かなり「あれ?」と思う部分があるかもしれませんが、それは私の技量不足です
追記 ミスが見つかり修正しました。62型の部分です。ご免なさい。
「こちら大鳳、未だ深海棲艦の姿は確認されません」
『了解。貨物船とは後何分で落ち合えそう?』
「後16分かと」
「わかったわ。そのまま索敵を続けて。気を抜かないで」
「了解です」
通信を切る。
現在、第二艦隊は索敵部隊と本部隊の2つの部隊に分かれている。
索敵部隊は木曾、島風、大鳳。本部隊は陸奥、暁の編成だ。
陸奥の速度が遅いため、5隻で航行するのは時間的に不可能と判断された結果だ。
作戦の概要はこうだ。
まず、索敵部隊が索敵をしつつ、貨物船と落ち合い、護衛する。
その後、本部隊と合流。貨物船を追跡しているはずの深海棲艦と会敵、交戦。
深追いはせず、あくまでも足止め。その間に舞鶴、浜末、呉からの支援艦隊が到着する予定。敵が撤退又は全滅したら、作戦終了。
もちろんこんなものは理想に過ぎない。
索敵しそこなったら、貨物船が落ち合う前に襲撃されたら、支援艦隊の到着が遅れたら、など様々な不確定要素が存在する。一応対策は考えているが、不十分なのが現状だ。頼りなく思えるかもしれない。
しかし、陸奥は愚痴ったものの、こうなったことがそもそも異常事態だ。
仁本を囲う絶対防衛領域を突破されるなど誰が予想しただろうか。
『大鳳、貨物船周りに異常はないな?』
「ええ、まだ艦載機の姿は見えないみたい」
風でなびく髪を押さえながら、艦戦から送られる情報を基に答える。艦載機は発艦した空母に情報を送ることが出来、しかも、意思疎通までも出来る。何故出来るのかは誰もわかっていない。
空母
『オレの電探にも感が無いし…、島風は?』
『ないよー』
頭に着けているウサギの耳型電探をピクピクさせながら、応える。連装砲ちゃんたちはキョロキョロと首(?)を振りながら、索敵している。
木曾は出撃当初こそ不満そうであり、陸奥と通信機ごしに口論していたが、諦めて今は作戦に専念していた。
『お、見えてきたぜ』
木曾の言ったとおり、黒い点が3隻見えた。
『通信を送るか』
木曾が通信機に手を伸ばした瞬間
貨物船の傍で突如水柱があがった。
思いがけない光景に大鳳は立ちすくみ、たった一つのことが頭に浮かんだ。
「敵機……?」
木曾が壊れそうなほどの大声でマイクに叫ぶ。
『護衛に来た舞鶴鎮守府の第二艦隊だ!誰か応答しろ!!』
零式艦上戦闘機52型から大鳳へ
貨物船から木曾へ
同時に打電が入った。
「敵艦隊を発見したっ…!?」
『艦載機が数機接近しただと…!?』
互いに具申のため、顔を向けあう。
先に口を開いたのは木曾だった。
『大鳳!偵察に出してるやつら、全て帰還させるか、迎撃に行かせろ!すぐに第二次攻撃隊が来るぞ!』
「それはわかってる…でも敵艦隊が!!」
『問題ない!今は貨物船の保護が先だ、全艦最大戦速!』
大鳳は開きかけた口を閉じ、前傾姿勢をとる。
エンジンの回転数を上昇させ、3隻は弾丸のごとく護衛対象のもとへ走った。
雲が少ないため、敵機が近づきつつあるのが、電探を見なくともわかる。
『まずいな、ギリギリだ』
木曾のうめき声が聞こえる。
護衛する貨物船は、正確にはタンカーだが、3隻あり、2隻はほぼ無傷だが、残りの1隻が先程の攻撃で小破状態となり船脚が落ちていた。木曾が言うには乗組員が機体と雷跡を見たらしい、おそらく艦攻による攻撃だろう。なんにせよこのままでは大鳳達が着くより先に敵がタンカーについてしまう。
大鳳は暗然とする。
私のせいだ。私が索敵に成功していれば、こんなことにはならなかったのに…。
迎撃にしても、52型は燃料の関係でそのまま迎撃に向かわせられるのは半分の9機くらい。62型は18機のまま発艦できるけれど、性能はどうしても52型よりも劣る…。
私が熟練の空母ならばこの劣勢をひっくり返せるのに…!
