MUGENと共に   作:アキ山

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 お待たせしました。
 8話完成です。
 このごろ、Mugen1.0でハイレゾ(D4)キャラクターだけでセッティングしています。
 セイバー・オルタ様、クソつええ。
 Mr.カラテで瞬殺されました。
 これはカラテケンジの出番か。


8話

 さて、イッセー先輩が逮捕モノのダイナミック不謹慎をカマしてから、あっと言う間に三日が過ぎた。

 取り敢えず、あのドレス・ブレイクとかいうセクハラ技は公序良俗的にヤバすぎると、オカ研メンバーが満場一致で封印を決定。

 しかし、イッセー先輩はそれに対し断固拒否の姿勢を取った。

 迫る女性陣を前に泣いて縋って最後に土下座と、情けないを通り越して哀れに思えるような姿を晒すイッセー先輩。

 正直言えば、イッセー先輩の気持ちも少しは分かる。

 ……いや、スケベ的な意味じゃなくて。

 俺も自分で編み出した技を持っているから、それを生み出すまでの苦労や思い入れなんかも、理解できるのだ。

 そんな自身の努力の結晶を使えなくなるとなれば、形振り構わずに守りたくもなるだろう。

 とは言え、さすがにアレを認める気にはならなかったが。

 結局、イッセー先輩の懇願に絆されたリアス姉が『レーティングゲームの様な、公衆の目がある場所では使用禁止』という妥協案を提示し、イッセー先輩がそれを飲んだ事で一応の決着を見たのだが、どうにも不安が残る。

 そこで、俺も一つイッセー先輩に保険を掛けておいた。

 それは『約束を破ったら、将軍様と24時間耐久スパーリングをさせる』というものだ。

 合宿の基礎練で散々シゴかれた所為で、将軍様が天敵になったイッセー先輩にとって、これが実現すればまさに地獄の時間となるだろう。

 目を見て俺がマジだと悟ったイッセー先輩は、絶望の表情でその場に崩れ落ちた。

 根は善良なんだけど、エロ方面では信用ゼロだからな、この人。

 まあ、その後は無理しない程度に訓練を重ねていると、修行最終日の九日目に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が更なる力を発現させた。

 それは『赤龍帝の重剛撃(ブーステッド・ギア・ヘヴィブロウ)』という、通常なら一定時間持続する倍化能力を一撃に集約する事で、効果を跳ね上げる強力な能力だ。

 通常の倍化は4倍が限界のイッセー先輩も、これを使えば一撃だけ8倍の強化が可能になる。

 この事実を知った時、俺は思わず天を仰いだ。

 こっちは身体能力を引き上げるだけでも、氣を操るだの潜在能力を引き出すだのと、才能と死ぬ程の修練が必要になる。

 そのうえ打撃力を8倍にしようなんて思ったら、右手を犠牲にして、さらに地獄の筋肉痛まで覚悟しなければならないのに、むこうはポンと神器を使うだけ。

 なんたるチート。理不尽、ここに極まれりである。

 まあ、世の中そんな旨い話が有るわけもなく、試しに8倍相当の皆殺しのトランペットを放ったイッセー先輩は、肉体が倍化した負荷に耐えきれずに、空振りしただけで肩と肘を脱臼してしまったのだが。

