ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー   作:タトバリンクス

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お待たせしました。

一週間ぶりですね。ちょっとリアルで忙しかったので投稿が遅れました。

それではお楽しみください。


十八話 何のために

 1

 

「お願いします」

 

 翌日の昼休み──生徒会室の前で、穂乃果ちゃんは絢瀬生徒会長にμ'sに入ってくれないかと、頭を下げる。

 

 それを見守る私たち二年生組。他のメンバーは──大勢で頼みに行くのもあれなので、少し離れたところでこっそりと私たちの事を見守っている。

 

「私がスクールアイドルに?」

 

「はい、入っていただけないでしょうか」

 

 突然生徒会室に来たかと思えば、これまた唐突にμ'sに入ってくれないかと言われ、表情は平静を装っているが、声にはやや疑問を感じているのが分かる。

 

「昨日の篠原さんといい……貴方たちといい……どうしてそんなことを言うの」

 

 絢瀬生徒会長がそう言って私の方をチラッと見た。本当にどうして自分が誘われているのか分からないと言いたげな顔を僅かに見せるが、すぐに先程と同じ平静な表情に戻る。

 

 それに対して穂乃果ちゃんとことりちゃんは、私が頼みに行っていたことを知らなかったので、私の方を見た。

 

 唯一海未ちゃんだけは大体昨日の時点で察していたみたいだから特に反応は見せていない。

 

「沙紀ちゃんもしかして昨日の用事って生徒会長に頼みに言ってた事なの」

 

 小声でことりちゃんは私に昨日練習に参加しなかった理由がこの事だと聞いてきたので私は答える。

 

「うん。言おうと思ってたけど忘れてたんだよ」

 

 もちろん嘘。生徒会長に頼んだが答えは聞いてないけど、今は駄目っぽいって口にしたら、行動しなくなるのを避けたかったため。

 

 最も穂乃果ちゃんの行動力なら伝えても行動したと思うけど、念のために。

 

 それにさっきの穂乃果ちゃんとことりちゃんの反応で、絢瀬生徒会長は彼女たちが私に言われてスクールアイドルに入って欲しいとは思いにくくなったはず。

 

 絢瀬生徒会長の中では私は現実主義者だと思われているため、絢瀬生徒会長の実力を知っていればμ'sに加入するのは当たり前。そうなるように穂乃果ちゃんたちを説得したと思われてもおかしくはない。

 

 けど穂乃果ちゃんとことりちゃんが知らない反応を見せたため、その可能性は消えたことになり、穂乃果ちゃんたちは自分の意思でここに来たことになる。

 

 最も私がそうなるように誘導した可能性が消えた訳じゃないのと、そもそも何で私がμ'sに協力しているのか分からないため素直に入ってくれるとは思ってないけど。

 

 だから次の手は打ってある。

 

「まあええやんエリチ。この前委員長ちゃんが言ってたんみたいに練習を見学してみるのも良いんじゃない」

 

 今まで横で静かに話を聞いていたお姉ちゃんが絢瀬生徒会長に見学してみるのは、良いじゃないのかと言って、私たちのフォローしてくれる。

 

「それに……」

 

 絢瀬生徒会長の耳元でお姉ちゃんは小声で喋っているため、何を言っているのか此方には聞こえない。でもどんな会話しているのか私は知っている。

 

 昨日の時点でお姉ちゃんの家である程度は打ち合わせをしておいた。普通にやってもどうせ断られるのが目に見えているため、お姉ちゃんには説得役をやってもらっている。

 

 こういうときに事情を知っている協力者がいるのは有難い。物事がスムーズに進みやすくなる。まあお姉ちゃんは協力者と言うよりも首謀者なんだけど。

 

 それに昨日の疑問が残っているなかで、この状況は判断に苦しむだろう。

 

 もちろんこれも狙ってやっている訳だけど、廃校確定のタイムリミットが迫って生徒会長として余裕の無いなか私としては絢瀬生徒会長の思考は読みやすい。

 

 人は追い詰められれば追い詰められるほど思考が出来なくなり、行動も単調になって分かりやすくなる。

 

 それは身を持って体験しているからのと、観察力が唯一の取り柄である私が見れば簡単に読むことが出来る。

 

「希……分かったわ」

 

 何て頭の中で考えたらお姉ちゃんが説得を終えて少し間を開けて、何処か腑に落ちない部分でもあったのか不機嫌な顔をしていたが私たちの方を見て──

 

「貴方たちの活動は理解できないけど人気があるのは間違いないし。見るだけなら良いわ」

 

 絢瀬生徒会長はμ'sの練習を見学してくれると言ってくれた。

 

