「せいやぁっ!!」
「ふっ!!」
現在格技場には2人の生徒が試合を行なっていた。1人は手に《三叉槍(トライデント)》を持ち相手に攻撃をし続ける2年の生徒、もう1人は手に《大鎌(デスサイズ)》を持ち相手の攻撃をかわし続けている梓であった。一見相手の選手の方が攻めているようであったが…
「このっ…なんで当たらないの…!?」
梓は相手の攻撃を冷静に見切りながら間合いの外でかわしていた。それだけでなく、時折特殊な動きで相手の視界から外れたり《大鎌(デスサイズ)》を使い地面の砂で目くらましをして相手を翻弄したり、時には《大鎌(デスサイズ)》で相手の攻撃を払ったりしていた。不知火梓は幼少期より隠密部隊にいた。常に危険な世界にいた彼女は格上の相手との戦闘も避けられない場合があった。故に彼女は『どうすれば生き残れるか』、『どうすれば格上を倒せるか』そういったことを考えなければいけなかったのだ。故に彼女はこと『相手を倒す』ことにおいては並の人より遥かに上であった。『相手が自分と同じかそれ以上の実力の場合、自分の得意な場面にする』それが彼女の鉄則だった。
「貴女は強いです…でも、私の方がもっと強いですよ」
そう言って梓は相手に急接近して《大鎌(デスサイズ)》の一撃で相手を斬り裂いた。その瞬間、勝敗は決した。
『それまでっ!!勝者、不知火梓』
ワアァァァァア!!
試合が終了し、観客の歓声の中、梓の相手を翻弄する巧みな技に一部の手練れは興味深く観ていた。
「なかなかやるじゃねえかあの1年、今年は結構『当たり』が多いみてえだな」
そう言って金色に染められた長髪を後ろで纏めた鋭い目つきの3年、兵藤仁哉(ひょうどう じんや)が笑いながら見つめていた。
「えぇ、次の私の対戦相手よ。今から楽しみでしょうがないわ」
そう言うのは先ほど悠斗と透流と一緒に話していた黒髪のショートヘアに縁のないメガネの少女、正堂院律であった。
「んだよテメェの相手かよ。せっかく楽しめると思ったのに闘えねぇじゃねえか。しかもその後の相手って確か同じ1年の《能力持ち》じゃねえか…俺と変われよ」
「ごめんなさいね仁哉、感想文3000文字で渡してあげるから」
「要らねえよそんなもん!!嫌がらせか!?」
「まぁまぁ落ち着きなよ2人とも、他にも強そうなやつらはいるみたいだし、決勝トーナメントで闘えるよ」
口論になりかけた2人を仲裁したのは茶髪で長身の温和な少年、獅子戸王貴(ししど おうき)であった。
「ケッ、まぁいいや。決勝にあがってくる奴らはどいつも手練れだからな、さらに《能力持ち》なら本気が出せるときた…理事長様様だぜ」
「確かに…そういえば正堂院くんは九重透流と天峰悠斗の2人と話したそうだが…どうだった?」
「どっちも強そうだったけど…どちらかと言うと天峰悠斗の方が強いわね。相当場数を踏んでるわ」
「そうか…いずれにせよ相手にとって不足はない…全力でいこう」
そう言う王貴の顔は笑っていた。
彼らこそ、この昊陵学園の3年にして《Ⅳ》の《超えし者》である3人である。彼らの強さはこの昊陵学園でもトップクラスであることは言うまでもない。
「若鳥たちに3年の壁を教えてあげようじゃないか」
「やったな梓」
「当然です」
戻ってきた梓を巴たちが迎えると得意げに梓が微笑んだ。
「悠斗さん、私が次勝てば貴女と当たります。お互い全力で闘いましょう」
梓はまっすぐと悠斗を見てそう言った。
「もちろんぶつかったら全力で闘うさ。でも気をつけろよ梓、次の相手は3年、しかも《能力持ち》だ。」
「わかってますよ、だから全力を尽くします。」
そう言って梓は笑った。
そして試合開始直前
「…はぁ…はぁ…」
梓は壁に手を当てて深呼吸していた。
対戦相手は3年の明らかな格上、悠斗たちの前では平然としていたが梓は緊張で押しつぶされそうであった。
「…まさか…この私が緊張してしまうなんて…でも障害物やトラップが使えない以上視線誘導や小細工では限界がある…」
