「レルムの村?」
ものすごい聞き覚えのある名に、俺はちょっとだけ現実逃避をしたくなった。
もちろん、現状から逃れるつもりはまったくこれっぽっちもないけど。
物語は確実に進んでいる。時は無情なりと、誰が言ったか。
トリスはなぜか目を輝かせてそう!と俺の腕を捕らえた。
逃げたのを意外と根にもっているようだ。
「記憶を治せるかみるの」
「へぇ、すごいね」
たぶん、また何も知らない他人が聞いたらなんで俺が何の説明もなしにトリスの話を理解したのか不思議に思うかもしれない。
まぁ、俺も予備知識とマグナの記憶がなければわからなかったかもしれない、本当にわかりあえるのはマグナとトリスだけだ。
「いつ?」
「出れるとき門に集合!!」
だから早く行こ、と腕を引っ張られて俺はトリスに引きずられながら目的地に向かった。
まぁ、事前に十分すぎるほどに準備はしといたから大丈夫だけど。しばらくは買出しの心配もいらないとも思えるくらい買い込んどいたからな。
「集まったな。じゃ、行こうか」
「うっわ、すっご…」
トリスはまた俺の服の裾を掴んだ。
微妙に顔が引きつっている。本人がそのことに気付いているかどうかはわからないが。
俺は気付かれないようにトリスにネスティのそばに預けて、その人の前に行く。
そのたくましすぎる筋肉を持ったアグラバインはすぐに俺のほうに顔を向けた。
「すみません…えっと、レルムの村へ行きたいんですけど」
「この道であってるか?」
「あぁ、村ならこの先もうすぐじゃ」
その言葉に全員が顔を明るくさせる。
特に体力のない者はよかった、という表情をあからさまに出した。
もちろん俺もそうする。長々と続く森の道にうんざりしていた。
「ありがとうございます」
礼を言って、アグラバインと早々に別れる。
トリスが復活して、俺の背中にタックルをしてこけそうになった。
「なんかさー、すっごい人だったねー」
もうすぐ着くということがわかって、さっきよりは少し元気になったトリスは俺の隣で呟いた。
視線は少し前の足場に向いている。
「そうだなー、あれ、絶対に普通の木こりなんかじゃないって」
「ねー」
笑いながらトリスの背中をぽんぽんたたく。
トリスも声を出して笑った。
遠くに人のざわめきが耳に入ってきたが、気にせずにトリスと何でもない話を続ける。
他はどちらかというと黙ったままで、俺たちの会話に耳を傾け、時々フォルテが口出ししてケイナに見事なツッコミを入れられていた。
…それだけのツッコミがあると、フォルテもボケのしがいがあるよな。いい嫁もらったな、フォルテよ。
そう思ったけども実際には言わなかった。
絶対その強烈なツッコミが俺にも入る。
「お、見えてきたぜ」
先頭を歩いていたフォルテが、先を指した。