MUGENと共に   作:アキ山

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 皆様、お待たせしました。
 第六特異点2話目です。

 資料としてプリズマイリヤの映画を観に行った所為か、妙に筆が進んでしまった。

 まあ、話の方はあまり進んではいないのですが。

 後3話くらいで終わればいいかなぁ。

 FGO 

 初期にあった英雄王のご厚意以来の☆4鯖配布。

 これはバサクレスの宝具を上げるチャンスか。

 新鯖を貰ってもいいけど、種火は嫁王に使ってないんだよなぁ(涙)
 
 新鯖にするなら、黒王か乳上、剣スロかな……
 
 あ、復讐者いないから新宿ワンコも可。 
 


閑話『獅子王・地獄変(2)』

 皆様、秋の夜長をいかがお過ごしでしょうか?

 私、姫島慎はカプセルハウスの前で、難民の炊き出しに大忙しです。

 

 ……あの後は大変だった。

 こっちの姿を見た途端に物凄い絶望の表情を浮かべたご先祖ちゃんは、それでも腰が引けた体勢で剣を構えてこちらを威嚇してきた。

 まあ、カルデアを向こうに回す気は無かったのでホールドアップしてやると、今度はこちらの話も聞かずにでトリスタンを解放しようとし始めた。

 さすがにそれは拙いので慌てて止めると、その間にカルデアの面々も合流。

 事の成り行きを見守っていたハサンも、ご先祖ちゃんの行動+謎の乗り物(バギー)に乗った増援を見て、『聖都の増援かッ!?』って立香嬢達に詰め寄り始めた。

 そんなこんなで揉めていたら、今度は紛れて虫共が襲撃かけてきた。

 虫共見るのは初めてだったらしく、『アイエエエ!?』『エイリアン!? エイリアンナンデ!?』『コワイ!』と混乱するカルデア組。

 立香嬢やマシュ嬢は大目に見るとしても、アーチャー、お前まで混乱してどうする。

 そんな同行者とは裏腹に『ピクト人、ゆ゛る゛さ゛ん゛!!』と、ご先祖ちゃんはブッ込みをかけていく。

 ブリテン人はエイリアンがピクト人に見えるのはデフォなのか?

 まあ、唯一の救いはダヴィンチちゃんが冷静だった事だろう。

 あの虫共は知恵が回るらしく、俺達ではなく率先して難民を狙ってきやがった。

 強酸の血液があるから至近距離で仕留める訳にもいかず、一々難民から引き剥がすのが滅茶苦茶面倒だった。

 率先して避難誘導してくれたダヴィンチちゃんとハサンには、本当に感謝である。

 余談だがご先祖ちゃんの風王結界って、強酸の血液対策だったんだな。

 あの風のお陰で刀身は劣化しないし、接近戦をしても返り血を浴びずにすんでた。

 しかし、あんな技術が開発されているところを見ると、ピクト人=エイリアンは事実なのかもしれない。

 とまあ、そんな訳で美猴とヴァーリ、途中で復帰したアーチャーも加えてなんとか犠牲者無しで撃退に成功したのだが、一息ついて岩場を見てみれば今度はトリスタンを初めとした騎士達の姿が無いときた。

 ハサン達はどさくさ紛れに逃げたと思っていたようだが、奴等を拘束していた鎖が溶け千切れていたのを見ると虫共に連れて行かれた可能性が高い。

 英霊から虫が孵化するのかは不明だが、プレデリアンならぬトリデリアンが生まれないことを祈ろう。

 虫共に襲撃された後では流石に揉める気にならなかったらしく、双方共に大人しくなったところを見計らってカプセルハウスに連れてきた。

 幸いにもハウスの方は襲撃されてはいなかったようで、出迎えてくれたアーサー、俵さん、そして玉藻はこちらの無事を喜んでくれた。

 出てこなかった三蔵ちゃんと美遊嬢は夢の中。

 衛宮君も妹に付き合って床についているらしい。

 で、ようやく本来の目的である情報収集の開始である。

 カルデアの目的は、冬木と同じく人理修復の為にこの時代にある聖杯を回収すること。

 しかし、肝心の聖杯は砂漠のピラミッドに住むオジマンディアスというファラオが所有しており、手が出せないらしい。

 そこでこの世界の状況をさらに探り、あわよくば戦力アップを行いたいんだそうな。

 次に煙酔(えんすい)のハサンを初めとした難民の皆さんだが、円卓の騎士やエイリアンから食うや食わずで逃げていた彼らは疲労困憊であり、話をする余裕も無かった。

 情報云々に関しては英霊のハサンがいるので何とかなるが、へたり込んだ難民を放置するのは気が引ける。

 という訳で、俵さんと玉藻の協力によって炊き出し大会が行われたのだ。

 いや、本当はここまでする気はなかったのよ。

 けど、4歳くらいの子供に涙目で『おなかすいた』って言われてみ?

 そら、人として見捨てられないって。

 その子には柔らかい菓子パンをあげたんだけど、そうなれば他の奴も要求してくるわな。

 普通なら40人もの人間に食わせる備蓄は無いけど、今の俺たちには俵さんがいる。

 彼も貧窮(ひんきゅう)している民達を見捨てる事は出来ぬと、快く食材を提供してくれた。

 で、消化のことも考えて雑炊を作る事になったのだが、ここで活躍したのが冬木のアーチャー。

 衛宮君以上の料理の腕を見せ、難民達に次々と栄養満点の食事を提供したのだ。

 あと、ご先祖ちゃんは自重しろ。

 それは難民の為の食事であって君のではない。

 4杯目をお替りに来た時は、思わずチョップをくれてしまったではないか。

 さて、みんなの腹もくちくなったところで、難民の代表であるハサンの話に相成った。

 ハサン自体は山岳地帯の集落を拠点にしている山の民で、他の難民は元々この地に住んでいた人達らしい。

 それが、ある日いきなり西側はエジプトもかくやの砂漠地帯となり、十字軍を名乗る騎士達に占拠されていた聖地もあの白亜の城塞都市に姿が変わってしまった。

 異変はさらに続き、肥沃だった土地は見る見るうちに死に絶えた荒野へと変貌。

 その所為で生活が立ち行かなくなった彼等は、難民として聖都に助けを求めた。

 砂漠の方へ行く者がいなかったのは、あそこには人喰いのスフィンクスが放し飼いにされており、ピラミッドのある場所にたどり着くことができないからだとか

 次に問題の聖都だが、聞いた話によると入居を求める難民に対して聖抜(せいばつ)という儀式を行っており、それに合格した者は都市に入ることを許される。

 そして不合格だった者は、その場で都市を警護している騎士達に抹殺されるというのだ。

 煙酔のハサンが連れていたのは、その虐殺からなんとか逃げ延びた人達らしい。

 これを聞いたウチの面子のコメント。

 

 サル「とんでもなく怪しいねぇ。こいつはピラミッドより先に手を打っておいた方がいいんじゃないかぃ?」

 

 ヴァーリ「俺はこの世界のことには興味は無いが、聖都とやらには騎士がいるのだろう? ならば多少は歯応えのある奴がいるかもしれん」

 

 俵さん「保護すべき者を選別するのはよい。民の全てを救うなど、御仏でも困難な無理難題ゆえな。しかし、振るい落とされた民を手に掛けるのは許されん」

 

 玉藻「聖抜ですか。なんだか尻尾の辺りにいやぁな予感がビンビンします。あそこの主は妙なものを拗らせてる可能性が高いみたいですから、早めに処理したほうがよろしいかと」

 

 なんと満場一致で聖都攻めである。

 なんという脳筋思考だろうか。

 とはいえ、この意見を無碍にするわけにも行かない。

 ヴァーリは平常運転だから置いとくとしても、俵さんや玉藻までもが攻めを推すのだからこれは何かあると考えたほうがいい。

 ちなみに俺の意見は『聖都の門番は最強の騎士らしいので、武者修行中の身としては手合わせせざるを得ない』だ。

 お前も脳筋? 

