ジリリリリ――チンッ。
「……朝か」
早朝からやかましく枕元で鳴り響く目覚まし時計を止め、俺は起床した。
窓から差し込んでくる朝日に刺激され、思わず腕で両目を覆う。近くの樹にでもとまっているのか、鳥の鳴き声が聞こえた。
俺は寝起き特有の気だるさを感じながらも、寝ていたベッドから上半身を起こす。
いい目覚め――とは生憎言えないが、まあそれでも今日はマシな方だろう。これだけすぐ起きれたんだからな。いつもは大概二度寝コース直行なのに。
その原因はなんだろうかと考えてみて、思い当たる。人間ってのは、どうやらそれなりに融通が利くらしいな。なんたって、今日が大事な日だとわかってるんだから。
俺は、壁にひっかけてあるカレンダーに視線を向ける。
視線の先には、赤マルで囲まれた日付が存在していた。
――3月17日。
今日の、日付だ。
「……ついに、この日が来たか」
小さく呟き、俺はベッドから降りる。
そこからはいつもどおり。1階に降りて(俺の部屋は2階にある)顔を洗い、朝食を食べ、少し休憩。後に再び2階に上がってきて、服を着替える。
袖を通すのは、『防弾制服』。そう……東京武偵高中等部の制服だ。
こいつを着るのは、あの大騒ぎの卒業式以来、実に3日ぶりのことだ。
この制服も、もうおさらばかと思ってたんだけどな。もう一度着る機会があることをすっかり忘れてた。
着替え終わった俺は、中等部に転校する時に購入した防弾性のカバンをひっつかむと、そのまま玄関まで向かった。靴を履き、横開きの扉を開いて外に出る。送り出す声はない。両親はすでにどちらも仕事場にいるはずだ。
燦々と降り注ぐ朝日を浴びながら、俺は1つ息を吐いた。
「――うっし。そんじゃあ、行こうか」
目指すは、東京武偵高校。
* * *
3月17日。
レインボーブリッジ南方に存在する
受験人数はかなりの数にのぼり、中には東北や九州から来るやつらも少なくないのだとか。さすがに首都に造られただけはあって、どうも日本の武偵高のなかでも最高ランクの学校――第I級武偵高――らしいからな。だからこそ、こぞって受験する者が多いんだが。
が、まあ、俺たち東京武偵高校中等部の卒業生は、本来そんなものは関係ないはずなんだ。
なぜなら、俺たちはエスカレーター式により、入試無しで進学することになっているからだ。何もしなくても入れるのに、わざわざ受験するやつはいないだろ。
では、なぜ俺たちまで入試に参加することになるのか?
この答えは実に簡単で、俺たちにとっての入試とは、
武偵高では、それぞれの武偵にランクが付いている。E、D、C、B、A――そして、S。武偵高に通う生徒は、この6つのいずれかのランクに属すことになる。
無論、1回いいランクになったからといってずっとそのままってわけじゃない。
そしてその第1回目のランク決定が入学試験――つまり、今日になるわけだ。
「D……いや、できたらCくらいまではいきてぇなぁ。さすがに、Eってことはねぇだろうけど。……ない、よな?」
学園島行きのモノレールの中、俺は窓の外に広がる海を眺めながら呟いた。
いや実際どうだろうか? 下手したら、Eランクも十分にあり得る気がする。
まあ、そうはいってもとりあえず試験を受けないことには始まらねぇ。せいぜい、
防弾制服の上から、左脇に手を当てる。そこから返ってくるのは硬質な感触。ホルスターで吊ってある俺の愛銃、グロック18Cの感触だ。
オーストリアのグロック社が生み出したグロックシリーズの始まり、グロック17にフルオート機能が搭載された機関拳銃・グロック18……の改良版が、このグロック18Cだ。装弾数は17。口径は9mm。武偵の銃としてはそれなりにポピュラーな物だな。
なんだかんだで、この1年こいつには助けられたなぁ。元々は俺の銃じゃねぇんだけど、今じゃすっかり相棒だ。
