バルレルから受け取った石を掲げる。
明かりに透かすと内部がゆらゆらと揺れているように見えた。
伝わってくる魔力が心地良い。
中に浮いているような“朔耶”の文字が、俺の召喚石だということを証明していた。
「これが、俺を召還したサモナイト石」
「見たことねぇぞ、そんな色」
「キレイ・・・」
確かに、青色し染められたこの石はとても綺麗だ。
母なる海のような、見守り続ける空のような色。
だけど、その石の過程を思い出すとそれすら全て吹き飛んで粉々に砕きたくなる衝動を覚える。
「これは、マグナにしか扱えない。たとえ誓約が済んでいたとしても」
それを通して月の光を見るとまるで海の中から空を見上げているような気分になる。
マグナの魔力の反応している。だから中がゆらゆらと揺れているように見えるのだ。
「もともとこれはは、無色のサモナイト石だった。変色したのは、マグナの魔力を込めた血液を注入したからだ」
非現実的な空気。
まるで、交わることのない、同じ色の水と油のような。
この部屋の空気に俺が色をつけるならそんなチョイスをしただろう。
「他の召喚師どもが誓約しようとしても、まったく反応しなかった。マグナだけが、この石に認められた」
「そいつの血液と魔力が一致したから、か?」
「さぁな、俺にはそこまでの知識はない。マグナの記憶は持っているが、マグナの思考はできない」
昔の記憶を見ていたときもそうだ。
あれは、マグナの過去を『体験』していたのではなく、マグナの過去の記憶を『思い出していた』だけだから。
同じようで、違う。
マグナが記憶していないところは俺も知りようがない。
なんせ、俺が見ていたのは過去の記憶だから。
「わけがわかんなくなってきたな」
そう独り言を言うと、ハサハがなにか聞きたそうな目で俺の服の袖を引っ張る。
なんだ?と首をかしげると、おずおずと口を開いた。
「あのね、私、…ハサハって言うの」
「…?」
それは、知ってるけども…、なんだ?
なにが聞きたいのか、よくわからない。
そんな俺の疑問がわかったのか、それとも見ているのが退屈だったのかどうか、バルレルが横から呆れたように言った。
「おめーの名前はなんだっつってんだよ、こいつは」
「マグナだが?」
「そ、そうじゃ…なくて…」
…もしかして。
「マグナに憑依している俺の名前のことか?」
やっとわかったのか、というバルレルの表情と、目を輝かせてこくんとうなずいたハサハを見てそれが正解だとわかった。
「ははっ、悪い。――俺の名前は朔耶。サクヤとでも呼んでくれてもいいさ」
だけど人に知られるのは厄介だからあんまりそっちの名前を呼ばないで欲しい、というと当たり前だというふうに二人は笑った。
それぞれ違う類の笑みだったけど、らしいな、と思った。