 その後の検証で2倍相当である4倍化なら、負担は有るものの負傷無しで撃てる事が確認できたので、身体への負担も考えてこちらを切り札に運用する事になった。

 さて、コンディション調整の休日を挟んで試合当日である今日を迎えたわけだが、俺と美朱、アーシア先輩は駒王学園の旧校舎内に用意された貴賓室に居た。

 ゲーム開始まであと20分。

 参加者のオカ研メンバーは部室で最終の打ち合わせをしているはずだ。

 本当なら始まる直前まで一緒に居たかったが、参加者はおろか悪魔ですらない俺達が場を同じくする事は許されなかった。

 ならなんで俺達が貴賓室なんかに居るのかというと、

「初めまして、アーシア・アルジェント嬢。私はサーゼクス・ルシファー、リアスの兄だ」

 気品ある仕草でアーシア先輩に挨拶をする、豪奢な鎧にリアス姉と同じ紅い髪をした美丈夫、サーゼクス兄に呼ばれたからだ。

「は、はじゅめまして! アーシア・アルジェントでしゅ!」

 座っていた椅子を倒す勢いで立ち上がったアーシア先輩は、油の切れたロボットの様な動きで、差し出されたサーゼクス兄の手に両手で握り返す。

 少し落ち着こうか、アーシア先輩。セリフ、めっちゃ噛んでるから。

「そんなに緊張しないでくれ。君にはいつも妹が世話になってるのだから」

「そんな、私の方こそリアス部長にはお世話になりっぱなしで……」

「あの娘は実家の所為で、眷属の皆の他に親しい友人が多くなくてね。君の様に身分に関係なく接してくれるだけで十分なんだよ」

 いやいや、サーゼクス兄よ。それじゃあリアス姉がボッチみたいじゃないか。

 あれでも一応学園のアイドルだからな。

「そう言っていただけるなら、これからも全力でお友達をさせていただきます!」

「ああ。そうしてくれるとリアスも喜ぶよ」

「はい!」

 笑顔で答えるアーシア先輩を満足げに頷くと、サーゼクス兄は俺達の横の席に移動し、豪華なデザインの椅子に身体を預けた。

「久しぶり、サーゼ兄! ミリ君は元気?」

「久しぶりだね、二人とも。あの子は元気だよ。毎日、勉学の合間に慎から教わった空手を練習しているらしい」

「へぇ、ちゃんとやってるんだな。地味な練習だから途中で飽きてると思ったんだけど」

 冥界から日本に移住する寸前で起きた誘拐騒ぎの後、ミリキャスに乞われて空手の基本的な型と体力向上の筋トレを教えたのだが、真面目に続けてたとは……。

「ミリキャスにとって、君はヒーローだからね。教育係の魔力訓練より熱心にやってるそうだよ」

「やめてくれ、ヒーローなんてガラじゃない。それより、俺なんか見本にさせないでくれよ。素行が悪くなったなんてグレイフィア姉さん達に文句言われたら堪らん」

 肩を竦める俺を見てサーゼクス兄はさらに楽しそうに笑う。

 魔王だなんだって肩書背負ってても、根は俺等の兄貴分だった気のいいアンちゃんなんだよな、この人。

 魔王家業で無理してるみたいだから、せめて身体を壊さなきゃいいけど……あ、そうだった。

「サーゼクス兄、これ土産。ミリキャスやグレイフィア姉さん、小父さん達の分もあるから、持って行ってくれ」

 足元に置いていたスポーツバックを渡すと、サーゼクス兄は受け取りながら軽く首を傾げる。

「随分と強い魔力を感じるが、中身は何かな?」

「装飾品のマジックアイテムが20個ほど。ああ、あんまり乱暴にしないでくれな。化粧箱には入れてるけど、壊れるかも知れないから」

「ふむ。この魔力量からすると全て一級品のようだが、どこでこれを?」

無限の闘争(mugen)で修行してる時に、たまたま拾ったんだ。元手はタダだから、遠慮しなくていいぜ。あと、中に個々の効果と、誰に何を渡すかの一覧が入ってるから」

「……グレモリー家だけじゃなく、セラフォルー達の分まであるのか」

「セラフォルー姉さんには何かと世話になってるからな。それに、サーゼクス兄達に渡してアジュカさん達に渡さないのは変だろ」

「まったく、そこまで気を使わなくてもいいだろうに」

「いいんだよ、俺がやりたいからやってるだけだし」

 バックに入っていたリストを手に、苦笑を浮かべるサーゼクス兄に笑顔で返すと、室内に試合開始のアナウンスが流れた。

「今の声って、グレイフィア姉だよね?」

「ああ。彼女には今回の司会とジャッジを任せているんだ」

 感嘆の声を上げる美朱を余所に、滑らかで聞き取りやすいアナウンスは続く。

 グレイフィア姉さんの事前説明によると、今回のルールは相手の王、オカ研ならリアス姉、フェニックスチームならライザー氏を脱落させた方が勝ち。

 異空間に魔術で生み出した駒王学園のレプリカが対戦の舞台で、オカ研の陣地は旧校舎、フェニックスチームは新校舎だ。

 王を除く眷属は、相手の陣地に入ると、プロモーションというルールで能力を向上させる事ができる。

 まあ、将棋で相手の陣地に入った『歩』が、『と金』になるのと同じ理屈だろう。

「イッセーさん達、勝てるでしょうか……」

 ルール説明も終わり、試合開始の合図を待つ中、不安げな表情を浮かべたアーシア先輩が呟く。

「ライザーチームの情報が無いからハッキリとした事は言えないけど、厳しいだろうな。レーティングゲーム初参加のリアス姉達に対して、有望若手ランカーのライザーチームは試合経験が豊富だ」

「それに、数も問題だね。リーア姉達は5人、対するライザーさん達は16人。兵力差は三倍以上、赤龍帝の籠手や滅びの魔力があっても、容易に覆せるものじゃないかな」

 俺と美朱の言葉に、アーシア先輩の顔はドンドン沈み、目尻には涙が溜まっていく。

 あらま、嘘でも元気付けるような事を言うべきだったか。

「だが、そんな逆境も跳ね退ける力をあの娘達は持っている。それはすぐそばにいた君が、よくわかっているのではないかな?」

「はい!」

 サーゼクス兄からの言葉で、曇っていたアーシア先輩の表情が晴れていく。

 さすがはサーゼクス兄。

 泣いている女の子を容易く笑顔に変えるとは、イケメンの面目躍如だ。

「まあ、勝負は水物。蓋を開けるまでは分からないって事だな」

 多少強引な締めの言葉のすぐ後に、試合開始のブザーが鳴り響いた。

 貴賓席の窓ガラスをスクリーンにした映像には、体育館に向かうイッセー先輩と塔城の姿が映し出され、さらにスクリーンの左上に、簡易地図と両チーム各員の位置と動きが、名前と白黒のチェスの駒で表されている。

「へえー、画面で戦闘の様子を観ながら、上の簡易地図で両チームの動きがチェックできるようになってるんだ」

「あっ! 小猫ちゃんとイッセーさんが、敵がいっぱいいる場所に入って行きますよ!」

 美朱とアーシア先輩が声を上げる中、簡易地図に目を向けると、白のクイーンの駒、朱乃姉が体育館の上空付近に待機しているのが分かる。

 朱乃姉は広域殲滅を得意とする魔導師タイプ、敵の手勢が4人固まっている体育館の上を抑えていると言うことは……

「兵藤君と小猫君が囮を行い、朱乃君の魔法で体育館を破壊、中にいる敵勢力を一網打尽にする作戦か。リアスの性格からして、サクリファイスは使わないだろうから、攻撃は兵藤君達が脱出した後。シビアなタイミングになるだろうね」

