気になってから百足の甲殻を持って地霊殿へと帰っているわけだが、少々大き過ぎた感が否めない。
事実、彼は自分の背ほどもある甲殻を持って歩いている。
見た目的には重そうだったが実際に持ってみると非常に軽い。
「おい、空!」
声的にはどうやら勇儀のようだが、足音が多いので2、3人は居るだろうか。
「何だ?」
彼は甲殻を持って歩きながら返事をする。
「本当に百足を狩ったのか?」
「あれ見てわかんなかったか?」
彼は歩みを止めることなく話しているが、これだけ大きな物を持っていると、かなり歩行ペースが遅くなるので問題無いだろう。
大きさ的にどうやっても顔まで隠れてしまうのでサードアイで前方を見ている。
「勇儀の横にいるのは誰だ?」
存在はあるのにも関わらず、話し始めてから何も言ってこないのでこちらから言ってみる。
「あれ?どうやって確認したんだ?」
「足音」
因みに横にいるというのはほぼ勘だ。
町が襲われた時に全く人通りの無い通りを歩く奴はいないだろうという憶測はあったが。それはあくまで可能性に過ぎない。
勇儀の後ろにいた可能性もあれば前にいた可能性もある。
「これまた凄い奴が来たね。私は黒谷 ヤマメだよ。よろしく」
「俺は秦 空だ。よろしく」
彼がそう言った後に上から目線と同時に殺気を感じた為、甲殻を上に掲げる。
掲げた瞬間甲殻に何かが衝突した。
彼は何事もなかったかのように膝を曲げて衝撃を吸収しつついなした。
「完璧な..............不意打ちだったのに.........」
「残念だったな」
彼はその上から降ってきた奴の顔すら見ずに地面に甲殻を置く。
あれだけの衝撃でもひびすら入っていない。
正直、打撃だったので不安だったが上手く受けた事もあり、大丈夫だったようだ。
これならば形を多少変更すれば良い盾になるだろう。
彼は息をついてまたその甲殻を持ち地霊殿へと歩き出す。
「ところで......なんで......それ持っていくの?」
この声はヤマメでも勇儀でも無いので、きっと降ってきた奴だろう。
「良い装備になりそうだったからな。硬いし、軽い」
「そう......」
何故か足音が変わっていないので、恐らく降ってきた奴は歩いていない。
しかし、それでは俺について来て話しているわけが無い。
俺はそれが気になり、1度止まり、サードアイで後ろを向く。
桶に入った緑の髪の白衣?いや白装束を着た小さい奴が一人、さとりよりも小さいだろうか?
きっと降ってきたのはこいつで間違い無いだろう。
金髪のポニーテール?いや、おだんごか?という髪型に大きな茶色のリボンを付け、黒いふっくらした上着の上にこげ茶のジャンパースカートを着ている。
何かをスカートに巻いているが正体不明ということで良いだろう。
きっとこれがヤマメだろう。
最後に勇儀だ。
特に服装は変わっていないと思うが、あえて言うなら服がボロボロだ。
自身の血で汚れている為か白かったところが紅くなり、服は所々破けて、痛々しい傷の付いた肌が見えていた。
そしてその3人に共通してあった感情、それは。
「何故、そんなに俺に興味を持つんだ?」
興味、そして好奇心だった。
「何故って、無傷であの百足を倒す覚妖怪に興味が湧かないわけが無いだろう?しかも、私と戦ってくれるなんて興奮するだろ?」
「そうか、勇儀は戦闘狂か?」
戦闘で興奮するとは中々恐ろしいな。
「違うな、私はただ戦いが好きなだけだ」
それを戦闘狂というんだが。
口には出していないもののキスメとヤマメもそれが戦闘狂だと思っていた。
別にこの三人の仲を悪くしようとも思わないので特に何も言わないが。
「じゃあ、俺はそろそろさとりの看病に行くからな。また」
3人がお大事にと言ってくれと思っていたので了承し俺はその3人と別れた。
が、少し歩くと今度は肩が叩かれた。
「なんだ?」
「今晩宴会やるから来な」
勇儀だった。
「宴会?ああ、わかった」
「じゃあ今晩迎えに行くからな」
そう言って勇儀はどこから出したのか酒を入れているであろう大きな皿の中身を啜ってから後ろを向いて歩いて行った。
正直、場所の事を考えていたので分かっていたが折角迎えに来てくれると言うならお言葉に甘えようか。
にしても、あれだけ百足に暴れられても建物が割と無事だった事は不幸中の幸いだろう。
あちらの世界では地震などの災害で家族を失った人を見た事がある。
その被害者たちの目はいつ見ても不思議な気分にさせれる。
その災害で家族を失ってから数日は悲しい目をしているが、一ヶ月ほど経つと、また変わる。
恐らく、数日は家族がいなくなった事を信じれれず夢だと思っているが、一ヶ月経つと、それが現実だという事がわかって来てしまう。
まだ、家族が他人に殺されたのならその犯人という存在するものを恨む事ができる。
が、災害で死んでしまった場合何を恨む?
神か?
自然か?
それとも、自分自身か?
