MUGENと共に   作:アキ山

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 えー、思った以上に筆が乗りました。
 更新速度としては、最速なのではないでしょうか。
 
 


14話

 どうも皆さん。

 現在進行形でストレスと胃痛がハンパない、姫島慎です。

 前世はともかく、今は高校生なのに仕事によるストレス性胃炎とか、いくら労働大国日本の神話勢力に正式移籍したからって、初日でこれは酷いのではなかろうか。

 まあ、原因の大半が身内のしくじりなんで、自業自得と言えなくもない……のか?

 ……うん、その辺は深く考えないでおこう。

「そんな所で見栄張ってないで降りてこい! このままじゃ話もできないだろうが!」

 こちらが声を張り上げると、禁手の兜の部分を解除して降り立つヴァーリ。

 無限の闘争(MUGEN)では『最速敗北記録ホルダー』だの『白龍皇(笑)』だのと散々なこいつも実力だけは達人級なので、その隙の無い所作にこちらの面々の多くは警戒を解こうとしない。

「すいません、皆さん。コイツはヴァーリ。今代の白龍皇で、俺の悪友です。敵だった場合は俺が責任をもってブチコロスので、警戒を解いてもらえますか」

「いきなりヒドイな、ブチコロスなんて……」

「やかましい。ヒドイとか言うなら、その物騒な笑顔なんとかしろ。……ほれ、お前も挨拶しろよ」

「白龍皇のヴァーリ・ルシファーだ」

「超人圧搾機ぃぃぃぃッッ!!」

「ヌワー!?」

 早速口を滑らせた罰に背後から両足をホールドして、羽交い締めで両肩と首を絞め上げると、途端に情けない悲鳴を上げるヴァーリ。

 超人圧搾機とは将軍様がキン肉マンとの死闘の中で、魔のシェイクハンドへの囮として使用した関節技だ。

 劇中では簡単に外されてしまったが、いざ使用してみるとなかなかに使える技だったりする。

「人が気を利かせて姓を伏せてやったのに、あっさりバラしやがって、このアホ」

「挨拶はしっかりやれ、と俺に教えたのはお前だろう。それになんで俺の姓を隠さなけばならないんだ?」

「アザゼルのおっちゃんから何も聞いてないのか?」

「コカビエルが馬鹿な事をしているから、ブチのめして回収してこい、としか言われていないな」

 技から解放されて身体を伸ばすヴァーリに、またしても頭を抱えてしまう。

 なに考えてんだ、おっちゃん。

 只でさえ無自覚に余計な事をする奴なのに、状況をちゃんと教えなかったら『やらかす』に決まってるだろうが。

 仕方ないので、今日起こった事をヴァーリにも理解出来るように分かり易く(まと)めて説明すると、しばし考える素振りを見せたあと、

「なぜ、そんな面白いイベントに呼んでくれなかったんだ!」

 と、のたまった。

 奴のダメっぷりは平常運転らしい。

 ったく、こんな時こそ出番だろうに、保護者のサルはなにしてんだ!