最終的に、俺がどのランクになるのかはわかんねぇけど。
せめて、この銃と、この銃を俺に与えてくれた人に恥じないくらいには頑張ろうと、俺は思った。
* * *
「おー、広ぇな。さすがに島1つってだけはある」
モノレールに揺られてたどり着いた学園島をぶらぶらと歩いていた俺が抱いた感想は、そんな実に単純なものだった。
いやまぁ、当たり前すぎてつまんねぇ感想だけどな。
この学園島の敷地面積は、確か南北に2キロ、東西に500メートルだったか。高校にしちゃ、バカでかすぎる敷地だ。もっともその分施設やら学生向けの商店やらがあるんだが。現に、こうして歩いているだけでもコンビニやらなんやらがちらほら見受けられるしな。
そんな中を俺は歩を進めながら、これからの行動を考えてみる。
「どうすっかな……。もうちっとブラブラするか、それとももう試験会場に行くか」
腕時計で確認したところ、現在時刻は8時ジャスト。
俺たち受験生は、9時30分までにそれぞれの志望学科の試験会場に集まらなければならない。が、逆に言えばそれまではどこをうろつこうと勝手というわけだ。
ちなみに、迷って試験会場にたどり着けないなんてことは多分無い。受験生には受験票と一緒に島内地図が配布されてるしな。それを無くしたりしない限りは、まあ大丈夫だろう。
「んー……決めた。もうちょいブラつこう。どうせ試験会場に行っても、あって顔見知りに会う程度だからな」
それに……、と地図を見る。
俺が受ける予定の『探偵科』の専門棟はここからだと、それなりに近い。なにかあっても時間までには行けるだろ。
――おっと、言い忘れてた。
これはどこの武偵高でもそうなんだが、高等部には中等部との差異がいくつかある。例えばそれはランク分けの制度であったり、民間からの依頼――『
中等部では、言わば武偵としての基礎を学ぶことに主眼を置いていて、いわゆる
が、これが高等部になるとその反対、
そのための『専門科目』。武偵としての分野分けが行われるというわけだ。
科目は全部で14。
ほとんどは読んで字のごとくの内容なんだが、おいおい説明しようかと思う。中には意味不明の学科もあることだしな。
で、ここに教師たちが所属する
ちなみに、外国の武偵高にゃうちにはない学科とかもあるらしい。俺が知ってんのは、ローマ武偵高の
閑話休題。
そんで、結局何が言いたいのかと言えば、俺が受験するのは探偵科だという話だ。探偵科ってのは、その名のとおり「探偵学と推理術による調査・分析」を学ぶ学科だな。
もっとも中等部の連中からは強襲科を勧められたんだけどな。けど、あそこはマジで危険だらけの学科らしいからなぁ。なんたって、学科内容が「拳銃・刀剣その他の武器を用いた近接戦による強襲逮捕」だからな。さすがに気後れする。
ま、なんだかんだあって最終的には探偵科にしたんだけどな。一番まともな学科って話だし、俺が尊敬している武偵関連の史実の人物が探偵だったから。
――っと、いつまでもだらだらと自分語りしててもしょうがねぇな。
というわけで、地図を小さく畳んで尻のポケットにしまい、俺はしばらくのんびり学園島を回ってみることにした。ま、あんまり遠くまではいけねぇけどな。
「ふーん、噂通り随分遠くから来てるやつがいるな。ありゃ、
どうも俺と同じ考えのやつが多かったのか、散策している途中、結構な数の中学生を見かけた。当然受験生だろうが。
つっても、その中でも一番多いのはやっぱりウチの学校の連中だったけどな。附属校だし。何人か知り合いにも会った。
しかし、なんだ。これだけ集まると、やけに個性的な奴もいるもんだな。さっきなんて、ツーサイドアップの金髪でやたらフリフリの制服着た女の子見たぞ。実に派手だ。あ、あとどうみても小学生にしか見えない女の子も見た。インターンかな?
