「それじゃあみやび、今日はリングに炎を灯す練習をしよう」
「う…うん。お願い悠斗くん」
現在は仙伐戦の休憩時間、悠斗とみやびは人気の無い森の中で特訓を行なっていた。イノチェンティの騒動で《死ぬ気の炎》を使ったみやびに悠斗は《死ぬ気の炎》の使い方を教える事になっていた。
「まずは《死ぬ気の炎》について教えるよ。《死ぬ気の炎》て言うのは簡単に言うと生命エネルギーだな。炎には主に7つ…いや、8つの属性があるんだ。」
「属性?」
「《晴》、《雨》、《嵐》、《雷》、《雲》、《霧》、《雪》…そして《大空》だ。そして炎にはそれぞれに性質があるんだ。まずみやびの属性は《晴》だったな。《晴》は《活性》って特性があるんだ。傷を癒したり成長を促したりと結構便利な属性だな。そして俺の炎の性質《凍結》って言ってあらゆる機能を停止させたり冷気を操ることが出来る能力だ」
そう言って悠斗はどこから出したのかホワイトボードに炎の属性とそれぞれの性質を記入した。それを見ながらみやびはノートにまとめていた。
「よし、それじゃあ次はリングに炎を灯す方法について教えるよ」
そう言うと悠斗はポケットからリングを1つ取り出して指にはめた。
「リングは使用者の波動…つまり生命エネルギーが通過するとそれを高密度エネルギーに変換して死ぬ気の炎を生成出来る。」
そう言うと悠斗は指にはめたリングに炎を灯した。その炎はとても澄んだ真っ白な炎でありみやびはその美しさから目を離せなかった。
「そしてここが一番大事なんだけど炎の威力は使用者の波動を計る尺度である炎の純度に依存しているんだ。さらにリングの属性と使用者固有の波動の属性が一致しなければリングに炎を灯すことは出来ない。だから《晴》の炎の使い手は適正がない限り《雨》のリングに炎は灯せないってな感じだな。まぁ百聞は一見にしかず、リングをはめて見てくれ」
「う…うん」
みやびは悠斗の言われた通りに指にイノチェンティから貰ったリングをはめると
「えいっ…」
みやびは体に力を入れてリングに炎を灯そうとした。しかし、リングからは炎は出なかった。
「あれ?」
「みやび、力で炎を灯すんじゃない。《死ぬ気の炎》を灯すのに何より必要なのは確固とした強い覚悟だ。」
「覚悟……」
悠斗の言葉を聞きみやびは息を整えて静かに目を閉じた。
(わたしは…強くなりたい…みんなと一緒に戦えるように…わたしを絆双刃に選んでくれた…わたしの大好きな悠斗くんのために…!!)
ポゥッ
その瞬間、みやびのリングから黄色い炎が出た。
「うわぁ…」
「よし、第1関門『リングに炎を灯そう』は成功だな。よくやったなみやび」
そう言うと悠斗は優しくみやびの頭を撫でた。
「えへへ…」
「さて、それじゃあ次は匣(ボックス)兵器の使い方について教えてみるか」
そう言うと悠斗は腰から手のひら大のサイコロ状の匣を取り出すと。
「開匣!!」
リングの炎を匣へと流し込んだ。すると、匣が開き中なら白い炎の灯った小さなナイフが数本出てきた。
「これは匣兵器って言ってな。この中にはこいつみたいな《死ぬ気の炎》を動力源に動く道具が入っている。武器だったり医療用の道具だったり、あとは動物だったりな」
「動物?」
「そう、《死ぬ気の炎》で動く動物、《匣アニマル》だ。いわば自分のパートナーって感じだな。例えば…こんな風にな」
そう言うと悠斗の首のチョーカーが光り白銀の鎧に覆われた白い狼が出てきた。
「こいつが俺の相棒の銀牙だ。銀牙、みやびに挨拶だ」
「ガウッ!!」
悠斗がそう言うと銀牙はみやびに近づき尻尾を振りながら吠えた。
「えっと…よろしくね銀牙」
みやびも恐る恐る銀牙の頭を撫でると銀牙も体を擦り寄せてきた。
「銀牙もよく懐いているみたいだな。さて、みやびの匣は…っとそうだ、確かみやびってイノチェンティから匣貰ってなかったっけ?」
「ええっと…これ?」
みやびは以前イノチェンティから貰った匣を取り出した。
「そうそうそれそれ、試しにそれに炎を注入して見なよ。その穴にリングを当てて炎を注入すれば何か出てくると思うから」