「楽しくねーよ。それよりお前、コカビエルのおっさんを回収しに来たんだろ。あっちに転がってるから持ってけよ」

 指でコカビエルのおっさんが墜落した場所を示してやると、素直に飛んで行くヴァーリ。

 現場に着くなり周囲をウロウロしたり墜落地点をこねくり回したり、と挙動不審になっている事に首を傾げていると、何故かヴァーリは手ぶらで帰ってきた。

「コカビエルの奴、死んでいたぞ」

「……なんだと?」

 ヴァーリの言葉に美朱と旋風を連れて確認に行くと、確かに土に埋まっていたコカビエルは冷たくなっていた。

「死体が発見されました。一定の捜査時間の後、学級裁判をはじめます」

「おいやめろ」

 青い猫型ロボットを連想させるダミ声で、不謹慎な事を言う美朱の頭を(はた)いておく。

 確かにここは学校だけど、学級裁判もエクストリ~ムなお仕置きもありません。

「ふむ、まさか死んでいるとはな」

「どうするんだよ? 回収頼まれてたんだろ」

「生きたまま回収するように言われていたが、死んでしまった以上は仕方がない。だから───」

 ヴァーリは一旦言葉を切ると、コカビエルの死体に魔力弾を放った。

 手から離れた魔力弾は、轟音と共にコカビエルの躯を黒い羽根一枚を残して消滅させる。

「これでも持って帰るさ。アザゼルなら、これを見せれば奴がどうなったかは、解るはずだ」

 地面に横たわる羽根を拾い上げたヴァーリは、それを神器の収納スペースに収める。

 ヴァーリの用事も済み、みんなのいる場所へ帰る道すがら、俺は奴を生きて確保できなかった事に頭を悩ましていた。

「しかし困ったな。コカビエルは今回の主犯格で、『禍の団』の大事な情報源だったのに」

 駒王町に対するテロに関しても、グリゴリへの当たりを弱める為に身柄を抑えたかったのに、死んでしまったのは大きな損失だ。

「でも、主犯格って悪魔側にも一人いたよね。え~と……、シャ……、シャ……、シャア・アズナブルだっけ?」

「いや、墓場鬼太郎(はかば きたろう)だろ」

「そんな名前の旧魔王、いたかな?」

「……シャルバ・ベルゼブブ」

「「ちっ、惜しいっ!」」

「いや、少しも(かす)ってないじゃないか」

 印象が薄さから名前も思い出せない、鬼太郎君(仮)について話し合っていると、携帯からメールの受信音が鳴った。

 確認すると、天照様の名前でダヌー様を高天原に護送するようにとの指示が出ていた。

 やれやれ、一仕事終えたばかりだってのに人使いの荒い事だ。

「どうした」

「いや、なんか追加の仕事が入った」

 画面を見ながら顔を(しか)めていた俺を見て、ヴァーリが声を掛けてきたので答えを返しておく。

 元の場所に戻ると、他のみんなはすでに撤収の準備を終えていた。

「おう、慎坊。白龍皇の用事は済んだのか?」

「ああ。コカビエルのおっさんは死んでたから、その証拠を回収してきた。みんなはこれからどうするんだ?」

「俺は番所に帰って一風呂浴びて、あとは祝杯として一杯()むかな。お前さんは?」

「仕事だよ。ダヌー様達を高天原まで護送しろとさ」

「そいつはご愁傷さまだな。まあ、アズラエルって奴の言ってた事もあるし、念には念を入れたいんだろうさ」

「たしか、無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)と手を組んだ云々だっけ」

「それな。奴さん本人が出張ってくるとは思えんが、旧魔王の残りなんてのが来る可能性がある。勝手に来たとはいえ、ダヌーの姐さん達に何かあったら、御上(おかみ)としても事だからな」

 だからお前さんが指名されたのさ、と三郎の兄貴は咥えた煙草を(くゆ)らせる。

「話は分かるが、使われる方はたまんねえな」

「そう腐るなって。それも期待されてる証拠なんだからよ」

 ポンポンとこちらの頭を軽く叩いて離れていく三郎の兄貴の背を見ながら、俺は軽くため息をついた。

 まあ、愚痴ってても始まらんし、取り合えず番所に戻るか。

「そういや、お前はどうするんだ、ヴァーリ?」

「帰るよ。用事も済んだし、お前とも遊べそうにないからな」

 鎧姿で器用に肩をすくめるヴァーリ。

 奴の遊ぶという言葉に、なんとなく興味を惹かれたので(たず)ねてみると、問われたヴァーリは無駄に不敵な笑みを浮かべた。

 ……ああ。またアホな事を考えてるな。

「もう一度『神』ランクに挑戦しようと思っていた。俺もお前も以前より強くなっているからな。上手くいけば勝てるかもしれん」

 ……どうやら遊びとは、臨死体験のお誘いだったようだ。

「念のため聞いとくが、何と闘うつもりなんだ?」

「あのラ=グースという奴だ。どうせ挑戦するなら、相手は強い方がいいからな」

 自信満々のヴァーリに、俺は意識が遠くに逝きそうになるのを必死に耐えた。

 流石はアホの子。

 発想の方向が760°ほどぶっ飛んでいる。

「愚か野郎。前にソイツと闘った時、相手が登場した余波で、俺達消されたじゃねえか」

 衝撃的すぎて怒る気力も湧かなかったので、これ見よがしに深い深いため息をついてやる。

 ラ=グースへの挑戦は今思い返しても、異色の体験だった。

 対戦場に転送された俺達は、どこまでも続く見通しの利かない真っ暗な空間に立っていた。

 対戦相手の姿が見えないので、気配を探ったり逆にこちらの気配を消したりしていると、遠くから光のようなモノが見えて、次の瞬間には『ドワォ』という音のようなモノと共に、こちらの存在が消滅したのだ。

 この消滅というのは奇妙なもので、死ぬ際に感じる、奈落へと堕ちていくような感覚とは全然違った。

 ゆっくりと、ゆっくりと、自分という形が途方もなく大きなモノに溶けていく、と言えばいいのか……。

 それだけでもなんとも表現する言葉に困るのだが、さらに不思議な事は自分が消えていくのに、ちっとも怖くないのだ。

 むしろ、大きなものに包まれていく妙な安心感まであった。

 多分、あの感覚が『虚無る』という奴なのだろう。

 俺の他に転生という事象があるのだとしても『虚無る』なんて経験をしたのは、俺くらいのものだろう。

 その状態からしっかり復活させてくれた、無限の闘争に備わった死亡防止機能の凄まじさには、頭が下がる。

「今考えたら、あれに比べたらオーフィスもグレートレッドも、ミジンコみたいなもんだよなぁ」

 なんせ奴は登場した際に生じる余波だけで、惑星を破壊する様な化け物だ。

 無限と呼ばれても、所詮地球の生物でしかない龍二匹など、比較にならない。

「あの圧倒的すぎる存在感に比べたら、この世の全ての事は、ちっぽけなんだろうな。だが、そんなトンでもない奴だからこそ、挑み甲斐があるだろう?」

「そうだな。笑っちまうくらいに高すぎる目標なんだけど、不思議と届かないとは思わないんだよなぁ」

「なら、もっと強くならないとな」

「差し当たっては、登場した時に、ちゃんとこっちが存在しとかないとな」

『……お前等絶対おかしいよ』 

 俺とヴァーリの語らいはアルビオンの冷徹なツッコミで終わりを告げた。

 まったく、男のロマンがわからん白トカゲだ。

 

 

 

 

 あれからヴァーリが帰ったり、通学路の裏路地に打ち捨てられていた例のシスター二人をハティ様が見つけ、息があったので保護したりと色々あったが、その辺の後始末は(ふみ)さんと久延毘古様に任せ、身支度を整えた俺はダーナ神族一行と共に高天原に来ていた。

