ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー 作:タトバリンクス
そんなわけでお楽しみください。
1
私──西木野真姫はアイドル研究部に入部してからずっと気になっていることがあるわ。
篠原沙紀先輩のこと。
私たちが入部した初日。花陽が沙紀先輩はとあるアイドルに似てるって言って、彼女が暴走した事件があったの。
結局、あのときは海未先輩と言う犠牲を出す悲劇しか起きなかった。そのあとも二人を仲直りさせるために時間を費やしたせいで、真実はうやむやになったわ。
だけど私は沙紀先輩のこと相当怪しいと思っているわ。
あのときみんなで見たライブのあのアイドル──星野如月と沙紀先輩は確かに似ている。それに練習メニューを見てる限り、あの人の練習は相当しっかりしている。
まるでどう効率良く練習すれば、どう伸びるのか知っているみたい。
それにあの人は私たちが入部してから一度も歌っている姿を見たことがない。それは沙紀先輩がマネージャーで歌う必要がないからってのもあるかもしれない。
ただそれだけなら疑問に思う必要はなかった。けど、あの人はボイトレ関しては基本的に私に任せている。しかも理由は私のほうが詳しいでしょって、理由だけ。
そんなはずはない。他のトレーニングが全て効率良く出来てるくせにボイトレが詳しくない筈がないわ。だから沙紀先輩には絶対に何かある。
そう思ってあの日からずっと沙紀先輩の事を調べたの。だけど分かったのは、委員長としての彼女の噂とアイドル研究部のマネージャーとしての変人な彼女のことだけだったわ。
何処に住んでいるのか。家族は何人いるのか。どうしてアイドル研究部に居るのか。そういった彼女の真実に関わる情報については、全くと言っていいほど集まらなかった。分かるのは根も葉もない噂ばかり。
まるで意図的に分からないように情報をコントロールしているみたい。
考えてみればμ'sに入る前に沙紀先輩は私に接触して、私の個人情報を調べ尽くしていた。
あれは私を勧誘するためだけに調べたのかと思っていたわ。けどそうじゃなくて初めから全ての生徒を調べあげてる可能性がある。
情報を集めることが出きるのなら、情報をコントロールすることは容易いわ。
結局、篠原沙紀と言う先輩は分からないことばかり。
私が分かっていること二つだけ。沙紀先輩がとてつもなくにこ先輩を敬愛していることと女の子が大好きなことだけだった。
2
「リーダーには誰が相応しいか」
にこ先輩がメンバー全員の前でそう切り出した。
沙紀先輩は私たちの席の前にお茶を置いて、何時ものようににこ先輩の後ろに下がる。
これだけ見てると、にこ先輩のマネージャーみたいね。
「大体穂乃果たちがここに来た時点で一度考え直すべきだったのよ」
「リーダーね……」
私は特にリーダーがどうとか興味ないから、ただ呟くだけで何時もの癖で髪の毛を弄ったわ。
「私は穂乃果ちゃんでいいけど」
「駄目よ。今回の取材でハッキリしたでしょ。この子はリーダーにまるで向いてないの」
昨日の取材で穂乃果先輩はリーダーとしての仕事を全くしていないということが浮き彫りなってしまったわ。それで本当に穂乃果先輩がリーダーで良いのかと思ったみたいね。
もっともにこ先輩はこの期に乗じて、自分がリーダーになろうと考えてるのがバレバレだったけど。
「それはそうね」
「ですが……」
にこ先輩が言いたいことは分からなくないから、髪の毛を弄りながらにこ先輩に賛成する。
それに対して海未先輩は誰がリーダーなら良いか疑問を含めながら反対気味。
「そうとなったら早く決めたほうがいいわね。PVだってあるし」
「カメラも借りれたけど、生徒会で使う予定がまだあるみたいだから早めに撮らないといけないからね」
生徒会の手伝いをしているだけはあって生徒会の予定にもかなり詳しいわね。それは置いておいて、そうなると早く話を決めないといけないわ。私は興味ないけど。
「時間的にもそうだけど、リーダーが変われば必然的にセンターだって変わるでしょ。次のPVは新リーダーがセンター」
「そうね」
