なにしおはば   作:鑪川 蚕

8 / 26
京視点の後半です。
独自設定が大半を占めます。設定書きたかっただけだろという感想がありそうですが、何も聞こえません。
木曾がいらん発言しますが許してやって下さい。


7話 朝練 下 side京

行ったか…

ふぅと京はため息をつくと、隣でにやにやしている女性がいた

 

「大鳳ちゃんのおねがいごとは果たして叶うのかしら~?」

 

そんなことはありえないと言いたげだ。

 

「…別に大鳳さんはそんな意味で言ったんじゃない」

「そんな意味って?」

 

意地の悪い質問だ。

 

「どうでもいいでしょう、そんなことは」

 

京はイラつき、そう返した。陸奥がまるでものを分かっていない稚児に言い聞かせるように言う

 

「どうでもよくないわよ?大鳳がこの支部をどうしたら好きになってくれるかを考えるのは提督の務めだと思うけれど」

 

はめられた。京はちっと思わず舌打ちしそうになったが、こらえて平静を装う

 

「そうですね。どうするべきだと思いますか?」

 

京が悔しそうにしなかったので、陸奥はちょっとつまらないという顔をしたが、答える

 

「そうね、まず優秀な秘書艦に新しいバッグを買ってあげるべきね」

「関係がない上に、2ヶ月前に買ったばっかりです」

「新しいモデルが出たのよ、それにそろそろ破れそうだし」

「げ…」

 

思わずしかめ面をしてしまう

 

「もっと大事に扱ってくれませんか」

「そうしたいのは山々だけれど、どこかの上司が女性相手に徹夜で残業させてくるのよね」

「その点はいつも気にしていますし、当初に比べたらだいぶ減っています」

「おお、えらいえらい」

 

頭をなでようとしてきたので、払いのける

 

「なでないでください」

 

陸奥より背が低いのが克明に分かってしまうからだ

 

「あら、暁みたいなことを言うのね。可愛いわ」

 

又なでようとする。京が気にしているのを分かっての行為だ。今度は陸奥の腕をカシッと掴み、止める

 

「…わかりました。新しいのを買います」

「やった♪」

 

陸奥が勝ち誇った顔で喜ぶその笑顔でバッグの費用は気にならなくなった

いや、嘘だ。後で絶対頭を抱えている

 

「ですから、ちゃんと大鳳さんに旗艦としての役目などを教えてあげてください」

「大丈夫。任せて」

 

機嫌がいいので、すぐに承諾する陸奥

 

「じゃ、アタシはこれからシャワーを浴びて、朝寝して、午後から加わるから」

 

「シャワー」のところで反射的に陸奥の裸身を想像してしまった

 

「あらあら?一緒にシャワー浴びる?」

 

表情に出てたのか、陸奥がからかう

 

「…アホなこと言ってないでさっさと寝てください」

「はいはい、おやすみー」

 

手をちらちらとさせて陸奥も別館へと向かった

十分陸奥が離れたのを確認してから、再びため息をついた

 

「高いんだよな…アレ…」

 

(注 長いので読まなくてもいいです)

ところで陸奥がおねだりしたバッグとはあの、手に提げる袋のことではない。それならば陸奥が自分で買う。陸奥が言うには京のセンスは悪いので金や材料や色々なものが無駄になる、それならばその金で美味しいものでも食べにいきたいとのことだ。なんというかそこまではっきり言われるとヘコむものもヘコまない。

今では京の本棚には重要書類以外にグルメリポート本が並んでいるのだった

 

話を戻す。

 

陸奥の言うバッグとはサンドバッグのことだ。

しかも家庭用なんかのちゃちなやつじゃなくてプロが使う本格的なやつである。

 

元々京が陸奥に買い与えたのが始まりだ。

 