 はははっ、何を今更。

 

 

 

 

 俺、衛宮士郎がこちらとは違った異世界人、姫島慎の世話になって1日が経った。

 昨日の夜に何かあったのは知っていたが、この世界に来てすぐにエイリアンに襲われたせいで、美遊は一人で眠れなくなってる。

 助けられた身で申し訳ないと思ったが、美遊の面倒を見るために昨日は早めに休ませてもらったんだ。

 

 元の世界でジュリアンに(さら)われた美遊を取り戻す為に聖杯戦争に勝利した俺は、戦争で手に入れた7枚のクラスカードと美遊の力で、あの子が狙われる事のない、幸せを掴める世界に送ろうとしていた。

 これは美遊の願望機としての力を使って、『滅びる定めの人類を救う』というジュリアンとエインズワースの悲願を砕く行為。

 そして同時に、俺がずっと抱き続けて来た養父衛宮切嗣から託された『世界を救済する』という理想を捨てる事でもあった。

 ああ、わかってる。

 これは人という種から見れば、この上ない裏切り。

 まさに『悪』と言っていいだろう。

 でも、妹の幸せを、美遊が笑って暮らせる生活を送る事を望むのが『悪』だというのなら、

 ────俺は『悪』でいい。

 そう覚悟を決めて送り出したのだが、俺はまた間違えていたらしい。

 願いが叶う瞬間、転移の為に美遊の周りに張られた結界にあの子は俺を引き込んでしまったのだ。

 結果、エインズワースの刺客であるギルガメッシュのカードを持つ女の攻撃を受けることになった。

 幸い結界は無傷だったが、そのショックの所為で転移は失敗。

 俺達は本来行くべき世界ではなく、この荒れ果てた世界へと飛ばされてしまったのだ。

 神話の神獣であるスフィンクスや絶望した異常者、さらには映画の中の怪物であるエイリアンまで跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する世界で、俺は美遊を護る為にガムシャラに戦った。

 聖杯戦争で俺が我が身に降ろしていた英霊は、平行世界の俺自身の未来である『英霊エミヤ』。

 お陰でクラスカードが無くても、ある程度ならその力を振るう事が出来た。

 その代償が自身の身体を英霊へと置き換える事だとしても、俺には後悔は無かった。

 そうやって何とか襲撃者は撃退できたのだが、この世界の過酷な環境は聖杯戦争のダメージが抜けきっていない俺や子供の美遊には厳しかった。

 砂の中で行き倒れ、せめて美遊だけでもと思いながら意識を失った俺は、この世界で行われている聖杯戦争に参加している英霊と、俺達とは違った平行世界の旅人である姫島慎に助けられたんだ。

 

 

 

 

 

 窓から聞こえる騒がしさに目を覚ました俺が外に出てみると、玄関辺りで人だかりが出来ていた。

 俵さんに事情を聞くと、この世界で生まれた難民だという。

 言われてみれば切嗣と一緒に世界を回っていた時、内戦の地で見た現地の住民に雰囲気が似ていた。

 あと、彼等を先導していたのは多分アサシンのサーヴァントだと思う。

 桜の兄貴がインストールしていた姿に少し似ていたし…。

「お。起きたか、衛宮君」

 ぼぅっと難民たちの様子を見ていると、ビニール袋に詰められた何かを配っていた慎が話しかけてきた。

「おはよう。それと昨日は悪かった」

「いいさ、事情は玉藻から聞いた。美遊嬢の為なら仕方ないさね」

 こちらの謝罪に気にするなと返しながら、袋を手渡す作業を続ける慎。

「そう言えば、それってなんなんだ?」

「ん? ああ、弁当だよ。中には焼きおにぎりが三つと、ペットボトルに水が入ってる。この人達は山の上の集落に行くらしいから、道中飯が無かったら困るだろ」

「けど、40人くらいいるぞ。そんなに配って大丈夫なのか?」

「俵さんから食材は提供してもらってるからな、備蓄については大丈夫だよ。それより朝飯まだなんだろ? むこうで炊き出ししてるから貰ってきなよ」

「ああ、わるい」

 慎に促されて示された場所へ移動した俺は、そこにいた人物に思わず足を止めた。

 紅い外套と黒い胸当ての上にエプロンを付け、一心不乱に鍋を振るう白髪の男。

 桜から託されたクラスカードで契約を結んだ、平行世界における俺の可能性。

 『英霊エミヤ』

 …………ここまで調理が似合う男だとは思わなかった。

 いや、平行世界とはいえ俺なんだから、料理が出来るのは当たり前なのか?

