ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー   作:タトバリンクス

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初めましてタトバリンクスです。

処女作であるため拙いところもありますがどうか、暖かい目で読んで頂ければ幸いです。




一章 First Live
一話 篠原沙紀 その一


 1

 

 私──矢澤にこには少し変わった後輩がいるわ。

 

 名前は篠原沙紀(しのはらさき)

 

 音ノ木坂学園2―Β。

 

 自称『何処にでもいる普通の高校生』。

 

 容姿は顔立ちは綺麗に整って、憧れるようなモデル体型(あとムカつくけど、胸が大きい)。

 

 見た目は分かりやすい方で、今時珍しい三つ編みのお下げと眼鏡──いわゆる委員長スタイルね。その見た目のせいかしら(多分そうとしか思えないのだけど)クラスメイトからは委員長でも無いのに、よく委員長って呼ばれているみたい。

 

 運動も出来て、成績は学年上位に入るくらいの学力もある。私としては羨ましい限りだけど、それも委員長なんて呼ばれる原因の一つかもしれないわね。

 

 今年──沙紀が二年生に進級した際に、その場のノリでつい(と言うよりも半ば強引に)クラス委員に推薦されてしまい、まさかの満場一致で当選という結果だったとか。

 

 あのときは内心驚きはしたって、本人は言っていたわね。そう言ったこともあって、名実ともに本当に委員長になってしまったわ。

 

 趣味は読書、音楽鑑賞で、どっちも興味を持ったものに手を出すくらいで、特に拘りはないみたい。

 

 また彼女には様々な噂が広まっている。

 

 例えば、彼女の実家は名家であるとか。

 

 例えば、町でたまたま見つけた他校の不良を、学年上位に入るくらいの模範生までに更正させたとか。

 

 その噂の数はとても多く、中には実は宇宙人じゃないかなどと、根も葉もない噂もあるみたい。

 

 そして数多くの噂が集まって、今では『音ノ木坂の生きる伝説』という肩書きを(本人は不本意ながら)持っているわ。

 

 学年の違う私のクラスまで容姿や肩書きが届いてるくらい、この学校ではとても有名な生徒だわ。

 

 そんな彼女と私は二人でアイドル研究部という部活で、何だかんだ一緒に活動しているのよ。

 

 これは彼女と私の物語。

 

 そしてとあるスクールアイドルグループとマネージャーの物語。

 

 2

 

「私って、完璧と言う言葉が、一番似合う人間だと思いません」

 

 昼休みのアイドル研究部の部室で、この部唯一の後輩である沙紀は唐突におかしなことを口にした。

 

「なによ! 突然」

 

 昼食を食べ終えて、部室のパソコンで趣味であるアイドルのことについて調べていた私はとりあえず作業をやめて、バカなことを言った沙紀の方を見る。

 

「文武両道、容姿端麗、それに慈愛に満ちた完璧な人間──それこそが私だと結論付けたので、何となく口に出したまでです」

 

「そんな私に全人類は崇め称えるべきなのが、自然の摂理だと思うのですが……どう思います」

 

「どう思うもなにも……今のあんたの言葉から慈愛なんて微塵も感じないのだけど」

 

 そもそもこいつの言葉は、冷たく感情が込もってないのよね。そのせいか優しさは全く感じられない。それに自意識過剰な気もするけど、その他の部分では強ち否定はできないわ。

 

 綺麗に整った顔立ち。出るところは出て、絞まるところは絞まって、制服の上からでも分かる体つき。更に眼鏡を掛けることによって、知的な感じを醸し出しているわ。

 

 この後輩の言う通り同性なら誰でも憧れるようなモデル体型だけども、それに不釣り合いな今時珍しい三つ編み。

 

 いや私もそれなりに珍しいツインテールだから、人のことは言えないだけども、それでもいくらなんでも今時三つ編みは珍し過ぎるわね。

 

「フフフ、私が尊敬するにこ先輩が私の溢れ出す慈愛の深さに気づかないというなんて面白い冗談ですか、可笑しくて笑いが止まりません」

 