 私は絢瀬生徒会長がそう言ってくれたことに内心ホッとする。いくら計画通り動いても予想外なことは起こるため、それに対処できるように精神を研ぎ澄ませたけど、ここまでくれば一先ずは安心できる。

 

 この計画で一番心配していたのは、どう絢瀬生徒会長と穂乃果ちゃんたちとちゃんと関わらせるかだったが、あとは穂乃果ちゃんたち次第。

 

 まあ私も黙って流れに身を任せるなんて馬鹿な真似はしないから、状況がスムーズに進むようにフォローしていこう。

 

「星が動き出したみたいや」

 

 私がこれからの行動について考えていると、お姉ちゃんが一人そう呟いていたのが聞こえた。

 

 2

 

 その日の放課後──屋上で、μ'sのみんなは私が考えておいた練習メニューをこなしていた。

 

 今回は用事があるわけでは無いので、私も練習を見てメンバーに気になるところがあったら、その場その場アドバイスしている。

 

「……」

 

「何か……練習を見られるのは変な感じだにゃあ」

 

「そうだね。何か余計に緊張するね」

 

「そんなこと言っても仕方ないじゃない。いつも通りやれば良いのよ」

 

 練習中ちらほらとそんな話し声が聞こえる無理もない。今日の練習は昼に約束したように絢瀬生徒会長が見学に来ている。

 

 しかもそのプレッシャーが半端ではないから──絢瀬生徒会長を恐がっているメンバーからすれば、緊張するのも仕方ない。

 

 でも緊張感持って練習をやってもらうのは悪くないので、一部のメンバーには申し訳ないけど、この緊張感のまま頑張ってもらう。

 

「はい、それじゃあ休憩に入ってください。ちゃんと水分も取っておいて下さいね」

 

 休憩時間になったので、私はスポーツドリンクを全員に配る。

 

「ありがとう沙紀ちゃん。けど何で敬語?」

 

 穂乃果ちゃんに飲み物を渡すと、私の口調が気になったのか、そんなことを聞いてきた。気になるのは仕方がない、何時もはにこ神様以外はタメ口なのだが、今日はそれが出来ない。何故なら──。

 

「そりゃ生徒会長様が見ているのよ。生徒会長は沙紀が残念なのは知らないから一応自分の体裁を守るためにね」

 

 全くその通りであります。

 

 にこ神様が言ったように今は絢瀬生徒会長が見ているので、委員長モードはONにしている。絢瀬生徒会長には私は『白百合の委員長』としてイメージしか無いから、これで計画を進行するしかない。

 

 なので絢瀬生徒会長がいる前では、当分は『白百合の委員長』としてμ'sの練習を見ていく事にしている。しかし──

 

「おお!! そうだったね。最近は沙紀ちゃん、委員長のイメージがないからすっかり忘れたよ」

 

 こんな風に言われるのは些か心外で、関係が近くなると、私のキャラが残念なのは分かる。理由も何度も言って分かるけど、まあもう修正不可能だと割り切って諦めるしかない。

 

 そうやってメンバーにスポーツドリンクを渡し終えると、私は絢瀬生徒会長の所まで向かって絢瀬生徒会長にもスポーツドリンクを差し出す。

 

「絢瀬生徒会長もどうぞ。今日みたいに日差しが強い日は見ているだけでも体力を使いますから」

 

「ありがとう」

 

 絢瀬生徒会長は私にお礼を言ってから差し出された飲み物を受け取って、スポーツドリンクを飲み始める。

 

 そんな絢瀬生徒会長を見ていると、相変わらず綺麗なスタイルでスポーツドリンクを飲んでいる姿が色っぽくて私は若干興奮する。

 

 唇柔らかそうだなあ。生まれたままの姿が見てみたいなあ。お胸様を触ってみたいな。何て色々な欲求が私の中で溢れかえり手が勝手に絢瀬生徒会長に伸びて、何か絢瀬生徒会長にしそうになる。

 

 はっ、私は何をやっているんだと、土壇場で我に返り伸びていた手を直ぐ様戻す。幸い絢瀬生徒会長に私の奇行は見られてなかったが──

 

「沙紀……」

 

 一部のメンバーに見られてその視線は冷たかった。

 

「どうですか。μ'sの練習を見てみて」

 

 このまま立ち尽くしているだけだとまた変な奇行に出かねないし、それを次は絢瀬生徒会長に見られるかもしれないので、練習の感想を聞いてみる。しかし、さっきから冷たい視線が痛い。

 

「驚いたわ。思ったよりもちゃんと基礎練習してたのね」

 

「はい、それはもちろん。なんたって基礎がしっかりしてなければ常に良いダンスなんて踊れませんから」

 