 『行くならついでに』という訳で護送することになった捕虜の鬼太郎君(仮)は、術式阻害と封魔の結界が施された檻付きの荷車に揺られている。

 荷車の牽引(けんいん)と囚人の監視に協力してくれている騎士団には感謝である。

 さて、プライベートでの来訪ではないので、神職の正装に着替えているのだが、その姿が珍しいのか、視線が背中にプスプスと突き刺さる。

「変わった格好だな、監査官殿。この国の民族衣装かな?」

「いいえ、ヌァザ。あれは神官が纏う装束だったはずです。以前こちらに招待された時、見る機会がありました」

「なんと……。では、それを纏っていると云う事は、監査官殿は神官も勤めているのか?」

「ええ。まだまだ未熟者ですが」

「そなたのような腕の立つ者が神官を勤めているとは、日本は面白い国だな。我等なら間違いなく戦士として取り立てているがな」

「まあ、色々ありましたので」

 この辺の経緯に突っ込まれると、面倒なので適当にお茶を濁しておく。

 こんな感じに会話を交えながら、入り口で合流した女官の先導に従って高天原の中を進んでいく。

 ススキや野草が生い茂る丘や緑豊かな森。

 背丈ほどもあるキノコの群生地を抜けると、水田や茅葺き屋根の家が立ち並ぶ昔ながらの村落が見えてくる。

 神々が住まう神殿はこの村の中央だ。

 来客というものがあまりないのであろう、住人からダーナ神族一行に向けられた好奇の視線の中を歩く事、数分。

 俺達が神殿に着くと、門の前には天照様と土色の鎧兜を纏った偉丈夫。

 そしてサーゼクス兄をはじめとした聖書の勢力が集まっていた。

「天照大神様、ダヌー様ご一行がお着きになられました」

 女官の報告に天照様と偉丈夫は、先程まで相手をしていた聖書の勢力を放ってこちらに駆け寄ってくる。

 案の定というか何というか、三勢力の扱いが雑だな。

「ダヌー様、遠路お疲れ様です。駒王町の事件を追っていた際に、カラス達に襲われている貴女が遠見に映った時には、息が止まりそうでしたわ」

「その節はご心配をおかけしました。幸い、早期に日本神話の方々と合流できたので、大事には至らずにすみました」

「母上、夢見の確認の為とはいえ、無茶な行動は控えていただきたい。護衛が妖精二匹と知った時には、さすがに肝が冷えたぞ」

「ごめんなさい、ダグザ。この件はどうしても自分の目で見極めないといけなかったから」

 言葉と共にダヌー様がこちらに目を向けると、つられるように偉丈夫、ダグザ神も刃物のように鋭い視線でこちらを捉える。

「この小僧がそうか。なる程、遠見で見るより骨がありそうだな」

 しげしげとこちらを値踏みするような視線と共に、歩みよってくるダグザ様。

 あまり良い印象を感じる態度ではないが、相手はダーナ神族の長老だ。

 この程度で目くじらを立てるわけにもいかない。

「お初にお目にかかります。私は駒王町で監査官の任に就く、日本神話の姫島慎と───」

 (ひざまづ)いて挨拶をしようとしていた俺の脳裏に、突然刺すような感覚が過ぎた。

 顔を上げると、目の前には土色の籠手に包まれた拳が迫ってきている。

 突然の事に追いつかない思考。

 しかし、愚鈍になった頭を嘲笑うように身体は先に動いていた。

 (ひざまづ)いた体勢から、膝を立てている足を地を這うような軌道で突き出して相手の軸足を払い、支えを失い相手の身体が泳いだところで、勢いが殺された拳を捌いてその手首を捕る。

 そのまま中国拳法の(こう)の要領で、立ち上がる勢いを利用して肩口を相手の腹部に叩き込み、浮き上がった軸足を捕らえて肩車のように、抱えた相手を投げ落とす。

 頭から地面に突っ込んで呻く相手に残心を決めたところで、漸く思考が追いついた俺は、地面で呻いているのが誰かに気づいて顔が蒼白になった。

 やべえ!? ダグザ様、投げちまった!

 あんなパンチなんて食らうか防ぐかすればいいのに、条件反射で迎撃しおってマイボディめッ!?

 これシャレにならんわ!

 どないしよ! コレほんまどないしよ!?

「む…う………。随分と綺麗に投げられてしまったな」

 脳内絶賛大混乱の中、冷や汗を流しながら棒立ちになった俺の前で、頭を軽く振りながら立ち上がるダグザ様。

「すんませんっしたァァァァァァァッ!!!」

 そして、それを見て脊椎反射の如く全力全開の土下座をする俺。

 今なら高木先生が言っていた、生物の反射を利用して超スピードを出す拳法『邪極拳』を体得できるかもしれない。

 渾身の力で額を地面に叩きつけた為、とんでもない破砕音と共に顔面が土に埋もれ、手を付いていた地面が陥没したが、そんな事は気にしていられない。

 ダグザ様の許しが出るまで、日本が誇る謝罪のベストオブベスト、土下座をするしかない。

「あー……取りあえず顔を上げろ、小僧。さっきの件でお前が頭を下げる必要はない。非は全て俺にある」

「まったくです。彼を試すにしても、もう少しやりようがあるでしょうに」

 許しが出たので顔を上げると、バツが悪そうに顎髭をさするダグザ様と、呆れた様子のダヌー様が目に入った。

「俺は母上のように、貴様に関しての夢見を得てはいないのだ。今回の事件は一部始終を遠見で見ていたが、これも俺自身の目で見たわけではない。そこで、手っ取り早く貴様の力を試す為に、ああいう手を打ったというわけだ」