「そんな笑ってるようには見えないのだけど……」

 

 やっぱり言葉に感情が込もってないし、目が全然笑ってない。それどころか冷たく見下しているそんな感じなのよね。いや、実際そうにしか見えないんだけども。

 

「にこ先輩は私よりも背も胸も小さく、たまに小学生と間違えそうなときもありますけど、それに私より良いところなんて何一つありませんが、それでも私はにこ先輩を尊敬しています」

 

「そう……今のであんたがにこのことをバカにしているのは、よ~く分かったわ」

 

 さりげなく私の身体的説明していた気がするけども、そんなことはどうでもいいわ。

 

「バカにはしていません。愛玩動物のように可愛がっているだけです」

 

「バカにしてるどころか、あんたの中でにこはペットと同じって、完全に見下してるじゃない!!」

 

 あまりの暴言に私は立ち上り、机の上をバンって思い切り叩いて、沙紀の顔の方を見る。

 

「いえいえ、にこ先輩そんなことはありませんよ。よく言うじゃありませんか。ペットは家族の一員って、つまり、私にとってにこ先輩は、家族のように尊敬していると言うことになります」

 

 そう堂々と立ち上がり胸を張って言う沙紀。その姿は清々しいを通り越して呆れるレベルだわ。あと本当に胸を張るんじゃないわよ。なんか悲しくなってくるから。

 

「いや、結局ペットじゃあ家族の中で階級が一番下じゃない」

 

 家庭によってはペットを他の家族より階級が高いところもあるかもしれないけども、どう見てもこいつがそんな家庭な気がしないから、結局沙紀の言ったことは意味がない気がしてきたわ。

 

「にこ先輩ハウス」

 

 そう言って沙紀はさっきまで私が座っていた椅子の方を指を指す。ハウスって完全にペット扱いじゃない。しかも私の家はあそこなのね。

 

「フフフ、ふざけるんじゃな~~いわよ!!」

 

 私は沙紀に詰め寄って服を掴もうとするけど、体格差が有りすぎて、目の前にはとても大きな山が二つ立ち塞がっていた。

 

 なんかこれを目の前にしたら泣きそうになったわ。あれ? なんか目から汗が出てきた。どうしてかしら。

 

「分かりました。ごめんなさいにこ先輩。悪ふざけが過ぎました。これからは牧場の牛くらいに尊敬します」

 

「それ……家畜じゃない。更に酷くなってるわよ」

 

「黙りなさい、にこ。お前は私の欲を満たす道具でしか無いのに私に楯突くつもり」

 

「遂に人ですらなくなったわ!! しかも今私のことさらっと呼び捨てになってるじゃない」

 

「…………」

 

「何か喋りなさいよ!!」

 

「…………」

 

 散々バカにした挙げ句の果てに、遂に私のことは視界に入っていないのかように座って、机の上に置いてあったアイドル雑誌をいつの間にか読んでいたわ。

 

「もう嫌……」

 

 私は自分の家(パソコンの前の椅子)に戻って、最初のように……とはいかず、キーボードを退かして机に顔を伏せた。

 

 そしてそのまま私と沙紀は数分間一言も喋らず、そのまま沈黙が続き、どんどん部室の中の空気が悪くなっていく。

 

 そろそろ頃合いね。

 

 何て思った私は立ち上がり、軽く手を叩いて──

 

「はい、茶番はこれで終わり、気が済んだ」

 

「はい、楽しかったですにこ先輩!!」

 

 そう言って沙紀の悪ふざけが終わった。

 

 3

 

「いやぁ~、最初はクール系キャラで行こうかと思いましたけど、にこ先輩の反応が面白くて、つい途中から毒舌キャラになっていましたね」

 

 先程とは打って変わって蔑んだ目はしていなく、言葉にも感情が込もって、笑顔でいきいき話す沙紀。

 

 ホント、さっきとは別人と言うくらいに酷い変わりようね。

 

「なっていましたね──じゃないわよ!! 何であんたの悪ふざけで、道具扱いにされなきゃいけないのよ」

 

 悪ふざけ。

 