そんなことを考えながら歩いていると、ふいにこんな会話が耳に届いた。
「キキ! お前、もう十分見学しただろっ! そろそろ帰れよ!」
「えー? いーじゃんもうちょっとくらい。私も来年受験するんだし。お兄ちゃん冷たいなぁ、轢いちゃうぞ?」
「妹つれて受験に来る野郎がどんな目で見られるかちったぁ考えてくれよぉおおおお!」
ん? 兄妹ゲンカか? こんなところで。
気になってちらりと視線を向けると……うおっ、たっけえ。
すげぇ
やっぱ身長ってのは遺伝なのかなとか考えていると、突如体を軽い衝撃が襲った。どうやら、誰かにぶつかったらしい。
「――っと、悪い」
俺は、すぐさま謝る。『過失には迅速な謝罪を』。俺の元相棒の言葉だ。
相手が転んだりしてないか確認するために顔を上げると、そこにはやたらと爽やかな顔したやつ(ぶっちゃけイケメン)がいた。
イケメン君(仮)は柔らかく微笑むと、謙遜するように左手を軽く突き出した。
「いや、こっちこそゴメン。僕も地図見ながら歩いてたから、お互い様だよ」
おっと、性格まで爽やかだな。うん、すごくモテそうだ。
イケメン君(仮)は「それじゃあ」と軽く手を振って去っていった。
めずらしいなー、武偵でああいうタイプ。武偵を志す奴って、大抵どこかしらトチ狂ってるからなぁ。俺は違うと思いたいが。
めったにいない普通人タイプの武偵に出会うという出来事を経て、俺はさらに散策を続けた。
それから5分ばかり歩いたところで斜め前に見えた建物は……地図によると狙撃科の専門棟か。ここは確か、「主に狙撃銃を使用した遠隔からの戦闘支援」を学ぶ学科だっけ。
狙撃か……
「ん……?」
ぼんやりと中学時代のことを思い出していた俺の視界に、何か違和感が映った。
何だ? と思ってよく目をこらして見ると……、
「屋上に……人?」
そう。
どういうわけか狙撃科の屋上に、人……それも女の子が立っていた。
身に纏っているのは武偵高の制服じゃない。てことは、彼女も受験者なんだろうが……なんか風格あるな。なぜか、孤高の狼を幻視した。
風に流れる髪は、ライトブルーのショートカットヘアー。距離が離れているから大分曖昧な目算になるが、身長はかなり小柄だろう。
ここまでなら普通の女の子なんだが、そこはさすがに武偵高。全然普通じゃない箇所がある。
女の子が背中に背負った狙撃銃(遠目なので詳しくは分からん)が彼女は武偵なのだと如実に語っていた。それが凛々しい立ち姿と相まって、一線を画す雰囲気を演出している。
そんな彼女の立ち姿をぼんやり眺めていると――ふいに、高所ゆえの強い横風を受けたのか、彼女のスカートがかなり危ない位置まではためいた。
「やべっ。ジロジロ見てたら覗きみてぇじゃねぇか」
さすがに入学さえしてないのに覗き魔なんて噂が流れたら困る。
というわけで、不名誉な謗りを免れるべく、俺はすばやくその場を離脱した。
その最中にも、俺の頭の片隅には、あの不思議な少女の姿がちらついていた。
* * *
――非常に、まずいことになった。
学園島の片隅で、俺はダラダラと冷や汗を流していた。
現在時刻は、9時。別にこれは問題じゃない。これだけあればまだ集合時間には間に合うだろう。
そう。だから問題はたった1つ――
――地図が無いってことだけだ。
「…………」
って、やべぇよやべぇよ! 完全に道わかんなくなっちまったよこれ!
はたから見たら完全に変人だろうが、俺は頭を抱えて慌てまくる。
適当にポケットに入れただけだからなぁ。いろいろ回って出し入れしてるうちに落っことしちまったか?
「どうする? 教務科――武偵高の教職員が在籍する学科――に行って予備をもらうか? ……って、そもそも教務科の場所もわかんねぇじゃねーか!」
ダメだ。焦って1人つっこみを入れてしまった。
どうする、どうする――いや、待てよ? 教務科?
頭の中で、カチリと閃きが起こる。
そうだ、教師だ。教師に会って場所を聞けばいいんだ。それだけなら教務科に行く必要もない、どこかの棟に入れば、1人ぐらいはいるだろ。
おあつらえ向きに、すぐ近くにはどこの学科かは知らんが、おそらくは専門棟がある。これはもう、天の采配としか思えねぇ。
俺は現状を打開すべく、一も二もなくそこへ飛び込んでいった。
――今だから言えることだが。
ある意味で、これは本当に天の采配だったのかもしれない。
* * *
ガラス戸を開き、俺は建物の内側へと体を滑り込ませた。
見渡してみると、棟内にはまばらに受験生がいた。ということは、ここは多分受験会場の1つで合ってるんだろう。
よしよし、いいぞ。これなら教師もいるはずだ。
「さて……どこから探すかね?」
一瞬悩み、それからとりあえず歩いて窓から中を確認していくことにした。
廊下を進みつつ、教師の捜索を始めた……のだが。
「んー、なかなかいねぇなぁ……」
窓の外から覘きこんでみるも、教師がいない。まあ、確かにまだ試験開始までには結構時間があるから別段おかしなことじゃねぇけど。それとも、この棟の試験会場は1階じゃないんだろうか?
