憑依召喚   作:虚無_

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裏舞台での、仕掛け

 

 

 

 

 

我のやるべきことは完了した。

だが、まだ気を抜くことは許されない。

 

 

 

 

風を切り裂いて目指すは主のもと。

前方に見えるは先程、炎に抱かれた村から逃がしてやった人間が二人。

息も絶え絶えという感じだ。

このままだとあの街に着くころには日が昇りきっていることだろう。

しかし、我には彼らを置いて先に行くわけには行かない状況になっている。

…おそらくそういう意味合いの距離なのだろう。これは。

本来の力が発揮できれば、まったくこちらに不利になるようなことをせずにこの状態を離脱することができる。

しかし、今の我では誓約により、それだけの力を発揮することができない。

下手にこちらから仕掛けても、返って余計に不利な状態にされるだけ。

街まで我慢し、人間から注意をそらし、撒く。それしかないか。

じわりじわりと急かす気持ちを抑え、我は主のもとへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

近づいてくる魔力。

それが自分のものだと気付くと、俺の行動は早かった。

何気なく街に行って買い物をしてくると言って、バルレルを連れてギブソン・ミモザ邸を離れる。

別にハサハを置いてきぼりにしたわけじゃない。

ハサハには仲間内の行動を見張らせるという役割を与えている。

俺にとって、一番注意すべきなのは敵のことではなく、仲間内のこと。

特に、トリスがどういう行動をするのか、それによって、俺の全てを変えなければならない。

 

 

「てめぇもめんどくせぇことやるぜ」

「まったくだ」

 

 

バルレルの言葉に本心から同意し、裏道らしき、薄暗い道に入る。

上空を見上げると、ちょうどその姿を捉えた。

 

それは、レルムの村からの逃走時に呼び出していた、召喚獣。

 

その周りに、まるで獲物をいたぶり追い詰める獣のような動きをする人影らしい形。

まったく、どうしてこんなにも予定外のことが重なるんだか。

内心ため息をつく。

そして俺が次に行動することを思い、その思いがマグナの記憶を刺激し、口が意味不明な呪文を唱える。

 

 

「誓約の解除」

 

 

見た目には変わらない。

魔力の動きもほとんどない。

だけど、静かなる変化は確実に訪れていた。

 

 

「あいつ、相当ストレス溜まったな」

 

 

バルレルの言葉。

悪魔である彼がそういうのだから、相当のものなのか。

まぁ、確かに、誓約を解いたクロの動きはすさまじかった。

音もなく、空気の動きもなく、悲鳴すら上げさせず、ゆっくりと命の時間を削る。

いや、あれはもう命なんぞなかったか。

赤黒い血が飛び散る。

 

 

「シシコマ」

 

 

もはや証拠隠滅係となった召喚獣を呼び出し、燃やすことに大きな喜びを見出しているシシコマは俺の命令は最初からわかっているとばかりに飛び散る血や肉片を跡形もなく燃やし尽くす。

壁や地面に付着するまえに空中で燃やし尽くしているから、まるでここらへんに炎の雨が降っているみたいだ。

ある意味では幻想的な光景。

だが、実際にやっていることはただの嬲り殺しだ。

 

少し離れた街のざわめきもはっきり聞こえるくらいの、静寂。

 

ソレから一部を抉り取り、バルレルにも見せる。

手のひらに血の独特の感触が広がった。

 

 

「鬼に憑依されたもんか」

「おそらく、奴の差し金だ」

「ハッ、こんなもんでお前がわかるもんかよ」

「もちろん、奥の手は出し惜しみしておくもんだ」

 

 

鬼の証ともいえる角を放り、シシコマによってそれも空中で消滅され、それを確認したころにはクロの処刑も終わっていた。

…どうやら気はまぎれたらしい。

さて、さっき通った大通りでイオスの姿も見かけたし、早く帰らないと次の戦闘に間に合わなくなる。

さっきよりは随分とすっきりした表情のクロと、徹底的に燃やし尽くしご満悦なシシコマを同時に元の世界に送り返し、俺は元々の言い訳である買い物へ向かった。

 

 

 

 

 

 


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