憑依召喚   作:虚無_

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双子の怒鳴りあい

 

 

 

 

 

 

 

すでにあやふやな記憶。たぐり寄せて、思い出そうとこめかみを指間接で刺激してみる。

……次は、ミニスが仲間になるイベントだったか?

超ド派手な金の派閥の女が相手だったか。

その戦闘には参加しなくても命はとられないだろうけど、トリスの傍にいるべきか。

これからトリスとアメルを連れて外に出るか?と考えて、すぐにその記憶が間違っていたということに気が付いた。

なぜなら、騒がしい声と物音がしたから。

 

――すっかり忘れてた。ミニスが仲間になる前にレルム村の双子喧嘩だったか。

 

普通はこういうことに下手に関わると碌な目に会わないんだよなぁ、とため息を吐きつつ、現場となった部屋へ向かう。

俺はどこの部屋にその二人がいるか、聞いていなかったが騒音の元へ行けば、案の定、そこには言い争っている青髪と赤髪がいた。

武器こそ構えてはいないが、今にも本気の殺し合いをしそうなほどの、硬質な雰囲気が部屋を満たしている。

 

部屋の隅に、双子の気迫に押されてか、本人たちにそこに追いやられたか、双子の妹でありレルムの村の聖女であり、黒騎士ルヴァイドたちの捕獲の対象、そしてあの村が破壊された原因であるアメルが情けない顔をしていた。

 

騒ぎを聞きつけて俺とほぼ同時に部屋に入ってきたトリスがすぐさまアメルの元へ行って、その肩を抱く。

 

その間にも、俺たちが部屋に入ってきたことに気付いているのかいないのか、二人の言い合い、というよりもただの怒鳴り合いは続く。

話し合いじゃなく、ただただ自分の理論を押し付け合い。

傲慢で周りのことなんてこれっぽっちも見えちゃいない。

ほんとにこの二人が(少なくともリューグは)村の護衛団を仕切っていたのか。

少なくとも今出した結論に、周りはついていくとは思えない。

 

 

 

「無駄な争いはするべきではないと言っているんだ!」

「だからって、このまま泣き寝入りしろっていうのかッ!?俺はごめんだ!」

「もうやめて、二人とも……」

 

 

アメルの悲痛なくらいに震える声は、二人に届かない。

ロッカの言い分は、村一番のリューグでさへ歯が立たなかった相手に、向かっていくのは無謀だ、とにかくいったん身を隠そう、という感じの主張だ。

リューグは、その性格からもわかりやすいというか、村の住人たちを皆殺しにした奴らに復讐するべきだ、と。

つまり、逃げるか、真っ向から立ち向かうか。

 

馬鹿馬鹿しい。

 

心底そう思う。

彼ら二人には、基本的な、肝心な、足元が見えてない。

まぁ一応、聖女の騒ぎで普段の穏やかな生活を奪われた挙句、村を壊滅させられたのだから我を見失ってしまってもしょうがないのだけれども。

まだ気持ちの整理がついてないだろう。その状態で今後をどうするか、なんて決めようにも良い選択ができるわけがない。

トリスも同じことを考えているのか、困った子を見るような目で彼らを見て、俺に向けてどうにかして、というアイコンタクトをとってくる。

 

話は平行線、というかお互いに譲らないし聞かないからどんどん声のボリュームと怒りの感情のゲージが上がっていって、ついには殴り合いに入る。

……おい、人様の家でんな迷惑な行為をするなよな。

そのくらいの平静さすら失っているのか。

 

 

「二人とも、やめなよ」

 

 

間に割り込んで、互いを殴ろうとしていた拳を受け止める。

手が痺れた。

少し無理な体勢になってしまった。

だけど、何が起きたかわからなかったのか、動きは止まった。

なるべく“マグナ”らしく、と一呼吸置いてから、にこり、と気の抜けた笑みを浮かべる。

 

 

「俺はさ、トリスを愛しているんだ」

 

 

は?

部屋にいた全員が白けたような錯覚。

このまま身を引いたらただの痛い子になりそうだ。事実なんだけど。

 

 

「だから、俺はトリスをどんな事からも守ってやりたいと思う。戦闘に入ったら攻撃されないようにしたいし、人を傷つけるのが辛いようだったら俺が代わりに殺すし、トリスが泣いたら抱きしめて思う存分に泣かせて涙をぬぐってやるし、もしトリスが俺のことを視界に入れたくもないと言ったら姿を消す」

「…お兄、ちゃん」

 

 

トリスに笑みを向ける。それはいつもの仮面。

でも、“マグナ”は実際にそうして生きてきた。

しょうがなく一緒にいられない時期もあったけど、寂しい思いをさせてしまったけど、これからずっと辛い思いをさせてしまうけど。

 

 

「マグナにとって、妹のトリスはそういう存在なんだ。何に代えても大切にしたい存在なんだ」

 

 

そして、“朔耶”の大切なものは、“マグナ”だ。

心の中でだけ、そう付け足して。

 

 

「冷静になれよ。全ての状況を見渡せるくらいとまでは言わないよ、俺だってわけがわからないから。だけど、せめて自分と、大切なものを見ることができるくらいには、落ち着けよ。

 

 守りたいと思っている人を自分で傷つけて、どうするんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハッとした。

アメルを振り返ると、トリスさんに肩を抱かれて、今にも泣きそうな顔で、ふるふると体を小刻みに震わせていた。

そうさせているのは、僕たちだということに気付いて、さっきまで熱くなっていた頭が急激に冷めていく。

 

 

「あ……」

 

 

アレほどまでに勝手に動いていた舌が強張って、のどは擦れ、どうしようもなく申し訳なくなってくる。

リューグも気まずそうに目線を伏せた。

痛いほどに掴まれていた手を開放され、マグナさんが身をひく。

握り締めていた拳を開くと、自分の爪で手のひらを傷つけていたらしく、ぬるりとした感触がした。

 

どうして忘れていれたのだろう。

 

急に視界が開ける感覚。

そして、頭もクリアになっていく。

僕たちがこれからどうするべきか、今すべきことはなんなのか。

少なくとも、怒鳴りあっているだけじゃ、いけないということに気付くくらいには、頭が冷えた。

 

 

「私、二人にはケンカなんてして欲しくない…こんなの…やだよ…」

 

 

弱弱しいアメルの声が、僕の胸を鋭く突いた。

 

 

 

 

 

 


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