まあ、それならそれでそのうち見つかるだろうと思って廊下を早足で進み……前方を歩く黒髪の男子生徒を抜かそうとしたところで――
「だっ、誰か! 助けてください、変な人達が……きゃっ!?」
「うおっ!?」
悲鳴が一つと、驚きの声が一つ。
次の瞬間、俺の目の前で、その男子生徒が前に倒れこんだ……
「ありゃ」
ま、曲がり角だったからな。お互いに死角になって見えなくてぶつかっても仕方なかっただろうさ。
そんな探偵科でなくとも出来る当たり前の推理をしてから、俺は押し倒された女の子になんとなく目をやって……驚きに目を見張った。
なぜなら、男子生徒とぶつかった女の子は……『巫女服』を着ていたからだ。しかも、黒のロングストレートヘアーという、まさに大和撫子を絵に書いたような
この女の子、多分『
しかし、巫女か。神社じゃなく
そうやって頭の中で、俺が一番ぶっ飛んでると思っている学科を思い浮かべていると、
「――おいおい、逃げなくてもいいだろうがよ? こっちは親切で言ってやってるんだぜ?」
女の子曰くの『変な人達』(指輪やらネックレスやらをつけているなんとも
つーか、お前ら……仮にも武偵志望が
てか、巫女さんにぶつかった男の方は大丈夫だろうか? なんか、巫女さんに覆いかぶさったまま、微動だにしてないんだが。まさか、気絶したとか?
と思っていたら、リーダー格の男が黒髪の男に気づいたらしい。
「おー? なんか先客が来てるみたいじゃねえか?」
「ち、違います、この人は……たまたまぶつかっただけで……!」
黒髪の男は関係ないと巫女さんがフォローするも、リーダー(ぽい奴)は黒髪の男に近づき、
「悪いなァ、その姉ちゃんは俺らと
言いながら、男の肩にポンと手を置いた。
次の瞬間――
――ゴッ! という鈍い音を響かせてリーダー格の男は吹きとんだ。
冗談のように、地面と水平に数メートル空を舞った男は、すぐに床に打ち付けられることになった。
「が、ぁ……ッ」
そして、一つ呻いたかと思うと、意識を失ったのか立ち上がることもなく伸びた。
……何が起きたかと訊かれれば、それを説明するのは簡単だ。実に単純明快、肩に手を置かれた男が、置いた男を
「おい見ろよ、一発だぜ」「武偵は打たれ強いってのに」「それだけ重い一撃だったってこと?」
騒ぎを聞きつけて遠巻きに眺めていた(武偵にとってはこんな騒ぎは日常茶飯事だ。自己責任ということで、誰も止めに入らなかった)ギャラリーに、ざわめきが広がっていく。
一方仲間をのされた残りの2人は、驚きながらもバックステップで後ろに下がった。ここで逆上して一気にかかっていかず一度距離を取るのは、なんとも武偵らしい。こいつは本格的に武偵同士のケンカになってきたな。そのうちアル=カタ戦とかに発展しねぇだろーな。
「…………」
……って、何のん気に見物してんだ俺は! そんな暇ねぇじゃん!?
危ない危ない。あやうくここで時間が潰れちまうところだった。本来の目的を思い出せ、有明錬。
うーん、しかしどうするか。廊下の奥に行って階段を上りたいんだが、そのためにはあの2人組が邪魔だしなぁ……。
「――ん? ありゃあ……」
その時、俺は2人組の片方、俺から見て左側に立っているアフロヘアーの男のポケットから何か筒状の物が飛び出しているのに気づいた。
あれは……地図じゃねぇか!
そうだ、なんで思いつかなかったんだ。よくよく考えれば、俺と同じように受験生なら地図は所持しているはずだ。だったら誰かに見せてもらえばいいだけの話だったんじゃねぇか。焦りすぎだろ、俺。
まあいいや、そうとわかったら……そうだな、あのアフロに見せてもらおう。他の人にわざわざカバンから出したりしてもらうのも迷惑だろうし。ついでに、ケンカの仲裁にもなるかもしれねぇしな。
つーことで、俺はアフロの下へ向かうべく歩き始めた――のだが、少し進んだところで誰かに腕を掴まれた。
「……なんだ?」
まさか止められるなんて予想してなかったので、振り返りつつ尋ねると、俺を引き止めていたのはさっきリーダー格をぶっ飛ばした黒髪の男だった。
そいつが、俺の質問に対する答えか、こんなことを言ってきた。
「必要ないさ」
……いや、え? 何言ってんだこいつ?
