MUGENと共に   作:アキ山

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 皆様、お待たせしました。
 今回は本編ではなく、閑話です。
 アクションはありませんが、ネタはチョコチョコと詰めさせていただきました。

 リネージュⅡレボ
 面白いけど、レベルと装備のアップが頭打ちに。
 血盟って入らないとダメ?

 あと、今日朝に何となくFGOのガチャをすると、嫁セイバーが来た。
 ……初めてピックアップが仕事しやがった。
 もしかしたら、明日死ぬかもしれん。 


閑話『平行世界での話』

 どうもこんにちわ。

 夏休みも終盤を迎えたのに、相変わらず休みに恵まれない、姫島慎です。

 我々姫島兄弟5名+イッセー先輩は、夜の駒王学園にいます。

 ああ、勘違いしないで頂きたい。

 別に不良行為をしようというワケでも、学校のイベントでもない。

 数分前まで、俺達は夕日に赤く染まった帰り道を歩いていたはずなのだ。

 それが気づけば夜の学校、しかも近くで誰かがドンパチをしている場所に放り出されたのである。

「え~と、どうするんだ?」

 なんとも困り果てた顔で、こちらに水を向けてくるイッセー先輩。

 数日前に漸く人間に戻ったのに、こんな事に巻き込まれるとは、この人も大概(たいがい)運が無い。

「ここってウチの学校だよね。なんでいきなり夜になってるんだろ? 時計は4時過ぎになってるし……。朱姉、ここが擬似的に作られた空間ってことは無い?」 

「いいえ。調べてみたけど、紛れも無くここは現実の駒王学園よ」

 こちらが口を開くよりも早く、周辺の様子を確認している朱乃姉達。

 冬木で一度こういうのを経験しているだけあって、その行動に無駄は無い。

 俺? 俺は背中で暴れる二匹のミニ怪獣の世話で手一杯だ。

 つーか、痛い痛いっ!? 璃凰(りお)、お兄ちゃんの髪の毛を引っ張るんじゃない。

 とはいえ、このまま突っ立ってたとしても事態は進展しない。

 取り合えずは、何らかの情報が必要だ。

 ここにいる四名で何だかんだと意見を出し合った結果、ドンパチの現場に行く事が決定した。

 最初は俺だけ先行するという案が出たのだが、何故か背中に張り付いて離れようとしない双子の為に断念。

 イッセー先輩を連れて行くのは気が引けるが、ここに置いといて何かあったほうが大変だ。

 それに氣を探ったところ、向こうに居るのは堕天使幹部クラスが一に上級悪魔が一、後は中、下級悪魔程度だ。 

 今でも並の上級悪魔より強いイッセー先輩なら、そうそう危険はないだろう。

 ……しかし悪魔側の氣って、物凄い見知った感じがするんだよなぁ。

 

 という訳で、やってきました鉄火場です。

 一歳の乳児や裏から足を洗った人間を連れてくるのは、我ながら色々な面でどうかとは思う。

 しかし、冬木と同じく妙な結界が張られてる所為で、原因を調べないと『無限の闘争(MUGEN)』が開けないんだから仕方が無い。

 さて、目の前ではどっかで見たような堕天使幹部を相手に、見覚えがありすぎる悪魔たちが必死に抗戦を繰り広げている。

 どう見覚えがあるかと言うと、内2名が隣に並んであんぐりと口を開けている姉と先輩と同じ姿なのだ。

 さらに言えば暴食猫娘や魔剣マイスター、幼女返りが得意技な紅い姉貴分に影の薄い薬箱シスター。

 あと、名前はまったく思い出せんが青髪の聖剣使いと、闘っているのは全員顔見知りだったりする。

「おっ、おい! オレがいるぞ! どうなってんだ、これ!?」

「イッセー先輩、いつのまに自己再生、自己増殖、自己進化の三大理論を体現したんだ?」

「オレはそんな化けモンじゃねーよっ!? つーか、そのうちの二つはお前の能力じゃんか!!」

 自己再生と自己進化ですね、わかります。

「朱姉の分身の術、完成度高けーなぁ。私もあそこまでは無理だってばよ」

「美朱。私に忍術の適正が無いの、知ってるでしょ?」

 さて、兄弟揃ってのボケはこの辺にして、現実を見ようじゃないか。

「まあ、あの先輩も朱乃姉も本人じゃないのは確かだわな。だって、悪魔だし」

「朱姉は雷光使ってないし、イッセー先輩も『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』ガンガン振り回してるもんね」

「あ、そっか」

 歯を食いしばりながら、籠手から緑色の魔力弾を放つ先輩2号を見て、こっちにいる1号も落ち着きを取り戻す。

「たしかに二人の言うとおりですわね。でも、私ってあんなに雷撃が下手だったかしら?」

「それに、アーシア姉も悪魔になってるじゃん。相手は死んだはずのコカビーだし。どうなってんの、これ?」

 眼前で展開する不可解な現象に首を捻るウチの姉妹。

 ちなみに、こちらの姿は俺が張った摩利支天(まりしてん)隠行印(おんぎょういん)により、向こうには見えていなかったりする。

 確かに、朱乃姉達が言うように状況が分からん。

 コカビーは蘇ったか、再生怪人にされたと言えば説明は付かなくもないが、ウチの姉やイッセー先輩が二人居るのはそうはいかない。

 一瞬、俺と同じくクローンでも造られたかと思ったが、朱乃姉はともかくとしてイッセー先輩は需要がないだろう。

 仮にそうだとしても、悪魔になってる事やリアス眷属と共に戦っているのは不自然だ。

 アーシア先輩も悪魔になってる理由もわからんし。

 出ない答えに首を捻っていると、美朱が何かを思いついたかのように手を打った。

「ねえ、慎兄。これってもしかして、平行世界って奴じゃない?」

「平行世界って、あの可能性で分裂したIFの世界の事か? 幾らなんでもそりゃないだろう」

「でもさ、ここに転移した事が冬木の時と同じく世界を(また)いだとしたら、あり得るんじゃないかなぁ。そうだったとしたら、もう一人のイッセー先輩や朱姉の事も、悪魔になったアーシア先輩も説明がつくし」 