 ……そういえば、ダグザ神は魔術と生死を司る神であると同時に、表に『生』裏に『死』の力が込められた棍棒を振るう武神の側面もあったな。

 こんな脳筋な試し方をしたのは、その側面からってことか。

「はあ……それで、私はどのような感じなのでしょう?」

「うむ。今ので解ったのは、貴様は超一流の使い手であることだな。この試しは受けた者が未熟者なら、何も出来ずに顔面を砕かれて終わる。腕に覚えの在る者は、防ごうとして両腕をへし折られるだろう。一流の戦士ならば、防ぐような愚は犯さずに回避しようとするはずだ。だが、貴様は他のどれとも違った。あそこで攻勢に出て見事に俺に土を付けるなど、並大抵の者に出来る芸当ではない」

「お褒めに預かり、光栄です」

「事実を言ったまでだ。此度は武の腕だけだが、他の部分についてはおいおい知っていくとしよう。貴様が日本神話に属する以上、長い付き合いになるだろうからな」

「……宜しくお願いします」

 上機嫌な声と共に、獲物を狙う猛獣のような目でこちらを見るダグザ様。

 なんかまた厄介な人に目を付けられた気がするなぁ。

「ああ、そうだ。先ほどの謝罪は楽しめたぞ。頭を下げる際に額で地面を砕く事で己の謝意を示すとは、なかなかユニークではないか」

 ……天照様、この妙な誤解を解いといてください。

 

 少し蒸し暑さが増してきた夜気と気の早い虫の音の中、俺は先ほど通った神殿と高天原の入り口を繋ぐ道に再び歩を進めていた。

 後ろには辛気くさい顔でこちらの後に続く、三勢力の首脳陣とその護衛の面々の姿がある。

 あの騒動の後、ダヌー様の護衛も終わったので帰ろうしたところを天照様に呼び止められた俺は、『ついでだから、あの面倒くさい奴らも送って行け(意訳)』と、三勢力一行の護送を押しつけられたのだ。

 初日からこのハードワークっぷり、さすがはブラック企業という言葉を生み出した国なだけはある。

 まあ、『このメンツに限っては、明日の朝まで駒王町の滞在を許す』なんて言ってくれているあたり、今後冥界に行く事が激減する俺の為に、話す機会を作ってくれたのだろうが。

 この辺はわかってても言わないのが、華だろう。

 因みに、この時の扱いの適当さに天使の護衛から不満の声が出たが、当然の如く黙殺された。

 自国の主戦派がテロ組織を作ってたのを察知できなかったうえに、その組織が停戦交渉真っ最中に相手国のVIPを狙い、挙げ句の果てに仲裁国の一都市を吹き飛ばそうとしていたのだ。

 その場で縄を打たれなかっただけでも、十二分に温情措置である。

 交渉が『禍の団』の大活躍の所為で上手くいかなかったのは容易に想像がつくが、こうもヘコまれてはオチオチ話もできない。

 ここは一度河岸(かし)を変えて、仕切り直すべきだろう。

「なあ、親父。これからみんなで飲みにいかないか?」 

 振り返ってうなだれた親父に声をかけてやると、陰の差した顔に戸惑いが浮かぶ。

 まあ、堅物の親父にこんなこと言っても、話がスムーズにいかないのは百も承知。釣るべき相手は別にいるのだ。

「悪くねえな。今回は嫌な事が多かったし、そういう気分を吹き飛ばす為にも、俺の店でパーッとやるか」

 俺の意図を察したのか、それともただ飲みたいだけなのか、狙い通りにアザゼルのおっちゃんが釣れた。

「いや、おっちゃんの店って、おッパブじゃねーか。セラフォルー姉さん達がいるのに、そんなとこ行けるかよ」

「あぁ? ストレス解消なら、いい女とイチャイチャするのが一番だろうが」

「そりゃおっちゃんだけだ。高校生や嫁さん連れた男いんのに、なに言ってんだ」

「下の毛も生え揃わねー前から酒かっくらってた奴が、なぁにが高校生だよ。バラキエルに似て妙なところは固いな、お前はよ」

「やかましいわ、文句だったらコミュ障の親父に言えよ」

「ねえ、慎ちゃん。おっパブってどういうところなの?」

 アザゼルのおっちゃんと軽口を叩き合っていると、好奇心が刺激されたのかセラフォルー姉さんに肩を叩かれた。

 あー、女の人に説明する場所じゃないんだけどな、あそこって。

 あと、親父は事実を言われたくらいでヘコむな。

「セラフォルー姉さんは知らなくていい場所だよ。まず一生縁のないだろうから」

「エッチぃところ?」

「エッチぃところ」

「それなら何故、貴方はそんな場所の事を知ってるのかしら?」

「去年のグリゴリの忘年会の会場に、そこのおっさんが指定したんだよ。俺等も店に入るまで知らなかったから、そうと判った時は死ぬほどびっくりしたわ。美朱とシェムハザさんの息子の晴矢はドン引きしてたし」