 沙紀が唐突に別のキャラを演じて、私を弄るという悪趣味な遊び。

 

 しかし、さっきのやり取りを聞いてたら分かるけど、彼女の演技力はかなり高く、完全に別のキャラになりきれるのよ。

 

「流石にあそこまでやるつもりはなかったんですけど……楽しすぎてつい熱が入りまして……ごめんなさい、にこ先輩」

 

 さっきの悪ふざけの謝罪を込めて、私に頭を下げる沙紀。

 

 その姿には見苦しさはなく、逆に美しいと感じてしまうわ。いや、頭下げてる姿が美しいなんて、何言ってるか意味が分からないけど。

 

「さっきの演技で不快な思いをされたのなら責任を取って、一生にこ先輩の奴隷として生きていく覚悟はあります、いえ、理由もなく、今すぐでも私をにこ先輩の奴隷にしてください」

 

 バカなことを言いながら私に詰め寄ってくる沙紀がとても面倒なので、とりあえずお腹に一発入れといて黙らせる。

 

 私と沙紀には体格差が有りすぎるけど、逆に丁度良いところにパンチが入るのでこれで十分だわ。

 

「に……こ先……輩……腰の入った良いパンチでしたよ……でもSMはちょっと趣味じゃないです……」

 

「何の話よ!!」

 

 小さく呟きながら気を失って倒れた沙紀に、私はそうツッコミを入れる。

 

「こんな姿。誰にも見せられないじゃない」

 

 床で倒れてる沙紀を見て、私は呆れながらそう呟いた。

 

 これが『音ノ木坂学園の生きる伝説』──篠原沙紀の本性。

 

 この学校に広がっている沙紀の印象は淑やかで、誰にでも分け隔てなく優しい。まさに委員長って感じなのだけど、今の沙紀からはそれが微塵も感じられないわ。

 

「まあ、最初の頃と比べると大分マシにはなったわね」

 

 不意に初めて私と沙紀が会ったときの事を思い出す。

 

 当時の沙紀は脆く壊れそうな少女だと思ったわ。目は死んだように暗く俯いて、心此処に非ずって感じで、まともに会話ができそうになかったわ。

 

 そんな彼女がどういう訳かアイドル研究部に見学に来て、始めは追い返そうとしたわ。けど、色々とあって中に入れることになって、少しだけ話をして、そのまま一緒に帰ることになったわ。

 

 そうして次の日も沙紀はやって来て(私が何時でも来て良いと許可を出したんだけど)少し話して一緒に帰る。そんな毎日が続いて、沙紀のことをどんどん知っていくうちに、彼女の秘密を知ってしまったわ。

 

 秘密を知った私は、彼女にアイドル研究部に入部するのを勧めると、彼女は(少し躊躇いはしたけど)入部して、一緒に活動するようになったの。

 

 そこから沙紀は少しずつ明るくなり、さっきも言ったように淑やかで、誰にでも分け隔てなく、優しい委員長みたいな子になっていったわ。

 

 それと同じくらいの時期だったかしら。沙紀の噂が学校中に広まりだしたのは。この学校に凄いスペックの高い委員長みたいな子がいるって。

 

「もしかして……こいつがこんな風になったのは私のせい?」

 

「もしかしても、何もありませんよ。その通りですよ、にこ先輩」

 

「きゃ~!! びっくりしたわ、あんたもう起きたの!?」

 

 突然、声を掛けられてびっくりする私。声がしたほうを見ると、沙紀が何事もなかったように、平然と雑誌を読んでいたわ。

 

「それはもちろん鍛えていますから回復も早いですよ」

 

 まるでそれが当たり前のようにさらっと言う沙紀。いやいや、流石に気を失って、すぐに回復してからそのまま雑誌を読むのは普通じゃないから。

 

「それにしてもにこ先輩」

 

「なによ」

 

 また何かされたら堪ったものじゃないから沙紀に声を掛けられて、少し身構える。けど私の予想とは違って、沙紀は少し頬を染めて──

 

「私が気を失っている間、私のことを想っていたなんて照れちゃいますよ」

 