「待たせたな。出来立てだ、早く持っていき─── 貴様は」

「すまない、一つ貰うよ」

 むこうも俺の事に気づいたのだろう、微かに浮かべていた笑みが消えて顔が強張っている。

「……随分と(いびつ)な姿だな。理想の為と分不相応な力に手を出したツケか、それは?」

 不機嫌さも言葉の棘も隠そうとしないエミヤに、ジュリアンを思い出して思わず苦笑いが浮かぶ。

 きっと、この『エミヤシロウ』は切嗣の理想を捨てずに体現し続けたんだろう。

 あの時、美遊を選ばなければ、俺も彼のようになっていたのかもしれない。

「……理想は捨てたよ。今の俺にあるのは、誓いだけだ」

「誓いだと?」

「ああ。妹を幸せにするというな」

 鋼色の瞳に猛禽類を思わせる鋭さを宿し、こちらを見据えるエミヤ。

 聖杯戦争で戦った魔術師とは一線を画す強烈な威圧感がこちらを襲うが、俺はそれを真っ向から受け止める。

 ここで目を逸らしたら、あの大空洞で選んだ答えを嘘にしてしまうような気がしたからだ。

 彼が切嗣のような『正義の味方』ならば、『悪』である俺は逃げるわけにはいかない。

「……ふん、覚悟だけは一人前か。小僧、話を聞かせてもらうぞ」

 エプロンを外して玉藻さんに声を掛けると、エミヤはロッジの裏に歩いて行く。

 彼に付いて行った俺は、人影が無くなったところで元の世界での事をすべて話した。

 彼が、玉藻さんが言っていたような聖杯を求める英霊である可能性を思えば、美遊の特性は伏せるべきなのだろう。

 だけど、クラスカードを通して彼の力を借りなければ、俺は聖杯戦争を勝ち抜く事も美遊を助ける事も出来なかった。

 だからこそ、彼には嘘はつけない。

 これを聞いて彼が美遊を狙うようなら、俺が命を懸けて止める。

 それが、一方的とはいえ協力を仰いだ俺のケジメだ。

「……なるほど。そうしてお前は借り物の理想を棄てたわけか」

「そうだ。切嗣には悪いが、俺は人類の為に美遊を犠牲には出来ない。それが『悪』だと言うのなら……俺は『悪』で構わない!」

 魔力回路を起動させながら、俺はエミヤを睨み付ける。

 もし彼が敵対したのなら、美遊からの魔力供給を失った今の俺がどれだけ保つか分からない。

 それでも────

「そう警戒するな。こちらにお前を害そうという気はない」

 臨戦態勢を取るこちらを見ながら、エミヤは皮肉げに口元を吊り上げる。

 ……なんか非常にムカつくな、あの顔。

「衛宮士郎が自ら『悪』を名乗る、か。こんな可能性もあるのだな。……手間を取らせたな、もう行っていいぞ」

 しっしっ! と犬猫を追い払うような仕草にイラッと来たが、俺は彼の言葉の通り(きびす)を返した。

 最初に何を呟いていたか聞き取れなかったが、大したことじゃないだろう。

「ああ、最後に一つ忠告しておいてやる」

 小屋の角を曲がろうとしたところで、再び掛けられた声に俺は足を止める。

「その力はもう使うな。自覚があるようだが、貴様の身体は力を使えば使うほど、英霊のそれに置き換えられていく。今のままなら問題は無いが、それ以上進めば待っているのは破滅だけだぞ」

「わかってるさ。けど、忠告はありがたく受け取っておくよ」

「……憶えておけ。自己犠牲ほど、残された人間にとって残酷なモノは無い。真に妹の事を思うのなら、そんな考えは捨てることだ」

 真剣味の増したエミヤの声を背に、俺は再び歩みを進める。

 わかっている、わかっているさ。

 けど、それに関しては確約はできない。

 もう失わない為なら、美遊を護る為なら───俺は何度でもこの力を使う。

 エミヤと別れて玄関先に歩を進めていると、白銀の鎧を纏った金髪の少女がいた。

「……シロウ、なのですか?」

 こちらを見てエメラルドグリーンの目を見開く彼女を、俺は知っている。

 アーサー王。

 聖杯戦争でジュリアンの父親の人格を置換(ちかん)された人形が宿していた、セイバーのクラスカードの接続先。

 そして、エミヤが英霊に至る分岐点となった女性だ。

 彼の力を使う中で垣間見た記憶では、他の事は磨耗して朽ち果てかけていても、彼女の事は黄金の光と共に鮮烈に残っていた。

「すまない、俺は貴方の知っている衛宮士郎じゃない。貴方の事は知ってはいるけど、俺と貴方は出会わなかった」

 だからこそ、俺は彼女と関わってはいけない。

 彼女にとって衛宮士郎は『理想を背負った正義の味方』であって『理想を捨てた悪()』ではないのだから。  

「……そうですか」

 ほんの少しだけ寂しそうな表情を浮かべる彼女の隣を、俺は言葉もなく通り過ぎる。

 俺にはもう『黄金の理想』は不要なのだ。

 玄関先に戻ると、美遊がおにぎりが入った袋を手にキョロキョロと辺りを見回していた。

 こちらを見つけると、不安げな顔を笑顔に変えて思いっきり飛びついてくる。

 犬みたいだと思ったのは内緒だ。

「おはよう、美遊。今日はずいぶんと甘えん坊だな」

「起きたらお兄ちゃんがいなかったから不安になって……」

「俺は何処にも行かないよ。──そうだ、朝飯まだだろ? そこで一緒に食べよう」

「うん」

 玄関前のテラスに開いたベンチがあったので、そこで美遊と二人で貰ってきたおにぎりを頬張る。

「おいしい!」

 表情を輝かせる美遊とは裏腹に、俺は思わず頬を引きつらせてしまう。

 俺と似た味付けなのに俺より美味い。

 向こうの方が年を重ねたんだから、そうなるのは当たり前なんだが……何だろうか、この敗北感は。

「どうしたの、お兄ちゃん?」

 不思議そうにこちらを見上げる美遊に、慌てて表情を取り繕う。

「いや、大したことじゃないんだ。さっき爺さんと似た人とあったからさ」

「切嗣さん?」

「ああ。それで再確認したんだ、俺は『正義の味方』じゃなくて『美遊のお兄ちゃん』になるんだって」

「……いいの?」

「もちろん。それより、ここの人たちはどうだ?」

 不安げな表情を浮かべる美遊の頭を撫でながら、この子が余計な気を回さないように話題を変える。

「良い人達……だと思う。今日も私の事を心配してくれてたし、ご飯を取ってきてくれたのは慎さんだから」

 それは同感だ。

 行き倒れてたところを助けた上に、ここまで親切に世話してくれているのだ。

 悪い人間なワケがない。

 美遊の事だって『神様の権能で願いを叶えるんだろ? じゃあ天照様に頼んだほうが早くね』とか言って、興味無しだったし。

 というか、何でそんなに神様と親しそうなんだよ。 

 ……俺のツッコミは置いとくとしよう。

 それに、この世界の危険性を考えるなら彼らといたほうが絶対に利口だ。

 神獣や英霊、エイリアンの(うごめく)く魔境を俺達だけで生き抜くなんて、どう考えても不可能だろう。

「ただ……」

 思考に嵌まり込んでいた俺は、ポツリと呟いた美遊の一言に我に返った。

「何か気になる事でもあるのか?」

「自分でもよく分からないんだけど……疲れるくらいビックリする? ような気がする」

  しきりに首を傾げながら、美遊は自分の感じた事を口にする。

 

 後にこの予言が大当たりするとは、この時の俺は夢にも思っていなかった。

 

 

 

 

 美遊との朝食を終えてから数時間が経った。

 難民達は慎が分け与えた食料を手に山の方へと旅立って行った。

 俺が関わる事は殆ど無かったけど、どうか目的地にたどり着いてほしい。

 エミヤとアーサー王は仲間と共に、木で出来たバギーの様な物で出発した。

 彼等は聖都と呼ばれる都市に向かうとの事。

 むこうの責任者である藤丸さんは一緒に行ってほしそうだったのだが、慎達はやんわりと断っていた。

 理由を聞いたところ、敵に回った円卓の騎士をボコボコにしているところをアーサー王に見られたのだとか。

 なるほど、そんな事があったのなら同行するのは気まずいだろう。

 『俺達の次の目的地も聖都だから、現地で合流すればいい』と慎は笑っていたが、そう上手くいくのだろうか?