「……アザゼル、ちょっとこっちに来なさい」

「ちょっ、なにすんだグレイフィア!? サーゼクス! お前の嫁だろ、何とかしろ!?」

「残念だがそれは無理だ。アザゼル、恨むなら自身の行いを恨むがいい」

 護衛から姉モードになったグレイフィア姉さんに、草むらの奥に連行されるアザゼルのおっちゃん。

 グレイフィア姉さんは、俺はともかく美朱には過保護だからな。

 おっパブなんかに連れて行ったと知られれば、こうなるのは当然だ。

 これはざまぁと言わざるを得ない。

「それで慎ちゃん、どこのお店に行くつもりなの?」

「ウチの氏子さんがやってる居酒屋。ちょっと狭いけど料理の腕は確かだし、裏の事も知ってるから込み入った話をしても大丈夫だ。それで、どうする?」

「私とグレイフィアは参加させてもらう。慎とプライベートで飲む機会はなかったからね」

「サーゼクスちゃんが行くなら、私も行こうかな。慎ちゃんに愚痴っちゃうのは年上としてカッコ悪いけど、今回だけの特別ってことで」

「お……俺も行くぞー! 今日はしこたま呑んで、愚痴でもぶちまけねえとやってらんねえ!!」

「アザゼルが参加するなら私も参加しよう。泥酔した同僚の世話を、息子にさせるわけにはいかんからな」

 サーゼクス兄を皮きりに、誘ったみんなから次々と色よい返事が返ってくる。

 突然言い出した事なのに、全員参加してくれるとはありがたい限りだ。

「せっかくのお誘いですが、我々は欠席させていただきます。今後についての打ち合わせもありますので」

「え……?」

「え……?」

 店に予約の電話を入れようとしていた俺は、白のローブを纏った金髪イケメンの言葉に戸惑いの声を上げてしまった。

 いや、アンタらを誘った覚えはない。

 というかアンタ、誰?

「そ……そうですか、残念です。次の機会があれば、またお声かけしますので」

「はい。その時には是非、参加させていただきます」

 思わず口をつきそうになる『誰』という言葉を飲み込む俺に、なんとも爽やかな笑顔を返すイケメン。

 いかん、もの凄く気まずいぞ。

 その後、なんの問題もなく高天原の出口を潜って駒王町に転移すると、金髪イケメンは護衛二人と共に夜空へと去っていった。

 さて、本人も消えたことだし、胸にこびり付いた疑問を解消するとしよう。

「なあ、親父。さっきの金髪の兄ちゃん、誰?」

「ん? あれは天界を取り仕切っている天使長のミカエルだぞ。奴がどうかしたのか?」

「飲み会の話の時、誘ってもないのにすげえ笑顔で欠席って言ってきたからさ。あの自意識過剰な人、誰かなって思って」

 そっかぁ、ミカエルか。

 と呟くと、背後で背後で吹き出す声が複数聞こえた。

 見ればサーゼクス兄達が真っ赤な顔でうずくまって笑いを堪えており、アザゼルのおっちゃんにいたっては爆笑していた。

 ふむ、何かおかしい事をいっただろうか?

 

 

 

 

「すまない!朱璃、すまないぃぃぃぃ……。私は子供に苦労を掛ける事しかできない、ダメな父親だぁぁぁ……!」

 テーブルに突っ伏しながら、手にした空のジョッキで天板を叩く親父。

 店に入って約二時間。

 順調に酔っ払い、いつものコースの終盤である『お袋への謝罪』を泣きながら繰り返す親父に、俺は小さく溜め息を漏らした。

 背後では、焼酎や日本酒を一升瓶でラッパ飲みして早々にダウンしたサーゼクス兄が高鼾を上げ、その横では無駄に酒豪っぷりを見せたセラフォルー姉さんとグレイフィア姉さんが、何を言ってるのか聞き取れないほどのガトリングトークで、天照様とダグザ様の愚痴を連ねている。

 アザゼルのおっちゃんにいたっては、グレイフィア姉さんによって物理的に轟沈させられている。

 これは全て、飲み会開始から30分ほどで訪れた狂乱の結果である。

 最初の内はそうでもなかったが、酒が入り始めてからのみんなの乱れっぷりは凄かった。

 日本酒の一升瓶を高々と突き上げて中身を一気したサーゼクス兄が、グレイフィア姉さんに抱きついて『魔王を辞めて、君やミリキャスと一緒に隠居する! ボクはもう疲れたんだ!!』とガチ泣きしたり。

『天照の陰険ババア! 蜘蛛の巣(ピーーー)!!』

 と、酔った勢いで放送禁止用語をぶっ放したアザゼルのおっちゃんが、天から降ってきたタライとグレイフィア姉さんのロシアン・フックにKOされたり。

 グレイフィア姉さんは姉さんで、酔いつぶれたサーゼクス兄の財布から札束を抜き出して、『これでありったけの酒とつまみをもってきやがれ!!』と、普段では考えられない口調で大将に札束をつきつけたり。

 セラフォルー姉さんは『魔王少女とかムリ。キャラづくりしんどい。行く先々で嫌味言われる仕事も、もうたくさん。私も引退してヒッキーになりたい』と、妙にヤサグレてたり。

 とまあ、普段の姿を知ってる奴には絶対に見せられない姿だった。

 え、親父? 親父は通常運転だぞ。

 いまも冥界のトップらしからぬ醜態を晒しているが、各々から愚痴として聞かされた会議の様子を思えば、これも仕方ないだろう。

 