にこ先輩が言うことは最もだわ。最近はアイドルの曲の勉強をするために花陽から色んなアイドルのCDとかDVDを借りてるけど、アイドルグループはどれもリーダーを中心に歌って踊ったりしているわね。
「でも誰が?」
「リーダーとは!!」
花陽の疑問に対してにこ先輩が答えよう為に立ち上がると、同時に沙紀先輩はホワイトボードを回転させる。そこには事前に書いておいたであろうにこ先輩のリーダー論をみんなに見えるようにする。
「まず第一に誰よりも熱い情熱を持って、みんなを引っ張っていけること」
「次に精神的支柱になれるだけの懐の大きさを持った人間であること」
「そして何よりメンバーから尊敬される存在であること」
そんなにこ先輩の持論に対して花陽はメモしているみたいだけど、私は沙紀先輩が用意してくれたお茶を飲んで聞き流していた。
何時も用意してくれてるけど、相変わらず沙紀先輩が淹れるお茶は美味しいわね。そう思いながら沙紀先輩を見てみると、今日はやけに大人しい。
「この条件を全て備えたメンバーとなると……」
「海未先輩かにゃ~」
「なんでやね~~ん!!」
にこ先輩は自分だと言わせようと思ってたみたいだけど、凛が海未先輩だと口にするとにこ先輩は大きな声でツッコミを入れる。
「ツッコミを入れるにこ先輩も可愛い」
沙紀先輩はそんなにこ先輩を見て顔を赤らめながら、何時ものようにそんな事を口にしていたわ。
「私が?」
突然自分が指名されたことに戸惑う海未先輩。
「まあ確かににこ先輩の持論を考慮するとそうなるよね」
沙紀先輩も私情を全く抜きにして海未先輩がリーダーに向いていることは納得する。この人、こういうところは無駄にキッチリとしてのよね。
「そうだよ海未ちゃん。向いてるかもリーダー」
周りがそう薦めるから海未先輩にリーダーの座を進めようする穂乃果先輩。
「それでいいのですか」
「えっ? 何で?」
「リーダーの座を奪われようとしているのですよ」
「えっ? それが?」
「何も感じないのですか」
リーダーの座に関して特に何の思い入れもない感じで、海未先輩の質問に穂乃果先輩は答える。
「だってみんなでμ'sやっていくのは一緒でしょ」
まあ確かにやっていくことは変わらないかもしれないけど、そんな簡単に譲っていいのかしら。
「でもセンターじゃなくなるかもですよ」
リーダーでなくなることはセンターでなくなることを意味している。そのセンターがどのくらい重要なものか分かっている花陽は穂乃果先輩にそう伝える。
「おお!! そうか」
「まあいっか」
『えぇ!!』
少し考えたところですぐにセンターじゃなくなることに対して気にしていない態度に私も含めて全員が驚いた。
「そんなことでいいのですか」
「じゃあリーダーは海未ちゃんとゆうことにして……」
「待ってください……。無理です」
そんな感じでさっさと決めようとする穂乃果先輩に対して海未先輩は恥ずかしそうに断った。
「面倒な人」
そんな海未先輩を見てそう口にする。
何時も沙紀先輩と一緒にメンバーを指揮したりしているくせに、いざリーダーになれと言われると恥ずかしがるなんて。
「じゃあことり先輩?」
「ん? 私?」
凛に指名されてことり先輩のほうを見るけど雰囲気的にどう見ても……
「副リーダーって感じだね」
確かにそんな感じね。ことり先輩はよくメンバーの事を気遣ってくれて裏で支えてくるイメージがよくあるからなのかしら。
「じゃあ……沙紀先輩?」
「そんなじろじろと見られると照れちゃうよ」
順番的に沙紀先輩の名前を挙げて先輩のほうを見ると、そんな事思ってないくせに言う沙紀先輩。どちらかと言うと別の意味で興奮しているように見える。
「うん。ないかにゃあ」
そんな沙紀先輩を見て凛はスッパリと言う。相変わらず悪気がないのに思ったことを堂々と口にするわね。
「うんうん。その通りだよって、凛ちゃんひどいよ」
「でも、沙紀先輩はクラス委員やってるんですよね。なら向いてるかも」
「そうですね。委員長しての沙紀ならにこ先輩の持論と一致しますし、委員長としてなら……」
二人の言う通り沙紀先輩ならこの中で絶対に向いてるかも知れないわね。けどまあ海未先輩が自分に言い聞かせるように言ってた通り委員長としてならね。
