ふらふらする体を気力で無理矢理に歩かせ、さっきと同じ道を反対に戻る。
たぶん、休む時間なんてない。
ずっと霞み続ける視界を何度か頭を振ってはっきりしようとするけども一向によくならない。
しょうがなく諦めて自室に着いたときには体温がぐっと下がっていったような気がした。
ドアの前で一息ついて中に入る。
用意していた酒と菓子はもうほとんどなくなっていて、中にいた二人は俺の方に目を向けた。
「よぉ、遅かったじゃねーか」
酒は勝手にいただいてるぜぇ?と小悪魔らしい表情と笑い声で、あぁ本物なんだなぁと変なとこで実感する。
そんなことで実感するのもどうかと思うけど。
子狐のほうはちらりと俺を見るとどこか申し訳なさそうに目を伏せた。
そのために用意したのだから申し訳なく思う必要はないのに。
そうは思っても、疲れのほうが勝って何もいえない。
「寝るから…呼び出し来たら…起こし、て」
一直線に部屋を横切ってベッドに倒れこむ。
心配そうな視線に少し笑ってやって、意識をなくした。
どこか不思議な空気をまとう自分の主が目を閉じて、その顔に披露の色が濃いことを知る。
よく感じれば、感情の中にも多分に疲労の波が読み取れた。
少なくとも先程の戦闘は原因じゃない。こいつは大した動きをしていなかったから。
と、様子を見ていると、鼻が勝手に反応した。
感じたのは、血と、先程からは感じられなかった魔力の名残。
近づいてその元を確認しようと腕の袖をまくる。
後ろで俺の様子を見ていたキツネの息を呑む音が耳に入った。
痣、それもいくつもの青い痕が男にしては意外なほどに細い腕のいたるところを飾っている。
これは、注射痕、か?
知覚すると同時に覚えるのは興味、いや、好奇心か。
口角を上げられるのをやめられそうにない。
こいつにまとわりついている負の感情。
戦闘中に偶然見た無の表情。
だけどその中にあるのは強い光。
普通は気分の悪くなるその光にさえ、俺は好奇心を持った。
最初は、こんな姿にされて冗談じゃない、ぶっ殺してやる、そう思った。
今はそれよりも好奇心がうずく。
これからが、おもしろそうだと思った。
呼び出しを受けたのはそれから数十分後ほどたってからのことだ。
たぶん、トリスの試験が終わってから俺たちの処分をどうしようかとかいちいち決定したのだろう。
呼び出された場所に行ってみると、すでにそこにはトリスがいた。
緊張しているらしい。
それでも俺の顔を見ると少し笑顔を見せてくれた。
位置に着くとフリップが言った。
その顔は不機嫌そうながらも、口元に浮かんでいるのはにじみ出るような笑みの形。
そして、事実上の追放を言い渡された。
さて、次は何だったかな。
絶句しているまわりを視界に入れながら場違いにも俺はそう思った。