MUGENと共に   作:アキ山

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 皆様、お待たせしました。
 今回の閑話なのですが、思った以上に長くなりそうなので分けました。
 本編をお待ちの方は少々お付き合いください。

 ソシャゲーのKOF98UMをやり始めました。
 京、ユリ、アテナの初期面子よりもラルフ、陳、ロバやんの方が頼りになってます。
 早く、リョウが来ないかなぁ。


閑話『兵藤一誠救出作戦(序)』

「数々の御恩を受けた身でありながら、それを返す事も無くこのような結果になってしまい、誠に申し訳ございません」

 華美な装飾は無いものの、一流の家具で占められた広い執務室の中で俺は深々と頭を下げる。

 対面にある執務席に座る偉丈夫は、こちらに視線を向けると小さく溜め息を吐いた。

 呆れているように感じたが、大きく取られた窓から差し込む冥界特有の赤い月の光を背にしている為、その表情を窺う事はできない。

「顔を上げなさい、慎」

 偉丈夫、ジオティクス・グレモリー公爵の言葉に顔を上げる。

 月が雲に隠れたのか、薄れた紅い光の中から現れた彼の顔には、苦渋の色が深く刻まれている。

「今回の事情については、サーゼクスやグレイフィアから聞いている。お前が謝罪などする必要はない。頭を下げるべきは、周りからどう思われてるかも考えずに好き勝手に振る舞っていた、我々旧き悪魔だ」

 そう呟いたジオティクス小父さんは、リアス姉と同じ紅い髪を掻き上げながら深く息を吐いた。

 その表情には普段の若々しさは無く、十は老け込んだ印象を受ける。

「まさか、私達の増長のツケを子供達が払う事になろうとは……。初代ルシファーに付き従い悪魔こそが至高と蛮勇を振るっていた、過去の自分を叩き殺したい気分だよ」

「ジオティクス小父さん……」

「すまない、つまらない愚痴(ぐち)を聞かせてしまったな。ここには何時まで滞在できるのかね?」

「4日かな。こっちに来るまでに挨拶しなきゃいけない所は全部回ったから、向こうに帰るまではゆっくりさせてもらうつもりだよ」

「そうか。なら、ミリキャスに会ってやりなさい。お前達が帰ってくるのを、首を長くして待っていたのだからな」

「わかった」

 話す事は全て口にしたので退室しようと踵を返した俺は、こちらを呼び止めるジオティクス小父さんの声にドアノブに掛けた手を止める。

「慎、辛くなったらいつでも帰ってきなさい。ここはお前の家で、私達はお前の家族だ。お前が何処で何をしていても、グレモリー家はお前を拒みはしない。それを忘れないようにな」

「……ありがとう」

 一言、小さく呟いた俺は、振り返る事無く部屋を後にした。

 ……やっべー、ひさびさにジーンときた。鼻声だったの、バレてないよな。

 とりあえず、ミリキャスに会う前に顔を洗おう。

 兄貴分として、情けない顔は見せられないからな。

 

 あの聖剣事件から早二週間、俺は冥界のグレモリー家にいる。

 事件から一週間はひたすら事後処理に追われる日々だった。

 付近一帯への隠蔽工作にはじまり、各種報告書作成。周辺被害の調査に被害額の計算。住民への被害の聞き取りと巻き込まれた者のケア。

 そこにダーナ神族の復興支援という名目で、聖剣復元の材料集めが割り込んできて(破片は全て回収済みだったらしい)、挙げ句の果てには鬼太郎君(仮)の尋問までやった。

 労働基準法? ナニソレ、おいしいの? を地で行くデスマーチをヤケクソに悪ノリ、深夜の無駄なハイテンションで乗り切った俺と美朱は、その甲斐あってようやく一週間の休暇を手にする事ができた。

 学校の方は事後処理期間も含めて神職業務による公休にしてくれるそうなので、この機会を利用して知人への事情説明の為に、冥界へ行くことにしたのだ。

 事後処理に忙殺されて完全に忘れていたが、ギャスパーの事もあったし。

 ゴメンよ、ギャスパー。

 そして(ふみ)さん。ギャスパーの面倒見てくれてありがとうございます。

 反対されると思っていた天照様からの許可もあっさり出て、術式符とオカ研の魔法陣を使って冥界に来た俺達は、グリゴリの幹部連中を皮切りにアジュカさんとファルビウムさん、サイラオーグの兄貴とミスラさんにシトリー家と縁の深い人々を巡り、今回の事件と俺の身の振り方を説明していった。

 そして、たった今、最後の目的地であるグレモリー家当主のジオティクス小父さんへの説明を終えた訳だ。

 これで、3日間にも及んだ説明行脚も無事終了。

 後は残りの4日間をのんべんだらりと過ごせば、冥界とは当分おさらばだ。

 これからは冥界に自由に来れないのは寂しいが、自分の選んだことなので仕方がない。

 取り敢えずは、美朱と遊んでいるであろう弟分のミリキャスを構ってやることにしよう。

 広大なグレモリー邸の中を慣れた足取りで進むと、数分でミリキャスの部屋が見えてくる。

「おかえりなさい、慎兄様!」

 ノックから入り口の扉を開けると、快活な声と共に小さな人影が飛び込んでくる。

 遠慮なしに突っ込んでくる影を受け止めると、そこには記憶の中の姿とは見違えるほどに成長した紅毛の少年、ミリキャスの姿があった。

「おっきくなったな、ミリキャス。前あった時に比べたら別人だぞ」

「僕ももう十歳ですから。それに、慎兄様だって前よりも背が大きくなってます」

 確か、ミリキャスと最後に顔を合わせたのは、年始の挨拶の時だから半年も経っている。

 そりゃあ大きくなるわけだ。

 ちなみに俺はこの半年で身長が6cm伸びた。体重は重力トレーニングで絞り過ぎたのか、一時期は少々減ったが今は元に戻り始めている。

 親父の上背が2m近いので、俺も出来れば180オーバーになりたいのだ。

 がんばれ、俺の身体。あと4㎝だ。

「それに、慎兄様に教えてもらったカラテも毎日やってるんです。パンチやキックも上手く出せるようになったんですよ」

「そうかそうか。なら、後で組手でもするか」

「はい!」

 元気良く応えるミリキャスと軽く拳を合わせて部屋に入ると、携帯ゲーム機片手に寛いでいる美朱が目に入る。

「おかえり慎兄。小父様への説明、終わったんだ」

「まあな」

「そっか。じゃあやっと一息つけるね」

「ああ。ずっと働きづめだったんだ、ここにいる間はゆっくりしよう」

「さんせー」

 メイドさんが煎れてくれたお茶を飲みながら、日本であった事などをミリキャスに乞われるまま、面白おかしく語ってやる。

 生粋のお坊ちゃんであるミリキャスにとって俺達の様な庶民の生活は興味の対象らしく、特に美朱の語る特撮ヒーローの話は食い入るように聞いている。

 時より菓子をつまみながら他愛のない事で笑う。

 俺達が日本に行く前までは、毎日当たり前のようにこうやって過ごしていた。

 これからはこういう時間も取れなくなるんだな……。

 覚悟していたが、やはり寂しいものは寂しいな。

「大変よ、慎!!」

 ノックも無しにリアス姉が部屋に飛び込んできたのは、かぶりつきで聞き入るミリキャスに気を良くした美朱の語りが最高潮に達しようとした時だった。

 入り口から俺の姿を見つけ、大股でこちらに向かってくるリアス姉。

 だが、その歩みは背後から彼女の肩に置かれた小さな手によって阻まれる事になる。

「リアス姉様。マナーについて、もう一度語り合いましょうか?」

 年に似合わない地の底から這い出るような、ドスの利いた声を放つミリキャス。

 その顔に張り付いた笑顔は、怒れる彼の母親にそっくりだった。

 

