家に戻ると、さすがにもう起きていたトリスに文句をぶーたれられた。
ある意味予想通りの展開だ。
トリスに買って来た回復アイテムを渡し、頭を撫でてなんとかなだめる。
一緒にいるネスティに白い目で見られるのも慣れた。
「彼女(アメル)は?」
「(食事の)片付けかな」
「(気分転換に)散歩に行ったら?(アメルを連れて)」
「お兄ちゃん(も一緒に行くでしょ)?」
「(俺は)いいよ」
「えー」
大体俺は今帰って来たばかりだ。それに苦手な人種と進んで一緒の行動をするほど自虐的な性質を持っていない。
むー、と頬を脹らませるトリスにしょうがないな、と笑って、買い物道具の整理をしたら行くから、と言って半分無理矢理に外出させた。
「ネスティはどうするの?」
「…僕は用事がある」
用事、ネスティの用事というと薬の件か、と思って深く聞くことはしなかった。
そのことに少し意外そうに見られたことにも気付かないことにしておく。
「じゃ、また後でね」
そう言って、別れた。のほほんとした笑顔は基本だ。
あわただしい気配。
先ほど見かけたイオスはきっともうすぐここにたどり着くことになるんだろうなと、無駄なことを考えて部屋を出る。
気配の元へ行くと、フォルテとケイナが双子を支えてよろよろとこちらに向かっていた。
驚いた顔をして駆け寄る。
「ケイナ、俺が代わる。治療の準備かハルシェ湖に行ってみて。たぶんそこにいると思うから」
「マグナ、ありがとう」
「すみません」
頭の青いほう、ロッカの肩を支え、家に入り、大声で家の主人を呼ぶ。
すぐさま反応してくれた二人に許可をもらってベッドに寝かせた。
それにしても、一応クロに見張らせていたのにもかかわらずぼろぼろに成りすぎなんじゃないのか?
思ったがそぶりには出さず、アメルが来るまでにと、リプシーを呼び出した。
初めて俺の召喚術を見た先輩らは驚いていたが、気にしてもしょうがないことなので無視。
大方、発音のなっていない詠唱にでも驚いたんだろう。俺にはそれがどんなに特殊なんだかよくわからないが。
炎の村でも世話になった小さな妖精が小さな光を生み出して傷口を少しずつ癒す。
――そんなに呼び出されるときに緊張するなよ。前みたいな炎に囲まれた状態っていうのはもうあんまりない、はずだから。たぶん。
……まわりが炎一面と、悪魔や屍が一面と、どちらが精神的ショックが大きいんだろうか、とかは考えなかったことにしておく。
再度のあわただしい気配。今度は天使だ。
俺は少し休憩をとることにして、魔力の放出をとめた。
「ロッカ!!リューグ!!…よかった」
駆け寄って、ぼろぼろな姿を見て、すぐさま治療を始めたのを確認して、リプシーを還し、他のメンバーとともに部屋を出た。
こうゆう空気は苦手だ。
「お客さんみたいだぜ」
フォルテの言葉に、戦闘道具を持って、居間へ集まる。
空気は、重い。
「すみません、僕たちのせいで」
ロッカが謝ってもしょうがない。
それに後をつけられていることを知っていて、クロにそれを駆除させずに放置させた俺のほうが許されないことをしているだろう。
わざわざそれを言って、批難の嵐を受けることはしないが。
ばれなければ、罪に問われることはない。
「一つ注意でもしてやろうか。人の家の前で何をやっているんだ、とね」
「あら、いいじゃない。じゃあ私はアメルちゃんとお散歩に言ってこようかしら」
「ちゃんと裏口からだぞ?」
重い空気にそぐわない会話。
さすが、というべきか。ギブソンとミモザには、余裕のある表情を見て、まわりがついていけずに唖然としているのがわかる。
フォルテはもともとの性格か、すぐにそれに乗って、歯を見せて笑った。
「ケイナも一緒に行けよ」
「え、でも…」
「俺はここに残るぜ。奴らに借りを返してやる」
「リューグ!!」
「アニキはアメルと一緒に行けよ」
次々に決まっていくメンバー。
俺は最初からどちらに行くかは決めていた。
「トリスは表、な?」
「お兄ちゃん?…わかった」
不服そうな頭を撫でて、笑う。
ネスティにもトリスをお願いね、と言うと、君が守らないのか、と問われそうな視線にさらされて、さっさと逃げた。
…まぁ、普通は自分で守ろうとするんだけどな。
表になら強力な回復召喚術を扱えるギブソンがいる。
後方のトリスを狙う危険な銃の存在もない。
直接攻撃系のリューグとフォルテもいるし、弓矢から守る鋼鉄のボディをもつレオルドもいる、近づいてくる剣使いからもレシィもいるだろう。
だから、これでいい。
後にこのことを言ったら、バルレルに過保護すぎる、と呆れられたが。
ゼルフィルドとその集団を見て、これは比較的苦労せずに退いてもらえるだろうと思う。
ケイナの放った矢が簡単にはじかれたのに驚いていたが、普通に考えて鉄の鎧がただの弓に穴を開けられてしまうということは、機械兵士としてありえない。
すぐさま戦闘に入りながら、大剣使いと斬り合う。
獲物の違いから、あまり剣をあわせないようにして振りかぶった。
後方で、ミモザの魔力。前方で、ペンギン型の爆弾。
おいおい、俺まで召喚術に巻き込むつもりかよ。
数歩さがり、召喚の範囲外ぎりぎりまで出る。
つられるように斬り合っていた大剣使いも近づいてきたが、その立ち位置は召喚術の範囲内だ。
爆発。
悲鳴。そして爆風。
思わず素で顔がこわばった。
こんなのに巻き込まれたら冗談じゃなくて死ぬぞ。
爆風だけで倒れそうな体を抑え、後ろを振り返る。
「ミモザ先輩!!危ないじゃないですか!!」
「だってボクー、ちゃんと効力範囲わかってるじゃない。大丈夫大丈夫♪」
しまった。普通にギリギリの位置に下がったからそのことに気付かれた。
俺の扱えると思われている属性は霊と鬼。獣の召喚知識を持っていると思われると、相当な実力を持っていると思われかねない。
召喚術に関しては大したことはないというレッテルにしたかったのに。
やっぱりあなどれない。
あぁ、やっぱり油断などすべきじゃなかった。
手に衝撃。剣が離れ、爆風から持ち直した大剣使いが好機といて大きく振りかぶる。
ケイナの放った矢がその手に刺さり、俺は大剣を奪い取って横ぶりし、戦闘不能に陥らせる。
俺の使っていた剣はゼルフィルドの銃によって折られ、その破片で服が破けた。怪我はない。
ゼルフィルド、後方支援型タイプの機械兵士。
だけど、その銃の威力は大きい。
体に当てられれば、簡単に戦闘不能の怪我を負わせられるだろう。
だが、命までは奪うなと命令されているのか、銃によっての負傷者は今のところいない。
なら、後方支援する対象をなくせばいい。
ハサハの操る小刀をひっつかみ、呪文の詠唱をしている召喚術者の腕を目掛けて放った。