憑依召喚   作:虚無_

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この妙に緊張感に欠ける戦闘

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だれか、あの女を黙らせてくれ。

甲高い声が耳の奥を容赦なく攻撃してくるんだ。

 

 

「金の派閥の…?」

「ごめんなさいッ!! 騙すつもりはなかったの…」

 

 

ケルマがミニスのことをばらし、ミニスは必死で取り繕っているが、どちらかというか騙しているのは俺のほうだと思う。

ミニスには有無を言わさずに一緒についてくることを強制してきたし、俺はそれに対して卑怯ともいえる情報の提示でこの状況を作り出したのだから。

そんなことよりも。

 

 

「さぁ!! おとなしくワイヴァーンをよこしなさい!! あれはもともとウォーデン家のもの!!」

「だーかーらー!! 今は私の手元にないって何度も言ってるでしょー!?」

「あの、今ミニスちゃんとそれを探してるんです」

「ほほほッ!! そんな下手な嘘、このケルマが見破れないと思ってらっしゃるのならとんでもないですわ!!」

 

 

嘘か本当か、見破れてないじゃん。

心の中での突っ込みは、とことん無視された。

というか、誰も聞いてないからなんだけど。

ケルマの合図で、潜んでいた金のよろいを身に纏った兵とテテによく似た召喚獣がそれぞれの配置に着く。

こちらも武器を構えると、ミニスとケルマが互いに罵り合いながらの戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

「いいかげんに諦めなさいよッ!! プチメテオ!!」

「あなたこそおとなしくワイヴァーンを渡しなさいッ!! ラブミーウィンド!!」

 

 

スカ。

 

 

「…バルレル」

「んだよ」

「ブラックラック召喚してあいつら黙らせろ」

「一発で死ぬぜ」

 

 

そんなことは百も承知だ。

ってか、この戦闘はなんなんだ…。ただこの二人のじゃれ合いにつき合わされてるような気しかしないんだが。

たしかケルマの魅了効果の召喚術にはものすごく苦労したような記憶はあるのだけれども、もともと異常状態の俺にはこれ以上の異常効果はかからないしバルレルもハサハもメンタルのプロテクトをかけているから無効だしレオルドはもともと効くはずもないしレシィはあいつが苦手なのか距離を何気なく置いて召喚の引き付け役をしているし後は女性陣だから効きづらい。

俺はできるだけ目立たないように地味に兵をいなしている。

周りの様子を見ながら兵を戦闘不能状態に陥れると、残りはケルマ一人になっていた。

少し離れたところにいる彼女は、大げさなまでに悔しがっている。

 

 

「きいいいぃ!! こんな小娘に負けるなんて…ッ!! 屈辱以外の何者でもないですわッ!!」

「とっとと帰りなさいよ、お・ば・さ・ん?」

「ぬわぁんですってぇぇぇえ!? 覚えてらっしゃい!!」

「べーっだ!!」

 

 

……関わるな、関わるとなんかいろいろと負けるような気がする。

遠ざかっていく金の鎧やらなんやらを見送っていくと、その場にいた全員が同時にため息をついた。

多分戦闘による疲れからくるものじゃなくて、あの二人からの精神的疲労からくるものだ。

あまりにタイミングよく同時にため息をつくものだから、みんなで顔を見合わせて苦笑いしてしまった。

 

 

「ミニス」

「ッ!? ご、ごめんなさい!!…その、騙すつもりじゃなかったの!! これだけは信じて!!」

 

 

大体、どこから来たのかを確認しなかったのはこちらのほうだし、有無を言わさずにつれてきたのは俺なんだからここまで怯える必要はないと思うのだけれども。

まぁ、彼女も一人でペンダントを探してて、孤独だったんだろう。

だから、すこし強引にだけれども一緒に行動してくれた人たちから嫌われたくないと思っているのかもしれない。

 

 

「大丈夫だよ、ミニス」

「そうよ、私たちはミニスのこと、嫌ったりなんかしないよ?」

「私たち、お友達じゃないですか」

「あ…、うんっ!!」

 

 

彼女は、安心したように顔をほころばせた。

トリスとアメルのこういう何もかもを包み込んでくれるような雰囲気には、ものすごく安心させてくれる力がある。

その効果を第三者として間のあたりにして(一応俺も声はかけたけど)、やっぱりすごいものだと再確認した。

 

 

「さて、となると残る問題は…」

「やっぱ、あれだよね…」

「あれって、なんですか?」

「??」

 

 

決まってるじゃないか。

あの陰険堅物の先輩眼鏡のことだよ。

とはさすがに口には出せず、苦笑してからとりあえず屋敷に戻るよう促した。

商店街によって耳栓でも買っとこうかと本気で悩む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドタドタドタッ!!

――あー、来たよ…。

 

 

「トリスッ!! マグナッ!! これはどういうことだッ!!」

「ま、まぁまぁまぁ…。ネスティ、落ち着いてよ?」

「これが落ち着いてられるか!? あれほど厄介ごとをこれ以上持ち込むなと言っておいたはずだろう!?」

「ネス、だって…」

「それに、よりにもよって金の派閥となんかとッ!!」

 

 

トリスとでネスティの名を呼ぶ。

視界の端で、ミニスが体を硬直させていたのを確認するけども、ネスティはその様子に気づいていないのだろうか?

ネスティの性格からして絶対に女、子供には男よりも比較的甘いと思うのだけれども。

あ、もしかしてトリス限定、とか?

 

 

「困っている人を見かけたら、助けたいって思うのが人として当然のことだろう?」

「だが、しかし!!」

「それにミニスが無くしたのはワイヴァーンのサモナイト石なの。 そんなのを行方不明にしたままだと危険でしょ?」

「そうだよ、トリスの言うとおりだ」

「………」

 

 

トリスの言うことは正論だ。

そんな台詞があったかどうかは覚えていないが、ここでネスティに押し切られてしまってはどうしようもない。

それに乗る形で、さらにネスティを押し込んでやれば、ネスティはこれみよがしに大きくため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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