MUGENと共に   作:アキ山

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 お待たせしました、19話の完成です。
 しかし、未だかつてない筆の進み……やはり北斗ネタは偉大である。

 ところで、2話前に『自害せよ、ランサー』のネタを盛り込んだのですが、この度MUGENの槍ニキにも自害機能が実装されました。
 これが幸運Eの実力というものか……


19話

 夏の日差しも姿を顰め夜の帳が降りた頃、俺は駒王学園の本校舎の職員会議室の扉を潜った。

 そこには学校の一室に似合わない豪華絢爛な円卓が中央を占め、その後ろには同程度の机と椅子が並べられてる。

 分けられた区画(まい)に神話勢力の名が書かれたプレートが立っている事から、ここが来賓(らいひん)席なんだろう。

「各神話の主神を迎えるにしては、随分とみすぼらしい場所ですねぇ」

 俺の後から室内に入った玉藻が、呆れたようにため息をつく。

 たしかに言う通りなのだが、ただの学校に華美を求めるのは酷というモノだろう。

 個人的にはそんな場所よりもこっちのほうが落ち着けるし。

 今回俺の席はこの来賓のはずなので、自身の名前が付いた机を探していると、金の冠と仏僧衣(ぶっそうい)を身に纏った男が現れた。

 アメン様や天照様によく似たこの感じ、もしかしてこの方は……

「初めまして、大日如来様。私は姫島慎と申します」

「……驚いたな。一目見て私の名を看破するとは」

「太陽を司る神仏に縁がありまして。その方々と同じ気配と仏僧衣から推測しました」

「鋭いな。さすがは『無限』の力の保有者というところか。名乗りが遅れて失礼した、私は大日如来。仏法において責任を担う立場にいる者だ」

「よろしくお願いします」

 差し出された手を握り返すと、大日如来様は感心したように声を上げる。

「なるほど……よく鍛えている。『無限の龍神』を下したのは単純な力だけではないようだ」

「力だけならあちらの方が上でしたよ。俺が勝ったのは人が編み出した武術によるものです」

「そうか。人の理を持ってあの龍神を退けるとは、さすがは人中の『無限』よな。其方とは良き関係を結びたいものだ」

「恐縮です」

 ここで俺は駒王監査官の業務で、仏教関係者に頼みたい案件がある事を思い出した。

「大日如来様。会って早々で不躾(ぶしつけ)なのですが、お願いしたいことがあるのです」

「ふむ、聞こう」

「私が監査役を務める日本の領土で、転生悪魔を一名保護しました。彼は私達が発見した時には異形と化しており、それまでに人を一人殺めていたのです」

「俗に言う『はぐれ悪魔』というモノだな」

「ええ。人に戻った彼はその事を心底悔いており、遺族への謝罪を終えた後でも仏門に入って生涯を掛けて被害者を弔いたいと申しております。ですが、経歴が経歴ですので神職者である私達の口添えだけでは、仏門を叩くには心許(こころもと)ないと思いまして」

「それで我に取り成してほしいという訳か」

「はい。お願いできないでしょうか?」

「よかろう。では、真言密教の総本山たる金剛山へ筆を取ることにしよう」

「ありがとうございます」

 考えるそぶりも見せずに快諾する大日如来様に、少々面くらいながらも俺は頭を下げる。

「礼はいらぬ、迷える者を導くのが我が勤め。その者が仏の道に入り被害者の菩提(ぼだい)を弔うならば、殺められた側は元よりその者自身への救いの道も見えてくるであろう。しかし、良かったのか? そなたは今日本には転生悪魔を人に戻す術があると言ったようなものなのだぞ」

「構いません。今は日本の秘ではありますが、いずれ他の神話の方々に教えねばならない事です。この件で責任が問われるのならば、私はその(とが)を受けましょう」

「その決意、なにか辛いものを見たのだな。……あい解った、我はこれ以上の事は聞かぬ。その者の仏門への帰依(きえ)については任せるがいい」

 そう言い残して自身に割り当てられた席へと戻る大日如来様に俺はもう一度頭を下げた。

 ……これで俺の日本神話での最後の仕事は片が付いたわけだ。

 大日如来様の推薦(すいせん)だなんてあのおっさんも相当なプレッシャーになるだろうが、その辺は頑張ってもらうしかない。

 しかし、緊張したな。

 あんなメジャーどころの相手なんて心の準備なしにはキツいぞ、まったく。

 もしかして、こんなのがずっと続くんじゃないだろうな。

 悲しいかな、こういった時の嫌な予感と言うのは大概(たいがい)当たるものである。

 この後もダグザ様、オーディン様、ハーデス様といういつもの面子はもちろん、一昨日(いっさくじつ)交流があったアメン様とムト様にシヴァ神とその妻であるパールヴァティ様。

 最近土地を取り戻したシュメール神話の主神アヌ様とローマ神話のユピテル様。

 アステカ神話のケツァルコアトル様に、さらには中国道教の天帝様まで。

 次から次へと声を掛けられて、自分の席を見つけた時には会議が始まってもいないのに精神的疲労でヘロヘロになってしまった。

「ふむ、貴様が第三の『無限』を持つ男か」

 椅子の手前で掛けられた声に振り向くと、そこには絹で出来ているのか、光沢のある純白のドレスを身に着けた美女が立っていた。

 外見はほぼ人間と同じだが身体に纏う神氣と濃密な血の匂い、そして黒髪を押しのけて生えている一対のヤギの角がそうでない事を雄弁に物語っている。

「はじめまして、姫島慎と申します」

「うむ。私の名はアナトという」

 会釈をするこちらに返した名乗りに、ボケかけていた思考が一気に引き締まった。

 女神アナト。

 カナン(現在のシリア西部に存在した文明)に伝わるウガリット神話の主神バアルの妹にして妻とされる、愛と戦いの女神。

 バアル神が悪魔に堕ちてからは、カナンを手放して公には姿を見せていないと聞いていたのだが、何故この場に?