この人、クラスに居るときはホント人が変わったみたいに真面目な委員長を演じている。その状態でやるなら問題はないけど、ここにいるときじゃあ全くその面影がないわ。
でもまあそんなこと言ってもこの人は断ると思うわね。何故なら……。
「まあ、私はクラス委員やってるけどここじゃああくまでもマネージャーだからリーダーやれって、言われても無理なんだけどね」
「それもそうですね。沙紀がメンバーだったら問題はなかったですけど、マネージャーですから。それにマネージャーがリーダーだなんて変な話ですし」
ホント、沙紀先輩がマネージャーじゃなくてメンバーだったらこの話はもう終わるのに。それにしても何故この人はメンバーじゃなくてマネージャー何てやってるのかしら。
この人、顔やスタイルは良いからアイドルやっても全然不思議じゃないのに……やっぱりこの人の正体が星野如月だから。
「じゃあどうしようか。一年生でリーダーっていかないし」
私が沙紀先輩に対して疑問持ちながらも花陽は一年生が上級生を差し置いて、リーダーをやるのはおかしいと言う。それもそうね。何せ私たち入ったのは一番最後だし。
「仕方ないわね」
「やっぱり穂乃果ちゃんがいいと思うけど」
「仕方ないわね」
「私は海未先輩を説得したほうがいいと思うけど」
沙紀先輩を除けば一番向いているのは海未先輩なんだから、この人を説得すれば早くこの話は終わるわ。
「仕方ないわね!」
「投票がいいじゃないかな」
「仕方ないわね!!」
「で、どうするにゃあ」
「どうしよう」
「分かったわよ。歌とダンスで決着を付けようようじゃない」
私たちがリーダーを誰にするか悩んでいるなか何故かにこ先輩にカラオケに連れていかれた。
3
「決着?」
「みんなで得点を競うつもりかにゃあ」
「その通り」
「一番歌とダンスが上手い者がセンター。どう? それなら文句ないでしょ」
まあ、確かに上手い人がリーダーやるのは間違いじゃないわね。それにこのやり方だと誰が何が得意かハッキリするから今後の個別練習の指標になるわね。
「でも……私カラオケは……」
「私も特に歌う気はしないわ」
私も海未先輩と同様歌うつもりはない。最も理由は違うけど。私は別にリーダーとか興味ないし。
「なら歌わなくって結構。リーダーの権利が消失するだけだから」
別にそれで良いわよ。面倒なことしなくて済むし。
「フフフ、こんなこともあろうかと高得点の出やすい曲のピックアップ既に完了している。これでリーダーの座は確実に……」
明らかに不正をしようとしている人が居るけど私は興味ないから見逃す。こう言うのはよしとはしない人も居ることだし。
「さあ始めるわ」
にこ先輩は始める合図をするけど誰も話を聞いてなく各々自由に行動している。ただ一人を除いては。
「あんたら緊張感無さすぎ!!」
「じゃあ、にこ先輩曲入れますね」
そう言って沙紀先輩は勝手ににこ先輩が歌う曲を入れる。
「ちょっと待ちなさいよ沙紀!! あっ……、あっ!!」
沙紀先輩を止めようとするにこ先輩だけど既に遅く曲は始まってしまい歌わざる終えなくなってしまった。
その結果は──
「にこ先輩90点です。流石です」
沙紀先輩の無茶ぶりに何とか高得点を出したにこ先輩。最初はかなり焦ってたみたいだけど、すぐに切り替えて歌いきったのは称賛するわ。
「何するのよ!! 沙紀!!」
歌い終わったあと沙紀先輩に詰め寄るにこ先輩。高得点を出したけど急に曲を入れられたら怒るわよね。
「ん? 私の前で不正しようとしてたじゃないですか」
「げっ!! それは……」
小さな声で正論を言われて戸惑うにこ先輩。やっぱり沙紀先輩にはバレたのね。
この人基本的にふざけてることが多いけど、こう言うことは嫌ってるみたいだから不正を見つけると正そうとするのよね。
「それに私の尊敬するにこ先輩はそんなことしなくても良い点数なんて取れるって信じていましたから」
まるで母親かのような優しい声でにこ先輩の事を信じてたと言う沙紀先輩。
「そうね。にこが間違っていたわ。あんたと共に練習した日々を思い出せばこんな不正しなくてもリーダーの座を勝ち取れるわ」
目を閉じて沙紀先輩との思い出を思い出すにこ先輩。その表情は喜怒哀楽がコロコロと変わり若干気持ち悪いわね。
「にこ先輩……」
「沙紀……」