 興味深そうな視線を、体育館に飛び込んでいくイッセー先輩に向けるサーゼクス兄。

 塔城が体育館へと消えると、画面が切り替わり、照明が煌々と室内を照らす体育館内部を映し出す。

『イッセー先輩、油断しないでください』

『ああ、わかってる』

 おお、向こうの会話も拾って音声で流れるのか。えらく高性能だな。

 俺が観戦モニターの高性能さに感心している間に、遮蔽物のないバレーコートを進んでいた二人は、奥にある舞台の上に立つ4つの影にその足を止める。

『ようこそ、リアス様の眷属の方々。ここは我等がお相手いたしますわ』 

 壇上に立つのは4人の少女。口上を述べたチャイナ服の少女に何故かブルマに体操服姿の双子、棍を手にした和装の少女だ。

『おおっ!! 美少女が4人も!』

 女だというだけで、テンションが上がるイッセー先輩とそれを冷ややかに見る5対の瞳。

 空気読め、イッセー先輩。味方の塔城までゴミ虫を見る目で見てるぞ。

『あなた達はあの男の相手を。隣の娘は私がやるわ』

 リーダー格らしきチャイナ娘の指示に他の少女達は頷くと、一斉に壇上から飛び降り、それぞれに構えを取る。

 チャイナ娘は無手、和装は棍、そして双子はどこからか取り出したチェーンソーだ。

「あのチェーンソー持ってる子って、ギャグでやってるのかな?」

「そりゃそうだろ。あれって武器じゃなくて工具だし、あんなモンを振り回しても自爆するのがオチだ」 

 俺達が話している間にも試合は止まらない。チャイナ娘と塔城が交戦を始め、残りの三人がそれぞれの得物を手にイッセー先輩に襲い掛かる。

『『バ~ラバラ! バ~ラバラ!』』

 物騒な掛け声と共に、双子の片割れがイッセー先輩に大上段からチェーンソーを振り下ろす。

 だが、盛大な排気音を撒き散らすデカブツがそうそう当たるわけが無く、イッセー先輩が軽く後ろに飛ぶだけで空を切った。

 そして、外れたチェーンソーの先端が地面に接触した瞬間、悲劇が起きた。

 高い金属音と共に刀身が跳ね返り、反動で自身を支える主の手を振り切ったチェーンソーが、持ち主に襲い掛かったのだ。

 不意を突かれた少女に跳ね上がる刃を躱す術は無く、刀身はその細い二の腕に喰らいつく。

『うあああああああああっ!?』

 高速で駆動するチェーンに付いた刃が、血と肉片を撒き散らしながら少女に食い込んでいく。

『イルッ!?』

 相方が慌てて駆け寄って抜いていたが、傷は腕の半ばまで達しており戦闘を出来る状態ではないだろう。

「あーあ、言わんこっちゃない」

「うわっ……グロッ」

「い、痛そうです……」

 突然のスプラッターシーンに美朱は顔を顰め、アーシア先輩は涙目になっている。

 俺? あまりのアホさに呆れて物が言えませんが、なにか?

「ふむ……。彼女の武器が地面に当たると同時に跳ね返って制御不能になったようだが、どういう事かな」

「キックバックって現象だな。チェーンソーの先端部分に固いものにぶつかったりすると、回転してるチェーンが弾かれて、刀身が持ち主側に跳ね返るんだ。林業とかチェーンソーを使う現場での負傷や死亡事故の大きな原因の一つになってる」

「なるほど。威力重視の武器だからこそ、リスクもあるというわけか」

「いや、あれ武器じゃなくて工具……まあいいや」

 相変わらずどっかズレてるサーゼクス兄にツッコミを入れるのを諦めた俺は、意識を試合に戻すことにした。

 チャイナ娘と塔城の対戦だが、これは先ほどから塔城に天秤が傾いている。

 相手は蹴りと掌の連撃を主体とした拳法を使うみたいだが、美朱との特訓でファイトスタイルを変えた塔城とは相性が悪いようだ。

 今も放った回し蹴りを飛び越えられて、後頭部に蹴りを食らい、ヨロけたところにボディーへのストレートで吹っ飛ばされている。

 猫魅のバネを活かした飛び技を主体にしたアクロバティックな戦法に、従来の戦車(ルーク)の力を活かした剛打と虚実を交えた戦い方は、初見の相手には厄介だろう。

 イッセー先輩の方は、負傷とそのフォローで動けない双子の代わりに棍使いが前に出てきていた。

『ネルとイルのところへは行かせない!』

 気合と共にイッセー先輩の胴へ向けて連続突きを放つ棍使い。だが、仲間を襲ったトラブルの動揺が抜けていないのか、その攻撃は精彩を欠いている。

『よっしゃ、こいつだぁっ!!』

 最初の数発をガードを固めて防いだイッセー先輩は、速度に陰りが見えた一撃を赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)で弾き飛ばした。