 つうか、この方が神話通りの性格だったら、本気でヤバい。

 無茶苦茶気性が荒いうえに、兄であり夫でもあるバアル神にぞっこんだ。

 その愛の深さは、

『死神モトに殺されたバアルの亡骸を見つけると、嘆き悲しみながらも彼の肉を食べ、その血を飲んだ』

『バアル神を殺めた冥府の神モトを斬り刻んでミンチにしたうえに、それを焼いて臼で引いたあげく、畑に撒いた』

 等々の説話を見れば分かる。

 そんな世紀末とヤンデレが二身合体したようなトンデモない方なので、愛してやまないバアル神を悪魔に堕としたと言われる聖書の勢力を前にしたら、本気で何やらかすかわからない。

 これは警戒レベルを最大にしとくべきだな。

「ムト殿から聞いたぞ、其方(そなた)がアメン殿を神に立ち戻らせたと。その手腕、いずれわらわも借りる時がこよう。その時はよろしく頼むぞ」

「ええ、その時はお声かけ下さい。格安でお引き受けいたします」

「ふむ、(ちな)みに相場は幾らだ?」

「今は100万円位を考えていますが」

 現状の価格設定を告げると、アナト様は何故か不機嫌な顔をする。

「……安すぎる。其方が成した事は、聖書の(うつ)け共の策略に嵌った神を救う偉業なのだぞ。それをそのようなはした金で行うなど、これまで努力してきた神々に対する侮辱だ」

 むう、安くて文句を言われるとは思わなかった。

 これがセレブというものなのか?

「では、どのくらいにすればよいのでしょう?」

「最低でもその千倍は取るがいい。多くの神々が成しえなかった悲願なのだからな」

 おおう、10億とな。

 こんなにぼったくっていいのだろうか。

 アメン様にも金を請求してないのに次から実費とか、さすがに気が引けるのだが。

「いいんじゃないですか。アメン殿は臨床試験だったという事にすれば」

 いや、それはそれで失礼だろ。

「時(いた)らば再び其方の元に赴こう。その時は頼むぞ、姫島慎よ」

 なんかウダウダしている内にアナト様は行ってしまった。

 成り行きで成功させてしまったモノなのでイマイチ実感はないのだが、この神救(かみすく)いの法(仮称)って凄い事だったんだなぁ。

「一回10億かぁ……。聖書の神の所業を考えれば、需要は尽きないはず。このまま行けばご主人様は資産家になる事間違いなしでしょう。そうなれば、私もすこーし贅沢をしても許されるかも……はっ! 鎮まれぇ、私の沢山ある尻尾。今回は良妻モードです、贅沢できるからって傾国モード無しですからね」

 ……なんだろう、ウチの助手がもの凄い勢いで自己暗示してるのだが。

「なあ、坊主。この女狐との契約、切った方がいいんじゃねえか」

 残念なものを見るような目を向けるクーの兄貴の顔面に、玉藻の鏡が突き刺さる。

「ッてーな! 何しやがる!?」

「ご主人様に妙な事を吹き込まないでくださいまし! 去勢しますよ、駄犬!!」

「イヌ言うな!?」

 なんかヤイヤイ言い争っている二人を尻目に、俺は妙に座り心地の良い椅子に身体を預けた。

 つうか、この世界の神様ツッコミどころ満載なんだが。

 まずインドのシヴァ夫妻は『3×3EYES』の正気な頃の鬼眼王(カイヤンワン)三只眼(さんじやん)だったし。

 ケツァルコアトル様が女性でいきなりルチャの試合を挑まれたし。

 というか、なんで俺が超人レスリング使うの知ってるんだよ。

 さらに言ったら、天帝様の横にいた北斗星君様。

 あれって明らかに『閻王(えんおう)』だよね? 霞拳志郎(かすみけんしろう)だよね!?

 なに、なんなの? あの人も北斗神拳使ってくんの?

 ……いや、それは無いか。

 あんなトンデモ拳法使える人いたら、オーフィスなんて瞬殺だろうし。

 『ナギッ!』とか『有情断迅拳(うじょうだんじんけん)!!』とか『有情破顔拳(うじょうはがんけん)!!』とか『北斗剛掌波(ほくとごうしょうは)!!』とかされたら、『無限』ごときじゃ勝てる気がしないんですが!?

「ご主人様、本当に大丈夫なんですか!? なんか顔色が悪いうえに、尋常(じんじょう)じゃないくらい汗をかいてるんですけど!!」

「大丈夫……大丈夫だ……、命は投げ捨てるものではない」

 玉藻のこちらを気遣う声に額の汗を拭いながら答える。

 OK、落ち着け。俺はまだ大丈夫だ、秘孔を突かれたわけでもなければ、身体が膨れたり変形したりしてるわけじゃない。

 けっして象のような巨馬に乗った精悍な男や、白髪の空飛ぶ病人に会った訳でもない。

 あれは偶然の一致、偶然の一致なんだ。

 取り敢えず、自己暗示でなんとか平静を取り戻すことが出来た俺は、昨日のグリゴリで行われた検査の事を思い返した。

 ……うん、自覚はあるから現実逃避とかツッコむのは無しの方向でお願いします。

 さて、グリゴリで行われた検査は身体測定から体力テスト、神器の稼働状況からその効果と多岐に渡った。

 結果を言うと、まず身体能力は高校入学直後に測定した時に比べて、約50倍の数値を叩き出した。

 これには検査スタッフを始めついてきていた美朱と朱乃姉、なにより俺自身が驚いた。

 幾らなんでも跳ね上がり過ぎである。

 体力テストの様子を、美朱は引き攣った笑い顔でこう表した。

『リアルサイタマを見た』と。

 妹よ、兄はまだワンパンマンの域には到達していないぞ?

 さて、こうまで能力が跳ね上がった原因についてだが、これを探るのには随分と骨が折れた。

 比喩ではなくそのままの意味で。

 体力テストの次は、俺の神器である『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』の稼働状態の検査だったわけだが、結果はこちらの方は以前のデータと差異は見られなかった。

 同じ神器を持つアーシア先輩との回復性能の差も、熟練度と人体への知識による物と判断された。

 原因はこれにあると当たりを付けていたので正直肩透かしを食った気分だったのだが、ここでふと一つの事が頭に浮かんだ。

 それは瀕死、重傷から回復した際に身体能力が跳ね上がるという事例だ。

 俺の勘が正しいのならばそういう(・・・・)状況を作り出せば、通常とは違う反応をみせるかもしれない。

 そう考えた俺は、思い立ったが吉日とばかりに『無限の闘争』に飛び込んで『狂ランク』と一戦交えた。

 現れたのはなんと仮面ライダーの一人。

 キックホッパーという名に聞き覚えはなかったが、それでもライダーの名を(かん)する者。

 強化スーツの能力を駆使して繰り出される多彩な蹴りに強力なライダーキック。

 さらには拳撃主体である色違いの仲間とのコンビネーションと、その強さはオーフィスを上回るほどだった。

 今回は勝つことが出来たが、次に闘ったら負けるかもしれないな。

 しかし、勝利ボーナスとして技の代わりにベルトとバックル代わりに嵌めていた機械仕掛けのバッタを貰ったのだが、いったいどうすればいいんだろうか。

 閑話休題

 さて、闘いを終えて現実に戻った俺の身体はいい具合にボロボロだった。

 肋骨3本骨折に胸骨亀裂骨折。

 肺は砕けた骨の破片で損傷し左腕はライダーキックを防いだために、肘のすぐ下を筋肉ごと骨まで潰されている。

 うん、これで死亡防止措置が起動しないのはどうなのか。

 ひょっとしてあれか? この程度なら俺は死なないし後遺症も残らないと判断されているのか?

