アブソリュート・デュオ〜銀狼伝〜   作:クロバット一世

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ほとんど回想です


41話 落ちこぼれの獅子

 

兵藤仁哉はふと過去を思い出していた。

キッカケは自身の絆双刃である獅子戸王貴が1年のエース天峰悠斗の彼女である穂高みやびに告白をした後に廊下で見せた真剣な顔を見せたからである。仁哉は何故自身の絆双刃があそこまで彼女にこだわるのか知っているのだ。

そのことを説明する前にまず獅子戸王貴につい説明しよう。

 

 

 

 

獅子戸王貴と兵藤仁哉の出会いは今から10年前まで遡る。兵藤仁哉の父親は獅子戸王貴の父親の右腕でありあらゆる困難を共に切り抜けていった中である。そういったことから息子の仁哉も王貴に幼い頃から彼と共に暮らしており両親からも『お前が王貴様を支えるのだ』と教えられていた。しかし、彼は幼い当時の王貴が嫌いで仕方がなかった。

今では学園最強の一角である彼だが幼少期の彼は今とは比べ物にならないほどの落ちこぼれであったのだ。

勉強めスポーツもてんでダメ。転んだら泣き出し、おねしょをしたら泣き出し、チワワに吠えられたら泣き出し、迷子になったら泣き出し、しまいには『泣き虫ライオン』と周囲からイジメられていた。そして仁哉自身も彼をイジメていた。

気に食わなかったのだ。こんな奴が自分の上に立つのか?こんな泣き虫を俺は支えなければいけないのか?冗談じゃない。俺の人生はこんな奴のお守りのためにあるんじゃない。こんな奴のために俺は人生を浪費しなくてはいけないなんて話にならない。気づいたら仁哉は王貴を殴っていた。他のいじめっ子にイジメられていたところに割り込んで思いっきりボコボコにした。

 

「ウンザリなんだよ!!俺のオヤジたちも王貴さま王貴さま王貴さまってさぁ!!なんでこんな奴に俺が従わなきゃいけないんだよ偉いのはお前じゃなくてお前のオヤジだろ!?なんで俺までお前のお守りをしなくちゃいけないんだよ!!俺より弱くてバカで泣き虫な奴に俺が仕えなくちゃいけないんだよ!!俺は絶対にお前を守ってやらねえからな!!俺を従えたきゃ俺より強くなってからにしろよ!!」

 

思いっきり殴り終えた仁哉は自分の怒りを思いっきりぶちまけた。それは王貴の本心であった。自分の親の上官の息子だからって自分まで従わなくてはいけない………それが我慢ならなかったのだ。怒りをぶちまけたあと仁哉はそのまま立ち去ろうと倒れる王貴に背を向けた。

 

 

「まて………よぉ」

 

その時、後ろから声が聞こえた。後ろを振り向くと涙で顔をくしゃくしゃにした王貴がボロボロの体を無理やり起こしてこちらによろよろと歩き出した。

 

「そんなこと………わかってるんだよぉ………そんなことぉぉぉぉぉ!!」

 

王貴は叫びながら仁哉に殴りかかってきた。

 

仁哉は向かって来る拳を躱すと王貴はバランスを崩し地面に倒れた。しかし、王貴は諦めずに立ち上がり取っ組みあった。

 

「お前に分かんのかよぉ!!周りから父さんの子供だからって勝手に期待されてぇ!!失望されることがぁ!!それでも俺はぁ……父さんの子供であることが……誇りなんだよぉ!!」

 

「だったらなんでそんな泣き虫なんだよ!!手前のオヤジは偉大なんだよ!?誇りなんだろ!?なんでそんなに弱いんだよ!!」

 

「うるせぇ!!部下のくせに生意気なんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人は再び殴り合い始めた。そうしてお互いが力尽きるまで殴り合い続け、空は暗くなり始めていた。

 

 

 

 

「何度だって………言ってやる………俺は…自分より弱い奴の指図は受けねぇ………俺を従えたいなら………俺より………強くなれよ…」

 

「言われ………なくたって………なってやる………スッゲー強くなって………お前も………俺を見下す奴らも…黙らせてやる………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして2人はそれからもぶつかり合った。王貴はそれからもなんども仁哉とぶつかり仁哉がそれを向かいうち殴り飛ばし……王貴がテストで20点とって大喜びした問題で仁哉が100点とって仁哉が王貴を鼻で笑い……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7年後………とある中学校の体育館裏

 

「オラァッ!!」

 

「せいやぁっ!!」

 

そこでは2人の中学生が殴り合っていた。

1人は金色の髪を振り乱した改造学ランの少年兵藤仁哉、もう1人は茶色い髪をストレートにした少年獅子戸王貴。成長した2人は今では日課となった殴り合いを続けていた。

 

「くそっ………泣き虫ライオンの分際で………いい加減倒れろよ馬鹿………」

 

「そういう仁哉だって………産まれたての仔牛みたいじゃないか………そろそろ休んだら良いんじゃないかい?」

 

