今回は、新規メンバーの後始末等々を示した閑話です。
ここは駒王神社の社務所。
年季を感じさせる和室に置かれた机に、以前より少々痛みが増した日記帳が一つ。
表題の『駒王神社業務日誌』の文字は少し
◇
7月■●日(晴)
疲れた……超疲れた……。
今日は応援依頼をキャンセルして、お袋と新規参入メンバーの身請けについての説明行脚だ。
行き先はダーナ神族とオリュンポス、そして姫島の本家。
同行者はディルムッドとリリィ嬢の二名にした。
アナ嬢はポセイドンやアテナとの確執があるので、同行は無しにしてもらった。
アイルランドでは、ディルムッドの育ての親である妖精王オェングス様や海神であるマナナン・マクリル様が、再会できたことに無茶苦茶喜んでた。
リリィ嬢は平行世界のアーサー王、その不完全な側面という事であんまり話題には上がらんかった。
もっとも、たまたま居合わせたアーサーとルフェイ嬢に思いっきり構われてたが。
アーサーよ、お前が救いようのないシスコンなのは知っている。
しかし、鼻から愛を溢れさせながら『お兄ちゃんと呼んで下さい』などと
さて、今回もダグザ様の無茶ぶりが来るかと身構えていたのだが、なんと何もなかった。
むしろ俺が二人を身受けする事や、ディルムッドと主従契約を結んでいるのを歓迎して、酒宴まで開いてくれた。
あれか?
クーの兄貴も含めてダーナ神族と縁を結んで優遇されようとしてるのだろうか?
まあ、あの会議で三勢力への肩入れ具合を見せたから、その辺を狙うのは分からんでもないのだが。
なんにせよ、話がスムーズに終わったのはありがたい。
次にオリュンポスだが、話し合いは彼らの本拠地であるオリュンポス山の神殿で行われた。
個人的には冥府でハーデス様とサシで話を付けたかったのだが、こっちが話を持ちかけたのだから仕方ない。
神殿では居並ぶ神々の好奇や欲望にギラギラした目に晒されて、スンゲー居心地悪かった。
なので、俺の知己という事でハーデス様が会議を仕切ってくれたのは助かった。
さて話し合いの結果だが、オリュンポスへの応援依頼の優先度を上げるという事でカタが着いた。
ゼウス神やポセイドン神はもっと吹っかけたがっていたが、ハーデス様が愛剣を手に威嚇して止めてくれた。
そもそも、メデューサを初めとするゴルゴン三姉妹自体は、オリュンポスが台頭する以前に崇拝されていた土着の女神である。
それに加えて、英雄ではなくオリュンポスに恨みを持つ怪物の側面がある彼女を引き取ると言っているのだ。
オリュンポスに利がある現状からさらに吹っかけて、俺との関係を悪化させるのをハーデス様は嫌がったのだろう。
ペルセポネ様は怪物のイメージが先行したのか、引き取って大丈夫なのかと心配してくれた。
ああ、マジでこの夫妻がオリュンポスの良心だわ。
アナ嬢が女神の姿だと解った途端に自分が身受けするとほざいたポセイドン神や、会議の後に自室に来いとかブッこいたアフロディーテとはエライ違いである。
そして最後に姫島家だが、こっちに帰ってきた時には解決していた。
なんでも、ウチに来た爺ちゃんと婆ちゃんが朱乃姉に土下座で今までの事を謝罪。
お袋の取り成しもあって和解が成立したとか。
俺達があれだけ言ってもまったく効果が無かったのに、お袋相手だとどんだけチョロイんだ、朱乃姉。
まあ、学校で会った時に爺ちゃんが謝らなかったのは、お互いの立場故だったしな。
あの時はジオティクス小父さんやサーゼクス兄がいた為に、互いの立場が『祖父母と孫』じゃなくて『グレモリー家の一眷属と姫島家の先代当主』という形になってしまっていた。
さらに言えば、朱雀さんに当主の座は譲ったものの、世間には今も爺ちゃんが姫島の顔だと思われている。
事情はどうあれ、そんな爺ちゃんが公衆の面前で悪魔の一眷属に頭は下げられない。
