【完結済み】東方贖罪譚〜3人目の覚妖怪〜   作:黒犬51

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9話 許されざるは一体何か

俺を取り囲んでいる羅刹の数は後10人、更に増援がいると考えた方が良いだろう。

 

「どうした、来ないのか?」

 

「野郎共、掛かれ!」

 

今度はどこから来るのかと思ったが風を切って部屋の奥から飛んできた何かに気づき。

身をかがめてそれを躱す。

弓か、ここで遠距離攻撃の可能な武器が出てきた。

これはかなり辛くなりそうだ。

味方の羅刹が近くに居ない限り矢はタイミングを見計らって放たれる。

俺はそれをいなしつつこの後何人いるかも解らない敵と戦わなくてはいけないわけだ。

 

「面倒な事をするな」

 

こうなってしまうと長期戦には持ち込めない。

しかし下手に気を抜いて相手に突っ込めばかなり不利だろう。

その時、また矢が撃ち込まれる。

俺はその矢の弾道を見つつ双剣で弾く。

現時点で相手の弓師は2人、ならば。

俺は放たれた矢の弾道から大体の位置を確認し弓師を探す。

階段上の右に1人、その対象方向に1人。

それ以上は今の所いないようだ。

俺は左右の剣を逆手から持ち替え、その方向に同時に投擲する。

左右一方ずつでは片方が逃げ、そいつにまた打たれてしまう。

だからこその同時投擲だ。

剣はうまく刺さったようで、悲鳴がエントランスにこだまする。

 

「な?!そんな馬鹿な」

 

かなり上手くいった。

と言うか、上手くいきすぎだ。

正直の所、手にでも当てて弓を撃てなくするだけで良かったんだが。

まぁ、今はこの状況の打破が第一だ。

 

「もう終わりか?」

 

さっき剣を投擲した事で俺は今、何も持っていない。手と足が武器だ。

と思っておこうか。

 

「おい、よく見ろ!あいつは武器を持ってない。怯むな!」

 

どうやら多少士気は高まった様だ。

武器を持ってないなら勝てる!

そんな根拠のない思いが巡っている。

何故そんなにも根拠のない考えが生まれてしまうのか解らない。

まぁ、剣を極めているだけで武術が出来ないと思っているのだろうから根拠が無いというのは間違っているだろう。

正しくは証拠が無い、だ。

まぁ、実際武器なしで残り16人の鬼を倒すのは辛いだろう。

だが、体が温まって来た。

多少は本気を出してみるのも良いかもしれない。

良い運動にはなりそうだ。

俺は構えを解きその場に棒立ちする。

一切の構えは取らず、ただ立っているだけ。

 

「お?ついに観念したのか?」

 

俺は頭を空にして正面の羅刹に歩み寄る。

 

「おお、ついに観念した様か。捕まえろ!」

 

しかし、俺は何も言わず正面の羅刹に歩み寄り続ける。

さすがに異常を感じたのか前の羅刹が構え横に剣を払う。

俺はそれを伏せることによって躱す。

どうやら少し遅かった様で髪が切れていた。

俺はすぐさまその羅刹の足を払って転倒させ、素早くニードロップを叩き込みダウンさせる。

因みに、ニードロップと言うのはプロレスリングなどで使われている技で片膝に体重をかけ,倒れた相手ののど元,胸の上などに落とす。という技だ。

俺は身長的にもそこまで重くは無いが喉元にぶつけることができれば十分すぎるダメージが入る。

俺は背後から走ってくる2人の羅刹を見て、わざと遅く走り羅刹が俺に追いつく程度で走る。

おれは階段めがけて走り、そのままの勢いでスロープを蹴り空中でバク転し2人の羅刹の背後を取り、さっきの羅刹から奪った剣で首を切断した。

あと15人。

そう思いながら剣を逆手に握り残りの羅刹に突っ込む。

つぎつぎと味方が力の弱いはずの妖怪に殺されていることを信じられないのかもうヤケになっていた。

恐らくは自らよりも絶対に弱い種族に負けたく無い。

というプライドからだろう、

「そんなくだらないプライドなら捨ててしまえ」

と言いたいところだがさっさと終わらせたほうが良い気がするので遠慮はせずに行かせてもらう。

何より、覚妖怪を狙ってこの館に来たということは本来の目的はさとりとこいしだったはず。

こいしは外であったから大丈夫だとして、心配なのはさとりだ。

さとりは万全の状態なら戦えるだろうが、あの怪我では恐らく上手く戦えないはずだ。

最悪の事態も想像できる。

上手く逃げていてくれていると良いんだが。

 

「終わらせる」

 

俺はあくまで剣撃で戦うつもりだったがさとりのことを思えば今すぐにでも終わらせたほうが良いだろう。

という結論に至ったのでやはり本気でも出そうか。

さっきの拾った剣は捨て、自らの愛用している短剣を取り出す。

刀身は百足の毒の影響で色が少々紅くなっている。

溶解液は紅ではななかった気がするが。

俺は大きく息を吐き短剣を逆手に持ち構える。

本気と言ってもやれるかどうかわから無いことに挑戦するだけだが。

 

「heart rate accelerate 」

 