 ふむ、確かに興味深い。

 言われてみれば一理あるかもしれん。

「たしかに、そうかもしれないわね」

「すんません。平行世界ってなんスか?」

「漫画とかに良く出るIFの世界の事だよ。例えばイッセー先輩が悪魔を続けている世界とか、逆に元から悪魔にならない世界とか」

「へぇ~、そんなのがあるのか」

「我ながら無茶苦茶な話だとは思うけどね。でも、可能性としたらこれが一番しっくり来るんじゃない? 私達の世界ならリーア姉達とコカビーが闘うなんてありえないもん」  

 ごもっとも。

 さて、考察が一段落付いたところで、目の前の戦いに目を戻そう。

 現在の状況は悪魔側が不利。

 相手は腐って骨になっても、親父の同僚である堕天使大幹部だ。

 高位貴族グレモリー家の令嬢とはいえ、生まれて20年も経っていない若造には荷が重いようだ。

 リアス姉達の奥の手だと思われる、特大の滅びの魔力弾も多少手傷を負わせる程度でしかなかったし、大勢は決したと見ていいだろう。

「なあ、みんな。接触するならどっちがやりやすいと思う?」

「そりゃあ、テロリストより部長だろ」

「リアスでしょうね」

「さすがにコカビーは無いんじゃない?」

 満場一致である。

 コカビーの人望の無さに全俺が泣いた。

 では、リアス姉2号達に助け舟を出そうじゃないか。

 という訳で、いつの間にやら夢の世界に旅立った双子を朱乃姉に任せた俺は、なんか調子に乗ってるコカビエルに軽く衝撃波を放ってみた。

「死んでいった奴等のためにも、俺たち『堕天使』が最きょ───ベイッッ!?」

 『これを切欠にして彼女達が反撃の糸口でも掴めれば』なんて思っていたのだが、なんと食らったコカビーは爆裂四散してしまったのだ。

「あらま……」

「やりすぎよ、慎」

 おおぅ、ミステイク。

 突然の事に唖然とするリアス姉2号達と、物凄く冷たい視線を向ける同行者たち。

 こうなったら、名台詞を使って凌ぐほかあるまい。

「汚ねぇ花火だ」

「べジータ乙」

 背後からの圧力が増したような気がするが、きっと気のせいだろう。

 まあ、あれだ。

 牽制程度で死ぬコカビーが悪い、ということで一つ。

「どういう事なの? 朱乃、それにイッセーまで」

 さっきの攻撃で隠行印が効果を失った為に、こちらを見つけることが出来た2号達は、一様に目を丸くしている。

 『ファーストコンタクトはどういう風にしたものか』と思案していると、上空にこれまた見知った気配が現れた。

「アザゼルに言われてコカビエルの回収に来たんだが、随分と面白い事になってるようじゃないか」

 上空で停止しながら、尊大に腕を組む白い鎧。

 こっちの世界のヴァーリなんだろうが、感じる氣がえらく弱い。

 むむ……。この感じからすると、向こうの実力は2、3年前のヴァーリとトントンくらいなんだが。

「あれは白龍皇!?」

 初見なのか、ヴァーリの姿に慄く現地の方々。

 一方、ウチの身内は奴の姿を見てしきりに首を傾げていたりする。

「なあ、あれって白龍皇だよな」

「現地産の、だろうけどな」

「けど、滅茶苦茶弱くない? ウチのヴァーリ君と、すんごい差があるように感じるんだけど」

「感じる氣はウチのが中1だった時と変わらんしな。今のあいつと比べるのは酷だろ」

 いや、本当にあいつが居なくて良かった。

 もしウチのヴァーリが現地産の弱さを知ったら、『あんな弱者は、断じて俺ではないっ!!』とか言って殺しかねんし。

「どうしてこんなに差が付いたのかしら?」

「多分、この世界には慎兄がいないんじゃないかな?」

「ああ、『ライバルがいるから強くなれる!!』的なヤツな」

 なんだか知らんが、また妙な冤罪が増えた様な気がする。

 つーか、本当にこの世界って俺がいないのだろうか?

「ところで、コカビエルはどこにいるのかな?」

 ヴァーリの問いかけで、現地の方々の視線が一斉にこちらに向く。

「ごめん。軽く殴ったら死んじゃった」

 誤魔化しようがないので、ありのままに説明してみた。

「慎……。それは無いんじゃないの?」

「なんか、借り物のカマキリを殺した、みたいな言い訳だな」

 はい、ウチの面子は呆れた目で見ない。

 これ以上、的確な説明はないでしょうが。

『コカビエルを葬った一撃が軽くですって!?』

『彼はいったい何者なんでしょうか?』

 等々(などなど)と騒ぐオカ研現地組はさて置いて、問題は現地産ヴァーリである。

 言った後で失態に気づいたのだが、ウチのヴァーリにはこの手の事態に遭遇した場合、嬉々として襲い掛かってくる習性がある。

「あのコカビエルを容易く屠っただと! 貴様は見た目以上の強者のようだな!! ならば、その力を俺に見せてみろ!!」

 やっぱりと言うかなんと言うか、一人でテンションをあげてこっちに突っ込んでくる現地産ヴァーリ。

 オカ研現地組の皆さん、驚愕の声や悲鳴を上げているところ申し訳ないが、ラディカル・グッドスピードに慣れてきた目だと止まって見えるんですが。

「ドアァァァァァァッ(コング桑田氏ヴォイス)!!」

 いつもの癖で、上空から殴りかかってきたヴァーリを上段当身で地面に叩きつける。

「うがぁっ!?」

 校庭の土と砕けた鎧の破片を()き散らして、苦鳴を上げるヴァーリ。

 その間にも、俺は奴の首と足に手を掛けている。

「DIE───」

 そして地面から奴を引っこ抜くと、勢いのままに頭上へと持ち上げ───

「Foreverッ!!」

 雷鳴豪破投げで追い討ちを……って、ハッ!?

 我を取り戻してみれば、目の前にはブスブスと煙を上げる、犬神家状態の現地産ヴァーリの姿が。

 ……ッ!? やってもうたぁぁぁぁぁぁっ!!

 姿形はウチのと一緒だったから、いつもの様に追い討ちまで入れてしまった!

「慎兄! なにやってんの!?」

「お兄ちゃんは隙だらけの相手を見ると、つい()っちゃうんだ☆」

「どんなドナルドッ!?」

 美朱の突っ込みを背に慌てて引っこ抜いて確認したものの、患者は完全に心停止状態。

 頭の中で王大人(ワン・ターレン)が『死亡確認』と言ったが、さすがにそれはヤバすぎる!!

 こびり付いていた胴鎧を叩き割って、行うのは『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』付きでの胸骨圧迫だ!