「それで、朱乃姉。なにがあったんだよ」 

 あれから時計の長針が半周し、(ようや)くミリキャスの説教が終わったので、俺は向かい側のソファに座る姉に問いを投げる。

 リアス姉? いつもの通り、保母役であるウチの長女の胸に顔を(うず)めてるよ。

 今回は長時間の説教に加えて、締めに言われた『リアス姉様って、身体が大きい妹みたいですね』という言葉がショックだったらしい。

 まあ、キツい言葉だとは思うが、ミリキャスが五歳の頃からなんやかんやと説教されていたので、そう言われても仕方ないだろう。

「ミリ君、リーア姉は妹じゃなくて『残姉(ざんねえ)』なんだよ」

「残姉、ですか?」

「そ。残念な姉、略して残姉」

「なる程……。リアス姉様の『残姉』!」

 愚妹が余計な事をミリキャスに教えたせいで、またもや『ピギャー』と泣き出すリアス姉。

 まったく、これじゃ話が進まないだろうが。

「二人とも、リアス姉イジるのはその辺にしとけ。で、朱乃姉?」

「私も詳しい事は聞いていないの。慌てて部屋に飛び込んで来たリアスは『イッセー君が(さら)われた』と言っていたわ」

 自信なさげな朱乃姉の言葉に、俺は眉根を寄せた。

 攫われたとはまた穏やかじゃない。

 イッセー先輩は神滅具(ロンギヌス)の一角たる赤龍帝の籠手の所持者だ。

 神をも滅ぼせる神滅具、しかも二天龍と呼ばれる強力なドラゴンの魂を宿した赤龍帝の籠手は、言葉では言い表せない程の価値を持つ。

 禍の団を初めとするテロリストや有能な眷属を求める貴族悪魔、堕天使や天使に果ては他の神話勢力と容疑者を考えればキリがない。

 しかし、だからと言って悪魔でも屈指の有力者であるグレモリー公爵家から攫うとなると、特定が難しい。

 現時点では情報が足りなすぎるな。

「攫われた時の状況が分かる奴はいるか?」

「どう、リーア?」

「わかんない。りーあも、グズッ、あーしあにきいただけ、ヒック、だから」

 しゃくり上げながらも何とか答えを返すリアス姉。

 というか、いつまでガキのままでいるんだこの人は。

「アーシア先輩の滞在してる部屋ってどこだっけ?」

「確か、イッセー君の隣だったはずよ。でも、今はイッセー君の部屋にいるんじゃないかしら」

 ともあれ、まずはアーシア先輩から話を聞くしかないか。

 もしかしたら、彼女の勘違いという可能性もあるし。

 部屋にいた面子を連れ立ってアーシア先輩の様子を見に行くと、(くだん)の先輩は真っ青な顔をしてイッセー先輩の部屋の隅で震えていた。

 明らかに尋常な様子じゃない。これは思っていたよりも遥かに面倒な事になってるのかもしれない。

「アーシア先輩、大丈夫か?」

「慎君、美朱ちゃん……? !! イッセーさんを、イッセーさんを助けてください!」

「ちょっ……!? 落ち着いてくれ、先輩」

 こちらにしがみ付いて来る先輩を引き剥がして何とか落ち着かせた俺達は、未だに怯えが見えるアーシア先輩から事情を聞くことにした。

「いつものようにイッセーさんと一緒にお茶をしていたら、突然『我が道場の門を潜っておきながら、女にうつつを抜かし堕落した様、ド許せぬ! 今一度、私自らが鍛え直してくれるわ!!』って声が聞こえて、そしたら……そしたら……!?」

 その時の様子を思い出したのか、ブルブルと震えだすアーシア先輩。

 これ以上問い詰めるのは拙いか?

 だが、現状手がかりを持っているのは先輩しかいない。

 ……いや、正直先輩が聞いたセリフには心当たりはあるのだが、もし犯人が俺の予想通りならイッセー先輩の救出は絶対に不可能だ。

 そうでない事を確認する為にも、アーシア先輩の証言が欲しい。 

「空間が割れて、そこから伸びてきた銀の腕がイッセーさんの首を掴んで、穴の中に連れ去ってしまったんです。早く、イッセーさんを助けてください! あれは……あれは……!」

「分かってる、イッセー先輩の救出には全力を尽くすさ。だから、教えてくれ。……あれは?」

「……将軍様の腕でした!」

 勇気を振り絞るように叫ぶアーシア先輩。

 その声を聞いた俺は、震える肩に手を置いて幼子に言い聞かせるように、その目を見ながらゆっくりと言葉を紡ぐ。

「アーシア先輩、イッセー先輩はもう手遅れだよ」

「なにを言うの、慎! そんな簡単に諦めてはダメよ!」

「いっせーは、りーあのけんぞくなの! たすけてよ、しん!!」

 驚愕に目を見開くアーシア先輩と、非難轟々の姉二人。

 あんた等、俺に死ねと申すか。

「朱姉、朱姉。今の言葉って慎兄に死ぬより辛い目に遭えって言ったのと同じなんだけど」

「え、どういう事なの?」

「将軍様ってさ、慎兄の使う地獄の断頭台の元祖で、悪魔超人の親玉なんだよ」

「いや、そんな事言われても朱乃姉達には意味わかんないだろ」

「ごめんなさい、美朱の言葉だと解らないの。ちゃんと説明してくれるかしら?」

「了解。今回イッセー先輩を連れ去ったのは、多分悪魔将軍っていう無限の闘争(MUGEN)の住人なんだよ。その人は俺のレスリングの師匠で、悪魔って名乗ってるけど元は超人という種族の闘神だった方。正直、十回闘ったら十回負けるくらい強い」

 俺の返答に言葉を無くす朱乃姉。

 もとから居た面子に加えて、いつの間にか合流していたギャスパー、塔城も驚愕の表情を浮かべている。

 ……やはり祐斗兄は来ていないか。

 グレモリー家に来てからずっと引きこもっていると聞いていたが、この騒ぎでも出てこないとなると、かなりの重症だ。

 こっちにいれる内に、なんとか話せればいいが。

 暗くなりそうな思考を打ち切って現実に目を戻すと、みんなが黙り込む中で、美朱がこちらに哀れみの視線を向けていた。

 え、なに、その悲痛な表情。

 いや、ホント闘わないからな。

 だから、こっちの胃壁とSAN値が削れるような、処理場に送られる豚を見る目はやめてください。SanityなのでSANです。

「またまた。フラグなんでしょ、そのセリフ」

 フラグじゃねーよ、不吉な事抜かすな。

「そのひとが、どうしてりーあのいっせーをつれてったの?」

「ライザー戦の時に無限の闘争(MUGEN)つかっただろ? その時にさ、体力作りとしてその人の道場で世話になったんだよ。ただ、将軍様は鍛錬を怠る奴が嫌いでさ。イッセー先輩はあれからトレーニングをサボりがちだったから、その辺があの人の逆鱗に触れたんだろうな」

