ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー   作:タトバリンクス

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十四話 取材

 1

 

「あ、あの」

 

「はい、笑って」

 

 急にカメラを向けられて困っている穂乃果ちゃんにウチは笑うように言う。

 

「えっ!?」

 

 穂乃果ちゃんは戸惑いながらすぐに笑顔を作る。流石はスクールアイドルやね。

 

「じゃあ決めポーズ」

 

「これが音ノ木坂学院に誕生したμ'sのリーダー高坂穂乃果その人だ」

 

 凛ちゃんにポーズを取るように言われて彼女が思い付く限りのポーズを取ったところでウチがナレーションを入れる。

 

「はい、カッート!!」

 

 沙紀監督の合図と共に穂乃果ちゃんの撮影を終える。

 

「あの……これは?」

 

「じゃあ海未先輩ね」

 

「よ~い、アクション!!」

 

 穂乃果ちゃんはこれが何なのか分からずウチたちに聞いてくる。だけどそのまま凛ちゃんが次は海未ちゃんを撮影しようと、カメラを向けたところで沙紀監督が開始の合図を入れた。

 

「な、何なんですか。ちょっと待ってください!!」

 

 いきなり自分を撮られるから戸惑い恥ずかしがって、自分の顔がカメラに写らないようにする海未ちゃん。

 

「失礼ですよ、いきなり」

 

「ごめん、ごめん。実は生徒会で部活動の紹介するビデオを製作することになって、各部に取材してるところなん」

 

 ウチは穂乃果ちゃんたちにこの撮影の主旨を説明する。その横で凛ちゃんと沙紀監督は海未ちゃんの撮影を続けてるやけど。

 

「いいね。いいね。恥じらう姿はいいよ」

 

「カメラ、左に回って。そのあと下から見上げる感じで」

 

「ラジャー。監督」

 

 うん。このままじゃあ別の撮影になりそうやけど、面白いからそのままでしとこう。

 

「取材? そもそも沙紀ちゃんは何やってるの?」

 

 取材について気になるところだと思うやけど、委員長ちゃんのほうがもっと気になるんやね。

 

「沙紀ちゃんではない!! 監督と呼べ!!」

 

 そういうことや。委員長ちゃんにお手伝いを頼んだらノリノリで引き受けてくれてたんや。ただ監督の真似事ついては……。

 

「うぅ、でも監督っぽい衣装が全く思い付かなかったからこんな格好にこれじゃあ中途半端で気持ち悪いよ」

 

 監督と呼べと言った矢先に委員長ちゃんは、自分の格好のことについて何か言いながらその場で泣き崩れた。

 

 今の委員長ちゃんの服装は上下ジャージでメガネじゃなくってサングラスを掛けて帽子を被っている(ちなみに髪型は何時も通り三つ編み)。

 

 どちらかと言えば運動部の監督みたいな格好をしてるから違う監督やね。委員長ちゃんは役作りに何か変な拘りがあるから(ウチには分からないけど)そういうところ気にするやんね。

 

 まあ、そこが委員長ちゃんの可愛いところなんやけど。

 

 誰もが委員長ちゃんの苦悩を理解できないでいるなか一人委員長ちゃんの近づく人物がいた。

 

「沙紀ちゃん何で相談しなかったの!! 衣装だったらことりがいくらでも作ったのに」

 

「えっ!? だってことりちゃんライブの衣装で忙しいのに私の趣味に付き合わせるのは迷惑だと思ったから」

 

「気にしないでいいよ。可愛い女の子が可愛い衣装を着るためだったらいつでも手伝うよ」

 

 委員長ちゃんに手を指し伸ばすことりちゃん。そんなことりちゃんに委員長ちゃんは感激した顔をしながら──

 

「穂乃果ちゃんは?」

 

 何かの確認をした。

 

「動物パジャマ!!」

 

 委員長ちゃんの質問に即答することりちゃん。

 

「海未ちゃんは?」

 

「チャイナ服!!」

 

 ことりちゃんも委員長ちゃんに質問を返すと、委員長ちゃんも即答する。

 

『ソウルフレンド!!』

 

 彼女たちが何かの確認を終えると、そう言って互いに抱き合った。

 