 どんな物事に置いても基礎は基本だ。それを蔑ろにしてはより良いものは生み出せない。それに基礎がしっかりしていれば練習中や本番で怪我する確率も下がる。

 

 怪我などして本番で実力が出せなくなるのは辛いので、みんなにはそんな思いをしないように私は徹底してやっている。

 

「そうね。それに個人で練習が微妙に違うみたいだったけど、もしかして個別でメニューを考えてるのかしら」

 

「はい、それぞれの得意不得手を分析して、各々にあった練習メニューを考えてみんなには実践してもらってます」

 

 これは何回もデータを取って分析して基礎がある程度固まって出来るから、割りと手間だけど効果は絶大なので、積極的に取り組むようにしている。

 

 それにしても僅かな練習を見ただけでそれらに気づけているとは、やはり絢瀬生徒会長の実力は高い。この人がメンバーに入ってくれればμ'sは更に高みに登れる。

 

「そう。篠原さん、貴方は昔何かやってたのかしら。練習を見て貴方なんと言うべきか手馴れてるそんな感じがするのだけど」

 

 そう言われて私は少しだけ驚く。まさか私の練習を見ている姿を見てそれに気付けるとは思ってもみなかった。もしかしたら端から見れば手馴れてるように見えるのだろうか。

 

 まあいっか、それに気づけると言うことは私が思っていた以上に実力があることになる。ここは思わぬ収穫だと思って割り切ろう。

 

「はい、少し前にこんな風に練習を見てたことがあります」

 

 流石に昔アイドルをやってましたとは言えないので、それは言わずに練習を見たと言っておく。これも本当のことなので嘘は付いていない。

 

 実際に私は三人ほど練習を見ていた時期があったのだから。

 

「貴方は本当に何でも出来るのね」

 

「いえ、何でもは出来ませんよ。私は自分に出来ることを精一杯やってるだけですから」

 

 そう。ここで──μ'sのマネージャーとして、自分に精一杯出来ることしかやっていない。そうしなければここにいる意味も必要もない。だからこそ私は精一杯みんながもっともっと上手くなるように手伝いをしている。

 

「私にはそうには見えないけど」

 

 絢瀬生徒会長が私のことそう見えるのは仕方がない。そう見えるように私は頑張っているだけだから。

 

 私には見ることしか才能がない。だからこそ自分が今まで見てきた知識や技術、そして経験をフルに活用してそう見えるようにしている。そうじゃなきゃいけない何故なら。

 

 篠原沙紀はそうでなければならないから。

 

「だからこそ私は貴方がどうして彼女たちの肩を持つのか分からない。教えてほしいわ。何故貴方が彼女たちのために頑張るのか」

 

 私がそう思いふけると絢瀬生徒会長は予想通り私がμ'sのマネージャーをしてる理由を聞き出すために此処へ来ていた。だからこそ私は──

 

「そうですね。来ていただいたのでお礼に教えたいと思いますがその前に私と勝負してくれませんか。貴方が勝ったら教えますよ」

 

 真っ直ぐ絢瀬生徒会長の目を見てそう言った。

 

 3

 

「勝負ですって、貴方どういうつもり……」

 

 突然勝負を申し込まれて戸惑いのあまり立ち上がる絢瀬生徒会長。無理もない私が質問に答えるかと思っていたら、勝負を吹っ掛けてきたのだから動揺しないほうがおかしい。

 

「どういうつもりも何もちょっとした余興ですよ」

 

「なになに、どうしたの?」

 

 私と絢瀬生徒会長の雰囲気に変化があったのに、気付いたみんなは次々と私たちの近くにやってくる。

 

「そうですね。勝負は……『超次元ラップバトル』で」

 

「超次元……」

 

「ラップバトル……? 何それ?」

 

 聞き慣れない単語に戸惑うμ'sのメンバーたち。それもそのはず何故なら──

 

「なんやって!? 委員長ちゃん本気なん」

 

「うあ!! 希先輩何時からそこに!? と言うか知ってるですか!?」

 

「もちろんや。超次元ラップバトルと言うのは、古代エジプトで発祥したある儀式を模倣して作られたん闇のゲーム」

 

 唐突に現れたお姉ちゃんは超次元ラップバトルの説明を続ける。

 

「そのせいである儀式の特性が色濃く残り敗者は勝者に魂が束縛され永遠の勝者の奴隷となるんや」

 

「それじゃあ沙紀ちゃんか生徒会長は……」

 

「どちらか永遠の奴隷になるしかないんや……」

 

「そんな……」

 

 外野が私と絢瀬生徒会長の勝負が始まるのを見てそんな風に騒いでいるなか私はあることを思っていた。

 

 えぇ!! 何でこんな事になってるの!! 