「……じゃあ、イッセー先輩はあの不思議空間にいるんですね」

「恐らくな」

「なら、むかえにいこうよ」

「そうですわね。イッセー君も無理やり修行なんてさせられたくないでしょうし」

 さも気楽に言う姉二人に、俺は軽い頭痛を覚えた。

 それができれば本当に苦労はしないんだよなぁ。

「残念だがそう簡単にはいかないんだ、これがな。無限の闘争(MUGEN)の中は入る時に決めた条件の行動しかとれないっていうルールがあってな。だから、前みたいに修行に設定して入ってもイッセー先輩は連れだせないんだ」

「えっと、じゃあどうすればいいの?」

「いい質問だ、ギャスパー君。イッセー先輩を迎えに行こうと思ったら、最も自由に行動できる条件、即ちサバイバルツアーモードを選ぶしかない。ただ、これは修行や対戦と違って無限の闘争(MUGEN)の世界を探検する危険なモードだ。少し前に俺が行方不明になって腕を折って帰ってきただろ? その時に使ったのがこれ」

「……黒歌姉様が変になったあれですね?」

「そう。だから、行くなら俺一人で行くことになる」

 とは言ったものの、正直なところ行きたくはない。

 だいたい、ようやくデスマーチから解放されたのに、今度は無限の闘争(MUGEN)ツアーとか悪い冗談である。

 元を正せば、将軍様が現世に干渉するほどに修行をサボっていたイッセー先輩の自業自得なんだから、しっかり絞られればいいのだ。

 とはいえ、無限の闘争(MUGEN)を紹介してゴールデンキャッスルに連れて行ったのは俺なので、その責任は感じてるし、今回の件で先輩が泣いたり笑ったりできなくなるのはともかく、『悪魔超人 レッドスニゲーター』なんかに変貌しては、流石にこちらも寝覚めが悪い。

 状況的にも心情的にも我儘を言う訳にはいかないみたいだ。

「まあ、そういう訳だから、みんなはここで待っていてくれ」

 観念して無限の闘争の扉を潜ろうとする俺を、背後から伸びた手が引き止める。

 振り返ると、そこには幼児退行から立ち直ったリアス姉の姿が。

「私達も行くわ。イッセーは私の眷属だもの、誰かに任せるなんてできない」

 ……ホント、都合のいいタイミングで元に戻ったな。もしかして、狙ってたか?

「人聞きの悪い事を言わないでちょうだい。朱乃の献身のお陰よ」

「リアス、次からはベビーシッター料を貰いますわね」

「…………」

 朱乃姉、リアス姉は豆腐メンタルなんだから、余計な事を言わない。

 ほら、また涙ぐんでるじゃないか。

「リアス姉。幼児化してたから理解できてないかもしれんが、今回はガチで危険なんだよ」

「話は聞いてたから知ってるわ。でも、死ぬことはないんでしょう?」

「ど阿呆。実際に死ななくても、死の痛みや喪失感はしっかり味わうんだよ。黒歌が廃猫化したのはそれが原因だ。だから、メンタルが弱い奴は連れていけねえよ」

「私の可愛い眷属達に、心の弱い者なんていないわよ」

「さっきまで幼児になってた奴が、どの口で言ってんだ。王のリアス姉も含めて、片っ端から豆腐メンタルじゃねえか」

 俺の言葉に、後ろにいた眷属の面々は不快感を露わにするが、撤回するつもりはない。

 今回は合宿の時とは危険度が桁違いだ。

 現地で誰かがダメになったからといって、俺に助けられる余裕があるとは限らない。

 ヘタをすれば無限の闘争の中に閉じ込められる可能性もある。

 少々言葉が過ぎるかもしれないが、ここで止めるべきだろう。

「……っ!? でも、イッセーは私の眷属なの。あの子が助けを求めてるなら、私は主として行かなくちゃ」

「だから、リアス姉達が付いてきても二重遭難するだけだって。俺もツアーモードだと助ける余裕ないしよ」

 こうやってリアス姉と『行く』『行かない』と押し問答をしていると、ミリキャスを伴った美朱に割って入ってきた。

「ねえ、慎兄。そのツアーモードは制御コンソールから強制終了とかログアウトってできないの?」

 美朱の思いも寄らない問いに、記憶を探ってみたが、そういった事は調べた覚えはない。

「前回行った時は、中にいた奴全員が参加したからなぁ。あれ以来ツアーモードを弄ってなかったし」

「ならさ、一度確認してみようよ。それでモニタリングと強制ログアウトができるのなら、使用権を貸した誰かにコンソール前で安全装置の役割をしてもらって、リアス姉達も参加。もし無かったら、慎兄一人でいく。これでどうかな?」

 ふむ、妥協案としては悪くない。

 というか、まず俺がその可能性に気づかなければならないのに、言われるまで思いつきもしないというのはどうなのか。

 内心少しヘコミながらも同意を示すと、リアス姉もこの案に飛びついたので、そこにいた全員で、無限の闘争(MUGEN)の門を潜る事になった。

 入り口を抜けていつもの控え室に入ると、そこには先客がいた。

 ゴッツい身体を空手着に包んだ男、サイラオーグの兄貴だ。

「サイラオーグ!」

「リアス、それに美朱もか。慎はともかく、お前達がここに来るとは珍しいな」

 どうかしたのか、と笑顔で問うサイラオーグの兄貴に、言葉を詰まらせるリアス姉。

 まあ、事情が事情なので言いにくいのはわかるが、ここは話しておいたほうがいいだろう。

「実はリアス姉の眷属に赤龍帝がいるんだけど、こっちの住人に拉致られてな。いまからツアーモードで迎えに行くんだ」

 後ろでピーピー騒ぐリアス姉を無視して事情を話すと、サイラオーグの兄貴の表情が険しいものになる。

「拉致とは穏やかではないな。そもそも、ここの住人が現世に干渉できるのか?」

「一定以上の力の持ち主ならできるらしい。ここまで直接的に動かれたのは初めてだけど」

「むぅ……。なら、俺もリョウ師範が来た時の事を考えなければならんか。ところで、何故赤龍帝は拉致されたのだ?」

「拉致ったのは俺の師匠の一人でな、赤龍帝も一時教えを受けてたんだ。で、その師匠は鍛錬にもの凄く厳しい人でさ。サボってた赤龍帝を見かねて、鍛え直すって引っ張っていったんだと」