 今ここに彼女たちしか理解できない友情関係が生まれた。

 

 ウチは何がなんだか分からないまま他のみんなの反応を確認する。

 

「何これ?」

 

「いいね。この角度もらったよ」

 

「…………」

 

 穂乃果ちゃんはウチと同様完全に理解ができていない。凛ちゃんに至ってはこの状況を撮影ながら楽しんでいた。

 

 海未ちゃんは何かちょっと羨ましいそうな顔をしてたけど……ウチの気のせいやよね。

 

「まあ、最近スクールアイドルが流行ってるし、μ'sに悪い話やないと思うけど」

 

 ここままこの二人に関わってると話が進まなそうなので話を戻す。

 

「わ、私はイヤです。そのカメラに写るなんて」

 

「取材……」

 

「なんてアイドルな響き」

 

 海未ちゃんはカメラに写るのが恥ずかしいから嫌だと断る。けど穂乃果ちゃんはアイドルっぽいと思ってちょっと酔いしれる。

 

「穂乃果?」

 

「OKだよね海未ちゃん。それ見た人がμ'sのこと覚えてくれるし」

 

 そうやね。この取材のビデオは学校のホームページやオープンキャンパスとかの行事で流れるから多くの人に見てもらえる。

 

 だから、μ'sとしても本当に悪い話やないんや。そうじゃなきゃ委員長ちゃんも手伝わないしね。

 

「そうね。断る理由はないかも」

 

 二人だけの世界から戻ってきたことりちゃんも穂乃果ちゃんの意見に賛成する。

 

「ことり」

 

 どんどん味方がいなくって戸惑う海未ちゃん。

 

「取材させてくれたらお礼にカメラ貸してくれるって」

 

「そしたらPVとか撮れるやろ」

 

「PV?」

 

 PVと言われてなんのことやらみたいな反応する穂乃果ちゃん。

 

「ほら、μ'sの動画ってまだ三人だったときのやつしかないでしょ」

 

「メンバーも七人に増えたからそろそろやったほうがいいと思ってたけど良いカメラがなかったからね」

 

「あぁ!」

 

 凛ちゃんと委員長ちゃんに言われてPVを取っていなかったことを思い出した穂乃果ちゃん。

 

「あの動画誰が撮ってくれたのか分からないままだし」

 

 あの動画って言うのはファーストライブの動画のことやろ。ウチは誰が撮ったのか知ってるし、時期じゃないからみんなには悪いけど言わない。

 

 委員長ちゃんも気付いてるみたいやけど……言わないってことは委員長ちゃんもタイミングを計ってるやね。

 

「海未ちゃんも沙紀ちゃんもそろそろ新しい曲をやったほうがいいって言ってたよね」

 

「決まりだね」

 

「もう!!」

 

 周りの反応と取材を受けるメリットを考えて、海未ちゃんも嫌々取材を受けることにした。

 

「よ~し!! じゃあ、他のみんなに言ってくる」

 

 そう言って穂乃果ちゃんは他のメンバーを呼びに探しに行った。

 

 2

 

「ありのまま過ぎるよ!!」

 

 ウチがナレーションを入れながらビデオに撮った映像を確認すると、穂乃果ちゃんはそう叫んだ。

 

 撮られた映像は授業中に寝て昼食にパンを食べてまた寝ると言うもの。確かに穂乃果ちゃんの感想通りありのままの映像やった。

 

「ってゆうか、いつの間に撮ったの!?」

 

「上手く撮れてたよことり先輩」

 

 誰が撮ったのか穂乃果ちゃんが犯人を探そうとすると、凛ちゃんが上手く撮影できていたとことりちゃんを誉める。

 

「ありがとう。こっそり撮るのドキドキしちゃった」

 

「えぇ!! ことりちゃんが……。ヒドイよ」

 

 思わぬ伏兵に驚く穂乃果ちゃん。ちなみに盗撮していたときの思い出していたことりちゃんの顔は、何かに目覚めそうな顔をしていたのは、ウチの気のせいやと思いたい。

 

「普段だらけてるからこういうことになるんです。これからは……」

 

 海未ちゃんが穂乃果ちゃんを注意しようとするけど、次に海未ちゃんの映像が流れたから穂乃果ちゃんは全く聞いていなかった。

 