『そんなっ!?』

『この程度の攻撃、カンフー野郎に比べたらどうって事ないぜ!!』

 棍を弾かれた反動で体勢を崩した少女の懐に飛び込むと、腹部にカンフー突き手を叩きこむ。

『がッ……!?』

 強制的に肺の空気を吐かされて身体をくの字に折る棍使い。イッセー先輩は体勢を沈めながらさらに密着すると、音が響く程の震脚と共に肩と背を相手の胴に叩き付けた。

『ぎゃぶッ……!?』

 潰れた悲鳴と共に吹っ飛んだ棍使いは、数メートル離れた場所に落下し、そのままリタイアの光に包まれて姿を消す。

 カンフー突き手で上体を下げてカンフー山靠で吹っ飛ばすか。イッセー先輩はカンフーマンから得た技を上手く使えているようだな。

『ふぅ……。やっぱ女の子に手を上げるのは後味悪いな。試合だから仕方ないってのは分かるんだけどさ』

 バツの悪そうな顔で頭を掻くイッセー先輩が双子、イルとネルだったか、の方を向くと、無傷なネルは負傷したイルを庇う様にチェーンソーを構える。

『うわ~。なんか俺、スッゲー悪役っぽいぞ。この状況であの子達を倒すのって精神的にキツすぎないか』

 怯えを含んだ涙目の視線に晒されて、さらにテンションを下げるイッセー先輩。甘いというべきなんだろうが、俺も同じ状況に置かれたら確実にやる気を無くすだろうな。

 双子とイッセー先輩が何とも言えないグダグダ感を漂わせていると、その間にチャイナ娘が吹っ飛んできた。

 身体中に無数の打撃痕を残して地に伏せるチャイナ娘を、そのすぐ傍に着地した無傷の塔城が冷やかに見下ろす。

 子供が見ても勝敗が分かる絵面だ。

『『雪蘭っ!?』』

『……ぬかった。彼女たちは私達が思っていたよりはるかに強力……っ』

『敵の戦車(ルーク)を完封かよ! さっすが小猫ちゃん!』

『イッセー先輩も一人倒したんですね、見直しました』

 戦果を称え合うオカ研二人と、絶望の表情を浮かべるライザーチーム。

 明暗がはっきりと分かれた構図は、不意に終わりを告げる。

 耳に付けたインカムからなんらかの指令を受けた先輩達が、ライザーチームの三人を置いて体育館の入口へ歩を進めたのだ。

 背後から置き去りにされた者の罵声を浴びながら、体育館から脱出したイッセー先輩達が建物から距離を置いた次の瞬間、天から降り注いだ雷撃が体育館を爆砕する。

『ライザー様の兵士(ポーン)三名、戦車(ルーク)一名、リタイア』

 グレイフィア姉さんのアナウンスが流れる中、映像が体育館があった場所の上空に移ると、そこには悪魔の黒い翼を広げ、帯電した右腕を天に翳した巫女装束の朱乃姉の姿が。

『朱乃先輩、スッゲー……』

『朱乃先輩の通り名は【雷の巫女】。その名前と力は知る人ぞ知る存在、だそうです』

『【雷の巫女】か……。あんなのでお仕置きされたら、確実に死ぬな』

「あれ、朱姉の通り名って【雷の保母】じゃないの?」

「それは仲間内での綽名。世間的には塔城が言った方だよ」

「そうだっけ?」

「大体、リアス姉の幼児退行が外には漏れてないんだから、そんな名前流れる訳ないだろ」

「ああ、それもそうか」

 美朱の疑問に答えている間もカメラは朱乃姉の姿を映し続けている。

 朱乃姉よ、興奮してるのは分かったから、その顔はやめろ。

 年頃の娘がはしたない。

『次の作戦は……』

『陸上競技のグラウンド付近で祐斗先輩と合流。そのまま敵を殲滅、です』

 インカムから次の指示が飛んだようで、塔城を先頭に移動しようとした瞬間、

『~ッ!? 小猫ちゃん!!』

 必死の形相でイッセー先輩が塔城を抱えて後ろに飛び退いた。

 一瞬遅れて、塔城がいた場所に巨大な火球が着弾し、派手な火柱が上がる。

『やれやれ、ユーベルーナの様にはいきませんわね』

 再び宙に視界を移動させたカメラが捉えたのは、炎の翼を広げる金髪縦ロールの令嬢。レイヴェル・フェニックス嬢だ。

『敵を倒し、油断している時が最大の狙い目と聞いていたのですが、そちらの殿方は随分と勘がよろしいようで』

『将軍様に油断の怖さと残心の大切さを身体に叩きこまれていてね。一度でもあばら骨をこじ開けられたら、油断なんてしなくなるさ』

 軽口を叩いているのに、顔色を白を通り越して土色にするイッセー先輩。

 あー、『かわいがり』受けてる時にそんな事もあったっけ。

 まあ、あばら骨こじ開けられたって言っても、下の三対でイッセー先輩が気絶したから全部やられたわけじゃないんだけどな。

 将軍様だって、敵に止めを刺さない事への危険性を分からせる為に、ワザとあんなキッツイ技を掛けたんだし。

 というか、将軍様どこで【毒蛭 観音開き】なんて体得したんだろうか。

『あばら骨って……。貴方どんな体験をしましたの?』

『聞かないでください、心が折れちゃう』

 ドン引きするレイヴェル嬢に敵前でさめざめと涙するイッセー先輩。

 いや、その位で心折れてたら俺はどうなるんだよ。

 地獄の九所封じ覚える時、全部喰らったんだぞ。それも一から順番に。

 鍛錬モードで死んだのはあれが初めてだったわ。

 しかも、将軍様もこれで無限の闘争(mugen)の中じゃ死なない事知ったから、【死ななきゃ安い】ならぬ【死んでも安い】という意味不明な加減方法になるし、ヒャッハーッ! ゴールデンキャッスルのシゴキは地獄だぜぇ!

 ……失礼、少々取り乱してしまった。

 気を取り直したレイヴェル嬢が、未だ涙を流し続けるイッセー先輩へ火球を放とうとするが、それより速く電撃が炎を宿していた右手を打ち抜く。

 バランスを崩し、高度を下げたレイヴェル嬢が見上げた先には、紫電を手に宿したまま薄く微笑む朱乃姉がいた。

『彼女の相手は私がしますわ。イッセー君達は祐斗君と合流してください』

 朱乃姉の指示にイッセー先輩達は、戸惑う素振りを見せていたが、振り切るように走り去って行く。

 そして、炎と共に右手の再生を終えたレイヴェル嬢と対峙する。

『さすがは【雷の巫女】姫島朱乃。噂に違わぬ電撃ですわ』

『うふふ…。お褒めにあずかり光栄、と言うべきかしら?』

『お好きなように。ですが、今の私はライザー兄様の女王、ユーベルーナの名代。甘く見ていると火傷ではすみませんわよ』

 啖呵を切ると同時に魔力を放つレイヴェル嬢。解放された不死鳥の魔力は、炎に姿を変えて彼女を守るように、その周りで渦巻き始める。

『確かに、侮れる相手ではなさそうですわね』

 その光景を見た朱乃姉も自身の魔力を解放。周囲の空気は帯電し、二人の直上には稲光を孕んだ黒雲が現れる。

「うわぁ……。朱姉もレベッちゃんもマジだね」

「す、凄いです……!」

「……驚いたな。体育館を吹き飛ばす一撃を放っても尚、朱乃君にここまでの余力があるとは」

「二人共、嫁入り前の娘なんだから、痕が残るような怪我しなきゃいいんだが」

 俺の呟きに美朱が呆れたような顔でこちらを見る。

 ……なんだよ、その『お前が言うな』的な視線は。

 互いの魔力が干渉しあい、炎と紫電が渦巻く中、動いたのも両者同時だった。

 二人共、後ろに下がる事で十分な間合いを確保し、レイヴェル嬢は猛禽を思わせる炎の鳥を、朱乃姉は落雷を天に翳した右手に受け、自身の魔力と織り交ぜた雷蛇を、相手に向けて放つ。