 こちらの言葉に、拍子抜けと言わんばかりに呆れた表情になるサイラオーグの兄貴。

 いや、その気持ちは痛いほど解る。

「なんだ、自業自得ではないか」

「それには同感だけど、リアス姉的に眷属を拉致られたのは一大事らしくてな。それで迎えに来たんだ。それで、サイラオーグの兄貴は?」

「お前が送ってくれた薬のお陰で母上の意識は戻り、病状も随分とよくなった。しかし、あの薬ではどうにも後一押し足らぬようでな、より効能のある薬を取りにきたのだ」

「ミスラ叔母様の意識が戻られたの?」

「ああ。リアス達にも会いたがっていた。暇があれば顔を見せてやってくれ」

 なる程、この前訪ねた時にミスラさんがベッドにいた事から予想していたが、ファイナルファンタジーの万能薬でも快方に向かわせるだけで、根治はできなかったか。

「あれより強力な薬となると、世界樹の葉かエリクサー、ソーマにアムリタくらいか。どれも入手困難な激レアアイテムだぞ」

「手に入れる為ならば、如何なる困難も覚悟の上だ」

 言葉と共に向けられた目に迷いは見られない。

「なら、俺達と一緒に行くか? 兄貴はツアーモード初めてだろ。こっちは一度体験してるから、少しならアドバイスできるぜ」

「ふむ。ここの正当な所有者である、お前が来てくれるのならば心強い。頼めるか?」

「リアス姉もいいよな?」

「ええ。ミスラ叔母様の為ですもの、協力は惜しまないわ」

「すまんな、リアス」

「いいのよ、気にしないで」

 話は纏まったようなので、早速システムを確認する事にする。

 制御コンソールでツアーモードを立ち上げ、管理者項目を確認すると確かにあった。

 強制終了に個別ログアウト、さらには自動ログアウトの機能まで付いている。

 説明文に目を走らせると、強制終了と個別ログアウトは制御コンソールからしかできないようだ。

 自動ログアウトは、その名の通りコンソールの操作なしで発動するが、その条件は擬死する事となかなか厳しい。

 前回同様であれば、ツアーモードを死なずにクリアするのは、相当ハードルが高いと言える。

 まあ、今回の目的を思えば、アイテム目当てであるサイラオーグの兄貴はともかく、リアス姉達には使用しても問題ないだろう。

 あとは不具合の可能性を考慮して、誰かがここに残れば完璧か。

 問題は誰を残すかだが……。

 頭を捻りながら自販機で買った飲み物を手に、雑談に興じる一団に目を向ける。

 リアス姉はダメって言っても来るだろうし、朱乃姉も俺と美朱が参加するとなれば必ず来る。

 アーシア先輩もイッセー先輩が絡んでるから引きそうにないし、となると残るは塔城とギャスパー、そしてミリキャス……

 ん……ミリキャスッ!?

「ちょっと待て! ミリキャス、お前なんでここにいるんだ!?」

「え? 慎兄様達についてきたからですけど」

 もしかして、イッセー先輩の部屋からこっちに移動する時についてきちまったのか?

 イッセー先輩の拉致に気を取られて全く気付かなかった、我ながら迂闊過ぎる。

 この子が無限の闘争(MUGEN)に関わるのはまだ早い。

 兎に角、外に出さないと。

「ミリキャス、ここから先は危険なんだ。屋敷に戻ってくれるか?」

「ごめんなさい、兄様。僕は戻りません」

 速攻で断られて、俺は思わず鼻白んでしまった。

「……何でだ?」

「イッセーさんはこの屋敷で攫われたと聞きました。なら、事の顛末を見届けるのは次期グレモリー当主としての義務です。兄様は僕に教えてくれましたよね。男なら背負ったモノから逃げてはいけない、そして冒険のチャンスは逃すなと!」

 誇らしげに胸を張るミリキャス。

 当の俺はというと、過去の過ちに白目を剥きそうだった。

 確かに、小さかったミリキャスにそんなことを言った覚えがある。

 一緒に遊んでいた時のノリで言っただけなのに、まさかここで持ってこられるとは思わなかった。

「慎よ、いいのではないか? 小さい頃の冒険や苦労は、必ず後の糧になる。そう思ったからこそ、お前もこの子にそういったのだろう?」

 いいえ、その場のノリでした。

「けどよ、サイラオーグの兄貴」

「もし、危険な事にあったとしても、その時は俺達が護ってやればいい」

 サイラオーグの兄貴の顔に浮かんだ男臭い笑みに、俺はため息をつくしかなかった。

 ミリキャスもサイラオーグの兄貴も妙に頑固だから、こうなったらテコでも動かないだろう。

 まあ、自動ログアウトや強制ログアウトもある事だし、最悪の事態には至らないか。

「しょうがない。ミリキャス、ついて来るなら俺や美朱の言う事は絶対に聞く事、それと一人で行動しない事。いいな?」

「はい!」

 元気に答えるミリキャスを美朱に預けた俺は、塔城を安全装置要員として呼び寄せる。

 首を傾げる塔城に、サブ管理者認証用のリストバンドを渡して、役割とコンソールの操作説明を行う。

 この際に、俺とサイラオーグの兄貴以外のメンバーを自動ログアウトに登録しておく。

 一通り作業も終わり、見落としが無いかチェックしていると、画面の端に『補助アイテム』という項目があるのに気づいた。

 開いてみると医療キットや寝具一式、果てはホイポイカプセルに収納できる車や家までが並んでいた。

 ヴァーリのアホめ。

 こんな良いものが有ったんじゃねえか。

「へぇー、役立ちそうな物が色々あるね。これってポイント引き換え制になってるけど、替えるだけのポイントあるの?」

 前回味わった苦労が無駄だったという事実に目頭を押さえていると、横から画面を覗き込んでいた美朱が声をあげる。

「ああ。引き替え対象は、無限の闘争を使用すると加算される基礎ポイントだから、結構良いものが替えられるくらいは貯まってるぞ。お前もあるんじゃないか?」

 促されるままに、手に着けたブレスレット型の簡易コンソールを弄る美朱。

「おおっ! あったあった。40000ポイントだって。慎兄はどの位あるの?」

「五百二十万ポイントだな」

 自身のステータス画面に書かれた額を読み上げると、美朱は半ば呆れたような目をこちらにむけてくる。

「うわぁ、桁外れ。一番下の豪邸が入ったホイポイカプセル、十個は替えられるじゃん」

「んな勿体ない真似するか。馬鹿言ってないで、お前も必要なものがあったらもらっとけよ。簡易の方でも交換できるだろ」

 美朱の目を自分のコンソールに向けさせて、俺は再びアイテムリストと睨めっこを開始する。

 前は馬鹿と獣と人外だけだったので、野宿でも何でもバッチ来いだったが、坊ちゃん嬢ちゃんがいる今回は、それでは拙い。

 やはりカプセルハウスの一つくらいは、替えておかなければならないなだろう。

 あとは足が欲しいところだが、メンバーの中で誰一人免許を持っていないのがネックだ。

 俺も前世では車の免許ぐらいは持っていたが、なんせ生まれ変わってから15年はハンドルを握っていないのだ。

 正直、まともに運転できるかと聞かれれば自信は無い。

 無限の闘争内が治外法権である事を利用して現場で練習するという手もあるが、時間がかかる上に何らかのペナルティーがあったら困る。

 ひとまず保留だな。

 他に必要なのは着替えと食料、医療キットに空のホイポイカプセルが複数個とカプセル専用の蛇口。

 水の濾過装置と調味料、調理具にあとは寝袋、と。

 まあ、取りあえずはこんなところだろう。

 全て現地調達した前回に比べて待遇は雲泥の差だが、これでも今回のメンバーでは不安が残るか。

 他に必要な物はないかと頭を捻っていると、横から袖を引かれる感覚。

 視線を向けると、何故かキラキラした目でこちらを見上げる美朱な姿があった。

「ねえ、慎兄。ポイントの貸し借りってできるのかな? 欲しい物はあるんだけど、ポイントが足りなくて」

「……貸し借りは無理みたいだな。どれが欲しいのか言ってみろよ。あんまり高いのじゃなかったら、こっちで替えてやるから」

「さすが慎兄、太っ腹! 私はこれが欲しいんだ」

 こちらのコンソールを操作して、美朱が示したのはスクーター。

 ピンクとメタルシルバーに塗装され、ホイポイカプセルに対応した優れもの。必要ポイントも50000とお手頃だが──

「……他にも面子いるのに、お前一人だけ乗るのか?」

「違う違う。これは現実で使う用だよ」

 ……いや、普通に欲しかっただけかい。

 それ以前に、これって現実で使えるのか?

