MUGENと共に   作:アキ山

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 皆様、お待たせしました。

 今回は一誠にスポットを当ててみました。

 本編の裏で彼がどのような夏休みを過ごしていたのかをご確認ください。

* 拙作の29話を大幅改訂させていただいております。
 時間がありましたら、目を通して頂ければ幸いに思います。


閑話『赤龍改めイッセー日記』

 7月▲☆日(晴)

 

 この頃、身の回りが忙しない、主に裏関係で。

 そこで、前に慎から説明を受けた時にメモを取った事を思い出して、日記形式でまとめて行こうと思う。

 正直ガラじゃないと思うけど、こうでもしないとすぐにわからなくなるからな。

 まあ、こっちに入ってくる情報なんてタカが知れているけど、こういう努力も少しは役に立つと思う。

 夏休みの宿題もまともにできない筆不精なオレだけど、今回は頑張ろう。

 家に帰ると、いろはに『何を悩んでいるのか』と問い詰められた。

 しらばっくれようとしたが、お父様達も気づいてますよという言葉にギブアップ。

 家のみんなには分からない様に注意していたつもりだったけど、はたから見ていればバレバレだったらしい。

 こうなっては仕方が無いので、いろはにだけ悪魔でいるべきかどうか迷っている事を打ち明けた。

 部長への恩義を裏切れない事から始まり、駒王会議で見せられた神様達の三勢力への憎悪の事や禍の団のテロ。

 そして、それにオレが関わっている事で、家族に被害が及ばないかという怖れ。

 自分でも気づかない内に煮つまっていたのか、一度口に出すと言葉が止まらなかった。

 聞かせてはいけない事や情けない愚痴までも吐き出した恥ずかしさに彼女の顔を見れないでいると、いろははオレの頭を抱いてこう言ってくれた。

『命を救ってもらった恩義は、決して忘れてはいけない物です。ですが、それが家族にまで累を及ぼすというのならば、その限りではないでしょう。ご主人様がグレモリー様よりもご両親を大切に思うのなら、袂を分かつのもまた道の一つと思います。もしかしたら、その選択によりご主人様は『忘恩の徒』と世間から石を持って責められるかもしれません。ですが、たとえそうなったとしても、いろはは貴方様と共にいます』

 どうしてそこまでしてくれるのか、疑問に思って聞いてみると、

『ご主人様やお父様達は人非ざる私を快く迎えてくれて、家族の温かさを教えてくださいました。だから、私も皆様の家族として共にありたいと思うのです』

 と笑顔で言ってくれた。

 恥ずかしい話だが、マジで泣いた。

 父さんや母さんだけじゃなく彼女の為にも、後悔はしない様にもっと真剣に考えてみたいと思う。

 

 

 7月▲●日(晴 だが俺の心はくもり)

 

 学校は夏休みになったけどオカ研はあるので部室に行くと、朱乃さんが部長の前で土下座していた。

 一緒に来ていた木場と二人で度肝を抜かれる中で聞いた話を纏めると、朱乃さんが悪魔から抜けたいと言っているらしい。

 理由は慎の足枷になりたくないとの事。

 部長はもちろん、オレや木場、部室にいた小猫ちゃんやアーシアにギャスパーもダメだなんて言えなかった。

 聞けば、あいつは駒王会議が終わってすぐに、テロ対策や転生悪魔の対処で世界中を飛び回って不眠不休で働いているらしい。

 聖剣事件から朱乃さんは、自分が悪魔なのが慎や美朱ちゃんの足枷になってるじゃないかって気にしてたからな。

 そんな姿を見せられたら眷属を辞めて、悪魔社会から距離を取ろうという気にもなるわ。

 堕天使の幹部だった親父さんももグリゴリを辞めたらしいし。

 その話を聞いた部長は、地面に伏せたまま動こうとしない朱乃さんを立たせて、眷属悪魔を抜けるのを承諾。

「今までありがとう、朱乃。私の眷属ではなくなるけど、貴女が私の親友である事は変わりないわ」

 と声を掛けられると、朱乃さんは部長の胸に縋りついて号泣していた。

 気持ちも落ち着いた朱乃さんが家に帰った後、本当に良いのかと尋ねたところ、部長は『あの娘をこのまま悪魔側に残していたら、慎への首輪にされるかもしれないから』と言っていた。

 白龍皇との戦いを思えば、どう考えても自殺行為にしか思えなかったのだが、部長曰く悪魔貴族社会の中では慎はそれほど恐れられていないらしい。

 年齢はもちろん、人間との混血である事やグレモリー家の下にいた事から、その気になれば搦手でどうとでも出来ると評価されているとか。

 わかってねえ、わかってねえよ!

 あいつのトンでも具合は、常識的な手でどうにかできるもんじゃないから!

 変に家族に手を出してあいつがブチキレたら、瞬間移動使ってピンポイントで頭を潰して回るとかマジにするからな!

 なんか、ますます悪魔社会の未来が暗く感じるようになってきた。

 こっちも本気で身の振り方、考えないとなぁ。

 

 

 7月▲◇日(夏日 暑いけど俺の心は豪雨)

 

 諸事情により『無限の闘争』に復帰した。

 本音を言えば勘弁してほしかったが、ドライグの話を聞いてはそうも言っていられない。

 なんでも二天龍の神器の所持者は、その漏れ出す竜の氣が強者や戦いを呼ぶ為にトラブルから逃れられないらしい。

 これには普段おちゃらけているオレも本気でキレた。

 ドライグよ。お前、オレの中にいたんなら、裏の事情に家族が巻き込まれる事で悩んでたの知ってただろ!

 なんでそんな重要な事をこっちに説明しないんだよ!!

 今まで伝える必要はないと思ってたとか言ってたけどな、それを判断するのは俺だろ!!

 何千年も生きてんだから、情報がない事がどれだけ不利になるかくらいわかってんじゃねえのかよ!!!

 覇龍の事だって隠してやがって、あれが間違って発動したら俺は暴走してお陀仏だったじゃねえか!

 人を舐めるのも大概にしろよ!!

 何が神滅具だ、なにが赤龍帝の籠手だ!

 テメエなんざ、ただの疫病神だろうが!!

 そんな感じで怒りに任せてボロクソに言ったらドライグの奴、へそを曲げやがった。

 そのせいか赤龍帝の籠手は使用不能になった。

 まあ、あんな呪いのアイテムなんて使う気も失せてたので、別段気にしなかったのだが。

 そんなこんなでガチギレしながらも、自分や家族を護るのには力が必要である事を思い至ったオレは、慎から借りていた端末で『無限の闘争』に足を踏み入れた。

 頭の中はグチャグチャだったけど、モチベーションはフェニックス戦の時以上。

 慎の見よう見まねで仕合を組んだオレの前に現れたのは、音速丸と名乗る羽の生えた黄色い球体のようなUMAだった。

 ラスボス臭が半端ないヴォイスでアホな事とかエロトークを連発しながらも、マッチョに身体を変形させたりボールを投げてきたりと、奇抜な手でこちらを翻弄してくるUMA。

 被弾覚悟で『皆殺しのトランペット』を放つも、謎のピンク空間展開からの連続衝撃波を受けて敗北した。

 いやまあ、ブランクも長いし負けるのはしゃあないと思うんだが、使えるようになった新技が『忍法エロモーション』ってのはどういう事なの!?

 一応、こっちは覚悟決めてきてんだよ! 

 いくらなんでも、これはヒドすぎるだろ!?

 チクショウ、いきなり心が折れそうだ……。

 

 

 7月■@日(くもり)

 

 今日から部長の付き添いで冥界のグレモリー領で世話になる。

 前にも行ったけど、紫色の雲に覆われた空は何とも慣れない。

 それは兎も角、再会したミリキャスやフェイト達は元気だったし、部長のご両親も相変わらずいい人だった。

 しかし気になったのは、こっちに帰って来てたサーゼクス様だ。

 駒王会議の時とは違って肌に生気は無く髪はボサボサ、頬はこけてるし目の下には黒々と隈が出来ていた。

 一緒に帰って来たグレイフィアさんも似たような状態で、こちらを見かけても小さく挨拶をするだけですぐに自室に行ってしまった。

 部長のお母さんが言うには、駒王会議での条約で貴族達から猛反発を食らっているらしい。

 魔王になるのと同時に出た実家に戻って来ているから、精神的に相当ダメージがあるのでは、と心配する公爵様達。

 その話を聞いたオレは思わず頭を抱えてしまった。

 あん時決まった事を破ったら、世界最強の男が敵に回るんだぞ!?