そうして二人は互いに名前を呼んで、そのあと急に抱き合って周りが困惑する。更に沙紀先輩の表情があからさまに興奮しているため全員が引いていた。
「ナニコレ? 意味わかんない」
そんな奇妙な茶番を見せられた私はそんなことしか口にすることしか出来なかった。
「じゃあ、凛が曲入れるにゃあ」
そんな中凛だけは興味無さそうに自分を歌う曲を入れていた。
凛が曲を入れた皮切りに次々と曲を入れて結局歌うつもりもなかった私も歌うことになったわ。
「海未ちゃんは93点」
「これでみんな90点以上よ」
そうして最後に海未先輩が歌い終わったことでメンバーの全員の点数は出揃ったわ。
「みんな毎日レッスンしてるもんね」
「真姫ちゃんや沙紀先輩が苦手なところちゃんとアドバイスしてくれるし」
花陽の言う通り練習中は私と沙紀先輩がどちらかが気付いたら、アドバイスするようにしているから、細かいところまで気付けるようになっているわ。
「気づいてなかったけどみんな上手くなってだね」
それはそうよ。何たってあんな練習をしているのだから上手くならないはずはないわ。
「こいつら化け物か」
二人の世界から戻ってきたにこ先輩はあまりの点数の高さに毒づいてたわ。
「さてと、それじゃあ次のダンス勝負の場所に移動しようか」
そう言って移動する準備をしようとする沙紀先輩。やっぱりここでも歌うつもりはないみたいね。
「待って、沙紀ちゃん歌わなくっていいの?」
「えっ? だって私マネージャーだから歌う必要ないし」
移動しようとしている沙紀先輩に歌わなくって良いのかと聞いてくる穂乃果先輩だけど、マネージャーだからと言って歌うつもりないと断る。
「えぇ!! いいじゃんそんなの関係なく歌おうよ沙紀ちゃん」
「そうだよ。せっかく来たんだから一曲くらい歌おう」
「それに私たち沙紀がちゃんと歌ってるところ見たことないですし」
「わたしも……沙紀先輩の歌を聴いてみたいです」
「こんな状況で歌わないのは空気読めてないにゃあ」
「…………」
みんなが沙紀先輩に歌うことを進める。その間に私はある準備を始める。
「はい、マイク。私も歌ったんだから歌いなさいよ」
準備を終えた私はマイクを沙紀先輩の前に差し出す。それを見た沙紀先輩は折れたみたい溜め息を付いた。
「はぁ、そうだね。みんながそう言うんだったら一曲だけ歌うよ」
そうして歌う決めてをして私からマイクを受け取り歌う準備をするため曲を入れようとするけど──
「あぁ、大丈夫よ。もう曲は入れてといたから」
そう言って画面に映し出されて沙紀先輩が歌う曲名と歌手名が書かれている。そして歌手名には星野如月と書かれていた。
「こ、こ、これは如月ちゃんのソロデビュー曲!!」
星野如月が歌っている曲を適当に入れただけど、花陽の反応とセリフからかなり当たり引いたわ。
この状況下では適当に歌えば今後の練習の時に説得力がなくなって練習に支障をきたす。だからこの場において手を抜くことは許されない。
それに加えて本当に沙紀先輩が星野如月ならこの曲に対してかなりの思い入れがあるはずだわ。何せソロデビュー曲何だから。
これで少なくとも沙紀先輩の正体が分かる。
「星野如月って沙紀ちゃんに似てるあの?」
「星野如月……三つ編み眼鏡……キ……」
穂乃果先輩は星野如月が沙紀先輩似ていることを思い出すと、海未先輩は芋づる式にあのときの出来事を思い出して顔を赤くしていた。
そして、沙紀先輩は言うと……一瞬悲しそうな顔していたのが見えた気がしていた。
何故、この人はそんな顔をしていたのか分からないまま曲は始り沙紀先輩は歌い始めた。
今の表情は? 私の気のせい? それとも……。
私の中でそんな疑問が頭を過るなか、歌い続ける沙紀先輩。そんな彼女をにこ先輩がずっと黙ったままだったのに、誰も気づいていなかった。
4
みんなが歌い終わり次のダンスの点数を競うためにゲームセンターに移動したわ。
「次はダンスよ。今度は歌のときのように甘くはないわよ」
「使用するのはこのマシン、apocalypsemoodEXTRA」
そう言ってにこ先輩は使用するダンスゲーム前に立って説明するけど、カラオケの時と同様に各々自由に行動していたわ。