「真面目に弓道の練習を」

 

 弓道の練習をやってると思ったら、近くにあった鏡を見て可愛い笑顔を鏡に向けていた。

 

「可愛く見える笑顔の練習?」

 

 そんなことをことりちゃんが言うと、海未ちゃんは手でビデオの画面を隠す。

 

「プライバシーの侵害です!!」

 

「この流れなら沙紀ちゃんも撮ったんだよね」

 

 海未ちゃんが恥ずかしがったところで穂乃果ちゃんが委員長ちゃんも撮ったかどうかを聞いてくる。

 

 まあ、当然の流れやよね。μ'sのメンバーじゃないにしても一応は取材が入るから。

 

「うん……。撮ったんだけどね……」

 

 何とも言えない顔をして撮りはしたと言ってるけど、ウチ的にはまた委員長ちゃんがやらかしたと思った。

 

 けど委員長ちゃんの映像を見てみると、写っているのは真面目にクラス委員の仕事や生徒会の手伝いをやっていて、全く面白くない映像やった。

 

「全然面白くないよ。沙紀ちゃんならきっと色々とやってくれると信じてたのに」

 

「ヒドイ!! みんな私に何を求めてるの!?」

 

「テレビのお笑い芸人みたいなこと」

 

「勢いだけの全力のボケだよ沙紀ちゃん」

 

 委員長ちゃんに何を求めるのか二人の反応を見ていると委員長ちゃんが普段ここで何やってるのか大体見当がついてしまうやん。

 

「クソ、また日頃の行いかよ!! やっぱり改めるべきか? でも、やっぱり改めない!! だって私だもん!!」

 

「いや、改めてくださいよ」

 

 海未ちゃんのツッコミも一理あるんや。特に委員長ちゃんがこんなキャラじゃないと思っているエリチがいるやから。

 

 ホント、エリチにバレたら即倒レベルや。

 

「でも流石は沙紀先輩だね。伊達に全校生徒を騙していないにゃ~」

 

「いや~それほどでもなくないね」

 

「いや、誉められてませんよ」

 

 確かにビデオの通りに出来てなかったら、委員長ちゃんが全校生徒を騙してないやよね。それが出来なければ別の意味で有名になってたし。

 

「よ~し、こうなったら次はことりちゃんのプライバシーを……」

 

 穂乃果ちゃんは今までやられた仕返しに主犯であることりちゃんの鞄を開けて中身を見ようとする。けど、ことりちゃんは素早く鞄を取って自分の後ろに隠す。

 

「ことりちゃんどうしたの?」

 

「何でもないのよ」

 

「でも……」

 

「何でもないのよ、何でも」

 

 早口で喋って明らかに怪しいけど、それ以上野暮な気がするので、ウチはこの取材の説明を始める。

 

「完成したら各部にチェックしてもらうようにするから問題あったらそのときに」

 

「でもその前に生徒会長が見たら」

 

(困ります。あなたのせいで音ノ木坂が怠け者の集団に見られてるわ)

 

 この映像を見たエリチを穂乃果ちゃんは想像してこんなことを言われると思って涙目でウチを見てくる。

 

 確かに今のエリチなら言いそうやな。けど……。

 

「まあ、そこは頑張ってもらうとして」

 

 と言うかあの映像を見て自分たちが怠けてると自覚があったんだ。

 

「えぇ!! 希先輩何とかしてくれないですか」

 

「そうしたいんやけど、残念ながらウチに出来るのは誰かを支えてあげることだけ」

 

 穂乃果ちゃんはウチが何とかしてくれると思ってたみたいやけど、それは出来ない。

 

「支える?」

 

 そう。ウチに出来るのはそれだけ。今はそれが一番必要な人のために頑張らなきゃいけない。そして……もう一人……。

 

「まあウチの話はええやん。それにここには委員長ちゃんがいるから大丈夫やろ。この子、一応エリチに気に入られてるから」

 

 エリチは見事に委員長ちゃんに騙されて有能で礼儀正しくって真面目な後輩って、勘違いしてるから委員長ちゃんが少し言えば何とかなるやろ。

 

「希先輩がそう言うならじゃあ、沙紀ちゃん任せた」

 