 コンソール操作でQ&Aを開いて検索した結果、なんと現実で使える事が判明。

 分類的には、前に持って帰ったマジックアイテムと同じく、サバイバルツアーモードの報酬ということになるらしい。

「……お前、免許持ってたっけ?」

「これが終わったら取るもん」

 まあ、原チャリなら1日で取れるか。

 交通事故とか懸念材料は多々あるが、高校生なんだから、原チャリの一つを持っていてもいい歳だろう。

「わかったよ。……ほれ」

 交換を選ぶと、左手に車体と同じ色のホイポイカプセルが現れたので、美朱に渡してやる。

「やったー!! ありがと、慎兄。大事にするね!」

「あいよ」

 飛び跳ねて喜びを露わにする美朱を見て、ふと思った。

 一応、人数分は最低限の物資を用意した。だが、嗜好品や衣類なんかは、各自に選ばせた方がいいのではないか。

 女性用の衣類なんかは、みんなフリーサイズのジャージだからなぁ。

 ……うむ。ポイントにも余裕はあるし、事前に注意しとけば無茶なモノや不要物を交換したりしないだろう。

 ここからはみんなに選ばせてみるか。

 

 この後、三分の一以下に激減したポイントを見て、俺はこの判断を後悔する事になるのだった。

 

 

 

 

 すったもんだとあったが、何とかツアーモードに入った俺達は、ゴールデンキャッスルへの道を進んでいた。

 普段ロードワークに使っているルートだが、鍛錬の時とは違って周囲からこちらを探る視線を複数感じる。

 ツアーモードはエンカウント形式だ。

 当然、対戦ではできない奇襲や狙撃などの戦術も、相手は遠慮なしに仕掛けてくる。

 気を抜けば一気に刈り取られる、より実戦に即した世界と言える。

 そんな緊張感の中なのだが、俺は先ほどの事が頭を離れずに思わずため息をついてしまった。

 まさかのポイント三百万消費。

 まあ、ポイントなんて日々の修行で気づいたら貯まってた程度のモノなので未練はまったくないのだが、ああも無駄に使われてはさすがに精神的にクルものがある。

 アーシア先輩のロザリオや修道服は、まあいいとしよう。

 塔城がリストの高級菓子を買い占めたのも、ギャスパーが飛びついたアダマンチウム製の個人用シェルターも、百歩譲って目をつむるさ。

 問題はリアス姉達の交換したモノだ。

 目録を見たが、あれは本当にヒドかった。

 朱乃姉。

 振り袖や簪なんて今回いらないよな?

 何気に和風建築のカプセルハウス交換してたけど、何に使うの?

 あと、リアス姉と一緒に最高級化粧品を、根こそぎ交換するのはやり過ぎじゃないか?

 次にリアス姉。

 初っ端からリスト最高額の豪邸カプセルハウスに手を出すのは、どういう了見か。

 さらにはアクセサリーやドレスをコンプして、挙げ句家具まで揃えるとか。

 俺は別荘を貰えなんて言った覚えはないぞ。

 ちなみに、リアス姉の使用したポイントは百五十万以上。

 全体消費額の約半分だ。

 オモチャやゲームを交換したとはいえ、一万ポイント以内に抑えたミリキャスとはエラい違いである。

 なにより俺が呆れたのは、これだけ使っといて朱乃姉もリアス姉も、サバイバルに必要な水や食料を交換していないということだ。

 事前に口を酸っぱくして注意したのにこの体たらく。

 俺が二人に魔のショーグンクローをかましたのも仕方ないと言えるだろう。

 そもそも、補助アイテムと銘打たれている中でサバイバルに全く役に立たない嗜好品がある事自体が罠なのに、ウチの駄姉達は物欲全開でものの見事にハマってしまった。

 ……情けなくて、涙も出ないや。

 

「慎君、大丈夫?」

 リアス眷属首脳陣のあまりの残念さに頭痛を覚えてると、労りの言葉を掛けてくるモノが居た。

 声がした方に目を向けると、そこには鈍い銀色に光るサッカーボール程の大きさのカメの甲羅がホバーで自走している。

「……ギャスパー、そこから出ろ。話はそれからだ」

「いやですぅぅぅぅっ!? ここは僕が辿り着いた最後の領地! (つい)の安息所! ここで生まれて、ここで死ぬんですぅ!」

「なにが生まれに領地だ、貰ってまだ一時間も経ってねえだろ。あと、CVジョージな最凶の吸血鬼みたいなセリフ吐いても、甲羅の中じゃ格好悪いだけだからな」

「格好悪くてもいいの、安全に勝るものなんてないんだから」

「まあ、お前がそん中にいてくれた方が俺としても助かるけどさ。それより、その中ってどうなってんだ? 容量的に明らかにおかしいんだけど」

「空間を弄ってるらしくて、中は大きな部屋くらいあるよ。水道も出るし空調も利いてるから思ったより快適だし」

 見た目は踏まれたノコノコみたいなクセに、予想を遙かに超えて高性能だった。

「それ、ほかの奴は入れるのか?」

「3人までなら収容可能みたい」

「そうか。もし、誰かかヤバくなったら保護してやってくれや」

「うぅ、わかったよ……」

「そんな嫌そうにすんなよ」

「ゴメンナサイ。ところで、今はどの辺りかな?」

「それ、周りの様子が見えないのか?」

「うーんと、前面にカメラがあるんだけど、この高さだから」

 申し訳なさそうなギャスパーの声に、俺は納得の声を上げた。

 確かにサッカーボール程度の高さでは、周辺の様子など判らないだろう。

「もう少しで目的地のゴールデンキャッスルだな」

「そこに兵藤先輩、だっけ。兵士の人がいるんだよね」

「多分な」

「むこうの一番偉い人って、慎君のお師匠様なんでしょ。だったら、何もなく先輩は帰ってくるよね」

 ギャスパーの甘々な考えに、思わずため息が出る。

 まったく、そうだったらどれだけ楽か。

「それはないな。将軍様は頑固なうえに、悪魔超人だから力こそが全て的なところあるし。確実に一戦仕掛けてくる」

「え!? どうするの。慎君、さっき勝てないって……」

「心配すんな。勝てないのは確かだけど、将軍様は負けてもそれなりの結果を出せば認めてくれる人だから。俺が死ぬ思いをすればなんとかなるさ」

「そんな事聞かされて、心配しない人はいないと思う」

「細かい事はいいんだよ。ほら、見えてきたぞ」

 金色に輝く巨大な宮殿が見えてきたので、ギャスパーのシェルターを胸元まで持ち上げてやる。

「うわぁ…悪趣味……」

 左右の柱に彫られた、筋肉モリモリのマッチョマンが山脈のような意匠の天板を支えるという、デザインの正門を見たギャスパーの弁。

「超人は鍛え上げられた筋肉の勇猛さと美しさを好むらしいぞ。ま、文化の違いだな」

 女性陣にすこぶる不評な門を潜ると、道場特有の熱気と汗の匂いが漂ってくる。

「うっ……!? 汗臭い」

「スゴい臭いね」

「そうなの?慎君」

「みたいだな、俺は慣れてるけど」

「俺もだ。極限流の道場もこんなものだからな」

 みんなが鼻を摘まむ中、俺とサイラオーグの兄貴は悠々と中を進んでいく。

 剣山腕立てに腹に鉄球を落としもっての腹筋、高圧電流の檻に追い立てられるシャトルランや下から火で炙られながらの背筋等々。

 悲鳴や怒号が飛び交い、数々の過酷な修練が行われる訓練風景を左右に歩を進めながら、訓練生の中にイッセー先輩の姿を探すがその姿は見えない。

 ……妙だ。

 ここで修行する者は一部の例外を除いて、みんな同じ訓練施設を使うはず。

 それがいないとなると、考えられるのは2つ。

 将軍様直々にシゴいているか、もしくはもう此処には居ないか、だ。

 どちらにせよ、将軍様に会わないとわからんか。

 まんま地獄絵図の様な訓練施設を抜け、今までの泥臭い通路ではなく大理石で組まれた純白の廊下を進むと、目の前に黄金の巨大な扉が現れる。

「おっきい……」

「驚いたわ、これ全て純金よ」

 こちらの身の丈を遥かに超える扉に、圧倒されているリアス姉達を後目に、俺は扉に手を付いてゆっくりと力を込めていく。

 純金で創られた扉の重量は片方1トン。

 これを自らの力で開く者のみが、将軍様との謁見が許されるのだ。

 ここに来たばかりの頃はこれを開けるだけでヒーヒー言ってたが、今は慣れたモノ。

 ある程度の力で押してやると扉は重い音を立てて観音開きに開き、扉の奥には大理石と黄金に彩られた見事な謁見の間と、その中央に置かれた四角い構造物が目に飛び込んでくる。

