MUGENと共に   作:アキ山

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 お待たせしました。

 閑話第3話の完成です。

 あれ? なんか話の進みが遅いなぁ。

 後2話で終わらせるつもりだけど、なんとかなるかな?

 FGO

 1000万DLで青王を狙ったら、乳上が来た。
 ☆4配布で貰ったのに……虚しい。
 



閑話『獅子王・地獄変(3)』

 え~、現在傷心中の姫島慎です。

 ようやく辿り着いた聖都は獅子王城ではありませんでした。

 さらに言うなら、獅子王も『ダイナマイッ!!』じゃなかったとです。

 骨格も声も完全に女だったし、剣もボクシンググローブも着けてませんでした。

 ……私は悲しい(ピィィィィィッン)

 悲しさのあまり、聖抜の光をグレートホーンで消し飛ばしてしまったが、仕方のないと誰もが認めてくれるだろう。

 さて、現在はハサンの情報通りに虐殺の真っ最中である。

 もっとも、虐殺されているのは騎士の方だが。

 俺が無音拳の衝撃波で騎士達の頭を狙撃してるというのもあるのだが、まさか難民の中に『無限の闘争(MUGEN)』の闘士が混じってるとは思わなかった。

 いや、魔雲天(マウンテン)先輩や(エイリアン)を見た時点でいるんじゃないかなぁとは思ってたよ。

 けど、実際にこの目にすると驚きは隠せなんだ。

 まず、聖抜(せいばつ)をクリアした子供を母親から引き()がそうとしていた騎士が、チェーンガンで頭を吹っ飛ばされた。

 弾が飛んできた方向を見ると、シュワ……じゃない。

 『エイリアンVSプレデター』のダッチ・シェーファー少佐が硝煙の上がるサイバーアームを構えていた。

 『大丈夫か、お前達』と、まさかの玄田ボイス。

 因みに、騎士との会話のやり取りが『子供の命が惜しかったら抵抗するな、OK?』『OK!!(ズドーンッ!!)』と映画の『コマンドー』じみてたのには、不覚にも吹きそうになった。

 さらにそれに呼応するかのように、ささきいさおヴォイスな雄叫びを上げながら『ランボー』のジョン・ランボーが機関銃片手に現れ、現在は木曜洋画劇場さながらの戦争アクションが展開されている。

 弓を構えた騎士が穴だらけのチーズにされ、剣を持った騎士がサイバーアームの一撃で沈む。

 ハンドグレネードがポンポン宙を舞い、挙句の果てにはシェーファー少佐がミサイルランチャーで騎士の一団を吹き飛ばす。

 ガウェインとやり合っているご先祖ちゃんは仕方ないとして、合流したカルデアメンバーにはマシュ嬢の盾の後ろに避難中。

 俺からB級アクション映画の洗礼を浴びたヴァーリとアーサーは目を輝かせ、玉藻は『なんで現代火器が、サーヴァントモドキに効くんでしょうか?』としきりに首を傾げていた。

 そんなもの『漢のリトマス試験紙』だからに決まっているだろ!

 当然、俺もバリバリ陽性反応だ!!

「なんで特異点でシ●ワちゃんとスタ●ーンが大暴れしてるのよぉぉぉぉぉっ!?」

 爆音が(とどろ)く中、立香嬢の魂の叫びが木霊する。

 細けえ事はいいんだよ!

 さて、二人の無双タイムも終了し、白亜の城砦の前は難民キャンプから硝煙と炎の匂いがむせる戦場跡へとジョブチェンジした。

 二人のアクションスターは避難する難民と共に姿を消し、後に残されたのは少数の難民の亡骸とミンチよりヒドイ騎士の死体のみだ。

「クッ! まさか、あのような戦力を難民に紛れ込ませていたとは……」

 体格差に物を言わせてご先祖ちゃんを弾き飛ばして、ガウェインは歯噛みする。

 現在、城門を守るのはガウェインと手傷を負った粛清騎士が三人のみ。

 対するカルデアは先に見たご先祖ちゃんと冬木のアーチャーに加え、ダヴィンチちゃんに中性的な細身の騎士、そして黒と紫のローブを身に纏った青紫の髪と少し尖った耳が特徴の女性魔術師がいる。 

 これは大勢が決したと言っても過言では無いだろう。

「勝敗は決した! 大人しく城門を開けよ、ガウェイン!!」

「馬鹿な事を! 私はまだ闘える!! それに聖都の中には他の円卓も控えているのだ! 我等獅子王の円卓に敗北は無い!!」

 ご先祖ちゃんが放った降伏勧告は、未だ闘志をむき出しにしたガウェインによって跳ね除けられた。

「ここは私が食い止める! 卿らはキャメロットに戻り、アグラヴェインに増援を要請せよ!!」

「ガウェイン卿!?」

「行けぇっ!!」

 有無も言わせぬガウェインの迫力に、粛清騎士達は聖都の中へと駆けて行く。

 ……今、粛清騎士達は閉じられた城門をすり抜けて行ったな。

「あら……。あの城門には物理的な防備に加えて、概念的な守りも付与されているようね」

「分かるの、メディア先生?」

「もちろんよ。術式が生前、神々の神殿で見たモノとそっくりだもの。掛けられた効果は聖なる物、より正確に言えば聖都の主の許可を得たモノ以外の侵入の遮断、といったところかしら」

「待ってください、メディアさん。神殿で見たものと同じということは……!?」

「貴女の思っているとおりよ、マシュ。獅子王は神、もしくはそれに順ずる力を持つという事ね」

「先程の聖抜の光や獅子王の姿は、込められた神秘の濃さに比べて神性は低く感じられた。恐らく獅子王は純粋な神霊ではなく、何らかの要因で神域に上がってしまった人間。俗にいう現人神(あらひとかみ)なのだろうね」 

