「あー!はらへったー!」
「ちょっと、キソ。げひんよ。れでぃーらしくないわ」「はやくたべたーい」
三
「木曾、こっちよ」
陸奥が3
「あいよ。先にMAMIYAに注文させてくれ。腹減ってしゃーねーんだ」
木曾というらしい艦娘は粗雑な言葉遣いで返事する。水色のラインが入った白のセーラー服にショートパンツ、ミドルショートの緑がかった黒髪に軍帽をつばを横にしてかぶり、右目には眼帯をしている。勝ち気そうな見た目をしているが、実際そうなのだろう。
木曾が陸奥の向かいにいる艦娘に気付く。
「お!お前が新しい艦娘か!オレの名は木曾だ。よろしくな!」
そう言って、右手を差し出した。されるままに大鳳は握手をする。
「ほう、良い手だな。かなり訓練所で鍛えたな」
「いえ、そんな…」
「謙遜すんな。手を見りゃわかるさ。ペンだこも出来てるし、座学の方もかなりやってんな。」
「…ありがとうございます」
いきなり褒められたので大鳳は顔を赤くする
「ま、実戦はお手本通りにゃいかねえけどな。心配すんな。そこらへん俺がみっちり鍛えてやるよ」
「ワタシもれでぃだから、おしえてあげる」
「ねぇねぇあなた速い?あとでかけっこしよう!」
頼もしくニカッと笑う木曾。それにいっしょに来た
陸奥はそんな三
「あなたたち、教えるって何を教えるのかしら」
「そりゃ魚雷と主砲の効率的な打ち方とか夜戦での接近戦の動き方とかに決まってんだろ」
木曾が当然のように返す
「あの…どっちも出来ないです」
大鳳がおずおずと言う。
「はあ?いやだってお前駆逐艦だろ?」
「あれ?軽巡だと思ってた」
「ふたりともおバカね。つまり夜戦がこわいってことよ。」
三
「あの…そうではなくて、空母だから出来ないんです」
大鳳の正解発表に三
「まじかよ…。坊が言ってたのってお前か」
「くうぼっぽくないわ…」
「じゃあ、おそいのね…。がっかり…」
さっきまで歓迎していたのに、一転がっかりされた。突如として食堂内が静寂に包まれる
『美味しくできましたー!』
完成を告げる間宮の能天気な声が響き渡った
カチャカチャとスプーンがカレー皿に当たる
間宮謹製のカレーは感動的な美味しさだった。予想通りレトルトの袋でルーの方は出てきたが、米は機械内で炊くので炊きたて。カツも機械内で揚げるのはさすがに驚いた。スパイスの効いた辛みが舌を蹂躙し、カツのサクサク感が骨を伝っていく。これがMAMIYAの力か…と感嘆せざるえない。しかし、その美味しさも今は半減している気がする
大鳳は
「やっぱり空母っぽくないのね…」
木曾たちによれば現在着任している正規空母たちは皆着物に似た格好らしい。だから、着物っぽくない格好の大鳳は空母ではないと思ったらしい。そして、もう一つ理由がある。
「変かしら。私の艤装…」
大鳳の武器は少々特殊だ。このせいで着任が遅れたといっても過言ではない
木曾たちと陸奥が帰ってきた。空母だと思わなかった理由をつらつらと述べていた木曾たちを陸奥が外へ連れ出したのだった。おそらく説教をされていたのだろう、木曾たちの顔に先ほどの元気がない。陸奥は怒らせると怖いのだなと大鳳は肝に銘じる。
「あ~、えと、大鳳、すまん!」
「「ごめんなさい」」
木曾たちが一斉に頭を下げる。
「いえいえ、全然気にしていませんから」
本当は結構気にしたのだが、こんな風に謝られるとどうも恐縮してしまう。どうしたものかと目線を下げると紫色の箱が見えた。
「あ!この間宮羊羮、皆さんで食べませんか?」
我ながら良い考えだ
物で釣るのはどうかと思うが、今は仲良くならなければならない
「え…良いのかよ」
「れでぃーだわ…」
「女神のごとし…」
予想以上に感動された
「はい。みんなで食べた方が美味しいですから」
これは根っからの本心だ。
「別にいいけれど、晩御飯食べてからにしなさいね」
陸奥の忠告で木曾たちはMAMIYAのもとに走っていった。陸奥は横目で彼女らを見てから、大鳳の頭を撫でる
「えらかったわね。アタシなら怒鳴ってたわ」
またしても子供扱いされているが陸奥の手の暖かみが心地よかった。
「まさか、陸奥さんが怒鳴るなんて思えません」
「…そうかしら」
大鳳へと向いているものの陸奥の眼差しはどこか遠くを見ていたのだった
カレー独特の旨味が詰まった匂いが大鳳の鼻をくすぐる。机の上には五つのカレー皿があった。
カツはないが、カレー単品のおかわりは可能だと陸奥から聞き、せっかくなので二杯目を頂くことにしたのだ。大鳳は他の四皿を眺めた。隣には陸奥が座り、向かいには木曾たちが座っている。陸奥は中辛、木曾は辛口、おそらく駆逐艦であろう残りの二人は甘口だった。いや、なに口だろうとどうでもいいか。
「さてと全員揃ったことだし、新たに着任した正規空母の大鳳の歓迎会をしましょう」
陸奥が司会を取り仕切る
「とは言ってもカレー食べるだけなんだけどな」