 しかも、そうなったらアナトとか言う超怖い女神様を筆頭に多神勢力も攻めてくるってのに、なに考えてんだ、ここの貴族共は!!

 もしかしてアレか?

 部長が言ってたみたいに、慎の奴を低く舐めて見てるのだろうか。

 そう言えば、部長のお父さんが俺達に『慎がオーフィスを倒したのは本当か?』とか聞いてきたから、そういう可能性もあるかもしれない。

 つうか、あの白龍皇との試合映像を見せるって話はどうなったんだよ……。

 ああ、なんかオレも腹が痛くなってきた。

 

 

 7月■◇日(冥界はいつもくもり でも俺の心は快晴)

 今日、俺は本気で尊敬できる男に出会うことが出来た。

 その人の名は花山薫。

 『無限の闘争』の闘士の一人で、俺より2歳しか年が違わないのに極道の組長をやってるというスゲエ人だ。

 花山さんのファイトスタイルは、相手の攻撃を受けながらも問答無用で殴り倒す喧嘩師だ。

 最大威力まで溜めた『皆殺しのトランペット』の直撃を受けて、そのまま殴り返された時はビックリする暇もなくKOされたし。

 慎や白龍皇のように修練の果てに掴んだ強さとは違う、ナチュラルボーンの力に魅了されたオレはその場で弟子入りを志願した。

 花山さんはほんの少し考えるそぶりを見せると、

『俺は他人に何かを教えられるほど器用じゃねえ。見たところ、お前さんは堅気らしいから盃は交わせねえが、俺個人の舎弟としてなら面倒見てやる』

 と言ってくれた。

 戦闘に関しては今までずっとブレブレだったけど、ようやく目標が定まった!

 花山さんみたいな、カッコいいと思われる戦いを目指すぜ!!

 

 

 7月■●日(冥界は今日も雨だった)

 久々に慎からメールが来た。

 内容は『家族が増えました』

 添付されていた写メにはいつもの姫島家に加えて、朱乃さんそっくりの女性に紫の髪の幼女と金髪碧眼の美少女。

 さらに目の下に絆創膏をはったイケメンが写っていた。

 説明を見てみると、女の子やイケメンは英霊(精霊に昇華した英雄の霊というものらしい)で、朱乃さんそっくりの女性はあいつのお袋さんだと言う。

 そう言えばあいつのお袋さんにはあった事が無かったな、などと思いつつ部長達に見せてみると何故か絶叫された。

 部長が言うには、あいつ等のお袋さんは10年前に亡くなっているらしい。

 ん、じゃあこの写真に写っているのは何なんだ?

 もしかして心霊写真とか?

 理解が追いつかずに首を捻っていたが、答えはメールに書いてあった。

 なんでもお袋さんは死後に慎の守護霊になっていたそうだが、そのせいであいつのトンでもパワーをモロに浴びることになり、精霊に進化して現世に復活したらしい。

 これを読んだ部長やグレイフィアさんは、なんか白目になっていた。

 魔術的な事なので説明されてもサッパリだが、なんだかとってもレアな事らしい。

 まあ、難しい事は抜きにしても、知り合いの家族が帰って来たのならそれはめでたい事だろう。

 お祝いメールを送っとくか。

 

 

 8月●日(快晴らしいが、冥界ではイマイチわからない)

 

 今日も今日とて、『無限の闘争』通いである。

 今まであんなに億劫だったのに目標が定まった途端にこれなんだから、オレって思った以上に現金な奴なのかも。

 今日は花山さんの舎弟先輩である登倉竜士さんと、九戸文太郎を相手にした。

 登倉竜士さん、通称レックスさんは痛風持ちで、発症すると痛みで見境なく暴れるらしいのだが、普段は優しいとってもいい人だ。

 そして文太郎さんは金髪リーゼントに短ランの下にはさらしを巻き、ズボンはボンタンというレトロな不良。

 言葉遣いや態度は荒いが、面倒見が良く情に厚い人である。

 さて試合内容だが、レックスさんの相手にはならなかった。

 『皆殺しのトランペット』を当てても大したダメージにはならず、そのまま殴り返されて20メートルほど吹っ飛んでKOされた。

 文太郎さんは比較的に普通の身体能力(といっても無限の闘争の闘士なので、常識的には十二分に超人レベル)なんだが、なんというか不良特有の凄みとか脅しに気圧されてしまって力を出せないままにサマーソルトキック(文太郎さん曰く『ブンちゃんキック』)を受けて敗北。

 花山さん曰く、オレはまだまだ場数が足りてないらしい。

 ギギギッ……悔しいが全く言い返せない。

 という訳で、今後の方針はとにかく対戦をこなして相手に飲まれないようになる事だ。

 あと、訓練中にドライグが神器を使えとうるさかった。

 信用なんて欠片もしていないお前なんざ誰が使うか!

 なにが『白いのに追いつけ!』だ。

 そんな事の為に鍛えてんじゃねえよ、馬鹿め。

 

 

 8月▲日(くもり)

 

 今日はミリキャスに誘われて、『無限の闘争』で稽古を行った。

 例のツアーから二か月くらい経ったけど、ミリキャスがまたもや強くなっていた。

 駒王会議で白龍皇が使ってた真空波やサマーソルトキックをパクったうえに、それに部長と同じ滅びの魔力を加えてた。

 聞けば、『大したことじゃないですよ、あの時自分が見えた分しか真似できてませんから』と笑顔で答えが返って来た。

 ……天才ってこういうのを言うんだなぁ。

 かく言うオレは花山さんから与えられたノルマに従って、バーディという黒人のヤンキーと闘った。

 首に手錠のチェーンを絡められて地面に叩きつけられたり、突進頭突きで吹っ飛ばされたりと散々だったが、むこうがトドメに放った頭突きに『皆殺しのトランペット』がカウンターで入って勝つことが出来た。

 今回の闘いで『皆殺しのトランペット』の新しい形が、朧気ながら浮かんだような気がした。

 取り敢えず、花山さんや慎に相談しながら煮詰めていく事にしよう。

 

 

 8月●日(快晴 偶には太陽が見たい)

 

 慎からメールが来た。

 内容はまたしても『家族が増えました』

 いやいや、この短期間に増え過ぎだろ。

 添付されていた写メに映っていたのは姫島家に加えて、お袋さんと美朱ちゃんに抱かれた2人の赤ん坊。

 なんでも男女の双子で、ちゃんと血の繋がった慎達の弟妹らしい。

 ……おかしくね?

 お袋さんが帰って来たのって数日前だろ。

 精霊ってそんな短期間に子供産めるのか?

 生命の神秘に首を捻っていると、同じく知らせを受け取っていたサーゼクス様から細かい事は気にしない様に言われた。

 もしかしなくても、なんかヤバい事が関わっているようだ。

 ……うん、俺のような下っ端は首を突っ込むべきじゃないな。

 お袋さんの時と同じく、素直に祝福のメールを送っておく事にした。

 あ、今回のノルマは草薙条という不良との対戦である。

 「本牧の赤豹」という二つ名の示す通り、足を使った素早い立ち回りと豊富な手数が武器の男だ。

 スピードを活かしたヒット&アウェイ戦法に苦戦したが、攻撃を食らいながらも連続技に割り込む形で出した改良型『皆殺しのトランペット』で形勢が逆転。

 止めを刺そうとしたら、突然奴の舎弟が乱入してこちらを羽交い締めにしやがった。

 「条さん、やっちゃってください!!」

 「行くぜ! 勝男!!」

  ────じゃねーよ。

 対戦の方は、こちらが振りほどこうとしているうちに復活した奴にボコボコにされた事で敗北。

 これって反則じゃないか!? とルールを調べてみたら、短期間ならば助っ人の召喚はOKらしい。

 どんな技も認めますってのは、マジだったんだなぁ。

 『無限の闘争』パネエ。

 あと、慎に花山さんの舎弟になった事やドライグとのいざこざをメールしたら、『無限の闘争』のロッカーに重り入りの服(合計300キロ)と肉体改造メニュー、あと『精神と時の部屋』ってところの地図が用意されていた。

 花山さんに近づくには、肉体を限界まで鍛える事が必須だとか。

 確かに花山さんは天性の才であれだけど、オレはそうじゃないからなぁ……。

 ま、ここは頑張るとしますか。

 

 

 8月☆日(快晴 一年ぶりのご無沙汰でした)

 

 ……ありえん。

 『無限の闘争』に通うようになって少しはこの世界を理解したかと思ったんだけど、そんな認識は全然甘かったのを思い知らされた。

 先日、慎から紹介された『精神と時の部屋』

 ここは一日で一年分の修行が出来る部屋だった。

 説明書きでは、部屋の中は外界とは時間の流れが違う特殊な空間らしい。

 将軍様に拉致られた時に似たような体験をしなかったら、絶対に信じられなかったと思う。

 さて修行のだが、我ながら頑張った。

 超頑張った!