バカバカしいと思うかもしれないが、こういう面子というのは組織には必要なのだ。
だからこそ、朱乃姉と爺ちゃん達を会わせる時が来たら、『公』ではなく完全な『私』の立場としてお願いしようと思ってたのだが。
なんにせよ、うまくいったのはめでたい。
これで俺の胃も救われるだろう。
もっとも、『
追記 ────本日の千人組み手────
対戦相手:鬼巫女
ついにMUGENの屈指のイカレキャラに挑戦だ! と思ったら、黄金の賽銭箱が現れて『キングクリムゾンッ!!』という声と共に意識が消えたでござる。
うん、意味が解らない。
観戦していたヴァーリ曰く「トンでもねえ! 急に死におった!?」との事らしい。
そういえば、将軍様が言ってた。
「神」ランクと闘うときは、因果律操作が最低限の必須項目なんだって。
はははははっ!! …………笑えよ。
7月■☆日(雨)
────本日の千人組み手────
対戦相手:デススター
戦闘力がフリーザ様に迫ったことだし、俺もそろそろ惑星破壊に挑戦しようと思う。
対戦相手はスターウォーズから惑星兵器の『デススター』
本物の惑星じゃないから大丈夫! と気合を入れたのもつかの間、デススターの直径と同じくらいのゴン太ビームによって消滅した。
全力全開の天地神明掌で1パーセントくらい外殻が削れたのが戦果とは、どうやら俺はZ戦士には程遠いらしい。
今回の発見は、宇宙空間でも問題なく活動可能なのがわかった事か。
あとは、生身で大気圏突入に耐えられれば、『江田島塾長』や『ザ・松田』のようになれるだろう。
高天原から応援と転生悪魔の対処依頼が山のように来ていた。
たった一日休んだだけなのに、なんでこんなに忙しいのか。
相変わらず、ウチの職場はブラックである。
さて、本日は中東から南米、中国を巡る事になった。
中東ではシュメール神話の神々が、テロ対策でハッスルしてた。
『禍の団』を追っ払えば追っ払うほど信仰が上がるんだから、張り切るのはわかるけど。
あと、イシュタル様に下僕になるか宝石を貢ぐか選べとか言われたので、『フハハハハハハッ!
まあ、事情を知ったアヌ様が謝って来たので外交的には大丈夫だろう。
次の南米ではケツァル・コァトル様にルチャ勝負を挑まれたので、炎を纏った変形パイルドライバーを順逆自在の術で返して地獄風車落としで勝利。
試合後に「あんな手品、ヒキョウでース!」とクレームが来た際、心の中で思わず同意してしまったのは内緒だ。
しかし、そこから30人転生悪魔を治療させられるとは思わなかった。
駒落とし三十連発とか、並の術師ならミイラになってんぞ
陽気なツラしてえげつないな、あのラテン系。
最後に中国。
テロ屋共がクソ広い国土で広域展開して攻めて来た所為で一時は手が回らなくなるところだったが、奴等に同行していた英雄派が上手く内部かく乱してくれたお陰で事なきを得た。
実はこの英雄派、実は各神話勢力が『禍の団』に送り込んだスパイだったりする。
主な後ろ盾は関帝聖君様と
自身の宿す神滅具『
そんな英雄派の目的は『自分たちのような人間を生み出さない事』
多神勢力の応援を初めて間もない時に、帝釈天様から紹介されたのには本当に驚いた。
その際にオーフィスに協力していた事を聞いてみると、どうも俺の事を感づいた奴によって無理やり従わせられていたらしい。
あのウザい演技はスパイだとバレない為の工夫で、オーフィスを逃がしたのも『オーフィスを失う事で、禍の団が空中分解するのを防ぐため』だったそうだ。
まあ、せっかくスパイとして入り込んだのに、空中分解なんてされたらタマらんわな。
それ以来、チョコチョコ現場で会っては協力する関係になっている。
そんな彼らの悩みは人員が不足している事だそうな。