 ローブの女魔術師……メディアだったか、の説明にダヴィンチちゃんの補足が入る。

 確かに、あの獅子王から感じた神氣は、知己の神々に比べて少なかった。

 玉藻も同じ事を言ってたし、むこうの予測は間違っていないだろう。

「逆徒共よ! このガウェインがある限り、キャメロットには一歩たりとも踏み入れさせはしない!!」

 こちらが色々考察していると、裂ぱくの気合と共にガウェインが再び戦闘状態に入った。

 構えた聖剣から、奴の闘志に呼応するように紅蓮の炎が立ち昇る。

 この魔力の高まり、どうやら奴は聖剣を使うつもりのようだ。

 普段ならお手並み拝見と行くところだが、三蔵ちゃんや俵さん、衛宮君たちがいる中でそいつを撃たせるわけにはいかん。

「慎。ここは任せてもらおうか」

 対処の為に氣を練っていた俺の前に、禁手化を済ませたヴァーリが立つ。

 普段はアレな奴だが、こと戦闘においてはその限りでは無い。

 ハーフ組絡みの経験から仲間を護ることにも積極的だし、任せても大丈夫だろう。

「OK、そんじゃ頼むわ」

 ヴァーリとバトンタッチして後ろに引っ込んだ俺は、素早く九字を切ってウチとカルデア組が入るように結界を形成する。

「あら、珍しいわね。東洋魔術かしら?」

 物珍しそうに結界に触れたり解析の魔術を掛ける、メディアと呼ばれた魔術師の女性。

 緊急用なんで、壊さないようにお願いします。

 観戦モードで気楽に見ている俺たちとは対照的に、対峙する二人を固唾を呑んで見守っているカルデア組。

 その中でも特に緊張しているのはご先祖ちゃんだ。

 ガウェインではなくヴァーリに敵意の(こも)った視線を向けているあたり、冬木の件を憶えているのだろう。

「では行くぞ、太陽の騎士よ。貴様の武勇、この俺に見せてみろ!」

 気合と共に動いたのはヴァーリだ。

 一歩目の踏み込みからトップスピードに乗った奴は、十数メートルはあったガウェインとの間合いを一瞬で殺し切る。

「ッッ!? 速いっ!」

 驚愕の声を上げながらもガウェインは聖剣を防御の方に構える。

 迎撃が間に合わないと感じての咄嗟(とっさ)の策なのだろうが、ヴァーリに対してはそれは悪手だ。

『Divid』 

 ヴァーリの胸当てに()め込まれた宝玉から電子音が響くと同時に、聖剣を覆っていた炎はその出力が大きく衰える。

 同時に黒炎が宿ったヴァーリの手が聖剣を上に跳ね上げ、がら空きになった胴に右の回し蹴りが突き刺さった。

「グハァッ!?」

 苦鳴と共に左へと吹き飛ばされるガウェインと、それを追撃するヴァーリ。

 反吐を吐きながらもなんとか空中で体勢を整えたガウェインは、襲い来るヴァーリに向けて剣を振るう。

 未だ炎が揺れる刀身は、迫り来る純白の甲冑の肩口から袈裟懸けに食い込んだ。

 しかし、刃がわき腹から抜けようとした瞬間、白亜の甲冑の輪郭が歪んでその姿を消してしまう。

 眼前で起こった異常に唖然とするガウェインとカルデア組。

「───残像だ」

 背後から掛かった言葉と共に、ガウェインは猛烈な勢いで地面に叩きつけられた。

 ヴァーリの十八番、ムーンサルトスラッシュだ。

 もうもうと上がる土煙の中、ふらつきながらも自身が生み出したクレーターから出てきたガウェイン。

 見上げた彼が目にしたのは、遥か高みから自身を見下ろすヴァーリの姿だ。

《下らん。音に聞こえし太陽の騎士がこの程度とはな……。こんな輩に加護を与えるなど、ドライグの奴も見る目が無い》

「先程の男とは違う……! 貴様、何者だ!?」

《我が名はアルビオン・グウィバー。サクソンの白き龍と呼ばれし者。───貴様等『赤き龍の民(ブリテン人)』の怨敵よ》

 どこかノリノリのアルビオンの名乗りに表情を失うガウェイン。

 あー、ご先祖ちゃんよ。

 今にも斬りかかりそうな目でヴァーリを見るのは止めなさい。

 気持ちは分かるが、ガウェインが『敵』でヴァーリは『仲間』だからな。

「馬鹿なッ!? 貴様は化身である卑王(ひおう)ヴォーティガーンが討たれた時にこの世界から去ったはず……ッ!!」

 在り得ないという意思が篭ったガウェインの指摘に返って来たのは、アルビオンの大笑であった。

《ふはははははははっ!! あの出来損ないが俺の化身だと? 馬鹿も休み休み言え。奴は俺の血にすら耐えきれずに、醜い魔竜と化した小物。化身というならば、このヴァーリこそが相応しい。この男こそが我が相棒、そして真なる『白龍皇』よ!》

 アルビオンの言葉に合わせてドヤッと胸を張るヴァーリ。

 さっきからあいつが妙なリアクションをする所為で、シリアスな場面のはずなのにまるでコントである。  

「……ッ!? ならば、何ゆえ我等の前に現れたのだ、白き龍よ!」

《聞かねば分からぬか、太陽の騎士よ。俺が貴様等『赤き龍の民』の前に現れる理由など、一つしかあるまい》

 アルビオンの含みのある言葉に、ガウェインは大地を蹴った。

「うおおおおおおおおおっ!!」

 砲弾のような勢いでヴァーリの頭上を取ったガウェインは、気合と共に剣を振り下ろす。

 しかし、亜音速の一撃もヴァーリの身体を捉える事は無い。

「ここは我が王が放浪の果てに築き上げた理想郷! それを貴様の手に掛けさせるわけにはいかんッ!!」

 諦めずに空で体勢を整えながら胴薙ぎ、斬り上げと繋げるが、そのどれもが空を切る。

 さらには着地の瞬間を狙われ、先程と同じように蹴り飛ばされた挙句、360度全方位からの黒炎を纏った魔力弾の爆発によって城門の前まで吹き飛ばされてしまう。

「ぐ…お……ッ!?」

 食い縛った歯の隙間から苦鳴を漏らしながらも、立ち上がるガウェイン。

 その白銀の鎧は半ば砕け、全身の至る所から血を流している。

「つまらないな。最強の騎士と聞いていたから期待していたのに、これでは今代の赤龍帝のほうがまだマシだ」

《仕方あるまい。あの騎士は太陽の下でこそ本領を発揮できるのだ。今の奴はベストコンディションの三分の一程度の力しか持たん》 

「そういえば、ガウェインってそんな逸話あったな」

「聖者の数字ですね。ケルト神話における神聖文字である『3』を宿し、9時から正午と午後3時から日没までは身体能力が三倍になるという特技です」

「なんつうか、慎の奴を見てるから三倍程度じゃ驚かなくなっちまったぜぃ」

「ご主人様って、5~10倍がデフォですからねぇ」

 そうだろうか?

 時間制限があるとはいえ、ノーリスクで三倍とか便利だと思うんだが。

「……うむ。決めたぞ、アルビオン」

《どうした、ヴァーリ?》

「奴の止めはここでは刺さん。お前の言うベストコンディションの時に、もう一度相手をしてやろう」

《それは構わんが、それでもお前を満足させられるとは思えんぞ》

「その時は他の円卓を集めればいい。それでも足りなければ、さっきの獅子王も呼び出せ。そこまでやって俺を満足させられんのなら、こんな都市に価値は無い。諸共全て、灰塵に帰すだけだ」

《ふむ、それもいいな。ではそうするか》 

 当のガウェインそっちのけで、物騒極まりない結論に至る馬鹿コンビ。

 ヴァーリはいつも通りだが、ブレーキ役のアルビオンまでああなるとは。

 この頃出番が少なかったから、はっちゃけてるのか?