 空気が薄くて妙に身体が重い世界で、一日も休まずに慎から貰ったメニューをこなす傍ら、ひたすらに対戦を続けた。

 メカ沢新一に城所剛、カズマにシェン・ウーときて山崎竜二やさぶまで。

 なんかゴロツキとか不良ばっかりなのは気のせいだと思いたい。

 一緒に付き合ってくれる花山さん達のチョイスだから仕方ないっちゃあ仕方ないが。

 というか、山崎やサブって本職の極道だし、絶対に狙ってやってるよなぁ。

 そんな過酷な修行を乗り越えたお陰で、昨日までは貧弱な坊やだった俺も今では筋肉ムキムキの細マッチョ。

 さすがに花山さんの握撃は真似できないけど、ヤシの実くらいは握り潰せるようになったぜ!!

 この努力が実った充実感、赤龍帝の籠手じゃあ絶対に味わえないわ。

 難点があるとすれば、会う人みんなが『誰だよっ!?』って聞いてくることくらいか。

 まあ、そんなこんなで少しは強くなれたと思う。

 あとは父さんたちを護れるように理想の一撃目指してまっしぐらだ!

 

 

 8月@日(晴 俺の心は嵐)

 

 ……サーゼクス様とセラフォルー様が魔王をクビになった。

 なんでも慎との約束を守るために一部の転生悪魔を地上に還した事と、悪魔の駒の使用禁止にしたのが原因らしい。

 『貴族の既得権益を犯した上に、下僕悪魔を政府に無断で解放した事で悪魔社会に多大な損害を及ぼした』

 なんてお題目で、サーゼクス様達とは別の魔王二人とほとんどの貴族連中の合意により、魔王の座を追われたそうだ。

 後任はルイとかいう悪魔が二人分の仕事をするんだとか。

 今回の事で、サーゼクス様が進めて来た転生悪魔廃止の動きは中止。

 地上に還るのを待っていた転生悪魔は再び貴族の元に戻る事になり、没収されていた悪魔の駒は改良が施された物が再配布されるらしい。

 ふざけんなよ、おい!

 このままじゃマジで慎と敵対する事になるじゃねーか。

 上の連中は分かってるのか?

 そうなったら条約を破られた天界や堕天使、多神勢力の神様達も攻めてくるんだぞ。

 悪魔だけでどうやって勝てってんだよ!?

 サーゼクス様は帰って来てから死んだみたいに眠ってるし、グレモリー家の雰囲気も滅茶苦茶暗い。

 尊敬する慎と敵対するのがショックだったのか、ミリキャスも寝込んじまった。

 本当にこれからどうなるんだよ……。

 

 

8月■◇日(くもり 俺の心は梅雨もよう)

 

 正直、気分が悪い。

 今日、若手悪魔の会合とかいうイベントに部長の付き添いとして行ってきた。

 参加していたのは、ウチの部長の他に支取会長と生徒会。

 アガレスとかいう家のお嬢さんとバアル家からマグダラン・バアルとかいうヒョロッこい兄ちゃんが出てた。

 このマクダランとかいう人、サイラオーグさんの弟らしい。

 部長が彼の事を聞いたところ、なんとお袋さんと眷属を連れて家を出奔したらしい。

 マクダランの兄ちゃんは『魔力も持たない欠陥品の負け犬が逃げ出したのさ!』なんて見下していたが、きっと違う。

 あの人、多分悪魔を見限ったんだ。

 前にあった時、生まれつき魔力が無かったせいで悪魔社会で迫害されてたって聞いたし。

 その上、極限流空手の総帥を父親同然に慕ってたお陰で、人間はすばらしいとか言ってたからなぁ。

 悪魔社会での人間の扱いとかに、思うところもあったんだろう。

 あと、サーゼクス様達の失脚に対しては、アガレス・バアル共におかしいとは思っていなかった。

 転生悪魔の解放による影響は軍事力や労働力の減少はもちろんの事、レーティングゲームの廃止とそれによる収益の消失に繋がる。

 さらに強力な他種族を下僕として従える事は貴族悪魔としてのアイデンティティーでもあるらしく、そういった貴族の既得権益を犯そうとした事も悪魔社会に重大な損害を与える事になる。

 転生悪魔の消失という悪魔社会の根幹を揺るがす行為を強引に推し進めようとした以上、サーゼクス様達の更迭は仕方がない事らしい。

 他の種族を下僕呼ばわりするのに思うところはあるが、それは置いておこう。

 サーゼクス様達の急な改革の原因になった慎の事について部長が話を振ると、マクダランのあんちゃんは嘲りの笑みを浮かべ、アガレスのお嬢さまは悔し気に顔をゆがめた。

 マクダランにしてみれば、慎は出来損ないであるサイラオーグさんに媚びを売る混ざり物だそうな。

 オーフィスに勝ったという話も当然の如く信じていなかった。

 対してアガレスのお嬢さまは、日本の領地(たぶん、そう呼んでるだけで不法に居座った土地だろう)にいた頃に眷属ごとまとめて叩き潰されたらしく、もの凄く忌々しそうに次は負けないと言っていた。

 多分、今闘ったら腕の一振りで全滅させられるだろうから、辞めといたほうがいいと思う。

 そんなこんなと雑談をしていると、式の時間がやってきた。

 お偉いさん方が取り囲む壇上に連れていかれて、部長を初めとした若手達が政府首脳陣に挨拶。

 それぞれに今後の抱負を発表したわけだが、最後にお偉いさん達がトンでもない事を言いだした。

 サーゼクス様の方針で休止していたレーティングゲームを再開する事、その第一試合として部長と支取会長の仕合を組むと言うのだ。

 今後の事を思うとそんな気分では無いのに、こっちの事はお構いなしに周囲は盛り上がる。

 そのうえ、俺を見る度にどいつもこいつも赤龍帝、赤龍帝だ。

 今の俺にとってドライグはただの疫病神と言うのもあるが、こっちの名前を聞いても赤龍帝呼ばわりしてくる奴にはどうにもむかっ腹が立つ。

 これはいったいどういう事なんだろうか?

 グレモリー邸に帰ってから『無限の闘争』に籠った俺は、すぐさま対戦を組んだ。

 何も考えられなくなるほど暴れて、この気分を吹き飛ばしたかったのだ。 

 対戦相手はなんと『皆殺しのトランペット』のオリジナルの使い手である壬生灰児。

 痛覚がマヒした奴との防御を捨てた乱打戦の末に、『皆殺しのトランペット』の強化版である『絶望の地下鉄』を食らって敗北。

 とはいえ、収穫が何もなかったわけじゃない。

 決まり手である『絶望の地下鉄』を修得できたし、そのおかげで俺が求める渾身の一撃が明確に見えた。

 レーティングゲームがある事だし、この技を完成させるために全力を尽くさないと。

 

 

8月$日(雨 心の中はタイフーン)

 

 『無限の闘争』で例の技の精度を上げていたら、ミリキャスから部長が呼んでいると声を掛けられた。

 呼ばれた場所に向かってみると、そこには巨大なドラゴンが。

 彼はタンニーンという転生悪魔で、元は竜王と呼ばれる強力なドラゴンだったらしい。

 用を聞いてみれば、俺がここにいると聞いたのでドラゴンとして鍛えてやろうと思ったんだとか。

 はっきり言って大きなお世話だったので、こちらが赤龍帝の力を使う気がない事を説明してお断りさせてもらった。

 しかし、むこうは納得がいかなかったらしく、俺を連れ去ろうと手を伸ばしてきたのだ。

 仕方が無いので、試作段階である新型の『絶望の地下鉄』をぶっ放したところ、腹に拳の型を残して吹っ飛ぶタンニーン。

 殴っておいてなんだが、唖然とする部長達と同様に俺もこれには度肝を抜かれた。

 俺が目指す一撃は、花山さんをリスペクトした拳一発に全力を込める物だ。

 しかしメインで使っている『皆殺しのトランペット』や『絶望の地下鉄』は、踏み込みによる加速がダメージ増大に一役買っている為に至近距離ではイマイチ威力にムラがある。

 その辺の改善に試行錯誤していたところ、修行に来ていた慎から『踏み込みの途中で急ブレーキを掛ける事で、加速と急停止の反動を拳に乗せる』という、神極拳の打法を教えてもらったのでやってみたのだが……