「そこの薬箱先輩! 人命救助手伝って!!」

「薬箱って、私の事ですか!?」

 『キミに決めたっ!』とばかりの指名に、現地産アーシア先輩は何故か悲鳴を上げる。

 薬箱って物凄く本質を表していると思うのだが。

 突然の事に戸惑う素振りを見せていた彼女だったが、人命救助の一言が効いたのか、むこうの制止を振り切ってこちらに来てくれた。

 さすがは慈愛の人である。

 あんたなら二代目ナイチンゲールも夢じゃないさ!

「ランッ・ランッ・ルーッ! ランッ・ランッ・ルーッ!!」

 応援に来てくれたアーシア先輩に外傷の治療を頼んで、胸骨圧迫を再開する。

「人の命が懸かってるんですよ! 真面目にやってください!!」

「すんませんッ! こっちは大真面目っすッ!!」

 アーシア先輩のツッコミに叫び返しながらも、心臓マッサージは止めない。 

 なに、人工呼吸だと? 

 あれは感染の危険があるから、専用の器具が無いと素人はやっちゃダメなの。

 つうか、こんな簡単に死んでんなよ! ちょっとギースが乗り移っただけじゃねーか!!

 ところで、頭に過ぎった『鉄拳7』参戦記念ってどういう事!?

 個人的にめっちゃ気になるんだけどッ!!

 次々と取り留めのない事が頭を過ぎりながらも救命活動する事数分。

 ダブル『聖母の微笑』の効果もあってか、なんとか現地産ヴァーリは息を吹き返した。

 意識はまだ戻っていないけど、自律呼吸ができるのならばグリゴリの医療用ポッドに任せても大丈夫だろう。

「という訳で、ちょっとグリゴリに行ってくる」

「いやいや、ちょっと待って」

 なにかな、妹よ。

 容態は落ち着いたとはいえ、できるだけ早くこの馬鹿を医療設備に放り込みたいのだが。

「この状況で放置とかないから、マジで」

 大丈夫、大丈夫。

 相手は世界が違ってもリアス姉だ。

 警戒はされても、命の恩人に無体な事はしないだろう。

 万が一戦闘になっても、お前一人で全員倒せるし。

「けど、アーちゃんとリーくんいるじゃん」

 おっと、そういえば双子がいたな。

 それにイッセー先輩も荒事に巻き込んだら拙いし。

 …………仕方ない。

 ここは一つ、気付け薬でもくれてやるか。

 携帯を操作し、『無限の闘争』の倉庫から『やくそう』をありったけ取り出す。

「それってドラクエの『やくそう』だよね。なんに使うの?」

「俺の錬金術で、極上の気付け薬を調合してやるのさ」

「慎、あなた錬金術なんてできたかしら?」

「大丈夫だ、問題ない」

 さて、クッキングのお時間だ。

 用意するものは『やくそう』五十個のみ。

 まずは患者の気道を確保し、口を大きく開ける。

 次に、口の上で五十個の薬草の束を両手で掴む。

 そして、全身全霊の力を込めて、やくそうを握る!!

「錬ンンンンンン金っ!!」

「それ錬金違う!!」

「ごぼぼぼぼっぼぼぼぼぼぼ…………」

「酷いッ! ヴァーリ君が『やくそう』の汁で顔中緑色に!?」

 朱乃姉の悲鳴が表す通り、強烈な青臭さと共にドロッとした深緑の粘液に包まれるヴァーリの顔面。

 素人目から見てもかなりヤバいが、これも薬効の為だ。

 是非とも我慢していただきたい。

 そんなこんなで一応の施術も終わり、俺は朱乃姉が魔術で出した水で手を清めていた。

 やくそうはHPを約30回復させたはずだから、これでヴァーリの体力は1500前後回復したはずだ。

 こうすれば、俺は倉庫を圧迫していた在庫を放出できるし、奴は体調を持ち直す。

 まさにWIN-WINの関係だな。

「ぐぼはぁああああああああああああっ!?」

 まるでエクソシストの悪魔憑きの如く、緑色の汁を吐き出しながら起き上がるヴァーリ。

 顔面全体が深緑だから、キモい事この上ない。

「起きたぁっ! マジで今のインチキ薬が効いたの!? うそぉっ!?」

 あんまりな絵面に絶叫する美朱と、言葉も出ない朱乃姉。

 言うに事欠いてインチキ薬とは、何たる無礼か。

「起きたか、ヴァーリ。だったらとっとと帰れ。それでコカビエルは殺されていなかった、とアザゼルのおっちゃんに伝えるんだ。あと、帰り道は事故らない様に気をつけろよ」

 状況が掴めずに呆然としているヴァーリの目を(のぞ)き込んだ俺は、少し強めの氣を放ちながらしっかりとした口調で指示を伝える。

「…………わかった」

 すると、虚ろで異様な返事を返したヴァーリは、フラフラとしながらも飛び去っていく。

 少々危なっかしいが、どうせこの町に隠れ住んでるおっちゃんの家までだ。

 飛んで行ったなら、あんな成りでも数分も掛かるまい。

 ちなみに、今のが氣を使った暗示。

 氣当たりと同じ要領で相手を威圧し、受けた相手に生まれた心の空白地帯に暗示を刷り込むというものだ。

 個人的にはあまり好ましい手段ではないが、今回は例外ということで。

「という訳で、I'm Loving It!!」

「慎兄、まだドナルド抜け切ってないよ! ていうか、こわっ!? なにその凶悪な顔のドナルド! 背中越しに浮かんでるの『スティーブン・キング』の『IT』にしか見えないんだけど!?」

 マジか。

 なんか変なモノに取り憑かれたのかもしれん。

 とりあえず、お祓いしとこっと。

 

 

  

  

「……信じられない話だわ」

 湯気が立つカップを前に、私の親友兼(あるじ)であるリアス・グレモリーはそう呟いた。

 目の前に腰掛けた珍客の説明に、彼女の眉間には深い皺が刻まれている。

 たしかに、彼等の弁は常軌を逸している。

 平行世界から迷い込んできた同一人物だ、なんて与太話もいいところだ。

 しかし私の眼前に座る彼女は、まるで鏡を見るかのように私そっくり。

 イッセー君の方はあちらの方が鍛えられているので見分けがつくが、こちらはよほど入念に確認しなければ無理だろう。

 何者かによるクローンという可能性もあるが、下級悪魔にすぎない私達の複製を造るなど、よほどの物好きでもなければするとは思えない。

 ならば、やはり彼等の言うとおりなのか?

 だとすれば、何が目的でこの地に現れ、そしてコカビエルを討ったのだろうか?

