【完結済み】東方贖罪譚〜3人目の覚妖怪〜   作:黒犬51

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54話 罰

 まるで雪崩のように異形が彼を襲う。人間では抵抗出来ないことを察した彼は異形となり、空へ。そこに空を飛ぶ異形が強襲するが、彼の周りを円を描くように回り始めた長剣に体のいたるところを切断され、血飛沫を上げながら地面に落下。その肉を地面でそれをただ見上げるだけだった異形が食らい嗤う。醜悪に、凶悪に、純粋に。

 

 

「おいしいよぉ、おいしい!」

 

 

 地上の光景を見た彼は、顔をした歪めると口から黒炎を吐き出し、異形の肉ごと焼き払う、肉の焼けるのとは異なる酸っぱいような異臭が漂う。だが、その程度では異形は減ることすらない。炭のように焼け切った肉を後から後から湧くように現れる異形が喰らう。軽い絶望感が彼を襲うが、既に外とのスキマは閉じているため、もし彼が負けても異形がさとりのいる世界に流れることは無い。滅ぶのは、この幻想郷と、外の世界。幻想郷を護れなかったのは残念ではあるが、住民は無事、彼女たちはきっと古明地 うつろの作った世界で新しい違った幻想郷を作る。ここはもう用済みだ。ある意味はない。いつか帰ってこれるといったが、それは無理だろう。八雲 紫に、幻想郷の記憶はないとなれば、奇跡でも起きない限りここに戻ることはできない。それに、帰ってしまえば、異形になった彼との戦闘は避けられない。その事態も想定して彼は銀杏の能力を変更したが、必ず犠牲は出る。それに、彼の異形が戦闘時に相手の能力を変更してしまったら彼の工作も無意味になる。それに生と死の概念の変更を異形になった彼がしないという保証はどこにもない。

 彼の周囲では相変わらず大小さまざまな異形が群がっては回転する長剣に切り裂かれ落ちていっていた。地上に降りれば地上の異形に体を食い尽くされるか異形にされるか、と言っても逃げ場はない。この幻想郷には今大天狗を除けば彼以外の異形になっていない者はいない。大天狗はあの城に籠城しているだろうからそう簡単には食えない。そうなれば、異形がねらうのは彼一人。幻想郷という狭い土俵では逃げるにも限度がある。どこに逃げようと数十分も経たぬうちに追いつかれるだろう。だからといって戦って勝つこともできないだろう。彼が異形化するほうが間違いなく早い。彼は、暗殺者であって勇者ではない。依頼ではどのような手を打っても殺すがこうなっては無理だ、多すぎる。それに彼の能力は変更であってそれ以上でもそれ以下でもない。どうあがいても戦闘を経なければ敵は殺せない。対象の生と死を変えることもできるが、その変更をこの数に行えばまず間違いなく異形になる。

 朦朧としていた意識が遂に途切れ、剣の回転が止まった隙に大量の異形が彼の翼を食いちぎる。抵抗するにはもう遅く、飛ぶすべを失った罪人は地に落ちる。

その姿を周囲の異形が醜く嗤い、かれの翼に黒い液体を吹き掛ける。それは、白煙を上げながらの傷口に侵入し、回復を妨げる。そんな彼の前に一匹の異形が歩み寄り、噛み付きにかかる。咄嗟に右にかわすが、既に立つことすらままならない体では限界があり、異形の群れによって作られたリングにぶつかってしまう。そんな彼を異形たちは嘲笑しながら突き飛ばし、再度リングの中に戻す。

 彼は再度正面から突っ込んできた異形の身体をやっとの思いで爪で引き裂く。その異形は動かなくなったが、次は俺だと言いたげにまた一匹の異形が歩み出る。既に肉塊でしかないような体を左右に揺らしながら彼にタックル。それを殴り飛ばし、異形のリングの外に吹き飛ばした。だが、まだまだ異形はいる。一匹の異形が前に出る。他の異形とは明らかに違うそれは黒い甲殻に覆われており、地面から生えるようにして飛び出している。更に腕として大量の腕や足が生え並んでいた。口からは常に黒い体液があふれ出し、悲痛な泣き声を上げながら甲高い声で笑い、彼に襲い掛かる。