「待て……っ! まだ…勝負はついていないっ!!」

 覚束ない足取りながらも聖剣を構えるガウェイン。

 だがしかし、優劣が決しているのは誰が見ても明らかだ。

《吼えるな、太陽の騎士よ。今の貴様では俺達の足元にも及ばん》 

「切り札を隠しているのは分かっているが、その有様では切ったところで俺には通じん。次は貴様が全力を出せる状況で闘ってやるから、それまで取っておくがいい」

 禁手を解き、背まで向けてしまったヴァーリを睨み付けるガウェイン。

 完全に相手にされていないことで気力が尽きたのか、地面に突き立てた剣に(すが)る様に崩れ落ちた。

「お疲れさん」

「別に疲れてなどいない。むしろあの程度では消化不良だ」

 こちらの労いの声にムスッとした表情でヴァーリは応える。

「再戦を約束してたみたいだけどよぉ、どうやって実現させるんだ?」

「ふむ……そうだ。慎に傷を回復させて、あとは町の中に放り込めばいい。そうすれば、明日の昼になれば奴も出てくるだろう」

「面倒臭い事この上ないですよ、それ」

「美遊嬢のこともあるから、さすがにそれは却下。城攻めは基本日帰りで」

「ぬぅ……。妙案だと思ったのだが」

 アレが妙案ってお前……

 全部終ったら、やっぱり学校に行かせよう。

 そんな感じで何だかんだと話していいると、城壁の上に気配を感じた。

 上げた視線の先には、明らかに人としておかしいシルエットが二つ立っているのが見える。

 ……なんだろう、物凄いアレな予感がする。

「カァーッカカカァーー!! よくぞガウェインと粛清騎士を倒した。少しは褒めてやるぜ!」

「グォッフォフォフォ! だが、オレ達が来たからにはお前等もここまでだ!!」

 夜闇に響き渡る懐かしの郷里ヴォイスと佐藤ヴォイス。

 なんてこった、シリアスだった空気が一瞬にしてシリアルになっちまった。

「おおっ! (けい)達は!!」

 俯き、苦悶していたガウェインは二人の登場に表情を輝かせる。

 いや、そのリアクションはおかしい。

「「とう!!」」

 気合と共に城壁から身を躍らせた二つの影は問題なく着地する。

 そして、月明かりが奴等の姿を映し出した瞬間、俺の中からやる気がしおしおと抜けていくような気がした。

「俺は円卓の騎士が一人、アシュ……もとい、隻腕のベディヴィエール!!」

 と六本の腕を組む男。

 どう見てもアシュラマンです、本当にありがとうございます。

 というか、隻腕の意味をもう一度調べて来い。

「俺は円卓の騎士が一人、サン……じゃない、太陽の騎士の妹、ガレス!!」

 こいつに至っては性別詐称である。

 野太いおっさんヴォイスに身長三メートルの砂の巨人。

 お前のような妹がいるか!? 

「「二人合わせて、はぐれ円卓超人コンビ!!」」

 もう、超人って言っちまってるじゃねーか!

 あんた等隠す気ないだろ!!

「……ベディヴィエール、ガレス。よく来てくれました。卿達の力があれば、賊など恐るるに足りません」

「手酷くやられたようだな、ガウェイン。ここは我々に任せて、貴様はキャメロットに戻るがいい」

「それは要らぬ心配だ、ベディヴィエール。私はまだ闘える」

「いいや。太陽の加護を剥ぎ取られた今の兄貴には、あの連中の相手は荷が重い。アンタがすべきは、王の加護があるキャメロットで万が一に備える事だ」

「ガレス……しかしっ」

「なに、心配するな。報告を聞いたアグラヴェインが掃討部隊にも帰還命令を出していた。ランスロットやモードレッドが戻るまで、我々はここを護ればいいだけの話よ」

「そういうことだ。それとも、兄貴は俺達が後れを取ると思っているのか?」

 撤退を渋るガウェインに、説得の言葉を畳み掛ける悪魔超人二名。

 あと、サンシャインは少しは演技しろ。

「……わかりました。ですが、ランスロット達が来るまではけっして無理はしないよう」

「うむ、任せておけ」

 鷹揚(おうよう)に頷くアシュラマンを心配そうに何度も振り返りながら、ガウェインもまた城門の奥に姿を消した。

「ふぅっ。やっと消えやがったぜ、あの太陽野郎」

「まったくだ。奴がいてはオチオチ本来の目的も果たせん」

 ガウェインの姿が消えた途端に吐き捨てるアシュラマンたち。

 その態度にはガウェインに対する心配など微塵も無い。 

 アシュラマンにいたっては、ご丁寧に『怒りの面』に切り替わってるし。

「えーと……何してんスか?」

「見て分からんのか? 将軍様の命により円卓の騎士をやっている」

 恐る恐る声を掛けてみると、さも当然の様に言い返してくるアシュラマン。

「1mmもわかんねーよ。やるんならせめて、リングコスチュームじゃなくて鎧くらい着ましょうよ」

「何を言う。リングコスチュームは我等超人レスラーにとっての戦装束では無いか」   

「アンタは何も着てねーだろうが! つーか、どうやってこの世界に来たんですか? 貴方達は『無限の闘争』に登録されてないはずですよ」

 両者の姿を見た瞬間から疑問に思っていた事をぶつけると、アシュラマン達はまたしてもあの独特な笑いを上げ始めた。

「アレだけ扱きまくってやったというのに、ずいぶんと冷たいじゃないか、坊や」

「そうだぜ。お前さんの首をヘシ折った断頭台は、将軍様の命で俺達が撃ってたんだがなぁ」

 アシュラマンはともかく、サンシャインの妙な言い回しに思わず眉根が寄る。

 将軍様の命で断頭台を撃った?

 俺はサンシャインに技を食らった事はおろか、闘った事もない。

 それに奴が断頭台を使えるなんて聞いた事も……あっ!

 脳裏に過ぎるのは原作にあった夢の超人タッグ編のワンシーン。

 将軍様との対戦がトラウマになっていたキン肉マンに二人が取った行動は───

「そういう事ですか。貴方達はつい最近まで、将軍様の仮の肉体を構成していた。だから、変則的に『無限の闘争』に登録されてここにいるワケですね」

「カァーカカカカッ! そういうことだ」

「察しの良い奴は嫌いじゃないぜぇ」

 なら、残り四人の悪魔騎士もいる事になる。

 もしかして、全員円卓を騙ってるんじゃないだろうな?