 うん、効果出すぎである。

 今思えば、全体重を乗せる一撃って事は重りの300kgも含まれてるんだよなぁ。

 そりゃあドラゴンだって吹っ飛びもするわ。

 ともあれ、この一撃でタンニーンは気を失ってしまったために、ドラゴンブートキャンプは始まる前から閉幕。

 悪い事をしたと思うけど、確かな手ごたえを感じられて嬉しかったのは内緒だ。

 

 

 8月●日(晴 俺の心も梅雨明け)

 

 ようやく……本当にようやく、俺の理想の一撃が完成した。

 初お目見えが警察車両(?)のポリタンクZというあたり、着々とアウトローに染まって来てると思う。

 『絶望の地下鉄』をベースに突進を一歩で止めてその反動を使う神極拳の打法、カズマからパクったシェルブリット(打つ瞬間だけ、右手に装甲が出るのだ!)を織り交ぜた一撃必殺の拳。

 赤龍帝の籠手に頼らない、俺自身が鍛えた俺だけの拳だ!

 決まれば、あの白龍皇にも大ダメージが行くと慎もお墨付きをくれたし、花山さんも合格点を出してくれた。

 後はこいつの習熟度を上げて、どんな状況でも撃てるようにしないとな。

 俺には当て勘や防御に対する才能は無いけど、修行や対戦で身体が妙に頑丈になったし、この頃痛みも鈍くなってきたから相討ち覚悟でぶっ放せば大体は当たるだろ。

 ともかく、これで『無限の闘争』での修行も一端は切り上げだ。

 そういえば、明後日には会長とのレーティングゲームがあるんだよなぁ……すんげー気乗りはしないけど。

 ゲームでタイトルを取るのが部長の夢だってわかってるけど、戦争間近の状況でこっちの事を見下したり赤龍帝としか見ない奴等の見世物になると思うと、やる気なんてプシューってな感じに抜けちゃうのだ。

 もう適当にヤラレてお茶を濁そうかな。

 ドライグの馬鹿とも冷戦状態で、籠手なんて全然出してないし。

 せっかく技が出来たのに、後の事を考えるとマジでヘコむ。

 やっぱ、俺って悪魔社会に馴染めそうにないなぁ……

 

 

 8月■$日(最悪)

 

 最悪だ。

 今日、部長から話を聞いた。

 日本が転生悪魔の排除に動き出したらしい。

 一か月以内の国外退去(駒王町在住の者は部長の管理権限が切れるまで)、それを破った場合は強制排除するらしい。

 転生を強制された者への救済措置として希望すれば人間に戻れるそうだけど、それだって2週間以内に返答を出さないといけないそうだ。

 この話は国会で正式に決められたもので、慎に掛け合っても覆すことが出来ない。

 そのうえ、この事で俺や会長の眷属の保護者達に裏の事がバレたらしい。

 法的措置を実行に移す為に、日本全国で確認されている転生悪魔の親族には裏の事情の説明が行われているんだとか。

 駒王で動いているのは慎らしいので悪し様に言われてはいないと思うが、それでも父さん達には知ってほしくなかった。

 『今後どうするか、しっかり考えて決めてちょうだい』

 という部長の言葉を最後に解散した後、俺は花山さんにこの件を相談した。

『本物の親を取るか、組織での親分を取るか。随分と難しい問いを出されたもんだな』

 小さくそう呟いた後、花山さんは俺の頭に手を置くと、少し強めに撫で始めた。

『……親への情と渡世の義理。難しい話だが、こいつはお前が決めなきゃならねぇ事だ。……だから、他人が言う小綺麗な言葉に飛びつくな。最後の最後までしっかり考えるんだ。……自分が納得しないと、きっと後悔するからな。……あと、自分の心に嘘をついちゃいけねぇ。誰かにいい顔がしたいとか嫌われたくないなんて理由で、自分の本音に背を向けてもよ、そんなもんは続かねぇ。限界が来て心が折れちまったら、今度は好かれたいと思ってた奴を恨んじまう。そんなのは格好悪いだろ。……侠が意地を通すなら、テメェに真っ直ぐじゃねえとな』 

 寡黙で普段はあまり喋らない花山さんが、懸命に語ってくれた言葉はひどく胸に染みた。

 省みれば家族と部長達、その両方を傷つけないようにしたいなんて考えが、オレの中にあったのだと思う。

 でも、それじゃあダメなんだ。

 今の状況で父さん達と部長、双方を掴めるほどオレの手は長くない。

 中途半端じゃ両方を失う事になる。

 だから、決めないといけない。

 どちらかを切り捨て、選んだ方を死に物狂いで守る覚悟を。

 気合注入という名のビンタを花山さんから貰ったオレは、顔に入りきらないモミジを貼り付けたまま、『無限の闘争』後にした。

 入れられた気合が強烈すぎて、足元が生まれたての子鹿みたいだったのは、秘密だ。

 

 その後、オレはドライグとも話し合った。

 気付いたのはつい最近だが、生まれた時から一緒だったのだ。

 喧嘩したままというのも寂しいだろう。

 やっぱりこっちの意志では神器は出なかったので、左手に何度か呼びかけたところ、手の甲の部分が緑に光ってドライグの声がした。

 ドライグはオレの中で修行を見ていたらしく、機嫌は前よりも上向きだった。

 だけど、その理由が白龍皇と闘う可能性が出てきたから、というのはいただけない。

 修行は自衛の為で、白龍皇となんて闘うつもりは無いと伝えると、ドライグの機嫌は急降下。

『赤と白の闘いは決着を着けなければならん! 

だから、奴が無視できない程に強くなれ!!』だの、『俺がお前の中にいる限り、闘いの宿命からは逃れられん。大人しく運命を受け入れろ!』などと怒鳴り散らした。

 正直ムカッ腹が立ったが、こちらがキレては前と同じだと思って根気よく話を聞いていると、ドライグにも余裕が無いことが分かった。

 どうもこいつは、ライバル関係であるアルビオンに大差を付けられた上に、眼中に無いかのような態度を取られたことに焦っているらしい。

 気持ちは分からなくもないが、こちらも譲れない事情がある。

 奴の都合には付き合ってはいられない。

 結局、話しは平行線に終わり、出た結論は

『俺が宿主である内は赤龍帝の籠手は使わないし、ドライグも力は貸さない』

『その代わりに、こちらが無用だと判断した戦いには関わらないし、安全に神器を摘出する技術が見つかれば、俺が赤龍帝の籠手を手放してもドライグは文句を言わない』

 というものだった。

 寂しくないと言えば嘘になるし、赤龍帝の籠手が無い俺にどれだけの価値があるか分からないが、互いに納得して出した答えだ。

 しっかりと受け止めて行こうと思う。

 

 

 

 

 

「うおおおおおっ!!」

 駒王町に現存する巨大なショッピングセンターを模した空間に、怒号と肉を打つ鈍い音が木霊する。

 一見すれば黒いカメレオンにも見える、デフォルメされた龍の頭を模したデザインの籠手を手に、次々と攻撃を繰り出す金髪の男は匙元士郎。

 そして、その猛攻を拙い防御でなんとか凌いでいるのは、兵藤一誠だ。

「どうした、兵藤! 赤龍帝の力ってヤツを見せてみろ!!」

 気炎を吐きながらも、右手に纏った自身の神器である黒の籠手『黒い龍脈(アブソーション・ライン)』で相手の右頰を打ち抜く匙。

 対する一誠は、クリーンヒットしたにも関わらず少しぐらついただけで、ダメージなど無いと言わんばかりにすぐさま反撃に打って出る。

 しかしモーションが丸見えのワイルドパンチはアウトボクサー顔負けのステップを駆使する匙を捉えることが出来ず、拳が空を切る間に更なる一撃が一誠の顔面に突き刺さった。

 匙元士郎は兵藤一誠の事が気に喰わなかった。

 元は女子高ということでただでさえ肩身が狭かった駒王学園での男子の立場を、悪友二人でやらかした女子更衣室の覗きやわいせつ物の持ち込みなどでさらに落とした事もそうだが、神滅具『赤龍帝の籠手』を持つと言うだけで裏の世界から一目置かれているのが許せない。

