憑依召喚   作:虚無_

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自分は、俺じゃない

 

 

 

 

夜。

トリスとネスティと別れ、部屋へ戻ると今度は逃がさないぞとばかりに睨みつけられているバルレルとようやく視線を合わせる。

実はちゃんと視線を合わせるという行動は初めてだ。

や、ただトリスたちの前で説明を求められるのがまずいと思っただけなんだけどな。

 

 

「さて、何を教えて欲しいんだよ?」

 

 

まだマグナの口調は崩さない。

この口調で話すことに慣れてしまったし、朔耶の口調というのももともと無いに等しかったから抵抗もない。

きっと、朔耶として言葉を発するよりもすでにマグナとして話すほうが多くなっていると思う。

まぁ、そのくらい無口だったんだよな、俺。

 

 

「全部だ」

 

 

警戒心と好奇心と猜疑心、いろいろな感情が渦巻いているだろうに目の前の小悪魔は平然と、答えないことを許さない目で言う。

俺はベッドに腰掛けているからバルレルの方が視線の位置は高い。

ハサハは逆に俺の隣に腰掛けて不思議そうに俺を見ていた。

綺麗な目だ。純粋な。

 

 

「最初から最後まで俺の納得するように話しやがれ、ニンゲン」

 

 

声と一緒に突きつけられたのは彼の獲物。

それに引きつるような笑みを浮かべながらまぁ落ち着いてよ、ね?と言ってみるものの、バルレルはさらに眼光を強くさせただけだった。

ハサハはバルレルに咎めるような視線をやっている。少しおびえているのはバルレルの殺気のせいだ、絶対。

俺のせいじゃ、ない。

とめに入らないのはバルレルが俺を殺せないとわかっているからだろうか、それとも同じ主の召喚獣だからか、もしくは同じ疑問を持っているからか。

俺はふとあることを思いついた。

マグナとしてではなく、珍しく朔耶として欲しいと思っていたものをバルレルにとってきてもらおう。

 

 

「話すよ、だけどその前にとってきて欲しいものがあるんだ。話はそれから」

 

 

なんとなく、とる、のところにどの字をあてるのかは、ご想像にお任せする。

こうゆうことを言うと、簡単にわかってしまうだろうけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、長い話になるよ」

 

 

そう前置きすると俺はベッドの上で壁に背を預けて寄りかかった。

ハサハも隣にちょこん、と座る。

バルレルは俺の正面に向かい合うよう地べたに胡坐をかいて座りこんだ。

手にはどこからかとってきたであろう酒がしっかりと抱え込まれている。

俺も少しわけてもらおうかとも思ったが、バルレルの性格を思い出してやめた。

酒の栓が開けられ、部屋にわずかな香りが漂う。

俺は、バルレルが『おつかい』に行っている間に考えたとおりに話始めた。

 

 

「俺は、マグナじゃない」

 

 

バルレルは眉をヒクリと震わせ、ハサハは水晶を持つ手に少し力が入ったのを見た。

気付かないふり、というか気にしないで俺は口を開く。

ここで間を空けても意味がない。

知りたいのは、俺が話したいのはもっと先のことなのだから。

 

 

「俺は、数ヶ月前からマグナのかわりをしている。魂だけが召喚されたらしくてね。マグナが戻ってくるか、術の効力が切れるまで俺がマグナのフリをしているってわけ」

「――ねぇ」

 

 

初めてハサハが口を開いた。自主的に。

 

 

「普通の、喋り方で・・・いいよ?」

 

 

そういえばまだマグナの口調だったっけか。

でも朔耶の口調なんてものは無いようなするんだけどな。

それは口に出さず、頷いて続きを言う。

それはなんだか独り言を言っているみたいだった。

 

 

「俺がいたのは四界のどこでもない。そして名も無き世界でもない。もっと別の場所だ。一番似ているのは名も無き世界だけど決定的に違うところ。

特に俺は元の世界に戻りたいとは思っていない。未練はないし、こっちには大切な存在がある」

「ケッ、それがその体の持ち主かよ」

「あぁ、傷が癒えるまで、俺はマグナと、マグナが大切にしている存在を守る。それで、たぶんお前が知りたいと思っていることはここからかな」

 

 

ちょっと余計なことを言い過ぎたかと思って話題を変える。

まぁ、これも知っていてほしいことなんだけども。

 

 

「二人の名を知っていたのは全てを情報として知っていたから。これからの、大きな戦いのことに必要なデータとして、な」

「大きな…戦い?」

「んだァ?戦争でもあんのかよ」

 

 

悪魔らしいヒヒヒ、という笑い声に俺は口元だけをゆがめた。

ゲーム上の画面を思い出してみる。

そこには、戦争の生々しさはまったくと言っていいほど無かったが、確かに戦争、と称されていたはずだ。

 

 

「あぁ、ある」

 

 

驚きの気配。

確かに信じがたい話。

会ったばかりの俺が言っても確実に本気に取られないだろう言葉。

なぜわかるとか、そうゆう質問はなかった。

ただ真意を測る視線だけが俺に突き刺さる。

 

 

 

 

 


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