あれからどれくらいの時間が経ったのか、わからない。
だけど、日が大して動いていないということと、ミニスが相変わらず俺の様子を見ていたということからまだそう大して時間が経っていないだろうなとは思った。
貧血気味の頭はだいぶ回復してきている。
だるい腕を立てて上体を起こすと、慌てたようにミニスが俺を支えるように触れた。
その感触に、眉をしかめるが、何も言わないで置く。
「ちょっと、大丈夫なの?」
「うん、もう大丈夫。ごめんね?迷惑かけて」
「う、ううん。…えと、その…」
少女は目を少し彷徨わせて、胸の前で両手を組んだりこすり合わせたりした。
俺は少女の言葉を急かすでもなく、だるい体を伸ばしたり、動かしたりして様子を見る。
まだ少し、動くには辛いかもしれない。
こんなんで、あとの戦闘をうまくできるだろうか。
「あの…さっきは、かばってくれてありがとう」
「さっきって…。あぁ、うん。どういたしまして」
でももうあんな無茶しないようにね、殴られたいのならもう止めはしないけど、と言えば、そんな趣味持ってないわよ!!と強く否定されてしまった。
当たり前か。
そんな趣味持ってるって疑われるのは俺でもまっぴらごめんだ。
今の俺の(というかマグナ)の状態を知られたら、そうなのかと思われかねないが。
……さて、口止めをしなければ。
「このことは、誰にも言わないでくれないか」
「さっきもそんなこと言ってたけど、どうして?こんなところで倒れるくらい具合が悪いんでしょ?」
「その理由も含めて、秘密にしていることなんだ。何も言わないでくれるなら、君の探しているものを、返してあげる」
さすがに今すぐ、とは言わない。
だけど少女は、驚いたように俺を見た。
俺は変わらない笑顔で続ける。
「これはお願いじゃないよ」
「何よ…脅しってわけ?」
「うん、そう思ってもらって構わない」
「何で?あなたとは今さっき初めて会ったばかりじゃない」
それに、脅す材料もないわ。
そう続ける少女。
まだ幼いのに、それにしてはよく回る賢い子に、それは育った環境のせいか、と思う。
だけどそんなことは俺には関係ない。
持っている情報を、惜しみなく使って求める結果を得る。それだけだ。
大人気ないとか、ムキになりすぎだとか、他人に思われても構わないし、そんなことには興味がない。
「俺は知ってるよ?失くしたことが知られたら、まずいんだろう?」
「……なんで知ってるのよ、そんなこと」
少女の俺を見る目に、得体の知れないものを見るわずかな不安が混じる。
――そう、それでいい。
あとは畳み掛けるだけでいい。
「それか、探し物をこの後出会う女に渡してもいいしな」
「なッ!!」
これで、俺は彼女の友達とやらを人質にとったも同然だ。
思いっきり悪者になった気分だが、あいにくと俺は最初から正義をするつもりもない。
「わかったわ。誰にも言わなければいいんでしょ」
投げやりな言葉に俺は笑みを深くした。
普通に見れば人当たりのいい笑みも、少女からしてみれば悪魔の笑みにしか見えないかもしれない。
そんなことを思いながら、ゆっくりと俺は立ち上がった。
ふらりと体が揺れるが、動くことはできる。問題は無い。
「ありがとう。必ず友達は君の元に戻るよ。ミニス」
「…だから何で私のこと知ってるのよ」
本当に初対面よね?と口の中で呟く彼女の視線は、痛い。
完全に嫌われたか?まぁ、ミニスは必ず仲間になってくれるからあんまり気にしなくてもいいだろう。
「それも、秘密だよ」
人差し指を口元にやれば、静かに、というポーズ。
常人より優れた気配レーダーは、トリスたちの気配を拾っていた。
「大丈夫。君の友達は必ず君の元に戻るから。安心して」
「それ、約束よ。絶対だからね」
「約束するさ。俺たちと一緒に行動してれば自然と戻ってくる」
力を込めて言うミニスの言葉に頷いて、トリスと合流すべく歩み始める。
ミニスは一瞬首をかしげて、それでも俺の後をついてきた。
とりあえず、これでシルヴァーナがミニスに戻ってくるまでは俺のことがばれる心配はない。
たかが体調が優れなくて倒れた、というくらいで大事に考えすぎかとも思うが、派閥に行った後のことだトリスには知られているから、これでいい。
秘密を知られないためには、疑われる要素すら滅却しなければ。
トリスに声をかける一瞬前、大きく安堵の息をついた。