 まあ『聖母の微笑』を使えば残らないんだけどさ。

 こんな恰好で戻ったものだから、当然みんなは大騒ぎ。

 こちらが何をやったかを察した美朱には呆れられ、朱乃姉の涙ながらの説教を食らう羽目になってしまった。

 しかし、その甲斐あって『聖母の微笑』の異常性も知ることが出来たので、まあ結果オーライだろう。

 それで詳細なのだが、なんと俺の『聖母の微笑』は禁手化していた。

 何故それに気付かなかったのかというと、無意識の内に24時間365日禁手化しっぱなしだった為に、それが当たり前になって違和感を感じなかったかららしい。

 これについては、神器研究の第一人者であるアザゼルのおっちゃんから『イカレてやがる……』というコメントをいただいた。

 まあ、言った直後に朱乃姉の雷撃を食らってたが。

 肝心の能力だが、やはり異常な身体能力の伸びの原因の一端はこれにあった。

 それは耐性を織り込んだ超回復。

 ザックリ説明するのなら、内外に関わらず肉体が損傷するとその要因となった刺激に対して、耐性を生み出すと同時に肉体を強化修復しているのだ。

 つまり、戦闘による怪我も鍛錬による肉体疲労も全てが強化修復の対象となると言うことだ。

 これならば、この短期間での伸びも納得がいく。

 重力トレーニングと界王拳の過剰強化、そして『狂ランク千人組み手』。

 これらによって絶え間なく肉体に負荷が掛けられ続けた事、それが種族限界を突破した身体との相乗効果で爆発的に強くなったのだ。

 ……しかしまあ、なんと言うか我ながらとんでもない身体である。

 自重しない変人の集まりであるグリゴリの中で、アザゼルのおっちゃんと双璧を成すMAD科学者であるサハリエルさんですらこの結果にドン引きしていたと言えば、どれだけかはお分かりいただけるだろう。

 因みに、禁手化した神器の名前は『聖母の微笑ACT2』にした。

 みんなには面白くないと不評だったが、こんなもんに大そうな名前なんていらんだろうに。

 正直、『聖母の微笑』という名前も『ホイミ』または『薬箱』に変更したいくらいなのだ。

 特にアザゼルのおっちゃんは熱心に改名を要求していたが、こんなどうでもいいところに拘るから厨二病なんて言われると思うんだけどなぁ。

 この後、解剖させろと迫るサハリエルさんを躱した俺は、美朱や晴矢(はれるや)と一緒に久々にハーフ組と久ぶりに顔を合わせた。

 あ、ハーフ組というのはグリゴリにいる混血児達のグループだ。

 元はシェムハザさんや親父が保護した子供達で、メンバーの殆どとはガキの頃からの付き合いである。

 グリゴリにいた頃は晴矢はもちろん、少々出自は違うがヴァーリもこのグループに属していた。

 出会った当初は、その生まれから親父やシェムハザさんの目を盗んだ下っ端共からちょっかいを掛けられていたのだが、俺と『無限の闘争』で白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)を使いこなせるようになったヴァーリで返り討ちにしてからはそういった動きも鳴りを潜め、今ではグリゴリの中でも一部署を任されるほどになっている。

 晴矢が俺の事を『リーダー』と呼ぶのはその時の名残なのだ。

 久しぶりという事で随分と会話が盛り上がり、地上に戻った頃には辺りは夕陽で赤く染まっていた。

 お陰で、俺の代わりに警備責任者になっていた爺ちゃんとの引継ぎが夜になったんだよなぁ。

 まあ、和平交渉自体が夜に行われるので寝不足にはならなかったんだけど。

 ゴメンよ、爺ちゃん。

 

 さて、そろそろ意識を現実に戻そうか。

 来賓の神々が揃った後半刻ほど時間をおいて、三勢力の代表が会議室に姿を現した。

 賓客より遅れて現れるってどうなのか、と内心思ったが敢えて口には出さなかった。

 しかし、神々の中には不快感を表す方もいらっしゃるので、俺と同じ考えを持つ者が少なからずいる事は間違いないだろう。

 各々の代表が円卓に着くと、サーゼクス兄の指示で悪魔側の護衛兼この会議の給仕係であるグレイフィア姉さんが、円卓の連中にお茶を煎れ始める。

「いや、だから先に来賓に配れって! 客をほっといて自分たちの茶を煎れるのは普通に失礼だから!! あ……」

 ヤベッ、思わずツッコミが口に出てしまった。

「ほう、新たな『無限』殿は礼儀が解っているようだ」

「聞けばまだ齢15だとか。そのような若輩に理解できる事も分からん者が一勢力の代表を名乗るとは、呆れて物が言えぬわ」

 そう言いながら自前の飲み物を口にする来賓席の神々。

 予め飲食物用意しているとか、まったく三勢力を信用していないじゃないですかヤダー!!

「ご主人様、お茶です。こちらは私が家で()れてきたきたモノなので、心配ありませんよ」

 ……あ、ウチも人の事言えないや。

 ジェスチャーでこちらの謝意を向こうに伝えると、堕天使と悪魔サイドからは苦笑い、天使側からは敵意の籠った視線が返ってきた。

 ふむ、どうやらミカエル大天使長は一昨日の事まだ根に持っているらしい。

 それから少しすると今度はリアス姉を始めとして眷属一同にアーシア先輩、そしてソーナ会長と生徒会役員が入ってくる。

 うん? リアス姉達はオーフィス戦の時に居たからわかるとして、なんでソーナ会長達も来てるんだ?

 もしかして、俺が気づかなかっただけで、あの時いたのか?

「私とレヴィアタンの妹、そしてその眷属です」

 サーゼクス兄が他の勢力にリアス姉達の紹介をする。

 それに合わせて両主とその眷属は来賓に向けて会釈をする。

 いや、そうじゃない。そうじゃないよ、サーゼクス兄。

 家も継いでない一貴族令嬢がなんでこの会議に参加してんの?

 これって人間に例えたら国際首脳会議だろ?

