修羅場です
「ふぅ…特訓してたら思ってたより遅くなっちまったな」
「ヤー、これ以上待たせるのは巴たちに悪いです。はやくみんなのところに行きましょう」
透流とユリエの2人は一緒に特訓していたのだが思ってたより時間がかかってしまい、慌てて巴たちのいるところへと向かっていた。
「……さっきトーナメント表を見たけど…俺の次の対戦相手はトラだった…ユリエは…」
「………獅子戸先輩です」
そう、ユリエの次の対戦相手はこの学園で生徒では唯一の《Ⅴ》、間違いなく学園最強の一角である。以前の《殺破遊戯》の時は《Ⅳ》以上の3人は別の任務に赴いていたため彼らの実力を知らないが、梓と3年生の1人正堂院律の試合で3年生のトップランカーの実力は相当なものだということが判明した。ユリエの相手はその中でも最強、しかも格上の相手である。
「…心配いりませんトール、私は全力で戦って必ず勝利します。」
心配している透流の目をユリエはハッキリと見つめていた。
「………そうだったな、応援してるぞユリエ。決勝トーナメントで必ず戦おうな」
「ヤー、透流にも、そして悠斗にも負けないつもりです」
2人は笑いながら勝利を約束し、観客席へと入った。
「悪い悪いトラ、特訓が思ってたより長引いちま………って………?」
観客席へ入った途端、あたりの空気の冷たさに2人は気づいた。ふと、そこをみるとトラ、リーリス、橘、タツの4人が真っ青な顔をしておりみやびが何か慌てていた。
「どうしたんだトラ?この冷たい空気は?」
「………あれを見てくれ………………」
トラに言われて視線の先を見ると………………
「………………………………」
「………………………………」
銀色の髪と金色の瞳の少年、天峰悠斗が怒りを露わにして睨みつけており、その先には茶髪で長身の少年、獅子戸王貴が笑みを浮かべて睨み返していた。
「え………………?どうしたんだよ悠斗の奴………何があったんだ?」
「………地雷を踏んだのよ………獅子戸先輩が………」
透流が怒りの形相を浮かべる戸惑っていると顔を真っ青にしてリーリスが答えた。
「私が言うのもなんだけどまさか悠斗の前でみやびに告白するなんて………」
穂高みやびは実を言うと学園でもかなり人気の少女だ。
その容姿とスタイルは勿論、明るくそして誰にでも優しく彼女のファンと言う男子も少なくは無い。しかし、今この昊陵学園において彼女に告白しようと言う輩はいない…それは何故か………それは彼女に天峰悠斗と言う彼氏がいるからだ。
同学年では敵なし、頭も良く容姿も完璧、そして何よりみやびの絆双刃であり、彼女と最も親しい。そして遂には2人は恋人同士となって学園の誰もが認めるラブラブカップルになっている。そんな2人を知ってるからこそ他のファンたちは潔く諦め2人を見守っている。
そして、天峰悠斗もみやびのことをとても愛しており彼女に手を出そうものならこの最強の狼の怒りを買うであろう。故に…
天峰悠斗は威圧する。『俺のみやびに近づくな』と
しかし、獅子戸王貴は動じない。彼はこの学園でも最強の一角として数多の修羅場をかいくぐってきた。このくらいの威圧は数え切れないほど向けられてきた。今更何に動じると言うのか?何より彼は学園でも他の2人、正堂院律と兵藤仁哉と一緒に御陵衛士を率いて特別任務に赴きいくつもの死線を乗り越えている。故に、これくらいどうってことないのだ。そして彼、獅子戸王貴の実家は表でも裏でも名の知れた大物の家系であるのだ。故に彼は威圧ごときで屈してはならないのだ。故に…
獅子戸王貴も威圧する。『穂高みやびは僕がもらう』と
「悠斗の奴………こんなに怒りを露わにするなんてな………すげぇ怖い………」
「その怒りを買う言葉をなんの躊躇も無く口にできる獅子戸先輩には驚きしかないわよ………」
透流とリーリスは目の前で行われている狼と獅子の衝突を見守ることしか出来なかった。