木曾がカレーをぐちゃぐちゃとかき回しながら茶化す。
「しょうがないじゃない。急だったんだし。ね?大鳳?」
「はい」
しきりに時間を気にしていたのはこういうことだったのかと大鳳は理解する
「ありがと。では、改めて。アタシは長門型戦艦二番艦の陸奥よ。この支部の秘書艦をしているわ」
「確か陸奥さんってビッグセブンの一角だったんですよね!」
ずっと訊きたかったことがようやく訊けた
「え…、あ…、そうね…」
歯切れ悪く肯定する陸奥に違和感を感じたが、被せるように木曾が自己紹介したので気にしないことにした
「オレの名は…って、さっき言ったか。じゃあ、チビどもの紹介するか」
そう言って木曾は右側にいる少女の頭に手をおいた
その少女はびよんとした跳ね毛が特徴のロングストレートの黒髪で赤のスカーフが印象的なセーラー服と紺が基調の白のダブルラインのミドルスカートに黒のニーソという服装だった。机の上には錨のマークがついた紺の戦闘帽が置いてある
「このチビが暁だ」
「子供あつかいしないでよ。ちゃんと自己紹介できるわ!」
どうみても子供にしか見えない暁が頬を膨らませながら文句を言う。
「わかったわかった。じゃあ自分でやれ」
「始めからそのつもりだし」
暁がこちらを向いて、胸に手を当て、自己紹介する
「暁型駆逐艦の1番艦暁よ。れでぃって呼んでもいいわよ」
「れでぃ…?」
当惑する大鳳に陸奥が苦笑する
「暁って呼んであげて」
「ちがうもん。れでぃよ」
暁は主張するが、陸奥は受け流す
「はいはい、レディはご飯粒つけないわよ」
「うぅ…」
悔しがる暁の頬に貼りついたご飯粒へと手を伸ばしながら、暁とは別の、先ほどからカレーを掻き込んでいる少女に陸奥が声をかける。
「島風、あなたも自己紹介しなさい」
この少女、さきほどからずっと掻き込んでいる。山もりだったカレーがもうなくなりそうだ。
「ひまはへははふひふはんひまはへ」
頬一杯にカレーを詰めながら喋る。口を開かず喋るだけえらいというべきか
「こーら!ちゃんと飲み込んでから話しなさい」
案の定陸奥に怒られている。島風はしばらく口をもぐもぐさせて、のどをごくりとならし飲み込んだ。
「島風型駆逐艦島風!」
終わった終わったとばかりにMAMIYAのところへ走っていった。大鳳は走り去る島風の後ろ姿を見ながら唖然とする。唖然としたのは態度に対してというより服装にだ。じっくり見るとその服装のスゴさがわかる。
まず頭、何故か大きな黒のウサギの耳を着けている。
上はセーラー服を基本としたノースリーブでへそが出ている。陸奥もへそが出ているが見た目が子供の島風が着るのはどうかと思う服装だ。
腕には白の長めの手袋をはめ、足は赤白のストライプのニーソを履いている。 これはまあいい。
極めつけはスカートだ。かなり短い。どれくらい短いかというと、走り去る島風の下着が普通に見えるくらい短い。下着は黒の紐パン。後ろから見るときゅっと可愛らしいお尻が丸見えだ。見ているこちらが恥ずかしい。
実は大鳳もスカートは島風並に短いが、スパッツを履いているので、パンツは見えない。後で島風にスパッツを勧めようと考える大鳳であった
全員が食べ終わって、いよいよ間宮羊羮の時間だ。
小豆による綺麗な赤紫色が白い机の上でよく映えた。五
「うぅ…、うめえ。食べんの5ヶ月ぶりだわ」
木曾が決して無駄にすまいと舌に転がしながら食べている。
「わたし一ヶ月ぶり…」
「ワタシ六ヶ月ぶりかも」
島風ですらかなりゆっくり食べている。
「自業自得よ。いくら言っても片付けないんだから」
どうやら三
「大体あなたたちの部屋は汚すぎるのよ」
「お前が潔癖すぎんだよ」
「わたし木曾の部屋みたいに汚くないわ」
「ワタシもー」
陸奥の文句に木曾たちが口々に反論する。
「木曾を基準にしちゃダメよ。」
木曾の部屋はどれほど汚いというのか。木曾が憮然とする
「オレの部屋のどこが汚いんだよ」
「服は脱ぎっぱなし、布団は一部カビてて、お菓子の食べかすが撒き散らされてる。この前なんかね!漫画をどけたらゴキブリがカサカサ~って出てきたのよ!アタシの部屋に来たらどうするのよ!」
「艦娘がゴキブリ程度でびびってんじゃねーよ!いいか!そもそも部屋ってのは住んでるやつが快適だったら、それでいいんだよ!」
「その発想そのものが汚いのよ!」
くだらない喧嘩が始まってしまった。暁たちは慣れているのか、MAMIYAのところへ自分たちの皿を片付けにいった。片付けをしたら間宮とじゃんけんが出来るらしい。
「わかったよ!おし、大鳳!後でオレの部屋に来い!いかに住み心地がいいか教えてやるよ!」
矢先がこちらに向いた。
「えと、次の機会にお願いします」
愛想笑いをして、MAMIYAのほうへ走る、ゴキブリが苦手な大鳳であった。
後、じゃんけんは駆逐艦限定だった。
次は木曾達とダベります。