 火の粉と紫電を撒き散らして飛翔する二つの魔獣が互いに牙を突き立てた瞬間、爆音と共に画面がホワイトアウト。

 ノイズの砂嵐が映ったと思ったら、陸上競技のトラック付近で、騎士風の女性と対峙するイッセー先輩達の姿に切り替わる。

「あれ? 朱姉とレベッちゃんの試合は?」

「どうやら、さっきの魔力のぶつかり合いの予波で、中継していたサーチャーが破壊されたらしい。今からスペアを向かわせるらしいから、少し待ってくれ」

 試合のスタッフから念話受けたサーゼクス兄が苦笑いを浮かべる。

 む、あんな場面で切られると余計に気になるのだが、アクシデントなら仕方がない。復旧するまではイッセー先輩の方を見る事にしよう。

 上手く祐斗兄と合流できたのはいいとして、なんか騎士風の女性と祐斗兄のタイマンになってるんだが。

「祐兄は変なところで真面目だからねー。一騎打ちを挑まれたら、リーア姉の騎士として断れないって思ったんじゃないのかな」

 騎士、確かカーラマインとか名乗ってたな、は高速で立ち回りながら刀身に炎を纏った剣を祐斗兄の魔剣に打ち合わせている。

『速え……!? あれが木場の本気なのか』

『いつもの祐斗先輩よりも速度が増してます。慎から貰った怪しげなアイテムは、ちゃんと機能しているようですね』

 あの暴食猫娘が失礼な事を言っているのは置いといて、祐斗兄のスピードアップの秘密は右腕に巻かれた虎柄のバンダナにある。

 【疾風のバンダナ】 ドラゴンクエストシリーズに登場する装飾品で、生地の裏側に動作が俊敏になるルーンの紋様が織り込んである事で、身に着けると疾風のように素早く動けるようになると言われている。

 無限の闘争(mugen)ツアーの土産に祐斗兄にあげたものだが、ちゃんと効果が出てるようでなによりだ。

 さて、祐斗兄とカーラマインの剣の腕は互角。

 しかしスピードでは祐斗兄が勝っている為、一合、また一合と剣を合わせる毎にカーラマインを追い込んでいく。

『よもや私以上の剣速を持つ相手に出会えるとは……嬉しいぞ、リアス・グレモリーの騎士よ!』

『速度に関してはちょっとしたトリックがあるから素直には喜べないな。けど、だからといって手は抜かないよ!』

『上等!!』

 守勢に回りながらも反撃の好機を探っていたのだろう、カーラマインは横薙ぎの一撃を防ぐと剣越しの体当たりで祐斗兄を吹き飛ばし、体勢が整っていない相手に向けて大上段の一撃を放つ。

 剣速も放つタイミングも十分、防御も回避も間に合わないはずの必殺の一撃は、足元から吹き荒れる暴風と共に祐斗兄が消えた事で、その血肉を食らうことなく空を切った。

『馬鹿なっ!?』

 勝利を予感していたカーラマインは、風を巻いて脇を駆け抜けた祐斗兄の貫胴によって、鮮血を撒き散らしながらその姿を消す。

『ライザー様の騎士(ナイト)一名、リタイア』

『貴女は強かった。だからこちらも切り札を切らせてもらったよ』

 消えゆく女騎士に敬意を表す様に目を閉じる祐斗兄。脛の半ばまで裂けて風に揺れるズボンの裾から覗くのは、踝辺りに結び付けられた風が宿る緑の刀身を持つ小さな短剣だ。

「よしよし、魔剣創造(ソード・バース)式加速装置は上手く働いているみたいだね」

 自身の教え子の成果に満足そうに頷く美朱。

 風を操る魔剣を予め足に仕込んでおき、風によるブースト効果で使用者を加速させる仕組みか。

「魔剣を武器ではなく自身の補助に使うか。成程、よく考えたものだ」

 サーゼクス兄の称賛に益々得意げに胸を張る美朱。

 あ、アーシア先輩。調子に乗るんで、その馬鹿の頭は撫でなくていいからね。

 ライザー氏の騎士、カーラマインの敗北によって、グラウンドの戦況に更なる変化が起こる。

 グラウンド周辺の林からライザー氏の眷属である女性が6名、イッセー先輩達を取り囲むように現れたのだ。

『見事だ、リアス・グレモリー様の眷属たちよ』

 代表らしい顔の片方を覆う仮面をつけた女性が、集団から一歩前に出る。

『迂闊でした。いつの間に包囲を……』

『君達がここに現れる少し前に気配遮断の結界を張ってな。カーラマインの馬鹿が一騎打ちがしたいと聞かないものだから、終わるまで身を潜めていたのだ』

 仮面の女が浮かべた苦笑は、自身の矜持を曲げられない頑固な同僚へか、それともそんな同僚を止めなかった自分に向けての物か。

『さて、残念だが君達の活躍はここまでだ。全員リタイアしてもらうぞ』

 仮面の女の言葉と共に、六人は各々の得物を手に戦闘態勢に入る。

『へっ、リタイアしろって言われて、はいそうですかって訳にはいくか! そっちこそ全員返り討ちにしてやるぜっ!』

 威勢のいい啖呵と共に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を掲げるイッセー先輩。左手の深紅の籠手もそれに応える様に翡翠の宝玉が光を放つ。

 祐斗兄や塔城がイッセー先輩の後ろに陣取って構えを取る。

 ……うん? 今、祐斗兄がイッセー先輩達に耳打ちしたか?