秘書艦の仕事は機密文書以外の膨大な書類の精査と承認、艦娘と提督間の連絡、艦娘の生活面のケア、他の提督達や上層部の接待の補助、緊急時の提督の代理などが挙げられる。責任が他の艦娘に比べ格段に重く、仕事量も半端ではない。後に説明するが陸奥は甲種秘書艦であるから秘書艦の中でもかなりキツイ部類に入り、ストレスも溜まりやすい。

 

特に人物関係においてのストレスが多い。

対艦娘ではない、確かに口の悪い艦娘もいるが、大概は陸奥の年上オーラ(常時発動)に当てられ、大人しくなる。ウマが合わない艦娘もいるが、そこらへんは上手く立ち回る。

 

つまるところ、対人間でのストレスがほとんどなのだ。

京は若く、経歴がアレなので提督逹、特に年配の提督に嫌われがちであり、立場上の問題もあって立ち位置にはかなり気をつかわなければならない。京から弱みを引き出すために、会合中などで平気で京の悪口を言うものもいるし、接待中に陸奥にセクハラまがいのことをするものもいる。もし、陸奥が暴力を振るおうものなら、一発で京の首が飛ぶ。ならば、京は陸奥を連れていくなという話になる。しかし陸奥は書類の処理能力よりもコミュニケーション能力、交渉能力が非常に高く、こちらが有利になる条件を引き出すのが上手い。世が世なら陸奥は詐欺師としてかなり大成していたのではと京は時折思う程だ。

 

又、話上手で聞き上手な陸奥を気に入る提督も多いということもあり、連れていかざるえないのだ。陸奥もそこらへんは分かっている。分かっているが、ストレスはどうしてもたまってしまうものだ。つい暴飲暴食、無駄遣い、仲間との不協和音がおこる。自分で蒔いたタネではあるし、このままではいけないと判断した京は陸奥にサンドバッグを買い与えた。

 

何故それにしたかというと、朝のニュースでエクササイズボクシングなるものがやっていたからだ。これならば、ストレス解消と自主トレが兼ねられると自画自賛していた。

実際それ以降陸奥のストレスによる暴走はめっきり減った。

 

しかし、誤算が2つあった。

 

1つ目はボクシングでは自主トレにならないということだ。そもそも、何故艦娘が筋肉を鍛えるのかというと、長距離航海に耐える体力づくりもあるが、機力の流れを潤滑にするためだ。足を鍛えることで推進機への、腕を鍛えることで艦砲への機力の注入の無駄を減らせる。つまり、艤装の着けている身体部位を鍛えればよい。

 

しかし、京は忘れていた。

 

陸奥のような戦艦は大量の機力を効率的に艦砲に注入するため表面積の大きい背中を経由して艦砲に機力を注入することを。

 

だから、陸奥が鍛えるべきは腕筋ではなく背筋なのだ。

 

余談だが、陸奥などの戦艦がツンと尖った張りのある胸を持つのは、背筋と胸筋を鍛えているからだ。一方、空母の場合は戦艦ほどは背筋や胸筋を必要としないので少し垂れぎみな胸なのだ。

 

話が逸れた。なんにせよ、京の目論見の1つである自主トレは失敗に終わった。とはいえ、ストレス解消が本題なのでそこまで誤算でもない。

 

本当の誤算は2つ目だ。

 

それは人間のトレーニング道具が艦娘にあっていないということだ。サイズ面ではなく、耐久面に問題がある。機力は自由に流したり止めたりできるわけではなく、微量ながら漏れている。特に感情の高ぶりに影響されやすく、怒っていると通常より多く、悲しんでいると通常より少なく漏れる。しかも、意図的に流す場合でも感情はおおいに関係する。ある報告によると間宮羊羹を食べて感情が高ぶった艦娘の火力などの計測値は普段より高かったらしい。

 

そこで問題になるが、陸奥がストレス発散目的で感情を高ぶらせたままサンドバッグを殴りつけたらどうなるか?