 

 超次元ラップバトルとかそんなもんあるわけ無いじゃん。あれは私が適当に思い付いたから言っただけなのに、お姉ちゃんが余計な事を言うから何か重苦しい雰囲気になったじゃん。

 

 いや大丈夫なはず流石にそんなゲームが存在するわけ無い何て絢瀬生徒会長なら気づいてくれるはず。

 

「そんな……まさか……そこまでして彼女たちの為にやるの貴方は……」

 

 滅茶苦茶騙されちゃっていますよ、この人。もしかしてこの人天然なの!? いやいや、また絢瀬生徒会長の意外な一面を知られたけど、こんなところで知りたくなかったよ。

 

「それにしても何か沙紀先輩、妙に焦ってように見えるのは気のせいかしら」

 

 流石は真姫ちゃん冷静な判断力で私の事を観察してくれたお陰で私が焦ってるのが伝わったみたい。そしてそのままそんなゲームあるわけじゃないと言って、この話を切り上げてほしい。

 

「それはこの勝負は沙紀にとっても過酷な勝負になるからよ。このゲームは初心者でも油断できないのよ」

 

 うおぉぉ!! にこ神様!? 貴方なんでそんなことを言っちゃうですか。

 

 そんなこと言っちゃったら余計にそんなゲーム何て無いって言えなくなっちゃうじゃありませんか。

 

「そうなのね。私はてっきり沙紀先輩が適当に言って希先輩が悪のりしたせいで焦ってるかと思ってたわ」

 

 全くその通りでありますよ。出来ればもっと早く言って欲しかった。何でお姉ちゃんもにこ神様もこんなノリノリなの。

 

 はっ!! もしかしてこれ私に考えがあると勘違いしてフォローしてくれてるの。確かにお姉ちゃんにはフォローしてほしいとは頼んだよけど今じゃない。

 

 此処は何時ものようにまた沙紀ちゃん馬鹿なこと言ってるよって感じでスルーして欲しかったよ。ってこれ自分で言って何か悲しくなってくる。

 

 そんなことより重要なのはこのあとなのに思わぬトラブル。まさかの味方のフォローによって、ピンチに立たせれようとは。策士策に溺れるとは正にこの事。

 

 こんなことだったら奇策の一つや二つ考えておけばよかったよ。奇策なら奇策に溺れることは無いってどっかの誰か言ってた気がする。

 

 どうするどうする。この状況をどう打開する。もう下手な言い訳は通じないから一体どうすれば……。

 

 そうだ逆に考えるだ。超次元ラップバトルはあるんだって。私が適当に言った超次元ラップバトルは存在してそれに勝てば良いんだ。

 

 あまりの焦りに正常な判断が出来ていない事を私は気付いていないがそのまま思考する。

 

 それに思い出してみれば勝者は敗者の全てを手に入れる事が出来る。つまり絢瀬生徒会長の綺麗なスタイルに柔らかそうな唇にあんなことやこんなことが出来るんだ。

 

 そう思うと興奮のあまり鼻血が今までに無いくらいに勢いよく吹き出す。

 

「篠原さん!?」

 

 急に私が目の前で鼻血を吹き出したから驚く絢瀬生徒会長。彼女は何故私が急に鼻血を吹き出したのか分からず、若干あたふたし始める。

 

「ねえ……あれって……もしかして」

 

「はい、多分自分が勝ったときの想像をしたんでしょう」

 

 逆に私が女の子大好きだと知ってるμ'sのメンバーたちは、私の反応を見て、何を考えていたのか大体察しが付いていた──流石は仲良いだけはあるね。

 

 しかしそれは勝った場合の時だ。負けた場合は私の全てが絢瀬生徒会長の物になる。もちろんこの身も。

 

 つまり負ければ私は絢瀬生徒会長の奴隷にあんなことやこんなことされるんだ……。あれ? これどっちにしろ私の勝ちじゃない。

 

 勝つにしろ負けるにしろ。あんなことやこんなことがするかされるかの違い。そう大差はない。つまり私に負けはない。

 

 そう考えると更に興奮し、もっと鼻血が吹き出しまるで激流の如く地面を叩き付ける。

 

「沙紀先輩……更に鼻血が出てきたけどもしかして」

 

「そうやね。今度は負けた時の事を考えたやろうな。どっちも委員長ちゃん的には負けじゃないんやし」

 

 またまた私の反応を見てそんな風に思うメンバーたち──全く私の思考は単純だな。何処の誰だろう。焦ってるときの人間は読みやすい何て言ったのは……ははは全く……その通りだよ……。