なんでも上級悪魔と闘り合えるのは、曹操とゲオルク、北欧神話の英雄であるシグルドの末裔のジークフリートにジャンヌ・ダルクの魂を受け継ぐ女性ジャンヌくらいなんだと。
今日も仕事が終わった後で、愚痴られてしまった。
……アルケイデス、紹介してやろうかな。
7月■▼日(雨)
────本日の千人組み手────
対戦相手:将軍様
キン肉マンとの戦いに備えて将軍様と対戦。
将軍様曰く、今日は因果律操作の方法を身体に教え込むとの事。
この時点で嫌な予感しかしなかったが、ふたを開けてみるとやはり地獄モードだった。
本気になった将軍様はマジでヤバい。
どのくらいヤバいかと言うと、まずこっちの因果を操作されるので打撃が当たらない。
ならばと組み付いてみれば、常時順逆自在の術が自動発動しているような感じで、技が全て跳ね返ってくる。
将軍様が言うには、『通常ランクと神ランクでは勝負にならないのは、通常ランクの者が常に神ランクに因果を握られているから』だそうだ。
その後に『その気になれば、相手の因果を死という形に書き換えて、触れずして即死させる事も可能』と続けられた時には、さすがに言葉が出なかった。
というか、実際にやられたし。
そこから同じ方法で20回ほど殺されては挑戦するという、強制デスマラソンの開始である。
まあ、お陰で漸く自身の因果を操るコツを掴む事ができたが。
そも、『真人』の条件の一つである『内功の究極』は、自身の中に広がる宇宙を掌握することにある。
自分の中に広がる宇宙とは、それ即ち己が因果を指す。
つまり、内功を本当の意味で極めれば、自身の因果をモノにする事も可能という事だ。
今まで散々使ってきたけど、まだまだギースの猿真似に過ぎなかったわけだな。
こうしてポルナレフ状態で死ななくなった事に調子に乗っていると、進化型地獄の断頭台で一撃死した。
ダイヤモンドを超える強度のロンズデーライトに身体を変えた上に、地獄の断頭台で首に掛かった左足に更に右足と右肘を乗せることで威力を倍化する凶悪仕様。
即死して分からなかったが、食らった時にこっちの首が飛んだのではなかろうか。
こんなオーバーキルな技を開発するとは、さすが将軍様。
というか、誰に使うつもりなんだろうか、これ。
仙豆っ! 食わずにはいられない!!
オリュンポスの神は他人に迷惑を掛けないと死ぬ病気にでも
鍛錬を終えて出張の準備をしていると、天照様に呼び出された。
高天原に行ってみると、天照様とハーデス様、日本の海神である
この時点で大体の察しがついたが一応話を聞いてみると、ポセイドン神……もう呼び捨てでいいや。
ポセイドンが大綿津見神様の娘である、
玉依毘売様というのは、初代神武天皇陛下の母親である。
幸い、寸でのところで大綿津見様が止めたので一線は超えなかったが、強姦に近い形で関係を迫ったそうだ。
その話を聞いた瞬間に、ポセイドンの顔面にヤクザキックを叩き込んだ俺は悪くない。
父親である大綿津見様はもちろん、今回の件を聞いたハーデス様と天照様の怒りは凄まじいものだった。
ハーデス様は高天原の神殿であるにもかかわらず、愛剣を抜き放って『首を出せぃっ!!』とポセイドンを斬首しようとし、天照様もそれを止めようとしなかった。
やった事は心底クズだが、こんな男でも地中海を治める神である。
さすがに死なれるのは拙いのでハーデス様を止めると、何故か俺がポセイドンと闘う事になった。
天照様曰く『試合と言っても
要するにリンチですね、わかります。
ポセイドンが視線で断るように念力を飛ばしていたが、何かと世話になっている二柱に頼まれてはノーとは言えない。
断じて、ファイトマネーの三億円と神社の母屋を増設する権利に目が眩んだわけではない。
7月▲◇日(雨)
本日の千人組み手はお休みである。