「あの、ご主人様。この奇天烈(きてれつ)な方々とお知り合いなのですか?」

 背後からの声に振り返ると、玉藻が困惑の表情を浮かべている。

 さらに後ろには、同じような顔のウチの同行者とカルデア組。

 あ、衛宮君も無事だったか。

 はぐれてたんで心配してたんだが、これで一安心だ。

 と、話が逸れた。

 まあ、みんなの反応は十二分に理解できる。

 どう見たって怪人だもんな、この二人。

「彼等は将軍様の部下である悪魔六騎士のメンバーだよ」

「ああ、あの方の。どうりで個性的な容姿をしていらっしゃるわけです。ところで、何故彼等は円卓の騎士を(かた)っていらっしゃるので? その所為で、カルデアの方にいる青ペンさんと新入りさんが物凄く嘆いてるんですけど」

 青ペンってご先祖ちゃんのことか?

 んなペンギンみたいな呼び方せんでも……。

 それは置いといて、玉藻の疑問は俺も感じていた。

 魔雲天先輩の時も、トリスタンや騎士達は普通にベイリンと勘違いしてたし。

 新人さんが何者かは知らんがアーサー王であるご先祖ちゃんまで引っ掛かったって事は、絶対に妙なタネがあるぞコレ。

「その辺はどうなんスか? アシュラ先輩」

「バカモノ、俺の事はベティヴィエールと呼べぃ!」

 それはもういいから。

「ふん。彼奴(きゃつ)らが我々を誤認しているのは、将軍様が施した認識操作によるものだ」

「やっぱりその辺を(いじ)くられてますか。見たところ、聖都の戦力全体に施しているみたいですけど、どのようなカラクリなのでしょう?」  

「大したことじゃねぇ。奴等は全て獅子王、変質し現人神になったアーサー王に召喚された霊魂だ。だから将軍様は奴の因果を操作して、俺達を円卓の騎士だと誤認するように仕向けたのさ」

 うわっ、エゲツねえ!

 因果を操作とか、認識阻害なんてレベルじゃねーよ。

 それって同様の技術を持つ奴が戻さないと、永久にそのままだぞ。

「アーサー王は円卓の騎士、いやブリテンの中心だ。その因果を狂わせれば、奴に繋がるもの全てに影響が及ぶ。奴を依り代に現界している英霊はもちろん、奴と因果の深い人間もな」

「そっちのチビな騎士王がイカレたのは、同一存在かつ上位な獅子王の因果が弄られたからだな」

 思ってた以上にタネが酷かった件。

 けど、ウチのアーサーが影響を受けてないのはどうしてだ?

 因果を弄れられたのはアルトリア・ペンドラゴンであってアーサー・ペンドラゴンじゃないから、平行世界の子孫にまでは影響が及ばないとか?

「お答えくださって、ありがとうございます。しかし、低級とはいえ現人神の因果を操るなんて、よくそんなマネができましたね」

「カァーカカカカッ! その程度、将軍様にかかれば造作も無いわ!!」

「奴等はここに来てすぐに仲間内で殺りあったようでな、精神的にボロボロだったのさ。それを逆手に取って俺達を死んだ仲間だと思わせたら、拍子抜けするほど簡単に掛かったそうだぜ」

 『まったく、無様なこった!!』と、辺りに響く程に大笑する二体の悪魔超人。

 その形相は一度は正義超人の友情パワーに感化されたと思えないほどに邪悪に満ちている。

 しかし、また悪辣な手を打ったものだ。

 どうやら将軍様は久々に悪魔モード全開らしい。

 ん、何か思うところはないのかって?

 別にないぞ。

 ここがアーサー王が治めるブリテンだったなら、非難の一つでもするだろうさ。

 けど、ここは全く別の土地でこいつ等は現地の人達の聖地を乗っ取って、こんなもんをおっ建てた侵略者だ。

 挙句に貧窮した現地民を救済なんて餌で集めて、必要な人材以外を虐殺するなんて胸糞の悪い真似をやらかす始末。

 どこに同情する点があるよ?

 将軍様のやらかした事はエグいとは思うけど、これだって悪党がより強い悪にねじ伏せられただけの話だ。

 恨むなら力の足りない己を恨めって奴だな。

「姫島君!!」

 半ば悲鳴のような声に振り向くと、頭を抱えて座り込むマシュ嬢を介抱する立香嬢がいた。

「どうした、立香嬢?」

「その怪人達を見てからマシュの様子がおかしいの! そいつ等が円卓の騎士に見えるのを、必死に否定しようとしてるみたいで!」

 たしか、マシュ嬢は英霊をその身に宿したデミ・サーヴァント。

 アシュラ先輩達がそう見えるという事は、彼女と同化したのも円卓の騎士である可能性が高い。

 彼女が頭を抱えているのは、獅子王の因果の影響で歪められた認識をマシュ嬢のソレが拒絶しているが故か。

 しかし厄介な状況だ。

 一つの身体で二つの認識がぶつかり合えば、多重人格が生まれる切っ掛けにもなりかねない。

 原因が獅子王の因果ならば、こちらの取れる手は───

 舌打ちをしながら、俺はマシュ嬢に意識を集中する。

 アジュカの時と同じくその存在の中枢に意識を潜り込ませると、たしかに二つの魂が重なって存在していた。

 一つは傷一つない真珠色の魂、そしてそれと重なり合う様に在る傷だらけで色がくすんだ魂魄だ。

 前者がマシュ嬢、後者が融合したサーヴァントだろう。

 魂魄の中枢である霊核、そして最奥へと意識を潜らせてみると、互いに深く絡まり合った因果に突き当たる。

 綾取りのように複雑な因果の糸を辿ることしばし。

 ようやく認識を司る部分を探し当てた俺は、マシュ嬢との繋がりを切ろうとして手を止めた。

 この繋がりは果たして切って良いものか?

 英霊の方は融合の弊害なのか、自我というものがほぼ残っていない。

 しかし記憶や経験が消えたわけではないので、この繋がりを通して徐々にマシュ嬢へ落としこまれているのだろう。

 同時に獅子王の因果の影響を受けて、マシュの認識まで狂わせているのもこの部分である。

 こちらもデミ・サーヴァントがどういう物か把握しきれてない以上、ヘタに断ち切るのは拙い。

 となると封印措置しかないわけだが、果たしてうまくいくだろうか?