 そんなもんに身内だからって学生参加させるなんて、意味不明じゃないか。

 その辺を説明しないと、また来賓の皆さんが悪印象受けるって。

「彼女達は例の案件の目撃者です。その為、この会議に出席させました」

 ワンテンポ遅れた説明に、思わずため息が出る。

 むこうと関係がある俺にしてみたら、ある意味ここって針の(むしろ)なんですけど。

 なにやっても悪く取られかねない空気って厳しいな、おい。

「皆さまの席はあちらになります」

 グレイフィア姉さんに促されて、此方(こちら)とは別の窓際に用意された席に座るリアス姉達。

「出席者が全員揃ったところで会談を開始しよう」

 リアス姉達が席についたところで、サーゼクス兄から開始の宣言が放たれた。

 さて、ここでもう一度今回の参加メンバーを確認しよう。

 まずは三勢力。

 悪魔側はサーゼクス兄とセラフォルー姉さん、リアス姉と朱乃姉にイッセー先輩、祐斗兄ときてアーシア先輩、後はソーナ会長と生徒会メンバーだ。

 堕天使側はアザゼルのおっちゃんに親父とヴァーリ、あとやっぱり鳶雄(とびお)兄さんとラヴィニア姉さんも来ていた。

 天使側はミカエルと補佐と思われる女性の天使が一人、あとは護衛の武装天使が三名だ。

 因みに美朱とクーの兄貴は今回俺の(そば)に付いている。

 本来は嘱託(しょくたく)……もとい非正規雇用の日本勢力なのだが、公平をきす為に天照様の護衛ではなくこちらに付けたらしい。

 え、朱乃姉や親父はいいのかって?

 多神勢力に顔が売れているのは、聖剣事件に関わった美朱だけなので問題ないとの事だ。

「さて、今回の会談は先の聖剣強奪事件に端を発したダーナ神族との確執。そしてテロ集団『禍の団』の台頭によって、我等三つの勢力が一丸とならねば生き抜く事ができないと判断した為のものだ。相違ないな?」

「ああ。テロをかました主戦派の馬鹿共もそうだが、多神勢力の連中もあわよくばとこっちの首を狙ってやがる。こんな中で内輪もめなんざ自殺行為だからな」

「この現状に主も心を痛めておいでです。ですが理由はどうあれ、長きに渡り争っていた我等三種族が手を取り合うのは喜ばしい事だともおっしゃっていました」

 張り付けた様な笑顔で紡いだミカエルの言葉に、アザゼルのおっちゃんは苛ただしげに舌打ちをする。

 まあ、リアス姉達がいる所為で聖書の神が健在だなんて、三文芝居に付き合わなくてはならないのだ。

 ため息の一つも付きたくなるだろう。

「そうか。ならば、和平条約の調印を行いたいと思う。三者三様に含むモノがあるだろうが、そこは互いの将来の為に譲歩してほしい」

 サーゼクス兄の言葉で代表者三名の前に一枚の書類が配られる。

 あれが和平の調印文章なのだろう。

「待ちな、サーゼクス。こいつにサインする前にお前に確認したい事がある」

「何かな、アザゼル?」

「お前等現職魔王は、前魔王の腰巾着だった老害共を抑えられるんだろうな? 主戦派の大半は『禍の団』に移ったとはいえ、あの大戦に関係していた奴はこっちへの恨みは有り余ってんだ。調印後に後ろから撃たれるなんて事になったら、こっちも(たま)らんからな」

「それを言う権利は無いと思いますがね、主戦派を抑えられず『禍の団』を生み出してしまった我々には。それに、そういった者が残っているのは悪魔側だけではないでしょうし」

「そうだな。堕天使にも、お前等天使の側にもいるだろうさ。けどな、俺達の場合はいたとしても部下だ。こっちが本気で取り締まれば(おさ)える事はできる。だが、悪魔側は貴族主義の影響で諸侯が独自の権力と兵を持ってんだよ。ゼクラム・バアルを頭にした大王派なんてのはその典型だ。そうだろ?」

 やる気のない口調だが、アザゼルのおっちゃんがサーゼクス兄達に向ける視線は針のように鋭い。

 嘘や誤魔化しは認めないという固い意志が、悪魔側を縫い付けている。

 普段は厨二病で戦友の息子から風俗代10万を借りる『まるで駄目なおっさん』略してマダオでも、さすがは堕天使のトップと言ったところか。

「アザゼル総督の懸念(けねん)(もっと)もですが、それは無いと断言いたしましょう。我々悪魔側もこの危機的状況に関して覚悟を決めています。先日、魔王政府から冥界悪魔領全土に対して非常事態法令を発布しました。それには現政府への諸侯の協力の義務化と政府監査官の設置、そして違反した場合の厳罰が定められています」

「なるほど、それなりの対策は講じているのですね。ならばこちらは調印させていただきましょう」

「……イマイチ不安だが和平は不可欠だしな。これ以上ゴネてもしゃあねえか」

 真面目モードのセラフォルー姉さんから出された対応策に、満足そうに調印するミカエルとそれとは対照的に渋々筆を走らせるアザゼルのおっちゃん。

 その監査官が買収されたり、そういった職に就く政府高官がすでに大王派の息が掛かっていた場合はどうするのか? という心配が過ぎったが心の内に留めておいた。

 俺がそれを指摘したら余計ややこしい事になりそうだし。

「悪魔側の対応は抜けてますねぇ。聞けば大王派は貴族の過半数を手中にしているとか。監査官を置くにしても、それを選出する政府の中枢に()の手が伸びていない訳ないと思うのですけど」

 呆れたように愚痴を吐き出す玉藻。

 うん、やっぱそう思うよね。

 でも、下手に強硬手段を取って大王派を中心として貴族に結託でもされたら、内戦間違いなしだからなぁ。

 現状では、この辺でお茶を濁すくらいしかできないのだろう。

 正直猛烈に嫌な予感がするが、ここはサーゼクス兄達がしっかりしてくれるのを祈るしかない。

「さて、これで和平は締結だ。アザゼル総督とミカエル大天使長には感謝の意を表したい」

「いえ、こちらこそ冥界側の理解ある対応に主に代わってお礼申し上げます」

「何を呑気な事を言ってやがる。これから和平なんて比でもないくらい面倒な事を、そこにいる厄介な連中と話さなきゃいけねえんだぞ」

 喜ぶ二陣営の代表をよそに、アザゼルのおっちゃんはウンザリした顔で来賓席を指差した。

 うん、俺の事ですね。

「アザゼル、貴方は何を言っているのですか? あそこにいる来賓の者達は我々の和平締結の立ち合いにきたのでしょう」

「なにボケた事言ってんだ! あそこの連中にとっちゃあ、俺等の和平なんて前座でしかねえんだよ。あいつらは地上最強になっちまった戦闘狂のクソガキについて話に来たんだ!」