「だから緊張感持ってて言ってるでしょ!!」
「ホント、全くみんなにこ先輩の有り難いお言葉に耳を傾けないなんてどうかしてるよ」
他のゲームで遊んでいるメンバーに注意するにこ先輩に同調する沙紀先輩だけど、私は彼女に対して冷たい目線を送っていた。
「あんたが一番ないでしょ!!」
そう言ってにこ先輩は沙紀先輩を叩く。沙紀先輩の両手にはゲームセンターで取った景品を袋いっぱいに詰め込まれていたんだから。
そんな人が緊張感がどうとか言っても全然説得力がないわ。
「だってゲームセンターなんて久しぶりでしたからついはしゃいじゃったんですよ」
両手に大量の景品を持って、はしゃいじゃったってレベルじゃない気がするのだけど。現に店内がちょっと騒がしくなってるし。
そしてこの日から沙紀先輩はこのゲームセンターのブラックリストに載ったとか載らなかったとか。
「沙紀ちゃんすごい!! これ全部取ったの!?」
「うん。昔プロのクレームゲーマーの技を見る機会があったからそれを少し真似したら簡単に取れたよ」
「プロって……それ以前にどうしたらそんなものを見る機会が……」
海未先輩が沙紀先輩のこと呆れながらも疑問を口にするけど、そうよね。どうしたらそんなもの見る機会があるのかしら。沙紀先輩の謎が増えていくばかりね。
「だから!! 今からダンスの点数競うわよ!! やる気あるの!?」
痺れを切らしたにこ先輩が真面目にやる気ないメンバーに怒るけど、もうみんなリーダーとかどうでもよくなってるんじゃない。
「凛は運動は得意だけどダンスは苦手だからなぁ」
「こ、これどうやるんだろう?」
花陽がこのゲームのやり方に困っているなか遊んでいたメンバーがこっちに集まる。そんななか苦手と言いながら、凛が勝手にお金を入れてゲームをプレイし始める。
「プレイ経験ゼロの素人が挑んでまともな点数が出るわけがないわ。くくっ、カラオケのときは焦ったけど次は……」
「にこ先輩」
そうとは知らずまた懲りずに不正をしようとするにこ先輩。だけど、沙紀先輩が見逃すはずもなくさっきまでと立場が逆転しているわ。
「だ、大丈夫よ、沙紀。私もやったことない難易度やるから不正ないわよ」
「それならいいです」
不正がないと言われてあっさりと引き下がる沙紀先輩。引き下がってくれたことに安堵するにこ先輩と同じタイミングで凛がゲームを終えた。
『スッゴイ!!』
「なんか出来ちゃった」
「えっ!?」
みんなが凛のスコアを見て驚いているなかにこ先輩はまたしても他のメンバーの才能に驚いていた。
「面白かったね」
全員(結局今回も私もまた無理矢理やらされて)プレイを終えて、沙紀先輩が書いてくれていたみんなのスコアを見る。
「でもなかなか差が付かないね」
これと言って大きな差はなくみんな大体同じスコアだった。もちろん不正しようとしていたにこ先輩もちゃんとみんなと同じくらいのスコアを取っていたわ。
何だかんだと言ってみんなダンスの実力が付いている証拠なので落ち込む必要はないのだけど、リーダーを歌とダンスで決めるって意味では問題しかないわ。
「こうなったら……」
これだけじゃあ決着が着かないと思ったにこ先輩がそう言ってみんなを連れて次に移動したのは何故か秋葉だった。
「歌と躍りで決着が着かなかった以上最後はオーラで決めるわ」
「オーラ?」
「そう。アイドルとして一番必要と言っても過言ではないものよ」
そうかしら。歌とダンスが出来ないとアイドルとしては失格な気がするのだけど。その辺はまだいまいち分からないわ。
「歌も下手。ダンスもイマイチ。でも何故か人を惹き付けるアイドルがいる」
そういえば花陽から借りたアイドルグループのライブDVDを見てみるとそういうアイドル何人か居たわね。基本的に技術がグループの平均以下のアイドルが。
「それは即ちオーラ!! 人を惹き付けてやまない何かを持っているのよ」
「わ、分かります。何故かほっとけないです」
「確かに強い存在感のある人は背後には何か人みたいな者が見えますし」
花陽と沙紀先輩はにこ先輩が言うことを分かるみたいで花陽の言ってることは何となく分かる。でも沙紀先輩の言ってることはまるで意味わかんない。
この人今なんて言ったの? 何か見えるって言ったの?