 さて、俺達の出発が最後になっているわけだが、その理由は美遊にある。

 慎曰く、次に行く聖都は昨日敵対した円卓の騎士の根城なので、戦闘になる可能性が極めて高いらしい。

 当然、『そんな修羅場に妹を連れて行くのか!』と噛み付いたのだが、その後にされた説明で俺は矛を収めざるを得なかった。

 美遊をそんな場所に連れて行くのは、彼等も本意では無い。

 本当ならここで留守番をしておいて欲しいが、この世界にはエイリアンがいる。

 自分達が留守の間に襲われては、美遊と俺では危険が高すぎる。

 英霊の二人を残したとしても、群れで襲撃されては自衛できても美遊を護れる保証は無い。

 ならば、十分な用意をしたうえで同行させた方が安全では無いか、と言うのだ。

 たしかに、彼等の言う事には一理ある。 

 本音を言えば、聖杯戦争みたいな血生臭い場所に美遊を連れて行くなんて、死んでも御免だ。

 でも、それがあの子の身を護る一番の方法だと言うのならば……

 結論として俺は慎達の提案を飲んだ。

 元の世界で親友であるジュリアンに裏切られたので、彼らを信じるには酷く勇気が要った。

 心とは別に何度も猜疑心(さいぎしん)が沸いたが、今まで世話になった事を思い返す事でねじ伏せた。

 俺の返事を快く受け入れてくれた慎達は、『ならば美遊嬢が自衛できるような道具を出そう』と、何故か携帯端末をいじくり始めたのだ。

「なあ、なんで携帯を弄ってるんだ?」

「この端末はな、俺達の元の世界にある倉庫に繋がってるんだよ。だから、こいつで呼び出せば──」  

 慎が軽快な指使いで画面をタップすると、床に淡い光が立ち上った後で和服が現れた。

「とまあ、こんな風に品物を転送する事ができるんだ。そいつは衛宮君にやるから、美遊嬢に着せてやってくれ。そんな薄手のドレスだと外の移動は大変だからな」

 そういえば、美遊の格好は助け出した時に着ていた黒のドレスのままだった。

 着替えるように美遊に手渡して待つ事数分。

 寝室から現れた美遊は、何故か巫女服姿だった。

「サイズの方はOKだな。妹のお下がりなんだけど、違和感とか無いか?」

「いえ、大丈夫です。着ているとポカポカ暖かいし、何かに護られてる気がするから」

「そいつには日本中の神様が、護身用の呪をテンコ盛りで仕込んでるからな。バズーカの直撃くらいなら無傷で耐えるはずだぞ」

 なんだ、そのトンでも性能!?

「本体に月読、ウズメちゃんや道真さん。げっ、将門さんにスサノオのモノまである。よくもまあ、これだけの加護を集めましたね」

「神職の研修の時に日本中を飛び回ってたからな。行く先々で加護を授けてもらうように頼み込んだんだよ」

 日本神話のメジャーどころの名前がポロポロ出てくる事に、思わず頬が引き攣ってしまう。

 これって、もしかしなくても凄い物なのではないだろうか?

「気にしない、気にしない。妹が入らなくなってから倉庫の肥やしになってた代物さ。誰かに袖を通してもらうなら、そいつも幸せってモンだよ」

 軽い慎の言葉に、俺も強張った身体から力を抜いていく。

 しかし、それは途轍(とてつ)もなく甘い判断だった。

「ふむ、このパワーローダーというのはどうだ?」

 ヴァーリさんの言葉と共に外に現れる、『エイリアン』の映画そのまんまのパワーローダー。

 突如として現れた無骨な鉄の人型に、俺と美遊は固まってしまう。

「よく見ろ、ヴァーリ。こいつの対象年齢は18歳以上、嬢ちゃんにゃ大きすぎる。それよりもこっちはどうだぃ? クロウカードっていう魔法のカードなんだけどよぅ」

 美猴のダメ出しと共に床に現れるのは、クラスカード7枚分に負けず劣らずの魔力が篭った一冊の本。

 ヤバい、この本はヤバすぎる!

「ダメだな。使いこなす為には、一度カードをばら撒いてから集め直す必要があるんだと。……さすがに仮面ライダーの変身ベルトはヤバいよなぁ」

 慎はそうのたまった後に出てきたのは、銀色のアタッシュケース。

 中には折りたたみ式のガラケーと大き目のベルト、デジカメに双眼鏡が入っている。

 ……ちょっと待って欲しい。

 今、奴は何と言った?

 カメンライダー、仮面ライダーだ!

 男の子なら誰しもが憧れるヒーロー!

 もちろん、俺だって憧れた!! 

 それになる事ができるベルトがこれだというのか!?

「マジで本物なのか!? 貸してくれ、俺が使う!!」

「いいのか、衛宮君? ベルトに適応できなかったら灰になって死ぬらしいけど、このカイザ・ギアって」

「呪いのアイテムかよ!?」

 ……思わず掴んだベルトをブン投げた俺は悪くない。

 そんな感じでワチャワチャとやりあう事、しばし。

 武装練金という武器に変形する謎の角ばった金属や、ヤヴァイオーラをビンビン感じる魔法少女の杖(なんでも豪血寺って一族が使っていた物らしい)。

 果ては強殖装甲ユニットとかいう、宇宙生物と融合してバイオヒーロー[生体兵器]になる代物まで。

 カオス極まりないアイテム郡が続く中、投げやり気味に美猴さんが出したのは半月状の白い布だった。

「なんだ、これ?」

 手に取って伸ばしてみるが、特に変なところは見当たらない。

 魔力もゼロだ。 

「ドラえもんのスペアポケットだってよ」

 …………なんでさ。

 呆然と固まっていた俺は、袖を引っ張られる感覚で再起動を果たした。

 見れば、物凄く目をキラキラさせた美遊がスペアポケットに熱い視線を送っている。

 ああ、そういえば好きだったよな、ドラえもん。

「お兄ちゃん! 私、これにする!!」

 熱意に負けてポケットを渡すと、美遊はとっても嬉しそうに緋袴の上に貼り付ける。

「凄いよ、お兄ちゃん! 本当にどこでもドアがある!! それにタケコプターも!!」

 普段の大人しさもどこへやら、大はしゃぎする美遊に和んでいると、ふとある疑問が浮かび上がってくる。

 美猴さんはどこでこれを手に入れたのか?

 疑問に思って聞いてみると、美猴さん曰く『のび太と闘って』得た戦利品らしい。

 孫悟空の孫がのび太と闘う?

 どんなシチュエーションだ、それ?