「慎兄、今……」

「ああ。祐斗兄がなんか耳打ちしてたな」

 さて、何を仕込む気か。

 この2倍の戦力差を覆す奇策でも思いついたのかね。

 この団体戦の戦端を開いたのは仮面の女だった。

 右手で顎を守りつつ左手をだらりと下げた構えから、イッセー先輩へしなるような軌道で左拳を放つ。

 迫りくる拳にイッセー先輩は顔を後方に逸らしてやり過ごそうととするが、予想以上に伸びる一撃を喰らい、顔が大きく跳ね上がる。

 間髪入れずに放たれる追撃の左拳を二発、三発と受けたイッセー先輩は堪らずに顔面のガードを固めるが、その間隙を突くような肝臓への一撃、さらにガードが下がったところへアッパーで顎を打ち上げられて崩れ落ちる。

 おいおい、あの女、ボクサーにしても戦法がマニアックすぎるだろう。ヒットマンスタイルからのフリッカージャブって、間柴かお前は。

 一方塔城の方は双子の猫の獣人を相手に苦戦していた。

 双子ならではのコンビネーションで二身一体というべき戦法を取る猫娘達は、塔城の放った飛び蹴りを片方が腕と背を使った独特の防御法で止めると、塔城の上を取ったもう片方が旋風脚で撃ち落とす。

 なんとか着地して旋風脚を放った方の着地を狙い拳を繰り出すも、やはりもう一方が防御に現れ、円を描くような腕捌きで攻撃を逸らされた塔城は無防備なまま胸に両の掌底を喰らい吹っ飛んだ。

「イッセーさん、小猫ちゃん!」

「慎兄、今の双子の動きって」

「太極拳だな。……旋風脚に抱虎帰山(ほうこきざん)、結構やるぞ、あいつ等」

 塔城はともかく、イッセー先輩のほうはヤバい。

 あの仮面女、かなりの手練れだ。しかもフリッカージャブは見た目以上に射程が伸びるうえに、顔面の直前で跳ね上がるから軌道が読みづらい。

 今のイッセー先輩じゃあ防御はできても回避や、棍使いの様に打ち払うなんてマネは難しいだろう。

 ヘタをすればフリッカーで蜂の巣にされて、ガードが空いたところをKOされる可能性もある。

 祐斗兄がフォローに入ってくれればなんとか打開する機会があるかもしれないが、大剣を持った騎士を初めとした三人の相手をしている現状ではそれも難しいか。

 しかし、祐斗兄の動きはなんなんだ。

 三人の攻撃を掻い潜りながら、地面に何かを刺すような動作を続けているようだが……

「ねえ、慎兄」

 祐斗兄の動きに気を取られていた俺が顔を上げると、美朱が怪訝そうな顔で画面右上のマップを指差した。

「なんかリアス姉が新校舎にいる表示になってるんだけど、どういうことだろう」

 目をむけると、確かに新校舎に白と黒のキングの駒が表示されている。

「数の不利を覆す為に、リアス自らがライザー君を討ちに出たという事か。討ち取られた者を除けば、朱乃君と闘っているレイヴェル嬢と兵藤君達の前にいる6名で、ライザー君の眷属は全てだ。眷属の誰かから、ライザー君がフリーになったと報告を受けての行動だろうな」

「……あれ、ライザーさんの眷属ってあれで全部だったっけ?」

「えーと、今が六人に朱乃さんの相手をしている女の子が一人ですよね」

「で、倒したのは体育館の4人とさっきの騎士。女王のユーベルーナ女史は不参加だから、ライザー氏を合わせて13人か。後三人足りなくないか?」

「それなら朱乃君が体育館を爆破するのと同時期に、祐斗君が兵士を三人倒しているよ。あの轟音の為にアナウンスは聞こえなかったようだけどね」

「なら計算が合うなって、そんな事はどうでもいいわ。リアス姉は何考えてんだよ。いくら滅びの魔力があるからって、フェニックスとサシでやりあうのはキツイだろ」

「何か対策でもあるんでしょうか?」

「うーん。合宿中、朱乃姉とリーア姉の修行はノータッチだったからなぁ。その間に何か思いついたのかも」

 答えの見えない考察を重ねていると、不意に新校舎の一角で爆炎が上がった。

 立ち昇る黒煙の中から飛び出してくるのは、リアス姉とライザー氏だ。

 新校舎の屋上に降り立ち対峙する二人。

 無傷のライザー氏に対してリアス姉は目立った傷はないものの、制服の所々が煤け顔にも疲労の色が見える。

『随分と侮ってくれたものだな、リアス嬢。何の対策も無くフェニックスに挑むとは』

 手の中の炎を握りつぶしながら、呆れた表情をリアス姉にむけるライザー氏。対するリアス姉は言葉を返すことも無く、滅びの魔力を弾丸にしてライザー氏に放つ。

 放たれた深紅の魔力弾は、ライザー氏の頭部、右腕、脇腹に着弾し喰らいついた場所を消し飛ばすが、刻まれた傷は炎と共に瞬く間に再生される。

『たとえ滅びの魔力と言えど、肉体の一部が欠損する程度の威力ではフェニックスを倒すことはできん』

 一歩、二歩とゆっくりと前に進んだライザー氏が軽く腕を振るうと、屋上の上を爆炎が走った。

『くぅっ……!?』

 咄嗟に張った結界の防御は間に合ったものの、炎の圧力に弾かれて空へと逃げる事を余儀なくされるリアス姉。

 黒い翼を広げて宙に留まるリアス姉を、ライザー氏が放った炎弾が容赦なく襲う。

『数の不利を覆す為に王による王獲りを狙う策は悪くない。だが、討つべき王への対策を考えていなければ、それも片手落ちでしかない。リアス嬢、王と王の闘いは事実上の決戦だ。用心を重ねるならともかく、自身の才能を過信して挑むものではないぞ!』