その代わり、先日の件で対オリュンポスのエキスパートに稽古をつけてもらった。
その相手とは、言わずと知れた『スパルタの亡霊』クレイトスさんである。
対戦相手に指定して事情を説明すると、彼は二つ返事で快く引き受けてくれた。
さすがは単身でオリュンポスを滅ぼしただけはある。
さて、諸君。
彼の母国であるスパルタとは、スパルタ教育の語源となる程に厳しい訓練が横行した国である。
何でも生まれた赤子が虚弱や奇形だったりした場合、谷に捨てる風習があったとか。
当然ながらクレイトスさんとの実戦訓練は、それはそれは厳しいモノだった。
ある時は平行世界のヘラクレスから剝ぎ取ったライオンの頭部を模したガントレットと殴り合い、またある時はステージに自然発生していたゴルゴンを武器にして戦った。
その際に相手が投げて来たゴルゴンの頭を別のゴルゴンを振り回してホームランするという、全く新しいスポーツを考案してしまったが、どうでもいい事だ。
まあ、そんなこんなで三戦三勝したお陰で取り敢えずの合格は受け取る事ができた。
懲罰仕合で万が一にも負けたら本気で格好がつかないので、これで一安心である。
7月▲☆日(雨)
────本日の千人組み手────
対戦相手:HIGE
本日の対戦相手は、MUGEN屈指のネタキャラと名高いHIGEである。
このHIGE、元は『キングオブファイターズ2000』のラスボスである『クローンZERO』の改造キャラなのだが、原型を留めないくらいに過剰なネタ改造を施された為に、別キャラ枠で登録されている猛者だ。
開幕からGGのディズィーのパクリか、背中から生えたウンディーネに抱かれて登場してきた。
怪しい黒のバトルスーツを着たオールバックに髭の厳ついおっさんが、青白い女神像に姫抱きされる構図は全く似合っていない。
あと、いちいち発光するな。
さて、肝心の試合内容だが、もはやカオスの一言である。
K9999の『月・・・』モドキを出して来たり、幻影ハリケーンをパクり……いやオリジナルZEROが攻撃してたからパクリじゃないのか?
あと、ザ・ワールドらしきスタンド呼んだり、ロードローラー持って振ってきたり、サイコクラシャーしたり……って、ほとんどパクリじゃねーか!
元の技が『
それと、
あ、試合結果?
ベネット面のドアップの後でブッパなしてきたスーパー稲妻キックで負けたよ、チクショウ!!
というか、そこだけ声が『タカヤ・ノリコ』になるとか、いい加減しろっ!!
取り乱して済まない。
さて、先日の特訓の成果が出たのだが、エラい事になってしまった。
武器が使えない俺は、剣士を初めとした武器格闘家とやり合った際は、技ではなく使っていた装備や特殊スキルといった別のモノを得ている。
今回のクレイトスさんも例に漏れず、彼の保有する特殊スキルを一つ修得できたのだが、それが問題なのだ。
そのスキルとは『オリュンポス特攻』
『オリュンポス特攻』である。
大事な事だから二回言わせて貰った。
正直、『無限の闘争』で自身のステータス確認した際に、これを発見した時は目ん玉が飛び出るかと思った。
こんなスキルを修得したとあっては、俺がオリュンポスに敵意を持っていると誤解されかねない。
とはいえ、これがポセイドン戦で有効なのもまた事実。
仕方が無いので、ハーデス様に事情を説明して今回だけ使う事を許可してもらった。
スキルがRPGや何かみたいに表示される訳が無いのでバレないとは思うのだが、万が一千里眼なんかの能力持ちに発見されたら面倒極まりない。
事前に先方に報告しておくのが一番である。
今日の業務はテロが無かった事と、転生悪魔達が徐々にハケテきたお陰で半ドンですんだ。
久々のOFFに鼻歌交じりで帰ってくると、来客があった。
社務所に待たせていると言うので行ってみると、そこには銀髪の俺より少し年上の外国人女性がお茶を