 おやおや、サラリとこちらを罵倒してくれましたよ、あのマダオ。

「誰が戦闘狂のクソガキだよ、この色ボケ厨二病が。風俗代で貸した10万、いい加減返せっつーの」

「おまっ!? こんなところで言わなくてもいいだろうが! TPO弁えろよ、TPOを!!」

「年始のクソ忙しい時に、にズボン半脱ぎで友人の息子に金借りに来たくせに、なにがTPOだよ。しかも直球で風俗代って言いやがって、テメエが常識を弁えろってんだ」

「仕方ねえだろうが! フィニッシュ決めた後で財布落としたのに気づいたんだから!! 『女の前ではカッコよく』が俺のポリシーなんだよ! お前も男なら(こころよ)く協力しろよ!」

「アホか。金も払わないままズボン引きずったまま逃げた時点で、この上なくカッコ悪いわ。あと、フィニッシュ言うな」

「その辺にしなよ、慎兄。皆さん見てるよ?」

 美朱のツッコミに我に返った俺が周りを見渡すと、多神教の代表の皆々様の視線が全てこっちに向いていた。

 おおぅ、やってもうた。

 声を荒げなくても言い合いはNGですよね。

「……失礼しました」

「まったく、こんなところで風俗云々なんて言いやがって。聞いてるこっちが恥ずかしいぜ」

 呆れた風にため息をつくクーの兄貴。

 だが、俺は知っている。

 初給料をもらったこの男がピンク街に姿を消したことを。

 同性のよしみで黙ってやっていたが、これは美朱に報告せねばならんか。

 『去勢せよ、ランサー』なんて言われねばよいがねぇ。

 因みにアザゼルのおっちゃんは、鳶雄兄さんとラヴィニア姉さんからゴキブリを見るような目を向けられ、護衛のはずの親父に頭を殴られていた。

 親父よ、拳と一緒に出た言葉が『俺の息子から金を借りるな』というのはどうなのか。

 そこは『堕天使の恥を振り撒くな』が正解だと思うのだが。

「さて、堕天使総督の聞くに()えん醜聞も終わったようじゃし、各々方(おのおのがた)本題に入るとしよう」

 そう言ってオーディン様が手にしたグングニルを振ろうとした瞬間、世界が(きし)んだ。

 うん、この感覚は時間停止か。

 なんで分かるかって?

 いや、無限の闘争じゃ割とポピュラーな能力だからな。

 どこぞのメイド長やDIO様に比べたら『貧弱、貧弱ぅ!!』な効果とヒッキー吸血鬼の姿が無いところを見れば、大体の原因は察しが付く。

 バロールがやったなら、この程度じゃすまないだろうしな。

 室内を見渡してみれば、効果を受けている人数の方が少ないようだ。

 流石は世界最強クラスが集まる会議なだけはある。

 影響を受けたのは朱乃姉と祐斗兄、アーシア先輩にソーナ会長を除く生徒会役員ときて……あ、天使側の護衛もダメみたいだ。

 他のメンツはまだしも、朱乃姉が止まったままなのはいただけない。

 いっちょ、この結界を片づけますか。

神火清明(しんかせいめい)神水清明(しんすいせいめい)神風清明(しんぷうせいめい)。神火清明、神水清明、神風清明。神火清明、神水清明、神風清明」

 祝詞を紡いだ後に氣を込めた息吹を左、右、左と吹きかけると、教室内を覆っていた時間停止の効果は跡形も無く消え去った。

邪気祓(じゃきはらい)ですか! お見事です、ご主人様!!」

 玉藻の歓声を耳にしながら朱乃姉に目を向けると、何が起こったかわからないという様に、しきりに辺りを見回している。

 うむ、問題はなさそうだな。

 因みに今のは神道に伝わる邪気祓の法である。

 通常は盛り塩なんかを置く際に部屋や家にある悪い氣を祓うのに使われるのだが、上手く使えば悪意のある結界なんかを解除する事も出来るのだ。

 唱える際には、その場にある邪念や悪意が「神の火に焼き尽くされ、神の水に洗い流され、神の風に吹き払われる」とイメージするのがコツだな。

「見事。やはり其方は優れた術者のようだな」

「今の結界はバロールの気配がしたな。小僧、なにか心当たりは無いか?」

 (ざわ)めく周囲を他所に、上機嫌でこちらを称賛するアメン様に訝しげに周囲を見渡すダグザ様。

 すんません、ダグザ様。

 その質問にはちょっと答えられませんわ。

 しかし困った。

 リアス姉にギャスパーの居場所を聞こうと思ったのだが、この状況ではそれも叶わない。

 ヘタをすれば、ギャスパーが原因でダーナ神族との停戦が消し飛んじまうからな。

 ……やむを得ん、アレを使うか。

 『原因を片づけてきます』と二柱の神に断った俺は、伸ばした右の人差し指と中指を額に当てて目を閉じる。

 精神を研ぎ澄まして探るのは、学校内にあるギャスパーの気配だ。

 ゆっくりと息を吐きながら探索の範囲を広げていくと、旧校舎の部室内に目標を見つける事が出来た。

 周りに20程度の人間の気配がある所を見ると、やはりあいつは敵の手に落ちたと考えた方がみたいだな。

 それじゃ、ちゃっちゃと助ける事にしよう。

 ギャスパーの気配に意識を固定したまま、それを目印に跳ぶイメージで氣を解放すると、一瞬の浮遊感を挟んで見慣れたオカ研の部室が目に飛び込んでくる。

 うむ、どうやら成功したようだ。

『貴様どこから云々』などと混乱している魔女風の不審者達を男女平等パンチで沈めた俺は、クモの巣状の結界で捕らえられていたギャスパーと塔城を助け出した。

「女の人相手に容赦なく顔面パンチ……。ヒドいですぅ」

「さすがは慎。鬼畜外道ですね」

 黙らっしゃい。

「でも、慎君。どうやってここまで来たの? 僕には突然現れたように見えたんだけど……」

「……魔力も感じませんでしたから、魔方陣を使った転移でもキャスリングでもないですよね?」

「どうやってって、自前で瞬間移動しただけだぞ」

 そう言うとギャスパーと塔城の動きがピタリと止まった。

「どうしよう、小猫ちゃん。慎君がまたおかしくなっちゃった」 

「……魔力無しで転移とか、また化け物っぷりに磨きが掛かってきましたね。世界最強にもなったしもう何でもありなんじゃないですか、あの人外」

「聞こえてるぞ、チビ共」

 さて、好き放題言われているが、この瞬間移動。

 出所はもちろん、みんなが大好き『ドラゴンボール』の主人公『孫悟空』だ。

 少し前まで海外を含めて長距離出張が多かった俺は、身内に何かあった際にすぐ駆け付けるための手段を欲していた。

 そんな時『狂ランク千人組手』でたまたま悟空と当たったので、渡りに船と試合後にやり方を教わったのだ。

 え、試合結果? 