大丈夫かしら。一旦病院で見てもらった方がいいじゃない。私があとで良い医者でも紹介したほうが良いかもしれないわね。
「でもそんなものどうやって競うのですか」
海未先輩の言う通りこれまでの歌やダンスと違って点数として見えないものどうやって競うのよ。
「フフフ、これよ」
そう言って見せたのはμ'sのチラシだったわ。でもこれでどうやってオーラが有るか無いか分かるのか理解できないわ。
「オーラがあれば待っていても人は寄ってくるもの。一時間で一番多くこのチラシを配ることが出来た者が一番オーラがあるってことよ」
「今回はちょっと強引かも」
そうね。ちょっとどころかかなり強引だわ。それにチラシ配りなんて歌とダンスよりも面倒くさいわ。知らない人に配るなんて。でもそう思ってもこれも全員強制参加なのよね。
「誰が一番オーラを持っているかも分かって更にμ'sの宣伝にもなる正に一石二鳥。流石はにこ先輩です!!」
「沙紀ちゃんの言う通りμ'sの宣伝にもなるし、面白いからやろうよ」
チラシをみんなに同じ枚数配りながらにこ先輩の案に乗る穂乃果先輩。μ'sの宣伝にもなると言われるとやらない訳にもいかなくなくもないわ。
「今度こそチラシ配りは前から得意中の得意。このにこスマイルで」
「チラシ配りが得意とかよく意味わかりませんけど不正とかないので問題なしです」
不正がないと言うことで今回は沙紀先輩から見逃してもらったにこ先輩。
そんなわけで各自少し離れた所からチラシ配りを始める。
花陽と海未先輩はこういうことは苦手みたいでかなり苦戦していたわ。それに対して凛や穂乃果先輩それなりに、ことり先輩は得意なのか着々とチラシの枚数を減らしていってたわ。
私はこういうことやったことないから若干戸惑ったけど、少しずつ枚数を減らしていったわ。
そして、チラシ配りが得意とか言ってたにこ先輩はと言うと……寒いキャラをやり過ぎて、全く言って良いほどチラシが減ってなかったわ。それどころか道行く人に避けられてる感じ。
「ことりちゃんすごい。全部配っちゃったの」
にこ先輩の無惨な現実を見ていた間に穂乃果先輩の声でことり先輩のチラシが無くなったことに気付く。
「う、うん。気付いたら何か無くなっちゃってて」
ここでも思わぬ伏兵が潜んでたみたいね。それにしてもことり先輩すごく手馴れてた感じだけど、前にμ'sのライブのチラシを配っていたときにコツでも掴んだかしら。
「おかしい、時代が変わったの!?」
みんながことり先輩の方へ集まってるなか一人寂しくその場に立ち尽くしながら時代のせいにするにこ先輩。
何時からそんな時代があったのか。疑問でしかないわね。
「ごめんなさいにこ先輩。オーラに関しては生まれ持ったものですから、私にはどうすることも出来なくって!!」
そんなにこ先輩の近くまで寄って道の真ん中で土下座をする沙紀先輩。
「こんな不甲斐ない私を罵ってください」
「そんなことしなくていいわ沙紀。不甲斐ないのは私よ。時代に付いてこられなかった私の責任だからあんたが気にすることじゃないわ」
「にこ先輩……」
「ナニコレ? 意味わかんない」
秋葉の道のど真ん中で下らない三文芝居を見ながら、何時ものようにそんなことを言うことしか出来なかったわ。
しかし、そんな沙紀先輩のチラシの枚数を見ていると既に手元には一枚もなかった。
5
「うあ、結局みんな同じだあ」
チラシ配りを終えて一旦部室に戻って、改めて点数を見た穂乃果先輩はそんな感想を口にした。
「そうですね。ダンスの点数が花陽は歌が良くって、カラオケのことりはチラシ配り点数が高く」
「結局みんな同じってことなんだね」
総合評価で見てみると全員大体同じ点数になるし、点数が低いと言ってもメンバーから見て低いのであって点数的にはかなり高いわ。
これも練習の成果と言うべきね。けど気にするべき事は私にはあった。
「うん、そうだね。それにみんな全体的にみれば実力が付いている実感したみたいだしやって良かったと思うよ」
「確かに少し前と比べたら出来てるって感じました」
「うんうん。今度のPVも何か上手く出来そうって思ったもん」
沙紀先輩の言う通りしっかりとした結果として出てた分実力が付いているのは一目瞭然で、メンバーの士気が上がっているわ。ただ本来の目的は果たせないけど、意味はあったわね。
「にこ先輩も流石です。沙紀先輩と長くやってるだけはありますね」