彼女の名はロスヴァイセ女史。
北欧神話において勇者をヴァルハラに導く役目を持つヴァルキリーで、オーディン様の付き人だったらしい。
なんでも
うむ、ここで心の一句『ちょっと待て、そんな話は、聞いてない』
たぶん前に話した嫁関連で断ったから、彼女を
オーディン様の思惑に乗るのも
こちらとしても情に絆されてズルズル採用するのは避けたいので、夕方に一個人ではなく事業主として面接を行った。
実質4時間程度しかなかったのに履歴書や職務経歴書、就労ビザ等々の書類を揃えてビジネススーツに身を包んで訪れた彼女は、オーディン様の付き人をしていただけあって優秀な人材だった。
再開したばかりの万屋は経理がいない状態だったので、採用してそっちに付いてもらう事に。
正直、俺と美朱のどんぶり勘定だったので本当に助かった。
あ、社宅は神社の母屋の隣にカプセルハウスで建てました。
7月▲●日(雨)
────本日の千人組み手────
対戦相手:マジンガーZ
恒例になりつつある巨大キャラ対決、今回は日本が誇る元祖スーパーロボット『マジンガーZ』である。
『鉄の城』の異名は伊達ではなく、界王拳全開で殴っても装甲が凹む程度のダメージしか与えられない。
さすがは超合金Zと言ったところだろう。
力押しでは分が悪いのが解ったので浸透勁による内部破壊に戦法を変えると、相手の動きが目に見えて悪くなった。
いかにスーパーロボットとはいえ、内部には精密機械を積んでいる。
超合金Zの守りを擦り抜ける鎧通しや浸透勁は、マジンガーZの天敵と言えるだろう。
舞空術で向こうの鉄拳を躱しながら十数発目の浸透勁を打ち込むと、ついにマジンガーZは膝を付いた。
これならやれるか、とトドメの一撃を放とうとしたところ、Zの身体からまばゆい光が立ち昇った。
膨大なエネルギーを込もった光の柱が消えた後に目の前に現れたのは、マジンガーZとは似ても似つかない凶悪な魔神だった。
いやいや、マジンガーZが変身するとか聞いた事ないんですけど。
その後の戦いは悪夢の一言だった。
パンチは地を割り、身の丈ほどの巨大な刃を供えたアイアンカッターを飛ばす魔神。
狂雷迅撃掌を放っても何かに操られた様に全て的を外し、接近戦で打撃を放ってもあの図体にも関わらず掠りもしない。
まさかの因果律操作に気付いて、覚えたての防御を行うも後の祭り。
ヴァーリの炎殺黒龍波なんて比じゃないほどのブレストファイアーで消し炭なりました。
いったい、あの凶悪な魔神はなんだったのか。
さて、今日はポセイドン戦である。
朝一で負けた事を思えば縁起が悪いことこの上ないのだが、ここ最近はいつもの事である。
「貴様を倒して、私の偉大さと身の潔白を証明してくれるわ!!」
などとほざいて海水と甲殻類、シーホースで神話の怪獣スキュラのような巨体に変ずるポセイドン。
奴は甲殻類の足が付いた触手と甲羅で出来た巨大な三叉槍を振るって雷撃を放つが、魔神はおろかマジンガーZよりも全然遅い。
三叉槍を拳で砕いて触手を引き千切り、海水に雷光を叩き込んでやると動きが止まったので、心臓部の甲殻を叩き割って本体を引きずり出した。
ちなみにここまでで掛かった時間は僅か三分である。
はっきり言って弱すぎる。
これがオリュンポス特攻の成せる技なのだろうか。
崩れ、海水に戻っていく海の鎧を背に蹲るポセイドン。
こうも容易く、しかも一方的に負けた事で、奴のプライドも立場もガタガタだ。
懲罰という意味ならこの辺で十分だと思ったのだが、大綿津見神様や天照様、ハーデス様は許してはいないようだ。
いや、三人して首を掻っ切るジェスチャーせんでもいいがな。
被害者と責任者が許さんというのならば仕方ない。