「任された」

 

 こういうところですぐに任される辺りそういう部分ではかなり信頼されてるやな委員長ちゃん。良かった良かった。ウチは委員長ちゃんが穂乃果ちゃんたちと馴染めてのが、分りホッとする。

 

「さてと、さあ次は……」

 

 誰を撮影しようと悩んでいると、部室の扉が開いてそこからにこっちが息を上げながら部室に入ってきた。

 

「ああ、にこ先輩」

 

「取材が来るってホント!!」

 

 ああ、取材が来るって穂乃果ちゃんから聞いて急いで来たんやね。ホント、にこっちは目立ちたがり屋さんなんやから。

 

「もう来てますよ。ほら」

 

 ウチがカメラを持って来てるよとアピールするとにこっちは──

 

「にっこにっこに~!」

 

 アイドルとしてのキャラを演じ始めた。

 

「みんなも元気ににっこにっこに~の矢澤にこです」

 

「え~と、好きな食べ物は~」

 

「ごめん、そういうのはいらないわ」

 

 今回はそういう主旨じゃないからにこっちのはNGなんやね。

 

「えっ?」

 

「部活動の生徒たちの素顔に迫るって感じにしたいんだって」

 

 驚くにこっちに凛ちゃんが今回の撮影の主旨を説明する。

 

「素顔……あぁ!! OKOKそっちのパターンね。ちょっと待ってね」

 

 撮影の主旨を理解したところで、そう言ってにこっちは後ろを向いて何かしようとしているけどウチたちは──

 

「じゃあみんな行こっか」

 

 そう言ってウチたちはにこっちを置いて次の撮影場所に移動する。

 

「良いんですか。にこ先輩一人にして」

 

「大丈夫や。委員長ちゃん置いてきたから」

 

「なら問題ないね」

 

 色んな意味でやけどことりちゃんの言う通りあの二人なら問題ない。だって──

 

「にこ先輩の愛いただきました!!」

 

 案の定にこっちに欲情した委員長ちゃんが返り討ちにあった声が聞こえたから。

 

 そんなわけで次の撮影場所に移動すると──

 

「遅いぞ、お前たち。監督を待たせるとは何事だ」

 

 花陽ちゃんと真姫ちゃんと一緒に監督スタイルで何故か委員長ちゃんがウチたちより先にそこにいた。

 

 3

 

「何で沙紀ちゃんが穂乃果たちより先に来てるの? だってにこ先輩にお約束を受けてたんじゃあ……」

 

「沙紀ちゃんではない。監督と呼べ!!」

 

 そう言って委員長ちゃんは何処から取り出したネギで穂乃果ちゃんの頭を叩く。しかし、何でネギ? しかも曲がってるし。

 

「イッタイ!! 何するの沙紀ちゃん!! しかもまた曲がりネギで」

 

「だから監督と……」

 

「分かったから分かったから!! 髪の毛にネギの臭いが付くから止めて~~」

 

 そんなコントみたいな会話を見るのは止めて委員長ちゃんの一緒にいた二人の方を見る。

 

「それで二人は? 何か知ってるように見えますけど」

 

「え~と……。その……」

 

 海未ちゃんが二人が何でもう委員長ちゃんがいるのか知ってるみたいだったから聞いてみると、花陽ちゃんは話しにくそうな顔をしていた。

 

「沙紀先輩がいきなり窓から飛んできたのよ」

 

 言いにくそうな花陽ちゃんに代わって、真姫ちゃんが説明する。

 

 ああ、なるほど。にこっちに空いていた窓のほうへ吹き飛ばされたあと、たまたま通りかかった真姫ちゃんと花陽ちゃんに合流したわけやね。

 

「よ~し、メンバー揃ったから撮影を始めるぞ」

 

 ネギを両肩に乗せながら撮影の準備を進めていた委員長ちゃん。うん。それ明らかに監督の仕事じゃないね。

 

 そんな訳で沙紀監督の指示の下、取材の撮影が始まった。

 

「た、助けて……」

 

 まず、初めにまだ取材をしてない花陽ちゃんからスタートしたわけだけど、緊張のあまり助けてと言う。

 