 頭に疑問符を浮かべまくる俺を見かねた美猴さんは、携帯端末である動画を見せてくれた。

、小さな画面の中に映っているのは、美猴さんとどう見ても『のび太のコスプレをした怪しい変態』だった。

 側転や地面を滑るような動きから蹴りや肘を出し、目から怪光線まで放つコスプレ男。

 なのに、声だけアニメののび太と同じというカオスッぷりに、一緒に見ていた美遊はもう半泣きだ。

 そして奮戦むなしく地面に沈んだ美猴さんを見下ろした男は、恐ろしいほど醜悪な表情を浮かべて一言。 

『ボク、勝ったよぉ(ゲス顔)』

 ドラえもん屈指の名台詞に何たる冒涜。

 これはもう訴訟物だろ。

 というワケで、美遊を泣かせた罪によって美猴さんの昼のおかずを一品減らしたのは、妥当な判断だろう。

 それと、ヴァーリさんの倉庫に入っていた武装練金『シルバースキン』は、俺が使う事になった。

 攻撃の面は投影で何とかなるが、防御力は普通の人間と変わらないからだ。

 ならば道具で底上げするのは当然だろう。

 『武装練金!』の掛け声で金属製のコートを(まと)うのが、変身ヒーローぽくて気に入ったのは内緒だ。

 こうしてアイテムの選別も終わり、遅めの昼食を取っていると三蔵法師が起きてきた。

 昼ご飯をねだる彼女に取って置いた彼女の分を渡し、あれこれと片付けた俺達が出発したのは太陽が(かたむ)き始めた頃だった。

 俺と美遊は美猴さんの後ろで筋斗雲に乗り、他のみんなは徒歩である。

 並の車など比べ物にならない速度で飛ぶ筋斗雲に全員が平然とついてくるのは、呆れればいいのか驚けばいいのか判断に迷うところだ。

 とはいえ聖都までの道程は遠く、たどり着いた時には夜になっていた。

 最初に聖都を目にして度肝を抜かれたのは、聖都を囲むように広がる難民キャンプさながらの光景だ。

 聖都の城壁に沿って仮設のテントや布製の敷物(しきもの)が所狭しと並び、埃や泥の塗れた難民達が犇めき合うようにして暮らしている。

 治安など在って無いようなモノらしく、俺達が来た時にはそこら中で怒号や悲鳴が立ち上っていた。

「こいつは凄ぇ人だねぇ」

「何処もかしこも難民で溢れかえってますね」

 城門を目標に外壁に沿って移動しながら、アーサーと美猴は周りの人の多さに閉口している。

 そうやってしばらく歩いていると、外壁よりも一層輝きを放つ純白の門が見えてきた。

 あれが聖都の城門だろう。

「そうそう。あれが聖都の門よ」

 まるで観光ガイドのように、三蔵法師が城門に指を差す。

「法師様、ここに来たことがあるんですか?」

「ええ。少しの間だったけど都の中ですごしたわ」

「おいおい。そんな話は聞いてないぜぇ、三蔵ちゃんよぉ」

「美猴、私の事はお師匠様って呼びなさいっていったでしょ! というか、聖都の話なんてしてたの?」

「そういえば、その話の時は貴女、ぜんぶ眠ってましたね」

「うっ……。それは私が悪いんじゃなくて……そう! 間が悪かったのよ」

 玉藻さんの指摘によく分からない答えを返す三蔵法師。

 昨夜といい今朝といい、タイミングが悪かったのは確かだろうな。

「それで、その聖都とやらはどうだったのだ、三蔵?」

「ん? 良い街よ。治安も良いし、皆は飢える事もない。正しい王様の統治の下、善良な人たちが暮らす街ね」 

「ほう、俗に言う理想郷と言う奴か」  

 感嘆の声を漏らす俵さんとは裏腹に三蔵法師の表情は晴れない。

「そう言っても良いかもね。でも、私は好きになれなかったなぁ」 

「それはどうして?」

 気づけば俺は三蔵法師に問いを投げていた。

 誰もが苦しまず、悲しまない。

 それはある意味で切嗣が目指した世界だったからだ。

 だからこそ、それを見て否定的な意見を出す彼女の真意を聞いてみたかった。

「だって、あの都は正しい事しかなかったんだもの。王は正しい、騎士も正しい。市民も、動物も、建物の立ち方から果ては空気まで。そんなの、息がつまっちゃうでしょ?」

「それって悪い事なんですか?」

「悪くは無いわ、美遊ちゃん。でもね、私は思うのよ。人間は善悪あって始めて人間足りうるって。悪の誘惑に打ち克つ、もしくは悪行を為しても悔い改める事で徳が溜まる。そして、悪を知るからこそ為す善行が意味を持ち、悟りの道へと繋がる。正しい事しかない街じゃ徳も悟りも得られないもの」

「善悪あって始めて人間、か……」

 ジュリアンが言っていた。

 美遊と兄妹になろうと決める前の俺の笑顔は偽者だったって。

 なら、俺は正義の味方の理想を捨てた時に初めて、人間になれたのかもしれない。

 そんな事を考えていると、夜闇に包まれていた周囲が突然明るくなった。

 空を見上げると、今日の役目は終えたはずの太陽が煌々(こうこう)と輝いている。

 ……いったい、これはどうなってるんだ!?

「ラナルータか」

「ラナルータだな」

「魔法使いはジジイじゃなくて、姉ちゃんがいいよなぁ」

「ドラクエじゃねーよ!!」 

 異常事態にも関わらず平然とボケをかます三人にツッコンでると、小さく城門が開いて中から一人の男が現れた。

 金の髪に白銀の鎧、そして風にたなびく青いサーコート。

 どこか朝に会ったアーサー王を思わせる男性を見ていた俺の視線は、彼が腰に刺した剣に釘付けになった。

 あの英雄王を宿した女との戦いで癖になったのか、無意識のうちに俺の目はその剣の解析を始める。

 

 あの剣は『神造兵器』。

 

 かの星の聖剣の姉妹剣。

 

 『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』が星を司るなら、あれが司るは『太陽』。

 

 太陽の写し身にして、あらゆる不浄を払う(ほむら)の陽炎。

 

 あれこそは『転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)』。

 

 そして、その担い手は──

 