「気持ちは分かるわ。でも、こんな話ぐらいしか説明が付かないでしょう?」

 苦笑いを浮かべる向こう側の私に、リアスは諦めたかのようにため息を付く。

「いいわ、貴女達の話を信じましょう。それで、ここに来た目的はなんなのかしら?」

「別に無いぞ。ただ単に迷い込んだだけだし」

「そうそう。家に帰ってたのに、こんなところに放り出されるんだもん。ホントまいっちゃうよ」

 本人曰く、むこうの私の弟妹であるという少年達の答えに、私たちはポカンと口を開けてしまった。

「迷っただけ? こっちに必要なものを取りに来たとか、そういった事じゃなく?」

「ああ」

「そんな目的だったら、人間のイッセー先輩やこの子達を連れてくるわけ無いじゃん」

 言われて、向こう側の一誠君と彼女たちの膝の上で寝息を立てている赤ん坊に目が行った。

 たしかに向こう側の一誠君は人間のようだし、何か目的があるのなら赤子なんて連れてきたりはしないか。

 でも、この子達から感じる気配は……。

「えっと、その子達はいったい……?」

「私の可愛い弟と妹、璃凰クンと朱音(あかね)ちゃんでーす!」

 リアスの質問に上機嫌で答えながら、彼女、美朱ちゃんは膝の上に寝ている妹の手を(つま)んで小さく振った。

 さっき、あの子達から感じた堕天使と人間の気配は気のせいではなかったらしい。

 美朱ちゃんの妹という事は、むこうの私の妹だということ。

 やはり、むこうでは母様は生きているのだろうか?

 だとしたら、こちらと何が違ったのだろう。

「じゃあ、なんでコカビエルを倒したんだよ?」

 こっちのイッセー君が問いを投げると、慎と名乗った少年はバツが悪そうな顔をした。

「いや、殺す気はなかったんだよ? そっちがピンチなのを見てさ、見知った顔が死ぬのは気分が悪いから手を貸したんだ。そしたら極力手加減したのに、汚ねぇ花火になっちまったんだよ」

 『あれは計算外だったわ』などと言いながら後頭部を掻く慎君に、むこうの一誠君と私からツッコミが飛ぶ。 

「いやいや。あれって堕天使の大幹部なんだろ? それを一発でミンチとか、お前いったい何したのよ?」

「貴方が腕を組んだと思ったら、いきなりコカビエルが吹き飛んだものね。見ていた私達もなにがなんだか分からなかったわ」 

「練習中の無音拳を、ちょっとな」

「無音拳?」

「グレートホーンの応用でな。腕を組んだ状態を鞘に収めた刀に見立てて、居合い抜きの要領で初速からMAXスピードで放つ打撃法なんだ」

「グレートホーンって、光速拳じゃん! 悪魔超人・完璧超人ときて、今度は黄金聖闘士になるつもりか!!」

「今の俺じゃあ、まだまだ亜光速が限界だっつーの。コカビーに放ったのだって、めっちゃ手加減したから超音速だし」

「どう考えても手加減じゃねーよ、それッ!!」

 ……これはどう反応したらいいのだろうか。

 言ってる事のスケールが大きすぎて、ワケが分からない。

 普通の男の子がこう言うのなら、大した妄想だと一笑に付すところだ。

 しかし、コカビエルを倒して白龍皇を手玉に取った彼が言うと妙な凄みを感じてしまう。

「理由はどうあれ、助けられた事にはお礼を言わせて貰うわ。でも、貴方はいったい何者なのかしら?」

「どこにでもいる神主兼格闘家ですが、なにか?」

「ダウト」

「貴方みたいな人、他にいるわけないじゃない」

「近頃、俺への対応ヒドくね?」 

 姉妹二人にダメ出しを食らって、不貞腐れる慎君。

 私と同じく母様に似た顔立ちだけど、ややつり目で大人びた感じを纏っているので、こういった歳相応の反応するのは意外だ。

「まじめに答えて欲しいんだけど・・・・・・。ただの格闘家がコカビエルや白龍皇を倒せるわけないじゃない」

「鍛えてますから」

 敬礼のような動作と共に無駄に爽やかな笑みを浮かべる慎君に、周りからため息が漏れる。

 どうやら、まじめに答える気は無いらしい。

「グレモリーさん。悪い事は言わないから、深く詮索するのはやめておきなさい。こちら側の事を知ったら、貴方達発狂するくらい驚くわよ?」

 にっこりと笑いながら、こちらに釘をさす向こう側の私。

 だがしかし、笑顔の隙間から垣間見える目は完全に死に絶えている。

 ……これは怖い。

「そ……そう、だったら聞かないわ」

 言葉では威厳を保とうとしながらもプルプルと震えているリアスの手を、向こうには見えないように握って慰める。

 勝気ではあるものの、この子は精神的にはそれほど強くないのだ。

 いぢめるのは止めてもらいたい。

「でもさ、驚いたのはこっちのアーシア姉が悪魔になってる事だよねぇ」 

「オレもそれにはビビッた。レイナーレに狙われた時に美朱ちゃんがアーシアを助けなかったら、こうなってたのかもな」

「あの、そちらの私は人間のままなのですか?」

「うん。眷属にはなってないけどリーア姉が身元引受人になってるから、今は冥界のグレモリー家にいるよ」

「あら、貴女はむこうの私とは親しいみたいね」

「子供の時から一緒にいる姉貴分だからね。リーア姉がおねしょを慎兄に擦り付けようとしたり、ソーナさんと一緒に肥溜めに落ちて、泣きながら救助された事も知ってるよ」

「…………」

 悪意無くバラされる忌まわしい過去に、リアスはもう涙目だ。

 というか、むこうでも同じ事をしていたのね。

 こっちでの冤罪対象は私だったけど。 

「そう言えば、近頃忙しくてアーシア姉に会ってないなぁ。元気だといいけど」

「……元気、だったぞ。信仰の方向性は、なんつーか、激しく変わっちまったみたいだけど」

 美朱ちゃんの呟きに、何故か冷や汗を掻きながら目を逸らす慎君。

「……おい」

 兄の様子の変化をしっかりと見て取った美朱ちゃんは、隣を向くと同時にガシリッと彼の襟首に手をかける。

「アーシア姉になにをやらかしたのか、その辺の事を詳しく聞こうじゃないか」

 『ハケッ、ハクンダッ!』と激しく慎君のボディーを叩きながら、尋問を行う美朱ちゃん。

 さっきまでの仲睦まじい兄妹の様子はどこにいったのか。

「わかった、わかった! 言うからアドラーみたいにボディを叩くのはやめろ!」

「最初からそう言えばいいの! ほら、キリキリ話す!!」

 全然効いているようには見えないが、観念した慎君は美朱ちゃんを引き剥がしつつ口を開く。

「その前に、そっちのアルジェントさんは聞かないほうがいいから、この話が終わるまでは部屋から出る事をお勧めするぞ」

 やはり気乗りがしないのか、慎君の放った覇気の無い忠告にアーシアちゃんは首を横に振る。

「いいえ、聞かせてください! 違う世界だとはいえ、自分の身に起こった事ですから!!」

「好奇心は猫を殺すって言うんだけどなぁ。……まあいいや」

 アーシアちゃんになんとも言えない視線を向けた慎君は、こちらには聞こえない声量で何かを呟いた後、ゆっくりと語り始めた。 

「この前、魔王連中との会談で冥界に行っただろ。その時にグレモリー家でアーシア先輩にあったんだよ。そしたらさ、なんか天界のヤバいもんの啓示を受けたのか、俺の事を聖書の神と勘違いするんだわ」