「緊張しなくて平気、聞かれたことに答えてくれればいいから」

 

「編集するからどんなに時間掛かっても大丈夫やし」

 

「花陽ちゃんのペースでやりなさい」

 

 撮影スタッフで花陽ちゃんに緊張のほぐそうとする。一人すごく偉そうだけど。

 

「で、でも」

 

「凛もいるから頑張ろ」

 

 そうして凛ちゃんは花陽ちゃんを励ましながらもう一人の一年生の方を見る。

 

「真姫ちゃんもこっち来るにゃ~」

 

「私はやらない」

 

 みんなから離れた場所で髪の毛を弄りながら取材拒否する真姫ちゃん。

 

「もう」

 

 凛ちゃんは真姫ちゃんが取材を受けてくれなくって困っているなかウチは真姫ちゃんに取材させる方法を思い付く。

 

「ええやん。どうしても嫌ならインタビューしなくても」

 

 凛ちゃんにウインクをして沙紀監督からの許可を確認して頷いてくれたからウチは思い付いた作戦を実行する。

 

「真姫だけはインタビューに応じてくれなかった。スクールアイドルから離れればただの盛んな十五歳。これもまた……」

 

 凛ちゃんが真姫ちゃんにカメラを向けたところでウチがナレーションを入れる。

 

「何勝手にナレーション被せてるの!!」

 

 それに気付いた真姫ちゃんはウチたちのほうに来てカメラを止めようとする。

 

 結局、取材拒否をすればウチたちによる編集作業によってあることないことナレーションで吹き込まれると思った真姫ちゃんは渋々取材を受けてくれることになった。

 

 やってること明らかにえげつないやけど。

 

 そんな訳で真姫ちゃんも取材に協力してくれるってことで先ほどとは打って変わって一年生三人の取材を始める。

 

「まず、アイドルの魅力について聞いてみたいと思います。では花陽さんから」

 

「えっ!? え~と……その……」

 

「かよちんは昔からアイドル好きだったんだよね」

 

「は、はい!!」

 

 花陽ちゃんが何を言おうか悩んでいると凛ちゃんが助け船を出して花陽ちゃんが話しやすくする。

 

「それでスクールアイドル?」

 

 そこから話を発展して次の質問をしているなか横で沙紀監督たちが何かしてる感じがする。何かは分からないやけどろくでもないことを。

 

「はい……え~と……」

 

「ちょっと止めて」

 

 ウチの質問に答えようとしていた花陽ちゃんだけど何かを見て笑い出して、真姫ちゃんはカメラを止めさせるように言ってその原因のほうへ向かう。

 

「いやぁ緊張してるみたいだからほぐそうかなって思って」

 

 穂乃果ちゃんは変顔をして花陽ちゃんたちを笑わそうとしていた。

 

「ことり先輩も」

 

「頑張っているかね」

 

 ことりちゃんはひょっとこの仮面を被りながら笑わせに来ていた。

 

「沙紀先輩に至っては何ですか!!」

 

「えっ? お腹すいたからお菓子食べてるだけだけど」

 

 そう言って食べてるのはサングラスだった。しかもそのサングラスよく見てみるとクッキーだった。

 

「おお!! すごいこれ沙紀ちゃんが作ったの?」

 

「そうだよ。ちなみにこの帽子もお菓子で出来ています」

 

 そう言って委員長ちゃんは帽子を取って食べる。いや、委員長ちゃん。衣装が準備できてなかったって言ってたけどこれ十分にすごいやん。

 

 何でお菓子で帽子とサングラスが出来るんやん。技術高すぎやろ。

 

「全く!! これじゃあμ'sがどんどん誤解されるわ」

 

 こんな状況を見ていた真姫ちゃんはそんな心配を口にした。

 

「おお! 真姫ちゃんがμ'sの心配してくれた」

 

「別に……私は……。あっ! 撮らないで!!」

 

 穂乃果ちゃんにそう言われて戸惑う真姫ちゃんだけど、カメラがまだ回っていたことに気づいて無理矢理止めた。

 

「でも確かにここまで撮った分を見てるとちょっとね」

 

「だらけてると言うか遊んでると言うか」

 

 取材の休憩ってことでここまで撮ってきた映像を見ているとそんな印象しか残らない。

 