「ねえ、朱乃。あれって……」

「……プロレスのリング、ですわね」

 部屋の中央にドカンと居座る違和感の塊のようなそれに、俺とサイラオーグの兄貴を除く面々は信じられないモノを見るような視線を送っている。

 気持ちはわからんでもないが、それがここにあるのは正しい。

 なぜなら──

「そのリングは我が決戦場。この地を訪れた外敵を打ち滅ぼす舞台として置いているのだ、招かざる来客たちよ」

 部屋の最奥、玉座が置かれた場所から聞こえた威厳溢れる声に、身構える一同。

 俺? 俺は自然体のままだ。

 あそこにいる人が本気だったら、今更警戒したところで遅いし。

「どうも。お邪魔してます、将軍様」

 俺が声をかけると、悠然と玉座に腰かけた将軍様は鷹揚(おうよう)に頷いた。

「構わん。近頃はこの地を訪れていなかったが、衰えるどころかさらに腕を上げたようだな」

「ははっ、ちょっとした技のコツをおぼえましてね」 

「うむ、その調子で精進するがいい。常に克己心(こっきしん)を持ち、己の限界に挑み続ける事がこの門を潜った者の義務なのだからな。ところで、今日は修行では無いようだが、どのような目的でここを訪れたのだ?」

「あなたが連れ去った私の眷属を返してもらいに来たのよ」

 実の無いやりとりに焦れていたのか、毅然とした態度で俺達の会話に割って入るリアス姉。

 しかしそれも一瞬の事で、将軍様の眼力をまともに受けると俺を盾にするように、後ろの下がってしまう。

「いや、リアス姉。啖呵切るなら最後までやれよ」

「ムリ。なにあの人、怒ったお母さまより怖いわ……」

 なんというビビり具合。ミリキャスも見てんのにそれはないだろう。

「私が連れ去った、か。慎よ、その少女の眷属という者の名は?」

「はい、兵藤一誠といいます。少しの間ここで鍛錬を積んでいた事があったのですが、近頃は鍛錬を怠っていたが故に、将軍様の手によって連れ去られたと証言がありまして」

「ふむ、その者には心当たりはある」

「教えてください、イッセーさんはどこにいるのですか!?」

 アーシア先輩の声に応えずに玉座から腰を上げた将軍様は、その場で床を蹴ると一飛びで中央のリングへと降り立った。

 うん、猛烈に嫌な予感がして来たぞ。

「このゴールデンキャッスルにはたった一つ、絶対的な法がある。この地で何かを得ようとするのであれば、己が力を示すというものだ。その兵藤一誠という者の事が知りたくば、私に貴様等の力を見せてみよ」

「そんな、イッセーを連れ去ったのは貴方ではないの!?」

「その通りだ。だが、その男が連れ去られたのは貴様が脆弱故のこと。それが気に入らぬと言うのなら、力で奪い返すのが道理であろう」

 身につけていた真紅のマントを放りながら、さも当然のように言ってのける将軍様。

 やはりそう来たか。うん、知ってた。

 悪魔超人節全開な台詞に、思わず黄昏てしまった。

 どうやら将軍様と戦わずに済むなんて、やはり夢物語らしい。

「あんたの言い分はわかった。その試し、俺が挑戦させてもらおう」

 静かに死ぬよりも酷い目に遭う覚悟を固めようとしていると、先に地獄巡りにエントリーする者がいた。

 サイラオーグの兄貴だ。

「待ってくれ、兄貴! ここは俺が──」

「いや、俺に行かせてくれ。ツアーモードは戦えば報奨が手に入るのだろう? なら、マスタークラスの格闘家と闘うチャンスを見逃すわけにはいかん。それに、試してみたいのだ。今の俺の力がどこまで通じるかを」

 静かな口調とは裏腹に、全身に闘氣を漲らせるサイラオーグの兄貴。

 これでは止めても無駄だ。

「……気をつけてな。将軍様は打撃の速度で関節を極めてくる。組み付かれないように注意するんだ」

「ああ」

 こちらの忠告に短く応えて、サイラオーグの兄貴はリングに上がった。

「よくぞ来た。名を聞こう、勇敢な挑戦者よ」

「極限流空手門弟、サイラオーグ・バアルだ」

「ほう……風の噂で極限流の『無敵の龍』が獅子を育て始めたと聞いていたが、貴様がそうか」

「獅子などと……そんな異名は未熟者の俺にはまだ早い」

 感心したような将軍様の言葉に、頭を振るサイラオーグの兄貴。

 というか、この無限の闘争の中で、噂とか伝わるコミュニティがあったんだな。

 将軍様がサイラオーグの兄貴を知ってたことより、そっちの方がビックリだわ。

「慎、『無敵の龍』とは誰の事なの?」

「リョウ・サカザキっていう空手家だよ。サイラオーグの兄貴の師匠で、極限流空手の二代目師範。かつて無敗の格闘家と畏れられた『Mr.カラテ』を倒した事で伝説となった人だ」

 興味本位なのだろう。

 後ろでリングを見ていた朱乃姉が質問してきたので、答えてやる。

 まあ、その『Mr.カラテ』は彼の父親で極限流空手の創始者なんだが、これは言う必要はないな。

「ふん、随分と謙虚ではないか。だが、闘争においては、その謙虚さを捨てねば二流止まりだぞ」

「その心配は無用だ。闘いの中では心に獣を宿せと教えられている」

 ゆっくりと天地上下の構えをとるサイラオーグの兄貴。

 それを見た将軍様は、腕組みしたまま、もたれていたコーナーポストから身体を離す。

「来るがいい。貴様が獅子か猫か、この私が確かめてやろう」

「行くぞ! 虎煌拳!!」

 闘いの火蓋を切ったのは、サイラオーグの兄貴が放った氣弾だった。

 張り詰めた空気を裂いて飛ぶ赤い光弾。

 中級悪魔程度なら一撃で打ち砕くほどの威力を宿したそれは、腕を組んだまま微動だにしない将軍様の腹に突き刺さる。

 着弾と共に派手な打撃音が響き、粉塵が巻き上がる。

 しかし、煙の中から現れた将軍様にダメージは見受けられず、その銀の鎧にはくすみすらない。

「どうした。この程度では、虚仮威(こけおど)しにもならんぞ」

 腕を解かないまま、将軍様は悠然と言い放つが、その視界の先には兄貴の姿はない。

「油断大敵だ! 飛燕龍神脚!!」

 将軍様の頭上を押さえたサイラオーグの兄貴は、急降下しながら氣を込めた蹴りを放つ。

「愚か者、これは余裕というのだ!」

 だが、頭を捉えるはずの蹴りを難なく躱し、すれ違いざまに相手の腕を取るとアームホイップでマットに叩きつけた。

「ぐっ……!?」

 空手家とは思えない見事な受け身で体勢を立て直した兄貴は、マットを蹴って一気に間合いを詰める。

 その巨体からは想像もつかない速度で踏み込んだ兄貴は、迎撃で放たれた将軍様の拳を捌き、お返しとばかりに顔面への左右。続けざまに放った左の肝臓打ちを受けて下がった顎をアッパーで打ち上げた。