 

「でも何に鼻血を出したら貧血になって倒れるじゃない?」

 

『あっ……』

 

 真姫ちゃんがそう気づいたおかげで、みんなも気づくけどもう遅い。私の目の前には、私の血で染まった地面が見えていたがどうしようもできず、そのまま倒れて地面とキスをした。

 

 そうして私は意識を失ったのだった。

 

 4

 

 目覚めると目の前に写ったのは見知らぬ天井ではなく、見知った天井──アイドル研究部の部室だった。

 

 きっと誰かが気絶した私をここまで運んでくれたみたい。

 

 起き上がると少し頭がふらふらする。鼻血の出しすぎで血が足りなくなっているだけだから、大した問題じゃない。

 

 足りない血はあとで鉄分を補給すればいい──今日の夕食は鉄分を多く含んだ料理を作ろうかな。

 

 何て夕食の事を考えている辺り、私相当余裕があるなあ。絢瀬生徒会長にあんな姿見られたあとなのに。

 

 気絶する前の自分の姿を思い出してしまったせいか、私は恥ずかしさが徐々に増していき、気付いたら勢いよく顔面を机の上にダイブして額をぶつける。

 

 イタイ……。けどそんな痛みよりむしろ絢瀬生徒会長にあんな姿を見られたほうが、私にとって死活問題だから、全く気にならずこれからどうしようか悩んでいた。

 

 絶対に絢瀬生徒会長に変な子だって思われたよ。いや自分が変な子だってのは(性癖な意味で)自覚があったけど、絢瀬生徒会長にはまだ知られたくなかったよ。

 

 こういうのはもっとお互いの仲をもっと深めてから、知ってもらうのが一番だと思ってから。けど深めたら深めたで、別の葛藤が出てくるわけで、それはそれで大変だけど、とにもかくにも本当に憂鬱だよ。

 

 これからどんな顔で絢瀬生徒会長と顔を合わせればいいのか、全く分からない。

 

 もういっそのこと何時ものように開き直るべき? いやいや開き直るしてもどう開き直る。

 

 私……実は……絢瀬生徒会長の体が好みで何時も見てるとムラムラしてました。

 

 何て言ってみたら絶対距離取られるよ。それに下手したら生徒会の出禁喰らうし、今の状況でそれやられたら絢瀬生徒会長をμ'sに入れるのが困難になる。

 

 うん、これは駄目だ。別の手を考えよう。

 

 絢瀬生徒会長の事が……ずっと好きでした……。

 

 そう恥ずかしそうに頬を染めながら言ってみる? 

 

 あっ、これ唯の告白じゃん。

 

 思い付いてよくよく考えてみればそうとしか思えない。私がしたいのは告白ではなく、自分が百合だってカミングアウト。

 

 でも絢瀬生徒会長って、スタイル良いから女の子からも持てそうだよね。バレンタインとかチョコいっぱい貰ってそうなそんなイメージがある。

 

 まあ絢瀬生徒会長はノーマルだと思うから、女の子からそんなことされても困るだけだし、それに絢瀬生徒会長にはお姉ちゃんと言うお似合いの相手が居るから、ハードル高そう。

 

 お姉ちゃんもノーマルだけど、何時も一緒にいるあの二人を見ていると、そんな風にしか見えない。私の頭の中で百合百合してる二人の妄想が膨らんでしまう。

 

 モデル並みのスタイルの絢瀬生徒会長と包容力があって実りに実ったあのお胸様とで一線を越えてると考えると……。

 

 ダメダメ、今そんな妄想してしまうと、足りない血が余計に足りなくなって、気絶どころではなく間違いなく死んでしまう。

 

 それに今考えることは、絢瀬生徒会長とどんな顔を合わせればいいのかを考えてた訳で、間違っても妄想をするわけじゃない。

 

「うぅ……、どうしたらいいの……」

 

 改めてどんな風に顔を合わせればいいのか考えてみたけど、一向に良いアイデアは思い付かず、さっきと同じ流れを繰り返して泥沼化してる。

 

 やっぱり私はどんなにキャラを作っても、根本的に昔の根暗で弱虫な所は直ってないし、まともに友達も居なかったから、人とのコミュニケーションの取り方も分からない。

 

 だけどそもそもそんな考えることなんだろうか。考え込んでいる内に問題の根本に疑問に持ち始める私。

 

 現状大事なのは絢瀬生徒会長をμ'sに入れること。しかもその計画も大方順調に進んでいる。正直あとの展開は穂乃果ちゃんやお姉ちゃん次第だから、私の役目はほぼ終わってる。

 

 実際のところあの件は今後の展開を更に進めやすくするための前座。別に有っても無くても計画に支障はない。

 