 みんなが臨んだ停戦交渉だが、開始から空気は最悪だったらしい。

 序盤、停戦の条件として謝罪を提示すれば、土地の奪取や魔女狩りの事を出してきたダグザ様から、何に対する謝罪かと問われた。

 この際、アザゼルのおっちゃんの失言により交渉は頓挫しかけ、ダーナ神族と日本神話に一つ借りを作ることになった。

 それからはことある(ごと)に両者から指摘や嫌みを言われる、針の(むしろ)のような時間を耐え忍びながら交渉を重ねる事、数時間。

 事前に挙げていた謝罪、賠償金、エクスカリバーの返還に、アイルランドの譲渡を加えることで(ようや)く締結しようとした交渉だが、会議室に入ってきた月読様の造り出した遠見の映像で、事態は一変した。

 ダヌー様と妖精達を追い回す堕天使。

 これを見たときは、さすがのアザゼルのおっちゃんも、気を失いそうになったらしい。

 この時点では、ダヌー様が俺達と合流して事なきを得たのと、事前にコカビエルが動いていた事が知られていたお陰で、『あの堕天使達は奴の部下であり三勢力には関係ない』という言い訳が通用した。

 しかし、それも敵の中に天使や悪魔が現れた辺りから暗雲が立ち込め、三勢力の主戦派から『禍の団』の存在が語られた事で崩壊した。

 駄目押しとばかりに、リアス姉への挑発行為として駒王町崩壊の術式が組まれている事や、『禍の団』による全多神勢力への宣戦布告と取れる発言が流れるに至っては、宗教が違うにも関わらず『諸行無常(しょぎょうむじょう)の悟り』を開きそうになったらしい。

 今回のテロに関しては、駒王町の現地勢力の手で鎮圧されて大きな被害は無かったが、それで三勢力の株の下落が収まるワケではない。

 当然の如く停戦交渉は失敗。

 サーゼクス兄達による必死の外交努力も虚しく、イギリス全土を譲渡したうえに、ダーナ神族の領土には三勢力はもちろん教会の干渉をも禁止する条約を飲まされても、相互不干渉条約しか結ぶ事ができなかった。

 この相互不干渉条約は停戦とは違い、三勢力とダーナ神族はもちろん、信者同士のイザコザも開戦の理由に成りかねない不安定極まりないものだ。

 三勢力を構成する種族はこれを守るだろうが、新教の本拠地を奪われた教会信者、特に悪魔祓いを初めとした狂信者が大人しくしているとは思えない。

 さらにダーナ神族が『禍の団』を三勢力と同様と見ている以上、こんな条約は砂上の楼閣(ろうかく)と言っても過言ではないだろう。

 さらに、日本からも駒王町のテロに対する賠償を求められ、『駒王町を除く日本領土内の悪魔の実行支配地域の即時返還』『日本領土内における転生悪魔の生成の禁止』『堕天使による日本国民への干渉の禁止』『日本に侵入したはぐれ悪魔の処分に関する裁量の譲渡と干渉の禁止』『駒王町の管理権の譲渡を一年に短縮』という条件を飲まされたらしい。

 天照様、ここぞとばかりに欲張りすぎである。

 駒王町の管理権をリアス姉に残したのは、条約の横紙破りを嫌った事と、俺達への配慮だろう。

 はぐれ……いや、逃亡した転生悪魔の裁量を毟り取ったということは、あの計画を実行に移すつもりか?