「食らえ、暫烈拳!!」

 そして、極限流連舞拳と呼ばれるコンビネーションブローで宙に浮き上がった将軍様を、拳の散弾が襲う。

 横殴りのスコールのごとき拳は、将軍様の身体を重力に従う事を許さず、地面を掘削するような無数の打撃音共に宙に張り付ける。

 しかし、それだけの打撃を受けても将軍様は揺らがない。

 さすがに腕は解いたものの、自然体のまま全ての打撃を受け、締めのアッパーを顎に食らっても軽やかに空中でトンボを切って着地する始末だ。

「ふふふっ、さすがは無敵の龍の弟子といったところか。誉めてやるぞ」

「あれだけの打撃を受けて、まるで堪えていないとは……なんというタフネスだ」

「タフさはレスラー、殊更我等超人レスラーにとっては必須項目。『受け』の技術では貴様等には負けんよ。さて、今度はこちらからいくぞ!」

 宣言と共にマットを蹴った将軍様は、サイラオーグの兄貴に向けて錐揉み回転が掛かったドロップキックを放つ。

 だが、相手は打撃の専門家。そんな大技がおいそれと通じるワケがなく、一本の矢となった将軍様の身体は素早く屈めた兄貴の頭上を通り抜ける。

「それで避けたつもりか、プラネットマンの宇宙的レスリング能力!」

 しかし次の瞬間、言葉と共に将軍様は何もない空間を蹴って方向を変えたのだ。

「ぐおっ!?」

 反撃に出ようとしていたサイラオーグの兄貴は、予想だにしなかったその動きに虚を突かれ、蹴りを胸板に受けて吹き飛んだ。

「まだまだ終わりではないぞ!!」

 ドロップキックの反動で宙返りをした将軍様は、兄貴の飛ばされた方向へ高速で先廻りし、両脚で空中高く蹴り上げた。

 そして自身も宙を飛び、死に体になっているサイラオーグの兄貴をロメロ・スペシャルに捕らえると、落下しながら高速で回転する。

「食らえ、地獄風車落としぃぃっ!!」

「グワーッ!?」

 二人分の体重と落下スピード、さらに遠心力を加えて胸部を叩きつけられ、血を吐きながらマットに沈む兄貴。 

「逃がしはせん! 地獄のメリーゴーランド!!」

 ダメージが抜けきらないのか、ダウンしたまま転がって距離を取ろうとする兄貴に、将軍様が身体を丸めて両腕を突き出した体勢で、高速回転しながら突撃する。

 この技は両の手の甲から生やした剣で斬りつけるのが本来の姿なのだが、その辺はさすがに自重してくれているようだ。

 何で知ってるかって?

 スパーリングで食らったからだよ。

 将軍様、鍛錬だとガチに容赦って言葉を知らないからな。

 あの時は久しぶりに自分のモツを見たわ。

 しかし、訓練より試合の方が有情とは、なんたる理不尽。

 俺は泣いていいのではないだろうか。

 

 閑話休題。

 

 サイラオーグの兄貴に迫る地獄のメリーゴーランド。

 剣など無くても頭蓋を砕く威力を秘めた拳は、獲物を捉える寸前で相手の出した腕によって受け流された。

 まだ体勢の整っていない膝立ちの状態で、あの勢いに乗った拳を捌く術。

 あれはジャック戦で見せた高等技術、ジャスト・ディフェンスだ。

「ジャスト・ディフェンス!? このような技も修めておったか!」

「あの状態で受けられるかどうかは賭けだった……。この千載一遇(せんさいいちぐう)の好機、逃しはせん!!」

 気炎を吐きながら、全身の氣を練り上げるサイラオーグの兄貴。

 急速に大きくなるそれは、ジャスト・ディフェンスによって奪い取った将軍様の氣を取り込んで、両手の間で氣弾にその姿を変える。

「うおおおぉぉっ!! 覇王翔吼拳!!」

「ぬううぅっ!?」

 サイラオーグの兄貴が放った自身の身長を超える巨大な氣弾は、舐めるようにリングの上を通り抜け、天井に風穴を開けてその姿を消した。

 後ろにいたリアス姉達が歓声を上げているが、俺は楽観視はしていなかった。

 確かにさっきの覇王翔吼拳の威力は凄かったが、あの程度で将軍様が倒せるわけがない。

 現に将軍様の氣はまだリングの中にある。

 多少の手傷は負っているだろうが、戦闘不能までは至っていないはずだ。

 粉塵と焦げ臭い臭いが充満するリングに目をこらすと、立ち上る煙を掻き分けて将軍様が現れる。

 その姿は銀の鎧に多少焦げ目がついているだけで、他にはダメージらしきモノは見当たらない。

「見事だ、サイラオーグ・バアル。ほんの数歩とはいえ、私を退けた事は誉めてやる。だが、本当に私を倒したいのなら、『Mr.カラテ』や『無敵の龍』のように、今の三倍は氣を練らねばな」