 

答えは簡単、機力を籠められ威力が増大した拳がサンドバッグを突き破る。

 

実際に京はその現場を見たことがある。かなり際どいセクハラ発言を連発した地元の猿顔の上級役人との交渉の翌日の朝、申し訳ない気持ちがありながらも一体どのように陸奥は殴っているのだろうかと気になり、たまたま居合わせた暁と一緒に覗き見た。TVでOLのきれいなお姉さんが大きな胸をプルプル揺らしながら、可愛らしく小突いていたので、そんな感じだろうと期待をしながら。

 

 

そんなものは幻想だった。

実際は圧倒的強者による制裁であった。

 

 

赤いサンドバッグの真ん中より少し上の部分に何か丸い絵(どことなく猿に似ている)を描いた紙が張りついていた。それを陸奥が「…死ね」と何回も呟きながら、殴りつけていた。ボキュン、ズドン、ゴスとサンドバッグが哀れな悲鳴をあげる。とどめの一発とばかりに大振りに拳を一閃させる。ズンと大気が揺れた。京達ははあまりの衝撃音に目を閉じる。恐る恐る目を開くと、また目を閉じた。信じられなかったからだ。陸奥の握り拳と腕の付け根の間をサンドバッグが隔てていた。サラサラと砂が陸奥の足元にたまっていく。あらあらと陸奥はさして驚かず、目の前の皮と砂の残骸を眺めていた。

 

えぐっえぐっと泣き叫ぶ一歩手前の暁の口を京は押さえ、そのままばれないように暁を宥めながら、本館へと帰ったのだった。本館に着くと木曾がいて、何故暁が泣いているのか訊いてきた。ごまかしても後々わかるだろうし、あったことをそのまま話すと、はっはっは傑作じゃねえか、どれ、見てくるかと京が止めるのを聞かず、行ってしまった。数分後全力疾走で息を粗くして帰ってきた。

 

「信じられねぇ…、あいつ、落ちる前にはねあげて、そいつをかかと落とし…、まさしくあれは八卦六十●掌…いや、獅●連弾…」

 

本館にある京の部屋から忍ばない忍の漫画を勝手にパクっている木曾がそう評した。

 

この話題に触れていると色々とヤバそうなのを全員が感づき、それ以上は話さなかった。

 

執務室に帰る途中、半泣きになりながら、ずぶ濡れの下着を持っていそいそとトイレに向かう島風の姿があったが、見て見ぬふりをした。

 

 

そういうわけで陸奥のストレス解消作戦は京にとって失敗に終わり、さらに二ヶ月ごとに給料袋から大金が消えていく呪いにかかってしまった。

 

とにかく、着任して間もない大鳳に陸奥の裏側というべきものを見せて、変に恐縮させるわけにはいかなかったのだ。

 

 

 

大鳳さんには違うコースで走るように言わないとなと呟く

 

肌寒い風が吹き、京から体温を奪っていく。

さっき大鳳が願いを込めた花びらは本当に大鳳の髪についていたものではなく、桜並木で京が捕まえたものだ。

陸奥のところに行かないように、引き止めるためについた嘘だが、大鳳があんなことを言い出すなんて予想出来なかった。

 

桜も同じ花びらで2回聞くほど、お人好しではないだろう。

だから、大鳳の願いは叶わない。

京はそう結論づけた。

大鳳はそんな意味で願ったのではないと知っているにもかかわらず。

すっかり冷えきった体を暖めなおすために本館へと全力で走った。




3週間以内の更新を目指しますと書きましたが、案外すぐ更新出来ました。
ストックが切れる日が近づいているのでビクビクしています。
今回の「朝練」ですが、まだ大鳳は京を恋愛対象として見ていません。逆も又しかり。別に恋愛が軸ではないのですが、どうやったら純情少女大鳳ちゃんがこのキザ提督を好きになるのかと日々悩んでおります。又、陸奥をどうしたら隣近所に住む憧れのお姉さんキャラ(ななこお姉さんみたいな)に出来るのかも悩んでおります。

テンポが遅いのはわかっています。一日が長いな!と自分でも思っています。許して。

長文失礼しました。次回は朝ご飯を食べた後、訓練します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。