アブソリュート・デュオ〜銀狼伝〜   作:クロバット一世

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梓VS律決着です


38話 悔しい

 

 

 

「梓のやつ、良い調子だな。律先輩相手に自分のペースで闘えてる」

 

「そうだな、試合開始の時はかなり緊張していたみたいだったがだいぶ落ち着きを取り戻したようでよかった。」

 

観客席では悠斗と橘が梓の試合を観ていた。

 

「だがあの律先輩という人…確かに相当の実力だな…」

 

「あれは実戦弓術だな、より戦に適した構え方で矢を続けていることが出来ている…」

 

悠斗は素直に正堂院律という先輩の力量に驚いていた。

悠斗自身も彼女はどの弓術の使い手は滅多に見たことがない。狙撃といえば間違いなく《最強の赤ん坊(アルコバレーノ)》の1人であるコロネロを、銃でいうならヴァリアーのボス、XANXUSを思い浮かべた。だが弓矢ではどうだろうか、同じ守護者の獄寺は形態変化で弓矢を使うが彼の得意とするのは爆弾術だ。純粋な弓術では彼女ほどの腕前を持つ人間は見たことがなかった。

 

「しかもあの先輩…もしかしたら…勝負は短期決戦にした方が良いかもしれない…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつやっぱりやるじゃねえか、律の五連撃を躱しやがったよ」

 

観客席の別の場所では仁哉が笑いながら王貴と一緒に梓と律の闘いを観ていた。

 

「にしても律のやつ初っ端から本気で向かってやがるな。あいつもスイッチ入ってるのかねえ…」

 

「そうだね、いつもより集中しているね。やっぱり今年は優秀な1年がいるみたいだからかな?あの梓って娘もなかなかの実力だね。足の運びをみる感じだと…あれは暗殺術の足さばきだね。相手の死角から音もなく攻撃する。相当訓練された動きだねぇ…」

 

王貴は2人の闘いを観ながら梓のことを分析していた。

獅子戸王貴は3年の中の《高位階(ハイレベル)》の中ではダントツの実力である。常にみんなの中心におり、そして、人を見る才に関しては人一倍であった。

 

「うん、あの娘…良い腕だよ。ちゃんと律と互角に闘っている……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近接格闘(クロスレンジ)ではね」

 

 

「中々やるわね、正直ここまでやるとは思わなかったわ」

 

「先輩こそ…やっぱり強いですね」

 

梓は律の強さに冷や汗をかいていた。

 

(…この人、やっぱり強い。さっきから私の攻撃を全部弓でガードしている……遠距離戦闘だけじゃなくて近距離戦闘にも長けている。)

 

基本的に弓兵の弱点は接近戦である。間合いを詰められれば矢を構えて放つといった動作が必要になる弓術は不利になるのは至極当然であろう。だからこそ梓は試合開始早々間合いを詰めて一気に畳み掛けているのだ。

しかし、相手の正堂院律は距離を詰められても弓を使って梓の《大鎌》をしっかり防ぎ、さらには弓を使ってのカウンターを仕掛けてきた。

 

(さすがは3年生…近接対策もしっかりこなしているってわけですか…でもこの程度なら対処はできる。接近戦に持ち込めばまだ勝機はあるはず…)

 

梓がそう思いながら《大鎌》を構えて律を見つめた。

 

「さて、そろそろこっちも全力で狩らせてもらいますか」

 

そう言うと、律は鋭い目つきになり息を整え《洋弓》を構えた。

 

「…!!させません!!」

 

直感で何かを感じた梓は律に《大鎌》で斬りかかろうとした。

 

 

 

 

 

しかし、

 

 

 

 

 

 

 

「……………え?」

 

梓の一撃は空を切りその視界から律の姿が消えていた。

 

(見失った?でも何処に…)

 

その瞬間、背後に寒気を感じ梓が身をよじると後ろから矢が放たれた。後ろを見ると、律が矢を構えてそこにいた。

 

(なっ_______!?いつの間に背後に……!?)

 

慌てて梓は律に接近して距離を詰めようとした瞬間、律は梓の突進を容易く避けて再び矢を放った。

 

「ぐっ…」

 

矢はかわしきれず梓の肩をかすめた。それからも梓は距離を詰めようとするものの、中々距離が縮まらず苦戦し始めた。

 

 

 

 

「一体どうしたというのた?…急に律先輩の動きが良くなったぞ?」

 

「たしかに…急に梓の攻撃が見切られるようになった…」

 

観客席でも急に律が梓の攻撃をかわすようになったのを見てトラと透流が不思議がった。

 

「多分、律先輩は梓の攻撃パターンを読んでるんだ。」

 

そんな中、悠斗は律の急な反撃の謎を分析した。

 

「さっきまでの闘いを観てた時、少し違和感があったんだ。まるで、梓のことを観察しているような感じだった……多分、律先輩は梓の癖や足運び、予備動作から梓が次にどう動くのかを分析していたんだ。」

 

そう、正堂院律は闘いの中で梓の攻撃の際の僅かな癖を見て梓の攻撃パターンを読み、彼女の攻撃をかわして間合いを支配したのだ。

 

「私弓兵なもので、相手を分析するのは得意なのよね。あなたの事、色々と『観察』させてもらったわ。ここからは私のターンよ」

 