という訳で、ぐったりしているポセイドンを起こして、首相撲からのムエタイ式膝地獄を開始。
この際にどこからともなく、クレイトスさんの処刑BGMが流れてきたのは気のせいだと思いたい。
さすがに可哀想なので手加減したけど、ゲロやら鼻血やら撒き散らしてエライ事だった。
最後は相手が大と小を垂れ流して失神したところで試合終了。
別段疲れていないけど、やっぱ後味悪かったなぁ……。
8月●日(雨)
今日は久々にキレた。
英雄派のリークした情報で冥界の大王派の貴族領地にある『禍の団』の施設に忍び込んだのだが、そこでは心底胸糞の悪い研究がなされていた。
奴等、俺のクローンを作ろうとしてやがったのだ。
オーフィス戦か駒王会議の時にでも、俺の血か何かを採取していたのだろう。
俺と玉藻が研究ラボに乗り込んだ時には、白衣を着た悪魔が首が座ったばかりの赤子を、ミキサーのような機械の中に放り込む寸前だった。
その悪魔はミキサーのような器具が如何に鋭く痛いのかを赤子に自慢していたので、奴自身に味わってもらう事にした。
機械に頭を突っ込んで血飛沫を上げながら『ホントに痛てえぇぇぇぇっ!?』と断末魔を上げる男を尻目に、保護した赤子を抱きながら周りを調べると、反吐が出るようなものがズラリと並んでいた。
ホルマリンに漬けられた人間とは呼べない奇形の胎児の標本に、赤子の物と思われる解剖された臓器や骨格。
培養カプセルと思わしきものの中で腐敗した、乳児の遺体なんかもあった。
しかも死臭に加えて怨念や穢れも蔓延しており、玉藻が気分が悪そうにえずいていた。
そんな中で培養カプセルで唯一息があったもう一人の赤子を助け出し研究データを確認したところ、ここで生み出された赤子が全て俺のクローンであることが判明した。
オーフィスが敗北した事を知った『禍の団』の上層部が、俺への対抗策兼自身の言いなりになる無限を作ろうとしたらしいが、生憎と奴等は俺の力の本質を分かっていなかった。
俺の力は才能ではなく努力。
『無限の闘争』で積み上げた血と汗と涙によって成り立っているのだ。
俺の生来のスペックなどたかが知れている。
その事に気づかなかった奴等は人間とほぼ変わらない能力の子供達を失敗作と断じて、試行錯誤を繰り返しながら次々とクローンを生み出していった。
その数は126人。
しかも失敗と判断された子供たちは、先程のクソがやろうとしたようにゴミ同然に処理されたらしい。
いくら温厚な俺でもこれにはブチキレた。
吹っ飛びそうな理性をギリギリで抑えながら、玉藻にデータのコピーを指示してラボ内に彷徨う子供の霊を
結果、研究所は消滅。
その余波で周囲の地形が変わったらしいが、そんな事はどうだってよかった。
さすがにここまでの騒ぎを起こせば冥界政府も気付いたらしく、暴れ終わった後にサーゼクス兄が来た。
俺がマジでキレているのに気づいたサーゼクス兄は、包囲していた軍を下がらせた。
サシで事情を聞いてきたので、クローンの事をボカして『禍の団』の違法研究施設があった事を説明。
それを聞いた時、何か言いたそうにしていたが知らん。
ともあれ、不問にするとの言質をもらったので、瞬間移動で家に帰っていた玉藻と合流し、赤子二人を病院と高天原で検査してもらった。
あれだけ劣悪な環境にいたにも拘らず、結果は二人共健康で異常は無し。
しかも、何と一人は女の子である事が判明した。
俺のクローンなのに女が生まれるとはどういう事か。
その後、二人を家に連れて帰って家族と同居人全員に説明。
ウチで引き取りたい旨を土下座でお願いしたところ、全員一致で快諾してくれた。
皆曰く『俺から生み出されたのなら、この子達はウチの家族だ』との事。
朱乃姉も抵抗なく接してくれているし、親父は変わらずのデレデレぶり。
美朱も下の兄妹が出来た事に随分とはしゃいでいた。
