なにしおはば   作:鑪川 蚕

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今回は連装砲ちゃんのお話しです


9話 連装砲

飛びだした………はいいが、どこに行けばいいものかさっぱりわからない。第一訓練海域に行けばいいのはわかっているのだが。大鳳がキョロキョロと首を振っていると、不意に肩を叩かれる。驚きで背を震わせ振り返ると、木曾だった。

 

「何してんだ、こっちだ」

 

木曾が手招きをして、スケートをする様に海上を滑り、先導する。

推進機から出る噴水が水飛沫をあげながら、水面に漂う白線を作っていく。

木曾についていくと、追いかけっこをしている暁と島風の姿が見えた。

朝の時と同じ構図で島風が逃げて、暁が追いかけている。

しかし、違う点が一つ。島風の周りをうろちょろと航行している謎の物体があること。しかも3つもある。

 

「あれは何?木曾」

「ん~、そうだな…。直接見た方が早い」

 

言うやいなや、その場でホバリングし、木曾は腰のポーチから取り出した無線機のチャンネルを合わせる

 

「暁、島風。集合だ」

 

二隻に気づいた駆逐艦たちは追いかけっこを止め、こちらに近付く。

近付くにつれて、島風の周りにいたものがはっきりと見えてきた。

それは高さ45センチほどの直方体で灰色の丸い角をもつ物体だった。小さな腕らしきものがついており、足にあたる部分には「ぜかまし」と書かれた赤白ストライプの浮き輪を着けている。最大の特徴は頭に触角のように2本の砲塔を生やしていることだ。

 

いや、本当の最大の特徴はまるで生きているように見えることか。

 

島風が指示を送る素振りも見せないのに、ジグザグに航行したり、急発進急停止を繰り返したりする。腕がピョコピョコと、砲塔がガチャガチャと動く。

 

正直、正体を説明されても理解出来る自信は無い。

 

その謎の物体達は大鳳の姿を見つけ(?)、『キュゥー』『きゅーきゅー』『qq〜』という鳴き声が聴こえた気がした。内側の歯車的なものが摩擦音を発しているのだと信じたい。

 

これで目でもあったら…と思っていたら、丸い黒目があった。今、ウインクした。おまけに逆三角形の口があった。

 

わけがわからないよ…。

 

大鳳以外の3隻は当然のように受け入れていた。

大鳳はただ口を開けていた。

 

「驚いたか?」

「驚かない方が可笑しいわよ…」

 

木曾のからかいに取り合っていられないほどだ。

 

「あれは…、何なの…?」

「自律行動型旋回砲塔。通称 連装砲ちゃんだ。」

「れん…そうほう…ちゃん?」

そこで思い付くことがあった。

「つまり…ロボットなの?」

 

訓練所の図書室で読んだ記憶がある。自力で思考し、行動し、学習する機械があると。最近生まれたものというわけではなく、私達艦娘が艦であった時にも「学天則」というのがあったとか。

 

「違うな」

 

違いましたか

 

「あれらにはな、オレ達艦娘が艦の記憶、いや、魂が宿ってんのと同じように、島風が艦だった時に載っけてた連装砲の魂が宿ってる」

「ごめんなさい。よくわからないわ」

「それが普通だ。あれらを開発した博士もよくわかってないみたいだしな」

「そんなので、いいの?」

「いいんじゃないか?そもそも、オレ達のことだってわかってないし」

「そうね…」

 

何気ない木曾の一言がなんだか重く感じた。

 

 

私は自分を理解しているのか?

 

 

そんなことを考えていたら、島風が目の前にいた。

島風は大鳳の顔を覗きこみ、少し目を光らせた。

 

「連装砲ちゃんに興味があるの!?」

「え、ええ…」

 

押された形となって答えたが、確かに興味がある。

不気味だという気持ちが無いわけではないだが、どんなものかという興味が勝る。

猫をも殺すほど好奇心は何よりも強力だ。

 

バランスを崩して横転しないように、慎重になりながら中腰になり、連装砲ちゃんに顔を近付ける。

 

よく見るとわかったが、目と口はその部分に有機ELディスプレイがあって、それが表示している画像だ。どうしてそんなことをしているのかわからないが、開発者の遊び心というものだろう。

 

目と口の正体さえわかってしまったら、不気味さはなくなった。要は艦載機と同じだ。

 

砲塔を触ってみると、意外にふわふわしている……ということはなく、金属特有のひんやりさ加減。だが、連装砲ちゃんは照れた素振りを見せるので、不思議な感じだ。青い猫型ロボットも実はこんな触り心地なんだろうか?

 

ふーんとしばらく見ていると、島風がそわそわし始めた。

 

「あ、おトイレなら早くいった方がいいわよ?」

「ち、違うもん!」

「?」

「その、連装砲ちゃん、可愛いと思う?」

 

不安の混じった瞳とともに訊いてきた。

 

「島風ちゃんと同じくらい可愛いと思うけれど?」

 

別に嫌みという訳ではなく、率直な感想だ。島風も連装砲ちゃんも小動物のような可愛さがある。

 

「ホント!?」

「ええ、本当よ」

「ホントのホント!?」

「本当の本当」

「えへへ/////」

 

頬に両手で挟み、腰をくねくねさせたかと思えば、又大鳳に顔を近づける。

 

「あのねあのね!!」

「え、うん、なぁに?」

「島風とね!連装砲ちゃんはね!親友同士なの!」

 

島風は顔を紅潮させた後すぐに何故か青ざめさせた

 

「あ、えっと…「そうなの!?じゃあ、私もお友達になっていい?」

 

大鳳は可愛いものを見た時のように微笑んだ。

 

島風の言っていることはよくわかる。艦載機を兵器としてではなく相棒として見るのは空母あるあるだ。

 

青ざめていた島風は大きく目を見開き、頬を染めながら「うん!」と大きく頷いた。

連装砲ちゃん達が横で跳びはねていた。




次回こそ!海で撃ちます!
一週間後に更新を予定しています。

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