最初のうちは神や、自然を恨む。
が、最後には自分自身を恨む。
何故か、それは自分だけは生きているから。
まだ、家族が自分以外に1人でも生きていれば一緒に生きようという気持ちにもなるのかもしれない。
しかし、1人ではそういう気にはなれないだろう。
テレビでは「他の家族の分も生きる」などと言っているが本当にそれは出来るのか?
確かに、最初のうちはそう思うだろう。
だが、どれだけ生きたとしても孤独は変わらない。
生きている限り、その家族の温もりを知っている以上それを求めてしまう。
俺は家族の温もりは知らない。
だからこれはすべて勝手な推察だ、あちらでも既に覚妖怪だったと言うなら別だが。
あいにく、人間だった。
でもあの生活をしておいて自らをそこらで普通に生活している人とは比べようと思わない。
理由など、言う意味も感じないが。
境遇、生活、生き様、仕事、全てが違う。
それで「一緒だね!」などと言ってくる奴は居ないだろう。
「おにーちゃん!!」
俺はその言葉で我に帰る。
サードアイだけを動かし、その声の元を見る。
「やっと気づいた!」
「悪い、ぼーっとしてた。」
こいしの心は読みにくいので読むことはやめ一度止めた足を地霊殿へと向かうために再度動かす。
「おにーちゃんは何してたの?」
「百足狩り」
嘘はついていない。
確かに俺は百足を狩った。
そこらとはサイズの違う百足を。
「え?!すっごく楽しそう!今度は私も呼んでね?」
「機会があればな?」
正直、もうない方が良いんだが。
まぁ、機会があればこいしを呼んでもいいかもしれない。
「そのおっきいの何?」
「これか?これはさっき見つけたやつだ。色々使えそうだったから持ってきた」
「へ〜」
その発言の後こいしの気配が消えたので恐らく無意識に入ったんだろう。
取り敢えずこの甲殻を持っているせいで少々時間は掛かったが地霊殿に到着した。
俺は開きっぱなしの門を開け中庭を通り、同じく開きっぱなしで放置されていたドアを通った。
しかしそこで異変に気付く。
異常なまでの血の匂い。
そして向けられている多くの殺気。
殺気はペットからも向けられていたので別に何時もは気にしないが少し、量が多すぎる。
俺は静かに甲殻を置き、地面に手を着く。
「死ね!覚妖怪!」
彼は当然予想していたので甲殻を双剣に変更し、襲ってきたその何かの脚の腱を右手で握った剣で切った上で立ち上がりながら回転し、首を切り落とした。
首を通っている動脈を切った為か大量の血が噴き出し彼の体を紅く染めていく。
「汚いな」
「なんだあの覚妖怪は?!」
「怯むな!全員でかかれ!」
物陰から数十人の人型の何かがが出てくる。
「誰だお前ら?」
「我らは羅刹!ここに住む忌々しい覚妖怪を殺しに来た」
どうやら本当に覚妖怪は嫌われているらしい。
だが、関係ない。
俺を襲うなら闘わざるを得ない。
この殺し合いで俺が死んだならば俺がこいつらよりも弱かった、逆に俺が全員殺したなら俺の方が強かったということになる。
唯、それだけ。
結局、この戦闘でわかることはそれだけだ。
まぁ、戦わないという選択肢もあるにはあるが。
闘わないことは殺されることに直結して居るようなので闘う。
差別されている種族が俺の種族だったと言うことも影響しているのだろうか?
「じゃあ、俺も殺されるのか」
「そうだ」
「そうか。残念だ」
「掛かれ!」
どうやら一斉に来るようだ。
さっきの攻撃で1対1では勝てないということを考慮した上での作戦だろう。
非常に良い。
だが、それは対象が重量のある武器、リロードが必要な武器を使っている場合に有効なだけで対象が軽い武器、リロードの必要のない武器を使っている場合にはあまり良くはないと言える。
まぁ、圧倒的な差があればの話だが。
そんな事を考えているうちに包囲されてしまた。
360度敵だ、どこから来るのか。
まぁ、こういう時は俺から見て左右前後から攻めるのが無難だろう。
予想は的中し、左右の羅刹が走ってきた上でそれを見た前後の羅刹も数秒遅らせてから動き出した。
波状攻撃という事か、なかなかの策だと思う。
俺は左右同時に振りかざしてきた羅刹の短剣を同時に前後に受け流す。
その場で2本の剣を逆手に持ち替えバランスを崩した左右の羅刹の心臓を突き刺し、体を半分捻り羅刹が倒れる前に握られた短剣の柄同士をぶつけ前後に飛ばす。
そのまままっすぐに飛んだ2本の短剣が前後から走って来ていた羅刹の胸に刺さり俺にたどり着く前に悲鳴とともに大量の血を吐いて死んだ。
「次は誰が来るんだ?」
俺は前後左右に倒れた羅刹には一切目を向けず、周りを包囲する羅刹に問いかける。
「さ、覚妖怪がこんなにも近接で強いはずがない!」
今の一瞬で俺を囲んでいる羅刹の戦意がかなり落ちたようだ。
心を読むまでもなく、周りの羅刹の眼の色が変わった。
実際の眼の色は変わっていないが。
「逆に聞こう。お前らは何時から覚妖怪に近接戦闘が出来ないと錯覚していた?」