それで何の話やっけ。さっきから話が逸れまくっているやけど」

 

「え~と、ああそうでした。私が高坂さんが突然歌い出して走り出して言って希先輩が信じてくれなかったところですね」

 

「それはもう良いから、ウチは信じるからその先を話してや」

 

 なんやろうな。委員長ちゃんのせいで話が進まなって、こんな逸れるつもりがなかったやけど、やっと話の本題に戻れる。

 

「その高坂さんが歌った歌詞に少し考えさせられてしまって、ここで考えていると希先輩がわしわししてきたと言うわけですよ」

 

「成る程なぁ、大体分かったや。それで委員長ちゃんは何を考えてたの?」

 

 わしわししたのはもうどうでもいいやけど、その高坂さんたちを見て委員長ちゃんは何を思ったのか気になる。

 

「会長は彼女たちがスクールアイドルをやっても生徒が集まらないと言っていましたよね。でも、さっきの高坂さんの歌詞と行動を見たら彼女たちならやってくれそうそんな感じがしました」

 

「会長にあんなことを言われて普通なら落ち込んでいるはずなのに、高坂さんはそれでも続けようとする強さに少ししか関わってないですけど、賭けてみたいと思いました」

 

「へぇ~委員長ちゃんにそんなことを言わせるやなんてすごいな高坂さん。やっぱり、ウチが占いでみた通りや」

 

「なんだ、希先輩この学校の未来占っていたんですか。じゃあ、この先もどうなるのって分かっているんですか」

 

 つい口が滑って占ったことがバレてしまったけど、そこまで驚いてない委員長ちゃん。やっぱり侮れないな。

 

「流石にウチはそこまでは見えてないんや。でも、この学校に九人の女神が揃えば廃校が阻止できるかもしれないってな」

 

 ウチの話を聞いて考え込む委員長ちゃん。本当ならこの占いの結果は九人揃うまで話すつもりはなかったんやけど口を滑らしたなら仕方がない。

 

 委員長ちゃんに変に隠し事しても結局、バレてしまうから先に話して協力してもらった方が断然効率が良い。それに委員長ちゃんには色々とやってもらいたいことがあるし。

 

「分かりました希先輩。私は貴女の考えに乗りましょう。私はあの人のためにやらなきゃいけないことがありますから。それは希先輩も同じですよね」

 

 あの人、きっとにこっちのことやな。委員長ちゃんはにこっちのことを常に考えているから必ずこの話に乗ると信じていた。

 

「ははは、そこまでバレてたん。流石は委員長ちゃんや。ウチも大切な親友のためにやらなきゃいけないことがあるんやから」

 

 ウチはエリチが笑顔で居られるようにしたい。そのためには出来ることはやっていきたい。それは委員長ちゃんと同じや。

 

「お互いめんどくさい人が大切な人だなんてほんと可笑しい話ですね。まあ、自分達も十分めんどくさい人種ですけどね」

 

「そうやね。ウチの周りは本当にめんどくさい人ばっかや。でもそれが楽しいやんか」

 

 自分達がめんどくさいことも助けたい人がめんどくさいこともつい似ていているからとても可笑しくってつい笑ってしまった。

 

「なら、私がやるべき事は彼女たちを見極めないといけませんね。高坂さんたちがどこまで本気でスクールアイドルやるのかを近くでこの目で見てみます」

 

「協力してくれてありがとう。ウチは影ながらサポートさせて貰うから頑張ってや」

 

「はい、大切な人のために全力で頑張らせていただきます。では、そろそろ帰りましょうか」

 

 そう委員長ちゃんは言って、ウチと委員長ちゃんの企みは互いの大切な人のために高坂さんたちを利用する形になったが成立して一緒に帰ろうと誘ってくる。

 

「そうやね。一緒に帰ろうや」

 

 そうしてウチは歩きだす。これから始まる九人の女神と一人の女の子の物語に不安と期待に胸を膨らせながら。

 

 でも、委員長ちゃんには話していないけどウチにはもう二つ話してないことがある。

 

 一つはウチの本心。

 

 これについては叶ったら良いな程度やからそこまで語らないけど問題はもう一つ。

 

 占いの本当の結果。ウチは九人の女神が揃えば廃校が阻止できると言ったんやけど、それは話の八割しか話していない。

 

 残りの二割は九人の女神を導く存在が占いで出ていたんや。ウチはそれを委員長ちゃんやと思っているやけどそれを敢えて伝えてない。

 

 委員長ちゃんはまだ本当の意味でウチに本心を開いていない。きっとにこっちならその本当の委員長ちゃんを知っているやけど、今はにこっちに聞いても答えてくれないやろう。

 

 委員長ちゃんとにこっちはウチには分からない奇妙な友情がある。互いが互いに恩を返したいウチにはそんな風に見える。でも、二人はそんなこと口にしないやろうな。

 

 この二人に一体何があったのか凄く気になるのやけどそれはきっと九人の女神が揃って友情が深まったときそれが分かると占いに出ていた。

 

 そして、委員長ちゃんの本心を初めて知ったとき九人の女神の存在がより強くなるそんな結果が分かったんや。

 

 だからウチはこの二つの事は絶対に言わない。今はまだ九人が揃えるのに集中して欲しい。只でさえ多くの奇跡が重なってるなかにもう一つ奇跡が重なってるんや。このチャンスを絶対に逃してはいけない。

 

 そんなことを考えながら今ウチはあることを思い出した。

 

「そういえば、本当にウチの家に今日泊まるの」

 

「何言っていますか。当たり前ですよ」

 

 どうやらまだまだ大変な一日は続きそうやな。

 




この小説の希は沙紀のせいでかなり苦労人となってしまいます。

このあとも希は沙紀が泊まりに来て大変な目に会うんですよね。

その辺の話はまたいつか書きたいと思います。

ですので次からはまた別のキャラが語ってくれます。

一体誰になるでしょうか。ついに沙紀は語り手になれるでしょうか。それは次回をお楽しみに。

誤字、脱字等がありましたらご報告ください。

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