 それにどうせ絢瀬生徒会長がμ'sに入ったら私が百合だってバレる。結局は遅いか早いかの違いだから、つまり私の取り越し苦労ってわけで、問題ないからやることは一つ。

 

「よし、この件についてもう考えるのは止めた」

 

 そう声に出して私はこの件について悩むことは止めて、顔を上げて立ち上がった。すると、自分が眼鏡をしていないのと、制服が血で汚れていたことに今更気付く。

 

「あぁ、そういえば血溜りにダイブしての忘れてた」

 

 よく鼻血を出すが、まさか床に溜まるくらい鼻血を出すとは思ってもみなく、若干驚きながら制服を脱ぐ。幸い常にジャージは持ってきてるから着替えには困らない。

 

 そして下着だけになると、部室に姿見が何故か出ていたことに気付いた。

 

「何で今日、これ出てるんだろう? それにしても……」

 

 何時もなら部室に仕舞ってある姿見が出ていることに、疑問を持ちながら、それに映る下着姿の自分をまじまじと見つめて、ある結論に至る。

 

「やっぱりわたしの体もスタイル良いなあ」

 

 姿見に写るわたしの綺麗なスタイルにうっとりとあちこち見つめながら、そう感想を漏らす。

 

 自分の体を見てうっとりするのは、端から見て気持ち悪いと思う──私は基本的に自分に対して自信を持てないけど、わたしのスタイルが良いのは本当のことだから仕方がないね。

 

 親が与えてくれた綺麗に整った出るところは出てて、締まる所は絞まってる母親譲りのスタイル。

 

 前にも少し触れたけどこれもアイドル星野如月の売りの一つだった。

 

 しかしお母さんのスタイルを思い出してみると、もうちょっと良かった気がする。わたしのスタイルは大体絢瀬生徒会長と同じくらいで、お母さんはお姉ちゃんくらいあったはずだから。

 

 ここでもお母さんには勝ててないわけだが、ここ最近下着がきつくなるときがある。つまり、これはまだまだ成長出来るってことの証──わたしもあんな風になれると思うと楽しみだなあ。

 

「あぁ~、本当に綺麗で美しいスタイル……」

 

 色んなポーズを取りながらわたしの体を隅々までチャックしてそれを見てうっとりする。何度か姿見に自分のにやけてる顔が映るけど気にしない。

 

 だがそんな有意義な時間は長くは続かない。

 

「貴方……何……してるの?」

 

 部室に自分一人だけだと思って、突然後ろからそんな声が聞こえて驚いたのと、この姿が誰かに見られたと言う羞恥心が私を襲う。

 

 正直振り向きたくない。幸いなのか不幸なのか姿見には声を掛けた人物の姿は映っていないけど、声で何となく誰かは分かる。

 

 私は身を震わせながら恐る恐る声がした方を向くと、そこには絢瀬生徒会長が引き吊った顔をしてそこにいた。

 

 5

 

 一先ずは状況を整理しよう。どんな状況でも、よく観察して対策を練れば、自ずと活路を得ることが出来る。それに観察は私の得意分野だから、何も心配はない。

 

 先ず場所はアイドル研究部の部室で、この部屋に居るのが私と絢瀬生徒会長だけ。ここまでは問題ない。むしろここからが問題だ。

 

 問題とするなら私が下着姿でいること。

 

 ただ下着姿でいるなら、ただ着替えてる途中だと思われただろう。だがしかし、問題はその姿で姿見に映る自分の姿を見ながら、ポーズを取ってうっとりと自分に酔いしれてること。

 

 しかもその様子を明らかに絢瀬生徒会長に見られてるのは、表情から察することは容易。

 

 さてさて、どうこの窮地から脱したものか。しかもこんな風に思考してるが、私と絢瀬生徒会長は互いを見つめたまま硬直状態が続いて、部屋の中は静寂そのもの。

 

 実際のところこの状態からどのくらい時間が経ってるのか分からないけど(多分まだ数十秒くらいだとは思うが)時間が経てば経つほど、私が不利になるならやる手は一つしかない。

 

「あの……絢瀬生徒会長……服着てもいいですか?」

 

 取り敢えずこの不毛な状況の空気を変えるため問題を一つ取り除く事にする。

 

「えっ? そうね……流石にそんな姿じゃあ色々と問題あるわね」

 

 やはり部室のなかで私をこの姿のままするのは、流石に不味いのもあるが、この状況を第三者に見られたら余計に誤解される。

 

 これ以上問題を増やさないようにするには、私に服を来てもらうのが一番。ひとまず服を着ることの許可をもらい(服を着るのに許可が必要なのが些か疑問に思うが)私は鞄に入れてあるジャージを着る。