 ここで悩んでいても仕方ないので、とにかくやってみる事にする。

『マシュ嬢とサーヴァントの認識の境界がどこまでか』やら『封印がどこまで影響を及ぼすのか』等、面倒な調整をクリアして、何とかサーヴァント側の認識を封印することが出来た。

 術式が終了したので意識を戻してみると、頭を抱えたマシュ嬢が立ち上がる所だった。

『やっぱり彼等は円卓の騎士ではありません、先輩!』と立香嬢に訴えかけているのをみると、上手くいったようだ。

「ほう、将軍様と同じ術を使えるとはな。後継者に選ばれたのは伊達ではないか」

「もっとも、まだまだあの方には及ばねえみたいだがな」

「精進しますよ。ところで、将軍様はどうして貴方達を円卓の騎士に入り込ませたのですか?」 

「その理由は二つある。一つはノリ、というか演出の為だ」

「ノリ!?」 

 将軍様らしからぬ言葉に目を剥く俺に、アシュラ先輩は苦笑いで話を続ける。

「今回の件は『無限の闘争』初の異世界遠征だからな。あの方とて期待や遊び心が抑えられなかったのだろう」

「『初の』って事は、異世界に渡る機能は元から付いてなかったんですか?」

「知らなかったのか? あの世界は所有者であるお前の成長に応じて、機能が拡張されていくんだぞ」

「マジで!?」

「サバイバルツアーにしても、対戦後の武装の入手にしてもそうだったろう? 最近二度ほどお前が平行世界に飛ばされたのだって、今回の機能の試運転だ。異世界では先日の魔雲天のように、強力な力を持つ者の加護がなければ『無限の闘争』の恩恵は受けられないからな。比較的安全な場所に仲間と送って、お前が無事に帰ってくるか確認していたのさ」

 アシュラ先輩から明かされる事実に思わず呆然となる。

 冬木や平行世界に飛ばされたのもそうだったとは……

 今まで考えた事も無かったが、『無限の闘争』ってのは何なんだ?

「二つ目だが、こいつが本命だ。お前と闘うまで獅子王を護る為なのさ」

「獅子王を? それはどうして」

「お前、元の世界で神を殺るハメになったんだろ?」

 此方を見下ろしながら問いかけるサンシャイン先輩に、俺は肯定の意を返す。

「将軍様が言うには、神を相手どるには神を殺した事がある方が有利に立てるそうだ。こいつは経験の事を言ってるわけじゃねえ。神を殺したって事実が概念となり、そいつの攻撃を神の弱点へと変えちまうらしいのさ」

「俗に言う特攻という奴ですね」

「そうだ。だがお前さんは元の世界じゃあ、神殺しなんてそうそう体験できねえ。神官って職業や世界中から注目される立場がそれを許しはしないからだ」

 その通りだ。

 仮に現実世界で神を殺したとすれば、状況によっては世界中の多神勢力を敵に回す可能性もある。

「かと言って『無限の闘争』じゃあ本当の意味で神を殺した事にはならないから、いくら神を倒そうが概念は手に入らん。じゃあ、どうすればいい? 答えは簡単だ、他の世界で殺っちまえばいいのさ」

「成る程、そこで獅子王って訳ですか」

「その通り。奴さんはこの世界とは縁もゆかりもない異邦からの侵略者だ。始末したところで、誰にも迷惑はかからん」

 ニヤリと笑うサンシャイン先輩に、俺は思わず顔を引き攣らせてしまった。

 獅子王の扱いが、まるで食肉用の家畜である。

 いや、こっちにしてみれば至れり尽くせりだから文句なんて言えないのだが、それにしても哀れだ。

「そういうワケだから、我々は獅子王の身柄を確保しておかねばならん。なんせこの世界は東の砂漠にはエジプト史上最大のファラオ、山岳地帯には他のサーヴァントとは一線を画す死の具現と、奴を脅かす存在には事欠かん」

「その他にも神出鬼没のエイリアン共までいやがるしな。将軍様は円卓の馬鹿共では荷が重いと判断されたんだろうぜ。なんせ、奴等は俺達悪魔超人よりも仲が悪いと来てる。ランスロットの野郎なんて、もう裏切りの兆候を見せてるしなぁ」 

 吐き捨てながら、キャメロットに侮蔑の視線を送るサンシャイン先輩。

 正義超人の友情を否定してるけど、悪魔超人ってなんやかんや言って仲間思いだからなぁ。

 女やら人間関係で自滅した円卓に、思うところがあるのだろう。

「それ以外にも俺達が円卓の中にいれば、闘ってお前の力を試すことが出来る。将軍様が後継に指名したというのもあるが、お前は超人レスラーとの対戦経験が少ない。キン肉マン戦に備えて、それを補うという狙いもある」

「俺達はあの野郎と何度もやり合ってるからな、スパーリングパートナーとしては最適だ」

 ちょっと待ってほしい、これって一石何鳥の話だよ。

 ここまで計算してこの場所を用意したのなら、将軍様マジにパねぇわ。

 しかし、サンシャイン先輩は聞き捨てならない事を言わなかったか?

「ちょっと待ってください。サンシャイン先輩、エイリアン共は『無限の闘争』から現れたんじゃないんですか?」

「いいや。我々が来る時にあちら側の闘士が何人か出て行ったが、あんな化け物は送り込まれていない」

「無関係な一般市民に被害が出るのは、将軍様が最も嫌う事だからな。仮に出ようとしたとしても、あの方が見逃すわけがねえ」

「たしかに……」

 だとすると、あのレイザークロウはなんだったのか?

 虫共が現地発生したとしても、あんな変異種が自然に生まれるとは……

 いや、可能性はあるか。

 ここに来るまでの道程で、俺達は土下座エ門や神話そのまんまなキマイラ、シャドウビーストとかいう目が無く全身にモヤを纏った謎生物達に遭遇している。

 これらの生物が示すように、この世界の生態系が地球と大きく違っているならば、寄生した宿主の遺伝情報によって変化するという虫の特性上、レイザークロウによく似た種も生まれてもおかしくは無い。

 だとすれば、奴等はいったいどうやってこの世界に発生した?