 苦言と共に密度を増す炎の弾幕。リアス姉も結界で弾き魔力弾で相殺するものの、徐々にその圧力に押されていく。

『部長!?』

 リアス姉の窮地に気付いたイッセー先輩が新校舎へ向かおうとするが、その前に仮面の女が立ちはだかる。

『このままライザー様がリアス様を討ち取れば、ゲームは投了だ。行かせるわけにはいかんな』

『……ッ! 邪魔すんじゃねえッ!?』

 女の言葉に激昂して殴りかかるイッセー先輩。だが、そんなものが通用するはずも無く、フリッカーの連撃を顔面に浴びてたたらを踏んで後退する。

『もはやこのゲームの勝敗は決した。諦めろ、グレモリーの兵士(ポーン)

 ヒットマンスタイルを維持したまま、降伏勧告ともとれる言葉を投げかける仮面の女。だが、それを受けてもなおイッセー先輩の目はさらにその光を増している。

『ふざけんな……。俺は部長と約束したんだ、最強の兵士になるって……っ! その俺が、部長がピンチの時にこんなところで立ち止まってられるかよぉぉぉぉっ!!』

 イッセー先輩の咆哮と共に、赤龍帝の籠手も吼える。

 倍化の合図と共に足を大きく開き、身体ごと大きく腕を振りかぶる。

 素人でもやらないであろう、一発狙いの構えを仮面の女は侮蔑の目で見るが、イッセー先輩はそれを一考だにせずに地を蹴った。

『一発逆転を狙った特攻か。愚かな……』

 全身のバネの爆発力が叩き出す高速の踏み込みにも、顔色を変えずに迎撃のフリッカーを放つ仮面の女。

 鞭のように空を裂く拳が猛進する相手の顔を捉えた瞬間、驚愕に目を見開いたのは、仮面の女だった。

 イッセー先輩は顔面に突き刺さる拳を意も介さぬように、さらに加速したのだ。

『私の拳を物ともしないとは、貴様一体……!?』

『確かに、あんたのジャブは避けづらいさ。けどな、所詮はジャブなんだよ! 覚悟さえ決めれば、耐えられるんだッ!!』

『くうっ……!?』

 被弾覚悟で突っ込んで来るイッセー先輩の気迫に押されて、仮面の女は腕を十字に交差させてガードを固める。

『受けるか、このブロおぉぉぉぉぉっ!!』

 だが、龍のオーラを纏った真紅の一撃はその防御を容易く打ち砕く。

 轟音と共に自身を護ろうとしていた両腕が大きく跳ね上げられ、死に体を晒す女。

 皆殺しのトランペットの反動を殺さずに、身体を旋回させたイッセー先輩は、その勢いのまま、無防備な相手の顎にむけて拳を突き上げる。

『カンフースマッシュアッパァァァァァ!!』

『ぐあああぁぁぁぁっ!?』

 身体全体で突き上げるように放った一撃によって、建物の二階ほどの高さまで跳ね上げられた仮面の女は、地面に落ちる事無く、リタイアの光によって姿を消した。

『よし、倒した! っと、喜んでいる場合じゃないか』

『イッセー君、リアス部長のところへ行くんだ! そして僕達が行くまで部長を守ってくれ!!』

『木場……。わかった! お前等も早く来いよ!!』

 塔城と合流し、5人からの攻撃を捌きながら発した祐斗兄の言葉に、イッセー先輩が新校舎へ駈けていく。

 そして、残った者たちが対峙する戦場では、祐斗兄が加速装置をフルに使って縦横無尽に駆け巡り、塔城がフォローに回る事で、5人の敵をこの場に縫い付けていた。

 だが、数の差というのは大きく、果敢に攻めていた祐斗兄も、時間が経つと共に徐々に防戦を余儀なくされていく。

 そして幾度目かの攻防の後、祐斗兄の足が止まった。

 互いに数メートルの距離を置き、対峙する両者。

 ライザー眷属達は、牽制とはいえ超高速の斬撃に晒されていた為に、無傷の者はいない。

 一方、祐斗兄達は傷らしい傷は負ってないものの、斬撃や魔法の中をかい潜り続けた為か、二人共肩で息をするほど疲弊している。

『ここまでのようね、グレモリーの皆さん』

 ライザー眷属5人の中から、十二単を身につけた女が勝ち誇った様子で声を上げる。

『……せっかちな人だ。勝利宣言にはまだ早いんじゃないかな』

『無駄な抵抗はお止めなさいな。その有り様では、先程までのような高速戦闘は無理でしょう。貴方の足が止まったのがその証拠』

 祐斗兄の言葉を儚い抵抗と考えた女は、さらに言葉を重ねる。

 だが、それに返ってきたのは、彼女が考えていた強がりや不屈の言葉ではなく、押さえきれない笑い声だった。

『ふ、ふふ…』

『……何がおかしいのですか?』

『いや、失礼。君達が見当違いの考えをしているのがおかしくてね』

『見当違いですって?』

『そうさ。僕達の足は止まったんじゃない、止めたんだ。何故なら、これ以上動き回る必要が無いのだから』

 普段の朗らかな笑顔とはまるで違う嘲りを含んだ冷笑に、十二単が思わず後退った。

 その際にはためいた袖が、何もない筈なのに鋭利な刃物に触れたかのように切り落とされる。

 今気づいたが、ライザー眷属が立っているのは、乱戦開始時に祐斗兄が何か仕込んでいた場所だ。

『燃え爆ぜろ!』

 祐斗兄の叫びに呼応するかの様に、ライザー眷属の立っている場所で紅い魔力と共に複数の火柱が吹き上がった。

『そして、荒れ狂え!!』

 次の声で火柱の周りを走った翡翠色の魔力は瞬く間に暴風となり、哀れな犠牲者を呑み込んだ深紅の大蛇と混ざり合ってその姿を巨大な紅い竜巻に変える。