律は矢を構えて再び梓へ矢を放った。

慌てて梓は躱したが気づくと律は既に梓へと次の矢を構えており脇腹に食らってしまった。

 

「うぐっ……このぉ!!」

 

律は《大鎌》を地面に叩きつけて目くらましをしようとするがすぐさま律は矢を放ち阻止されてしまった。それからも律は梓の戦術をことごとく封じ込めてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(通じない……私の戦術の全てが…この人を倒すヴィジョンがわかない……)

 

梓は目の前の正堂院律に恐怖を覚えてきた。自分の全てが、全く相手に通じなくなった。先ほどまでの接戦が嘘のようになり完全に相手のペースになってしまった。

彼女の弓をなんとか躱しているがそれでも躱しきれず矢が掠っていく。自分の攻撃が当たらない…

 

(勝てないの?私は……このままこの人に勝てないって事?)

 

視線誘導も、目くらましも通じない……かといって正面衝突で倒せるかどうか……ダメだ、相手は自分より位階の高い《Ⅳ》……正面からぶつかって勝てる相手では……もうダメなのか?……もう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『心配するな梓、私が付いている。』

 

『落ち着いて呼吸をするんだ。大丈夫だ、自分を信じるんだ。』

 

「……っ!!」

 

その時、梓は自身の絆双刃である橘の言葉を思い出した。

 

「そうだ……落ち着くんだ……こんなところで諦めたら……巴さんに……合わせる顔がないじゃ無いですか……みんなを欺き続けていた私を許してくれた……信じてくれた大切な友達に示しがつかないじゃ無いですか!!」

 

梓は覚悟を決め、再び律の前に立ち呼吸を整えた。

 

 

 

 

「……顔つきが変わった……どうやら覚悟を決めたみたいね……そういう事ならこっちも手加減しないわよ。かかってきなさい」

 

梓の変化に律は笑みを浮かべながら再び矢を構えた。

 

「ハァァァァア!!」

 

梓は気合いのこもった声でまっすぐに律へと向かっていった。

 

(……向かってくる?でもそれじゃあ同じことよ!!)

 

梓は少し疑問を抱きながらも梓の攻撃を避けようとした。

 

 

 

しかし、

 

 

 

「……なっ!?」

 

 

 

梓の攻撃は律の予測を超えた速さであった。

そう、予備動作から行動への時間差が縮まっているのだ。

律は梓の攻撃を《洋弓》でガードし再び距離をとろうとしたが梓は休まず攻撃を繰り出し続け、律に回避の暇を与えようとしなかった。

 

(まさか……この私が……ペースを崩されるなんて……)

 

律はガードしながら唇を噛んだ。完全に自分の油断であった。相手を過信していた自分の失態である。それが律には、3年生として情けなかった。

 

 

 

 

 

(いける……このまま一気に畳み掛ける……必ず勝つ…いや違う…勝ちたいんだ!!)

 

梓は自分に湧き上がる感情に、勝利への渇望に気づいた。自分の親友たちへ、勝利を捧げたかった。初めて自分に現れる感情、かつての自分にはなかった感情……

 

「私は…絶対に……勝つんだぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なめるなぁぁぁぁ!!」

 

瞬間、律が強力な掌打を梓の腹部へと叩きつけた。

 

「がはっ!!」

 

《Ⅳ》に超化された《超えし者》の一撃に梓はそのまま体が浮いた。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正堂院流一之秘弓_______《北風》」

 

梓の渾身の矢が梓に直撃し、そのまま梓は意識を失った。

 

 

 

 

『それまで!!勝者正堂院律!!』

 

ウワァァァァァ!!

 

三國のアナウンスとともに試合が終了し、律はそのまま去っていった。

 

「律のやつ、少し不満な様子だな」

 

観客席では仁哉と王貴が会場を去る律を眺めていた。

 

「まぁ最後の方でペースを崩されたからね、それが納得いかなかったんでしょ。まぁあれは梓さんの意地だろうね。でも梓にも意地があった。だからこれは意地のぶつかりあいだろうね」

 

「あーそれいつも思うんだけどよぉ……意地の比べっこってさぁ…じゃあ負けた方の意地は弱かったのか?ってことになっちゃわないか?」

 

「……そう、意地は互角だった。だからやっぱり最後は自力の強さだろうね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん……ここは……?」

 

「目が覚めたか梓?」

 

梓が目を覚ますと橘が心配そうに見ていた。

 

「巴さん……っそうだ……わたし…最後に矢を食らって……」

 

「あぁ、残念だったが……」

 

梓は意識を失う直前のことを思い出した。

 

「すいません巴さん、少し1人に……」

 

 

 

ギュッ

 

 

 

梓が言葉を発しようとした瞬間、橘が抱きしめてきた。

 

「巴さん……?痛いですよ……離して…」

 

「いい試合だった、梓はやっぱり私の自慢の絆双刃だ。」

 

橘には感じたのだ。あの試合から梓の想いが、覚悟が、しっかりと橘の心に響いていた。そして橘の抱擁に梓も抑えていたものが一気に弾けた。

 

「巴さん……あ……わた……し……う…うわぁぁぁあん!!」

 

梓は橘を強く抱きしめて……泣いた。

 

 

 

 

 

医務室に少女の泣き声が響いていた。

 

 





最近寒いですか、体に気をつけてください。
自分も喉が痛くてのどぬ〜るスプレー使ってます。








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