 むこうはいきなり超サイヤ人3だったんだぞ、あとは聞かなくても分かるだろ。

 試合後の『おめえ、もっと修行した方がいいぞ』というコメントは、精神的にとってもクルものがあった。 

 すんません、悟空さん。もっと精進します……。

 おっと、回想に浸っている場合じゃなかった。

「しかし、お前等随分と簡単に捕まってたな。ゴレムスどうした? あれを嗾けたら、こんな魔女なんかメじゃなかっただろうに」

「ゴッ君は目立つから連れ回すわけにはいかないでしょ? だから僕の部屋を護ってもらってたんだ」

「あー……そりゃそうだわ。なら、塔城と一緒にお前の部屋に籠っててくれ。それならゴレムスに護ってもらえるだろ」

「……部長達のところに連れて行っては駄目なんですか?」

「今、向こうにはダーナ神族の長がいる。ダーナ神族はギャスパーの中に居るバロールとは不倶戴天の敵同士でな、ギャスパーが宿してるのがバレたら停戦なんて吹っ飛んじまう」

「……なるほど。なら、仕方ありませんね」

「うぅ……。もう一人の僕が迷惑をかけてゴメンなさい」

「別にお前がなんかしたわけじゃねえんだから、責任なんて感じる事はねえだろ。堂々と顔を上げとけ」

 なんか妙にヘコんでるギャスパーの頭をワシワシと撫でてやる。

 うーむ、どうもギャスパーを相手にするとミリキャスと似たような接し方になるな。

 一応、こいつとはタメなんだが……。

「今日は慎君がスーツ姿だから、余計にお兄ちゃんって感じがする……」

 だから、俺とお前はタメだっつーの。

 その後、魔女たちを経絡(けいらく)から氣を操作して身体麻痺状態にした後で、三人でギャスパーの部屋にまで移動。

 中で待機していたゴレムスにギャスパーを引き渡した。

「さて、俺はそろそろ会議室に戻る。悪いが、塔城もギャスパーについてやってくれ」

「……わかりました」

「ギャスパー、なんかあったら俺の携帯に連絡しろ。すぐに行くから」

「うん、ありがとう」

 部屋のドアが施錠されるのを確認してから瞬間移動で会議室に戻ってみると、円卓の前で褐色の肌に黒の煽情(せんじょう)的なドレスを着た女悪魔黒ずくめの男悪魔が、サーゼクス兄達の前で、自分に酔ったような感じで語りをブチかましていた。

 窓の外では禁手化したヴァーリが魔法使い風の人間たちを蹴散らしてるし、どういう訳かは解らんが来賓の前ではなくリアス姉とソーナ会長達にだけ、あの男女の部下であろう8人の上級悪魔が配置されている。

 間違いなく、こいつらもギャスパーに手を出した奴等の仲間だろう。

 となれば、サーゼクス兄達や外のヴァーリは自分でなんとかするだろうから、優先的に始末するのはリアス姉達を警戒している連中だな。

 連中に気付かれていない事を確認した俺は、気配を殺しながらリアス姉達の方に移動すると即座に氣を練り上げた。

 そして、リアス姉達がこちらに気付くと同時に、鋭い呼気と共に床を蹴った。

 一瞬で最高速度に達した俺は、影さえも置き去りにして武器を手にした悪魔達の脇を通り抜け、リアス姉達の前で停止する。

「え、慎? あなたいつの間に……」

「……北斗有情断迅拳」

 リアス姉の呟きを尻目に後ろへ目を向けると、そこには視界には武器を構えたままゆっくりと身体を変形させていく悪魔達と、こちらに駆けてくる美朱の姿。

「その動きは……トキッ!」

 その通りだ、美朱君

 オリジナルの病人にはまだまだ勝てないが、伊達に何回も爆発させられてるワケではないのだよ。

 技の一つくらいはこの通り──

「ギャアアアアア……あわばっ!?」

「いでッ! いでででで……いってれぼっ!?」

「助け、助けてええぇぇ……えろばっ!?」

「にら……にら……にらればぁっ!?」

「ねえ……え……えんでばぁっ!?」

「お、お前……お~? お……おらばっ!?」

 …………おや?

「ねえ、兄者」

 何かね、妹よ。

「今のって、有情って言うより無情断迅拳だよね。腑抜(ふぬ)けたか、兄者」

「……ん、間違ったかな?」

「なんだ、ただのアミバか」

 さも呆れたかのように呟く美朱の声を聞きながら、俺は頭を掻いた。

 うーん、どこが悪かったのだろう。

 やっぱ擦れ違いざまに突いたから、秘孔がずれたのかな。

 いやはや、さすがは北斗神拳。

 技一つとっても難易度がハンパない。

 ああ、今の奴等は殺してないぞ。

 というか、俺まだ致命の秘孔なんて突けないし。

 せいぜい、両手足があり得ない方向にひん曲がっただけだ。

 因みにパクった事に関しては反省も後悔もしていない。

 拳王様も言っていたではないか、『北斗神拳は一子相伝。教える事は出来ぬ、盗め!!』と。

「ねえ、リアス」

「なにかしら、ソーナ」

「彼はいつもこんな感じなのですか?」

「ええ。着々と非常識な方向に進化してるわよ」

「失礼な。俺は日ごろから常識を弁えて品行方正に生きてるじゃないか」

「どこがよ! 魔力も無しに瞬間移動はする! 現れたと思ったら十人近くいた上級悪魔を一瞬で再起不能にする! ていうか何なの、今の!? 身体が自動的に変な方向へ捻じ曲がるとかホラーじゃないの!! 思わずちびりそうになったわよ!?」

「いや、本当なら身体が爆発するんだけどな。俺はまだ未熟だからあんな風にしかならなかったんだ」

「爆発! 爆発って言った!? ありえないわ、あなたの常識は絶対おかしいわよぉぉぉぉっ!?」

 むぅ、なぜヒステリーを起こす?

 俺はただ技を放っただけではないか。

「ソーナ会長、俺はおかしくないですよね?」

「……貴方を犯人です」

 眼鏡で蛍光灯の光を反射させながら、こちらを指差すソーナ会長。

 なんか、文法おかしくないですか?