「円卓の騎士、サー・ガウェイン」

 荒くなった吐息と共に、門の前に立つ男の名前を吐き出す。

「あれ、貴方もガウェインと会ったことがあるの? ていうか大丈夫!? 顔は真っ青だし汗も凄いわよ!」

「お兄ちゃん!?」

「……大丈夫だ、美遊」

 強張った表情筋で無理やり笑顔を作った俺は、泣きそうな顔でこちらを見上げる美遊の頭を撫でてやる。

 神造兵器である聖剣を解析したせいで頭は割れるように痛いし、魔術回路も焼け付きそうになってる。

 英霊エミヤの侵食も進んでしまっただろう。

 意図せず解析してしまうとは、我ながらマヌケな話だ。

「今宵も夜闇に紛れたピクト人が釣れると思ったのですが、そうはならなかったようですね」

 そうひとりごちたガウェインは、突然昼になった事に混乱する難民達に声をかける。

「民よ、落ち着きなさい。これは獅子王がもたらした奇跡──『常に太陽の祝福たれ』と我が王が私に与えた祝福(ギフト)なのです」

 ガウェインの言葉に背中を冷たいものが走った。

 つまり、獅子王と名乗る者は太陽すらも自由に操る力を持つと言うのか。

 そんな力を持つ者なんて、まさしく神──── 

「だそうだぞ、玉藻」

「太陽神の分霊である私を前に、随分と舐め腐ったマネをしてくれますね。ならばその増長慢(ぞうちょうまん)()らしめてくれましょう!」

 怒りの声と共に太陽に手を掲げる玉藻さん。

 すると、彼女の身体から信じられないくらいの膨大な魔力が立ち昇り、ゆっくりと振り下ろされる手の動きに合わせるように、頭上にあった太陽は地平線へと姿を消した。

「バカな……! 王の祝福がかき消されただとッ!?」

「あら、何を驚いてるんです? 私は太陽の化身。神具に触れて神域に昇っただけのなり損ないの権能を消し飛ばすなんて、里芋の皮を剥くより簡単です」

 驚愕の声を上げるガウェインを玉藻さんが笑う。

「ん? 玉藻、尻尾がまた増えてるぞ」

 慎の言葉に玉藻さんの背後へ眼をやると、確かに狐の尻尾が5本になっていた。

 さっき玉藻さんの魔力が爆発的に上がったのは、これが原因なのか?

「おや、気づけば五本になってますね。これもご主人様が注いでくれた愛のパワーのおかげです!」

「パスを使って『生命力を』送っただけで、そんなたいした事はやってないんだけどなぁ……」

 右手に抱きついてくる玉藻さんをそのままに、首を捻る慎。

 ……何となく分かった。

 あいつって無自覚にトンでもない事をしでかす奴だ。

「ガウェイン卿! いかがいたしましょう!?」

「うろたえてはいけない! 予定の変更はありません。聖抜が行われるまでは、各自ピクト人を警戒しなさい!」

 予想外の事態に動揺する騎士達に檄を飛ばしたガウェインは、続けて難民達に語りかける。

「皆さん。自ら聖都に集まっていただいた事、感謝します。人の世界は滅び、またこの小さな世界も滅ぼうとしています。主の審判は下りました。もはや地上の何処にも人の住む余地はありません。そう。この聖都キャメロットを除いてどこにも」

 ガウェインが難民に熱弁を振るう中、放置された俺達はなんとも言えない気分を味わっていた。

「なんだ、こっちはシカトか」

「私たちの事は後回しにして、先に目的を果たそうというハラですね。いかがいたしましょう、ご主人様?」

「ハサン達の情報が確かなら否応無しに鉄火場になる。美遊嬢たちの事もあるから、今のうちに準備しておこう」

 そうだった。

 慎から聞いた話では、ここから開始されるのは難民の選別と落ちた者の虐殺。

 俺はその混乱の中で美遊を護らなければならないんだ。

同調開始(トレースオン)

 覚悟を決めた俺は騎士達に気取られないように魔術回路を起動させる。

 やる事は決まっている。

 虐殺が開始される瞬間に、投影した武器をガウェインたちに射出し、当たる直前で『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』で爆破。

 あとは本隊を慎に任せて、俵さんと共に美遊と三蔵法師の護衛にあたる。

 かつて無い緊張感に小さく息をついたとき、聖都の城門に立つ人影を見つけた。

 獅子を模した兜に銀の鎧をつけた細身の男……いや女か。

「最果てに導かれる者は限られている。───人の根はやがて腐り堕ちる物、故に私は選び取る。決して穢れぬ魂、あらゆる悪にも乱れぬ魂。」

 高みから難民に向けられた女騎士の視線。

 銀獅子の兜越しでも寒気のするそれが、何故か美遊で止まったような気がした。 

「生まれながらにして不変の、永劫無垢なる人間を」  

 瞬間、銀獅子の騎士から眩いばかりの光が放たれた。

 手で視界を庇いながら周りに目を向けると、光の中にあってもさらに黄金の光を発する者、その逆にまったく光らない者が見て取れた。

 俺は光っている方で、美遊は光っていない。

 慎達は───

「勝手に人を定規に掛けてんじゃねーぞ! グレートホーン!!」

「拳圧で選定の光を蹴散らすとか、さすがご主人様!!」

「邪王炎殺煉獄焦ぉぉぉぉぉっ!!」

「おお! 黒い炎が光を焼き尽くしていくぜぃ!!」

「いつもながら非常識ですね。まあ、光を剣で斬り裂いてる私が言うことじゃありませんが」

「なんと! 神殺しを目指すだけあって剛毅なものよ!」

「ぎゃーてぇ。私の釈迦如来掌より凄いわ」

 

 ……

 ………

 …………オレハ、ナニモミナカッタ。

 

 一部のおかしい人達は例外として、光は難民全ての中を駆け抜けた。

「聖抜は為された。その四名のみを引き入れる。回収するがいい、ガウェイン卿」

「聖抜の光を拒んだ者はいかがいたしましょう?」

「…………ほ、放っておけ」

 そういい残して銀獅子の騎士は聖都へと姿を消した。

 最後の言葉の声が震えているように聞こえたのだが、気のせいだろうか?

「……………御意」

 騎士の消えた方角を見ながらガウェインが発した言葉に、俺は警戒を強めた。

 四名のみ。

 先ほど銀獅子、おそらく獅子王はそう言った。

 俺の視界の中で光らなかったのは、母親と子供の親子連れの子供と美遊だけだった。

 もし、光らない事が聖抜の合格条件だとすれば、奴等は美遊を狙ってくる! 

