憑依召喚   作:虚無_

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割り込む殺気

 

 

 

 

 

前方にいる機械兵士。銃による後方支援型タイプ。

その名を、ゼルフィルドという。

戦力としては申し分ないし、ぜひとも味方に引き入れたい存在だ。

問題は、物語の通りに展開していくと、奴のせいで自爆するってこと。

今のうちに展開を変えてしまうのは簡単だろう。

だけども、それのせいで“朔耶”の知っている未来が歪み、俺の予想のつかない展開になってしまうのは絶対に避けたい。

敵の兵士を除けながら、あくまでも後方支援に徹している機械兵士の様子をみる。

どうするべきか。

 

 

「殺す」

 

 

重い一撃。

完璧な死角からの襲撃。

気配を察知して、反射的に防ぎ、仕掛けてきた敵を見る。

止まらない連撃。

明らかに「初期レベルのマグナ」では敵わない相手。

やっとのこと大剣を構えると、仕掛けてきたその存在が、俺のなかで一気に浸食してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだ。

 

なんなんだ。

 

なんなんだコイツはッ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぞわり、と“俺”が震える。

そいつには、何もないのに。

命をかけたやりとりの最中の軍人とは思えない、気の抜けた表情。

緩慢で、少しぎこちない動き。

俺の反射的な反撃に大剣が顔を掠めても、まるで反応しない態度。

どれも、俺をここまで動揺させる要素はない。

 

 

 

なのに。目が。

 

目、だけが。

 

暗いその輝きを、俺に向けて。

 

その、輝きは、負の感情を、俺に向けて。

 

 

 

――落ち着け。落ち着くんだ。

自分の動揺は後にとっておけ。後でじっくり分析して、原因を探ってみればいい。

今は、それに振り回されている場合じゃない。

コイツは、初めて見る顔だ。つまり。

 

仲間になるキャラでもないし、キーワードになるキャラでもない。

 

“朔耶”の記憶をもう一度ひっくり返し、検索してみるが、やっぱり見覚えがない。

扱っているのは無粋な斧。

木こりが使っているようなものではなく、まるで罪人を裁くためのギロチン刃に柄をつけたような、アンバランスな武器。

黒の団員であることはすぐにわかるが、鎧を着込んでいるわけではなく、ローブを羽織っていて、格好だけは召喚師のよう。

髪はぼさぼさな灰色。肌色は青白い。

表情は、ほんとうに間抜けで、口は半開きのまま。

 

目、だけが。

 

琥珀色の目が、暗い輝きを俺に向けている。

俺だけに向けられているそれは、俺の何かを揺さぶった。

見えない。

こいつしか、見えない。

 

それでも体は勝手に動き、そいつに斬りかかり、派手な音を立てて弾きあい、また振りかぶる。

大剣と斧の大型武器のぶつかり合いだから、手にかかる衝撃も相当のものだ。

表情も変えないそいつの顔を、まるで吸い込まれるように見ながら殺しあう。

 

 

「らぐ。ココハ撤退スベキト思ワレル」

 

 

割り込まれる合成音。

思わず本気でその音の主であるゼルフィルドを破壊してやろうかと思った。

大きく武器を弾かれ、距離を取ったそいつは、変わらない表情で、しかし、目だけがその光を強くして単語を返す。

 

 

「撤退」

 

 

ラグと呼ばれたその男の一言で、黒の鎧の集団が全員動く。

ゼルフィルドは、キュルキュルと機械音を立てながら、動こうとする仲間たちに牽制射撃を撃っている。

目の前にいるピクリとも動かない男と対峙して、確信する。

 

歪みだ。間違いない。

 

ゼルフィルドの了承を求めるような発言は、なかったはずだ。

それはゼルフィルドよりも高い立場にいるということになる。

それなら、ゲームの中の登場人物として画面に出てくるはず。

なのに、俺にはそいつの記憶はまったくない。

俺自身が物語に割り込んだ歪みが、目の前にいる。

 

 

 

暗い、その瞳は最後まで俺に捧げられた。

 

 

 

 


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