 既に満身創痍の彼に覆いかぶさるように倒れこみ、手足の一本一本から体液を吹き出す。十秒ほど彼を体液漬けにした後、異形の上部が大きく開き、大量の肉でできた腸の様な内部が明らかとなって、彼を飲み込む。頭から飲み込まれ、頭、胴体、脚。と、あっという間に彼は異形の中へ、だがそれだけだった。一切の攻撃はなく。肉に体を揉まれ、黒い体液をしたたらせた彼は吐き出された。だが、異変は起きていた、身体が竜ではなくなっていた。人のものに戻っていた。

 飲み込んでしまった体液を吐き出しながら右手に長剣を作り、正面の異形を切断。黒い体液を吐きながら笑ってその異形は死んだ。当然それでは終わらない、彼の前には黒い海のように異形がいるのだ。次が前に出る。だが、今回は一匹ではなかった。全裸の人間の女の姿をした異形が数十匹現れると無言で彼にとびかかる、最初の数人を切り伏せ、なぎ這うために構えた剣を切った筈の異形につかまれ、剣の動きが止まったその隙に後続に剣を持っていた手を外され、蹴り上げようとした足をその後続につかまれ、押し倒されると地面に大ノ字に拘束されると白濁した液体を囲むようにして立った異形に股からかけられる。服のみが白煙を上げながら消え、全裸にされると心拍数が上がり始める。まるで、長距離走をした直後のように呼吸が荒れ始め、身体が火照る。そんな彼の上に、異形が跨り、腰をふる。抵抗しようにも異形化が解かれては異形に腕力でかなう訳もなく、されるがままに。もう一匹の異形が彼に口づけをした後に性器を彼の口にあてがう。更に、数匹の異形が彼の姿を見ながら自慰を始め、喘ぎながら体液を絶えず、かけ続ける。そして、数時間に及んで彼の身体をもてあそび続けた。満足したようで、彼から離れた異形を、ふらつきながら長剣を拾い上げて処理。全裸で、体液まみれの彼を見て、異形たちはさらに嬉しそうに、愉快そうに笑う。

 

 

「くそ...が!」

 

 

 未だに薬の回っている彼が剣を作り、反撃に転じようとした瞬間にその身体を糸が捉えられ、空中に磔にされる。異形の中からさきほどの女の異形が三人現れたかと思うと、姿が変わり、フラン、こいし、さとりのものになる。その異形も糸で釣り上げられ、空中に磔の様に吊られる。

 その前に彼は歩かされ、一人ずつに挿入させられた。声までも真似た悪趣味な異形に彼の心は磨り減るが彼の壊れた心はその程度では動じない。糸を焼き切ると、姿を真似た異形を切り殺し、再度彼を捕らえようとした糸を引く事で糸を出していた蜘蛛のような異形を見つけると銃殺。

 

 

「あまり舐めるなよ?俺は弱くない」

 

 

 だが、限界は来ていた。既に能力の維持は出来ていない。次異形ウイルスを入れられれば確実に異形になる。どうせ異形になるならと彼は告げる。

 

 

「終焉を、終幕を、この悲劇に歓声を!始まり終わり、回りまわって巡りめく世に喝采を!これが最後の能力だ、異形という概念ごと消えろ」

 

 

 彼を中心に花畑がつくられていき、そこに触れた異形は草木に変わる。雲は晴れ、暖かい陽光が差し込む。数分にわたってその変化は続き、彼の周囲から異形が消え、いつかの幻想郷が復活する。その最後に一人このされた彼の身体はまるで霧のように消えかかる。そんな彼の前に、一人の天狗が現れた。

 

 

「はぁ、やってくれたね」

 

 

「楓...?」

 

 

 いつかの白狼天狗だった。なぜ、紫に連れていかれなかったのか。だが、もう彼は思考すら回せない。確認できるのは事実だけ。正面に血まみれの楓がいる。

 

 

「こんな世界、消えれば良かった。なんで邪魔した?」

 

 

「なるほど、まさかのって感じだなぁ」

 

 

消えかけの身体ではもう彼女に抵抗することは出来ない。だが、すでに住民は逃した。ここで死んでも問題はない。

 

 

「なんで救ったのって聞いてるんだけど」

 

 

「これが俺の罪滅ぼしだからだな。そっちはどうしてこんな事したんだ?」

 