「えぇ!!」

 

 そんなウチの感想に驚く花陽ちゃん。この映像を見てそういう感想しか出てこないんや。

 

「まあでも、スクールアイドルの活動の本番は練習やろ」

 

 ちゃんと練習を真面目にやってその風景を取れれば今までの事はエリチには何か言われるやろうけど問題はなしや。

 

「そうね」

 

「よ~し、それじゃあみんな気合い入れてこう」

 

 リーダーである穂乃果ちゃんの合図で練習場所である屋上に移動して練習が始まった。

 

 練習はマネージャーである委員長ちゃんが指示しながらダンスレッスンが行われてた。

 

「花陽ちゃんはちょっと遅いよ」

 

「はい」

 

「凛ちゃんはちょっと早いよ」

 

「はい」

 

「ちゃんとやりなさいよ」

 

「にこ先輩。昨日行ったところのステップまだ間違ってます」

 

「分かってるわよ」

 

「真姫ちゃんはもっと大きく動く」

 

「はい」

 

「穂乃果ちゃんは疲れてきた」

 

「まだまだ」

 

「海未ちゃんはまだまだ余裕だね」

 

「はい」

 

「ことりちゃん今の動き忘れずに」

 

「うん」

 

 委員長ちゃんが一人一人をキッチンと見ながらアドバイスをする。

 

「ラスト」

 

 委員長ちゃんがそう合図をしてそれぞれポーズを決めたところで練習が終わる。終わったあとはメンバー全員に飲み物を渡して無理をしないように気を遣っていた。

 

「かれこれ一時間ぶっ通しで続けてやっと休憩。全員息は上がってるが文句を言うものはいない」

 

 ウチはナレーションを入れながら練習風景を見ていると──

 

「どう?」

 

 タオルで汗を拭きながらこっちに向かって、真姫ちゃんがこれで良いのか聞いてくる。

 

「さすが練習やと迫力が違うね。やることやってる感じやね」

 

 ずっと練習を見ていたけどさっきまでとは違って、真剣にそして真面目に練習に励んでいるからビックリしたよ。まるでさっきとは別人みたいや。

 

「まあね」

 

 そう言って真姫ちゃんは当たり前みたいな感じで言うんやけど、ずっと見ていたけどウチは一つ疑問に思ったことがあったんや。

 

「でも練習って普通リーダーが指揮するもんじゃない?」

 

 ずっと練習を見てきてリーダーの穂乃果ちゃんではなく、マネージャーである委員長ちゃんが指示しながら練習をしている。

 

「それは……」

 

 真姫ちゃんも言葉に詰まりながらみんなのほうを見てると──

 

「じゃあ休憩終わったら次はパートごとのステップを確認するから。イメージトレーニングはきちんとやっておいておいてね」

 

 次の指示を出してる委員長ちゃん。穂乃果ちゃんはそれを聞いているだけだった。

 

 4

 

 ウチは学校でのアイドル研究部の取材を終えたあと、リーダーである穂乃果ちゃんの自宅に取材に行ってきた。

 

 実際に穂乃果ちゃんがリーダーとして何をやっているのか自宅に行けば分かると思ったやけど……。

 

 そんなことを考えながら家の鍵を開けて家の中に入って自分の部屋の入ると──

 

「お姉ちゃんお帰り~」

 

 委員長ちゃんが本を読みながらウチの部屋でゴロゴロしていた。

 

「ただいま、委員長ちゃん」

 

 ウチは普通に委員長ちゃんにただいまと言って、荷物を置いて部屋着に着替える。

 

「夕飯もお風呂も私も全部準備できてるよ」

 

「ありがとう委員長ちゃん。じゃあご飯食べようか」

 

 さらっと変なこと言ってた気がするけど、それはスルーしてウチはご飯を食べようと言う。

 

「うん。じゃあお姉ちゃんが着替えてる間にご飯注いでくるね」

 

 読んでいた本を閉じて委員長ちゃんはキッチンのほうまで行って、夕食を並べる準備をしに行った。

 

 ウチはさっさと着替えてリビングに戻ると、委員長ちゃんお手製の夕食がずらっとテーブルの上に置かれてる。委員長ちゃんも早く料理を食べてもらいたくてうずうずしてイスに座っている。