 やれやれ、あれを使える術者の数はまだ足りてないのに、急ぎすぎじゃないのか。

 俺の感想は置いといて、ここまでトンでもない条件である。

 もちろんサーゼクス兄達は拒否しようとした。

 しかし、天照様が『飲まなければ停戦交渉の仲裁を降りて、今回のテロを理由に宣戦布告する』と脅してきたので、飲まざるを得なかったらしい。

 前にも言ったが、日本神話の他神話への繋がりは途轍もない。

 もし日本と事を構えれば、ダーナ神族が組織しようとした同盟など比較にならない大規模な多神連合が結成されるだろう。

 かくして、交渉は聖書の勢力に大損害を与える結果でその幕を閉じ、意気消沈した代表達はダヌー様と入れ替わる形で高天原を追い出され、今に至ると云うわけだ。

 そりゃあ今日くらい、ハメを外したくもなるだろう。

 まあ、お陰で俺の日本神話への正式移籍の事も、言いそびれちまってるんだが。

「神主の坊主、もう暖簾(のれん)をたたむ時間だ。タクシー呼んでやったから、連れの兄さん達を起こしな」

「ありがとうございます」

 時計に目をやると、日付が変わって一時間以上経っていた。

 大将に礼を言って、意識のある姉さん達からタクシーに乗せていく。

 大将が気を利かせて大型のタクシーを呼んでくれたお陰で、酔っ払い達は上手く後部座席に収まった。

「すみません、大将。ご迷惑をお掛けしました」

「お前さんも大変だな」

 大将の言葉に苦笑いで会計を済ませた俺は、助手席に乗り込んで運転手に駒王神社に行くように指示を出す。

 野郎3人が潰れてるし、姉さん達はベロベロ。

 このザマで冥界に帰すというのは、皆の社会的立場を思えばマズ過ぎる。

 今夜はウチに泊めるしかないだろう。

 まずは、真神様に退魔結界を緩めてもらわないと。

 懐から携帯を取り出し、美朱に掛ける。

 こんな時間だからとっくに夢の中かと思ったが、幸い美朱はまだ起きてたので、事情を説明して真神様への伝言を頼む。

 しかし、これだけの大事件が起きた日の最後が酔っ払いの介護とは、なんとも締まらない話である。

 まあ、政治だのなんだのに比べたら、こっちの方が性に合ってるけど。

 目的地に着いた事を伝える運転手に料金を支払って、俺は後部座席でくたばっている酔っ払いの一人目を担ぎ上げる。

 サーゼクス兄にはじまりアザゼルのおっちゃん、グレイフィア姉さんときてセラフォルー姉さん。

 五十段ほどの階段を上り、美朱が母屋の客間に用意してくれた布団へ、順に放り込んでいく。

 客間を障子戸で仕切って男女別に分けているので、雑魚寝でも文句を言われる事はないだろう。

 4人の世話も済んで、あとは親父だけである。

 待っていてくれたタクシーの運転手にチップを渡し、親父を背負って階段に足をかける。

 俺より30㎝近くタッパがあるので、上手く背負うのにはコツがいるが、この辺は慣れたものだ。

「……不思議なものだな、息子に背負われるのは」

 薄ぼんやりとした月明かりの下、ゆっくりと階段を上っていると、背後から声がした。

「なんだ、起きたのか」

 声をかけると、返事の代わりに小さく笑い声が返ってくる。何かと思って振り返ると、赤ら顔の親父がで感慨深そうに笑っていた。

「? 俺の顔に何か付いてるか」

「いや、すまん。すこし前までは美朱と一緒に片手で背負えていたお前が、私を背負うようになったのが妙に嬉しくてな」

「何を今更。親父なら二年も前から背負えてるよ」

「そ、そうか?」

「まあ、親父は酒が入るとなかなか起きないから、憶えてないのも仕方ないけど。背負い始めたころは、タッパの差があって大変だったんだぜ。上半身が安定しないから、何度か落としそうになったし」

「おいおい、それは勘弁してもらいたいな」

「落としてないし、どっかにぶつけた事もないから安心しろ。それに今は安定してるだろ」

「確かに居心地がいい。このままだとまた眠ってしまいそうだ」

「寝てていいぜ。上に美朱が布団を用意してくれてるから」

「美朱も起こしてしまったか……。まったく、お前達には苦労を掛けてばかりだな。こんな様で父親などと、自分が恥ずかしくなる」

 どんどんテンションが下がっていく親父の声にため息が漏れてしまう。

 たくもう、相変わらずメンタルが弱んだからよ。

「馬鹿いうな、親父は十分に父親してるよ」

「慎……」

「確かに普通の家みたいに一緒に暮らしてないし、トラブルが起きてもあんまり傍にいなかったさ。けどな、俺等の事いつも心配してくれてるじゃねえか」

「……」

「姉弟の誕生日には毎年贈り物して、誰かが病気になれば職権乱用しまくって、強引にグリゴリの最新医療を受けさせる。朱乃姉や美朱になにかあったと聞けば馬鹿みたいに電話を掛けてくるし、堕天使の大幹部でその気になれば女なんて選り取り見取りのくせに、お袋に操立てて10年経っても未だに独り身だ。これだけ家族の事を大事に思ってるのに、何を恥ずかしがることがあるんだよ」

 親父から返ってくる言葉はない。その代りに聞こえるのは押し殺した嗚咽と肩が濡れる感覚だ。

 まったく、いつもながら涙もろい。

 とはいえ、こういうのも家族を大事思っている証なんだろう。

 その後、親父の様子を気づかないふりをした俺は、言葉を交わすことも無く母屋に入った。

 客間まで移動して敷いていた最後の布団に父を降ろすと、一言「おやすみ」と言い残して扉を閉める。

 酔っぱらう度にさんざっぱら泣くのでこちらとしては今更なんだが、むこうも親としての威厳やプライドがあるだろう。

 居間で起きていた美朱に『もう寝なさい』と声をかけて自室に戻り、俺はベッドの上で頭を抱えた。

 さっきの親父との会話だが……なに、あの問答。

 酒が入ってたとはいえ、あの状況で本音トークなんて、どこの三流ドラマだという話だ。

 言ったことは後悔してないが、思い返せばとっても恥ずかしい。

 正直、迎え酒でもしてこの記憶を消去したいが、さすがに明日に影響を残す行為は拙い。

 とりあえず、今日は色々あったんだから少し休もう。

 やはり疲れていたのか、身体を横たえるとすぐに睡魔がやってくる。

 明日は学校を休んで、今回の事後処理だ。まずは……

 処理すべき問題を思い浮かべている内に、俺は深い眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 翌日、3時間ほどしか眠れなかったものの、何とか最低限の鍛錬と日常業務を終えた俺達は、揃って二日酔いで頭を抱える大人達と朝食の卓を囲んでいた。

 昨日の酒が残ってグロッキー気味ながらも出された茶漬けに口を付ける面々に、昨日言いそびれた俺の日本神話への正式加入とその経緯、併せて影忍と日本神話が俺と美朱に固執する理由も説明する。

 これが機密漏えいに当たるのは百も承知。だが、親父や世話になった人達にこの事を黙っているような不義理はしたくない。

 咎められるようなら始末書でも謹慎でも甘んじて受けるつもりだ。

 まあ、経緯に関してはなんかチクってるような感じがして言いたくなかったのだが、さすがに個人的感情での黙秘や虚偽なんてできない。

 話した結果はある意味予測通りと言うべきか。

 アザゼルのおっちゃんとサーゼクス兄はこっちに土下座しかねない勢いで謝ってくるし、グレイフィア姉さんと親父はそうまでして作ったチャンスを潰してしまったとガチにヘコみ、セラフォルー姉さんに至っては、この話を撤回させるため高天原に直談判に行こうとした。

