憑依召喚   作:虚無_

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怖い、でもやさしい

 

 

 

 

 

 

 

 

ねぇ、シルヴァーナ、今日一日で、環境変わりすぎだと思わない?

蒼の派閥の入り口で門番とちょっともめるまでは、まぁ、予想範囲内というか、まだ自分で決めた通りに行動できてたと思うのよ。

でもね、あそこでマグナと関わって…違うわ、マグナが私を認識した瞬間からどんどんおかしな方向にばっかいってるような気がするの。

だって、私は彼の存在すら認識してなかったのに、彼ったらいきなり私の腕を掴んで無理矢理その場から連れ出したのよ!!

それで人気のないところに向かってるのに気づいて、さすがに私も身の危険を感じたわ。

なんかそうゆう人もいるって聞いたことあるから。この人もそうなんじゃないかって思うのは当然でしょ?

腕を振り解こうとしたら、それまでいくらがんばっても解けなかった拘束は簡単に解かれた。

それと同時に彼が倒れたの。

 

ほんっとうに心臓が止まるかと思ったわ。

 

だって、知らずに魔力を使ってこの人を死なせてしまったんじゃないかって、不安になったのよ。

サモナイト石も持ってないし、それだけで人を死なせるほどの魔力は自分にはないって知ってても…、きっとあのとき私はパニックになってたんだわ。

 

…怖かった。

 

彼は…、マグナはなんでもないって言った。

でもいくらその状況に困惑している私でも、それがなんでもないことだって素直に思えるわけがないじゃない。

それが本当じゃないってことくらい、わかってるわよ。

だって…、そうよ。

 

本当になんでもなかったらシルヴァーナを盾に口止めなんてしないわ。

 

もし“倒れること”が日常的だからなんでもないっていうんだとしても…、ならなおさら変よ。

仲間が知っているなら口止めの必要はないし、それが心配かけたくないんだったらあんなふうに脅したりしないわ。

だったらこの屋敷にいる人たちはマグナがあんなふうに倒れて苦しんでるのを知らない。それはマグナ自身が隠しているから。

なんで隠す必要があるのかは、私にはわからない。

そう、マグナは変なのよ。

だって、マグナは私がシルヴァーナを探していることを知ってた。

それだけじゃない。

私の名前も、シルヴァーナを失くしてしまったことをお母様に知られたらまずいこと、ケルマにも狙われていたこと、…予言めいた、約束。

それは、本当かどうか不確かなものなのに、マグナは確信していて、なんでかわからないけど私は一緒にいることを選択してた。

 

 

 

それから宿に寝泊りしてた私のことを気遣って、彼らの世話になっている先輩の屋敷に泊めさせてもらってる。

 

 

 

 

 

 

 

「ミニス、まだ起きてたのか?」

「…マグナ」

 

 

街を眺めていた視界を移すと、マグナがいた。

なんとなく緊張するような気がするのは、きっと脅迫されたせい。

マグナは眠れないの?と気の抜けた笑みを私に向けながら私の隣、すこしだけ距離を置いて柵に手を着いた。

両手に持っていたコップの一つを渡される。

…ホットミルク。

手の中にあった緑色のサモナイト石をきゅ、と握った。

 

 

「あの子は、ちゃんと帰ってくるのよね」

「大丈夫だよ、帰ってくる」

「約束を破ったら、許さないんだから」

「それを言うなら、ミニスもね」

 

 

もし言ったら、こうだから。

いつの間にか手に握ってた緑色のサモナイト石をとられていて、それはマグナの手の中で一瞬にして粉々になった。

 

 

「――ッ!!」

「ま、ミニスはちゃんと約束守ってくれるから大丈夫だけどね」

 

 

頭から血が下がる思い、きっと今の私の顔色は悪い。

もしうっかりしゃべってしまったら…シルヴァーナと会えなくなる…?

ぶる、体中に悪寒が走った。

もう、どんな原理で石を砕いたのかなんてどうでもいい。ただシルヴァーナと離れるのだけは嫌!!

大丈夫、大丈夫なんだから。

ただ、マグナが倒れていたことを誰にも言わなければいいんだから。

なら忘れてしまえば大丈夫。思い出さないでいれば、シルヴァーナが帰ってくる。

 

 

「未誓約のサモナイト石に話しかけるほど心配してるんだったら、とにかく俺との約束だけ守ってくれれば大丈夫」

「…わ、わかってるわ」

「うん。そうだね。 じゃあミニス、そろそろ俺は寝るよ、また明日」

「えぇ」

 

 

テラスからいなくなったマグナを確認して、へたり込む。

怖い。

彼を怖いと思った。

変わらない笑顔が、なおさら怖かった。

 

でも――。

 

手の中にある、ホットミルク。

少しぬるくなったそれを一口飲んでみれば、ほら。

震えていた体が、少しだけ収まった。

彼は、でもやさしい。

私にシルヴァーナを帰してくれると約束してくれた。

門番からかばってくれた。

ケルマとの戦闘で、味方してくれた。

泣いてしまいそうになったとき、声をかけてくれた。

自分たちの仲間に、溶け込ませてくれた。

こうやって、屋敷に寝泊りするように進言してくれたし。

 

 

怖い、でもやさしい。

よくわからない。

 

 

きっと、彼は約束を破る人ではないと、思う。

だから、なんだかとっても厄介ごとに巻き込まれそうな予感はあるけれど。

新しくできたお友達を助けるのは、当然のことだと思うから。

ねぇ、シルヴァーナ。

あなたにも紹介したいの。彼らを。

だから。

もうちょっと、待っていてくれる?

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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