飛びだした………はいいが、どこに行けばいいものかさっぱりわからない。第一訓練海域に行けばいいのはわかっているのだが。大鳳がキョロキョロと首を振っていると、不意に肩を叩かれる。驚きで背を震わせ振り返ると、木曾だった。
「何してんだ、こっちだ」
木曾が手招きをして、スケートをする様に海上を滑り、先導する。
推進機から出る噴水が水飛沫をあげながら、水面に漂う白線を作っていく。
木曾についていくと、追いかけっこをしている暁と島風の姿が見えた。
朝の時と同じ構図で島風が逃げて、暁が追いかけている。
しかし、違う点が一つ。島風の周りをうろちょろと航行している謎の物体があること。しかも3つもある。
「あれは何?木曾」
「ん~、そうだな…。直接見た方が早い」
言うやいなや、その場でホバリングし、木曾は腰のポーチから取り出した無線機のチャンネルを合わせる
「暁、島風。集合だ」
二隻に気づいた駆逐艦たちは追いかけっこを止め、こちらに近付く。
近付くにつれて、島風の周りにいたものがはっきりと見えてきた。
それは高さ45センチほどの直方体で灰色の丸い角をもつ物体だった。小さな腕らしきものがついており、足にあたる部分には「ぜかまし」と書かれた赤白ストライプの浮き輪を着けている。最大の特徴は頭に触角のように2本の砲塔を生やしていることだ。
いや、本当の最大の特徴はまるで生きているように見えることか。
島風が指示を送る素振りも見せないのに、ジグザグに航行したり、急発進急停止を繰り返したりする。腕がピョコピョコと、砲塔がガチャガチャと動く。
正直、正体を説明されても理解出来る自信は無い。
その謎の物体達は大鳳の姿を見つけ(?)、『キュゥー』『きゅーきゅー』『qq〜』という鳴き声が聴こえた気がした。内側の歯車的なものが摩擦音を発しているのだと信じたい。
これで目でもあったら…と思っていたら、丸い黒目があった。今、ウインクした。おまけに逆三角形の口があった。
わけがわからないよ…。
大鳳以外の3隻は当然のように受け入れていた。
大鳳はただ口を開けていた。
「驚いたか?」
「驚かない方が可笑しいわよ…」
木曾のからかいに取り合っていられないほどだ。
「あれは…、何なの…?」
「自律行動型旋回砲塔。通称 連装砲ちゃんだ。」
「れん…そうほう…ちゃん?」
そこで思い付くことがあった。
「つまり…ロボットなの?」
訓練所の図書室で読んだ記憶がある。自力で思考し、行動し、学習する機械があると。最近生まれたものというわけではなく、私達艦娘が艦であった時にも「学天則」というのがあったとか。
「違うな」
違いましたか
「あれらにはな、オレ達艦娘が艦の記憶、いや、魂が宿ってんのと同じように、島風が艦だった時に載っけてた連装砲の魂が宿ってる」
「ごめんなさい。よくわからないわ」
「それが普通だ。あれらを開発した博士もよくわかってないみたいだしな」
「そんなので、いいの?」
「いいんじゃないか?そもそも、オレ達のことだってわかってないし」
「そうね…」
何気ない木曾の一言がなんだか重く感じた。
私は自分を理解しているのか?
そんなことを考えていたら、島風が目の前にいた。
島風は大鳳の顔を覗きこみ、少し目を光らせた。
「連装砲ちゃんに興味があるの!?」
「え、ええ…」
押された形となって答えたが、確かに興味がある。
不気味だという気持ちが無いわけではないだが、どんなものかという興味が勝る。
猫をも殺すほど好奇心は何よりも強力だ。
バランスを崩して横転しないように、慎重になりながら中腰になり、連装砲ちゃんに顔を近付ける。
よく見るとわかったが、目と口はその部分に有機ELディスプレイがあって、それが表示している画像だ。どうしてそんなことをしているのかわからないが、開発者の遊び心というものだろう。
目と口の正体さえわかってしまったら、不気味さはなくなった。要は艦載機と同じだ。
砲塔を触ってみると、意外にふわふわしている……ということはなく、金属特有のひんやりさ加減。だが、連装砲ちゃんは照れた素振りを見せるので、不思議な感じだ。青い猫型ロボットも実はこんな触り心地なんだろうか?
ふーんとしばらく見ていると、島風がそわそわし始めた。
「あ、おトイレなら早くいった方がいいわよ?」
「ち、違うもん!」
「?」
「その、連装砲ちゃん、可愛いと思う?」
不安の混じった瞳とともに訊いてきた。
「島風ちゃんと同じくらい可愛いと思うけれど?」
別に嫌みという訳ではなく、率直な感想だ。島風も連装砲ちゃんも小動物のような可愛さがある。
「ホント!?」
「ええ、本当よ」
「ホントのホント!?」
「本当の本当」
「えへへ/////」
頬に両手で挟み、腰をくねくねさせたかと思えば、又大鳳に顔を近づける。
「あのねあのね!!」
「え、うん、なぁに?」
「島風とね!連装砲ちゃんはね!親友同士なの!」
島風は顔を紅潮させた後すぐに何故か青ざめさせた
「あ、えっと…「そうなの!?じゃあ、私もお友達になっていい?」
大鳳は可愛いものを見た時のように微笑んだ。
島風の言っていることはよくわかる。艦載機を兵器としてではなく相棒として見るのは空母あるあるだ。
青ざめていた島風は大きく目を見開き、頬を染めながら「うん!」と大きく頷いた。
連装砲ちゃん達が横で跳びはねていた。
次回こそ!海で撃ちます!
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