 

 そんな姿を見てウチはすぐにイスに座って食べる準備を始める。ウチの準備が出来たところで──

 

『いただきます』

 

 そう言って夕食を食べ始めた。

 

「どうどう。美味しい?」

 

 食べ始めて少ししたくらいで自分の料理が美味しいか聞いてくる委員長ちゃん。

 

「美味しいよ。委員長ちゃんの料理は世界一や」

 

 そんな委員長ちゃんにウチの料理を誉める。実際に何回か食べてるけど、どれも美味しく作れる辺り実力は高い。それどころかまさかお菓子で帽子とサングラスを作れる技術を持ってるのも今日知ったから技術にも疑いようもないんや。

 

「へへぇ、お姉ちゃんに誉められた」

 

 ウチに誉められてすごく嬉しそうな顔をする委員長ちゃん。この顔は絶対に学校じゃあにこっち位にしか見せないやろうな。

 

 そこまでウチのことを気に入ってくれていることやろけど、逆に心配になってくる。

 

 あの日、委員長ちゃんが泊まりに来てから一ヶ月位経ったけど、何回か委員長ちゃんはウチの家に泊まりに来るようになった。

 

 そして委員長ちゃんのウチに対するデレ具合が異常的に上がってきていたんや。

 

 最初は家族が誰もいない寂しさから来ているものやろと思っていたけど、この感じはどうもそれだけやない気がする。

 

 それにどんなに仲良くなっても委員長ちゃんは自分のことを一切話してくれない。それはウチにそこまで話す間がらじゃないかと思ったけど多分違う。

 

 あの子はまだ恐がってる。少なくともウチとの関係性が壊れるのを。それはあの日、委員長ちゃんが言っていたことを思い出せば簡単に分かる。

 

 それに今はμ'sを全員揃えることを重点的に考えて行動してるみたい。だから委員長ちゃんが話してくれるのはそのあとや。

 

 今は委員長ちゃん自身がちゃんと話せるよう時になるまで待ってようとウチは思ってる。待つことはなれているから。

 

「そういえば委員長ちゃん。何で穂乃果ちゃんがμ'sのリーダーなん?」

 

 今日疑問に思っていたことを委員長ちゃんに聞いてみる。穂乃果ちゃんの家に行ってみたけど、作詞も作曲もダンスも衣装もどれもやっていなかったみたいやったから。

 

「ん? 何で穂乃果ちゃんがリーダーかって? 決まってるよ。そりゃ言い出しっぺだからだよ」

 

「確かに言い出しっぺの法則的なものがあるやろうけど流石に違うやろ」

 

「うん、今のは冗談。穂乃果ちゃんのリーダーとしての素質は近くに入れば分かるよ。でもお姉ちゃんも何となく分かってるでしょ」

 

 委員長ちゃんに言われた通り穂乃果ちゃんのリーダーとして素質は何となくやけど感じている。端から見たら何もしてない見てないやけど、穂乃果ちゃんはリーダーとして役割をしっかり果たしている。

 

 だからかもしれない。あの子達に賭けてみようって思ったのは。

 

「本当に羨ましいよ。あの才能……あの才能があれば……」

 

 委員長ちゃんは何か言っていた気がするけど、ウチは穂乃果ちゃんのことを考えてるからちゃんと聞き取れなかったん。

 

「委員長ちゃん……何か言った?」

 

「何でもないよ。それよりも食べようよ。冷めちゃうよ」

 

 ウチは委員長ちゃんが何か言ったのか聞いたけど誤魔化してそのまま夕食を食べ始める。

 

 委員長ちゃんが話したくないなら話で良いと思っていたウチはそのまま追求しなかった。

 

 だけど、この件については追求しておけばいいと後悔することになる。これから数ヵ月後に委員長ちゃんがあんなことになるなんて……。

 

 今はまだその後悔を知らずにウチと委員長ちゃんは楽しく夕食を続けた。

 




そんなわけで情報量も沙紀のボケ具合のたっぷりな回でしたね。多分……。

これから沙紀の身に何が起こるのか、その前にμ'sのメンバーがまともに揃えられるのかお楽しみに。

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