 なんてピンク色のオーラを放ち出した。

 

「想ってないわよ!! 少し昔のことを思い出していただけよ」

 

「も~照れちゃって、にこ先輩のて・れ・や・さ・ん♪ きゃ♪」

 

「とりあえず、もう一発入っとく」

 

 拳を構えながら何時でも入れられるように準備して沙紀を脅す。

 

「ごめんなさい。マジで調子に乗りました」

 

 さっきまでのピンク色のオーラは一瞬で消え去って、流れるように土下座する沙紀。今までのクール系キャラや毒舌キャラ、脳内お花畑キャラはどこに行ったのやら。

 

 そんな風にバカな会話をしていると、ふと予鈴が鳴るのが聞こえて、昼休みの時間は終わりを告げるのを知らせていた。

 

「それではそろそろ戻りましょうか」

 

「そうね」

 

「それではまた放課後、中庭で」

 

 私たちは教室に戻る準備をしながら沙紀は放課後の活動場所を伝えて、私たちはそれぞれの教室に戻っていった。

 

 戻る途中、私はあることを思っていたわ。

 

 次の授業はなんだったかしら。

 

 4

 

「にこ先輩、残りワンセットです」

 

 放課後──退屈な授業を終わって、多くの学生が部活動に精を出しているなか、私たちは約束通り中庭に集まって、その片隅で私は沙紀監修の基礎トレーニングメニューを行っている。

 

「にこ先輩お疲れ様です。はい、飲み物をどうぞ」

 

 沙紀の言葉を合図に練習を一旦止めて、私は飲み物を受け取ってからその場に座り休憩に入る。

 

「良い調子ですね。これならば何時メンバーが増えて、活動が活発になっても問題ないです。流石はにこ先輩です」

 

 沙紀に渡された飲み物を飲んでいると、沙紀は私の隣に座り今日の練習の評価をした。

 

 彼女は私の前ではお調子者だけど、根は真面目だからお世辞は言わないから、沙紀がそう言ってくれるのなら本当に問題はないようね。

 

「当然よ、なんたって私はスーパーアイドル矢澤にこなんだからこれくらい余裕だわ」

 

 なんて自信満々に言ってみたけど、実のところ沙紀のおかげなのよね。

 

 私のトレーニングメニューをこいつ一人で作ってくれている。しかも私の体に無理が無いように気遣いながら長期間ではあるけど、少しずつ、そして確実に実力が付くようなメニューを常に考えてくれるわ。

 

 たまにクラス委員としての仕事やそれ以外の仕事があるときは、ちゃんとメニューを伝えてくれるし、学校が休みのときは、家で簡単にできるメニューまでも考えてくれるのよ。

 

 さらに私がこれを良くしたいとか言うと、その目的に沿ったメニューを次の日には考えてくれて、私が上手くなるために努力をしていれば、沙紀は必ずその手伝いをやってくれる。

 

 正直に言えば私には勿体ないくらいに沙紀のマネージャーとしての能力は高いのよね。

 

 その能力を生かせば、運動部を全国大会まで連れていけるじゃないのかなって思うときもある。よくは知らないけど、他の部に練習メニューに助言をしていたこともあったそう。

 

(私は貴方をスーパーアイドルにして見せます)

 

 不意に私は沙紀が入部した次の日に誓ってくれた言葉を思い出したわ。

 

 あの時はまだ本当に沙紀のこと信用はできなかったけど、あの時沙紀が言ってくれた言葉には熱意があり、本物だと思ったから信じてみようと思ったわ。

 

 今はまだステージの上には立てないけど、遠くない未来にきっと沙紀は私をステージの上に立たせてくれると、そう確信を持てるの。

 

 だから、私は沙紀を信じて、何時か本当にステージの上に立つために努力をするわ。

 

 そして、必ず私は自分がステージに立つ姿を沙紀に見せてあげたい。それがきっと沙紀に出来る最高の恩返しだと思っているわ。

 

「沙紀!!」

 

「何ですか? にこ先輩」

 