 

相対するは二人の罪人。張り詰める空気。だが、戦闘となれば勝敗は見えきっているため、彼女は手を出さない。

 

 

「私は幼い頃から忌子として迫害を受けてた。父親はそんな私を殺そうとして、それを庇った母親が殺されて、父親は私がこの手で殺した。一人で泣いていた私を助けてくれたのは椛だけ。私はこの能力のお陰で白狼の女戦士になった。でもそこで見たのは下の者を同じ妖怪なのに駒同然に使うクズ共。知ってるよ、外の戦争もこんな感じなんだよね。そんなの、野生動物よりも愚かじゃない?だから、いっその事、感情を暴走させて、野生動物のようにしてやろうと思ったの。でも、何故か貴方が邪魔をしちゃった訳、なんで?」

 

 

彼女の過去は知らない。興味もない。だが、一つ言えるのは彼女の言っている事は大まかには間違っていない。人間は石器時代から精神性は一歩も進化していない。弱者を虐げ、強者がのさばる。これを解決するには確かに、感情を暴走させてしまうのも手だ。だが、

 

 

「それなら感情を消すべきだったな。感情が暴走したところで感情がある故に愚かなのだから、逆にそれが悪化しかねない。だが、感情をなくせばわかるが非常につまらない。人間も妖怪も愚かだ、だが諦めろ。お前もその妖怪の一部だ」

 

 

「私は愚かじゃない!この世界を修正しようとしただけ」

 

 

「で、修正出来たか?」

 

 

怒鳴る楓を遮るように言葉を返す。虫の一匹もいない世界はやけに静かで風の音だけが響く。

 

 

「結果はこれだ。何も修正出来ず。この異形の攻撃で損害を受けたのは弱者達だ。抵抗の術を持たない者達だ。そしてお前の真に変えたかった強者は逃げ切った。お前は失敗したんだ」

 

 

「果たしてそれはどうかな?」

 

 

何か含みのあるような発言。まるでまだ奥の手があるかのような。

 

 

「何かおかしいとは思った事はない?私の能力は感情を操る能力。私は異形化してないからこの能力のまま。さて、普通の人間だけを襲うように出来るでしょうか」

 

 

「知らんな。だが、この世界の異形の概念ごと俺が飛ばしたんだ。異形はもういない」

 

 

何を言いたいんだこの女は。だが、確かにこの能力では異形が正常な人間を狙う理由にはならない。どのように感情を操っても、一般人と異形との区分がつけられないだろう。できて親族を殺すくらいだ。それに彼女の能力は操るのであって新しい感情を生み出すものではない。

 

 

「それに、妙だと思わない?さっきの異形はなぜすぐ殺さずに遊んだのか。感情が暴走しているはずなのに何故あれだけ統率が取れているのか」

 

 

「お前が操ったんだろ」

 

 

「私が操れるのは感情だけ。言ったでしょ。今回は感情が暴走するようにしただけ」

 

 

ならば確実に楓一人の犯行ではない。となればもう一人協力者がいる?何処に?

ここまで頭が回ったところで、全身に冷や汗が浮かぶ。彼は八雲 紫に幻想郷の全ての生存者を送らせた。と言うことは。

 

 

「私以外にもいなかったっけ?この世界を恨んでいる住人が。恨んでも可笑しくのない。妖怪が」

 

 

「まさか...」

 

 

一人浮かんでしまった。確かに妙だった。今考えればおかしかった。全てが、何故気づけなかったのか。

それは間違いなく幻想郷と言う新しい土地だったからと言うわけではない。俺自身の気の緩みもあった。

 

 

「こんにちは、うつろ。元気ですか?」

 

 

懐かしい、心が落ち着く声だ。だが、今この瞬間にこの声が聞こえた時点で。俺の計画は破綻したことが明白になった。

 

 

「その通りです。でも、私は貴方がいまだに好きですよ」

 

 

振り向くとそこには黒い外套を被った少女。その外套からは何か真っ赤なものが滴っている。何なのかは考えたくもない。右手にはいつかにわたした

 

 

神さま、神さま。いるのなら答えてくれ。これ程までに俺に救いは与えられないのか。俺は確かに罪人だ。だが、これは。これはあまりにも。残酷過ぎる。


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