 ・・・・・・なんだか途轍もなく不穏な単語が連発されてるわ。

 ツッコミたい! ツッコミたいけど……踏み込んだら最後、聞いてはいけない事実に直面するような気がする。

 後ろを見れば、口出しをしようとするこっちのアーシアちゃんやイッセー君を、祐斗君や小猫ちゃんが必死に押さえてる。

 ナイスよ、二人とも。

「それって大丈夫なの? 慎兄を聖書の神と間違えるとか、相当重症だよ」

「神は神でも、お前の場合はどう考えても破壊神だからな。アーシア、マジで大丈夫かよ」

「おいコラ。……まあいいや、話を戻すぞ。その日は会談の後にヤボ用があってそのままだったんだけど、次の日の夕方に気になって見に行ったんだ。そしたら先輩がこっちを見るなり『主を護るために強くなりたいんです!!』なんて言いだしたんだよ。本人もやる気十分だし、サバイバルツアーを完遂した実績があるから、そんならってワケで『無限の闘争』に叩き込んだんだよ」

「お前、マジふざけんな!!」

「あんな人外魔境の修羅の国にアーシア姉を放り込むとか、なに考えてんのさ!?」

「うっせーな! マジに変なもんと繋がってたから、ショック療法になるかと思ったんだよ!!」

 非難轟々の二人に負けじと反論する慎君。

 よくは分からないが、彼の話しているのは相当に危険なところらしい。

 そんな場所に戦闘力の無いアーシアちゃんを放置なんてしたら、怒られるのも仕方ないだろう。

「……それで?」

「それで、とりあえず闘らせてみたんだけどな。出てきたのがアレだったんだ」

 そう言いながら、彼が指差したのはこっちのアーシアちゃんの胸に光る十字架だ。

「十字架?」

 むこうのイッセー君は首を傾げているが、美朱ちゃんは一気に顔色を無くしている。

 あ、美朱ちゃんがイッセー君に耳打ちしたら、むこうの二人も真っ青になったわ。

「え、マジで? マジであの神の子だったの?」

「マジ」

「なんであんなのが『無限の闘争』にいるのよ! 彼は格闘家じゃないわよ!!」

「馬鹿だなぁ、朱乃姉。聖人なんてのは大概闘えるんだぞ。聖ジョージもそうだし、ジャンヌ・ダルクもそうだろ」

「それ、超偏見! ……兎も角、それで立川の聖人とアーシア姉は闘ったんだね?」

「ああ。先輩は畏れ多くて手は出せなかったんだけど、むこうはそんな事お構い無しに襲い掛かってきてな。被っていた茨の冠を投げつけるわ、デカい十字架担いでブン殴るわ、遣りたい放題だった。最後には、神の恵みで天からパンや魚を降らせて圧殺したし」

「フリーダムすぎるわ! 聖人要素何処に行った!?」

「どこって、パンとか魚降らせるトコじゃね? あと、むこうのビジュアルが褌一丁だった所為で、対戦してる絵面はどう見てもシスターに襲い掛かる髭面の変質者だったなぁ」

「「「罰当たりもいい加減にしろッ!!」」」

「解せぬ」

 三人に怒鳴られながら、しきりに首を傾げる慎君。

 なんというか、物怖じしない少年だ。

 分からないように伏せてくれているが、彼らが召喚したのは一神教の神の子だろう。

 それをああも遠慮なく評するなんて、神をも恐れないというのは、彼のような人を言うのだろうか。    

「その後は気絶した先輩をベッドに寝かせて、オレは野暮用があるからその場を離れたんだよ。それで次に戻った時に見たものは───」

「……見たものは?」

 ごくりっと、私は思わず喉を鳴らしてしまった。

 気づけば、こちらのオカ研メンバーも固唾を呑んで彼の話を聞いている。

 平行世界とはいえアーシアちゃんに関する事だ。

 こちらとは別人だと分かっていても、気になるのは仕方が無い。 

「『レッツゴー! 陰陽師』をかき鳴らして、ブレイクダンスを踊りながら神に祈りを捧げるアーシア先輩の姿「アウトオォォォォォォォッッ!!」」

 あんまりにも救いが無い事実を遮るように、むこうのイッセー君の黄金に光る拳が慎君の頬を捉える。

 しかし、その拳は頬にめり込んだだけで撃ち抜くことは出来ず、慎君が首を捻ると簡単に弾かれてしまった。

「不安定な状態から撃ったから、踏み込みも身体の捻りも足りん。あれじゃあ、本当の実力者には傷一つ付けられないぞ」

「チックショー……ッ! 分かっていたけど化けモンめぇ」

 頬に痣の一つも無く駄目だしをする慎君と、拳に纏った金属質な外殻の皹が入った部分を押さえるイッセー君。

 振り抜いた時の余波だけで部室の天井と床を破損させるほどの拳を受けて、無傷どころか相手が負傷するなんて、どんな身体をしているの?

