憑依召喚   作:虚無_

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起きたらさっそく面倒事

 

 

 

 

 

 

 

 

ずきずきと痛む体。

それよりも、もっと酷いのが膨大な記憶による頭痛だった。

耳鳴りがし、音が聞こえづらい。

体の感覚があるものの、慣れていないのかあいまいな、どこか薄い感覚しかない。

 

 

「ば、バカな!!?」

「魔力が…くそ、化け物か!!?」

「……あぁ?」

 

 

体を起こすと男の焦った声。

めんどうに思いながらも首を動かすときらびやかな装飾品をつけた中年の男が二人。

手に持っているのははじめてみるが、記憶の中では馴染みのサモナイト石。

体の傷と痛み、焦った表情、人気の無いこの状況、その他もろもろをどう分析しても、この男たちがマグナをなんらかの理由で襲撃したとしか思えない。

理由も、なんとなくだがマグナの記憶のおかげで推測することができた。

 

 

クレスメントの血を、狙われたんだ。

 

 

おそらく、その推測は間違っていない。

さて、どう処理しようか。

痛みは刺すように脳に信号を送っているがそれを無視して考える。

考える時間は、数秒にも満たなかった。

 

 

「がしゃどくろ」

 

 

名前を呼ぶとポケットのなかに入っていたサモナイト石が反応して一瞬光を放ち、次の瞬間にはいくつかの紫の炎とともに大人二人以上の大きさの骸骨が男たちの背後に召喚された。

男たちが気配を察して振り向く前にがしゃどくろは両手を使って男たちの頭をわし掴んでその動きを止めさせる。

男たちの恐怖で引きつったような声、そしてヒューッヒューッという呼吸音が気に障る。

さっさと終わらせよう。で、部屋に戻ってこの傷の治療だ。

 

 

「目的はなんだか知らないけど、これは許されることじゃないよね」

 

 

なるべくマグナの口調で話す。

聞こえてくる声が耳慣れた自分の声じゃないなんて、不思議な感覚だ。

マグナの声ってこんなかんじなのかと、頭の片隅で思いながらも表情はあくまでも無。

 

 

「一回だけチャンスをあげる。次に表立ってこんなことをしたら、死ぬことになるよ」

 

 

俺がこれからそうするから、と付け足して男たちを捕まえたままぴくりとも動かないがしゃどくろの、本来なら目がある部分に視線を合わせる。

そこには、暗い光がともっていた。

 

 

 

「好きなように呪え。殺さない程度にね」

 

 

 

がしゃどくろは了解したかのように体の骨を鳴らし、周りの炎が呼応するように揺れる。

その掌サイズくらいの炎が二人の前に移動し、男たちの中へ入り込んだ。

一つは悲鳴を上げようとしたのか、開いた口から。

一つは胸の中央に消えるようにして。

ゆっくりと、その様子を真正面から見届けて、俺はいまだに座り込んでいる状態で男たちに冷笑をむけた。

 

 

「これで、お前は呪われた。次にこんなことをしようと思ってもみろ、その呪いは命を奪う」

 

 

すべては真実ではないが、その言葉の威力は絶大だ。

がしゃどくろを還してやって、しばらく体の自由になった男たちは恐怖で固まっていたが俺と目が合うと情けない悲鳴を上げて逃げていった。

 

 

 

 

 

 

「さて」

 

 

 

 

 

力の入らない体をなんとか立たせると視界がぐらぐらして舌打ちしたくなる。

地面を見ると俺の、マグナの血がはっきりと判別できる程度には染まっていた。

いくら人通りの少ない場所だからとは言ってもこのまま放置するのはまずいだろう。

痕跡を消さなければ、手っ取り早く燃やすか…。

おっと、その前に傷を治さないと倒れるか。

ぎこちない腕の動きで胸元のポケットを探ると紫色のサモナイト石が出てきた。

 

 

「プラーマ」

 

 

名前を呼ぶだけ。だけど当然のように答え、姿を見せてくれる。

プラーマは、俺の体を見ると嬉しい、でも悲しい表情をして無言のまま傷を治してくれた。

淡い光を放ちながら徐々に治っていく傷を俺はただぼんやりとみている。

そして、傷が完治すると俺は礼をしてプラーマを還し、今度は先程よりも簡単に別のサモナイト石を取り出した。

その色は、赤。

 

 

「シシコマ」

 

 

空中に赤い炎が生まれその炎の中から出てきたシシコマは俺にはよくわからない表情で俺の周りをぐるぐるとまわった。

これは嬉しがっているのか?と疑問に思いながら、血染めの地面を指差した。

 

 

「――燃やせ」

 

 

その言葉を聞いたシシコマは、音符でも付きそうないきおいで跳ね回り(たぶん嬉しがっている)大きくカパッと口を開いた。

シシコマの体の数倍の大きさお炎が一瞬にして血染めの血を焦げ跡地と姿を変える。

想像以上の力に驚く俺、その足元で無邪気に跳ね回るシシコマ。

なんとなく、脱力するしかなくて、俺はシシコマを連れて焼け跡と化したそこから離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

記憶を頼りにマグナの部屋へ戻るとそこは記憶どおりに殺風景な部屋だった。

机、本棚、ベッド、多数の召喚関係の本、そしてクローゼットのなかに服のスペアが何枚か。

私服の一枚もないのはいくらなんでもおかしいと思うのだがどうやらマグナはそこらへんのことにはとことん無頓着らしい。

唯一見つけられたのが机の引き出しのなかに大切に保管してあるブレスレットだろうか。

それからは魔力を感じる。

 

――それは、双子の妹、トリスからもらった物。

 

記憶が教えてくれたその事実に、また頭を抱えたくなったのはいうまでもない。

ゲームの世界が、俺の知るものの知識と違っているところがあるということが。

俺がいること事態が、俺の知らないことになるから当然のことか。

とりあえず、まだ混乱していて把握しきれていないマグナの記憶を整理しなければならない。

 

 

 

―――…とりあえず、この血まみれの服と体をなんとかしないと。

足元には待ち疲れたシシコマがのん気に眠っている。

 

 

 

 

 

 

 

 


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