「会長! 大丈夫ですか、会長!?」

「ダメ! 目がグルグルしてるわ!」

「衛生兵! ていうか、アーシアさん! 会長を助けて!?」

「は、はいっ!」

「……なにが悪かったのだろう?」

 目の前に突然発生した修羅場に思わず唸ってしまう。

「やっぱり北斗神拳が拙かったんじゃない? ほら、初見じゃインパクト凄いし」

「そういう問題じゃねー! 全部だよ、全部!!」

 イッセー先輩の渾身のツッコミに俺と美朱は二人して首を傾げるのだった。




 ここまで読んで下さってありがとうございます。
 話的にはあんまり進んでませんというか、和平交渉がスンゲー短いです。
 まあ、拙作では『結ばない』=『滅亡』という状態ですので、仕方ないと言えますが。
 さて、こっからは巻きで四巻内容を終わらせたいと思います。
 うん、白赤対決も本作では無いだろうし、万が一有っても今のイッセーじゃ瞬殺されるだけですから。

 では、今回の用語集です。
〉大日如来(出典 仏教)
 大日如来は密教において信仰される尊格である。
 大日とは「大いなる日輪」を意味し、太陽を司る毘盧舎那如来がさらに進化した仏である。
 密教では大日如来は宇宙の真理を現し、宇宙そのものを指す。
 また、すべての命あるものは大日如来から生まれたとされ、釈迦如来も含めて他の仏は大日如来の化身と考えられている。
 大日如来には悟りを得る為に必要な智慧を象徴する金剛界大日如来と、無限の慈悲の広がりを象徴する胎蔵界大日如来という2つの異なる捉え方がある。
 金剛とはダイヤモンドのことを指し、智慧がとても堅く絶対に傷がつくことがないことを意味する。
 そして、胎蔵とは母親の母胎のようにすべての森羅万象が大日如来の中に包み込まれている様を指している。
 この2つが揃って大日如来を本尊とする密教の世界観が出来上がると言われている。

〉シヴァ神(出典 インド神話)
 シヴァ神はヒンドゥー教の神である。
 現代のヒンドゥー教では最も影響力を持つ3柱の主神の中の1人であり、特にシヴァ派では最高神に位置付けられている。
 トリムルティ(ヒンドゥーの理論の1つ)ではシヴァは「破壊/再生」を司る様相であり、ブラフマー、ヴィシュヌとともに3柱の重要な神の中の1人として扱われている。
 シヴァに関する神話では慈悲深い様を示す描写がある一方で、対照的に恐ろしい性質を見せるエピソードも多く語られ、曖昧さとパラドックスの神などとも表現される。
 また、アディヨーギー・シヴァ(第一の修行者)とも呼ばれ、ヨーガ、瞑想、芸術の守護神でもある。

〉パールヴァティ(出典 インド神話)
 パールヴァティは、ヒンドゥー教の女神の一柱で、その名は「山の娘」を意味する。
 シヴァ神の神妃であり、ヒマラヤ山脈の山神ヒマヴァットの娘で、ガンジス川の女神であるガンガーの姉に当たる。
 また軍神スカンダや、学問の神ガネーシャの母であり、シヴァの最初の妻サティーの転生とされ、穏やかで心優しい、美しい女神といわれる。
 後にドゥルガーやカーリーとも同一視され、パールヴァティーの変身した姿、あるいは一側面とされた。
 タントラ教においてはシヴァのシャクティであるとされ、シヴァとともにアルダーナリシュヴァラを形成する。

〉アヌ神(出典 シュメール神話)
 アヌはアッシリアやバビロニアの天空や星の神であり、世界の礎を築いた神々の王である。
 バビロニアの天地創造神話『エヌマ・エリシュ』によると、アヌはアンシャルとキシャルの間に生まれたとされる。
 アヌは罪を犯したものを裁く力があり、星はアヌの兵士として創造されたと信じられている。
 アヌは神々の集団「アヌンナキ」の父であり、しばしば玉座に座り、王杓や司令官の杖を持ち王冠を被った男性の姿や、ジャッカルの姿で描かれる。
 アヌはアヌンナキの会議には必ず出席し、議長や判事のような役割を務める。

〉ユピテル(出典 ローマ神話)
 ローマ神話の主神にして、雷などの天候を司る天空神。
 妻は結婚を司るユーノー。彼女もまた女神の中では最上位にある。
 ユーピテルと言う名は(ディェーウ=パテル、父なるデウス)がなまったもので尊称を省いたヨーウェの名でも知られる。
 北欧神話のテュール、『リグ・ヴェーダ』のディアウスとは同じ起源を持つとされる。
ギリシャ神話導入後は、ゼウスほど性に奔放ではないものの、神名の語源も同じで雷神や主神であるといった特徴も共通していたため、ギリシャ神話が導入されると習合した。
 ローマのカピトリヌスの丘に祭られ、ローマの国家神の性格を帯びるようになり「ユピテル・オプティムス・マクシムス(最善最大のユピテル)」とも呼ばれるようになった。
 
〉ケツァルコアトル(出典 アステカ神話)
 古代マヤ・アステカ文明の主神である天空神。
 『羽毛のある蛇』という意味の名を持ち、その名の通り翼の生えた極彩色の蛇として表される。
 人間の姿では白い肌の精悍な美男とされる。
 テスカトリポカとの政権争いに敗れ、再来の予言とともに外洋へと去ったとされる。
 始原の創造神夫婦「オメテクトリ(夫)・オメシワトル(妻)」の4人の息子のひとりとして扱われる。
 闇の神テスカトリポカとは兄弟神でありながら宿敵同士であり、時には世界創世に協力し合い、対立して滅ぼし合う、永遠のライバルのような関係にある。

〉アナト神(出典 ウリガット神話)
 アナトはウガリット神話、及びエジプト神話に登場する女神。
 ウガリット神話の主神バアルの妹にて妻とされる、愛と戦いの女神であり、狩猟の女神、豊穣の女神でもあると考えられている。
 その容姿はウガリットの伝説的な王ケレトの物語において、女性の美しさを表す場面に引用されるほどに美しいと神話中で描写される。
 嵐と慈雨の神バアルの配偶女神としてバアルに特に結合して語られる事が多く、古くは最高神イルの娘にて妻と位置付けられたが、後に嵐と慈雨の神バアルが人気を得て信仰の中心となるとイルの娘でありバアルの妹であり妻の位置づけになった。
 神話によれば数々の戦いで多くの敵を殺した非常に好戦的な女神とされ、戦では腰まで血の海で浸されるほど多くの人間を殺してまわり、死者の頭や手を自分の腰に着けたという。
 兄であるバアルを熱愛し、バアルを殺したモートを切り刻み、箕でふるい、これを焼き、臼でひき、畑に撒くという壮絶な復讐を果たした。
 モートの死体を畑に撒いたことによりバアルは復活し、その7年後にモートも復活した。