 フェニックス眷属故に火に耐性があったのだろう、火柱から脱出しようともがいていたライザーチームは、灼熱の烈風に巻き上げられながら次々とリタイアした。

『ふう、なんとか上手くいったか』 

 役目を終えた竜巻が姿を消すのを見届けた祐斗兄は、小さく息をつきながら胸を撫で下ろす。

『祐斗先輩、今のは何ですか?』

 何が起こるかを説明されてなかったのか、祐斗兄を見上げながら塔城が問いかける。

『大した事じゃないよ。戦闘中に不可視の属性を付けた炎の魔剣と風の魔剣を仕込んでおいて、彼女達を有効範囲におびき寄せたところで過剰魔力を送って自爆させたんだ。想定通りに火災旋風みたいになってくれたお陰で、全員倒す事ができたようだね』

 苦笑いと共に照れたように頭を掻く祐斗兄。

 大した事じゃないとか言ってる割に、やらかしたこととんでもない。

 【火災旋風】とは、災害や戦争などで都市部での広範囲の火災や山火事などによって、炎をともなう旋風が発生しさらに大きな被害をもたらす現象だ。

 発生メカニズムはまだ完全には解明されてないが、その内部は秒速百メートル以上に達する炎の旋風で温度は1000℃を超えるとされ、輻射熱による被害も生じると言われている。

 まったく、大人しい顔して祐斗兄も過激な真似をするもんだ。

 【火災旋風】は燃焼によって酸素を消費しつづける特性上、空気のあるほうへ動いていくと言われている。

 そこが魔力で造られた疑似空間じゃなかったら、校舎やその辺の雑木林なんかも巻き込んで焼き払う大災害になるところだ。

『さて、僕たちも部長のところに行こう。相手はフェニックスだ、人手は多いほうがいい』

『はい』

 二人が新校舎の方に走り去っていくのを見ながら、俺は小さく息をついた。

 他人が闘ってるのを見るのってやっぱ疲れるわ。

 隣を見ると、美朱やアーシア先輩も俺と同じように頭を下げながら大きく息を吐いている。

「二人とも大丈夫か?」

「は……はい、大丈夫です」

「うあ~、他人の闘い見るのってこんなにキツいのかぁ……」

「ふふ……。随分と疲れているようだね」

「そういうサーゼクス兄は余裕そうだよな」

「立場上レーティングゲームを観戦する機会は多くてね。まあ、慣れという奴さ。とは言え身内の試合を見るのは初めてだ、いつもよりは疲れているよ」

 そう言いながら肩に手をやりながら首を回すサーゼクス兄。そんなジジ臭い仕草すら優雅さを感じさせるとは、イケメンとはどうなっているのか。

「さて、ライザー君の眷属も残るはレイヴェル嬢のみ、リアス側に犠牲者はいないが、皆かなり疲弊している。ここからがこのゲームの最終局面になるだろう」

「ああ。ここまで来たら、最後まで見とどけてやるさ」

「はい!」

「おー! でも、観戦するならポテチとコーラが欲しいかな」

 美朱よ、お前は本当に締まらない奴だな。

 あーもう、サーゼクス兄も用意させなくていいから!




 ここまで読んでくださりありがとうございます。
 一人称での戦闘を観戦するというのは、難しいものです。
 安井健太郎先生の『ラグナロク』は本当に参考になりました。
 さて、ライザーとのレーティングゲーム、一話では終わりませんでした。
 決着は次に持ち越しです。
 さて、今回の話を書いている間、脳内に浮かんだ疑問を幾つか。

◇オリ主がレーティングゲームに参加してないのに、内容を詳しく書くとかバカなの?

◆せっかく修行風景を書いたんだから、イッセー達が強くなったところを書きたいじゃない。

◇ドレス・ブレイクの無いこの時期のイッセーが、ライザー眷属に勝つとか、ナイワー。

◆Mugenと将軍様補正です。ぶっちゃけ、ゴールデンキャッスルのシゴキはタンニーンの修行よりキツいです。

◇ライザーのキャラブレブレじゃね? これ、どこのライトニング・バロンなの?

◆キレイなライザー様。どんな放蕩息子でも自分の子ができるとなれば、身を固めるます、という事でひとつ。

 まあ、こんなアホみたいな事を考えながら書いていたので、手直ししまくりでした。
 次はもう少し早く書けたらと思います。

 さて、恒例の用語解説です。

【カンフー山コウ】 Mugen1.0から追加されたカンフーマンの新技。ぶっちゃけカンフーマン式鉄山コウ。技発生時の前へのスライドが小さく、密着状態でなくては当たらないうえに、小説本文と違って当たってもダウンしない。ガードはもちろん、ヒットしても反撃確定という死に技。

【毒蛭 観音開き】 格ゲーではなく、漫画【高校鉄拳伝タフ】に登場する技。
寝技で相手の背後を取ってロメロ・スペシャルのように仰向けに吊り上げ、相手の手足をロックして抵抗できない状態で、相手の腹腔から肋骨を掴んで一対づつ折りながら左右に広げていく殺人技。

【抱虎帰山】 太極拳の技の一つ。相手の攻撃を手で払い、体勢が崩れたところを両の掌で相手の胸を打つ反撃技。

 今回はここまでとさせていただきます。
 また次回にお会いしましょう。

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