「先輩………今………ふざけてるとしか思えない言葉を聞いたんですが………気のせいですか?」
「うーん………ふざけているつもりは無いんだけどな………僕は本気でみやびくんに交際を求めているんだ」
氷の刃のように鋭く冷たい視線で悠斗は王貴を見つめていた。
「あの………知らないんだと思うのですが………俺とみやびは付き合っていますよ」
「あぁ、知っている。その上で言ってるんだ」
「んだとテメェ」
王貴の言葉に悠斗の口調が変わった。
「無論君に引いてくれと言うわけでは無い。最終的に決めるのはみやびくんなのだからね…確かに君とみやびくんは付き合っている………だけどだからみやびくんに僕が気持ちを伝えてはいけないと言う道理はない。僕はこの仙伐戦でみやびくんに僕のことを知ってもらいその上で彼女に告白しようと考えているんだ」
「なんの屁理屈だよテメェ………俺がそんなこと認めると思ってるのか?」
「君はもう少し先輩に対する言葉を丁寧にした方が良い………それに、みやびくんを束縛するのは良くないと思うよ」
2人の空気はさらに重いものとなり周囲の空気はさらに冷たいものへとなった。
「ちょ………2人とも………もう直ぐ試合なんだからこんなことで争うのは………」
「「こんなこと?今(俺/僕)たちは大事な話をしてんだよ」」
「ごめんなさい」
透流の言葉に2人の言葉が一致し透流は恐怖に震えた。
「まぁさっきも言ったように最終的に決めるのはみやびくんだ。今は引かせてもらうとするか。じゃあまたねみやびくん。僕の試合、見ててくれ」
そう言うと王貴は呆れる仁哉を連れて笑みを浮かべながら手を振り去って行った。
「………ぶっ殺す」
静かに悠斗はそう呟いた。
「悠斗くん………」
みやびは悠斗に話しかけようとしたが悠斗はみやびを見つめると
「みやび、改めて言わせてもらう」
先ほどの怒りの形相が嘘のような優しい笑みを浮かべていた。
「俺はみやびのことが好きだ。愛している。だからこの仙伐戦で俺は必ず優勝する。俺は………お前に絶対に嘘はつかない」
その言葉にみやびは顔を赤く染め、そして嬉しそうに微笑んだ。
「うん、わたしも悠斗君が好き。その気持ちは変わらない」
そう、2人の繋がりは簡単には千切れない。考えるまでも無いのである。そんな2人を見て透流達はホッとした。
「まぁそれでもあいつはぶっ殺してやる」
「悠斗くん!?殺さなくて良いからね!?」
それでも悠斗の怒りはとんでもないものだった。
「やれやれ、ライバルは強敵みたいだね………」
「お前なぁ………」
その頃王貴と仁哉は廊下を歩いていた。
「だから言ったじゃねぇか『諦めろ』って。あの2人の中はマジだよ。お前に勝ち目は無え。余計なことしてかき乱すのはやめろ」
仁哉は溜息を吐きながらそう言った。
「………諦めない」
しかし、王貴の想いは変わらなかった。
「王貴お前…」
「君の言うとおりだよ。あの2人の関係は語れないほどに強い愛で結ばれてる…僕では勝負にならないかもしれない…」
獅子戸王貴は分かっていた。自分の入る余地は無いかもしれないと
「でも……それでも僕は諦めたくない……この気持ちだけは譲れない……」
それでも彼は諦めない。それだけ彼はみやびに想いを寄せているのだ。それは何故かを兵藤仁哉は知っている。
「はぁ………ほんとお前ガキの頃から変わんねえな………分かったよ。まぁ駄目元でやってみろ。俺は次が試合だから先行ってるぞ」
溜息を吐きながら仁哉は廊下を先に歩き出した。
「………ありがとう。仁哉」
時は進んで現在格技場、今から橘巴と兵藤仁哉の試合が行われようとしていた。
『それでは両者《焔牙》を出してください』
三國の言葉で両者は《力ある言葉》を口にした。
「「《焔牙》!!」」
2人の掛け声とともに焔が形を作り、橘は《鉄鎖》を、仁哉は《鎌刀(ハルパー)》を手に構えた。
『両者、試合開始!!』
ついに試合が始まった。
今回は修羅場回でありました。
感想待ってます。