「みなさん、まことに残念です。ですが、これも人の世を繋げるため」

 そこで一度言葉を切ったガウェインは、飲み込み難いものを飲み下すように目を閉じた後、言葉を続ける。

「王はあなた方の粛清を望まれました。───聖罰(せいばつ)を開始します」

「――――工程完了(ロールアウト)全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)………!!」

 ガウェインの宣告が終わると同時に、俺は投影した十二の剣を騎士達に射出する。

 奴等は腕が立つらしく、不意を付いたにも関わらず手傷を与えたのは十人中二人。

 当然、ガウェインも無傷だ。

「先ほどの反乱分子ですか……。聖罰と共に反乱分子の討伐も開始───」

「壊れた幻想」

 紡いだトリガーワードにより、騎士達の傍らに落ちていた剣が同時に爆発する。

 これで剣が突き刺さっていた奴は倒した。

 そして、負傷の無かった騎士達にも手傷を負わせたはずだ。

 なんにせよ、玉藻さんが起こした騒ぎで奴等が城門前に集まっていたのは助かった。

 あそこは難民が寄り付かない場所だったから、何の遠慮も無しに爆破できた。

 立ち昇る炎に目を凝らしていると、やはりというべきか。

 ガウェインを初めとして数人の騎士が飛び出してくる。

「粛清騎士各員に告ぐ! 反乱分子は私が処理する! 卿達は聖罰を執行せよ!!」

 ガウェインの飛ばした激、これを引き金にして事態は動き出す。 

「殺される! 騎士達に殺されるぞ! 逃げろぉぉぉぉぉぉっ!!」

 商人風の男が上げた怒号によって、思考停止状態だった難民達が我先にと逃げ出そうとする。

 本来ならば完全な包囲陣が仕掛けられていたのだろうが、城門に十数人の騎士が集まった為に一箇所だけポッカリと穴が開いている。

 先ほどの男はパニック状態の難民達をそこに誘導するつもりだ。

「チィッ!?」

 先導者に気づいたガウェインは、腰に下げた聖剣に手をかけながら走り出そうとする。

 しかし、弾丸さながらの速度で奴に飛び掛った影によってそれは阻まれてしまう。

「どういうつもりだ、ガウェイン!!」

「王……ッ!?」

 ガウェインを押し留めた影はアーサー王だった。

 彼女は憤怒の形相で、手にした聖剣をガウェインに突きつける。

「助けを求める無辜(むこ)の民を斬り捨てようなどと、卿は騎士の矜持(きょうじ)を忘れたのか!?」

 向けられた黄金の切っ先に、ガウェインの表情に迷いが過ぎる。

 だが、次の瞬間にはそれも消え失せ、彼は感情を感じさせない人形のような顔をかつての主に向けた。

「貴方の質問に答える義務は無い。かつてはどうあれ、今の私は獅子王の騎士」

 言葉と共に聖剣を構えるガウェイン。

 奴の戦意を感じ取ってか、白銀の刀身からは紅い炎が吹き上がる。

「我が王の命を邪魔するならば、何者であろうと排除します!!」

 火の粉を引き連れてアーサー王に斬りかかるガウェイン。

 その刃を受け止めるアーサー王の顔に浮かぶのは、先程までの激情ではなく動揺だ。

「……拙いな」

 徐々に押され始めるアーサー王の姿に、俺は内心舌打ちをする。

 闘いにおける覚悟の重要性は、聖杯戦争で嫌と言うほど感じた。

 素人かつ無銘の英霊を降ろした俺が勝ち抜けたのは、なんとしてでも美遊を助け出すという覚悟があったからだ。

 ガウェインは先程のやり取りでかつての王を討つ覚悟を固めたが、アーサー王にはそれがない。

 下手をすれば、このまま一気に押し切れられる可能性もある。

 できれば、慎達が騎士の排除を終えるまで時間を稼いで欲しかったのだが……

 状況の推移に内心歯噛みしていると、久しぶりに聞く銃声や爆音が辺りに響き、同時に視界の端にこちらへ向かってくる騎士の影が見えた。

 どうやら、こちらものんびり観戦とはいかないらしい。

「美遊!」

「うん!」

 返事と共にテキオー灯を浴びて、スペアポケットの中に飛び込む美遊。

 主が無くなったスペアポケットを素早くジャケットの内ポケットにしまい込み、同時に武装練金の待機状態である核金(かくがね)を取り出す。

「行くぞ、武装練金!!」

 俺の声に反応して展開した核金は、一瞬にして全身を覆う金属製のジャケットになる。

 これが防護服(メタルジャケット)の武装練金『シルバースキン』だ。

投影開始(トレースオン)!」 

 言葉を吐き出すと共に魔術回路に熱が灯り、両手に使い慣れた重さが宿る。

「ハァッ!」

 気合と同時に振るった干将(かんしょう)を右から襲い掛かってきた騎士は剣で押し留める。

 奇襲が失敗にも関わらずこの反応、かなりの手練れのようだが───まだ甘い!

 身を沈めると同時に干将で相手の剣を跳ね上げ、左の莫耶(ばくや)を腹に叩き込む。

 先の騎士が崩れ落ちた直後、背後から殺気を感じた。

 俺は振り返らないままに空中へ身を躍らせる。

 グルグルと回転する視界に、先ほどまで俺がいた場所を槍で貫く騎士が見えた。

 同時に俺は黒塗りの弓を投影し、剣を改造した矢を奴へ放つ。

 大気を裂いて疾る矢は狙い通りに喉と頭を打ち抜いた。

 身を捻り着地に成功した直後、足の先を矢が掠めた。

 素早く目を走らせると、そこには銀の弓に矢を(つが)える騎士の姿。

 二射、三射と放たれる矢を身を低くしながら回避すると同時に再び投影した干将・莫耶を投擲(とうてき)

 相手の注意が手を離れた剣に移った一瞬の隙を突いて、再度生み出した双剣を手に一気に間合いを詰める。

 突撃するこちらに弓兵は慌てて矢を番えるが、その前にブーメランの様に飛翔する干将が奴の弓を破壊し、莫耶が右腕に食らいつく。

 鮮血を撒き散らしながら奴が体勢を崩したところで、懐に飛び込んだ俺は交差した双剣で奴の首を薙ぐ。

 首から上を失い崩れ落ちる騎士を尻目に油断無く走らせた視界は、こちらに向かってくる騎士の一団を捉えた。

「邪魔だっ!!」

 瞬時に10本の刀剣を投影し、奴等に向けて射出。

 飛来する剣に騎士達は足を止めるが、先程とは違ってこちらに当てるつもりはない。

 その剣の使い道は───こうだ!

「壊れた幻想ッ!!」

 こちらの言霊に応じて騎士達の直前で剣は爆ぜ、紅蓮の炎が奴等を包み込む。

 更なる奇襲を仕掛ける為に足を踏み出した瞬間───

「ぐあああああああっ!?」

 身体の内から軋むような音と共に全身に激痛が走った。

 歯を食いしばって耐えようとするが、意思とは裏腹に身体は干将・莫耶を取り落として膝を突いてしまう。

 くそっ、こんな時に置換の反動が出るなんて……ッ!

 幸か不幸か、逸れずにすんだ視界に映るのは、爆炎の中から歩み出てくる騎士達の姿。

 まずい、マズイ、拙いッ!?

 必死に動こうとしても返ってくるのは激痛だけで、首から下は神経の糸が切れたようにピクリともしない。

 こちらが足掻いている間に目の前まで接近した騎士の一人は、こちらに見せ付けるように剣を振り上げる。

 俺はまだ死ねない!

 こんな世界に美遊を置いたまま、終われるものかよッ!!