「あの、姫島さん」

 そこまで考えを巡らせていた俺は、掛けられた声に思考を中断した。

「なんだ、マシュ嬢?」

「円卓の騎士の認識を狂わせたのは、お知り合いの方なんですか?」

「ああ。あっちのアシュラ先輩たちの大将で、俺の師匠」

 質問というより確認の色が濃いマシュ嬢の問いに、俺は肯定の意を示す。

「その理由は獅子王となったアーサー王を利用して、最後は殺すためなんですよね」

「らしいな。俺も今まで知らんかったけど」

「それに関して、君には何か思うところは無いのかね?」

 他の声に視線を巡らせてみると、困惑顔のマシュ嬢の横にアーチャーが厳しい表情で立っている。

「そうだなぁ……。武者修行の趣旨で考えれば妥当なんだが、至れり尽くせりすぎてちょっと過保護かなってとこか」

「……それだけかね?」

 返した答えに、アーチャーの声のトーンが一段下がる。

「それだけだよ。まあ、手段に関しては少々悪辣だなって思うけど、聖都の連中が現地の人にやってる事を考えたら同情する気は起きんわな」  

 こちらの言葉に、苦虫をダースで噛み締めたような顔で言葉を飲み込むアーチャー。

 騎士の手に掛かった難民の亡骸を前にしては、流石に言葉を続ける事はできないようだ。

「ねえ、姫島君」

 黙り込んだマシュ嬢達に代わって、声をかけてきたのは立香嬢だ。

「マシュを治したのって、姫島君なんだよね?」

「一応な」

「じゃあ、アルトリアとルキウスも治せないかな?」

 憂いを帯びた立香嬢の視線を追うと、頭を抱えるご先祖ちゃんと線の細い騎士の姿が。

 どうやら、俺とのやり取りも円卓の騎士本人が言っているように変換されているらしい。

 乗りかかった船という事で確認してみたが、出た答えは『無理』である。

 まずルキウスとかいうアンちゃんだが、優男な見た目に反して生き物として狂っていた。

 肉体や魂、果ては霊核に至るまで何もかもがボロボロ。

 まるで人間のまま千年以上無理やり生きてきたような酷い有様だ。

 ここまで魂が劣化すると成仏なんて絶対無理だし、それ以前に左手に装着されたヌァザ様の義手のパクリがなかったら、とっくに消滅してる。

 でもって、死人を通り越してる彼が生に執着しているのって、ご先祖様への忠誠と後悔らしい。

 だから、認識を阻害してる円卓という縁を封印すると消滅する。

 というか、この人って本物のベディヴィエールだったんだな。

 アシュラ先輩、もうちょっと騙る人間を選ぼうぜ。

 アンタとは一ミクロンも共通点が無いよ。

 一方のご先祖ちゃんだが、こっちは単純に獅子王の方が圧倒的に存在が強いから無理。  

 もし因果でこの辺を弄ったら、アルトリア・ペンドラゴンって大元から、ご先祖ちゃんの方が不要と判断されて斬り捨てられかねない。

 という旨を説明したら、立香嬢は納得して引き下がってくれた。

「さて、長々とお喋りしちまったな。それで、お前たちはどうするんだ?」

「どう、とは?」

「このまま俺達を倒して進むか。それとも尻尾を巻いて逃げ出すか、だよ」

 軽い挑発を交えるサンシャイン先輩に、俺は肩をすくめて見せる。  

「今回は退きますよ。有益な情報は貰えたし、攻めるにしても時間を掛けすぎた」 

 視線を後ろに飛ばして同行者の意思を確認すると、三蔵ちゃんは不満そうだが他のみんなは撤退に納得してくれているようだ。

 衛宮君や俵さんには、ここを離れてから色々と説明しなければならんだろうが、コレに関しては仕方が無い。

 カルデア組も、ダヴィンチちゃんを中心にして撤退の方向で話をまとめているようだ。

 まあ、アタッカーのご先祖ちゃんが不調なんだから、この判断は妥当だろう。

「そうか。なら、しっかり準備をして待つとしよう」

「次こそはお前の力、計らせてもらうぜ」

「その時は存分に胸を借りますよ」

 そう言葉を交わして、俺は城門に背を向けた。

「はい、皆の衆。そういう訳だから、撤収するぞー」

 そう言いながら走り出すと、ウチの面子が慌ててついてくる。

 よしよし、美猴の奴はちゃんと衛宮君達を筋斗雲に乗せてるな。

 あ、美遊嬢がスペアポケットから出てきた。

「ご主人様、どうして撤退を?」

 俺の横を並走しながら問いを投げてくる玉藻。

 息が乱れているところを見ると、けっこうマジに走っているようだ。

 もうちょっとしたら、おぶってやるか。

「ガウェインが伝令として返した粛清騎士達が聖都に入ってから時間が経ち過ぎた。間違いなく聖都内部の防備は固められてるし、討伐部隊もこっちに帰ってきてる。あのまま攻めたら、内外両方から挟撃される可能性が高い。俺達はそうなってもどうってこと無いけど、衛宮君や三蔵ちゃんはそうは行かないだろ」 

「なるほど、後はカルデアのマスターもいらっしゃいますからね」

「そういうことだ」

 玉藻の方に向けた視界の隅をゆらゆらと掠める尻尾。

 そういえば、以前に天照様が言ってたな。

 玉藻は尻尾が増えれば増えるほど、傾国(けいこく)の美女と言われた悪女モードになっていくとか。

 出会った時より四本も増えてるけど、今はどうなんだ?

「玉藻、ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「ハァハァ……、な……なんでしょうか」

 あ、そろそろ限界っぽいな。

 とりあえず念話で『おぶってやる』と伝えると、すぐに軽いものが背中に圧し掛かってきた。

「お邪魔します、ご主人様。汗でベタ付くかもしれませんが、ご容赦くださいね」

「気にすんな。それより前に天照様に聞いたんだけど、玉藻って尻尾が増えると悪女モードになるのか?」

 何気ない問いかけだったのだが、それを聞いた玉藻はビシリと固まってしまう。

「うぅ~、あの本体めぇぇっ! ご主人様に何て事を吹き込んでやがりますかぁぁぁぁぁっ!!」

「あ~、別に嫌なら答えなくていいんだぞ。悪女だろうがなんだろうが、玉藻は玉藻なんだから」

「ご主人様、なんて優しいお言葉! ですがご安心ください。この玉藻、尻尾の方は増えましたが、傾国モードにはまったくなっておりませんので!!」

 背中の上でフンスッと誇らしげに胸を張っているのがわかったので、何とか拍手を送っておく。

 尻尾の下から聞こえるような形になってすまぬ。

「それって、天照様が間違えてたって事か?」

「いいえ。普通であれば、本体の言うように傾国を司る悪女となっていたでしょう。ですが、此度は別です」 

 ふむ、別とな?