 

 ジャージを着た私は何事も無かったように何時ものようにお茶の準備をする。幸いなことに手馴れるために手際も良く、流れるようにお茶を準備したから、この間に絢瀬生徒会長は私に声を掛けることはなかった。

 

「絢瀬生徒会長どうぞ座ってください」

 

 私は絢瀬生徒会長に座るように進めると、絢瀬生徒会長は言われるがまま椅子に座り、その前に用意したお茶を置いて、私も絢瀬生徒会長の対面側に座る。

 

「それで……貴方は鏡の前で……何をしてたのかしら。しかも……下着姿で……」

 

 動揺しながら、とても言いにくそうに先ほどの私の奇行に触れる絢瀬生徒会長。無理もない、絢瀬生徒会長の中では、清楚で淑やかで可憐な委員長を演じていたから、そんな私があんなことをすれば誰だって動揺する。

 

 そんなことは分かっているから、私は次の行動に出る。

 

「さっき勢いよく倒れたので何処か怪我してないか確認していただけです」

 

 ジャージを着てお茶を淹れてる間に心を落ち着かせ──委員長モードをONにして、しれっと嘘つく私。怪しまれないように微笑む事も忘れない。

 

「そういえばそうね──スゴイ勢いで倒れたから何処か怪我してないか確認するのは当たり前よね」

 

 私の殆んど苦し紛れな感じの嘘で納得してくれたのか、絢瀬生徒会長の表情は何処か納得したように見えた。

 

「そうよ、篠原さんの顔がにやけてたのは私の見間違いね」

 

「フフフ、まさか──私が自分の体を見てにやけるほど、ナルシストではありませんよ」

 

 まるで自分に言い聞かせるように言う絢瀬生徒会長に私は淑女のような雰囲気を出しながらそう肯定する。

 

 しかし、ジャージ姿で淑女のイメージからかけ離れていると思うが、多分出てるから問題ないと思いたい。

 

「そうね、篠原さんがとてもそんな人には見えないものね」

 

 危ない危ない、完全に見られてけど何とかなった。絢瀬生徒会長のその言葉を聞いて内心ホッとする。

 

 唯でさえ屋上の出来事のせいで百合疑惑だって付いてるのに、それにプラスしてナルシスト疑惑が付いたら救いようがなく、私の学園生活は変態のレッテルが張られて終わる所だったよ。

 

 一つ窮地から脱した私は自分の分のお茶を口に含むと、ある疑問が湧いてきた。

 

 絢瀬生徒会長の台詞に私がとてもそんな人には見えないと言ったのと、そもそもなんでこの人がここに来たのかってこと。

 

 前者に関しては屋上の出来事を見ればそんなことを言うはずもない。どう考えても私が興奮して鼻血を出したと思うが、そう思ってないとなると、限られる可能性は……まだ私が百合だって事がバレていない。

 

 まだ私に汚名返上するチャンスがあるということなんだろうか。何て考えるがどうなのか実際に分からない。まあ後者の件を合わせて、聞けば分かることだから特に問題ない。

 

「あの……絢瀬生徒会長どうしてここに?」

 

「希に言われたのよ。篠原さんの様子を見に行ったらって、それに聞いたわ、篠原さん最近忙しかったのね」

 

 ここに来た理由を聞くと、お姉ちゃんが私の様子を見に行くのを進めたらしい。それどころかあの屋上の出来事について上手く言いくるめてくれていた。

 

 ありがとうお姉ちゃん。貴方は本物の女神だよ。ほんのお礼に私の身体自由にして良いから。何て心の中で迂闊な事を思いながら、お姉ちゃんに感謝する。

 

 しかし私は忘れていた。そもそもこんな事態になったのは、私が言った冗談に悪ノリしてきたお姉ちゃんの性だったことを。

 

「そうなんですよね。最近色々とありましたけど、せっかく絢瀬生徒会長が見学に来てくれてるのに、お見苦しい姿を見せてごめんなさい」

 

 口裏を合わせるために嘘がバレない程度の差し障りない事を言って、絢瀬生徒会長に全身全霊で謝っておく。本来ならこんな予定は無かったから余計に。

 

「良いのよ、それより体の方は大丈夫……そういえばさっきチェックしてわね」

 

「いえご心配なく、体の方は少し血が足りないくらいで特に問題ないですから」

 

 相変わらず、わたしの身体の丈夫さにはビックリするが流石に血が足りないのは仕方ない。あとでちゃんと補給するしかない。

 

「そう良かったわ、けどあまり無茶しちゃ駄目よ」

 

「以後気を付けます」

 