 これで何らかの活躍でもしていたのなら、不承不承ながらも少しは認めただろう。

 しかし、戦歴も非公式のレーティングゲームで、ライザー・フェニックスに敗北しただけだ。

 同時期に悪魔になり、なんの皮肉か同じ龍系統の神器を宿していた匙は、何かにつけて一誠を比較に持ち出された。

 そして、その話題を出す者の殆どは『赤龍帝の籠手』を重要視し、龍王とは言え五分の一しか持っていない匙を下に見たのだ。

 ソーナの付き添いで出会う裏の実力者にそう言われる度に、匙は唇を噛み、手の皮に爪が食い込む程に拳を握ることで悔しさに耐えて来た。

 中学時代は札付きのワルで通っていた匙にとって、変態三人組などと言われている一誠より下だと思われるのは、屈辱以外の何物でもなかった。

 だからこそ、このゲームが決まった時は誰よりも闘志に燃えたのだ。

 己の手で一誠を倒し、世間のイメージを払しょくする。

 ソーナに無理を言って格闘の教官を手配してもらったのも、その元で血の小便が出尽くす程に鍛えたのも、すべてはその目的の為なのだ。

 相手の異常なタフネスは少々予想外だが、手が無いわけではない。

 それを使う為にも、手数で翻弄する必要があるのだ。

「『赤龍帝の籠手』はどうした!? そんな素人パンチじゃあ俺は捕まえらんねーぞッ!!」

 一誠の事を煽りながらも、匙の頭はこの上なく冷えていた。

 表に出ていない神器の効果なのか、振るわれる剛腕も厄介だ。

 素人めいた大振りのお陰で躱すのは苦でもないが、砲弾が通り過ぎたような空振りの轟音からして、被弾などしようものならただでは済まないだろう。

 研究資料で見た試合のライザーみたいな再生能力を、匙は持っていないのだ。

 だがしかし、それでも匙は下がらない。

 自分の想いもあるが、ここで赤龍帝である一誠を落とせば、それは主であるソーナの評価につながる。

 彼女の力が新たになった上層部に認められれば、一度は断たれた『レーティングゲームの学校を作る』という自分たちの夢に一歩近づくのだ。

 試合前にソーナから受けた日本政府の対応が事実なら、自分たちの生きる場所は冥界になるのだから、そういう意味でも負けるワケにはいかない。

 一誠を中心に、円を描くようなフットワークでヒット&アウェイ戦法を繰り返す匙。

 威力は無いが絶え間なく襲い来る左ジャブに焦れた一誠が、背中が見えるほどに右腕を振りかぶったのを見て、その瞳に鋭い光が走る。

 空気の壁を叩き潰さんばかりに振るわれる、オーバースイングの右拳。

 当たればKO必至の強打を前に、匙の足は前に出る。

 顔面に向けて襲い掛かる剛腕をダッキングを使って紙一重で躱した匙は、反動に振る舞わされる形になっている相手の一点に向けて、渾身の右フックを放つ。

 弧を描きながら黒龍の籠手を纏った拳が食らいついたのは、一誠の右耳。

 次の瞬間、今まで小動しかしなかった一誠の身体が大きく傾いた。

『アンダー・ジ・イヤー』

 相手の耳の裏に拳を当てる事により三半規管に衝撃を与え、平衡感覚を狂わせるボクシングの高等技術だ。

「う……おぉ………!?」

「やっぱ、これでも倒れねえかよ……。だがなぁッ!!」

 己が意思に反しておぼつかない両足に戸惑う一誠。

「────これならどうだぁッ!!」

 その間に背後へ廻った匙は、その拳にありったけの力を込めて右ストレートを放つ。

 『黒い龍脈』の下で固く握りしめられた拳は、落とされたギロチンの刃のように無防備になった一誠の延髄に食らいつく。

 ゴッ! というひと際鈍い音が当たりに響き、匙が拳を振り抜くと同時に一誠の身体が前のめりに倒れる。

『難攻不落と思われていた赤龍帝の身体が音を立てて崩れ落ちたぁッ! シトリーの兵士、これは大金星かぁ!!』

 集中していた為に今まで聞こえなかった実況の声と共に、ゲームのバトル・スペースを覆う様に設けられた観客席を映すモニターから大歓声が木霊する。

(魔技『断頭』 上手くいきましたよ、教官)

 一誠を打倒した自身の右拳を見つめながら、匙は切り札を伝授してくれた教官に感謝の意を示す。

 『断頭』と名付けられた一撃は、背後からの攻撃を反則とする現代ボクシングでは絶対にありえない殺し技だ。

 相手の背後に回り込み、延髄に向けて拳を叩き込む。

 言葉にすれば単純だが、実戦の最中に相手の後ろを取ることや首に向けて正確に拳を打ち込む事など、この技を成立させるための難易度は桁違いに高い。

 またその殺傷力は凶悪で、人体の急所である後頭部、そして神経節の集合場所である延髄をダイレクトで殴打する為、食らった者の意識は容易く消失する。

 さらに神経や脳に損傷を及ぼす可能性も高く、相手の身体に重大な障害を及ぼすのはもちろん、最悪の場合は死に至らしめる場合もある。

 人間の力でこれだけの被害を及ぼすことが出来るのである、悪魔の身体能力でそれを行えば、結果は言うまでもないだろう。

 神滅具と龍王の欠片、明らかに格上を落とした匙のジャイアント・キリングに沸く実況と観客たち。

 騒音と言ってもいいほどの歓声の中、一誠はまどろみの中にいた。

 ここ最近、頻繁に味わったKOされた時の泥の中に引き込まれるような感覚。

 その中で彼は、忘れかけていた記憶を夢見ていた。

 

 

 

 

 …………そう。

 あれは高校に入る前の日の夜の事だった。

 話があるって呼ばれたオレは、1階の仏壇がある部屋で父さんと向かい合っていたんだ。

 この部屋の仏壇はオレが生まれる前からあった。

 小さい頃は写真のないこの仏壇が、誰の物なのかって父さんや母さんによく聞いたっけ。

 それで、その度に父さん達は少し悲しそうに笑いながら『一誠。これはお前を護ってくれる人のモノなんだよ』って言ってたんだ。

 けど、その夜は違った。

 父さんは自分用の焼酎を片手にオレにビールを勧めながら、この仏壇の由来を教えてくれたんだ。

 この仏壇は、オレが生まれる前に母さんのお腹に宿ったけど、生まれてくることが出来なかった姉さんや兄さんのものだったんだ。

 父さんが言うには、母さんは元々子供を宿しにくい体質だったらしい。

 それでも子供が欲しいと望んだ母さんは、不妊治療に挑戦した。

 長い時間と多くの金が掛かったけど、そのお陰で母さんは最初の子供を宿すことが出来た。

 それが俺の姉さんになるべき人だった。

 父さんと母さんは姉さんが生まれてくるのを本当に楽しみにしていたらしい。

 父さんはベビーベッドや赤ん坊用のオモチャを山ほど買ったり、母さんは婆ちゃんから産着の縫い方を教わって自分で塗ったりしていたんだと。

 でも、姉さんがこの世界で産声を上げることは無かった。

 母さんのお腹の中で十分に育つ前に身体の外に出てしまった姉さんは、乗った救急車が病院に着く前に息を引き取ったそうだ。

 それでも子供を諦めなかった母さんは、姉さんの事があった後も努力を重ねて再び妊娠する事に成功する。

 これが俺の兄さんになるはずだった人。

 でも、兄さんも父さんたちに抱かれることは無かった。

 詳しい事は教えてもらえなかったけど、兄さんは母さんのお腹の中で亡くなってしまったらしい。

 オレはそんな悲しい経験をした母さんたちが、ラストチャンスと決めた挑戦で生まれて来た子供だった。

 オレの名前『一誠』は「一番、誠実に生きてほしい」という父さんの願いの他に、生まれてくる事のなかった姉さんと兄さんに着ける筈だった名前から一文字づつ貰ってるんだ。

 『一葉』と『誠』それが俺の兄姉の名前。

 最後に父さんはこう言った。

「一誠。人間の命はな、思っているより儚いものだ。生まれてくる事が出来なかった子供もいれば、爺ちゃんみたいに昨日まで元気だった人があっさり逝っちまう。……もし俺になにかあったら、母さんを一人にしないでやってくれ。あの人はな、お前が思っているほど強くはない。すごく寂しがり屋なんだ。母さんが無理して子供を作ろうとしたのも、夫婦二人じゃ寂しいと思ったからなんだ。お前の将来を縛り付けるような事は言いたくないが、こんな事を頼めるのは息子だけだからな。大変だと思うが、頼む」

