憑依召喚   作:虚無_

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笑顔の作り方

 

 

 

 

 

 

まさかこうなるとは思わなかった。

確かに、ちょっとあーいう風に答えを紛らわしたらどうなるかなとか興味があったことは否めない。

だけど、まさかこうなるとは思わなかったんだ。

もう一度言う。

俺は、まさかこうなるとは思わなかったんだ。

 

 

 

振り返ることのない背中。

見えなくなるまでじっと見つめ、隣にいたアメルは身動き一つせずに立ちすくむ。

…一応、連絡役にグリムゥを付けているから、緊急時には連絡取れるようにしてはいるんだけども、そのことをなんとなく秘密にしている俺は何も言わずにただその様子を見ていた。

トリスはいなくなるということにどこか思うことがあるのだろう、俺の手をしっかりと握って、若干情けない顔になっていた。

――きっと、頭の中では空白の時間が流れているんだろう。

“マグナ”が一緒にいられない、空白の時間。

実はそれは、今も続いているのだけれども、それを俺から教えてやることは、ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まったく、歪みはできるだけ修正しようとしているのに、なぜか俺から歪みを作り出しているような気がする。

あの双子のケンカのとき、ロッカかリュークのどちらかを選んでいれば、こんな状況にはならなかったのか。

もしかしたら両方を選んでいれば両方が残っていてくれたのかもしれないが。

 

まさか二人ともパーティーを離れることになるとは思わなかった。

 

あの後の話し合いでどんな討論がされたのか、俺には知るはずもないけれども、リビングでその結論を出されたときには思わず演技も忘れて三人の顔を見比べてしまった。

どうやら旅に出る理由は原作と同じでアグラバインを探すということらしいが、とするとパーティーに残ってアメルを精神的に支える役目は誰がやることになるんだろうか。

これはもしかして歪みを生み出した俺がしなくちゃなんないのか?

 

 

「冗談じゃねぇ…」

「お兄ちゃん?どうしたの?」

「ん?いや、なんにも?」

 

 

不思議そうなトリスの目を直視しないように目を細めて笑う。

さすがに目を合わせたら、俺の剣呑であろう目で最悪な気分を気付かれる。

そこら辺でにやにやしているバルレルはそんな俺の感情を食ってでもいるのか微妙に頬を染めて舌をなめずりしてるし、ハサハは俺から言って家事をしているレシィの手伝いに行かせた。

隣にいるトリスは確かに癒しではあるけれども、俺の不機嫌はそれでは治らないくらいには最悪だ。

ストレスで貧乏ゆすりに似た体の衝動を意志の力で押さえつけ、演技するのにも疲れてくる。

 

 

「お兄ちゃん、気分転換しない?」

「え?…うん、そうだね」

「やった!!」

 

 

今日は派閥からの呼び出しもない、戦闘の疲れも残ってはいない、特に他には用事はない。

気分転換にたまには散歩に出かけたって平気だろう。

色々考えなければならないことはあるけれど、予想外の事態になりまくってるし。

だけど考え事も、適度な休憩を挟まないと効率よくいかないものだ。

 

 

「あれ?アメル?」

 

 

玄関に続く廊下に出て、俺のほうが先に気付いたのは、部屋を出る前からアメルの気配に気付いていたのと、忘れかけているとは言え、原作の知識があったからだ。

アメルはいたずらっ子が見つかったような笑みを浮かべてそろそろとこちらの様子を伺っている。

もしかしたら俺たちの会話を盗み聞きしていたのかもしれない。

ドアのすぐ傍にいたからな。俺たちが出てくる直前に反射的に離れたみたいだけど。

 

 

「どうしたの~?アメル」

「あ、えぇ。マグナさんたちこそ、どうしたんですか?」

「あぁ、気分転換に買い物でもしようかなって」

 

 

……アメルの瞳の輝きがちょっと増したように見えた。

上目遣いで俺の顔を見る。

うん、整っている女の子にそう覗き込まれたら悪い気はしないんだろうなとも思うけども、俺にはちょっと後ずさりたくなった。

どうやら反射的にも俺はアメルのことが苦手らしい。

だけど相手にはそれに気付かなかったみたいだった。

 

 

「できれば私も、お散歩したいかなぁ~って」

「え!?でも…」

「……駄目ですか?」

 

 

驚いたトリスが思わずといった風に声を上げるとアメルがすねたように口を尖らせる。

たしかに、聖女として村から崇められていたアメルにとって、久しぶりに自由に外を歩きまわれるかもしれない機会だ。逃したくはないだろう。

それに、いくら元気そうに見えたって村の壊滅と兄弟の別れは相当ショックに違いない。

……やっぱりわからない。なんであいつらはアメルをおいて旅に出たんだか。

子供がダダをこねるようなアメルの表情にトリスは困って俺の顔を見る。

まぁ、原作でも一緒に散歩していたはずだ。ここで断ってもなんのメリットもないだろうし。

 

 

「わかったよ。でも、絶対に離れちゃ駄目だよ」

「…そうだよ。アメル、狙われてるんだから」

「はいッ!!」

 

 

パッと明るくなった顔色に、しょうがないね、とつられるようにして目を細め、唇の端を上げる。

人の顔というものは、目の周りの表情筋のほうがすばやく脳の指令に反応するそうだ。

そして、若干遅れて頬の表情筋が動く。

意識しなければわからないくらいのタイムラグだが、人はそれを無意識に認識し、ぎこちない笑みやうそ臭い笑み、そして自然な笑みというものを見分けるらしい。

まぁ、そんなわけで、見分けにくい笑顔を作るには、こうやって笑って見せればいい。

案の定、俺の笑みをさらに嬉しそうにして、アメルは笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 


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