間違いなく今回の相手は今までのようなやり方では勝てない…そう思うと体が震えだしたのだ。
ガチャ
「梓、もうすぐ会場に行かないと…ってどうしたんだ梓そんなところで?」
「巴さん…」
「もしかして…緊張しているのか?」
扉から巴が出てきて梓の様子に気づいた。
「はい…すいません、さっきまでカッコつけてたのに…蓋を開けてみればこんなに震えて…今までは…暗部にいた頃は平気だったのに…体が震えるんです…」
梓は涙目になりながらそう呟いた。
「心配するな梓、私が付いている。」
巴はそう言うと優しく梓を抱きしめた。
「巴さん…」
「私の昔から緊張などよくしている。大事な試合なら尚更な、だけど落ち着いて呼吸をするんだ。大丈夫だ、自分を信じるんだ。」
巴のまっすぐとした言葉が梓に響いていた。自分のことをここまで心配してくれる巴に梓は感謝しきれなかった。
「…ありがとうございます巴さん…もう大丈夫です。」
その時の梓は迷いのないまっすぐな目であった。
格技場
『ただいまから、1年《Ⅲ》不知火梓対3年《Ⅳ》正堂院律の試合を開始します。両者は舞台中央へ来てください』
三國のアナウンスを聞き、梓と対戦相手の律が格技場中央に来た。
『なお、《Ⅳ》の正堂院律は《煉業》の使用は禁止ですのでご了承ください』
両者の目はまっすぐと互いを見つめていた。
「梓さんでしたよね?お互い全力で闘いましょう。」
「こちらこそよろしくお願いします。3年の力見せていただきます。」
互いに笑みを浮かべ臨戦態勢に入った。
『それでは両者《焔牙》を出してください』
三國の言葉で両者は《力ある言葉》を口にした。
「「《焔牙》!!」」
2人か掛け声とともに焔が形を作り《大鎌(デスサイズ)》と《洋弓(アーチェリー)》の形になった。
『両者、試合開始!!』
三國の合図とともに梓は一気に間合いを詰めた。
律の《洋弓》は先ほどの相手の《三叉槍》と違い間合いを詰めなければこっちがやられる。
ならば間合いを詰めて矢を射らせなければ良い。そうすればこっちの方が有利だ。そう思いながら梓は間合いを詰めて律に斬りかかった。矢を構える隙も与えない…
決まった_______!!
そう思いながら《大鎌》を律へと叩きつけようとした。
ガキィンッ
「なっ……」
金属音とともに梓の《大鎌》が律の《洋弓》によって防がれた。そう、律は梓の《大鎌》の一撃を自身の《洋弓》だけで容易く防いだのだ。普通弓で大鎌を防げば弾き飛ばされるだろう…しかし、律の《洋弓》は強力な《大鎌》の一撃を防ぐだけの頑丈さを持っていた。そして、何よりその強力な一撃を防いで一歩も下がらず踏みとどまった律の膂力もかなりのものであった。
「いい一撃ね…並みの相手なら今ので終わっていたかもしれないわ…だけど…1つだけ言わせてもらうわ…
《Ⅳ》をなめるな」
鋭い言葉とともに梓は蹴り飛ばされた。
「ぐっ…!!」
とっさに片手でガードしたが体が後ろに下がってしまった。
(いけない…距離を離したら…)
ふと律の方を見ると律はすでに矢を構えていた。
シュッ!!
風切り音と共に矢が梓へと向かっていった。
「っ!!」
梓は咄嗟に躱すと先ほどまでいた場所に矢が5本刺さっていた。あの一瞬で5本も同時に射る技量は並みの実力者では無い……それも当然である。正堂院律は1年で《Ⅲ》へと到達し、その後、2年の終わりに《Ⅳ》になってからも更に過酷な訓練をし、時には任務として危険な戦地にも赴いているのだ。戦闘力、経験値、知略、そのどれを取っても彼女は並外れた実力者なのだ。更に、この学園のトップ3は伊達ではないということだ。
「これが……3年生……《Ⅳ》……強い……」
その時の梓の顔はは笑っていた。
久しぶりに書きました!!
これからもかなり更新が遅いかもですがこれからも書いてきますので今後ともヨロシクお願いします!!