 私は急に立ち上がって、沙紀を呼んでも、沙紀は驚かず、真っ直ぐ笑顔で私の方を見てくれる。

 

 そんな沙紀の手元には練習メニュー表を持っていて、私をステージの上に立たせるために考えては書き直した鉛筆の消しあとがいっぱいあるのが見えた。

 

 それを見た瞬間に感謝の気持ちがより一層込み上げてくるが──

 

「私をスーパーアイドルにして見せなさいよね。わかった!!」

 

「ええ、分かっていますよ。必ずにこ先輩をスーパーアイドルにして見せます。それが私の今の目標ですから」

 

 感謝の気持ちを伝えようとしたけど、つい恥ずかしくなって口が悪くなって命令みたいに言うけど、沙紀はそんなことを一切気にせず、さっきとは比べ物ないくらい良い笑顔でそう言ってくれたわ。

 

 どうやら私が言いたいこと、考えていることはお見通しみたいで、ホント、こいつには敵わないわね。

 

「学校の中庭で二人の少女が夢に向かって頑張っていくと誓い合う姿は青春やなあ」

 

 そうして休憩を終えて、そろそろ練習に戻ろうとすると、突然──関西弁みたいな喋り方をする第三者が割って入ってきた。

 

 声がする方を見ると、そこには羨ましい限りの豊富なバストを持った私の同級生であり、この学校の生徒会副会長である東條希が、ニヤニヤしながら楽しそうに立っていたわ。

 

 5

 

「ウチは委員長ちゃんを用が合って、探していたら、二人がなかなか良い雰囲気やったから、遂に、にこっちが委員長ちゃんに告白するのかなって思ったら、つい遠くから眺めさせてもらったんや」

 

 そうペラペラと楽しそうに喋るのは私と沙紀の知り合いである希。

 

 ならどうして声を掛けないのよ、って思ったけど、こいつなら面白そうな状況を見つければ、こっそりと傍観して楽しむことだって平気でやるわ。

 

「けど、肝心のにこっちがへたれちゃったから部活動に励む先輩と後輩の青春の一ページみたいなったけど、まあそれはそれでウチは好きやから、良いものを見せて貰ったよ」

 

 ホント、こっちとっては迷惑でしかないわ。

 

「OK分かったわ。つまり、あんたは最初から見ていたみたいに見えるけど、どうなのよ」

 

「そうや。ウチは最初から見てたんよ。けどそれがどうしたんにこっち?」

 

 もしかしたら途中から見て勘違いしたのかもと思い確認したが、そうでもなく最初から私たちのことを見ていたみたい。ならば、私が気になることはただ一つだけよ。

 

「それならどうしてにこが沙紀に告白しようとして、へたれたって勘違いしたのよ!!」

 

 何を、どうしたら、そう見えるのよ。私は普通に沙紀に感謝の気持ちを伝えようと(出来なかったけど)していただけなのに、希の目はどう映っているのよ。

 

「えぇ~、あの時のにこっちの顔は恋する乙女みたいな感じやったやん。そんな顔をみたら誰だって告白すると思うんよ。ねぇ、委員長ちゃん」

 

「その通りですよ、にこ先輩。正直……私もにこ先輩に告白されるかななんて思って、内心ドキドキしていましたよ」

 

 最悪だわ。希のやつ沙紀に同意を求めてそれを沙紀も乗ってきたわ。こうなると私の周りには味方が居ない。二人かがりで私を弄り倒しに来るわ。そうなる前になんとなしなくちゃ。

 

「そんなわけないでしょ。何で私が沙紀に告白しなきゃいけないのよ」

 

「そんな……、にこ先輩酷いです。そんな風に言わなくてもいいじゃないですか。私は……真剣だったのに、にこ先輩は私の気持ちを弄んだんですね」

 

「ヒドーイ、にこっち。委員長ちゃんの心を踏みにじるなんて」

 

 しまった。完全に言い方を間違えたわ。そのせいで何か私が沙紀を泣かしたみたいになっているし。というか希の言葉に棒読み感あるけど、明らかに沙紀の方は役に入っているわ。

 