 そう言いながら私は別の事を考えていた。正直これ以上やるべき事がないと思っていたけど、せっかくお姉ちゃんがくれたチャンスだ。やり残したことをやっておこう

 

「そうでした──絢瀬生徒会長が聞きたがっていた私が何でμ'sに協力してるのか理由を教えます」

 

「えっ? でもそれって私が勝負に勝ったら教えるって言わなかった」

 

 まるで思い出したかのように言う私に、絢瀬生徒会長は驚いていたが、無理もない私がそういう条件で教えると言ったから、その私が急に教えるなんて言うのは疑問しかない。

 

 そもそもそんなことしなくても、教えようと思えば教えることは出来た。別に隠すことじゃないし。

 

 そうしなかった理由はただ一つ──確認しておきたい事があったから。

 

「勝負する前に私が倒れたんじゃあ私の負けですよ。それに本当に勝負したかったことは別にありましたから」

 

 そもそも最初に吹っ掛けた『超次元ラップバトル』は唯の絢瀬生徒会長の緊張を解す冗談のつもりで、本当の勝負で万全の状態の絢瀬生徒会長とやるための唯の前座。

 

「本当の勝負って……、貴方何するつもりだったの」

 

「ホント単純に私とダンスで勝負するつもりでした。審査員は穂乃果ちゃんたちで」

 

 けど、これは建前で本音は絢瀬生徒会長の今の実力を確認するため。まあ、μ'sに入ってくれればすぐに確認できるけど、出来れば早めにデータを取って、絢瀬生徒会長用のトレーニングメニューを考えるつもりだったから。

 

「ダンスで勝負するつもりだったって、ダンスを踊ってる彼女たちなら分かるけど、マネージャーの貴方が挑むなんて、まさか初めから負けるつもりだったの」

 

 まあそう言われるのは仕方がない。向こうは私が元アイドルだなんて思ってもいないみたいだから、その反応が普通だと思う。

 

「そうですよ。むしろ負けた方がお互いに得るもの方が多いですから」

 

 技術だけなら絢瀬生徒会長に負けるつもりは全くないし、今からでも私の実力を見せても良かったのだけど、貧血気味で体調の悪いなかダンスを踊るのは馬鹿げてるから踊らない。

 

「絢瀬生徒会長が勝てば知りたがってた私がμ'sのマネージャーを知ることが出来ますし、私たちからすれば絢瀬生徒会長の今の実力を知れますから、こっちとしては問題ないですよ」

 

「確かに私からしても疑問も解消できる。私を入れたがってる彼女たちからしても私の価値が上がる。これなら篠原さんが勝負に負けても得るものはある」

 

 私が負けたところでどちらもWin―Winで終わるわけで失うものは何一つない。無論絢瀬生徒会長は全く考えてないが、私が勝ったところで絢瀬生徒会長に得るものが無いだけで私たちは得るものは得るからどっちにしろ私の勝ち。

 

 結局のところ勝負する前から私の勝利は揺るがない。そもそも得るものが無い無意味な勝負なんてそんな無駄なことする必要性がない。

 

「けど良いのかしら。貴方の目的は彼女たちに私の実力を見せることだったはずだけど、こんなところで私に話しちゃって」

 

「良いですよ。一応負けは負けですから」

 

 まあ、絢瀬生徒会長の言う通り、彼女の実力を見せるのが目的だったけど、別に絢瀬生徒会長をメンバーに加入しやすくするための補強が主な目的だったから、話しても問題ない。

 

 それに本当に大事な事は任せるべき人に任せるわけだし。

 

「あっ、でもこれ、出来ればあんまり人に言わないでください。その……恥ずかしいですから……」

 

 多分にこ先輩やお姉ちゃんにも言ってなかった筈だからいざ、話すとなると照れ臭い。

 

「えぇ分かったわ。誰にも言わないわ」

 

「ありがとうございます」

 

 絢瀬生徒会長が誰にも言わないと約束してくれたお陰でちょっと気が楽になり、まだちょっと恥ずかしさ残ってるのでゆっくりと深呼吸して私は口にする。

 

「私がμ'sのマネージャーをしてる理由は大好きな人の笑顔が見たいからです」

 

 私はやっぱり恥ずかしかったため照れ臭そうに言いながらも絢瀬生徒会長の方をまっすぐ見ながらそう言った。

 




何だよ超次元ラップバトルって……。

思い付いた自分でも意味分からない言葉だなんて思いました。

この回で沙紀が何のためにマネージャーをやってるのかって所で今回は終了。

絵里加入編もあと大体二、三話位を目安にして終了を目指してますので、最後までお付き合いしていただけると幸いです。

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