 酒で少し赤くなってたけど、見た事も無いくらい真剣な顔をした父さんの頼みをオレは受けた。

 零れ落ちそうな涙を誤魔化す為に飲んだ、人生初のビールは酷く苦かった。

 

 …………ああ、そうだ。

 どうして俺は忘れていたんだろう。

 こんな絶対に破れない約束を……。

 

 …………すみません、部長。

 貴女について行くことはできそうにありません。

 オレは家族を、命をくれた両親や名前を分けてくれた姉兄達を捨てる事はできないから……。

 

 

 

 

 大番狂わせで沸き立つ会場の中、匙は倒したはずの一誠が起き上がろうとしているのに気づいた。

 一誠が倒れていた時間は20秒ほど。

 ボクシングならば勝敗を決して余りあるが、この舞台はレーティングゲーム。

 審判がリタイヤと断じなければ、どれほどダメージがあろうとも続行である。

 起き上がり、凝り固まった首を鳴らす一誠の顔を見た匙は、緩んでいた気持ちを引き締めた。

 先ほどまで浮かんでいた憂いや迷いが、一誠の顔からきれいに消え失せていたからだ。

「随分とスッキリしてるじゃねえか。そんなに夢見が良かったかよ?」

 『そのまま寝ていればいいものを』という皮肉を込めた軽口に、一誠は口元を吊り上げる。

「ああ、大事な約束も思い出したしな。お陰で迷いが吹っ切れたよ」

「へぇ……。それで、お前はどうするんだよ?」

 一誠の迷いが日本の事だと当たりを付けた匙は、その結論を問う。

 好奇心も勿論あるが、一般人からの転生で男という自身と似たような境遇から、定めた道を知りたかったのだ。

「……日本に残る。部長に命を救ってもらった事には感謝してる。けど、両親を捨てる事は出来ない」

「……意外だな。スケベなお前の事だから、リアス先輩の色気に迷って冥界を選ぶと思ってぜ」

 匙の身も蓋も無い物言いに、一誠の顔に苦笑いが浮かぶ。

「否定できないところが辛いな。……匙、お前はどうするんだ?」

「決まってんだろ。どこまでも会長に付いて行くのさ」

「家族はどうするんだ?」

「俺の家族は弟と妹だけだからな、日本にいてもらう。それで会長を頭にガンガンのし上がって、あいつ等が一人前になるまで仕送りを送ってやるのさ」

「……今、悪魔の立場がどれだけヤバいか、解ってるよな?」

「ああ。けど、俺は会長とシトリーの家に助けられたんだ。あの人が悪魔に付くってんなら、俺に退く道はねえよ」

 そこまで口にすると、匙はファイティングポーズを取ってステップを踏み始める。

「そういう訳なんでよ、お前も出し惜しみしてないで『赤龍帝の籠手』出してくれや。さっきみたいに派手にブッ倒して、俺達の夢の踏み台にしてやるからよ」

「『赤龍帝の籠手』、ね。……匙、お前もそうなんだな」

「あん?」

 顔を俯かせた一誠の呟きに、匙は眉を顰める。

「こっちに来てからよ、誰も彼もがオレを赤龍帝としか呼びやがらねえ。それがどうにも気に入らなかった」

「何言ってやがる。『赤龍帝の籠手』を持ってるんだから当たり前じゃねえか。こっちの連中は日本から来た下級悪魔の素性になんて興味はねえからな」

「理屈は分かるさ。けど、納得はいかない。お前にもそういうの、あるだろ?」

「まあ、気持ちは分かるな」

「ずっと何でだろって考えてたんだけどよ、さっきその理由がわかったんだ」

「で、その理由ってなんだよ?」

 興味なさげに問いを投げた匙は、前を向いた一誠の顔を見て息を飲んだ。

 そこにはスケベでお調子者という、目の前の男のイメージを粉々にするほどの憤怒の形相が浮かんでいたからだ。

「オレの名前は兵藤一誠だ、赤龍帝じゃない。この名前は父さんが、生まれる事が出来なかった兄姉たちの名前から一文字貰って付けてくれたものだ。テメエ勝手な理屈で他人に迷惑しか掛けないクソドラゴンなんかと一緒にされちゃあ堪んねえんだよ! なのにどいつもこいつも赤龍帝、赤龍帝だ! ふざけるのも大概にしやがれってんだッ!!」

 ビリビリと空気を振るわせるほどの怒号に、モニター越しの歓声が止まる。

 一誠の言葉は無茶苦茶な理屈だった。

 しかし、それを聞いた者の多くは彼に共感を覚えた。

 よほどの事情がなければ、親から貰った名前に誇りを持たない者はいない。

 一誠が口にしたような事情があるならば、猶更だ。

 そんな大馬鹿な、それでいて真っ当な叫びを声を上げて笑う者ががいた。

 目の前に立つ匙だ。

「……いいねぇ。見直したぜ、兵藤。このギャラリーの前で無茶苦茶な事をぶちまけた上に、神滅具に宿る伝説のドラゴンをクソ呼ばわりするとはな。───さっきの言葉、訂正するわ。俺が乗り越えるのは赤龍帝じゃねえ、兵藤一誠って男だ」 

「そうはいかねえ。こっちもこれが最後の奉公だからな、負けて終わるのは御免だ」

 匙の宣言にそう返しながら、一誠は両腕を上げる。

 彼が取ったのは花山薫や壬生灰児と同じ、スタンスを広げ両腕を頭の横にあげる独特の構えだ。

「行くぞ、兵藤! テメエの意地、見せてみろやぁッ!!」

 気炎を吐きながら、地を蹴る匙。

 同時に一誠は背中が相手に見えるほど、大きく右腕を振りかぶる。

 両者の状況は対戦の序盤と同じ。

 あの時は一誠の右拳を匙がカウンターで切って落とした。

 では、今回はどうか。

 先程までのフットワークを捨てた匙が、一直線にお互いの射程圏内に飛び込んでいく。

 対する一誠は、鋭い視線を匙にむけたまま、彫像のように動こうとしない。

「カァッッ!!」

 気合一閃、加速の勢いを込めた渾身の右ストレートが一誠の顔面に突き刺さる。

 顔の中心を捉えた拳骨に押し潰された鼻っ柱から鼻血が飛び散る。

 だがしかし、拳を撃ち抜く事は出来ない。

 匙の放った一撃を一誠は首の筋肉だけで完全に受け止めたのだ。

 フェニックス戦を資料に一誠を研究していた匙。

 彼が見落としていたことが一つある。

 それは、一誠は『自身のテンションに大きく左右されるファイターである』という事だ。

 生来の激情家である彼は、物事に対する興味の度合いや気合の乗りで大きく能力が増減する。

 フェニックス戦で実力的に大きな差があるライザーに食い下がった事や、例えは悪いが駒王学園での覗き行為に対するバイタリティがそれを物語っている。

 そしてこの傾向は花山薫の舎弟となり、喧嘩師というファイトスタイルを選んだ事で大きく加速した。

 迷いを抱えたままだったレーティングゲーム序盤ならまだしも、匙の拳では今の一誠を単発で沈める事は出来ないのだ。

「見せてやるよ……」

 一誠の放つ刃物のような凄絶な眼光に射抜かれた匙が咄嗟に拳を引こうとするが、それは遅きに逸していた。

兵藤一誠(オレ)喧嘩面子(ゴロメンツ)ッッ!!!」

 匙が動きを見せるよりも速く、金色の装甲に包まれた拳がその顔面を捉えていたからだ。

 まるで爆弾が破裂したかのような轟音と振動。

 モウモウと撒き上がる粉塵が晴れた後には、コンクリート製の床に刻み込まれたクレーターと、その中心に上半身を埋めた匙の姿があった。

「ケジメは付けさせてもらった。……匙、お前は強かったぜ」

 右腕から剝がれて消える朱金の装甲を横目に、一誠は倒れた匙に言葉を投げる。

 シェルブリット

 一誠が『無限の闘争』で対戦した中でも、屈指の打撃力を誇るアウトロー『カズマ』の持つ能力だ。

 アルターと呼ばれる物質変換能力によって己が右手を装甲で鎧い、目標を叩き潰すというシンプルながら強力な技だ。

 本来なら背中に三枚の羽根状のパーツが展開され、それを消費する事で爆発的な推進力へと変換。

 その勢いのままに拳を放つのだが、アルター能力の適性が無い一誠では技の効果で右手に装甲を纏うのが精一杯だ。

 リタイア判定を受けて、転移陣の中で消えていく匙に背を向けた一誠は、仲間と合流する為に走り出した。

 匙との闘いは終わっても、ゲームはまだ続くのだから。

 