 その証拠に手で顔を隠して、嘘泣きしてるのが分からないようにしている。しかも僅かな指の隙間からこちらの様子を伺っている。このままだと余計に私が不利になるわ。

 

「違うわ。そうじゃないわよ、にこは沙紀のことを嫌っている訳じゃないのよ。どちらかと言えば好きよ。あんたと居れば退屈はしないんだから」

 

 あぁ~、なに言っているの私。明らかにこの二人に乗せられて、余計な事を言っているわ。そんな風に自分が言った台詞に後悔していると沙紀は私に寄ってきて──

 

「にこ先輩。大好きです。結婚しましょう、今すぐに」

 

 嬉しそうに抱きついてきた。

 

「何するのよ。離れなさいよ、暑いでしょうが。さらっと結婚って言わなかった!?」

 

「言いましたけどいいじゃないですか。私は全然平気ですよ」

 

「あんたは良くても私は良くないわよ」

 

 私がなんとか沙紀を引き離そうして抵抗するが沙紀の力は強くなかなか離れない。

 

「にこっちも素直になれば良いのに、まあそれがにこっちの良いところなんやけど。しかしまあホント、仲ええな」

 

 そんな大変な思いをしてる私の横で希はニヤニヤしながら何か言ったような気がする。

 

 まあどうせ変なことしか言ってないだろうから無視しておくけど、それよりも今は沙紀を何とかしなきゃ。

 

 結局沙紀が満足するまで私から離れることは無かったわ。あぁ、疲れたわ。身体中汗まみれよ。沙紀のやつどれだけ体温高いのよ。

 

「フフフ、にこっちお疲れ様」

 

 他人事のように声を描けてくる希。元々はあんたのせいでこんなことになったのでしょうが。

 

「それであんた沙紀に何の用があるのよ。まあ大体は予想が付くけど」

 

「そうや。ウチは委員長ちゃんに用事があって来たんやっけ。ついにこっちたちが楽しそうにしてから忘れてた」

 

「忘れてたんかい!!」

 

「にこ先輩ナイスツッコミです」

 

 用事があって来たのに肝心の本人が忘れていたんで思わずツッコんじゃったけど、まあいいわ、思い出したんだし。これで話は進むわ。

 

「それでは希先輩どう言ったご用件ですか」

 

「その前に委員長ちゃん。今日発表されたことを知ってる?」

 

「えぇ、知っていますよ。この学校の廃校のことですよね」

 

 基本的に彼女たちの会話に口を挟むつもりはないけど、彼女たちの会話には聞き逃せない単語があった。

 

 廃校。

 

 現在、私の通う音ノ木坂学園は廃校を迎えてるの。ここ数年──この音ノ木坂学園は入学者数が減っていき、ついに今年の新入生は1クラス分つまり約40人程度しかいないのよ。

 

 その結果、今日音ノ木坂学園を廃校すると発表されたわ。

 

 正しくは廃校の見込みがあるというだけで来年生徒が集まれば学校は存続できるみたい。

 

 まあ、私は廃校の事実に驚きはしたがそこまで動揺はしなかったのよね。何となくだけど、この学校に入学してからそういう雰囲気は確かにあったわ。

 

 実際にクラスの数減っている訳だし。けど廃校という事実に冷静に納得する自分とそれと同じくらい寂しいなと思う自分がいたの。

 

 どうやらこの学校に通ってるうちにいつの間にかこの学校の事が好きになっていたみたいね。

 

 でもそんな事実を知ったところで一生徒である私がどうこうできる問題ではじゃない。

 

 そんな問題に一人で努力したところで、無駄であることなんて目に見えて分かっていることだから私は何もしないし、何も出来ない。

 

 でもきっと何人かは廃校を阻止するために動くでしょうね。例えばこの学校の生徒会長とか。

 

「それなら話は早い。委員長ちゃんウチら生徒会の手伝いをしてくれると嬉しいんやけど、どうかな? そうしてくれるとエリチも助かるやろうし」

 

 ほら、やっぱり。あの生徒会長なら動くだろうね。

 