「当たり前でしょ……」
凛がにこ先輩の点数を見て上級生として尊敬するけどにこ先輩からすれば皮肉でしかないわね。現ににこ先輩の顔引き釣ってるし。
「でもどうするの? これじゃあ決まらないわよ」
リーダーを決めるためにあんなことをやったのに、結局リーダーを決められないんじゃあ振り出しに戻るわけだし。
「う、うん。で、でもやっぱりリーダーは上級生のほうが」
「仕方ないわね」
「凛はそう思うにゃ~」
「私はそもそもやる気はないし」
結局話は最初のときに戻って花陽も凛も上級生がいいと言い出すし、またにこ先輩が自分がやっても良いわよみたいな雰囲気を出しているけどここはスルーね。
「あんたたちブレないわね」
「じゃあ、いいんじゃないかな、無くても」
『えぇ!!』
穂乃果先輩の提案に全員が驚く。
「無くても?」
「うん。リーダーなしでも全然平気だと思うよ。みんなそれで練習してきて歌も歌って来たんだし」
「しかし……」
「そうよ!! リーダーなし何てグループ聞いたことないわよ」
「大体センターはどうするの?」
他のメンバーがリーダーなしと言うのは不安に思っていた。リーダーが居ないとなると、次のPVの誰が中心に歌っていくのか。それを決める意味でも今までやってきたんだから。
「それなんだけど私考えたんだ。みんなで歌うってどうかな?」
そんなみんなの疑問に穂乃果先輩は一つのアイデアを出した。
「みんな?」
「家でアイドルの動画とか見ながら思ったんだ」
「何かね、みんなで順番で歌えたら素敵だなって、そんな曲作れないかなって」
そう言われて私は穂乃果先輩がどんな曲が作りたいのか段々分かってきた。
そうね。それならセンターは必要ないわね。
「順番に?」
「そう!! 無理かな?」
穂乃果先輩は自分のアイデアの歌が出来る歌詞と曲を作れなくはないか聞いてくる。
「まあ、歌は作れなくないけど」
「そうゆう曲無くは無いわね」
少し考えて私も海未先輩も出来なくはないと答える。
穂乃果先輩が言う曲は作ったことはないけど、今でも少しずつイメージは出来てるから海未先輩の歌詞と合わせながら作れば問題なく作れるはずよ。
「ダンスはそうゆうの無理かな?」
「ううん。今の七人なら出来ると思うけど」
「沙紀ちゃんもどうかな? 今の実力なら出来るかな?」
「練習を見てる身としても良いと思う。みんなそれだけの者は持ってるからね」
ことり先輩と沙紀先輩に出来ないかどうか確認するけど、二人とも出来るといい穂乃果先輩のアイデアは現実味を帯びていく。
「じゃあ、それが一番いいよ。みんなが歌ってみんながセンター」
「私──賛成」
「好きにすれば」
「凛もソロで歌うんだあ」
「わたしも!?」
「やるのは大変そうですけどね」
一人一人と穂乃果先輩のアイデアに賛成する。あとは……。
「あとはにこ先輩だけですよ。部長の一言で全てが決まります。ちなみに私も賛成です」
「仕方ないわね。ただし私のパートはかっこ良くしなさいよ」
「了解しました」
部長と部員全員が了解したことで次のPVの方向性は決り、やっとPVに本格的に始められるようなったわ。
「よ~し、そうと決まったら早速練習しよう」
そう言って元気よく部室を飛び出した穂乃果先輩のあとをみんなはゆっくりと着いていく。
「でも、本当にリーダーなしでいいのかな?」
なしってことにはなったけど、リーダーなしはどうかと思ったことり先輩はそんな疑問を口にした。
けどそんな心配はもう必要ないわ。
「いえ、もう決まってますよ」
「そうだね」
「不本意だけど」
「何にも囚われないで一番やりたいこと、一番面白そうな物に怯まず真っ直ぐに向かっていく、それは穂乃果にしかないものかもしれません」
海未先輩の言う通り穂乃果先輩の良いところ。短い間一緒にいないけど、近くに入ればよく分かること。ホント、不本意だけど。
「じゃあ、始めよう」
それを合図に今日の練習が始まった。
6
私は練習が終わると、気になることがあって部室に戻ってきたわ。そこには今日みんなの歌とダンスそしてチラシ配りの点数が書かれたノートが、机の上に置かれていた。
きっと誰かが片付けずそのままにしてたみたい。
丁度良かったわ。探す手間が省けるし。私はそう思いながらノートを手に取って、中身を確認しようすると花陽が部室に戻ってきた。
「あれ? 真姫ちゃん? どうしたの?」