「うん」
みやびは丸い穴へと炎が灯ったリングを押し付けた。
すると
ボシュッ
音とともに匣が開き中から黄色い炎の塊が出てきた。
炎の塊は次第に形を作っていき…
「きゅ〜」
耳と尻尾に炎が灯った生き物へと形を変えた。それは大きな耳と尻尾を持った小さな狐のような生き物だった。
「これは確か…え〜〜っと…そうだフェネックだ!!」
「この子がわたしのパートナー…」
「きゅう?」
フェネックは首を傾げながらみやびを見つめて尻尾を振った。
「可愛い…よろしくねキューちゃん」
みやびは匣から出てきた《晴フェネック(フェンネーク・デル・セレーノ)》ことキューちゃんを抱きかかえると優しく頭を撫でた。
「しかしフェネックか…どんな能力なんだろうな」
「ガウ」
リンゴーン…リンゴーン…リンゴーン…
鐘の音色とともに休み時間終了の鐘の音が聞こえた。午後の部が始まるようだ。
「それじゃあ戻るとするか。銀牙」
「ガウッ」
悠斗がそう言うと銀牙は炎になって悠斗のチョーカーへと戻った。
「キューちゃん、またね」
「きゅ〜♪」
みやびも同じように匣にキューちゃんを戻して格技場へと戻った。
「悪い悪い遅くなった」
「何をしているのだ愚か者」
「まったく、次は私の試合だとこの前言っていただろう」
悠斗たちが戻ると次に試合を控えている橘がため息を吐いていた。透流とユリエはまだ一緒に特訓をしているのかまだ来ていない。
「やれやれ、この試合で勝てば決勝トーナメントで俺たちの誰かと戦うことになるのだぞ?」
「わかってるわかってる。ところで橘の対戦相手って誰だっけ?」
「……巴さんは《Ⅳ》3年兵藤仁哉さん、ちなみにその後に行われるユリエさんの対戦相手は《Ⅴ》の獅子戸王貴さんです。」
声が詰まりながら梓が代わりに答えた。
梓は実際に《Ⅳ》以上の《超えし者》の実力をその身に知っている。真の力を使わなくてもあれだけの力を持つ存在に自身の絆双刃が戦うことに心配しているのである。
「梓、心配するな。相手が格上だろうと私は諦めない。キミがあれだけの覚悟を見せてくれたんだ。私も頑張らなくてはキミに合わせる顔がない」
「巴さん……」
「貴様も橘を信じろ、橘は強い。それは貴様が一番よくわかっているだろ?」
橘とトラの優しくも覚悟ある力強い言葉に梓は笑みを浮かべ
「分かりました、私も巴さんたちを信じます」
『仲間を信じる』
それはかつての不知火梓には出来なかったことであろう。しかし、今は違う、今彼女の周りには心から信じられる『仲間』がいる。本当の意味での『仲間』がいる。それが梓にとって何よりも嬉しいことであった。
「うぃーーーっす、お前だろ?次の俺の対戦相手は?」
突如声が聞こえその方向を見ると、長い金髪をうなじで縛った3年生と茶髪で長身の温和そうな3年生がそこにいた。
「貴方達は?」
「お前の次の対戦相手の兵藤仁哉だよ橘巴、ちなみにこっちは俺の絆双刃の獅子戸王貴、俺たち3年生のエースだよ」
「獅子戸王貴だ、君たちの話は律くんから大体聞いているよ。」
悠斗達に挨拶した王貴は梓を見ると彼女に話しかけた
「梓くん、さっきの律くんとの戦い、実に素晴らしかった。彼女も言ってたよ。また今度戦おうってね」
「あ……はい、それじゃあ律先輩に伝えてください。次は必ず私が勝つって」
梓はまっすぐと王貴を見つめてそう言った。
「…わかった、律くんに必ず伝えるとするよ。」
王貴は優しく笑みを浮かべてそう言った。
「さて…今回はそのほかに伝えたいことがあったんだ」
「お前…本気で言うつもりかよ…」
すると王貴の言葉に仁哉はため息を吐きながらそう言った。王貴は何も返さずそのままみやびの前に立った。
「穂高みやびくん、実は僕は君のことを入学ごろから知っている」
「えっ…?」
「いつも休まず走り続けているのを偶然見かけてね、強くなろうと頑張り続けるその姿に、僕は心を奪われていた…」
王貴は頬を少し赤く染めみやびを見つめた。
「だから…
僕と付き合ってほしい」
瞬間
周囲が絶対零度に包まれた
「……はぁ?」
次回…悠斗が怒ります