必要ないって、
「そんなわけにもいかねぇだろ」
そう。そんなわけにはいかない。
だって俺は地図を持っていないんだから……って、あれ? ちょっと待てよ、こいつがそんな事情知ってるはずがねぇんだが。
――ああ、そうか。わかったぞ。今のはケンカの仲裁は必要ないって意味だったのか。
自分の勘違いに気づいた俺はすぐさま彼に、
「心配すんな。大丈夫だ、すぐ終わる」
君たちのケンカの邪魔をする気はありませんよ、ちょっと話するだけですよ、という意思を言外に込めて言ってやった。
仲裁する必要がないと本人が言ってるんだから、勝手にやればいい。別に俺はそこまでお人よしじゃない。ただ、俺もそれじゃあ困るんだよ。
俺の言葉に納得したのか、黒髪の男は俺の腕を掴む力を緩め、
「……ふぅ。分かった、お言葉に甘えさせてもらうぜ。……で、アンタはどっちとやるんだ?」
……んん?
なんかいまいち言葉に違和感を感じるんだが……ま、いっか。とりあえず、どっちに用があるのか、という質問だろう。なら答えは一つだ。
俺は地図を持っているアフロ君を指差し、
「俺は左のアフロに用がある」
「オーケー。じゃあ、俺は右だな」
ん? 「俺は右」? どういう意味だ?
なんかおかしい。会話が噛み合ってない気がする。
不思議に思った俺は、「お前、なんか勘違いしてねぇか?」と聞こうとして――
「あァ!? 2対2だァ?! 上等だガキ!」
「ユータをやってくれた礼は返させてもらうぜ!」
次の瞬間、距離を取っていた2人組が突如こちらに駆け出してきた。おまけに動きを見る限り、どうやら銃を取り出そうとしているっぽい。
――って、ええ!? なんで!? なんであいつらいきなり襲い掛かってきてんの?!
まったく意味がわかんねぇんだが! しかもなんか俺も標的に入ってるっぽいし!
「チッ!」
あまりの理不尽さにムカついたので舌打ちしつつ、俺はグロック18Cを吊ってある制服の中に右手を入れる。
なにが原因かはよくわからんが、襲い掛かってくる以上は迎撃するしかない。よくよく思い出してみれば中学時代にも似たようなことはよくあったしな。
というわけで、恨むなよアフロ。恨むならいきなり突撃してきた自分を恨め。あと、できたら後で理由を聞かせてくれ。
俺はグロックのグリップを握り、すばやくホルスターから抜き出し、相手よりも早く発砲するために、制服から出すと同時にアフロの防弾制服目掛けて引き金を引いた。
パンッ! というこの1年ですっかり耳慣れた音とともにグロックの銃口から9mmパラベラム弾が飛び出す。
その弾丸は、350m/秒の速度で飛翔し空気を引き裂きながら、アフロの防弾制服にぶち当たってやつを悶絶させ……てない。
あの、なんかアフロさん普通に向かってきてるんですけど。
――あ、外したわこれ。
俺のバカ! かっこつけて
いや、それとも銃が悪いのか? と最低な責任転嫁をして、一瞬頭を下げて銃に目を向けるも、もちろんいつもと何も変わってない。
――って、何してんだ俺は。相手も銃を出しかけてたんだから、目を逸らしてる暇なんかねぇだろ!
「ッ!」
一発くらいもらうのを覚悟して顔を上げると……どういうわけか、アフロはその場に立ち止まって片手で頭を抑えていた。何やってんだ、あいつ?
ついでに言えば、その足元にはなんか長方形の板みたいなのが倒れている。さっきあんなのなかったよな? どこから出てきたんだ、あれは。
なにはともあれ、これはチャンスだ。距離はつまっていて彼我の距離は3、4メートルほど。おまけに
若干なんか卑怯な気もしたが、俺は改めてグロックを構え――
「がッ!?」
今度こそ確実に防弾制服に撃ちこみ、アフロを昏倒させることに成功した。
やれやれ……後で教師か救護科――武偵病院に勤務する医師の育成・医療活動の実践を学ぶ学科――に連絡しとかなきゃな。試験もまだなのに、面倒なことになっちまったぜ……。
はぁ、とため息を1つ吐き、せめて試験ではこんな荒っぽいことにならなきゃいいんだけどなと思いながら、俺はグロックをホルスターにしまった。
――まあ、結論から言えば。
こんなのは今日これから起こることに比べたら、序の口でしかなかったんだけどな。
明日も投稿するので、よろしくお願いします。