「そういうことでしたら分かりました。ですが……その前に私はあくまでもにこ先輩のマネージャーですから協力する前に、にこ先輩の許可を取ってからですけど」

 

「じゃあ、にこっち良いかな、委員長ちゃん借りちゃっても」

 

 例え学校が廃校しようともぶれずに沙紀は私のマネージャーとして私のことを最優先で考えている。

 

 そんな沙紀のことを理解している希は私から沙紀を借りて良いのか聞いてくる。

 

 確かに沙紀の能力の高さならきっと生徒会の助けになるわ。なら答えは一つね。

 

「いいわ沙紀、生徒会に協力しなさい、にこのことは心配しなくてもいいわ、にこはにこでやれることをするから、あんたはあんたのやれることを最大限ことにやりなさい」

 

「分かりましたにこ先輩、私は私の出来る最大限の力で生徒会の手伝いをします」

 

 明日から沙紀は生徒会の仕事を手伝うことになるわね。

 

 忙しくはなるけど、まあ、それでも普通にアイドル研究部の仕事もやるのが私のマネージャーなんだけどね。

 

「なら決まりや、明日放課後生徒会室で待っているで、ほなな」

 

 そうして希は目的を果たしたので生徒会に戻っていったわ。

 

 6

 

 希が生徒会に戻ってから、私たちは休憩を終えて、練習を再開していると、気づいたら五時前と、そろそろ帰らなくいけない時間になっていた。

 

 私は練習を止めて、練習で掻いた汗を拭きながら、中庭の隅に片隅に置いておいた鞄の所まで行き、帰る準備をする。

 

「にこ先輩? そろそろ帰りますか?」

 

「そうね、そろそろ帰らないと妹たちの夜ご飯作るのが遅くなるわ」

 

 今日はママが帰ってくるのが遅いから私が妹たちの夕食を作らなきゃいけない。

 

 場合によっては食材も買って帰らなくちゃいけないから、このぐらい時間に帰ればスーパーのタイムセールにも間に合うから早く帰る準備を済ませるわ。

 

「分かりました。私も一緒に帰ります」

 

 沙紀も私の家庭のことを知っている(というかちょくちょく遊びに来る)から理解も早く、すぐに鞄を取りに行き、あっという間に帰る準備を終える。

 

 そうして準備を終えた私たちは、二人で一緒に帰ることになったわ。

 

「しっかし沙紀、あんたも大変よね。明日から部活と生徒会の両立なんだから」

 

「心配してくれてありがとうございます。にこ先輩、いえ、このくらいなら大丈夫です。馴れていますから」

 

 そう言って笑顔で返す沙紀。本人も言ったとおり全然辛そうではない。たまに生徒会の手伝いをすることがあるため特に大変だとは思わないみたい。

 

「でも、明日からの活動は結構大変そうですね。何せ廃校を阻止するための案を出さなくていけませんから」

 

 確かに何時もならちょっとした案件に助言をする程度だけど、今回は規模が大きい。何せ学校一つの存続が掛かっている。プレッシャーも相当な筈よね。

 

「そうね、この学校……廃校になっちゃうのよね。でも、あんたの事だからもうとっくに色々と思い付いてるじゃない、『音ノ木坂の生きる伝説』さん?」

 

「ははは、あの肩書きは私不本意なんですけどね、それに流石に廃校を阻止する案なんてそうポンポンと思い付きませんよ。今のところ良くて一つ、二つですよ」

 

「思い付いてるんかい!!」

 

 からかうように沙紀の肩書きを言うと、やっぱり沙紀はあの肩書きのことを気に入ってないみたい。でも流石は肩書き通り、既に案を思い付いているから思わずノリでツッコンでしまったわ。

 

「思い付いていますけど、多分きっと今の生徒会長だと許可は貰えないでしょうね。だってリスクが高いですし」

 

「そうなの? 確かにあの生徒会長は頭固そうよね。ホントに嫌になるわよ」

 

 私はあまり生徒会長と関わりがないからよくは知らないけど、何時も怖い顔してお堅そうなイメージがあるから。

 

「いや、そういう意味で言ったでは無いのですが、まあいいでしょう」

 