 

 8月■@日(気分晴れ晴れ)

 

 支取会長とのレーティングゲームが終わった。

 結果は俺達の勝利。

 序盤は本調子でなかった為に足を引っ張ってしまったが、匙にKOされかかった時に見た夢のお陰で迷いを吹っ切ることが出来た。

 その時、場の勢いで滅茶苦茶恥ずかしい事を言ったような気がするけど、関係者のみんなにはその辺はスルーしてもらいたい。

 なんにせよ、オレは進むべき道を選んだ。

 部長には逆縁を切るケジメをしっかり着けないといけない。

 まあ、まずは今日の説明会だな。

 父さんと母さんへの言い訳を考えとかないと…………。

 

 

 

 

「おーおー。スッゲーな、最近の若いモンは。ワンパンでビルのフロア一つを半壊させるかよ。オレちゃんには真似できねえわ」

 豪奢を極めた貴賓室の中に、場にそぐわない軽薄な声が響き渡る。

 燭台に灯った火が照らし出すのは三人の男。

 彼らが目を向けているのは、有能な若手と称されるリアス・グレモリー対ソーナ・シトリーのレーティングゲームだ。

「なるほど、この少年はかの喧嘩師の系譜か。他にも多くの力が混ざり合っているようだが、なんとも見事な物だ」

「この下級悪魔が気になるようでしたら、御前にお連れしますが。ルシ────」

「ユーグリット。今の私はルイ・サイファーだよ」

「……失礼しました」

 部屋の中央に置かれた玉座に腰かける最高級のスーツを身に纏った金髪碧眼の青年に、銀髪の執事姿の男が頭を下げる。

「パパも用心深い事だねぇ。偽名まで使って正体を隠すなんてさぁ」

「リゼヴィム。分かっているならその呼び方を改めなさい。それより、あの件はどうなっている?」

「……ああ、ヴァーリちゃんの事ね。いやぁ、なんとか顔を見せようと思ってるだけどさ、無限のアンちゃんの監視がキビシくてねぇ。こっちの事がバレても構わないってんならすぐにでも連れてこれるけど、どうする?」

「無用だ。彼とは言葉を交えたいだけなのでね」

 青年の言葉に、背後に控えていた銀髪の中年男性は『つまんねーな』と愚痴を漏らす。

「閣下、何故あのような混ざり者を気になさるのですか?」

「彼は『白龍皇の光翼』を極め、無限の龍神に匹敵する力を手にしている。理由としては十分だと思うが?」

 楽し気に表情を緩ませた青年が軽く右手を振るうと、先程とは別の投影画像が現れる。

 そこに流れているのは、姫島慎とヴァーリ・ルシファーの闘いだ。

「それに私がここにいるのは彼の功績だ。それについての謝辞も述べねばなるまい」

「はっ……」

 口を噤んだユーグリットからモニターに目を戻したルイは、玉座に深く腰掛けて頬杖をついた。

「さて二人共、少し席を外してくれないか。観戦に集中したいのでね」

「お待ちください。閣下の御身体はまだ安定していません。もしもの事があれば……」

「心配は無用だよ。この世界で最も親和性の高い彼を元にして、身体を造ったのだ。全力を出さなければ、今のままでも問題は起きないさ」

「そうそう。何の為に苦労してあのアンちゃんの細胞を手に入れたと思ってんだい」

「……承知しました。何かございましたら、お呼びください」

「ああ。……そうだ、天界の動きには眼を放さない様に。何かあればすぐに私へ連絡を」

「天界ねぇ。腑抜けになったいい子ちゃん達がナニカするとは思えないけどなぁ」

「腑抜け、か。それはどうかな」

「ん? なんか言ったかい、閣下?」

「独り言だ、気にしなくていい」

「……そうかい」

 柔らかい笑みを浮かべたままで真意が読めないルイ・サイファーの顔を一瞥し、リゼヴィムは部屋を後にする。

「では、失礼します」

 二人が部屋から姿を消した後、ルイ・サイファーは眼前に映る二つの激闘に口角を吊り上げた。 

「素晴らしい。あの非力だった子供達がここまでの力をつけるとは。やはり人の可能性は混沌の中で芽吹くという事か。ならば人の更なる可能性の為、この世界に混沌を振り撒かねばなるまい」

 楽し気に呟くその横顔に先程までの紳士然とした雰囲気は微塵もなく、その容貌は神話に語られる悪魔そのものだった。

     




 ここまで読んで下さって、ありがとうございます。

 一誠の決断を書かせていただきましたが、彼の苦悩や決意がうまく書けていたでしょうか?

 あと、悪魔へのカンフル剤としてもっとも有名な方に出張っていただきました。

 公式チートな方なので、プレッシャーはすごいですが、何とか頑張りたいと思います。

 それでは、今回の用語集です

〉忍法エロモーション(出典 ニニンがシノブ伝)
 音速丸が使用した強力(?)な忍術(?)。
 この術をくらうとエロくなり、女の子の着替えを覗きたくなるらしいが、 実際には・・・・
 MUGENでは、ピンクの空間が展開され、そこに上から降りて来たスクリーン越しに音速丸がエロく見えるポーズ(実際は全くエロくない)を取ることで画面全体に攻撃判定が出ると言う、名前に反して使用頻度の高い技。

〉花山薫(出典 刃牙シリーズ)
 板垣恵介の格闘技漫画『グラップラー刃牙』シリーズの登場人物。
 スピンオフ漫画『バキ外伝 -疵面(スカーフェイス)-』並びに『バキ外伝 創面(きずづら)』では主人公を務める。
 職業はヤクザであり、極道一家「花山組」の二代目組長である。
 見た目の特徴はその圧倒的な体格と顔面についた傷。トレードマークは白いスーツ。
  『刃牙』シリーズで登場する人物の中で、非常に人気の高いキャラの1人でもある。
 基本的には寡黙で無愛想。口を開く事は殆ど無いが、実際はとても優しく、面倒見の良い性格。
 近辺の住民達も、花山の優しい面を知っているので気軽に話しかけたりもしており、多少無礼な振る舞いをされたぐらいでは気にも留めない心の広さを持つ。
 格闘スタイルは、「素手喧嘩(ステゴロ)」。
 特定の格闘技どころか、身体能力向上のためのトレーニングすら一切行っていない。
 その在り様故に周囲の人間から「彼を見ると強くなるために努力するのは女々しいことだと思えてくる」と言われるほど。
 格闘技は使わない、というか知らないため、基本的によけや受けなどの回避行動を一切行わず、相手の攻撃を受けてから反撃する。
 「握力×体重×スピード=破壊力」という方程式で有名な「思い切り握った拳を思い切り振りかぶって思い切りブン殴るだけ」のパンチは、格ゲー界にも多大な影響を与え、ラルフの「ギャラクティカファントム」や、壬生灰児の「皆殺しのトランペット」などが模倣している。

 MUGENにおける花山薫はtokage氏が制作したものが存在している。
 『ミッシング萃香』を改造したらしく、そのため、とんでもない巨体を持つパワーキャラに仕上がっている。
 「しゃがめない」「ガードできない(しない?)」「自動で相手の方を向かない」と、その性能は格ゲーとしてはトンデモナイものだが、通常攻撃は全て削り性能付き(しかも1割半)で「握撃」はガード不能。
 「極道パンチ」は体力が少なくなりかつ3ゲージを消費するリスクを負うが、ガード不能の10割ダメージという一発逆転技となっている。