「はい。今回、私が傾国モードにならなかったのは、送り込まれたのがご主人様の氣だったからです」

「俺の氣が原因なのか? なんか特別な事したかな」

「やはり無自覚だったのですね。……ご主人様はこの数ヶ月で千を超える駒落しの呪をこなして参りました。その影響で他者に氣を送り込む時に、浄化の力を付与する癖が付いているようなのです。ですので、ご主人様の高純度で莫大な氣を浄化付きで送り込まれた結果、悪女モードは綺麗さっぱり無くなってしまったというワケです」

「それっていいのか? 玉藻的に」

「問題ありません。良妻狐としてはむしろバッチ来いです」

 釈然としないが、玉藻はいいのなら深く追求する必要は無いか。

 そう思い直して加速すると、今度は筋斗雲を横に付けて美猴が話しかけてくる。

「それで、次はどうするんでぃ?」

「ある程度距離をとったら、立香嬢に砂漠の様子を聞いてみる。『むこうに妙なものはなかったか?』ってな」

「ん、なにか探し物でもあるの? なんだったら私が御仏に聞いてあげようか?」

「仏さんに聞いて見つかるかな? 虫共の巣、もしくは発生源なんだけど」

「それを見つけ出して、お主はどうするつもりだ?」

 あんぐりと口を開ける三蔵ちゃんに代わって、俵さんの鋭い視線がこちらを向く。

 あ~、これは疑われてるなぁ。

 まあ、アシュラ先輩たちとあんだけ親しく喋ってたから、この辺は仕方ないけど。

 早いとこ事情を説明しないと拙いかもな。

「潰すよ。なんだかんだ言って、こっちの混乱に俺も一枚噛んでるみたいだからさ。偽善でもいいからボランティアでもしようかなって」

「ボランティアって、エイリアンの巣を壊滅させるのがですか?」

「ああ、前にも経験あるしな。一匹でも逃げたらアウトなんだけど、その辺はクイーンを半殺しにして人質にすれば兵隊どもは寄ってくる。そんなに難しいことじゃないさ」

 筋斗雲の上から問いを投げてくる美遊嬢に、俺は笑顔で答えてやる。

 あれ、美遊嬢?

 なんでそんなありえない人を見るような目を向けるのかな?

「た、たしかに、慎が主役になったらエイリアンもホラーから爽快アクションに変わるかもな」

「……衛宮君、フォローごっつあんです」

 なんて会話をしていると、後方に例の木製バギーが土煙を上げて走ってるのが見えた。

 どうやらカルデア組もこっちと合流するらしい。

 さて、どの辺りで説明したものか。

 などと頭を捻っていると、バギーのさらに後方から複数の氣を感じた。

 恐らくはさっき話題に上がっていた、外遊の討伐部隊だろう。

 奴等の足も特別せいなのか、結構な速度で走っているバギーとの距離をどんどん詰めていっている。

 このまま行けば、カルデア組が捕まるのは時間の問題だ。

 となれば、見捨てるわけにはいかない。

 軽く息をついた後、俺は地面を蹴って舞空術に切り替える。

「どうした?」

「カルデア組が聖都の討伐部隊に捕まりそうなんで、ちょっと支援してくる」

 宙を浮く俺の姿に目をむく衛宮兄妹や三蔵ちゃんを尻目にヴァーリにそう伝えると、みんな揃ってついてくると答えが返って来た。

 空路で来た道を戻っていると、騎馬隊を前に停止したバギーが見えてくる。

 立香嬢達は降ろされており、バギーの中にはダヴィンチちゃんのみ。

 状況からして、彼女の狙いは自爆特攻による時間稼ぎか。

 さすがにそれは容認できかねる。

 氣を放出する事で一気に加速した俺は、ダヴィンチちゃんがバギーを発進させる寸前でカルデア組に合流した。

「悪い、先行してた。それで状況はどうなってんの?」

「姫島君!」

『彼も来てたのか! よかった、理不尽と非常識の権化な慎君なら、この状況をひっくり返す事も不可能じゃないぞ!!』

「お久しぶりです、ドクター・ロマン。顔を合わせるなり罵倒とか、なんか俺に恨みでもあるんスか?」

『いやいや!? 恨みとか、そんなのまったく無いよ! さっきのだって罵倒というより純然たる事実───』  

「ドクターは黙ってってください!!」 

 通信越しでパニクりながらも墓穴を掘るという器用なマネをしていたロマン氏は、マシュ嬢の一喝で口を噤む。

「いやいや、助かったよ。私の一世一代の覚悟が無駄になったのには思うところがあるけど、その辺は今は置いておこう」

 そう言いながら、バギーから降りるダヴィンチちゃん。

 やっぱり自爆特攻するするつもりだったのか。

「さて、現在我々の前に居るのは聖都の騎兵約百騎。指揮するのは円卓最強の騎士ランスロット卿だ」

 ダヴィンチちゃんに釣られて、数百メートルの距離を置いて向かい合う騎兵たちに目をやる。

 ……なるほど、あそこにいる紫の鎧がランスロットか。

「たしかにズラズラとガン首並べてるみたいだねぇ。けど、奴等はなんで襲ってこないんだぃ?」

「……君達のせいだ。生身の人間が空を飛んだり、雲に乗って現れれば警戒するに決まっているだろう」

「貴方、その雲はいったいなんなのかしら?」

 やれやれと頭を振るアーチャーに、筋斗雲に興味津々のメディア女史。

 なんか緊張感なくなったな。

「こいつはオレッチのジジイから受け継いだ筋斗雲だぜぃ」

「美猴は私の一番弟子である孫悟空の孫なの!」

『孫悟空の孫!? それにそちらの女性は三蔵法師か!!』

 通信越しにテンションをあげるロマン氏とは裏腹に、ご先祖ちゃんとベディヴィエールの表情は暗い。

「王……」

「心配は無用だ、ベディヴィエール。たとえランスロットが獅子王に付いたとしても、私の為すべき事は変わらない」

 本人はこう言うものの、顔に影が射しまくっているのを見れば戦場に出すのは危険すぎるだろう。

「ご主人様、いかがなさいますか?」

「ふむ……」

 美遊嬢や立香嬢がいる事を思えば、あの数で一斉に突撃をかけられるのはキツい。

 美猴に任せて上空に避難という手もあるが、狙撃されるリスクを考えると実行に移すのは戸惑われる。

「ダヴィンチちゃん。今ってむこうから休戦を示されたり、降伏勧告の返答待ちなんかじゃないんだよな?」

「うん? そういった事は全く無いよ」

 よっしゃ、なら問題ないな。

 少々悪どい手だが、ここは安全策と行こうじゃないか。

「玉藻、少し離れててくれ。奇襲をかけてランスロット倒すから」

 周りの視線が集中したような気がするが、あえて無視して練り上げた氣を天空に放つ。

 こちらが拳を握ると、それを合図として上空に打ち上げられた氣は一斉に雷撃に姿を変えて騎士達を飲み込んだ。

 狂雷迅撃掌・広域殲滅型。

 以前からの課題であった広域殲滅技の不足を補う為に、『無ければ造れば良いじゃない』精神で開発した新バージョンだ。

 コンセプトはトール様が使っていたミョルニルの雷撃。

 実戦で使うのは初めてだが、百人単位を飲み込むのに氣の消費は1.5倍と結構コストがかさむようだ。

 まあ、この辺に関しては要改善といったところか。

 そんなこんなと思考を巡らせながらも、俺は降り注ぐ紫電に混乱する騎兵の中を駆け抜ける。

 むこうに取っては不意を付く形となった雷撃だが、休戦も何もしていないのだ。

 卑怯とは言うまいね?