「……ッ、化け物め」

 鎧の焦げ目を払い落としながら、悠然と間合いを詰める将軍様。

 相手が纏う強者のオーラに圧倒されながらも、サイラオーグの兄貴が拳を放つが、容易く躱されて水車落としでマットに叩きつけられる。

「ぐあぁっ!?」

 あまりの速度に受け身を取ることも出来ず、頭をしたたかに打ちつけるサイラオーグの兄貴。

「どうした、小僧。この程度ならここの練習生でも受け身が取れるぞ」

 悶絶する兄貴を髪の毛を掴んで無理やり立たせると、覚束ない相手の背後を取った将軍様は、瞬く間にスタンド状態のチキンウイング・フェースロックを極める。

「ぐおおおおぉぉっ!?」

 右腕と首を捻り上げられながらも、脱出しようと藻掻くサイラオーグの兄貴。

 しかし、ガッチリと極まった技はビクともしない。

「そりゃー!! チキンウイング・スープレックス!!」

 チキンウイング・フェースロックの体勢のまま、そり投げを放つ将軍様。

 轟音を立てて側頭部からマットに落ちたサイラオーグの兄貴は、うつ伏せのままピクリともしない。

 ヤバいな。今、明らかにマズい角度で落ちたぞ。

「どうやらここまでのようだな、サイラオーグよ」

 ブリッジの体勢から戻った将軍様は、倒れ伏したサイラオーグの兄貴を冷然と見下ろす。

 その光景は正に勝者と敗者の構図だ。

 とはいえ、こちらも惚けている場合ではない。

 試合が終わったのなら、速やかに治療を行わなければ。

 無限の闘争(MUGEN)の中なので命を落とす事はないだろうが、だとしても放置は論外だ。

「アーシア先輩。サイラオーグの兄貴を下ろすから、治療の準備を」

「はい!」

 アーシア先輩に声をかけて、怪我人の回収の為にリングに上がろうとしたその瞬間、先ほどまでピクリともしなかったサイラオーグの兄貴が身体を起こしたのが見えた。

 リングサイドで呆気に取られる俺を後目に、覚束ない足取りで将軍様の前まで進んだサイラオーグの兄貴は、その銀の胸板にむけて拳を放つ。

 先ほどとはまるで違う、直撃してもペチッと小さい音が鳴る程度の、蠅が止まるようなパンチ。

 慌てて兄貴の顔に目を向けると、俯いているために目は前髪が邪魔で目は見えないが、その顔の色は蒼白を通り越して真っ白だ。

 KOされた格闘家にままあるように、兄貴は今無意識に闘っているのかもしれない。

 静寂を取り戻した室内に、至極軽い打撃音が響く。

 気の抜けた拳に腰が入っていない蹴り。

 頼りない足運びで放たれる攻撃とは呼べないような緩い打撃に潮時と思い改めた俺は、リングに入ろうとして視界に映った光景にその動きを止めた。

 先程まで無防備で攻撃を受けていた将軍様が、サイラオーグの兄貴が放つ攻撃を捌いているのだ。

 驚いて兄貴に目を向けると、彼の動きや放つ技は鋭さを取り戻し、さらにその速度を上げていく。

「面白い男よ。この場面で奥義に目覚めるか」

 油断なく攻撃を捌きながら、楽しそうな声を上げる将軍様。

 今、将軍様は確かに奥義と言った。

 極限流の奥義は覇王翔吼拳ともう一つ。

「もしかして、あれが龍虎乱舞なのか?」

 呟いた俺の視線の先には、ベストコンディションを凌ぐスピードで連撃を放つ兄貴の姿があった。

 

 龍虎乱舞、またの名を極限流十五連。

 SNKが制作した対戦格闘ゲーム『龍虎の拳』に登場する、格闘ゲーム史上初の隠し超必殺技。

 氣を溜めるモーションの後に相手に突撃し、ヒットすると通常技を連続で叩き込んで最後は虎砲で〆る。

 これが龍虎の拳やKOFでよく知られる技の概要だ。

 だが、龍虎乱舞にはもう一つの解釈がある。

 それは今は無きゲーメストに掲載されていたコミカライズにあったもので、曰く『極限状態において研ぎ澄まされた闘争本能を解き放つ事によって一種のトランス状態になり、疲れや痛みを感じる事無く闘神の如く闘い続ける』というものだ。

 この解釈の通り、劇中で龍虎乱舞を放ったリョウは、右腕をへし折られても気にせずに戦い続け、若き日のギースに勝利していた。

 まさか、無限の闘争で習得するのがそちらの方だったとは……。

 こちらが頭の中で思考を巡らせている間にも、サイラオーグの兄貴の猛攻は止まらない。

 鍛え上げられた肉体の限界を超えるほどの連撃に、さすがの将軍様も一歩、また一歩と後退していく。

 だがしかし、その攻勢は唐突に終わりを告げた。

 連撃の中の一つ、大振りの回し蹴りを捌いた将軍様が、フロントスープレックスで兄貴をマットに沈めたのだ。

 相手を投げた後も油断無く残心を取っていた将軍様だが、龍虎乱舞のトランス状態を破られた兄貴が動く事は無く、対戦終了のゴングが高らかに鳴らされた。

 あの暴風のような連撃の中から、ほんの一瞬の隙を突いて投げを放つ。

 相当な実力差と針の穴を通す精妙さが無ければ出来ない勝ち方だ。

 というか、将軍様はいつの間にブロッキングを覚えたのだろうか。

 ただでさえ頑丈なのに、ディフェンスまで強固になったら手の打ちようが無いんですが。

 さて、サイラオーグの兄貴の健闘虚しくイッセー先輩の救出は失敗してしまった。

 当方の二大戦力である兄貴が倒れた以上、断腸の思いだがここは撤退するしかないだろう。

 すまない、イッセー先輩。

 本当にすまない。

「慎よ、上がってくるがいい。次はお前の番だ」

 ………………ですよねー。

 茶番で誤魔化してトンズラしようとしたが、やはりダメだったか。

 ならば、こちらも覚悟を決めるしかない。

 将軍様の待つリングへの道が十三階段に見えて仕方がない。

 もし、俺は護身を完成させていたら、目の前に閉じられた城門や荒れた海ではなく、煮えたぎる溶岩を溜めた火山の火口が見えるだろう。

 そんな愚にもつかない事を考えていると、リングはもう目の前に迫っている。

 この段に有ってはもはや逃れる事は不可能。

 天国の母よ。今、逝くよ。




 ここまで読んで下さった方、ありがとうござます。
 今回は我ながら大変無謀な行動に出てしまいました。
 漫画界の悪のカリスマ、悪魔将軍を文字にするという暴挙です。
 はっきりいって物凄く難しかった。
 この人、強すぎてどんな技でも必殺のイメージが付いて回るんです。
 だから、戦闘を長引かせようとすると、固有技が使えなくなる。
 ゴメンよ、サイラオーグ。
 噛ませ犬みたいな扱いだけど、打撃で将軍様を倒すヴィジョンがどうしても思いつかなかったんだ。
 私の泣き言はさて置き、将軍様は私が最も好きな悪役の一人です。
 そのカリスマと強さがほんの数万分の一でも文字にできていたら幸いです。
 さて、今回の用語解説です。

〉リョウ・サカザキ 『龍虎の拳』シリーズの主人公。極限流空手創始者、タクマ・サカザキの息子で、サウスタウンで極限流の道場を経営している。
 10歳で母を事故で失い、間もなく父も失踪。妹のユリを男手一つで育てて来た苦労人。
 元々少し気弱で優しい性格の彼は人を傷つける極限流空手を何よりも嫌っていた。
 しかし、ユリを育てるためにストリートファイトに飛び込んだ事で力が無くては何も守れない事を痛感し、その経験を通じて「武術は人を守ることも出来る、己を心身ともに強くすることも出来る」と思うようにもなった。
 後に極限流師範を継ぎ、度々『2代目Mr.カラテ』として世間に出るようになる。

〉Mr.カラテ 龍虎の拳のラスボス。かつて不敗を誇っていた極限流空手の創始者タクマ・サカザキが天狗の面で変装した姿。
 また、不敗の空手家としてのタクマの異名でもある。
 本気を出すとシャレにならない性能になる事で有名。
 その強さはストリートファイターの『真・豪鬼』と比肩されるほど。

〉極限流連舞拳 リョウ・サカザキの必殺技で、パンチでの連続攻撃。
 龍虎の拳2では単なる打撃技だが、KOFシリーズでは最後にアッパーで相手を浮かす打撃投げとなっており、作品によっては技後に追撃が可能である。
 MUGENで実装されている場合は、その多くは浮かした相手に龍虎乱舞が入るので、ダメージソースとしては優秀。

〉龍虎乱舞 極限流空手の奥義の一。
 相手に飛び込み、怒濤の連撃を浴びせる技。
 対戦型格闘ゲームにおける乱舞技の元祖であり、『武力〜BURIKI ONE〜』のリョウを除き超必殺技として実装されている。
 基本的には一足飛びによる突進で接近し、乱舞に移行する。
 『龍虎の拳』シリーズと『KOF'94』『'95』では初段がヒットするとその場で乱舞するが、『KOF'96』以降、リョウとロバートのみ相手をヒットバックさせ前進しながら乱舞するようになった。

 今回はここまでにさせていただきます。
 次回にまたお会いしましょう。

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