〉登倉竜士(出典 刃牙シリーズ)
 バキ外伝 疵面(漫画)の登場人物で、読みは「とくら りゅうじ」。
 通称『レックス』。
 花山 薫とはライバル(?)兼友人(舎弟)のような関係。
 17歳の男性。
 花山薫を凌ぐ巨体の持ち主で、巨大肉食恐竜ティラノサウルス・レックスにちなんだレックスの異名を持つ。
 風に吹かれただけで全身に痛みが走るほど重度の痛風を持っており、本来は17歳とは思えないほどに純朴で、争いを好むような人物ではない。
 しかし、ひとたび痛風の痛みを感じると、これを別の痛みで相殺させようと周囲の人や物を巻き込んで暴れまわる悪癖を持つ。
 巨体故にその攻撃力は凄まじく、素手で電車を半壊させてしまうほど。
 また、ダンプカーにはねられても平然としているタフネスを誇る。
 痛風の痛みを消してくれる攻撃をしてくれると考え、花山に挑んだ。
 MUGENでは花山のストライカーとして、画面狭しと暴れまわる。

〉九戸文太郎(出典 新豪血寺一族 闘婚 -Matrimelee-)
 『豪血寺一族』シリーズの『新豪血寺一族 闘婚 -Matrimelee-』より登場するキャラクター。
 あだ名は文ちゃんで、弟に九戸真太郎がいる。
 軟派な弟と違って熱血硬派な不良。
 強面だが純真で非常に涙もろく、感動するとすぐに泣き、感動アニメ(これとか?)を見るのが好きという一面を持つ。
 「オレ流」のカッコイイ髪型がご自慢で、馬鹿にする奴は誰であろうと許さない。
 一発奥義使用後にも「髪が乱れちまったぜ」ときちんと整えている。
 心の師は豪血寺一族皆勤賞の空手バカ、大山礼児。
 彼のストイックな生き様を、男として尊敬している。
 戦い方はヤンキーらしく喧嘩殺法。
 パンチ系の攻撃を得意とする弟に対して、文ちゃんは「激速!スライダー!」や「文ちゃんキック!」など蹴り技が主体。
 もちろん飛び道具なんて使わない。

〉草薙条(出典 痛快GANGAN行進曲)
 故ADKの破天荒格闘ゲーム『痛快GANGAN行進曲』に登場したキャラクター。
 二つ名は「本牧の赤豹」。
 真っ赤な短ランとトンガリ頭が特徴である本作の主人公。
 苗字が炎を操る某格闘家と同じだが、容姿は名前が同じのケツを見せて挑発するムエタイチャンプそっくり。
 なお、留年はしてない。
 華麗な技の数々で関東の並居る屈強な男達を倒し、関東で最強の男になる。
 もはや関東で敵無しとなり、日常に退屈を感じていた中、関西を半年で制圧した城所剛のことを知り、興味を持つ。
 あくまで剛とのタイマンを望む条は、幼馴染の相棒、勝男と共に大阪に乗り込むのだった。
 GANGAN必殺技は「友情の合体熱血パンチ」
  舎弟の勝男が前方にダッシュして、相手に触れると(ガード不能、ただし奥行きがあるゲームなので必中ではない)羽交い絞めをかけた上で、条に掛け声を掛ける。
 条は合いの手を返した後、髪の毛を櫛で整え、その後、連続パンチからアッパーを繰り出し、最後に2人でガッツポーズでキメと言う技。

〉メカ沢新一(出典 魁!! クロマティ高校)
 漫画「魁!! クロマティ高校」に登場するキャラクター。
 主人公の神山高志たち同様、不良高校クロマティ高校に通う高校生。
 アニメでは声を若本規夫氏が担当した。
 クロマティ高校に通う不良たちの中でも、もっとも義理人情に厚く男らしい硬派の中の硬派であり、皆に慕われている。
 そのドラム缶に適当な手足が取り付けられたような形はどう見てもロボットなのだが、なぜか神山たち以外はそのことに触れず普通に接しているため、神山たちも突っ込まないようにしている。
 そのうち彼について疑問をまったく持たなかったクラスメート達も、さすがに皆おかしいと気付きはじめたが、やっぱり突っ込まないようにしている。
 林田いわく、正体を言うのはメカ沢に対するイジメにあたるらしい。
 体は固いがかなり壊れやすいようで、よく壊れたり、体の形が変わったり、初期化されたり、しまいにバラバラになった挙句、バイクや冷蔵庫になったりすることも。

 MUGENでは、minoo氏制作の手書きキャラが公開されている。
 防御力が高く設定されていて、空中ダッシュが連続で入力できるという性能を持っている。
 CV若本だけあって攻撃時のボイスはバルバトスやブリタニア皇帝等といった若本キャラばかり。
 ジョニーの「それが俺の名だ」も使用することができ、その際に描かれる文字が「J」ではなく「M」になっている(KO時の断末魔もジョニーの声が使われている)。
 その他、若本キャラの技をいろいろ使えたりする。

〉城所剛(出典 痛快GANGAN行進曲)
 故ADKの破天荒格闘ゲーム『痛快GANGAN行進曲』に登場したキャラクター。
 主人公草薙条のライバルポジションのキャラクターで、下駄と青い長ランがトレードマーク。
 二つ名は『浪速のド根性男』。
 大阪生まれの大阪育ち。
 関西をシメた剛は、全国制覇の邪魔者となる関東のトップである「本牧の赤豹」草薙条打倒の旅に出る。
 GANGAN必殺技は「大阪名物うずしお崩し」。
 アッパーで竜巻を起こして相手を空中に浮かせた後、空中で相手を捕まえて着地と同時にバックブリーカーを決めるという技。

〉カズマ(出典 スクライド)
 テレビアニメ『スクライド』の主人公。
 CVは保志総一朗氏。
 インナー(ロストグラウンドの未開発地区)で自らのアルター能力を使い、専ら非合法の依頼を請け負う便利屋の少年。
 性格は身勝手で負けず嫌い。
 自分に嘘は付けず、短気で喧嘩っ早い。
 他者に媚びないが、由詫かなみを始めとした親しい者に対しては彼なりの優しさで接する。
 しかし、他者に甘えることを良しとせず、基本的に自らの掲げたルール・モラルにのみ従い、自分の始末は自分でつけるタイプ。
 人質を取られていようと相手の話を聞かず、いきなり攻撃をしかけた事も。
 元から強力なアルターを有し負け知らずだったが、ネイティブアルター狩りに出動した劉鳳に敗れる。
 それ以降彼をライバル視し、時にはその力を認めながら、急激に成長していく。
 拳の破壊力は元から強く、アルターに侵食された腕になってからはコンクリートさえ軽々破壊出来る。
 カズマのアルター「シェルブリット」は増加装甲のようなものが右腕全体に装着される、融合装着型アルター能力。
 形状が示す通り、単純に殴ることのみに特化しており、さらに肩部分に生成された三枚の羽を一枚ずつ消費(再度アルターを発動させるまで戻らない)することで、急加速しての攻撃を放つこともできる。
 MUGENでは、ジン・サオトメのドットを元にしたキャラが存在する。
 超必殺技はゲージ不要でいつでも放てるが、一試合三回までという制限がある(カズマのアルターの性能再現)
 更新により、2ゲージ消費でシェルブリット第二形態へとパワーアップ出来るようになった。

〉さぶ(出典 熱血硬派くにおくん)
 テクノスジャパンのアクションゲーム『くにおくん』シリーズの登場人物。
 新宿に本拠を置き、様々な組織犯罪を繰り返す悪質な暴力団「三和会」の組長。
茶色のスーツを着た中年男で、どうみても「その筋の人」である。
 『熱血硬派くにおくん』においてラスボスとして登場。
 アーケード版では、手下がくにおの親友ひろしをドスで一突きし、追ってきたくにおから逃げていく、という中間デモがある。
 一方、ファミコン版の場合はオープニングででひろしを車で連れ去り、くにおがバイクで追いかけるシーンが映し出される。
 原作では部下はドスを持って攻撃し、さぶは高校生相手に発砲する。
 当然、喰らえば一撃死である。
 見事撃破すると事務所外でひろしと握手し、他の熱血高校生徒達に拍手されるという大団円なエンディングを迎える。

 MUGENでは、or2=3氏のものが公開されている。
 元がベルトアクションだけあって技数はかなり少ないが、ちゃんと拳銃も撃てる。
 また、キャラクターの向きが設定されているため、自動で相手の方を向いてくれない。

 
 今回の用語集はここまでとさせていただきます。
 それでは皆様、次回でお会いしましょう。

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