「というか、慎兄どうするのさ。アーシア姉、完全におかしくなってるじゃん」

「慌てるな、美朱。こういう時は逆に考えるんだ」

「逆?」

「おかしくなったんじゃなく、アーシア先輩が新たな道に目覚めたんだから、これを期に陰陽師やダンサーになってもいいや、と」

「どんな考え方ぁ!?」

「問題はそこじゃねーよ!!」 

 慎君の謎理論に容赦なくツッコミを入れる一誠君達。

 むこうの私は、双子ちゃんを抱きながら天井を仰いでいる。

 うん、今のはないわ。

「まあ、安心しろ、二人とも。昨日見に行った時にはアーシア先輩は元に戻ってたから」

「……本当だろうな?」

「ああ。偶に祈りの言葉がラップ調になったり、ちょくちょく『ドーマン・セーマン』って混じるけど」

「ダメじゃねーか!!」   

 渾身のツッコミと共にイッセー君が慎君の頭をはたく。

 どうやらこの話もこれでオチが着いたようだ。

 後ろでは、『イッセーさん!? 私もラップを歌いながら、ブレイクダンスをしないといけないんでしょうか!?』とアーシアちゃんがイッセーくんに詰め寄っている。

 アーシアちゃん、そんな無茶苦茶なんてしなくていいのよ。

 

 先ほどの騒ぎも収まり、もう少しだけ警戒心の解けた私達は色々な話をした。

 最初は兄妹に囲まれたむこうの私を(うらや)んでいたのだが、あちらの世界の話を聞いた後はそんな気持ちも抜けてしまった。

 三大勢力が風前の灯とかどういうことなのか。

 悪魔はサーゼクス様とセラフォルー様が失脚しているし、天界は聖書の神の復活を目論んでいるという噂がある。

 さらに堕天使はそんな三大勢力の現状に見切りをつけ、日本神話に亡命する気でいるらしい。

 しかも、世界の多神勢力が連合を組んで、三大勢力潰しに動こうとしてるというんだから堪らない。

 それを聞いたとき、あっさりと意識を手放したリアスを少し羨ましく思ったのは秘密だ。

 彼等の立ち位置を聞いてみれば、一誠君は一般人、姫島兄妹は日本よりの中立だそうだ。

 むこうの私曰く、三大勢力を離脱してこの位置に立てたのは、慎君のおかげだとか。

 あと、むこうの一誠君が『赤龍帝の籠手』を封印している事や、あのライザーがまともになってユーベルーナとの間に子供が出来ていたのは意外だった。

 さらには姫島家の生活費の全てを慎君が稼いでいるという事にも驚いた。

 『同居しているはずのあの男はどうしたのか』と尋ねたところ、返ってきた答えは無職で母様のヒモである。

 向こうの私は、朱音ちゃんや璃凰ちゃんの為にも普通の社会人になってほしいと涙ながらに語っていた。

 横で慎君と美朱ちゃんが必死にフォローしていたようだが、無職という烙印の前には無力だった。

 どの世界においてでも、あの男がロクデナシだというのは変わらないらしい。

 楽しい時間は速く過ぎるというのは本当らしく、夜が終わり朝日が空を照らし始めた頃に、慎君が元の世界に帰る準備が出来たと言った。

 なんでも帰還の為の出口は、魔力による結界が張られていると空間への干渉が邪魔になって出せないのだとか。

 という事は、彼等の帰還を妨げていたのは、ソーナ会長が街への被害を防ぐ為に張った結界という事になる。

 ……ややこしくなるから黙っておこう。

 まあ、『宴もたけなわ』ではないけれど、コカビエルとの闘いの疲れもあって舟をこぐ人間が出始めていたので、ちょうどいいと言えるのかもしれない。

 慎君が軽く手を一振りすると現れた、両開きのガラス扉。

 これが彼らが帰還する為のゲートなのだろう。

「なんというか、世話になったわね。軽すぎて実感は無いけど、貴方達は命の恩人よ」

「こっちが勝手にやった事だから、気にする必要は無いさ。それより、これからそっちも大変になると思うけど、合言葉は『命大事に』で頑張ってくれ」

 扉の前で握手を交わす慎君とリアス。

 一見すればしっかりと代表をしているように見えるウチの主だが、さっきまで気持ちよさそうに眠っていた事を思うと残念さは拭えない。

 あ、慎君にヨダレの跡が指摘されて真っ赤になってるわ。

「そうだ。姫島さん、ちょっといいかい?」

 一通りみんなに挨拶を済ませた後、私は慎君に呼ばれた。

 むこうの私の事もあってか、こちらとは一線退いている感じだった彼から、声を掛けられるとは思っていなかった。

 とりあえず行ってみると、目を閉じて欲しいといわれたので言うとおりにする。

 すると、小さく日本神道の祝詞が耳に入るのと同時に、まぶたを(かす)る様に何かが通り抜ける感覚がした。

「ありがとう。目を開けてもらって大丈夫だ」

 その言葉に目を開けてみるが、特に変わった様子は無い。

 彼は何がしたかったのか、と首をかしげていると、後ろからこちらを呼ぶ声がした。

 この声を知っている。

 記憶の中に封じてもなお褪せることない、もう聞けないと諦めていた優しい声。

 恐る恐る振り返った私の目に映ったものは、周囲の景色に比べて少し薄れているが、思い出の通りの着物を着た一番会いたいと思っていた人だ。

『朱乃』

「……母様ッ!」

 頬を伝う涙もそのままに、私は母様の胸に飛び込んだ。

 しかし、期待していた包み込むような暖かさは無く、私は母様の身体をすり抜けてしまった。

「すまん。彼女は貴女の守護霊だから、見ることや会話する事は出来ても触れる事はできないんだ」

「守護霊……」

 半ば止まった思考で慎君の言葉を反芻していると、ニコリと笑った母様が言葉を続ける。

『そうよ。死に別れたあの時から、私は貴女をずっと見守っていたの』

 その言葉に、また目頭は熱くなる。

 ……ずっと母様はいなくなったと思っていた。

 心の何処かで私を置いていった母様を恨んだ事もあった。

 でも、それは間違いだった。

 母様はずっと私を見守ってくれていたのだ……。

「悪魔になった事で希薄になった霊的繋がりを強化して、閉じていた霊視眼を開いた。これで、いつでも朱璃さんとコミュニケーションは取れるはずだ。触れ合うのは肉体が無いと無理だから、その辺は勘弁してくれ」

 申し訳なさそうに頭を下げる慎君に、私は感極まって出ない言葉の代わりに頭を振る。

 謝る必要なんてない。

 今まで存在を感じる事も出来なかったのだ。

 それに比べたら、言葉を交わせるだけでも十分すぎる。

「けど、これで一安心だよな。この部屋に入ってから、お袋さんずっと朱乃先輩の後ろで、俺達にすんげえメンチビームブッパしてたし」

「あれ、イッセー先輩って『見える人』だったの?」

「おう。と言っても、見えるようになったのがちょっと前からだけど」 

「確かに、先輩の言う通りだよな。あの人がこっちに向けてたのって、『サイクロップス』の『メガ・オプティックブラスト』バリのゴン太ビームだもんな。意識しないようにするのがどんだけ大変だったか。お陰で俺の『漢気ゲージ』が『シャバ僧』になってるんだが」

「そんなゲージあったんだ……。まあ、途中で肩を掴まれて『コッチヲ見ロォォォォォッ!!』ってされた時には、チビリそうになったけど」

 ……母様?