 部隊の混乱を収めようとランスロットが檄を飛ばしているようだが、この状況で冷静になれる奴なんてそうはいない。

 阿鼻叫喚の(ちまた)と化した敵陣の中、雷撃により泡を吹いて倒れた馬から飛び降りるランスロットが目に映る。

 間合いを詰めるべく一気に加速するが、こちらに気づいたランスロットは夜の湖面のような蒼を帯びた聖剣を大上段に振り上げる。

「この程度で私の隙は突けんぞっ! 『縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)』!!」

 聖剣の全力を引き出したのだろう、奔流(ほんりゅう)と言っていいほどの蒼光を帯びた刀身が迫る。

 だが────甘いッ!!

「ば……バカなっ!?」

 聖剣の光が溢れる中、ランスロットの驚愕の声が耳を打つ。

 それもそのはず、鎖骨に食らい付くはずだった『無垢なる湖光(アロンダイト)』の刀身は、俺の両手に挟まれてピクリともしないのだから。 

 しかし、流石は最高の騎士と呼ばれるだけはある。

 あのタイミングで気づかれることはおろか、必殺技で迎撃されるとは思わなかった。

 むこうのスイングスピードがもう少し速ければ、傷の一つもついたかもしれん。

 まさに神技と言うべき一太刀だった。

 だからこそ、こちらも奥義で返さねばなるまい。

「フッ!!」

 鋭い呼気と共に腕を捻れば、こちらに引き付けられたランスロットの体が大きく泳いだ。

 必殺の一撃を防がれた事で呆然となった奴は、こちらの為すがままに体勢を崩す。

 そしてその隙を俺は見逃しはしない。

「食らえ、我が姉直伝の秘技──!!」

 剣の間合いから一歩前、クロスレンジに踏み込んだ俺は、サッカーのシュートの様に右足を大きく振り上げる。

「男殺しッ!!」

 そして一瞬の溜めの後、一気に足を振り抜いた。

 大気を斬り、余波で地面を抉った足の甲は、風を巻きながらランスロット足の間を通り抜けてその股間に直撃。

「~~~~~~ッッッ!!?」

 そのまま骨盤の辺りまでメリ込んで、その動きを止める。

 足を引き抜くとランスロットは白目を剥いて、舌をダランと出した状態でその場に崩れ落ちた。

『男殺し』

 朱乃姉が習得した男性特攻の必殺技だ。

 ただ全力で相手の『穢れたバベルの塔』を蹴り上げるという実にシンプルな技だが、男性諸氏知ってのとおり、男に対してこれほど危険な技は無い。

 男に取って『穢れたバベルの塔』は、最重要器官であると同時に最大の弱点でもあるからだ。

 そこに攻撃を加えられた際の苦痛は、ランスロットのザマを見ればよく分かるだろう。

 同じ男として使用するのは躊躇(とまど)われたが、こと死合においては禁じ手など存在しない。

 まあ、奴が持つ股間のアロンダイトはブリテン崩壊の引き金となったというし、ヘシ折っておけばご先祖ちゃんもニッコリだろう。

「ランスロット卿ぉぉぉぉぉぉっ!?」

「ランスロット卿のアロンダイトが折られたぁぁぁっ!!」 

「男のシンボルに容赦ない攻撃を……この悪魔めぇぇぇぇぇっ!!」

 生き残っていた騎士達からの熱い声を耳にしながら、俺はランスロットの襟首を掴む。

「この男の身柄は貰っていく! 二度と子作りできなくなっても構わんという奴は、助けに来るがいい!!」

 残った騎士達にそう宣告して、ランスロットを担ぎ上げる。

 一人くらいは襲い掛かってくると予測していたのだが、奴等はこちらの視線から全力で目を逸らしていた。

 円卓最高の騎士のカリスマを上回るとは……恐るべし、男殺し。

 

「というワケで、ランスロットを拉致って来たんだ」

「なにをやってるんですか、貴方はぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ランスロット! しっかりしてください、ランスロットぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 窮地を救った功労者の俺に待っていたのは、ブリテン関係者二名による熱い修羅場でした。

 ……解せぬ。

 

 なお、先ほどの男殺しはマシュ嬢には好評だったらしく、ランスロットを連れ帰った時には物凄くイイ笑顔でサムズアップされました。

        




 ここまで読んで下さってありがとうございます。

 色々考えてはみたものの、今回はあくまで武者修行なのでシンプルに行く事に。

 悪魔超人を名乗るなら、この位は非道にいかないとダメでしょう。

 あと、エイリアン・コヴェナント見ました。

 ネタバレは伏せますが、誕生の経緯がアレなのはちょっぴり残念。

 あとエイリアン本編とAVPはパラレルワールドなんスね。

 次回はオジマンと虫の巣がメインかな?

 さて、エイリアン、コマンドー、ランボー、プレデター等を鑑賞しながら用語集です。

 〉ダッチ・シェーファー少佐(出典 エイリアンVSプレデター)
 カプコン製傑作ベルトアクション『エイリアンvsプレデター』のプレイヤーキャラの1人。
 異星生物との戦闘を目的に改造手術を受けたサイボーグで、武器戦闘のエキスパート。
 第二次エイリアン掃討作戦の際に右腕を欠損したため、二度と武器を失わないようスマートガンと一体化した義手を装着している。
 映画『プレデター』の主人公であるダッチ・シェーファー少佐とは同姓同名であり、外見も主演の某州知事そっくり。
 しかし、大人の事情により設定上は別人である。
 キャラ性能は『ファイナルファイト』のハガーから定番のパワーキャラ。
 一撃の威力はプレイアブルキャラ最高であり、エイリアンを掴んで移動、そこからジャンプして投げが撃てる等のメリットがある。
 しかし『機動力が無い』『コンボが少ない』『対空技の下降がすきだらけ』等々の欠点がある為に、単機クリアを行うには最も難易度の高いマニア向けのキャラになっている。

〉ジョン・ランボー(出典 映画『ランボー・シリーズ』)

 シルヴェスター・スタローンの代表作『ランボー』の主人公。
 フルネームはジョン・ジェームズ・ランボー。
 サバイバル戦はもとより、兵器の取り扱いや肉弾戦、さらにはゲリラ戦においても超人的な能力を発揮する恐るべき戦士。
 元グリーンベレーで、ネイティブ・アメリカンの父とドイツ系アメリカ人の母を持つ。
 1作目では、戦争のトラウマと厭戦ムード真っただ中のアメリカで居場所を見つけることが出来ない現実に、もがき苦しむベトナム帰還兵だった。
 上記のワンマンアーミーっぷりは2作目以降である。

 今回はここまでとさせていただきます。
 では、次回にお会いしましょう。

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