「先にお前が休めやアホ、そうしたら俺が休める」

 

「仁哉が休みなよ………僕はまだ立てるから………ヘロヘロで立てない仁哉はもう休んで良いんだよ」

 

「俺の方が元気だから泣き虫ライオンのお前が休めアホ」

 

「前から思ってたけど仁哉って暴言のポキャブラリー少ないね」

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「殺す!!」」

 

再び2人は殴り合いを始めた。

 

 

 

 

 

「はぁ………はぁ………結局今日も引き分けか………」

 

「はっ………お前にはゼッテー勝たせねえ………」

 

互いに疲れが極限に達した2人はそのまま力尽きその場に倒れた。

 

「ねぇ仁哉………僕たち………まだまだだね………」

 

突然王貴がそう呟いた。

 

「なんだよ急に………?」

 

「この7年で確かに僕たちは強くなった………でも………まだ足りない………もっと強くなれると思うんだ………僕たち………」

 

「………そうだなぁ………お前が強くならんなら………俺はもっと強くなれるよな………」

 

「僕の方が強くなるけどね………」

 

「いや俺の方が強くなるから………」

 

倒れた状態のまま2人は再び口論をした。

すると、王貴は懐から一枚の紙を取り出すと仁哉に見せた。

 

「なんだそりゃ?学校案内?」

 

「昊陵学園って言ってね………一般の高校と違って、特殊技術訓練校……所謂戦闘技術を教える学校なんだって。そんでもってこの学校にはさらに面白いことがあってね………なんでも《黎明の星紋(ルキフル)》っていう生体強化ナノマシンで《焔牙(ブレイズ)》っていう能力を手にすることが出来るんだって」

 

「ナノマシンだあ?なんかちとドーピングっぽくねぇか?」

 

「いや、聴いた話じゃその《黎明の星紋》ってのは体を鍛えれば鍛えるほど身体能力が高まるんだって…つまり心身ともに鍛えるってこと。僕たちにピッタリだと思うけど?」

 

その時の王貴の顔には笑みが浮かんでいた。それを見て仁哉はかつての『泣き虫ライオン』を思い出しながら笑った。

 

「なるほどな………確かに面白そうだ………良いぜ、ちょっくら挑戦してみっか………」

 

「あぁ、どっちがより高みに行くか勝負と行こうか!!」

 

 

 

 

 

 

 

こうして今に至る。こうしてみるとあのバカでビビリで貧弱で泣き虫な王貴がよくまぁここまで成長したもんだと感心してしまう。まぁだからこそ競争しがいがあって良いのだが……

 

 

「あいつがみやびちゃんに好意を持ったのも………だからこそなのかもな………」

 

穂高みやびは絆双刃の天峰悠斗に比べればかなり弱い。しかし、彼女は常に強くなろうと毎日休むことなく走り続けている。そのまっすぐと強くなろうとあり続ける在り方に王貴は自分と同じものを感じ惹かれたのだろう……そしてその恋する感情は今まで鍛錬ばかりだった彼にとっては初めての恋であった。そして何よりどうしようもなく好きになってしまったのだろう………たとえ叶わぬ恋でも最後まで貫きたい…だから彼は譲らない。

 

(ま、やれるだけやってみな王貴………さてと………)

 

そして、兵藤仁哉は目の前の対戦相手を見つめた。

そこには腰まで届く黒髪の凛とした女子、橘巴が構えていた。

 

「先輩………たとえ貴方が格上の相手でも全力でいかせてもらいます!!」

 

橘はすでに臨戦態勢でまっすぐとこちらを見つめていた。

 

(あぁ………てめえは強いよ………間違いなくな………潜在能力もかなりのもんだ………けどなぁ………)

 

『それでは両者《焔牙》を出してください』

 

三國の言葉で両者は《力ある言葉》を口にした。

 

「「《焔牙》!!」」

 

2人の掛け声とともに焔が形を作り、橘は《鉄鎖》を、仁哉は《鎌刀(ハルパー)》を手に構えた。

 

『両者、試合開始!!』

 

ついに試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし試合はシュッという空気の切る音とともに

 

「………………………『蛇刈り』」

 

ザシュッ

 

斬撃の音が一瞬だけ聞こえ………

 

………………ばたり

 

橘が倒れて勝負は終わった。

 

「………………………………え?」

 

あまりの光景に周囲は一部を除いて何が起こったかわからなかった。

 

『それまで!!勝者兵藤仁哉!!』

 

三國の終了の合図とともに試合は幕を閉じた。

 

 

 

 

「………………悪いな嬢ちゃん………確かにあんたは強い………けどな、あいつとの決着が着くまでは俺は負けてやれねぇんだよ」

 

仁哉はそういうと自身の《鎌刀(ハルパー)》を消して格技場を去っていった。





橘対仁哉………一瞬で終わらせました………すいません!!
変に長引かせるのもアレだと思ったんで………







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