私が練習終わった後でも部室に居たことが驚いた花陽はどうして私が居るのか聞いてくる。
「私はちょっと確認したいことがあってね。花陽は?」
「わたしは部室に忘れ物をして……」
そういって花陽は忘れ物を探し始めたけど、案外すぐに見つかったみたいで鞄の中に入れる。
忘れ物を見つかったなら丁度いいわ。花陽に聞きたいことがあったから。
「ねえ、花陽。聞きたいことがあるのだけどいい?」
「いいけど……何? 真姫ちゃん」
花陽は私から何を聞かれるのか分からないけど、聞いてくれると言ってくれたから私はノートのページを捲る。
「その前にこれ見てくれる」
私は花陽に今日着けた点数が書かれたノートのページを見せる。
「みんな上手くなってるよね。カラオケのときも言ったけど真姫ちゃんと沙紀先輩のお陰だよね」
「そうね。確かにみんな実力は着いてるわ。でもそれじゃあ説明付かない人が居るのよね」
私はその人物の名前と点数を指差す。その人物は──
篠原沙紀先輩。
カラオケ、ダンス(最高難易度で)共に満点。チラシ配り至っては気付かない間に終えて測定不能。
「確かに沙紀先輩はスゴかったね。近くで見ても私たちとは別の世界の人だなんておもっちゃった」
「あなたは前に沙紀先輩は星野如月に似てるって言ってたわよね。ならあのとき沙紀先輩の歌を聞いてどう思った?」
花陽の言う通り沙紀先輩の歌とダンスの技術は普通の高校生としては異常なくらいまで高いものだったわ。けどそれは見れば分かること。私はそれを見て聴いて、とある疑問があった。
だからその疑問を解消するために花陽に聞いてみる。私たちの中でアイドルに詳しい花陽に。
もう一人アイドルに詳しいにこ先輩が居るけど、何故かあの人にその事を聞くとはぐらかそうとするそんな感じがしたから。
「うん。沙紀先輩の歌を聴いて、やっぱり如月ちゃんに似てるって思ったよ。声も歌い方もおんなじだったけど……」
「けど……何気になる事があったの?」
「なんと言えば良いのか。声も歌い方も一緒なんだけど……何処か違うような大事なものが何か足りないような……よく分からない感じ……」
「花陽が言いたいのってもしかして歌に沙紀先輩の感情が全くないってこと?」
「そう!! 如月ちゃんは表情は冷たいところはあるんだけど、歌には自分の感情をすごく込めて歌うアイドルだったの!!」
花陽の疑問に私が抱いていた疑問を言うと、欠けていたピースが嵌まったかのようにスッキリした表情になる。
花陽の表情を見て私は確信する。沙紀先輩の歌とダンスを見たときに感じたものを。
あの人は歌とダンスをただの作業のようにまるで機械のように正確にやるだけ。そこには彼女の感情はない。
どうしてそんな風に出来るのか疑問は残るけど、結論は出たわ。
「花陽……私に星野如月について教えてくれない? どんな些細なことでも良いから全部」
「えっ!? 全部って言われても……。どうして?」
「沙紀先輩の正体は星野如月間違いないわ」
篠原沙紀先輩の正体はアイドル星野如月。
それで彼女の技術の高さはそれで説明が付く。あとはどうして沙紀先輩がそうなってしまったのか分かれば良いのだけど、それを調べるために花陽に協力してもらう。
花陽の持ってるアイドルの知識を使ってね。
「えぇ!! 沙紀先輩が如月ちゃん!? でも……、えぇ!!」
そう思ったけど……花陽はあまりの衝撃で若干壊れかかっているわ。
今日はちょっと無理そうね。
それに次のPVための曲作りがあるからそれが終わってから本格的に動くべきね。まずは目の前のことに集中しないと。
そんなわけで一先ずはPVに向けて私たちは頑張ることにしたわ。
「もし……本当に如月ちゃんだったらサイン描いてくれるかな……でも書いてくれるとしてもどれに書いてもらおうかな……」
まだ花陽に話すべきじゃなかったわね。何かまだ何かブツブツ言ってるし。
そんな訳で今回は真姫ちゃんが初の語り手でした。
これでやっと語り手をやってないメンバーが三人になりましたね。
残りの三人も近いうちにやりたいですけど、いいタイミング見つからない。そもそもまだ一人は加入してない。
基本的にノリで語り手を決めているところが多いですから結構数に差があったりするですよね。
まあそれは置いておいて、次回をお楽しみに。
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