 大荒れになった場を(なだ)めすかしてなんとか収めた俺は、アズラエルが言っていた三勢力内の和平について尋ねた。

 別勢力に移籍したと言った舌の根の乾かぬうちに、相手の機密を聞き出そうとするのはどうかと思ったが、ぶっちゃけこれこそが『禍の団』を生み出す大きな要因だ。

 これ如何によって奴らの動きは大きく変わってくる。

 それに、三勢力には朱乃姉や場合によっては美朱も預ける事になるかもしれないのだ。

 最悪のケースも考えて、この手の情報は極力掴んでおきたい。

 さて、この問いに対するアザゼルのおっちゃんの答えは是。

 元々は三勢力の内部抗争による衰退を防止する目的だったらしいが、今回の件から多神勢力へのけん制と自衛という理由も付いたらしい。

 近い内に三勢力首脳陣による会談を行い、そこで条約と同盟を締結させるつもりだそうだ。

 まあ、今回の一件もある事だし、この会談とやらが駒王町で行われるというのはあるまい。

 『禍の団』の事もあるので心配だが、もう冥界に助けに行くことはできない以上、無事終わるのを祈るしかないだろう。

 こうして質素な朝食を終えた俺達は、酔いが醒めきらぬサーゼクス兄達を男女の順で風呂に放り込み、各自最低限の身嗜(みだしな)みを整えさせて送り出すことに成功した。

 サーゼクス兄達には説明できたが、冥界には世話になった人がまだまだいる。

 ケジメをつけるためにも、改めてあいさつ回りに行かなければならないだろう。

 その前に当分は番所と神社で缶詰めになるであろう未来を思い出し、陰鬱な気分で息を吐いた。

 初体験をする前に仕事で黄色い太陽は見るのは勘弁してほしいなぁ。




 ここまで読んでくださってありがとうございます。
 ようやっと、原作三巻の聖剣編終了です。
 最早、原型を留めていない原作設定に、フラグをへし折られて弱体化したリアスチーム……。
 ど……どないしまひょ……。
 赤龍帝がまだ一回も禁手化してないとか聖魔剣に覚醒してないとか。
 誰か、強化イベントを! イッセー達に強化イベントを!!(運営によるサイレント修正も可!)
 さて、これから閑話を挟んで4巻の内容に突入していくのですが、私のプロットは五里霧中にござる。 
 それでも、当たって砕けろの精神で頑張りますので、よろしくお願いします。
 さて、今回の用語解説です。

〉超人圧搾機 相手を羽交い絞めし、自身の両膝を相手の膝上に絡ませ今まで封じてきた急所を全て破壊する、地獄の九所封じその九(偽)
 偽の文字が表す様に、この技は地獄の九所封じではなく(地獄の九所封じのラストワンは地獄の断頭台)真の九所封じである魔のシェイクハンドを相手に掛けるためのダミー技である。

〉ラ=グース 石川賢御大が描いた漫画、『虚無戦記』のラスボス。
 惑星の数百倍の大きさの、脳が露出した赤ん坊の様な姿をしている。
 ラ=グースは意思を持った空間体であり、本体自体が「ラ=グース宇宙」と呼ばれる一つの宇宙である。
 また、多元宇宙を創った「創造神」であるとも言われている。
 ラ=グースがなぜ宇宙を滅ぼすのかは明らかにされていない
 作中には「宇宙は、ラ=グースにとって積み木の様な物」「創る時に楽しみ、そして壊す時に楽しむ」というセリフがあるが、その真意は不明。
 極めて高い『空間支配能力(その名の如く空間(「領域」と思っても差し支えない)を支配する能力であり、支配した空間の中ではほぼ何でもできる。「自分の宇宙を確立する」などと言われる事も。 )』を持ち、その範囲はエデン宇宙や菩薩宇宙などの多元宇宙全部と言われている。
 『虚無戦記』の戦いは支配している空間の大きさで勝負が決まるため、この常識外れな空間支配力を持つラ=グースは作中ブッちぎりで最強である。
 また、ラ=グースは自らの細胞を兵器として運用できる。
 大きさは様々で、その一つ一つが空間を支配でき、意思を持つ。
 その力は惑星を軽くぶっ飛ばせるとかザラで、相手の力をラーニングし、自らの力とする事が出来る。
 さらに再生能力もあり、完全な無から再生できる個体もあるという有様。
  そして、さらにタチの悪い事に、ラ=グースは成長する。
 今まで書いたのは誕生期から成長期のラ=グースで、完全に成長した場合は一体どのような存在になるか見当も付かない。
 ただ一つ救いがあるとすれば、ラ=グースは進化の究極値を取った存在なので、成長はしても進化はしない事と言える。
 そして、この化け物を倒す可能性がある兵器として、作中では人類の進化が上げられている。

〉おっパブ 女性接客係が男性客の座るソファーの横で接待し、飲食および体に触らせるサービス(以下、セクシーサービスという)を提供している飲食店、セクシーパブの一種。
 詳しい事は自分で調べよう。

〉黄色い太陽は見る 昔からの通説で『性行為を一晩中行うと太陽が黄色く見える』というのがある。これは医学的には徹夜などで生活リズムが崩れると、自律神経が異常を来し、光に対して過敏になる。
 また、通常睡眠によって休んでいる目が疲労を起こし、毎朝見慣れている太陽と違った明るさに見えるのが原因と言われている。

これが、太陽が黄色いと感じる理由です

 今回はここまでとさせていただきます。次回でまたお会いしましょう。

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