お昼の弁当を食べ終わり、それぞれが自由行動の時間。
俺は一人ひっそりと気付かれないように集団から離れて昼寝の体勢に入った。
戦闘がこれからあるとわかっているのに呑気なものだとは自分でも思うが、あんまり動き回って戦闘に対して準備をしても、気疲れするだけのような気がする。
これから襲撃してくるイオスたちだって、不完全な準備のまま攻めてくるのだから、こちらもそこまでピリピリしなくても大丈夫なはずだ。
それに、俺自身、ここ最近気を張り詰めていて疲労しているというのもある。
まさか、あらすじを知っているだけで、こんなにも気疲れするものだとは思わなかった。
少し…少しだけ……あと少しだけ――。
「――くすくす」
「――む」
人の気配と、顔に感じる感触に、目をゆっくりと開けてみると、逆光で影になっている人がすぐ近くにいた。
その人影の正体がわかると同時に、俺は反射的に跳ね起きて後ずさりする。
「あ…」
「って!!?」
――そこにいたのは、普段俺が何気なく接触を避けている聖女アメル。
少しの間、それでもかなり深い眠りについていたのだろうか、頭がこの状況に追いついていない。
今更に、鼻がひりひりとしていることに気付く。
こすると、さらにそこが熱を持ったような気がした。
「もう、マグナさんったら急に起きるんですもの、びっくりしちゃいましたよ」
「あ、あぁ…。 俺もいきなりアメルがいるから驚いた…」
「大丈夫ですか? 思いっきりつまんでた鼻引っ張っちゃいましたけど…」
「う、うん」
――それよりも、危なかった。
反射的に手を出すとこだったような気がする。
いけない、まだ寝ぼけているような気がする…、あんなに落ちるように眠ったのは久しぶりだ。
頭を振って、まだ少しぼやけているような視界をはっきりさせると、苦笑いするマグナの出来上がり。
「どうしたの? 俺思いっきり寝てて、何がなんだかよくわかんないんだけど…」
「いえ、あまりに静かに眠っていたものだから・・・つい」
ついって…、それで眠っている人の顔をいじくるのかこの娘は…。
正直何かを感じないわけでもなかったが、もちろん顔には出さなかった。
まだ鼻が微妙な痛みを訴える。
「私、お礼を言おうと思って」
笑っていた表情を少しだけ変化させて、穏かな目で俺を見る。
言われた言葉の心当たりは、思いつかない。
首をかしげて何のことか、言外に問う。
「ロッカとリューグを止めてくれたことです。 それと、二人を見送ったときも…」
「そんな、お礼を言われるようなことは何もしてないよ?」
「そんなことないです!!」
急に声を上げたアメルに驚いて、なおかつ顔を近づけてきたアメルから逃れるように身をひく。
そんな俺の態度に気付かないようにアメルはなお、俺に詰め寄った。
心なしか、アメルの瞳の中に光が揺らめいているような気がする。
「あの時、私には二人を止められなかった。 けど、マグナさんはそれを止めて助けてくれました。 それに、二人を見送るときだって、何も言わずにそっとしておいてくれました。
それだけじゃない、レルムの村のときだって一番にかけつけてくれたし、こうやってかくまってくれました」
言葉を続けていくうちに、高揚していた気分が静まってきたのか、顔を赤くしながらようやく身を離す。
視線を外し、うつむく。
その時、感じた。 彼女は、一人だ。
だから、こうしてつっぱしり、ブレーキが利かない。
「とても、とても感謝しているんです。 とても、私にはこの力以外何もできませんけど…何か、したいんです」
両の手の平を見ながら、独り言のように言う。
彼女は、自分がどんな事を言っているのか、自分でわかっているのだろうか。
言葉の取りようによっては、だいぶ悪用される恐れのある発言だ。
だが、それほど、“マグナ”が信用に値すると、彼女が思ったからか。
ため息をつく。 もちろん心の中だけにそれを収めて。
俺は、彼女の手を取った。