自らの心拍を変更、約1.5倍にする。

恐らく身体に相当の負担が掛かるだろうが妖怪になっているしある程度なら行けるだろう。

俺は僅か二歩で羅刹の懐に入り、短剣を首元に押し込む。

 

「な?!」

 

その横にいた羅刹の喉も切り裂く。

身体が軽い。

心拍数を変えただけでここまでの変化が起きるとは想像もしなかった。

俺はまた走り、そこにいた羅刹を1人を残し殺した。

 

「今日、覚妖怪を何人殺した?」

 

無論、尋問の為だ。

 

「1人も殺せていない」

 

「そうか」

 

それはそう言って首元に押し付けていたナイフを横に引き、鮮血を浴びる。

 

「はぁ、真っ赤だ」

 

彼は誰に言うでも無く呟く。

それよりもさとりは無事だったようだ。

ここに住まわせてくれたことには感謝しているし、この恩は返そうと思っている。

なのでここで死んでしまうと恩が返せない。

今考えればそれが闘った理由だろう。

 

「おい、お燐居るか?」

 

「はぁ、はぁ、逃げて!覚妖怪を狙った輩がきてる!」

 

全く、一度落ち着いて周りを見て欲しいものだ。

 

「俺の後ろにいる奴らか?」

 

「えっ?」

 

驚きすぎたのか猫から人間に戻っている。

という事は人間の状態が正常ということだろうか。

 

「さとりは無事か?」

 

「いつも隠れているところにいるはずだけど」

 

もう現時点で嫌な予感がする。

いつもは隠れれてもあの傷で隠れれるのか、隠れようとしてもあの傷では早く動けない。

隠れるのはできるだけ早いほうが良い。しかし、あの傷では早く動くことは出来ないだろう。

確かだが、俺の部屋に来る時音では足を引きずっていた。

 

「今すぐそこへ案内してくれ。なんだか嫌な予感がするんだ。」

 

「え?でも何時も隠れてるところだよ?」

 

「良いから案内しろ」

 

俺はお燐の頭に浮かんだところへと急ぐ。

そこにさとりは居た。

 

「おい、さとり」

 

返事が無い。

何故だ?寝ているのか?

仕方ない、揺すって起こすか。

 

「おい、寝るな起きてくれ」

 

やはり返事が無い。

俺を馬鹿にしているのだろうか?

俺はさとりを揺するのを止め、座らせようとする。

 

「ううっ、大丈夫です」

 

「そうか。死んでたかと思ったぞ。取り敢えず傷を癒せ」

 

俺は立ち上がり、廊下見てペットの姿を探す。

 

「そういえば、彼奴らは?」

 

「全員殺した」

 

「百足じゃ無いですよ?」

 

「羅刹だったか?というか心読めばわかるだろう」

 

どうやら血がサードアイに掛かって見にくいようだ。

俺はサードアイに掛かったものの少量だった為もあり、特に見えないということも無いが。

 

「本当に彼奴らを全員殺したんですか?元人間でしょう?」

 

「元人間なめんなよ?」

 

さとりは微笑を浮かべ気を失ってしまった。

おそらくこの出血量からして死ぬことは無いので貧血による気絶だろう。

 

「世話のかかる奴だな」

 

俺はそう言ってさとりを抱き上げ立ち上がる。

まぁ、こういう奴だからこそペットに好かれるのかもしれないが。

俺はさとりの寝室へと歩く。

 

(そう言えばさとりに俺の何を知ったのか聞くのを忘れていた。)

 

「あ、空」

 

お燐か。

 

「ああ、なんだ?」

 

「さとり様はその傷だし病院に連れて行こうと思うんだけど一緒に来るかい?」

 

「ここは地底だろう?どうやっていくんだ?」

 

その質問にお燐は心の中でとんでもないことを言った。

飛んで。

だそうだ。

翼なんてもの持っていないが飛べるのか?

 

「飛ぶ、だと?飛べるのか?」

 

「みんな飛べるよ」

 

飛ぶのが普通か、やはり世界が違う。

そう言えば勇儀達に飲みに誘われていたが断っておこう。

 

「ところでどうやって飛ぶんだ?」

 

「ああ、それならレッドブ◯で」

 

ほう、どうやらここの世界でレッドブ◯は本当に翼を授けてくれるようだ。

 

「冗談だよ。取り敢えず飛べると思えば飛べるから」

 

「おお、そうか」

 

絶望的なほどに雑な説明だ。

 

「こうか?」

 

本当に飛べると思っただけで身体が宙に浮いた。

 

「さすが空。才能を感じるよ」

 

「お世辞は要らない。行く前に身体の血を流してくる」

 

お燐も随分と真っ赤だが、慣れているのか?

そういえば遺体を運ぶ仕事とか言っていたな。

 

「わかったよ。あたいはさとり様の血をざっと綺麗にするから」

 

「ああ、頼む。俺もできるだけ急ぐが服を探してくれるとありがたいな」

 

さすがに無いだろうと思ったがどうやらあるようだ。

あの笑い方からしてろくなものでは無いと思うが。

 

「スカートとかはやめろよ?」

 

念のために言っておいたが効果はあっただろうか。

取り敢えず今は全身に着いた血を流そう。

俺は服の事は正直諦め、風呂場へと向かった。

 


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