戸籍云々の件で爺ちゃん達に連絡したら、あっという間に飛んできて『新しい孫はどこじゃ!?』とか騒ぎ出すし。
受け入れられるかどうか不安だったので、この展開には本当に驚いた。
やはり、俺は家族に恵まれているようだ。
今回の件を天照様に報告するのは明日にして、赤子達が泣きだす前に命名権で言い争ってる親父と爺ちゃんを止めるとしよう。
◇
日誌の記述はここで終わっている。
ここまで読んで下さってありがとうございます。
今回は、駆け足方式で夏休み前半に起こった事を並べてみました。
次回に2・3話、別の話を書いて6巻の話に入りたいと思います。
どうか、お付き合いくださいますよう、お願いいたします。
さて、今回の用語集です。
〉オェングス(出典 ケルト神話)
ダグザの息子にして、ケルト神話の愛と若さ、美を司る神。
黄金でできた竪琴を持ち、口づけが小鳥になり、小鳥のさえずる声が若者の心に恋心になって飛び込んでいくという。
オェングスはダグザの王宮を得て、妖精国の王になった。
ディルムッドに愛の黒子を送ったのも彼である。
〉マナナン・マクリル(出典 ケルト神話)
ケルト神話に登場する神。
海神・魔術師であり、マン島(グレートブリテン島とアイルランドに囲まれたアイリッシュ海の中央に位置する島)に深い縁を持っている。
後に養子であるルーに与えられた、決して的を外さない十字剣フラガラッハのほか、炎の兜、真実のゴブレット、および魔法の船「静波号」など、多くの魔法の品を持っていた。
〉鬼巫女(出典 MUGEN 東方project)
突如MUGEN界に降臨した、幻想郷最強にして最凶の怪物。
正月に賽銭が集まらないことにブチ切れダークサイドに落ちた博麗の巫女の事を指す。
古参の『神』キャラであり絶対的な強さを誇り、この状態の彼女に戦闘で敵う者はおろか、戦いになる者すら希少。
〉デススター(出典 MUGEN スターウォーズ)
映画『スター・ウォーズ』シリーズに登場する敵軍「銀河帝国」の最終兵器、宇宙要塞デススター。
宇宙を独裁する銀河皇帝パルパティーンの右腕・ダース・ベイダーが指揮を執り、主人公ルーク・スカイウォーカーら抵抗する同盟軍を殲滅するため機動する。
惑星を跡形もなく破壊してしまうスーパーレーザー砲を持ち、レイア姫の育った惑星オルデランを消し去った後、同盟軍の重要拠点であったヤヴィン第4衛星に侵攻。
同盟軍はレイア姫が入手した設計図を基に、デススターの動力炉に向けて排熱口からプロトン魚雷を撃ち込んで内部から破壊しようと試みる。
ダース・ベイダー率いる戦闘機部隊との激しい攻防の末に、ルーク・スカイウォーカーが動力炉にプロトン魚雷を直撃させたため、デススターは宇宙のチリとなった。
MUGENにおいても、直径120kmの巨大さと一撃で地球規模惑星を破壊するスーパーレーザー砲を搭載したこの死の惑星は、恐ろしい強さを誇る。
格闘家が体一つで地球を破壊せしめるデススターに挑む光景は、何か間違っている気がしないでもないが、これがMUGENの面白いところである。
〉HIGE(出典 MUGEN)
HIGE(mugen)とは、MUGENのゼロ(KOF)の改変キャラクターである。
開幕前自爆、パロディなどネタに特化しているキャラでありながら最弱カラーで攻撃性能は凶上位クラスを誇る。
更にイントロ演出が分かっているだけで最低10個、勝利・敗北演出の合計はそれを上回る可能性もある。
ゲージは最大10ゲージ存在し47種の超必殺技を保持。
正直、訳が分からない。
一度、対戦動画を見てもらえばわかると思うが、師範に匹敵するほどのネタっぷりで、今もMUGEN動画のユーザーの腹筋を崩壊させている。
今回はここまでとさせていただきます。
また次回にお会いしましょう。