鬼眼王(出典 3×3EYES)
 3×3EYESの物語のボス。幻の民『三只眼吽迦羅』の王でヒロインであるパイ(パールバティー四世)の元婚約者。
 本来の名前はシヴァ。
 鬼眼王とは"人化の法"によって三只眼の力・人格を吸収し続けた存在で、現在はシヴァの肉体に「シヴァを含めた複数の三只眼吽迦羅の人格の集合体」が入っている。
 ただでさえ強い三只眼吽迦羅が複数集まった状態なので圧倒的な強さを誇る。
 本来、シヴァは本来の鬼眼王が行う人化の法に捧げられる三只眼吽迦羅だったのだが、横槍が入ってニンゲンの像の向きが変わった結果、生贄と先代鬼眼王の力を奪う事となり、彼が鬼眼王となった。
 作中のほとんどを封印されて過ごしていた為に名前のみの出演が長く、ボスの座を配下であるベナレスに喰われ気味だった。

〉三只眼(出典 3×3EYES)
 3×3EYESのヒロイン『パイ』の第3の眼が開いた時の人格。 (実際はこちらが本来の人格でパイは現実逃避の為に生み出された裏の人格)。
 本名はパールバティー四世で、伝説の民・三只眼吽迦羅の中でも『白龍舞う年』に生まれた、強大な力を持つ最後の個体。
 一人称は「儂」で古風の言葉使いをする。
 性格はプライドが高く傲慢で尊大で、「下衆」「愚か者」という言葉を多用し相手を罵る。
 この状態の時は霊力が途轍もなく高く、強力な光術や様々な秘術を使いこなす。

〉天帝(出典 中国道教神話)
 天帝は中国の儒教および道教で信仰されている最高神である。
 儒教では天子のみが祀ることを許された存在であり、天帝より受ける「天命」によってその人物は皇帝となって王朝を起こす。
 そして、天命が変われば新しい皇帝が前の王朝を倒す「革命」となる。
 道教では具体的な姿は表現されず、天地の森羅万象を司る絶対的存在であり、仙人や天人、神獣と関わりが深い。
 七夕の話でも織姫の父として登場する。
 仏教では、インドラ神すなわち帝釈天を現世を治める最高神とみなしていた。
 これが中国の信仰と結びつくことで、帝釈天は天帝と同一視されるようになっていく。

〉北斗星君(出典 中国道教神話)
 北斗星君は、中国において北斗七星が道教思想によって神格化されたもの。
 『死』を司っており、死んだ人間の生前の行いを調べて地獄での行き先を決定するという。
 日本でいう所の閻魔大王のような存在と言える。
 南斗星君と対を成す存在で、南斗星君が温和な性格なのに対し北斗星君は厳格な性格をしているという。
  また、北斗星君は人の寿命を記した巻物を持っているとされ、そこに記された数字を増やしてもらえれば寿命が延びるとされている。
 一説によると、その姿は氷のように透き通った衣に身を包む醜い老人とされる。 
〉閻王(出典 蒼天の拳)
 閻王とは、中国・台湾での「閻魔大王」の呼称。
 マンガ『蒼天の拳』では主人公、霞拳志郎の上海での異名である。

〉霞拳志郎(出典 蒼天の拳)
 マンガ『蒼天の拳』の主人公で第62代北斗神拳伝承者(北斗の拳のケンシロウの先々代伝承者)。
 上海では「閻王」の異名で知られ、紅華会をはじめとする闇社会の住人たちから怖れられている。
 顔は『北斗の拳』のケンシロウに瓜二つで、ケンシロウよりもやや髪が長い。
 頭髪に隠れていて見えないが、彼とケンシロウは頭の同じ位置に北斗七星の形のアザがある。
 霞羅門(第63代伝承者リュウケン)の母違いの兄で、第61代伝承者霞鉄心と北斗劉家拳の月英(美福庵主)の間に生まれた純血の北斗の子。
 1940年代の中国を舞台に北斗神拳の分家である北斗劉家拳、北斗曹家拳、北斗孫家拳の各伝承者、極十字聖拳や北斗神拳の原型である西斗月拳の拳士達と死闘を繰り広げる。
 やはりと言うべきか、悪党に対しては容赦の欠片も無く、ケンシロウに輪をかけたドSさを披露している。

〉サイタマ(出典 ワンパンマン)
 マンガ『ワンパンマン』の主人公。
 ハゲ頭が特徴で、ヒーロー活動の時は赤い手袋と白いマントのついた黄色のスーツを着る。
 就職活動に行き詰っていた時に子供を怪人から助けた事により、子供の頃から憧れていたヒーローになる事を決意。
 その後三年もの間修練を重ね、毛髪を全て失うほどの荒行の末に無敵の強さを得た。
 その力はまさに無敵であまりに強すぎるために、どんな強敵を相手にしても戦いにすらならない。
 手加減して戦う時を除いてほぼ全ての敵を一撃で倒し、物理攻撃、破壊光線、超能力などあらゆる攻撃をものともしない。
 そのあまりの強さ故に、怪人との戦闘が一撃で終わるルーチンワークと化しており、彼は緊張感ある戦いが出来ないことに虚しさを覚えるようになる。
 現在の目的は『強敵との対等な戦いを楽しんで、最後には悪を倒すこと』

 今回はここまでとさせていただきます。
 また次回でお会いしましょう。

 蛇足(スパロボVプレイ中に唐突に浮かんだネタ)
 ガンダムブレイカー3本編終了後、事故によりこの世を去った主人公。
 ガンダムブレイカー2の劇中劇が現実になった世界で転生し、コロニーと地球の戦いを終わらせるもここでも事故死。
 三度目はスパロボVの西暦世界にアスカ家の長男として誕生するも、オーブ侵攻戦で爆発に巻き込まれて宇宙世紀世界へ転移。
 なんとか軍に入り込み、ヤザンの兄貴と仲良くなるもロンド・ベルへと転属。
 アクシズショックにより再び西暦世界へ。
 始祖連合国にある無人島でタスクとサバイバルライフを過ごす主人公に再び迫る戦火。
 その時、島の洞窟でかつての愛機であるガンダム・エピオン、そして管制AI「GAIOS」と再会する。
 再び戦場に立つ決意をした彼は、地球艦隊・天駆や数多くの敵勢力から恐れられる事になる。
 曰く「野生のラスボスが現れた」と。
 クセがなく普通にいい人の彼が何故こう呼ばれるのか。
 それは彼の声がCV若本だからである。
 ゼロシステムの影響により『戦国BASARA』の織田信長のような口調になった事ことにより、威圧感は10倍アップ。
 二度の前世で蓄積された操縦テクニックに加え、GAIOSによって更なる魔改造を施されたエピオンの性能によって、本人の意志とは裏腹に某鰤男などメじゃない勢いでラスボスフラグを立てていく主人公。
 彼は無事に家族の元に帰れるのだろうか?
 

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