苛立ち、焦りが身体を支配していく、敵がもうすぐそばに来ているにもかかわらず。
追い討ちをかけるように帰還途中の52型から打電が入った。先程の敵艦隊を発見した機体だ。
「…どうしたの?え…、そんな…嘘でしょう?まさか…あっ…!!!」
糸が一本切れた感触がした。この感触は撃墜された証。
艦載機によってではなく、軽巡によってでも、駆逐艦によってでもない。
もっと大きな存在によって撃墜された。
衝撃のあまり、高速で動いていた身体がバランスを崩した。
いち早く気づいた島風が高速で駆けつけ、大鳳の腕を掴みあげる。
「だいじょーぶ?」
島風が心配そうな顔で覗きこむ。遅れてやってきた連装砲ちゃんも砲塔を前に倒す。
「大丈夫よ、…いえ、大丈夫じゃないかもしれない」
島風が自分の身体を持ち上げられたことは驚きだが、この驚きを上回るほどではない。
「来る…」
大鳳がみるみる青ざめていくので、島風は大鳳の調子が悪いのかと不安げだ。
「戦艦を含んだ支援艦隊が本艦隊と一緒に来る…」
おそらく先程の爆撃の際に敵艦載機が大鳳達を発見していたのだろう。本艦隊よりは遅れてくるものの、こちらの支援艦隊が来るよりは早く到着する。
確認途中で撃墜されたから支援艦隊の編成はよくわからないが、戦艦がいることは確かだ。
蹂躙される
未知の恐怖が大鳳を襲った
寒気がする。手足が震える。震えが歯を打ちならす。
待ちに待った交戦なのに、足が後ろへ進もうとする。
後悔するとわかっているのに、タンカーを置いて逃げ出したい。
戦場の圧力が大鳳を縛りつけた。
「へー、そーなんだ」
島風が拍子抜けした声を出した。予想してなかった反応に大鳳は戸惑いを隠せない。
『おい!早くしろって言ってんのがわかんねぇのか!』
ただでさえ間に合うかどうかわからないにもかかわらず、突然停止した2隻に苛立ちを隠さない。
「なんかねー、戦艦を含んだ支援艦隊が来るんだって」
通信ごしにヒュウッと木曾の口笛が聞こえた。
『予想はしてたが本当に来たか。いいねぇ、ゾクゾクするぜ』
「何を呑気な…!」
あまりにもな木曾と島風の反応に大鳳が何故か怒りだした。
「本艦隊と支援艦隊を合わせて12隻!圧倒的に不利じゃない!貴方…、戦艦の砲弾を喰らえば、その、沈むかも、しれないのよ!?」
『じゃあ、逃げるのか?護衛対象を置いて?』
「それは…」
訊かれて当たり前の問いかけに大鳳は言葉を詰まらせる。
『お前の言う本当の戦いってのは逃げることなのか?』
「……ッ!!」
確かに言った、最新鋭の装甲空母の本当の戦いを見せると。
実戦へと向かう自分を奮い立たせるために。
だが実際はどうだ。たった一発タンカーに爆撃され、戦艦と空母が来るぐらいで、敵を前にして情けなく足を震わせ怯えるだけだ。
この目を覆う邪魔な水滴はなんだ、敵への恐怖の涙か自分への怒りの涙か。
木曾は立ちすくむ大鳳を置き去りにしたまま進んでいく。
『そろそろ交戦だ。オレと島風はこのまま敵艦隊のいる方向へと突っ込み、軽空母を撃沈させる。大鳳、お前はその支援だ。タンカー近くで飛行機を操り、あの邪魔な羽虫を墜とせ』
言っている意味がよくわからなかった。
「何を言ってるの…?」
『オレたち、突っ込む。お前、墜とす。簡単だろ?』
木曾が茶化すように言う。
「無茶よ…」
『無茶じゃない。こんなので無茶だと言ってたら、アネキや軽巡どもに笑われてしまうさ』
「……」
『ま、いいさ。お前がいなくても勝てるしな。そこで震えながらオレの活躍を見てればいい』
通信を切る前に木曾は置き土産をしていった。
『じゃあな、
「…!!」
通信が切れた。
「…待って……!」
だらしなく通信機をぶら下げる
木曾の背中がみるみるうちに小さくなっていく。
隣りにいたはずの島風は連装砲ちゃんを引き連れ、その背中を追っていった。
激しい水しぶきをあげ、一直線に進んでいく2隻の姿は大鳳が生まれる前よりも長い間戦場で生きてきたことを思い知らされる。
視界に頼りなく浮かぶ自分の足が映った。
私がいなくても勝てるというのはただの強がりではないのかもしれない。
このまま2隻を眺めているだけでいいのかもしれない。
でも、そんなことは許さない。
大鳳はボウガンのストックを固く握りしめた
揺らぐ水平線を睨み付けた
機力を身体中余すことなく巡らせた
そんなことをするために生まれたわけじゃない。
何もしないまま死にたいわけじゃない。
流れる涙は戦場に立てる喜びの涙だ
震える体は敵を前にした武者震いだ
怯えなどない、あるのは戦意だけだ
七面鳥などとは
呼ばせはしない
次は開戦です
戦闘シーンはあまり期待しないでください…
二週間以内の更新を目指します