「どうだ、これでも君は行くと言うのか」
「う…ん」
「正直、僕もここまで大きいとは思わなかったよ」
「すごい数。二十…ううん、三十以上いるんじゃない?」
眼下に見えるのは噂の盗賊たち。
ざっと確認できる数は三十二。
気配を探ろうとしても遠すぎる上に砂の流れる音が邪魔をして四十近くいるだろうというくらいしかわからない。
小声でバルレルとハサハに伝えるとそれだけわかれば十分だろ、という言葉とハサハ、わかんない、という不思議そうなコメントをもらった。
それにしても、あの冒険者二人組みの姿が見えないな。
「あっ!?」
急に上がったのはトリスの声。
その声と指差した方向の意味をすぐに理解して、目を向ける。
やっと見つけた。俺の注意力も鈍ったかな、だとするとやばいな。
俺とトリスはすぐに武器とサモナイト石を握り締め、砂の流れに乗ってすべり降りる。
「なっ!?」
驚いた兄弟子と護衛獣たちの表情が視界の端に入ったが無視。
「そういう場面」だから。
脱走経験からトリスも気配の消し方はかなりうまい。
そして俺も盗賊どもなんかに気付かれるようなへまはしない。
よって、不意打ち。それも完璧な。
固まっていたところにトリスはプチメテオをまとめて連射し、俺はたまたま近くにいた弓を構えていた奴をしとめた。
もちろん殺したりしない。
気絶してもらって足の腱を断っただけだ。
ためらいなくばっさりやったから、あとでリプシーにかけてもらえば簡単に回復できるだろう。
不意打ちで盗賊たちが唖然としている一瞬にも、俺たちは動きを止めない。
俺は次に近い野党に飛び掛り、トリスも次の詠唱に入る。
デジャヴ。
昔、よくこうやって奇襲をかけてたっけ。
やっと仲間が後ろに追いついてきた。
みんな、怒気をはらんでいる。戦闘そのものよりも、その後のほうが面倒だなとため息をばれないようについた。
同じくして、冒険者二人も縛られた体を自由にして、戦闘を始めたようだ。
『マグナ』の、『初期レベル』の力でうまく切り抜けろ。
一瞬、ためらって見せろ。人を切ることに戸惑って見せろ。血を見てみぬふりをしてみせろ。そう、心優しいトリスのように。
ある意味双子の存在は俺にとってラッキーなものだったのかもしれない。
マグナの大切にしている彼女の存在を利用しているみたいですこし申し訳なく思うが、大体彼女の真似事をしていればあまりおかしなことにはならない。いちいちどういう演技をすればいいか迷わなくてすむ。
トリスがユニットを呼び出し、杖を構えて少し下がった。だいぶ魔力を消耗したらしい。
いったんとまった召喚術に続くようにして、俺も野党に切りつけながら詠唱を開始した。
「プチデビル」
紫の炎が出現し、相手をひるませる。しかしトリスほどの威力は出ない。
俺は一応剣士タイプということになっているからな。
だけど、戦闘の場では相手をひるませることができるだけで十分だ。
緑の髪を持った大柄な男がそいつらを一気にのして、俺と背中合わせになる。
少し離れたところでバルレルが楽しげに野党の肩を突いているのが見えた。遠慮がないな、まぁ今はあんなナリだけど悪魔なのだから当然か。
「よぉ兄ちゃん。助かったぜぇ、俺はフォルテ!!兄ちゃんは?」
「俺はマグナ!!」
名前だけ名乗ってフォルテはニッカ、と歯をむき出して笑った。
俺にはとてもできない笑顔だ。
「マグナ、もいっかい召喚術、いけるか!?」
「もちろん!!」
すぐに口の中で言葉にならない音が踊りだす。
決して他人には見えぬ舞。
「~~・・・~・、~~~!!!」
発動と同時に全員が動く。
フォルテがまっすぐにボスと思われる男へ、俺はフォルテの妨げになる奴らの足止め、バルレルは適当にそこら辺で好き勝手に暴れ、レシィとレオルド、ハサハは召喚師二人とケイナと思われる女の護衛、守られている三人はもちろん俺らの援護。
あっというまに残りは三人になった。
――こっからがなんかめんどうだったんだよな、微妙に逃げ回られて。
やっぱり、フォルテがちょっとてこずった。足場の悪さと疲れが原因だろうか。
バルレルがあとかた片付けてこちらに向かってはいるが、顔がめんどそうなものに変わっている。あいつ、飽きたな。気持ちはわからなくもないけど。
じゃ、ちょっとばかしずるしようかな。
取り出したのは、無属性の石。
「プチメテオ」
召喚しただけ、だけど。
「え」
「お」
「わぁ」
「わーお」
「…」
「ナルホド」
「なっ!?」
「「「うおああばばばばばばばば……」
さて、まぁ後始末はいろいろ大変そうだけど、とりあえずイベントバトル終了ってことで。
隕石を送還して、俺はにっこりと笑った。