「えっ、違うの? あんたの事だから凄く斜め上な発想して、更にリスクが高いって言ったら怒らせそうなイメージがあるわよ」

 

「むっ、それは心外ですにこ先輩。流石に真面目な場ならちゃんとしますよ」

 

 流石にさっきの私の発言に不機嫌になったのか少し不機嫌気味に言う。どうやら私の思っていることと違うみたい。

 

 やっぱり関わりがある沙紀からしたら生徒会長が違う風に見えるのかしら。

 

 多分、私や希がよく見る沙紀とこの学校に出回ってる沙紀のイメージが違うようにきっと沙紀は生徒会長の違う一面を知っているのかもしれないわね。

 

「まあいいわ。それよりもにこはあんたが考えていることは気になるだけど」

 

 そんなほぼ他人みたいな生徒会長より沙紀が考えたアイデアのほうが数十倍気になるわ。きっと私なんか思い付かない凄いアイデアを思いつているかもしれないから聞いてみるのも面白いから。

 

「そうですね。それじゃあ……いや、駄目です。内緒です」

 

 沙紀は少しだけ考えて言おうすると、突然言うのを止めた。

 

「良いじゃない減るもんじゃないし教えなさいよ」

 

「駄目ですよ」

 

 無理矢理教えさせようと沙紀を捕まえようとするが簡単に私を避けて、避ける沙紀は笑顔で私を見てたの。

 

 そんな風に馬鹿なことや会話しながら歩いて行くと、そろそろ沙紀と別れなければならない場所まで来ていたわ。

 

 沙紀と一緒に居ると疲れることが多いけど、何だかんだで、私は楽しいと思っちゃっているから少し寂しく感じるわ。

 

 それは沙紀も同じで少し寂しそうな顔をしていたわ。

 

 そういえば、今日ネットで調べたときに見つけたあれに誘ってみるかしら。ふと、沙紀の顔を見て、そんなことを思い出したので沙紀に聞いてみる。

 

「沙紀、明日の朝って暇?」

 

「暇ですけど、どうかしましたか」

 

 明日の予定を聞くと、沙紀は少し不思議そうに答えた。

 

「暇なら学校に行く前に、一緒に秋葉行くの付き合いなさいよ」

 

 そう言うと沙紀の顔が凄く明るくなりとても嬉しそうな顔して──

 

「もしかして先輩と朝デートですか。ついに私の好意に気づいてくれたんですね」

 

 とんでもないことを言った。しかも、好意がどうだとか言ってた気がするけど、聞かなかったことにするわ。

 

「違うわよ!! バカ。秋葉でA-RISEを見に行くのよ」

 

「うぅ、そんな否定しなくてもいいじゃありませんか」

 

 私が怒ると、しょぼんとして、涙目に落ち込む沙紀。そんな姿がちょっと可愛いと思ったのはナイショよ。

 

「朝ですか……暇ですけど、いえ、にこ先輩ためなら例えどんな予定があっても最優先でにこ先輩の元へ駆けつけます」

 

「いや、流石にそこまではしなくて良いから」

 

 時々この後輩の怖いと思うときがあるわ。今のように全てを犠牲にして私に尽くそうとするときとか特に、割りと冗談じゃなくて本気でやりそうだから困るわ。

 

「分かりました!! では、明日の朝、秋葉集合ですね。楽しみにしています、それではにこ先輩さようなら、また明日です」

 

「また明日」

 

 そうして凄く楽しそうにして分かれ道のほうを進み、私の方を振り向いて、元気に手を振りながら挨拶をして私も恥ずかしいけど、手を振って別れの挨拶をした。

 

 沙紀と出会ってめんどくさいときもあるけど楽しくて可愛い後輩だわ。

 

 だから私が卒業するときまで沙紀がいっぱい笑っていられるそんな楽しい日々が続きますようにと、願いながら私に家に帰った。

 




如何だったでしょうか。

にこはこんな感じかどうか良くわかりませんがこんな風にやっていきたいと思います。

誤字、脱字等がありましたらご連絡ください。

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