『仕方ないじゃないっ! 霊視が出来るあの子達を逃したら、もう朱乃とコンタクトが取れないと思ったんだから!!』

 何故か頬を膨らませながらぷりぷりと怒る母様。 

 ウチの母親はこんな人だったろうか?  

『それよりも朱乃。私が肉体を手に入れる方法を探すわよ!』

「どうしてですか、母様?」

『もちろん、あの子達を産むためよ!』

 ビシィッと慎君達を指差し、声も高らかに宣言する母様。

 ちょっと待ってほしい。

 いきなり、トンでもない事を言い出したんだが、この人。 

『私、昔から大家族っていうのに憧れてたのよ。でも、あの人って堕天使でしょ? お産も上手くいくかどうかわからないって言われたから、貴女一人で我慢したけど……』

「けど?」

『平行世界とはいえ、三度のお産に成功した私がいると知った以上、この夢を諦めることは出来ないわ! 一度は死んだ身ですもの、バァーンと挑戦してみなくっちゃ!!』

 『とりあえずは、あの宿六を捕まえて協力させないとね!!』などと高笑いをする母様に唖然としていると、こそこそと撤収していく慎君たちの姿が見えた。

「待って。いまの術、クーリングオフを要求するわ」

 ガラス扉を開いたところで、慎君の肩を掴むことに成功した私は、ここぞとばかりに要求を突きつける。

「すみません。当方の施術はクーリングオフ対象外です」

 こちらから目を逸らしながらも、いけしゃあしゃあと(うそぶ)く彼。

 だがしかし、こちらだって諦めるわけには行かない。

 今まさに思い知ったが、思い出とは美化されるからこそ尊いのだ。

「貴方も聞いたでしょ! あんな無茶苦茶な事を計画する人が母様なワケがないわ!!」

「闘わなくちゃ、現実と。あの超絶ドM親父の嫁になる人なんだから、一癖どころか二癖・三癖あるのは当然だろ」

 『まあ、こっちの親父もあの性癖とは限らないけどな』と口にする慎君に、思わず身体を揺さぶっていた手を止めてしまった。

 え、あの男ってそんな変態だったの?

 母様の『筋金入りよぉ』という声なんて聞こえない。

 ええ、聞こえませんとも!!

「という訳で、撤収! 総員撤収!!」

 こちらの手の力が緩んだ一瞬の隙を突いて、ドアに駆けこむ平行世界の珍客達。

 咄嗟(とっさ)に伸ばした手は間に合わず、閉まると同時に掻き消えた扉のあった場所を虚しく通り過ぎた。

『さあ、朱乃! まずは死人返りの研究よ! 私の実家の書庫にそれらしいものがあったから、取りに行きましょう!!』

「待って、母様! 私達は姫島と不可侵条約結んでるから!! というか、それって完全に外道の法術じゃないの!?」

 あまりにもフリーダムな我が守護霊に悲鳴を上げる私。

 これから父親との関係改善するまでの間、母様の行動に振り回される事になるのを、今の私はまだ知らなかった。

 

 

 

  

 夕焼けが赤く照らす元の帰り道に戻った俺達は、プラプラと歩きながら雑談を繰り広げていた。

「そういえば、慎兄」

「ん?」

「アーシア姉の件って、ちゃんと意味があったんでしょ?」

 確信を感じさせる美朱の言葉に、俺は思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 その辺は悪意とかノリとか、そういった動機じゃないかと疑ってもいいだろうに。

「ああ。アーシア先輩が神託を受けたのって、明らかに天界からの干渉だったからな。こっちから同質の力を叩き込めば相殺できると思ったんだよ」

「だから、立川の聖人だったんだね」

「まあ、聖書の神に最も近しい人間だからな。使うのは賭けだったんだが、式神で様子を見てるとあれ以来啓示を受けた気配はないから、一応は成功だったんだろう」

 まあ、聖書の神が『無限の闘争』から脱走した事を思えば、まだまだ油断は禁物だろうが。

「ギャグやネタじゃなかったんだな」

「なワケねーだろ。もっとも成功したとはいえ、当面の経過観察は必須だけどな」

 イッセー先輩のチャチャをいなしながら、俺は肩を竦めて見せる。

 今回の件はなんだかんだと後手に回ってる。

 ……やっぱり今のままでは不安が残るな。

「朱乃姉。悪いけど、明日は一日『無限の闘争』に籠るから」

「どうしたの、急に」

「先の事もあるから鍛え直したいんだよ。一からガッツリと」

「一日でどうやってって……ッ! お前もしかしてあそこを使うつもりかよ!?」

 どうやら、イッセー先輩は俺の意図に気が付いたらしい。

「戦争が終わればキン肉マンとの試合もあるからな、限界までやってみるさ」

 こちとら、こんなところで終わるつもりなんて無いのだから。  




 ここまで読んで下さって、ありがとうございます。
 原作世界ネタに挑戦してみましたが、原作側のキャラが動かずに難儀しました。
 結果は御覧の有様だよ!!
 ネタ話ばっかりで、むこうの話がほとんどないじゃないか!?
 くそぅ、またいつか挑戦してやるからなぁ。

 という訳で、恒例の用語集です。
 今回はネタが多いなぁ……。

 〉自己再生、自己増殖、自己進化(出典 機動武闘伝Gガンダム)

 『機動武闘伝Gガンダム』に登場するアルティメットガンダム(デビルガンダム)に搭載された機能。
 開発者であるライゾウ・カッシュ博士が金属細胞であるU細胞にこの機能を組み込み、本来は汚染された地球環境を再生するための地球再生プログラムとなるはずだった。
 しかし、それを知ったネオジャパン軍部のウルベ・イシカワ少佐と、カッシュ博士の才能を妬んだミカムラ博士が本機を奪取すべくカッシュ博士の研究所を襲撃。
 ガンダムはカッシュ博士の長男キョウジ・カッシュの操縦で地球へ脱出するが、大気圏突入の際にショックでプログラムが暴走。
 プログラムは「人類の存在こそが地球汚染の最大の原因である」と判断するに至り、機体は制御を失ってキョウジを生体ユニットとして取り込み、デビルガンダムとなってしまった。

 〉コング桑田氏(出典 俳優)
 日本の男性俳優、声優、タレント、ゴスペル歌手。
 低く、ドスの利いた声の持ち主。
 格闘ゲーマーの間では、『餓狼伝説』及び『ザ・キング・オブ・ファイターズ』シリーズのギース・ハワードと『サムライスピリッツ』シリーズの牙神幻十郎を演じている事が有名である。