 焼き付いた魔術回路に無理矢理魔力を流し込み、俺はまた干将を投影する。

 但し、造りだす場所は役立たずの腕じゃない。

 こちらの意思通り顔の前に現れる黒い短剣。

 迷う事無くその柄に食らいつき、

「があああああぁぁぁぁぁっ!!」

 唯一思い通りになる首を思い切り捻る事で投擲する。

 こちらの行動に虚を突かれた騎士は振り下ろそうとした剣を盾にしようとするが、その剣の横を縫って干将はその顔面に食らいついた。

 鮮血を撒き散らして崩れ落ちる騎士を尻目に後続に目をやると、空から飛来する剣群の絨毯爆撃によって蹴散らされた。

「たわけ。その力は使うなと忠告しただろう」

 苛立ちと呆れを綯交(ないま)ぜにした声に視線を向けると、そこにいたのはやはり英霊エミヤだった。

「悪いな。こっちにも事情って奴があってさ」

 ようやく意思が通るようになった身体を起こすと騎士の姿はすでになく、難民も生きている者は遥か遠方に映る小さな影しか見えない。

 どうやらこちらが足掻いている内にカタが付いたらしい。

「そういえば、アーサー王はどうなってるんだ?」

 言葉と共に城門に目を向けてみると、慎達に藤丸さんをはじめとしたカルデアの面々も揃っていた。

 ガウェインが城門の前で跪いているところを見ると、どうやら無事勝利したようだ。

「よかった。みんな無事みたいだな」

「気を抜くな、まだ何か出てくるぞ」

 気を緩めようとした俺を(いまし)めるように、鋭い声を上げるエミヤ。

 奴に釣られて視線を上げれば、城壁の上に二つの人影が立っている。

「カァーッカカカァーー!! よくぞガウェインと粛清騎士を倒した。少しは褒めてやるぜ!」

「グォッフォフォフォ! だが、オレ達が来たからにはお前等もここまでだ!!」

「おお! 卿達は!!」

 奇怪な笑い声と共に城壁から身を躍らせる影に、俯いていた顔を上げるガウェイン。

 そして月明かりをスポットライトに、その影は姿を現す。

「俺は円卓の騎士が一人、アシュ……もとい、隻腕のベディヴィエール!!」

 そう名乗りながら、六本の腕を組む(・・・・・・・)青い怪人。

「俺は円卓の騎士が一人、サン……じゃない、太陽の騎士の妹、ガレス!!」

 もう一方は野太いおっさん声(・・・・・・・・)を発する、3メートルはある謎のゴーレム。

「「二人合わせて、はぐれ円卓超人コンビ!!」」

 …… 

 ………

 …………ヤバい、ツッコミどころしかないぞ。

「なあ、どこからツッコんだらいいと思う?」

「………私に聞くな」

 コメカミを揉みながら、沈痛な表情を浮かべるエミヤ。

 リアクションに困りながらも視線を戻すと、何故かアーサー王と藤丸さんの隣にいる騎士が崩れ落ちてた。

「何故だ! ガレス! ベディヴィエール!! 何故、卿達まで私の元から離れた!?」

「馬鹿な……! 私がもう一人いるなんて、これも魔術王の策略か!?」

 

「「なんでさ!?」」   

  

 




 ここまで読んで下さって、ありがとうございます。
 
 今回は美遊兄の視点メインで書いてみました。

 思い付きで出したキャラですが、やはり出演していただいた以上はスポットを当てるべきかと思いまして。

 ええ、映画も見た事ですし。

 あと、末尾のオチで色々持っていかれると感想を頂いている拙作ですが、今回のオチが超人タッグトーナメントの出場者でも、士郎君の活躍を忘れないようにお願いいたす。

 というワケで、今回の用語集です。

 〉パワーローダー(出典 エイリアンシリーズ)

 パワーローダーとは、エイリアンシリーズに登場する工業用重機。
 初登場は『エイリアン2』で、主人公のリプリーが搭乗して宇宙船の格納庫でクイーンエイリアンと熾烈な肉弾戦を繰り広げた。
 アーケードゲーム『エイリアンvsプレデター』では、地球軍の兵士が操る同機が5面のボスとして登場。
 こちらのパワーローダーは軍の対エイリアン兵器で、クローアームと火炎放射器で雑魚エイリアン程度なら簡単に始末できる強さ。
 まともに戦うと防御が高く投げられないうえに、普通に攻撃したらひるまず殴り返されて死ねる。

 MUGENには兵士の付属武器として登場。
 搭乗した場合はハイパーアーマーが付与される上に、パワーローダーの耐久力が兵士とは別枠なので、相性によっては『A』ランクの上位キャラも喰ってしまうことも。
 また、ゲージ3の超必殺技で自爆させることも可能。

 〉クロウカード(出典 カードキャプターさくら)

 クロウカードとは、カードキャプターさくらに登場する魔法のカード。
 魔術師クロウ・リードが創った、封印が解かれるとこの世に災いが起こるとされる魔法のカードで、カード1枚1枚が生きており、それぞれに「名前」「姿」「魔力」がある。
 クロウはイギリス人の父と中国人の母を持つハーフであるため、彼の魔術は西洋魔術と東洋魔術が混ざっており、カードの名前は全て英語と漢字で表されている。
 性格が多彩であり、戦いを好まないものから好戦的なもの、頭の良し悪しなどもある。

 〉カイザ・ギア(出典 仮面ライダー555)

 『仮面ライダー555』に登場する仮面ライダーカイザ専用ツール。
 ライダーズギア(通称「3本のベルト」)の1つで、仮面ライダーカイザの変身と戦闘に必要なツール一式の総称である。
 主人公ライダーの変身ツールであるファイズギアと同様に、普段は銀色の専用アタッシュケースに収められている。
 ファイズギアが適合しない者を自動で弾く仕様になっているのに対し、カイザギアは誰でも変身が可能。
 しかし、適合しなかった場合は変身解除した途端に灰になってしまうという、危険な代物である。
 ただし、オルフェノク(怪人)であれば問題はないため、『人間の手に渡らないようにしたい』というオルフェノクの思惑からすれば、結果的に好都合な仕様になった。

 〉シルバースキン(出典 武装錬金)

 漫画『武装錬金』に登場する武具の一つ。
 防護服(メタルジャケット)の武装錬金であり、攻撃に対して瞬時に金属硬化して鱗のように剥がれ落ちる事で着装者を完全防御する。
 破損した箇所は瞬時に再生する為、劣化せずに防御力を保持できる。
 その防御力は全武装錬金中トップクラスを誇り、物理的な衝撃のみならずエネルギードレインやNBC兵器すらシャットアウトする。
 劇中では、火渡の起こした500mの大爆発にも耐えた。
 また、着用している間は息の続く限り宇宙空間でも活動することが出来る。
 欠点は防御に特化している為、攻撃の手段を持たない事。

 〉強殖装甲ユニット(出典 強殖装甲ガイバー)

 漫画『強殖装甲ガイバー』に登場する生体兵器。
 元々は降臨者(太古の地球に降り立った宇宙人)が標準装備として身につけていたもの。
 装着した者の生命を維持する宇宙服の様に使われており、本来は武装では無かった。
 着用者の生体コンディションの維持に特化しており、降臨者はこの装備のおかげで何十億年もの期間にわたって地球で生体兵器の開発・研究を続けることが出来た。
 その実態は強殖生物と呼ばれる生体兵器の持つ融合・捕食機能を機械的に制御した、瞬間的生体改造するシステムである。
 これにより殖装者は身体能力と感覚が向上し、空中飛行や水中・地中等の異環境での
活動も可能となる。
 さらに強殖生物の特徴を活かした非常に高い再生・回復能力を得ることが出来る。

 今回はここまでとさせていただきます。
 また次回でお会いしましょう。

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