 〉ランランルー(出典 マクドナルド)
 ドナルドが、CM「ドナルドのうわさ」で喋る謎の言葉である。
 CMは2つあり、1つは子供達と一緒に洗の……ランランルーをしている所が映り、「ランランルーって何なんだ?」と言い終わる。
 もう1つは前述の質問に答えるCMとなっている。
 意味については全くの不明であるが、ドナルド本人によると「嬉しくなるとついやってしまう」らしい。
 ネット上では漢字で表す際、主に「乱々流」「乱乱鳴」などのいろいろな表記がされる。

 〉I'm Loving It(出典 マクドナルド)
 I'm Loving It(アイムラヴィニット)は、マクドナルドにて2003年9月から導入された全世界統一の宣伝文句。
 日本語に直訳すると「私はそれが好き」。
 この場合の意味は「私のお気に入り」という意味。
 MUGENユーザーには、ドナルドによってハンバーガーに調理される敵への、手向けの言葉として有名。

 〉鍛えてますから(出典 仮面ライダー響鬼)
 『仮面ライダー響鬼』の主人公、ヒビキの口癖。
 手首を回しながら敬礼の様な仕草で『シュっ!』と言う言葉とともに使われる事が多い。
 初出は第一話にて、親戚の法事のために屋久島へ向かう船に乗っていた安達明日夢が、船から落ちた男の子を救出するヒビキの姿を見て「すごいですね」と言ったことへの返し。

 〉アドラー(出典 アカツキ電光戦記)
 格闘ゲーム『アカツキ電光戦記』に登場するキャラクター。
 続編の『エヌアイン完全世界』にも登場している。
 本名 エルンスト・フォン・アドラー(放送世界より)
 秘密結社ゲゼルシャフトの親衛隊長であり、作中に登場するキャラクターであるエレクトロゾルダートのオリギナール(ドイツ語でオリジナル)。
 アカツキらと同じく、冷凍睡眠により生き長らえた戦時中の人間でもある。
 外見では立ち絵のやたら濃い影や特徴的な低い声、特徴的なニュートラルポーズなどでクローンであるエレクトロゾルダートとの差別化されている。
 ムラクモの部下だが極めて野心が強く、アカツキの電光機関奪取の任務を切っ掛けとして己の野望の為に反旗を翻す。
 ファンからの呼び名は 「隊長」
 もとはエレクトロゾルダートのコンパチキャラだったが後に差別化。
 有限射程の飛び道具に変則的な突進技など、アカツキと対になるようなキャラになった。
 画面端での爆発力は凄まじいの一言。
 …が、中途半端な3ゲージ技やゲージ無しでの火力の低さや、キャラによっては入らないコンボがあったりと扱いは少々難しい。
 キャラランクは下位。
 (クローンは安定した立ち回りが評価され上位キャラ)
 しかし、続編であるエヌアイン完全世界で評価が一変。
 新システムや既存技の強化、ゲージ回収効率の上昇によってエヌアイン、塞と並ぶ最上位キャラに変貌を遂げた。
 (クローンは火力インフレついて行けず微妙)
 MUGENでは7体のアドラーが存在する。
 アカツキ勢本体最多の座をクローンとまるで競い合うように製作されており、一時は本体最多の座についていた。
 しかし、その後にクローンに反逆され、最多の座を奪われている。

 〉ハケッ、ハクンダッ!(出典 アカツキ電光戦記)
 格闘ゲーム『アカツキ電光戦記』のプレイアブルキャラ『アドラー』が投げを行う際に発する台詞。
 投げと言っているが、近距離から連続して腹に拳を打ち込み(腹パン)最後に蹴り飛ばすというモーションである。
 この際の『ハケッ、ハクンダッ!』という印象深い台詞は、『フォイヤ!』や 『オイ!ヤメロ!シャイセ!』と並んで彼がネタキャラと言われる事に一役買っている。
 なお、公式でもトナカイのカッコした『電光戦車』に乗ってサンタコス、ラジオドラマで 「全宇宙の支配者」 発言、エヌアイン完全世界でまさかの「ズーパーアドラー」発言とネタキャラ扱いをされている。

 〉レッツゴー! 陰陽師(出典 新豪血寺一族 -煩悩解放-)
 PS2の格闘ゲーム『新豪血寺一族 -煩悩解放-』で、一定条件を満たすと見られるPV映像。
 矢部野彦麿、琴姫、坊主ダンサーズが3Dアニメで踊る。
 元々は珍念ステージのBGMだったのだが、その歌詞とCGのインパクトからニコニコ動画でネタにされ、ネット上では格ゲー本体よりも有名になってしまった。
 当然だが、PVはゲーム本編とは何の関係もない。

 〉ジーザス(出典 Bible Fight)
 旧約・新約聖書の登場人物たちが入り乱れて格闘するフラッシュゲーム『Bible Fight』のキャラクター。
 キリスト教の基礎を築いた「イエス・キリスト(Jesus Christ)」その人。
 茨の冠を被り褌のみを身に付けた長い髭と髪の痩身の男性。
 『これ処刑時の格好だろ』という突っ込みは無粋(ちなみに彼のステージはゴルゴタの丘の処刑場)。
  必殺技は頭に被った茨の冠を投げる飛び道具「Crown of Thorns Toss」
 巨大な十字架を叩き付ける「Cross Smash」
 パンや魚を降らせる奇行奇跡を起こす超必殺技「Fishes and Loaves」の3種類。

 MUGENに参戦しているジーザスは、原作の必殺技は全て再現されている他、ノアの動物達を呼び出す等追加技も搭載されている。
 
 余談だが、この聖人を格闘ゲームのキャラにするゲームなど、『Bible Fight』くらいの物とおもっていたら、後発の『Fight Of GODS』でも登場。
 こちらの方はブッダや天照大神、ゼウス等々を扱っている為、輪を掛けて罰当たり。
 こちらのジーザスは、自身が磔にされていた十字架をへし折って、トンファー的な武器として使っている。
 また、「右の頬を殴られたら左の頬を差し出せ」という有名な言葉とは裏腹に『右の頬を差し出しながら、殴られそうになるとカウンター攻撃をたたき込む』というあんまりな技まで実装している。
 両ゲームの作者には一度天罰が降ればいいと思うのは、筆者だけだろうか。
 ……ん、ブーメラン?
 それは言ってはいけない約束だよ。

 今回はここまでとさせていただきます。
 また次回にお会いしましょう。
 

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